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1996-10-21
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第六十五章 白昼の饗宴
朝の調教
「おい、何時まで寝てるんだ。もう九時を過ぎてるんだぜ」
川田の声に、静子夫人は、ふっと眼を開いた。昼でも薄暗い牢舎の中、裸電球の鈍い光波に鉄格子の向こうから、こちらをのぞきこんでニヤニヤしている川田の顔が、ぼうと霞んで映し出されている。破れ毛布一枚に身をくるみ、狭い牢舎の片隅でまどろんでいた静子夫人は、ようやく意識を取り戻して上体を起こし、小さく身をかがみこませるのだった。昨夜の川田と鬼源のあくことを知らぬ数々のいたぶりに、夫人の全身の疲労感は未だに抜け切らない。
「さ、そろそろ用意しな。朝化粧をするんだよ」
川田はそういうと、後ろを向き、マリと義子に眼くばせを送った。
水の入った洗面器にタオル、ハブラシ、そして姫鏡台などが、マリと義子の手で牢舎の中へ運びこまれる。
静子夫人は、ひっそりと歯を磨き、顔を洗い、次に鏡に向かって、物静かに化粧し始めるのだった。
「うん、少し、痩せたようだな」
川田は煙草をくゆらせながら、鉄格子にもたれ、ぼんやり化粧する夫人をみつめながらいうのだった。
「今日は、どういう調教を受けるか、もうわかっているだろうな」
川田が口元を歪めてそういうと、夫人は、うすら冷たく澄んだ美しい頬をじっと鏡にそそぎ、ゆっくりと口紅をひきながら、
「わかっていますわ」
と、冷やかな調子でいい、次に、ブラッシをとって髪の乱れを直し始めるのだった。
「昨夜は、あれから、京子と美津子を中にして津村さんの弟達が、乱交パーティをやる予定だったんだがよ」
川田はポイと煙草を土間に捨て、
「あいにく急に美津子の奴が生理になっちまってよ。一旦中止ということになったんだ。生理日だけは無理をさせるなという社長の言いつけだからな。若い連中はカッカと頭にきてたぜ。だから、今朝は、お前さんの調教を見学させてやることにした」
何しろ、うちにとっちゃ大事な客人の弟だから、機嫌を損じないようにしろ、と川田は夫人にそれをいうため、わざわざここへ顔を出したようである。
夫人はわざと無関心を装うかのように終始冷やかな表情を見せ、無心なほどに落着いて化粧をすませると、毛布を丁寧に折りたたんで牢舎の隅へ置き、川田の方へ、何かものを尋ねるような潤んだ瞳を気弱に注ぎかけるのだった。
「さ、行こうか」
川田は顎を動かせて、夫人に牢舎から出るよう合図した。
片手で両乳房、片手で前を隠し、体をくの字に曲げるようにして夫人が牢舎から出て来ると、川田は用意していた麻縄をマリから受け取り、夫人の背後に廻る。
「そら、しゃんと胸を張るんだ」
川田に背中を押されて夫人は、ゆっくりと両手を背後に廻し、胸を張った。
キリキリと夫人の柔肌に麻縄をからませ、きびしく夫人を後手に縛り上げてゆく川田は、
「どうだい、遠山家の若奥様でいた頃を、たまには夢で見ることがあるかね」
と、せせら笑って聞くのだった。
「♢♢もうそんなことはおっしゃらないで、川田さん」
静子夫人は、悲しげに睫を慄わせて、ふと象牙色の頬を横にそらせるのだった。
「さ、歩きな」
夫人をがっちりと後手に縛り上げた川田は縄尻をたぐって、夫人の量感のある見事な双臀に軽く平手打ちを喰わせる。夫人は深く首を垂れながら、静かに歩き出した。
「へへへ、今日は一日、ここをごっそりいじめ抜かれるっていうわけだな」
地下の階段を見事な双臀を悩ましく左右にくねらせて、登り始めた夫人は、ブルッと腰のあたりを痙攣させ、いやっ、とすねるように身をよじらせて、羞恥で溶けたような眼差しを、川田に向けるのだった。
「♢♢こんな所で、何もいたずらなさらなくたって♢♢」
と柔らかい睫を動かせて、恨めしげにいう静子夫人を、川田はニヤニヤした顔で見返しながら、
「二階の部屋でゆっくりいじめてもらいたいってわけか。よし、わかった」
川田は、再び、夫人の縄尻をしごき、なめらかな夫人の乳白色の背を押して、階段を歩ませて行った。
「入ってもいいですかい」
千代の部屋の前に立った川田は、ドアを軽くノックして中に声をかけた。
どうぞ、と千代の甲高い声。ドアを開けると、千代は葉子や和枝達と朝の食事をすませたところらしく、互いに揚枝で歯をせせりながらぼんやりとテレビに眼を向けていた。
「静子夫人の御入城ですぜ」
川田がいうと、千代は葉子や和枝と顔を見合わせて、狡猾な微笑を口元に浮かべ合い、
「こちらは、さっきからお待ち兼ねなのよ」
と、揃って立ち上るのだった。
「ホホホ、さ、どうぞ、奥様」
千代と葉子は、川田に縄尻をとられ、前屈みにして立っている静子夫人の肩や背に手をかけて部屋の中へ連れこむと、食卓の前へ坐らせる。
静子夫人は、冷たく冴えた象牙色の横顔を見せ、ぴったりと肉づきのいい太腿を密着させ、そこへ正座していたが、そんな夫人を悪女三人は、ほくほくした気分で見つめながら取り囲むように坐りこむのだった。
「ゆうべは、奥様、男二人を相手に大熱演だったわね。よくもああいう器用な事が出来るものだと、今まで私達話し合っていたのよ」
葉子はそんな事をいって、クスクス笑い、煙草を口にして、火をつけるのだった。
「それに昨夜はこっちもいろいろ取りこんでいたので、奥様のお相手もゆっくりすることは出来なかったけれど、今日は、ずっとお付合いさせて頂くわ」
と、和枝はハンドバッグから香水を取り出し夫人の耳たぶから雪白の首すじ、そして、麻縄に上下をきびしく緊め上げられている胸に至るまで、すりこみ始める。
「ま、今日から二、三日、奥様にはこの部屋に御滞在願って、いろいろ、楽しみ合いましょうよ。いいでしょ、奥様」
千代は、そういって立ち上ると、
「そら、もうちゃんと、支度は出来ていますのよ」
と、次の間へ通じる襖を開くのだった。
次の間は、八畳の日本間になっていて、その中央には、ピンク色のシーツをかぶったマットレスが敷かれ、その中程には、夫人の双臀を高々と支えるたための大きな枕が一つ乗っかっている。
丁度、その枕の上あたりに、天井から、かなり間隔をおいた二本の鎖が不気味に乗れ下っているのだった。
覚悟していたことだが、やはり、ここにいる三人の魔女は、これから自分の肉体に、魂も凍るばかりのおぞましい調教を本気で施す気だとわかった静子夫人は、もう狼狽もならず、ふと、切れ長の瞳を悲しげに閉じ合わせて、初々しいばかりの羞恥の色を頬へ滲ませた。静子夫人が身をすくませて美しいはにかみの色を全身に浮かべると、悪女達は妖しく胸を高ぶらせるのだ。
「岩崎親分も一緒に御覧になるんだ。だからな、こいつもショーだと思って、お客人方を満足させるよう、うんと色気を振りまくんだぜ。いいな」
川田は、眼を伏せ、首をうなだれている夫人の柔軟な肩先を指ではじきながらいうのである。岩崎は、いよいよ今日、関西へ引き揚げることになり、いわば、これが、岩崎に対する森田組の最後のサービス、つまり、さよなら公演だと川田は笑うのだった。
「こ、こんな醜いものを、見世物にするなんて」
静子夫人は、岩崎をはじめ、津村、それに清次達までが、このグロテスクな見世物を見物にやって来るのだと川田に聞かされると、ピンクの口紅を薄く塗られた柔らかい唇を慄わせて、あるかなきかの声を出したが、
「相手がお前さんみてえな絶世の美人だからこそ、こうした見世物も結構、通用するんだよ」
川田がそういうと、千代達もキャッキャッと笑いこけた。そこへ、
「どうも、遅くなりまして」
と春太郎と夏次郎が、未だ眠りが足りないといったカサカサした顔つきで入って来る。
「何時まで寝てやがるんだ。早く支度にかからねえか」
と、川田は、苦々しい顔つきになって、二人のシスターボーイにどなったが、俺はもう森田組の軍師なんだぞ、といった横柄さが、ありありと川田の語気に含まれている。
春太郎と夏次郎は、用意して来た浣腸器、脱脂綿、コールドクリーム、様々なガラス棒などの小道具を、マットレスの傍らへ並べ出した。川田は、これから一種の見世物として満座の中で調教を施されることになった静子夫人に、ひと通り要領を教え始める。
「アナルセックスが出来るまで、お前さんの肛門を徹底して磨きにかけるんだ」
静子夫人は、川田の着想の常軌を逸した恐ろしさに思わず身を慄わせ、消え入るように深く首を垂れてしまう。
川田は、赤味を帯びてきた繊細な美しい頬を楽しげに見つめながら、後始末は、かっての夫人の日本舞踊の愛弟子であった小夜子にさせる、と言い出るのだった。
「私はね、奥様」
次に千代が、夫人の、さも悲しげな美しい横顔をのぞきこむようにしていった。
「奥様をこの世で一番美しく、優しい人だと長い間、専敬し師事して来た小夜子嬢が、醜悪な姿を晒け出した奥様を見て、それをどのように感じ取るか、フフフ、そいつを傍で観察しようと思うのよ」
続いて川田が、また口を出す。
「何も今更、羞ずかしがることはねえと思うな。お前さんと小夜子嬢は、もう普通の間柄じゃないんだ。そんなものの始末をさせるのに、もう遠慮し合う仲じゃねえじゃねえか」
静子夫人は、その美しい切長の瞳に、今にもハラハラと大粒の涙をこぼしそうになりながら、恨めしげに、ちらと川田の顔を見るのだ。
「後生です。川田さん。静子はどのような嬲りものになったってかまわない。でも、そんな姿を小夜子さんの眼に晒さないで。ね、川田さん」
「うるせえな。千原美沙江の誘拐計画をすすめてもいいというのかい」
川田は、手きびしい調子になって夫人にどなった。ハッと口を喋む静子夫人は、深々と頭を垂れ、優美な裸身を匂わせて、シクシクと泣き沈む。
「こっちのやろうとしていることに、いちいち嘴をさし挟むと承知しねえからな」
そう追い討ちをかけるように夫人に浴びせた川田は、ふと、次の間で黙々と石鹸水を溶かせているシスターボーイの方を見て、
「そろそろ支度も出来たようだ。立ちな」
と、夫人の柔軟な艶めかしい肩先を後ろから抱きしめる。
夫人は、暗く陰影を沈ませた横顔を見せながら、川田に抱き起こされるのだ。
「ホホホ、じゃ、私達も手伝いましょうか」
千代は和枝と葉子を眼でうながし、静子夫人の背や有に手をかけて、その優美な裸身を次の間へ歩ませて行く。夏次郎は、陰影を滲ませた夫人の横顔の美しさにしばらく見とれていたが、この美貌に同情してはこっちの負けだとばかり、残酷なものを自分にけしかけて、川田の方を見るのだった。
「さあ、そろそろお客人達がやって来る時間だぜ。奥さんをマットへ乗せよう」
再び、夫人の柔軟な肩や背に暴力行使者の手がからみつく。
無理やりに立ち上らされた静子夫人の眼に、マットの両側の花壷に生けられた鮮明な色彩を持つ赤と白のバラの花が、まばゆいばかりに映じた。
それは、この見世物を見物する客のため、千代が舞台効果として、用意し、配置したものであった。
「遠山家の温室に咲いたバラよ。奥様のために今朝、使いを走らせて取り寄せておいたの」
夫人は、ふと生気を取り戻したように柔らかく眼をしばたたかせ、その場に立ちすくんで美しいバラの花に見とれるのである。荒廃しきった自分の肉と心を、この色鮮やかなバラの花が悲哀のともった一篇の詩として奏で出しているというような切なさが、キリキリ夫人の胸をしめつけてきたのである。
「何をぼんやりつっ立ってるんだ。そのバラの花に負けねえよう、奥さんも大きく菊の花を咲かせるんだよ」
川田は邪険にそういって、夫人をマットの上に乗せ上げる。
「さ、仰向きにお寝んねしてそれから、これをお尻の下に」
三人の悪女達は、楽しそうにクスクス笑い合いながら、マットの上に小さく身をすくませてしまった静子夫人を仰臥させようとするのだ。
すでに何度か、そのおぞましい洗礼を身に受けた静子夫人であったが、身に加えられる費めの中では最も辛く、羞ずかしく、血も噴き出さんばかりの屈辱感を味わわされる責め苦、それは、千代達の方でも充分わかっているだけに、加虐の悦びに気もそぞろとなり、一層の残忍さを発揮することになる。
やがて、静子夫人は、すっかり観念したように切れ長の美しい瞳をゆっくりと閉じ合わせると、石のように硬くなっていた全身の力を抜き、周囲にまといつく悪女達の手に身を委ねてしまった。骨の髄まで柔らかそうな乳白色で優美な夫人が、千代達の手でゆっくりと仰向けに倒されてゆく。春太郎と夏次郎が、天井のパイプを通って垂直に垂れ下っている二本の鎖をたぐりつつ、ぴったりと閉じ合わせている夫人の陶器のような白い足首に手をかけるのだった。
「今日は、お客人方が最初、花の観賞会をすることになってるんだ。かまわねえから力一杯引っぱりな」
春太郎と夏次郎が川田に命じられた通り、夫人の心をそ々り立てるばかりに優美な線を持つ両肢を、左右に引こうとすると、
「ねえ、川田さん」
夫人は、繊細な頬の線にますます上気の色を浮かべて、薄く眼を閉ざしたまま哀切的な声を出すのだった。
「もう一度、もう一度だけ、静子の願いを聞いて。後生です、川田さん」
「いちいち、うるさい奥さんだな。一体、何だってんだょ」
「静子のこんな姿を、小夜子さんには見せないで。ああ、小夜子さんには、見られたくない。ね、川田さん」
静子夫人は、堪え切れなくなったようにむせび泣きながら、かすかに身悶えするのだ。
「まだ、そんな事をいってるのか」
川田は舌打ちし、千代の方を見て、ニヤリと口を歪める。
「かっての踊りの弟子に、みっともない姿を見られるのは余程辛いようね」
千代は、何か魂胆ありげに夫人の傍へ近ブいて、
「それじゃ、こうしましょう。この場に小夜子嬢にも出場させて、二人の面白いショーを予定しているんだけど♢♢」
シスターボーイ二人と演ずるショーを上手に演じて、客達をモリモリ悦ばせることが出来たなら小夜子をこのショーに出演させることは見合わせる、と千代は楽しそうにいうのだった。勿論、それは千代が口から出まかせにその場しのぎをいったに過ぎず、それは静子夫人にもわかっている。しかし、それ以上、哀願をくり返したとて受けつける連中ではないのだ。
「俺がさっき、教えてやった方法さ。この二人のシスターボーイを自分の亭主だと思いこむんだ、いいな」
川田に続いてそう浴びせられた静子夫人は、すっかり辞めたように小さくうなずくのである。そして、口を噤み、眼を閉ざし、冷やかな静かさを取り戻した静子夫人の優雅な美しい容貌を、心地よげに見つめている川田はもう一度、春太郎の方へ眼くばせを送る。
二人のシスターボーイの手が左右から夫人の足にかかる。夫人は、自分の意志で奈落の底へ身を投げ出したように力を抜くのだった。
ねっとりと白い脂肪を溶かしたような妖しい官能味を湛え、蝋細工のような美しい夫人の足首にたぐり寄せられた鎖の先端が、シスターボーイの手でキリキリと巻きつけられた。
「よし、吊り上げるぜ」
川田は、次第に血走った眼つきになり、部屋の壁に添って垂れている別の鎖を引っぱり出す。ガラガラとパイプに巻かれた鎖が金属音をたて始めて、夫人の足首を縛った二本の鎖は天井へ巻き上げられてゆくのだ。
「あっああ♢♢」
唇を噛みしめ、必死になって冷淡さを装っていた静子夫人であったが、極端なまでに両肢がキリキリ引き上げられていく自分を意識した時、思わず、絹を裂くような悲鳴を唇から洩らしたのである。
窓から射し込んで来る朝の光線を艶々とはね返すような乳白色の豊かな肉づきをもち、ほとんど垂直に近く宙に向かってそそり立ったところで、川田は引き絞った鎖を柱につなぎ止めるのである。
薄紙を震わせるような夫人のかぼそいすすり泣きを、むしろ心地よく聞きながら、春太郎と夏次郎は、再び左右から手をかけて、夫人の身体を一旦、宙へ浮かせようとするのだ。
「ああ、そ、そんな。ひどいわっ」
川田が、夫人の双臀の下へ枕を差し入れると、夫人は上ずった声を出し、なよなよと甘ったるい身悶えを始めるのである。
「まあ、すさまじい恰好ね。一寸、まともには眼を向けられないわ」
千代は、着物の袂で口元を押さえながら、葉子達の肩を叩き、クスクス笑いこける。
高い枕の上にでんと据えられた双臀、そして、夫人の絶え入らんばかりの内心とは裏腹に、見た眼には何のためらいも羞ずかしさもかなぐり捨てたように、堂々とばかりに女の羞恥の源泉二つが晒け出て、それは、もう逃げも隠れもならず、間もなく現われるであろう見物人を待っていると見えるのだった。
「フフフ。これが、天下の美女と騒がれた遠山家の若奥様だって、どうしても信じられないわ」
千代は、そんな事を川田に向かっていい、
「ね、お酒でも飲みましょうよ。そうでなきゃ、こっちが羞ずかしくて、眼の持って行き場がないじゃないの」
と今度は葉子達に話しかける。
「それもいいが、そろそろ岩崎親分達をここへ集めなきゃあな」
と、川田は、見物人達をかき集めるべく襖を開けて、廊下へ出て行くのだ。
「一寸、待ってよ」
と、後から千代が追って来た。
「千原美沙江の誘拐計画はどうなったの」
「ああ、今朝早く、吉沢兄貴達が、彼女をお迎えするため車で出発したよ」
川田は、片頬を歪めてニタリと笑うのだった。
♢♢二、三日前から、この誘拐計画の主謀者である大塚順子は、買収した千原美沙江のお付きの女中、友子と直江に連絡をとっていたが、今朝、その女中二人から連絡があり、千原美沙江は昨夜から、後援者の一人である医学博士、折原源一郎の家に宿泊しているということがわかったという。折原教授の夫人、折原珠江が千原流生花の熱心なファンだというのだ。当たってくだけろとばかり、今朝方、田代が折原医博の所へ電話をかけ、美沙江を呼び出して、静子夫人の居所がわかったことを告げ、目下、悪性の病気で夫人は倒れ、地方の病院で静養中だと出鱈目を並べると、美沙江はおろおろした声で、今すぐ夫人のいる所へかけつけたい、といったようだ。
「成程、そこを狙って、病院から来たとだまし、娘を車に乗せてここへ直行するってわけね」
と、千代が金歯をのぞかせて、ニーと笑うと川田もうなずいて、
「その通り、小夜子と文夫を誘拐した時の手口をそのまま使って勝負に出てみるってわけさ。うまくいきゃ、大塚女史よりたんまり礼金は出るし、家元の娘は煮て喰おうが焼いて喰おうがこっちの自由ってことになる」
へへへ、と川田は、鼻をこすって卑屈に笑うのである。
「ね、もうその事を、静子に聞かせてやろうか。あの大きなお尻を枕の上で振って、口惜し泣きするのを私は見てやりたいよ」
「ま、ここまで隠して来たんだ。何もあわてることはないさ。ずっと隠し続けて熱演させ、満座の中で赤恥をかかせてから、はっきりと真相を知らせてやる。その方が面白いと思うな。ハハハ」
これが悪魔的な笑いというのだろう。川田は、千代にそう告げると、
「じゃ、親分達を連れて来るぜ」
と、スタスタ廊下を足早に歩き出した。
甘い拷問
大胆な、あられもない静子夫人の姿態。女として、これ以上に羞ずかしいポーズはないだろう。そんな自分の姿態を岩崎をはじめ、津村、清次、五郎、三郎、そして、千代や川田達の好奇な目に曝しながら、夫人は、白い頬を充血させ、固く眼を閉ざして、この屈辱を必死に耐えているようだった。この汚辱と屈辱の一日が早く終わってほしい。静子夫人は、ただそれだけを一途に祈っている。
そんな夫人の周囲をぎっしりと埋め尽した男女は、用意された酒をゆっくりと飲みながら、眼前に開花している色鮮やかなバラと、ミルク色に輝くような巨大な花の鑑賞に浸り切っている。
「よう、待ってました」
と、襖の開く音に、ふと首を上げた男達は一斉に拍手し始めた。
竹田と堀川が、後手にきびしく縛り上げた小夜子を引き立てて来たのである。
昨夜、チンピラ二人の飽くことを知らぬ長時間の調教に身も心も打ちひしがれてしまったのか、ぐったり首を前に垂れ下げている小夜子であったが、客人達の前へ引き出すためのおめかしというわけだろう、絹のような感触の柔ちかい黒髪は綺麗にカールされ、ブルーのヘアーバンドをしめさせられている。
大勢の男女の前へ引き出された小夜子は、さすがに狼狽して、そのふっくらとした、線の柔らかい白い頬をさっと朱に染め、思わず顔を伏せようとしたが、ふと正面のみじめな曝しものになっているのが、静子夫人であるのに気がつくと、あっと小さい声をあげるのだ。
静子夫人も、ふと小夜子に気づくと、忽ち狼狽の色を示し、いいようのない美しいはにかみの色を顔面に浮かべて、さっと顔をよじってしまうのだった。
川田が舌なめずりするような顔つきで腰を上げ、堀川の手から小夜子の縄尻をとると、
「一寸、おめえの先生に挨拶させるぜ、こっちへ来な」
静子夫人の仰臥させられているマットの傍へ連れて行く。
川田に肩を突かれて夫人のそむけている顔の近くへ、フラフラと腰を落とした小夜子は、
「先生っ」
と、ひと声叫ぶと、夫人の麻縄にきびしく緊め上げられている胸の上へ顔を押し当てて、わっと号泣するのだった。
「小、小夜子さん」
静子夫人も、横に眼を伏せたまま、紅唇を慄わせて小夜子の名を呼び、次にもう押さえがきかず働突が胸をついて溢れ出てしまった。
「小夜子さん、笑わないでね。これから、静子は死ぬより辛い辱しめを受けるのよ。貴女にだけは、ああ、貴女にだけは見られたくなかったわ」
静子夫人は、激しく泣きじゃくりながら、肩をふるわせて小夜子に声をかけるのだ。
「小夜子も、舌を噛み切りたい程の辱しめを受けたのよ。でも、でも、小夜子、我慢したわ。先生はもっと辛い責めに耐えておられるんだと死にたくなる自分を叱りつけて」
小夜子はそういうと、ひときわ激しく夫人の胸の上で号泣する。滑らかな夫人の雪白の肌を伝わって小夜子の熱い涙がしたたり落ちるのだった。
「おいおい、こんな所で愁嘆場を演じてもらっちゃ困るな」
川田は苦笑して、小夜子の縄尻をグツと引くのだ。夫人の胸許から顔を上げた小夜子は、川田にせかされるまま、一旦、立ち上りかけたが、突然、激しい声で、
「先生、愛しているわっ」
と叫ぶや、衝動的に夫人の顔へ唇を押しつけた。
「小、小夜子さん」
静子夫人は、濡れた美しい黒眼をはっきりと開いて小夜子を見る。
「どんな仕打ちを受けてもがまんして。ね、先生、負けちゃ嫌」
「わかったわ、決して負けない。小夜子のために」
静子夫人は、泣き濡れた頬を小夜子の頬にすり合わせ、薄く閉ざして、小夜子に求められるまま、ぴったりと唇を小夜子の唇に合わせる。
「これじゃ、無理やり強制して、小夜子をこのショーに引きこむことはねえようだったな。この分じゃあ苦労せずとも二人で楽しみ合って下さるぜ」
川田は、千代達の方を振り向いてニヤリとする。
ようやく夫人から唇を離した小夜子は、上気した顔を伏せるようにして立ち上るのだった。
「一寸、待ちな。そんなにこの静子夫人が忘れられねえ人になったのなら、奥様のこのケツの穴にだって接吻出来る筈だな。さ、一つ、今の調子で濃厚にやってみろ」
川田は、ニタリニタリと笑い、見物の者に片眼をつむってみせてから、意地悪くいい出したのであった。
ふと、それに気づいた夫人は、ハッとして、
「い、いけないわ。そ、そんな。お願い、川田さん」
と、再び、狼狽を示す。
「お前は黙ってろ」
と川田は夫人を叱りつけ、更に小夜子に、
「どうだ。お前が本当に静子を愛しているなら出来る筈だ」
「わかったわ」
小夜子は、いらいらと妖しく燃えるような瞳を挑みかかるように川田に向け、その場にゆっくりと膝を曲げて坐るのだ。
「許して、先生。もうこうなったら、小夜子がどんなに先生を愛しているか、この人達にもはっきりと示しておきたいの。こんな事をする小夜子を、どうか許して」
そういった小夜子は、緊縛された艶々しい体をねじ曲げるようにして、そっと唇を寄せてゆく。
「あっ、そ、そんな、駄目、駄目よ、小夜子さんっ」
夫人は上ずった声をはり上げて、高々と鎖で吊り上げられている両肢を揺さぶり、もじつかせるのだった。
これはとんだ余興が増えたとばかり、見物人達は身を乗り出すようにして、その異様な愛欲図を凝視し始めた。
乳色に煙った優美な夫人の肌がみるみるうちにバラ色に染まり出した。春太郎と夏次郎が面白がって、夫人の左右に腰をかがめ、上下に縄を巻きつかせ始めた。
悲哀をこめた夫人の切れ切れの叫びは押し殺したような低いうめきに変った。小夜子は夫人の内腿深くに顔面を押し当て、その隠微な菊座の蕾にはっきりと舌先を押しつけ、甘くゆるやかに舐めさすっている。あきらかに夫人は錯乱の情に染まり出し、それは飽かず見つめている見物人達もはっきりと感知することが出来た。
「もっと熱烈にやるんだ。そうしねえと、おめえの愛しい静子夫人をこたえられねえ程の辛い目に合わせるぜ」
川田は、羞恥の火照りを全身に溢れさせ、半ば狂気じみたようになっている小夜子に、鋭い声を投げかける。数々のいたぶりとおぞましい調教を日夜受けて、小夜子はまるで人間が作り変えられたようにそうした異常な行為を、悲しみを含んだ荒々しさで演じるのであった。
「まるで犬か猫みたい。これが村瀬商会のお嬢さんとはねえ」
千代は、含み笑いしながらゆっくりと盃を口に運んでいる津村義雄の方をチラと見ていうのである。村瀬小夜子を、とうとうこんな事まで満座の中で演じられる女に仕上げたという勝利感に、津村は一人酔い痴れているようだ。
「そらそら、もっと頑張らにゃ駄目じゃねえかよ」
火のように熱い吐息と一緒にポロポロ涙を流している小夜子を、ニヤニヤして見つめていた竹田と堀川が、今度は乗り出して来た。
「よ、俺達はおめえの調教師なんだぜ。いわれる通りにしろ」
岩崎親分達が見物している手前、少しは自分達の存在を示そうとするつもりなのか。如何にも頭の寒そうな二人のチンピラは小鼻をピクつかせて、小夜子の背中を指でつついて促すのであった。
小夜子は、そっと首を上げ、幾筋もの涙をしたたらせている象牙色の頬を朱に染めながら、しばらく横へそらせている夫人の顔に眼を注いでいたが、そっと眼を閉じ合わせ、再び顔をずらせていった。
「♢♢あっ駄目、駄目よ。やめてっ、小夜子さんっ」
静子夫人は、美しい顔をひきつらせ、戦慄したように優美な両肢を激しく震わせた。
ぎっしり周囲を埋め尽した見物人達は、小夜子の演じ出した行為に度肝を抜かれ、まるで夢でも見ているように呆然とした顔つきになってしまう。
「やめて、ああ、やめて、小夜子さん」
静子夫人は、全身を突き上げてくる嫌悪とも羞恥ともつかぬ狂おしい痺れにキリキリ歯を噛み鳴らし、艶やかなうなじを大きく見せてのたうつのだった。
「愛しているのよ、どうしようもないくらいに。ああ、許して、許して、先生」
小夜子はほざくようにそういうと、唾液でしっつとりと濡れた唇をわなわなと慄わせるのだった。
「御苦労だったな。これだけおめえにサービスしてもらえば、奥さんも悦んで調教を受ける気になったと思うぜ」
川田は、真っ赤になった顔をねじ曲げるようにして黒髪を慄わせている小夜子にそういうと、竹田と堀川に眼くばせして、小夜子の縄尻を渡した。
川田や竹田達に強制されたとはいえ、半分は自分の体内に突発的にまき起こった悪魔的な官能の嵐で静子夫人を無残なばかりに傷つけてしまった底知れぬ恐ろしさと苦しさ、それを小夜子は狂おしく感じて激しく泣きじゃくっている。
「それじゃ、そろそろ始めようか、お夏」
「でもねえ。一寸、見てごらんよ、お春。これじゃいくらなんでも気の毒だと思わない。中途半端な気分のまま肛門教育されるのって、さぞ辛いと思うんだけど」
夏次郎は、頬杖をつくようにして、片眼をつぶって春太郎の顔を見る。
「そら、茂みがもうじっとり濡れているじゃないの。一度、気をやらせてあげましょうか。そうした方が気分が落着いてじつくり肛門の調教を受けられるんじゃない」
夏次郎は、切なげな息をはずませ柔らかい優美な頬を横に伏せている静子夫人の高貴な鼻を指でつつく。
静子夫人は、薄く眼を閉ざしたまま、むずかるように首を左右に振った。
「嫌っ。もう覚悟はしています。いたぶるなら、早く」
静子夫人は、そう小さく口に出してしまうと再び、深々と悲しげに眉をひそめた顔を横に伏せるのだった。
どうせ逃れられないのなら、彼等の望む醜悪な責めを早く受け、この屈辱の時間を少しでも縮めたい。今はただ、そればかりを願う静子夫人であったが、
「それも酒の余興になるさ。すっきりさせてやるんだな」
千代の酌を受けて盃の酒をひと息に飲み乾した川田が、面白そうに声をかけた。
「それ、ごらんなさい」
と夏次郎は小気味よさそうに笑って、
「他では一寸味わうことの出来ないすばらしい方法で、奥様の気分を変えてあげるわ。ま、私達に任せておいて」
そういうと、夏次郎は意味ありげに夫人の頬をつついて、大仰に肩をすくませるポーズをとって、ふざけるのだった。
「さっきとはまた違う方法で、一寸いじめてあげるわ。そうするとね、自分でもおかしくなる位、早く効果があらわれてくるものなのよ。ねえ、お春」
そういいながら夏次郎は夫人の双臀を掌で撫でさすった。
「御見物の皆様に御参考までに申し上げておきますが」
と急に、春太郎が坐り直して、周囲の男女に向かって一席、口上をのべ始めた。
「かなり精通しておられる方でも、女性の肛門に対する知識をあまりお持ちになっておられない方が多いようであります。しかし、女性のそれは陰部と同様と見なしてもよろしいので、薄い粘膜一枚で結ばれているものであります。それに刺戟を受けることによって女性は言いようのない快楽を味わうことが出来るもので、その点が、女性の肉体が男性の肉体と異なるところでありましょう。私共が、男勝りの気性の激しい京子に真の悦びを教えましたのも、この肛門に対する訓練刺戟からであります。男性より女性の方に浣腸を悦ぶ者が多いというのも、今申し上げましたように、そこもまた重要な性感帯というところからであります」
つまり、女性のその部分に対する講釈を、春太郎は調子に乗ってやり始めたわけだが、ニヤニヤしていた岩崎は、ほほう、と首を上げ、
「こりゃ、ええ事を聞かせてもろた」
と喜ぶのだった。
雪白の滑らかで優美な量感のある双臀をでんと枕の上に据えつけられてしまっている静子夫人は、優雅な横顔をマットにすりつけながら、シクシクとすすり上げている。今の春太郎のスピーチは夫人に嫌悪に満ちた忌まわしさを与えると同時に何か自分の肉体に麻酔をふりかけられたような、しびれた感じが並列的に起こり始めたのである。
妖しい白昼夢でも見ているようにぼんやり見開いた濡れた夫人の瞳には、ふと情熱的なものが滲み出ている。
「じゃ、これから、実験しておめにかけますわ。どのようにして、夫人を可愛がってやればいいかを。さ、皆さん、もっと近くにお寄りになって」
春太郎が声をかけると、見物人達は何か照れたような微笑を浮かべながら、ぞろぞろと前へ進み出して来た。
静子夫人は、濡れた瞳を物悲しげにしばたきながら、耳元に口を寄せて何かささやきかける川田に、人形のように幾度もうなずいて見せている。
「さっきいったようにお客に愛嬌をムりまくんだ。何時までもメソメソしてると、へへへ、わかっているだろうな。千原美沙江のことをよく考えるんだ」
川田がようやく体を引くと、夫人は、しばらく、何か心に念じるように薄く眼を閉ざして、どうにもならない屈辱のポーズを見物人達の貪るような視線に任せていたが、やがてうっすらと瞼を開くと、黒眼勝ちのキラキラした美しい瞳をとろけるように潤ませて、ぎっしりと取り囲んだ見物人達を見廻し、次に何かひそひそと相談し合っている春太郎と夏次郎に向かい、カスれた声を出した。
「ね、春太郎さん、皆様に静子のお尻の穴をもっとはっきりお見せして」
静子夫人の言葉に春太郎と夏次郎は満足げにうなずき、夫人の肉づきのいい双臀の肉に両手をかけるとまるで桃でも割り裂くように更に常に押し拡げていく。
夫人の双臀の最奥に秘めた微妙な菊座の蕾が生々しいばかりにつめ寄って来た観客の眼前に晒された。
「まあ、いやらしい」
と、千代はわざと顔をしかめ、
「奥様もとうとうそこまで恥知らずの女におなりになったのね」
こんな女のお付き女中を長い間、勤めていたと思うと腹が立ってくるわ、と、千代は毒づき、同時に川田や田代達と顔を見合わせて哄笑するのだ。
「よ、どうした。もっとケツをよじらせてお客様方に愛敬を振りまくんだ」
と、川田が叱咤すると夫人は腰枕の上に乗せ上げた量感のある双臀をくなくなと左右によじらせながら、
「見て、ああ、皆様、もっと傍に寄って、静子の羞ずかしい所をうんと見て」
と、上ずった声を出した。
観客達が更につめ寄って来ると、
「これから静子がどんな風に調教を受けるか皆様にお見せ致しますわ」
と、夫人は泣き濡れた心の中でそう叫ぶと火の魂のようなものをぐっと呑みこんで、
「さ、春太郎さん、静子にうんと羞ずかしい思いをさせて頂戴。どんな淫らな事をなさっても静子は耐えてみせますわ」
と、川田に強要された言葉を口にするのだった。
それは客を悦ばせるための一種の技巧として川田に教示されたものだが、それは教えられたテクニックというものではなく、春太郎達に揺さぶられるまま自分の身内から発生したものだと夫人は知覚するようになっている。
「それじゃ、始めましょうね」
春太郎は紙袋の中から先端が渦巻状になっている大小三つの筒具を取り出した。
これはアナルドリル、これはヴァギナドリル、と、春太郎はその奇妙な珍具を静子夫人のねっとり涙を滲ませた眼前に突きつけるようにした。
「アナルセックスがスムーズに出来るような身体に調教するのよ」
そして、春太郎は静子夫人の露に晒け出されている菊座の微妙な蕾をふと指で小突いて、
「フフフ、もう隠したって駄目よ。私達は奥様のここが第二の性感帯だって事はすっかりわかっているんだから」
と、含み笑いしていった。
「だから、調教のし甲斐があるってものだわ」
春太郎は唾をつけた指先で夫人のその部分を柔らかく揉み始める。
「ああっ」
夫人は春太郎の指先がそこに触れた途端、仰臥位につながれた上半身を狂おしくよじらせた。鎖につながれて宙に向かって割り開いた優美な両肢を夫人は反射的に閉ざそうとしたが、鎖が軋むだけの無駄なあがきに過ぎず、夫人の官能味のある両脇の熟れ切った筋肉は耐苦と屈辱感にブルブル痙攣し始めた。
「そんなにうろたえる事ないでしょう。ここは奥様の立派な性感帯じゃありませんか。まず、私の指先をしっかり咥えてそこでしっかり緊めてごらん」
そうすれば次にアナルドリルを使って孔を拡げにかかるわ、と、春太郎が楽しそうにいった。
「ピンポン玉の一つや二つ、呑みこめるようになるまで今日は皆さんの前で調教されるのよ」
春太郎は自分に残忍な発作をけしかけたようにいきなり夫人のその部分に深々と一本の指先を突き立てていく。
「ううっ」
と、静子夫人は更に上体をのけぞらせ、汗ばんだ額を苦しげに歪め、歯を噛み鳴らした。
微妙な縦皺で縁どられた夫人のその小菊は春太郎の指先で蕾を割られ、その繊細な筋肉は生々しい盛り上りを示し出す。
腰枕の上に乗せ上げられた双臀は二度、三度、ガクン、ガクンと上下に揺れたが、春太郎は容赦せずに荒々しい指先の愛撫をそこに加えていく。
「ああっ、ねえっ、静子、大声で泣いていいっ」
と、夫人は真っ赤に火照った顔面を狂おしく左右に揺さぶりながら昂った声をはり上げた。
「ああ、いいわよ。その方がお客様もお喜びだわ。でも、奥様、これ位で泣くのはまだ早いわよ」
バイプを使ったり、ドリルを使ったりしてお尻の穴を掘らなきゃならないのよ、と、春太郎は愉快そうにいうのだ。そして春太郎は夫人のその固く緊まった肛門の内に喰い入る自分の指先を夫人が無意識のうちに微妙な筋肉で強く喰い緊め、陰密で奥深い吸引力をヒクヒクと伝えているのを感じとる。
春太郎はふと川田の方に眼を向けて、
「大丈夫。少し磨きをかければここだって充分にお役に立つと思うわ」
と、含み笑いしながら声をかけた。
しかも、緊縮力もあるし、吸引力もあるし、第二の性器として充分に使用出来る、と、春太郎は川田と千代の顔を交互に見て報告するのだ。
春太郎の指先を深くそこへ喰いこませた夫人は頭の芯まで痺れるばかりの汚辱を伴う異様な快美感の中で全身をのけぞらせた。春太郎が深々と喰いこませた指先を小刻みに操作し始めると、上層の花弁が自然に溶けるように甘く開花して熱い樹液がミゾを伝わってしたたり落ち、深く浅く操作をくり返す春太郎の指先を濡らし始めている。
「そら、皆様、御覧になって」
と、夏次郎が身を寄せ合うようにして凝視している見物人達を得意そうに見廻していった。
「これで、ここが奥様の立派な性感帯であるって事がよくおわかりになったでしょう。そら、ここからはもうこんなに熱いものが流れ出している」
夏次郎はそういって夫人の熱い樹液で濡れた濃密な茂みを指先でかき上げ、じっとりと潤んだ薄紅色の花肉を露に晒させるのだ。
「そら、ね、もうクリトリスまでこんなに膨らませて、余程、気分がいいって示しているじゃありませんか」
夏次郎は幾重にも畳みこまれた肉襞の一つ一つを押し広げ、上壁部から微妙な屹立を示す陰核を露にむき出させて観客の眼に晒させようとする。
田代が川田の方を見て口を歪めながら小声でいった。
「遠山社長の令夫人もこうなれば形なしだな。我ながらよくここまで追いこんだものだと感心するよ」
女の羞恥の源泉二つまで満座で晒け出し、見せ物にするなんて、どぎつさを売物にするストリッパーだってここまでは演じられないぜ、と、田代が笑った時、その陰密な菊座の蕾を充分に指先で掻き立てていた春太郎はようやく指先を引き抜き、アナルドリルと称する細身のねじり棒のようなものをその部分に触れさせようとしている。
「さ、奥様、次は道具を使うわ。こいつを少なくとも五センチ以上は呑みこまなきゃ駄目よ」
それがはっきりとその部分に触れた途端、静子夫人は、嫌っ、嫌よっ、と昂った声をはり上げ、その矛先をそらせるかのように腰枕の上に乗せ上げられた双臀を激しく左右に揺さぶった。
「あら、急にどうしたのよ。私達はそこも前と同様に使いこなせるようなプロの肉体作りにとりかかっているのよ」
再び、春太郎が当てようとすると夫人はまた、おびえて双臀を揺さぶり、的から外させようとする。
「こわいわ。こわいのですっ」
と、静子夫人は嗚咽しながら二人のシスターボーイに哀願するようにいった。
「何だか、自分の身体が自分のものではなくなるような気がして、あ、こわいわ」
こわいだと、と、川田がせせら笑って横から口を出した。
「やがて、捨太郎にそこを使わせる事になるんだぜ。あんなでっかいものをいきなりそこへぶちこまれてみろ。忽ち、肉がはじけて大怪我になってしまうじゃないか。だから、調教が必要なんだ」
俺はお前さんのためを思ってそこの穴を磨きにかけさせているんだ、と川田は叱咤するようにいいながら、むしろ夫人がおびえを示した事で見物人達の昂奮が高揚した事を感じ取っている。
「さ、生娘みたいにおびえるなんてみっともねえぜ。社長夫人の貫禄を示して春太郎達にケツの穴を任せてしまえばいいんだ」
川田はそういって田代に眼くばせを送り、二人で宙吊りにされた夫人の太腿を左右から押さえこみ、身動きを封じてしまうのだ。
「こわがらなくたって大丈夫よ、奥様」
春太郎は男二人に両脇を支えられて、もはや逃げも隠れもならず、再び腰枕の上に生々しく菊座の蕾を晒け出してしまった夫人に向かって楽しそうにいった。
「最初は痛くて出血もするけれど、そのうちにすぐ馴れてしまうし、快感もはっきり感じるようになるわ。せっかく大刀が名器なら、小刀も名器にしておくべきでしょう。おかまだって最初は痛みを我慢してこういう鍛練を積むのよ」
でも、おかまは殿方を悦ばせるのにそこだけしか使えない。奥様は両方使って殿方を楽しませる事が出来るじゃありませんか。女はいいわねえ、ほんとに羨ましいわ、などといって春太郎は見物人達を笑わせながら夫人のその陰微な部分にワセリンを塗り始めている。
「お、お願い、春太郎さん。ひ、ひどいなさり方は嫌よ」
静子夫人は乱れ髪をもつらせた端正な頬を横に伏せて小さな嗚咽の声と一緒にいった。
「大丈夫、大丈夫、ここにねじり棒を押しこめば、痛みを忘れさせるためにここにも太いねじり棒を咥えさせてあげるわ」
と、夏次郎は太い筒具を手にして、夫人のそそけ立つ漆黒の柔らかい茂みを撫で上げた。
「二か所、同時責め。そうすれば気分は最高、少々の痛さなんか気にならなくなるわよ。いえ、その痛さまでが快感になっちゃうものよ」
と、夏次郎はおかしそうにいった。
「いや、三か所責めといこうじゃないか」
と、川田がまた横から口を出した。
「女には男に使わせる穴が三つあるじゃないか。もう一つはお口だよ」
男の一物をしゃぶらせりゃ、更に痛みなんぞ気にならなくなるぜ。つまり、いい麻酔剤になるってわけさ、と、川田がニヤニヤしていうと、
「さすがに川田さんはいい事いうわね」
と、春太郎と夏次郎は顔を見合わせて笑い出した。
「お客様の一人にそのお相手になって頂きましょうよ」
と、春太郎がいうと夏次郎はうなずいて、
「奥様がお客様に直接、おねだりするのよ。ねえ、どなたか静子のお口に咥えさせて、といった風にね」
といって川田達と一緒に笑いこけた。
「じゃ、始めるわよ」
ワセリンで充分に濡らし、指先で充分に揉みほぐしてその部分が柔らかく膨張し始めると、春太郎は腰を据え直すようにして改めてねじり棒をそこへぴったりと当てがった。
静子夫人はすっかり観念して乱れ髪をもつらせた頬を横に伏せ、固く眼を閉ざし、唇をギューと歯で噛みしめている。
「そんなに身体を固くしちゃ駄目よ」
どなたか奥様の気分がほぐれるように優しくおっぱいを揉み揉みしてあげて、と春太郎が声をかけると田代と森村が夫人の上半身を左右から挟みこむようにして、麻縄に緊め上げられた夫人の優美な乳房を掌で包み、粘っこく揉み上げていく。
ああ、と夫人が艶っぼいうなじを大きく浮き立たせた瞬間、春太郎は当てがったそれを一気に突き立てていった。
絹を裂くような悲鳴が夫人の口から迸り出た。
「や、やめてっ、痛いわっ、そんな、ねえっ」
激しい狼狽を示したものの夫人はその部分へ一気に筒具が侵入した途端、宙吊りの両肢も腰枕を当てられた双臀も悶えは封じられてしまった。悶えれば激痛が倍加し、夫人は激しく歯を噛み鳴らし、べっとり脂汗を浮かべた額をさも苦しげに歪めて春太郎のするがままに身を任せる以外、術はなかった。
「少々、痛いのは我慢しなきゃな。プロになり切るための修業だと思わなきゃ」
夫人の柔軟な乳房を掌で包みこむようにして甘く揉み上げ、薄紅色の可憐な乳頭を舌で敲めたり、吸い上げたりをくり返していた森田はふと顔を起こし、傷ついた獣のようなうめきを洩らしている夫人のひきつった顔面を楽しそうに見つめた。
「そうよ。おかまだって男を受け入れるためにこんな修業を積んでいるのよ」
少しはおかまの努力と苦労を思い知るがいいわ、といいながら春太郎は更に力をこめて突き通そうとする。
「あっ、あっ」と夫人は自分のその部分に焼火箸を突き立てられるような恐怖と屈辱感を感じて突き立てられるたびに断続的な悲鳴を上げた。
「うまくいきそうだわ」
春太郎は数センチばかり侵入させると額の汗を手の甲で拭って夏次郎に声をかけた。
「それじゃ、奥様、こっちのお口にも含ませてあげましょうね」
夏次郎は太い筒具を片手に持ち、夫人の股間の熱い樹液に濡れた濃密な繊毛のあたりを軽くこするようにした。
「ああっ、どうとも好きなようにしてっ」
夫人は火照った顔面を激しく揺さぶりながら自棄になったように叫んだ。
「そんな捨鉢な言い方はないでしょう。最高の感激に浸らせてあげるのよ」
夏次郎は指先を使ってじっとり濡れた漆黒の繊毛をかき分け、花襞を押し拡げ、観客の眼の前に夫人の膣口まではっきり露呈させると、
「如何が、皆様、まるで乙女のように綺麗な色に潤んでいるでしょう」
と、周囲を見廻して得意そうに語りかけるのだ。
酒気を帯びた千代が身を乗り出してくると、一寸、私にも名器の奥を拝見させて、と皮肉っぼくいって夫人のその割れ口を更に露に指先で押し拡げた。千代のいたぶりを最も辛く感じる夫人だが、もう人間的な感情を喪失している夫人は暴力行使者が誰であろうと感情が高揚する事はない。千代の手で生々しく花肉を押し開かれ、熱気を帯びた小陰唇も膣口も晒け出し、同時に焼けつくような熱い樹液のしたたりまで露呈させている。
「成程ね、これが男達の賞讃する名器というものなのね。本当に御立派よ、奥様」
千代はクスクス笑って、潤んだ花襞の上壁部から微妙な突起を示す可憐な肉芽を指で押すのだ。
「お付き女中をしていた頃、まさか、奥様のこの奥まで拝見出来るなんて夢にも思わなかったわ」
といっで千代は川田や田代達を笑わせた。
「まあ、もうこんなに濡らしちゃって、お尻の穴が責められるとそんなに気分がいいの、奥様」
盛んに揶揄してから千代は持場を夏次郎と代ったが、夏次郎はすぐに筒具を含ませず、盛り上った繊毛の上をそれで軽く叩くようにして、
「どう。これ、欲しい」
と、次にはじらせるようにその先端でじっとり濡れた繊毛のふくらみを撫で上げるのだった。
「ああっ、ねえ。じらさないで、責めるなら責めて下さい。どんな羞ずかしい事なさってもかまわないわっ」
と、夫人は乱れ髪を激しく揺さぶってひきつった声音で叫んだ。
「わかったわ。じゃ、始めてあげる。まずは二か所責めの開幕ね」
夏次郎は筒具の先端をぴったり当てがうとぐっと強く押して出た。
「ああっ」
と、夫人はその瞬間、上半身を弓反りにして甲高い悲鳴を上げた。
第六十六章 二輪の初物
美花二輸
広い芝生に面した豪荘な田代邸の応接間で千原美沙江は後援者の珠江夫人と一緒にソファに坐っている。ここでしばらくお待ち下さい、と田代達は美沙江と珠江夫人を残して出て行き、二人はそれからもう三十分近くも待たされているのだ。
その日は、丁度、新作生花発表会の最終日だったので、千原美沙江は、その後の記者会見や祝賀パーティのために真紅の紋綸子に御所解き模様を浮き上らせた中振り袖を着、会場から廻されて来る車を珠江夫人と一緒に待っていたのだが、静子夫人の居所を知っているという田代からの電話が突然あって、気持が顛倒し、生花の会場へは少し遅れて出席する旨、女中の友子と直江に言づけておいてから、間もなく迎えに現われた田代の車に珠江夫人と二人で乗り、ここまで連れて来られたわけである。
ソファに端然と坐っている美沙江と珠江夫人は、ふと焦躁を覚えて互いに腕時計を見つめ合う。
「ねえ、おば様」
美沙江は冷たい位に整った美しい顔を珠江夫人に向けると、
「何だか私、胸騒ぎが致しますわ。本当に遠山家の奥様は、ここにいらっしゃるのでしょうか」
「私も何か変な予感が致しますの。ひょっとして私達、騙されたのではないかしら」
「騙されたですって」
美沙江はきれいに揃った睫を不安げに、しばたいた。
白地のように透き通った美貌の珠江夫人ももの憂げな風情を見せてソファから立ち上り、そっと窓の外に眼を向ける。藤鼠の繊縮緬に唐織の黒帯をしめた珠江夫人のあでやかな容姿と艶麗さは一種の輝きさえ持って、美術品的な美しさを感じさせる。もう三十を一つか二つ越していると思われるが、永年の秩序立った生活できたえた肌は、驚く程若く見えるのだった。
田代と森田は、ドアの隙間から、この美女二人をつぶさに観察し、胸をときめかせている。
「カモがネギを背負って来たとは、この事だが、こりゃ大変な大物が入荷したよ。こっちの手に負えるかな、え、親分」
田代は、さも楽しげに眼を細めて森田の肩を叩くのだ。
名門の令嬢であろうと、大家の令夫人であろうと、一旦、田代邸の門をくぐったからには、もう表へ出すわけにはいかぬ。一匹の雌猫として、いや、それ以下の下等動物としてこっちは扱うだけだと田代は北叟笑むのだが、千原流家元の令嬢と医学博士夫人というこの二人の美女を落花微塵に打ち砕くのは、静子夫人や小夜子の場合ょり更に困難が予想されるのである。だが、それが楽しみといえば楽しみでもあった。容貌にしても肉体にしても、珠江夫人と静子夫人とが異質のものを持っているのが、また面白い。
気品と優雅さに満たされているのは両夫人の共通点であったが、珠江夫人は、色白で細身の艶麗な体つき、容貌もどちらかといえば細面の硬質陶器のような冷やかさを含んだ繊細な美しさであった。それに対して、静子夫人は絹餅のようにふっくらした美しい瓜実顔。肉体的に見ても、静子夫人の場合は、胸も膿も、見事な帥線を持つ両肢もムチムチ成熟して、ねっとりとした官能味を盛り上げている。静子夫人がバラの華麗さを持つ美女とするならば、珠江夫人は牡丹の艶麗さを持つ藹たけた美女であった。
美沙江もまた肌理の細かい清らかに澄んだ美女で、小夜子が洋装の似合う近代的美人とすれば、美沙江は和装がぴったりの古風な美しさを持っている。
奥様風にしっとり落ちついた珠江夫人と令嬢風な初々しさを持つ美沙江とをドアの隙間から飽かずのぞき見していた田代は、森田の耳元に口を寄せて、これからの段どりを説明する。森田はうなずいて、二階へ行った。田代は、ネクタイの乱れを直して、ドアを開けた。
「や、どうも長らくお待たせ致しました」
静子夫人の容態を見に行っておりましたので、と田代は説明しながら、どっかりと椅子に坐りこみ、煙草を口にするのである。
「あの、お差し支えなければ、すぐに静子奥様にお逢い致したいのですが♢♢」
珠江夫人は、美しい眉をやや神経質に動かせて、三十分以上も自分達をここへ待たせ放しにした田代の非礼をとがめるような口ぶりでいった。珠江夫人も、同じく千原流の後援者の一人である静子夫人とは、親しい間柄であったのだ。
「遠山家の奥様が行方不明になってからもう何か月にもなります。それがどうしてこのお屋敷においでになったのか、くわしい事情を奥様の口から直接お聞き致したいのです」
そういう珠江夫人の端正な容貌を田代はしげしげと見つめながら、ゆっくりと煙草の煙を吐いて、
「よほど、この屋敷の居心地が良かったのでしょうね。もうここから外へ出るのは嫌だとおっしゃるんですよ。そこで、貴女方、お二人に御相談したいと思って、ここへおいで願ったわけですが」
と、面白そうにいうのである。
「おっしゃる事がよくわかりませんわ。とにかくひと眼、静子奥様に♢♢」
先程から、無遠慮にジロジロ見つめてくる田代の濁った眼を不快に思って、うつむき加減に顔をそらせていた美沙江が口を開いた。
「ま、慌てることはないじゃありませんか」
と、田代は美沙江の一抹の憂いを含んだ美しい瞳を見つめながら、
「さすがに生花家元のお嬢さんだけあって、全く清楚な美しさだ。和服が特にお似合いのようですね」
と、話をそらせ、珠江夫人と美沙江に一層不快な感じを抱かせるのだった。
そこへ、ノックの音。
どうぞ、と田代は振り返りもせずに声をかける。入って来たのは、裏葉色の単帯を斜かいに締めた千代と豪著なアフタヌーンを看た大塚順子であった。
大塚順子をふと見た千原美沙江は、一瞬、顔色を変える。前衛華道ということを売りものにしている湖月流は、折にふれ、怪文書などを発して千原流華道を誹謗しつづけている。その理由は、隆盛の一路をたどる千原流に対し、衰退の兆しが生じた湖月流のひがみ以外の何ものでもなかった。
成金じみた大きな指環のついた手で、口を覆い、指環ぐるみ、ほほほ、と笑って、四十二、三にもなりながら、娘のようなしなを作った大塚順子は、
「お嬢様、妙な所で、お眼にかかりましたわねえ」
そして、順子は、隣の千代を、
「この方は、私が娘時代から親しくして戴いております千代さん。お嬢様をここへお連れするために、色々とお骨折りを願ったのよ」
と、紹介するのだった。
珠江夫人も、硬化した表情になって、柳眉を上げ、順子と千代を交互に見る。
「一体、貴女方は、家元のお嬢さんに何の御用がおありなのです」
すると、千代は珠江夫人の方へ一歩進み出て、
「奥様、私をお見忘れですか」
と、如何にも意地悪そうに笑って見せるのだった。
「あっ、貫女は」
珠江夫人の顔色が変った。
「千、千代さんじゃありませんか」
珠江夫人は遠山家に何度も出入りしていたから、女中の千代とは面識があった。静子夫人が失踪後、それが原因で気がおかしくなった遠山隆義は、この女中の言うがままとなり、莫大な財産まで千代の手で管理されているという噂も珠江夫人は知っていた。
その千代が、静子夫人が静養しているというこの田代の屋敷にどうしているのか、暗い恐ろしい疑惑が珠江夫人の脳し裡をかすめた。
「最初は、家元のお嬢さん一人を誘拐する計画だったのですよ。それが、医学博士夫人のおまけまでつくとは思わなかったわ。いえ。ひょっとすると、珠江夫人は、家元のお嬢様より価値のある獲物かも知れないわね」
千代がそういった途端、珠江夫人と美沙江の表情から一は血の気が失せて、二人は、恐怖のあまり、手を握り合う。
「ど、どういう意味なんです。はっきりおっしゃって下さい。一体、何が目的でお嬢さんを♢♢」
珠江夫人は、今にも失神しそうになっている美沙江を支えるようにしながら、田代に向かって必死な眼を向けるのだった。
にわかに殺気をはらんだ不気味な空気が周囲にたちこめてくる。
芝生に面したガラス障子がゆっくりと開いて、吉沢と井上、そして鬼源の三人がヌーと顔を見せたのである。
恐怖の戦慄が珠江夫人と美沙江の身内を走り、二人は、その場に棒立ちになる。
森田が顔を見せると田代は、煙草を灰皿に押しこでやっと椅子から腰を上げた。
「それじゃ親分、このお嬢様と奥様を別室へ御案内を。お二人とも、由緒ある家柄の貴婦人だから、くれぐれも失礼のないように」
といって腹を揺すって笑うのだった。
「さ、二人とも、俺について来るんだ」
吉沢が、恐怖の慄えと共に、ぴったり身体を寄せ合っている珠江夫人と美沙江の肩を後ろから突いてドスのきいた声を出した。
「待、待って下さい」
珠江庚人は美しい切れ長の瞳にキラリと憎悪の色を走らせ、反撥的に身をよじらせる。
「貫方達、お金が目的なら私が主人と連絡して、いくらでも都合致します。今日は、このお嬢様にとって、いえ、千原流にとって大切な日なのです。どうか、お嬢様だけは解放してあげて下さい。その間、私が人質となりますわ」
と、動揺する自分を抑えて珠江夫人は冷静な口調でそういったのだが、
「千原流の発表会を叩きつぶすのが、こっちの目的じゃないか。何をとぼけた事をいってるんだ」
と、吉沢は冷酷にいい放ち、順子の方を見て笑うのだった。
えっ、と珠江夫人の顔がひきつると、順子は、さもおかしそうに眼を細めて、
「身代金など頂戴するためにお嬢様を誘拐したんじゃありませんわ。やがて家元を継ぐお嬢様を、この世から隔離するのが私の最初からの目的。ホホホ、湖月流発展のためには、こうした非常手段も止むを得ないことだと思いますの」
それを聞いた途端、美沙江は、全身から力が抜け、フラフラとよろめいて、その場に身体をくずして行った。気を失ったのである。
「あ、お嬢様」
珠江夫人は、狼狽して、倒れた美沙江を揺さぶり始めた。
「これだけで気を失うようなお姫様じゃ、これから先の事が思いやられますね。社長」
森田が苦笑して田代の顔を見る。
「仕方がないな。ひとまず、この奥様の方から運んで行けよ、吉沢」
田代に命令された吉沢は、うなずいて、失神した美沙江に取りすがっておろおろしている珠江夫人の両肩を後ろからつかんだ。
「さ、行こうぜ」
「な、何をなさるんですっ、離して下さい」
珠江夫人は昂った声で叫ぶと、さっと吉沢の手を振りはどいて、いきなり、ピシャリと吉沢の頬を平手打ちしたのだ。
「あいてっ。くそ」
吉沢は、打たれた頬に手をやって眼をつり上げた。田代と森田は、それを見て、ゲラゲラ笑い出す。
「この人妻もなかなか手に負えないぞ、大分気性が強そうだ」
珠江夫人は、その冷たい象牙色の頬を憤怒の興奮で火のように上気させながら、きっとばかりに吉沢を睨んでいるのだ。
「無礼者、下がりや、といった顔つきだな。やれやれ、これは静子夫人のようなわけにはいかないかも知れないぞ」
と、田代や森田は盛んに面白がっている。
「この阿女。下手に出てりゃ、つけ上りやがって」
吉沢は、おどかすつもりでジャンパーのポケットから匕首を引き抜くのである。
珠江夫人は、ハッとして、ぴったり背を壁に押しつけ、必死な眼を吉沢に注いでいる。
「おいおい、相手は医学博士夫人だぞ。乱暴に扱うんじゃない」
と、田代は吉沢をたしなめて、珠江夫人に眼を向けると、
「こっちは、今日の千原流生花発表会さえ妨害すれば、目的は達せられるわけです。下手に騒ぎ立てて怪我でもすりゃ損じゃありませんか。今日一日、おとなしくして下されば、奥様もおお嬢様も、明日は私が責任を持ってお宅まで送り届けますよ」
屈辱の色が探刻に珠江夫人の顔にひろがっていく。
「ね、今日一日の辛抱です。お二人の身に危害を加えるようなことは絶対致しませんよ」
続いてそういった田代の顔を、珠江夫人は、さも口惜しげに唇を噛みしめて、見つめていたが、
「わかりました。お嫉様に絶対に危害を加えないと約束して下さるなら、その屈辱に耐えます」
今にも大粒の涙を落としそうな哀しげな顔をそよがせて、珠江夫人はうなずいて見せるのだった。
一旦、この男達の言うなりにならないと、どのような恐ろしい手段を彼等はとるかも知れず、家元の令嬢を危急から守るためにもこの際、彼等の網にかかった方が無難だと珠江夫人は、とっさに判断したのである。
ソファの上へ身を伏せていた美沙江が、かすかに身動きを見せた。
「おや、お嬢さん、正気づいたらしいぜ」
吉沢がニヤリと笑った。
珠江夫人はすぐに美沙江の方へかけ寄ると、
「しっかりなさって下さい、お嬢様」
と、ぼんやり眼を開いた美沙江を抱きしめるのだ。
ようやく正気を取り戻した美沙江は、ひしと珠江夫人の手を握りしめる。
「おば様、私、私、一体、どうすればいいのです。ね、おば様」
「今日一日、我慢なさって下さいね。いいですわね、お嬢様」
珠江夫人は、慄える美沙江の手を握りつつ必死な願いをこめたようにいうのだった。
森田と吉沢が田代の眼くばせを受けて、廊下に束ねてあった麻縄を無雑作に肩にかついで戻って来る。
「そう、お二人とも、おとなしく両手を後ろへ廻して」
再び、恐怖と嫌悪の戦慄が、美沙江と珠江夫人の身内を走る。
「な、何をなさろうというのですっ」
いきなり吉沢に手をとられた珠江夫人は、眼の前に突き出された不気味な麻縄を見て、おびえたようにいった。
「貴女達お二人は、今日一日は私達の捕虜。一応、逃亡を防ぐ意味で自由は束縛させて頂きますよ」
「お嬢様も私も、取り乱すようなことは致しません。縄をかけるなんてことはやめて下さいっ」
昂った声音を出して、珠汗夫人は激しい披抗を示すのだったが、
「よっ、いわれた通りにしねえと、その美しい顔をこいつでズタズタにするぜ」
と、今度は井上が匕首をひき抜いて、絨毯の上から床を通して、ブスリと突き立てた。
珠江夫人と美沙江は、ぞっとしたように再び身を寄せ、慄えるのだった。
田代は、そんな二人の美女を楽しそうに眺めて、
「こういう風にうちの若い衆は皆んな気性が荒いので困るんですよ。逃亡を防ぐために、素っ裸に剥ぐという方法もありますが、私はそんな手荒な真似はしたくない」
田代は、言葉で強迫を始めている。
「お嬢様、夢でも見てるつもりで、今日一日、我慢なさるのよ。いいですわね」
そう美沙江に声をかけた珠江夫人は、遂に屈辱の惜し涙を流しつつ、吉沢に両手を後ろへねじ曲げられていく。
美沙江も、わなわな慄える白い頬に幾筋もの涙を流しつつ、森田に両手をねじ曲げられていくのだ。
床の上へ身体を縮めるようにして、豪奢な和服の上からひしひしと縄がけされている二人の美女を、千代と順子は、してやったりと含み笑いをして眺めている。
田代は、順子の傍に近づいて、ニヤニヤしながら小声でいった。
「女ってのは、最初からおどかしちゃ駄目だ。僕のように上手に崩してかからなきゃいけませんよ。明日になりゃ、無罪放免されるという風に一応、希望をつながせておくんです。ハハハ、これでこの三人の美女は、もう三度と娑婆へは、かわいそうだが戻れないってわけですな」
田代がそういうと、順子は、とってつけたような奇妙なしなをつくって、田代の肩を叩き、
「本当に社長さんたら悪い方ねえ」
と、笑って見せるのだ。
美沙江は揚葉蝶に結ばれた帯の上へ両手をねじ曲げられ、森田に縄がけされているので、その手首の激痛に美しい顔を曇らせている。
「こんな御大層な帯を結んでいるから手首が痛いんだよ。何なら、この帯を解いて縛ってやろうか」
と森田がいうと、美沙江は嫌々と哀しげに首を振って見ぅせるのだった。
「いい匂いだね。こりゃ、たまんねえや」
森酎はようやく美沙江を後手に縛り上げると、美沙江の襟元から首すじ、耳元に至るまで鼻を近づけ、その甘い香料の匂いをうっとりと嗅いでいる。
「それにこのお嬢様は、今どき珍しいロングへアだ。俺は、髪の長い娘を見ると、ぞくぞくしちゃうんだよ」
美沙江は、恐らく乳房あたりまで垂れるのではないかと思われるような長髪をアップスタイルに高くまとめて艶々しくセットし、珊瑚の平打ちを低めにさした若々しい髪型を作っていた。
珠江夫人の方は、すっきりなでつけた髪の流れの延長を大きな髷に作って、それに美しい銀の飾り櫛をつけるという玄人っぼい髪型で、これも顔を横に伏せているため、くっきり浮かび出た艶々しいうなじのあたりを、吉沢にクンクン鼻を押しつけられながら、後見結びの帯の上に両手を曲げられている。
「さ、立つんだ」
やがて、縄尻を取られた二人の美女は、よろよろとその場へ立ち上った。
「お嬢様のために、冷暖房つきの牢屋を新築してありますのよ。じゃ、奥様も御一緒に、ひとまずそこで御休憩になって下さいましね」
千代もそういって、がっくり首を前に落としたまま、吉沢と森田に引き立てられて行く二人の美女を心地よさそうに見るのだった。
「こうもうまく、事が運ぶとは思わなかったわ。ほんとうに貴方達のおかげよ」
二人の美女が応接間から姿を消すと、大塚順子は、はっとしたようにソファに坐り、煙草をケースから取り出しながら、田代と千代に向かっていった。
「ま、千原美沙江がこっちの手に落ちたとなりゃあ、もう千原流生花は崩潰したも同然ですよ。湖月流が息を吹き返す機会ですね」
田代は、順子の煙草にライターの火をつけてやってから、ぼんやりとそこにつっ立っている鬼源を面白そうに見た。
「何をぼんやりしているんだよ。鬼源」
鬼源は、ムっと我に返ったように田代の方を見て、急にニタニタと黄色い歯を出して笑いながらいうのだ。
「あんな別嬪を、また俺が調教出来るのかと思うと、妙に体が燃えてきましてね。ほんとにいいんですか。あの二人を、この道の女に仕込みあげたって」
「今更、後へ引くわけにはいかないよ」
と、田代は棚の上のウイスキー瓶を取り出していった。
「最初は殺し屋を使って、あの令嬢をこの世から消してしせぅ計画だったんだ。だが、あれだけの美人をむざむざ殺してしまうのは、何としても惜しいじゃないか」
「そりゃそうですよ、社長」
「だから、俺が大塚女史に相談してこっちへもらい下げたってわけだよ。煮て喰おうが焼いて喰おうが、こっちの自由さ。商品として通用する体に早く仕上げて欲しいものだね」
何しろ、生花に使う花より重いものは持ったことはないという名門の令嬢だけに、これを調教するのは大変な苦労がいるだろうな、と田代が笑うと、鬼源は、
「いや、それだけにまたこっちにとっては、やり甲斐のある仕事ですよ」
と、楽しそうに受け答えるのだった。
「今夜は、新しい獲物が入荷したお祝いをやらなきゃあね」
と、千代が珠江夫人と美沙江を引っ張り出して酒宴を張ることを提案する。
「それはもうちゃんと予定してありますよ。今夜、早速、皆んなの前で、あの美女二人に御開帳させるつもりなんだ」
と、田代はうなずいて、
「だが、あの気性の強そうな珠江夫人と初心で世間知らずの美沙江嬢を素っ裸にするのはまた大変な手間がかかることだろうな」
と、しかし、満更でもない顔つきで顎の下をさするのだった。
千代は、ふと何かを思い出したように顔を上げた。
「そうそう、あの後、静子夫人どうなったか、一寸、のぞきに行きましょうよ」
千代は、静子夫人に、千原流家元の令嬢が親しい友人の珠江夫人と一緒にこの屋敷の捕われ人になったことを告げてやりたくて、うずうずしているのだ。それを聞かされた時の静子夫人の狼狽ぶりを想像すると、千代の胸は高鳴るのである。
汚辱に泣く花
緊縛された裸身を仰臥位につながれ、官能味を盛り上げた優美な両肢を宙に向かって割るように垂直に吊り上げられている夫人は、シスターボーイ二人の二か所責めを受けて狂乱の悶えをくり返していた。
先端が渦巻状になっている大小二本の筒具を夫人は上層の花肉と下層の花肉に深々と突き立てられ、咆哮に似た声をはり上げ、腰枕の上に乗せ上げられた双臀を狂おしく悶えさせている。
菊花の部分にアナル棒を錐でも揉みこむように深々と差しこんだ春太郎は意地悪く円を描くように操作して押して出たり、引いたりをくり返し、それと呼応して夏次郎は上層の花肉をえぐった筒具をゆるやかに操作しながら夫人のその部分の異様な吸引力や収縮力を観客の眼にはっきりと晒すのだった。
静子夫人は全身に汗を滲ませて快楽の二つの源泉を突き破られた息も止まりそうな衝撃と戦慄を伴った妖しい快感に打ちのめされ、すさまじいばかりの啼泣を洩らしてのたうち廻っている。
二人のシスターボーイの攻撃はまるでリズムを合わせたように巧みで正確で、しかも、淫靡であった。夫人が快楽の絶頂にまで追いつめられて、
「ああっ、駄目っ、いきそうっ」
と我を忘れて口走ると、夏次郎は上層の花肉に含ませた筒具を一旦、停止させ、春太郎の操作するアナル棒だけの攻撃に任せてわざと一呼吸入れるのである。
「ね、もうここの痛みは消えたでしょう。もう奥様はお尻の穴に七センチ近く喰いこませているのよ」
春太郎はゆるやかにアナル棒を操作しながら、
「さ、こうなればお尻の穴をもっと大きく拡げましょうね。ピンポン玉の二つや三つ位、呑みこむようにならなきゃ、アナルセックスは無理よ。しかも、相手が捨太郎さんでしょう」
と、春太郎は笑いながら小刻みに激しく攻め立てていく。
あっ、あっ、と夫人は断続的な悲鳴を上げ、緊縛された裸身を狂気めいてのたうたせた。太い筒具が突き刺さっているその部分からは更に熱い樹液が漆黒の繊毛を濡らすばかりに噴き上げて会陰部を伝わり、春太郎の操作する責具の上にまでしたたり流れてくる。
「そ、そんな乱暴ななさり方は嫌っ、痛いわっ」
と、夫人が舌足らずの悲鳴を上げると、
「じゃ、こうしてあげるわ」
と、夏次郎が再び、上層の花肉に突き立てた責具に手を触れさせてリズムをつけたように操作し始めた。
夫人の前門の肉襞は膨張して軟体動物のような粘っこさで深くえぐる筒具をギューと緊め上げ、奥深い吸引力を発揮し始めている。
「ね、こうすれば肛門の痛みなんか気にならなくなったでしょう」
夏次郎は静子夫人の狼狽ぶりを北叟笑んで見つめながらいった。
「ああっ、痺れるわっ、気が、気が狂いそうだわっ」
と、夫人が泣きじゃくりながら叫ぶと、夏次郎は息をつめてギラギラした視線を夫人の下腹部に向けている観客に向かっていった。
「ね、皆様。これでよくおわかりでしょう。肛門括約筋と膣括約筋は一つにつながる快楽源なんです。こうして後門を刺戟する事は前門の緊まりを一層、強くさせる効果があるんです」
すると、アナル棒の責めをくり返していた春太郎が、
「女っていいわね。殿方を悦ばせる穴がこうして二つあるんですもの。私達、おかまはそういうわけにはいかないわ。前の緊まりがよくなるなんて事、無理ですものねえ」
といって一座を笑わせた。
「ああ、いくわっ、ねっ、いっていいでしょう」
と、夫人が火のような喘ぎと一緒に口走ると、
「まだ、いっちゃ駄目よ」
と、夏次郎は責具の動きを再び、止めて、
「もう一つのお口を使う約束だったでしょう」
お客様にお願いしなきゃ駄目じゃないの、と夏次郎は叱咤するようにいった。
「いきたきゃ、お客様のものをしゃぶりながらいくのよ。私達がお客様の射精に合わせて奥様をいかせてあげるわ。私達ぐらいのベテランになればタイミングをぴったり合わせてあげられるわ」
と、夏次郎は得意げな表情になっていった。
さ、お客様におねだりしないか、と、夏次郎に強く催促された夫人は泣き濡れた眼をそっと開いて、
「ね、ど、どなたか、静子に♢♢」
と、わなわな唇を慄わせた。
「どうしたんだ。何がしてえのか、はっきりいわねえか」
と、川田が大声で叱りつけるようにいった。
「ど、どなたか、静子に咥えさせて下さいまし」
夫人が嗚咽に咽びながらひきつった声音を出すと川田が、よし、俺がその役、引き受けるぜ、といって一息にコップのビールを飲み乾すと腰を上げた。
「見物しているうちに何だか妙に体が火照って来やがった。奥様に一つ、貴任を持って頂こうじゃないか」
一発、抜かして頂くぜ、といって川田はズボンを脱ぎ、下半身を露出させると夫人の顔面に跨がるようにして腰を落とす。
「そら、俺のものをしゃぶるのは久しぶりだろ」
川田は股間の硬化した肉魂を夫人の花びらのような唇へ強引に押しつけた。
「こうすりゃ三所青めになるってわけだ。さ、しっかりと咥えな」
二度、三度、川田は硬直した生肉の先端で夫人の唇を小突くようにする。
夫人は長い睫を固く閉じ合わせながら舌先をのぞかせ、川田のその先端をチロチロと小刻みに舐めさすってから、怒張した肉塊を唇でくるんでしっかりと咥えこんでいく。
それを眼にした春太郎と夏次郎は二本の責具を操作して夫人の下腹部に対する責めを再開した。
「いきたかったら、川的さんに早く射精させるのよ。タイミングをぴったり合わせましょうよ」
春太郎はそういって夏次郎と呼吸を合わせながら淫靡な攻撃を開始した。押すと見せかけて引き、引くと見せかけて押して出る。二人のシスターボーイの巧妙な手管に捲きこまれ、煽られつつ夫人は口中に咥えこんだ川田の熱い肉魂を荒々しく吸い上げたり、狂おしくしゃぶり上げたりした。
「川田さん、射精しそうになったら私達に合図してね。奥様の方も仕上げにかかるから」
夫人の乱れ髪をもつらせた両頬に手をかけるようにして腰部を前後に揺さぶり始めた川田に向かって夏次郎は声をかけた。
「オーケイ。なるだけ早く御馳走してやるさ」
川田は明らかに夫人の唇を女性の性器と見なしてフウフウ息づきながら跨った両膝で体重を支えつつ、上下に腰を使って夫人の口を一途に責め立てている。
「如何が。これが三所責めよ」
春太郎と夏次郎は息をつめて凝視している見物人達に声をかけた。
「奥様のフェラチオもプロ並みになってきたわね」
と、春太郎はアヌス棒を深く浅く、押したり引いたりをくり返しながら川田の攻撃を受けて立つ夫人の顔面に眼を向けていった。
川田の腰使いに合わせるかのよう仰臥位の夫人は激しく下から顔面を前後に揺さぶっている。一気に川田を追い上げようとするかのように夫人は口中を性器にして揺さぶり、乳房をうねり舞わしているのだ。男根の発する男の性の匂いとその肉の味わいに夫人の官能の芯は抜き差しならぬ位に痺れ切っている。
やくざ連中に二つの乳房を指先で粘っこく愛撫され、シスターボーイ達に二つの羞恥の源泉を淫虐に責め立てられ、そして、川田の男根を口中深くに咥えさせられるという、この異様で痛烈な快感は果たしてこの世のものなのかと夫人は被虐性の妖しい快美感の中ですっかり自分を忘れ、のたうち廻っているのだ。
荒々しく鼻息を洩らして遮二無二、川田の肉塊を狂おしくしゃぶり抜き、窒息しそうな苦しさに耐えて喉にまで吸い上げた夫人は激しくむせてそれから口を離すと、ハアハアと熱っぼく喘ぎながら、
「お、お願い、川田さん、息がつまりそうだわ。静子を助けると思って早くお出しになって」
と、口走った。そんな言い方がおかしかったのか、夫人の下腹部を責め立てている春太郎達はゲラゲラ笑い出した。
「よしよし、仰向けのまんまじゃ苦しいだろうからな。早くお出しになってやるぜ」
と、川田は汗ばんだ額にからみつく夫人の乱れ髪を優しくかき上げて再び腰を沈ませた。
「さ、も一度、しっかり舌を使ってしゃぶり上げるんだ」夫人は荒々しく息づきながら、も一度唇を大きく開いて川田の怒張したそれを口中深くに咥えこむと自乗になったように頭部を前後に揺さぶり始めた。川田の射精を強要するような荒々しい唇と舌の愛撫を注ぎかけながら静子夫人は自分の体内に潜んでいた魔性がはっきりと表面に現われ出て来た事を知覚する。
春太郎達の巧妙な手管のくり返しで夫人の下腹部はもう官能の火照りで痺れ切っている。八合日から九合目にまで追い上げた二人の変質男は川田の自失とタイミングを合わせるためにわざと小休止して見物人と冗談口をかわし合っているのだ。
自分が先に自失すれば彼等はまたどんな難癖をつけるかわからない。夫人はあせりに似たものを感じながら淫婦になり切ったように激しく頭部を揺さぶってしゃぶり抜き、唇を緊めて強い摩擦を注ぎながら口の中で叫び立てた。
(さ、いって。川田さん。静子のお口の中で思い切りいって頂戴)
静子夫人のそんな思いが通じたのか、川田は息使いが荒々しくなり、後ろの春太郎達に向かって、そろそろ始めるぜ、と声をかけた。
「それじゃ、こっちも仕上げにかかるわよ」
と、春太郎達は二本の責具の操作を強め始めた。
川田は息をはずませながら自分を懸命に咥えこんでしゃぶり抜く夫人の上気した頬面をはっきりと上から見つめた。気品のある端正な顔面に乱れた黒髪をもつれさせ、紅潮した柔媚な頬を収縮させて自分のそれを必死に吸い上げている夫人を見下していると、かって自分はこの令夫人のお抱え運転手であったという事が信じられない思いがする。
「射精してほしいかい、奥様」
川田は懸命に唇と舌先を使って吸い上げる夫人の美しい顔面に見惚れながら声をかけた。
夫人は咥えこんだまま長い睫を閉ざしつつ、うなずいて見せている。
「早く出して下さらないと静子の方が先にいっちゃうわよ、と、奥様はいいたいのよ」
と、夫人の下腹部をいたぶる春太郎は頓狂な声を出して笑った。
「それじゃ、奥様のその気品のある美しい顔を見ながらこってりと気をやらせてもらうぜ」
川田は発射させるために腰部の動きを早め出した。
「いいな。発射しても口を離すんじゃないぞ。最後の一滴まで絞り尽すように飲みこむんだ」
咥えたまま夫人はうなずいたが、固く閉じ合わせた切長の眼尻から糸を引くような涙が一筋、流れ落ちるのを川田は見て嗜虐の悦びに全身を酔い痺れさせていく。
夫人は川田が自失する寸前にまで到達しているのを知覚すると粘っこい唾液を注ぎながら舌先をからませ、唇で雁首の根を強く緊め、狂気めいて顔面を上下に動かした。
「ううっ」と、川田は夫人の顔面を挟むようにしていた両膝の筋肉を痙攣させた。川田が自失した瞬間、夫人もまた二人のシスターボーイの追い上げによって白熱化した肉体を崩壊させたのだ。その瞬間、深々と突き立てられた筒具を上層の花襞は軟体動物のような粘っこさでギューと緊め上げ、奥深い吸引力を発揮し、同時に下層の菊座の蕾も異様な収縮力を示して深々と突き止てられたアナル棒を強く緊めつけるのだ。
夫人は川田の肉塊を深く口中に唾えこんだままで絶頂を極め、むせ返るようなうめきを洩らしたが、同時にその口中へ崩壊した男のおびただしい体液が流れこんで来る。一瞬、夫人はううっと窒息の苦しさに耐えながら美しい眉根をしかめ、狼狽気味に口中一杯に拡がる粘っこい男の体液を吸い上げるように喉へ流し入れた。こうした要領もすべて鬼源達のお仕込みによるもので、夫人は男の生血を吸い上げる魔女に化身して固く眼を閉ざしながらゴクリ、ゴクリと喉を鳴らせている。
絶頂を極めた肉体、その瞬間、男の体液を口中に受けた戦慄を伴う妖しい被虐性の快感、夫人は極彩色の雲の上に乗っかったような倒錯感と性の極限を味わわされたような気分を同時に味わっている。
川田は自分を吸いこむ夫人の妖艶さを増した顔面を息を切らせながら見下している。ねっとり汗ばんだ夫人の美麗な容貌には法悦境をさ迷うような恍惚とした一種の悲壮感が滲み出ている感じで、口の端から白濁の粘っこい涎を噴きこぼしながら喉を鳴らしつづける夫人を川田は痺れ切った気分で見惚れているのだ。
小夜子の受難
「まあ、そうなの、見物出来なくて残念だったわね」
しばらく座を外していた千代は田代や鬼源達と一緒に戻って来ると、たった今、静子夫人は三か所責めにのたうち廻り、川田の体液を口で吸いながら気をやったという報告を春太郎から受けて金歯をのぞかせて笑った。
そして、両肢を宙吊りにされたまま台上に仰臥位に縛りつけられている静子夫人の方に眼を向けた千代は冷酷そうな微笑を口元に浮かべ近づいて行った。
静子夫人は固く眼を閉ざし、半開きになった唇から熱い息を吐き、放心忘我の状態で放置されている。
春太郎と夏次郎はチリ紙を使って夫人の下腹部を拭っていたが、夫人は羞恥の感情などすっかり喪失したのか、けだるさの中に身を任せ、身動き一つ示さなかった。
「まあ、お尻の穴にまで流し出しているわ。奥様の愛液ってすごく量が多いのね」
春太郎達のそんな淫猥な揶揄を耳にしても夫人はためらいも羞ずかしさも示さなかった。その部分を彼等の手で念入りにチリ紙で始末されながら夫人はただ美しい眉根を辛そうに歪めるだけで虚脱の状態に落ち入っている。
千代はそんな静子夫人の顎に手をかけてぐっと顔を正面に向けさせた。
夫人は今、極めた異様な快感の余韻に浸り切るかのように千代に顔面を起こされても長い睫を固く閉ざしてかすかに息づいている。薄く閉じた夫人の唇の端からは川田の体液が一筋、流れ出てその優雅で端正な頼を粘っこく濡らしていた。
「充分に満足したって表情ね。男を咥えながら気をやって見せるなんて本当に奥様は見事な娼婦になって下さったわ」
千代はハンカチを取り出して夫人の唇の端から伝わる粘っこい白濁の涎を拭い取ってやる。ふと静子夫人は睫を薄く開き、ねっとりと潤んだ黒い瞳を夢見るように川田に向けた。妖艶さを帯びた夫人のその潤んだ瞳が千代の眼に向けられると忽ち夫人の顔面は汚辱の苦悩に歪み、さっと横に視線をそらせる事になる。
「何よ。気に入らないわね、その態度」
千代はむっとした表情になって静子夫人の横に伏せた顔面に手をかけて再び、正面に向けさせた。
そこへ銀子や朱美、それに義子達が甲高い声で笑いながら戻って来た。
「お前達、どこへ行ってたんだよ」
岩崎と酒を汲みかわして談笑していた川田は銀子達の方へ顔を向けた。
「小夜子嬢を別室に連れて行って調教のお手伝いをしていたんだよ。静子夫人のそんなむごたらしい調教を小夜子お嬢様に見せるのはかわいそうだからね」
銀子が後ろを向いて、
「もう終わったようだよ。入って来な」
と、声をかけると竹田と堀川が緊縛された素っ裸の小夜子の縄尻を取って部屋の中へ入って来る。
小夜子は身心ともに疲れ切ったようにがっくり前屈みになって首を垂れさせている。
すんなりと美しく均整がとれ陶器のように冷たい光沢を持つ小夜子の裸身はところどころにムチで打たれたような赤いアザが見られた。
「よ、お前達、調教してくれるのはいいが、大事な商売ものなんだからな。その美しい肌に傷をつける事は許さねえぜ」
と、鬼源は小夜子の自磁の裸身に薄紅いアザが滲んでいるのを眼にすると不機嫌そうな表情になった。
「膣圧計を使ってテストしていたのよ。駄々をこねるから皮バンドで少々、ぶってやったんだけど」
朱美は舌を出して、でも、大丈夫。お嬢様もやる気を起こしてくれたわ、と、鬼源にいった。
「丁度、いい所に来たわ。お嬢様に一寸、仕上げを手伝って頂こうかしら」
と、夏次郎はがっくりと首を垂れさせている小夜子の方を見て、次に千代の耳に口を寄せて小声でささやいた。
「そうね。奥様だってかっての愛弟子の手で調教される方が気が楽というものよ」
千代は意地の悪い微笑を口元に浮かべて夏次郎が紙袋から取り出したガラス棒を受け取った。
「これを使って奥様のお尻の穴を拡げるのよ。かなり調教ずみになっているからお嬢様に仕上げの役を受け持って頂くわ」
といって千代は先端の丸いガラス棒を小夜子の気品のある鼻先へ押しつけるようにした。
千代の持つそれに涙ぐんだ眼をふと向けた小夜子はぞっとしたように一歩、後ずさりして激しく首を振った。
「出来ないわっ、そんな事、絶対に出来ないわっ」
悲鳴に似た声を小夜子がはり上げると、小夜子の縄尻をつかんでいた竹田と堀川は彼女の黒髪をつかんで激しく揺さぶった。
「まだわからねえのか。お前さんは奴隷なんだぜ。御主人様の命令には絶体に服従するんだ」
竹田に大声で叱咤されると小夜子はその場に膝を落として号泣した。
銀子は台の上に両肢を宙吊りにされて晒されている静子夫人の方に近づいて行くと、
「奥様から小夜子嬢に説得してやるのよ。小夜子がこっちの命令に従わないと奥様と同じようにアナルセックスのための肉体作りをほどこす事になるのだからね」
可愛い愛弟子にそんな辛い思いをさせたくはないでしょう、と、銀子に耳元でささやかれた夫人はさも辛そうに美しい眉根をしかめるのだった。
こんな風に小夜子を説得するのよ、と、銀子は教示し、さ、やるの、やらないの、と、銀子は夫人の耳をつまんで強く引っ張った。
静子夫人は名状の出来ぬ哀しげな表情になったが、再度、銀子や朱美達に催促されて決心したようにねっとり涙を滲ませた瞳を開いた。
「ねえ、小夜子さん」
膝を落として、よよと泣き沈んでいる小夜子に夫人は声をかける。
「小夜子さん。この人達のなさろうとしている事にさからってはいけないわ。貴女も私も奴隷なのよ。さ、小夜子さん。勇気を出して静子を調教して、ね、お願い」
夫人の哀切的な誘いの声を耳にした小夜子は狼狽気味に顔を起こした。
義子が後ろへ廻って小夜子を後手に縛った縄を解きにかかった。
「ピンポン玉が二、三個、呑みこめるまで奥様は調教されんならん。ピンポン玉の次は卵、卵の次は男の玉や」
義子は笑って緊縛を解かれた小夜子の陶器のように白い両肩に朱美と一緒に手をかけ、強引にその場に立ち上らせた。
呵責の残り火に未だ全身を波打たせていた静子夫人だったが、小夜子がズベ公達に強引に引き立てられて来ると翳りの深い哀切的な視線をおろおろしている小夜子に向けた。
「小夜子さん、もう私達は人間の感情を持つ事は許されないのよ。この地獄の底で生き抜く事だけを考えなければならないのよ。ね、わかって頂戴」
夫人が説得するようにそういうと、春太郎と夏次郎は外れていた膝枕をも一度、夫人の双臀の下へ押しこみ、その傍らへ小夜子を近づかせる。
「まず、奥様のここをはっきり御覧になるのよ、お嬢さん」
夏次郎と春太郎は夫人の双臀に左右から手をかけてその内則の陰微な小孔を小夜子の眼前にはっきり晒させた。
夫人のその微妙な皺で縁どりされた小菊は柔らかく膨張してじっとり濡れ、蕾は割れてはっきりと穴口を開いている。
それを眼にした小夜子はハッとしたように狼狽気味に視線をそらせた。見てはならぬものを見たように小夜子は戦慄してガクガク全身を慄わせている。それを小気味よさそうに見た夏次郎は、
「ね、さっきまでアナル棒で充分に責め立てたからかなり口を開いた感じでしょう。でも、これ位じゃまだ不充分。男を呑みこめるまでにはもう少し、鍛えが必要だわ」
協力してくれるわね、と夏次郎がいうと千代は小夜子の手に試験管のようなガラス棒を握らせた。
「お嬢様と奥様はもう普通の関係ではなく、レスビアンの情も通じあった間柄でしょう。これ位の事、出来ない筈はないわね」
お嬢様の手で調教される事を奥様も願っておいでよ、と、千代がいって笑うと、銀子もつられて笑いながら、
「そう。愛する小夜子の手で調教してもちうなら、うんと穴を開いて見せると奥様からおねだりなさっているのよ」
と、からかうようにいうのだった。
別にむつかしい事ではなく、そのガラス棒を抜き差しさせて風通しをよくするだけじゃないの、と、いって銀子は追いやるように小夜子の白磁の肩先を押した。
「出、出来ないわ。とても、そんな事、小夜子には出来ないわ」
小夜子はおびえ切って夫人の晒されたその部分から必死に視線をそらせるのだ。
千代は台上につながれている夫人の耳に口を寄せ、
「小夜子嬢にあなたの二の舞いをさせたくないのなら、口説いたり、説得したりしなきゃ駄目よ」
と、含み笑いをしていった。
静子夫人は激しく泣きじゃくる小夜子に向かって声を慄わせながらいった。
「♢♢お願い、小夜子さん。静子の頼みを聞いて。でないと、静子、貴女が嫌いになるかも知れないわ」
小夜子はふと驚いたように顔を上げた。
自分を庇うために更に汚辱の底に身を沈ませようとしている夫人の心中を察して小夜子の嗚咽の声は昂るばかりだが、
「ね、小夜子さん。ぐずぐずしているとまた皆さんに叱られるわ。さ、勇気を出して静子に調教して。ね、お願い」
と、再度、静子夫人に声をかけられると小夜子は悲壮な決心をしたように涙を振り切って夫人の下腹部に身を寄せていった。
「先生っ、許してっ」
小夜子は宙吊りにされた夫人の太腿の一つに額を押しつけ、
「私、悪魔になって先生を責めるわ。小夜子を恨まないで」
と、嗚咽の声と一緒に口走ると、
「貴女にこんな事をさせる静子こそ、恵魔よ。恨まないでね、小夜子さん」
と、静子夫人は仰向いたままで深い哀しみを湛えた瞳をそっと開き、むせぴ泣くような声音で小夜子に詫びるのだった。
「そうそう、そんな風に仲よくやってくれりゃいいんだ」
と、鬼源のガラガラ声が響いた。
「小夜子がまごつかねえように静子がリードしてやるんだぜ」
と、鬼源に声をかけられた夫人はうなずくようにして、
「それじゃ、小夜子さん、静子のいう通りになさって頂戴」
と、枕に乗せられた双臀の下へ身をずらせ始めた小夜子に低い声音でいった。
「まず、そこへコールドクリームをたっぷり塗ってほしいわ」
クリームの瓶が春太郎の手から小夜子に手渡された。小夜子は自分に残忍な気持をけしかけながら白魚のような白い繊細な指先にクリームを掬いとる。
「こうするの? ね、先生」
小夜子は、柔らかくすりこみつつ、おろおろした声を出すのだ。
「嫌っ、もう先生なんていわないで。姉さんと呼ぶ約束だったでしょう」
静子夫人は、かっての日本舞踊の愛弟子であった小夜子の指先を感じつつ、次第に凄艶な表情になっていく。
「♢♢もう充分だわ。さ、始めて頂戴」
上ずった声でそういった静子夫人は、美しい眉を寄せ、切なげに眼を閉じ合わせた。
慄える手で小夜子が浣腸器を寄せると、静子夫人は、唇を血が出る程、かたく噛みしめて、さも羞ずかしげに熱くなった頬を横へそらせるのだ。
「♢♢駄、駄目よ、小夜子さん。もっと力を入れて、ねえ、小夜子さんったら♢♢」
静子夫人は、慄えるばかりで力の入らぬ小夜子の仕事をじれったがり、鼻を鳴らして、さも口惜しげに体を左右へ揺さぶるのだった。
見物人達は、どっと哄笑する。
千代も和枝や葉子と肩を叩き合って笑いこけているのだ。
「ホホホ、如何、奥様。日舞のお弟子さんだった小夜子嬢にこんな事をされる御気分は?」
と、千代がからかえば、川田は小夜子に向かって、
「どうでい、踊りのお師匠様を調教してあげる気分は。へへへ、そうもたつかず、しっかりやりな」
踊りの美しい師匠を踊りの美しい弟子が浣腸している♢♢千代は、葉子に注がれた酒を口に含みながら、ふと、小夜子が踊りの名取りになった時、その盛大な披露会の席で、保名を踊った静子夫人の艶姿をぼんやり思い出すのであった。野辺の春草を素袍袴で踏み、狂い狂い舞台へ現われた保名に扮した静子夫人の水のしたたる美しさ。会場の視線を一斉に受けて美しく静かに舞いつづけたあの静子夫人は、今ここに、やくざやゴロツキの視線を一斉に受けて♢♢そう思うと千代は、再び胸を突き上げて来るような笑いに耐えかねて、懊悩の極にある夫人の顔の近くへ身をすり寄せて行く。
「今ね、奥様。私、小夜子嬢の名取り披露会の日のことを思い出しましたのよ。あれは、新橋の会場で、奥様は、たしか保名を踊られたわね。すばらしかったわ。観客が奥様の美しさに皆んな溜息をついていたみたい」
千代が、そんな事を楽しそうにいって聞かせると、夫人は、脂汗の滲んだ美しい富士額を苦しげに歪めて、唇を慄わせるのだ。
「♢♢もう、もう以前の事はおっしゃらないで、後生でず。こんな仕打ちを受けている静子に、あ、あんまりです」
そういって顔をそらすのと同時に夫人は、シクシクと、さも悲しげにすすり泣きを始めたが、
「ま、いいじゃないの。そこにおられる和枝さんは、今、浄瑠璃を勉強されているのよ。奥様十八番の保名を一寸語って頂くわ」
すると、和枝は、その場へ坐り直して、心地よさそうに、しねしね顔を動かせるのだ。
♢♢岩せく水とわが胸に くだけて落つる涙には
かたしく袖の片思い♢♢
静子夫人も小夜子も、ねじるように顔をそむけ合って、消え入るような、細いすすり泣きを始めている。
「あら、ごめんなさい。お二人に昔の事を想い出させてしまったようね。私は、何も悪気で保名を語ってもらったのじゃないのよ」
千代は、そんな事をいってクスクス笑い、
「さ、続けて頂戴」
と、小夜子のスベスベした肩を叩くのだった。
小夜子は、そんな千代に対する慣怒を夫人へぶつけるかのように、ふと自棄になって、形のよい唇を噛みしめ、再び、夫人に立ち向かったのである。
夫人は、大きく呻いて、艶やかで柔媚な、うなじをはっきりと見せる。
「ああ、小、小夜子さん」
夫人は、苦痛とも快楽ともつかぬ表情を示して、ブルブル慄わせた。
「お姉様っ、許して!」
小夜子は、激しく泣きながら更に力を入れて♢♢。
「許してほしいのは静子の方だわ。こんな、こんな事を貴女にさせるなんて、ああ♢♢」
小夜子が思い切ってガラス棒を差しこむと夫人のそこの筋肉は微妙な収縮を示してギューとそれを喰いしめた。
「♢♢お姉様っ」
「♢♢わ、笑わないで、笑っちゃ嫌。小夜子さんっ」
静子夫人は、優雅な涕泣を洩らしながら、ゆっくりと双臀をくねらせて、自分の方から引きこもうとする。
粘着力のある深い吸引力は調教によって夫人が身につけたものであろうけれど、そのまるで軟体動物のような収縮を示して小夜子を驚かせるのである。
第六十七章 哀愁の美花
敗残の涙
衆人環視の中で静子夫人と小夜子の調教ショーは開始されている。
この一種異様なムードの中にどっぷり浸り切った見物人達は揃って息を殺し、ギラギラ光る視線を一点に注ぎこんでいるのだ。
「ねえっ、小夜子さん。手加減なさらなくてもいいわ。もって激しく動かせて」
ハアハアと熱っぼく息づきながら静子夫人はねっとり脂汗を滲ませた額を歪めて小夜子に声をかけている。
まるで小夜子に励ましの声をかけているようで、千代と銀子達は顔を見合わせて笑い出した。
「奥様のそこも前と同様に名器に仕上げるんだからな。しっかり磨きにかけるんだ。頼むぜ、小夜子嬢」
といって川田は哄笑した。
「そうして差しこむだけじゃ駄目よ。えぐるように突っこむのよ」
と、銀子達はハッパをかけ合うように小夜子に声を浴びせた。
「お姉様、痛くないの、ね、大丈夫なの」
小夜子はズベ公達に侮られるままガラス棒で強く掻き立てるようにしながらおろおろした声を出した。
「大丈夫よ。小夜子さん」
夫人はキリキリ奥歯を噛みしめて耐えながら菊花の軟化した筋肉を収縮させて喰いしめると共に吊られた官能味のある両腿と双臀を上下に揺さぶるようにして責具を更に奥へ引きさらおうとする。
「でも、こんな事を貴女にさせるなんて、静子、死ぬ程、羞ずかしいわ」
そう口走った静子夫人は嗚咽しながら真っ赤に火照った頬を右に左によじらせ、しかし、そこは小夜子の貫めに呼応するかのように双臀を弧を描くようにうねらせている。そうした夫人の甘い身悶えは見物人達の官能を刺戟するための意識的なものかも知れない。この露骨なショーを演じ抜くために夫人も小夜子も共に没我の境地に入っていたのだ。
鬼源が紙箱に入ったピンポン玉を持って来て無雑作にそのあたりに転がせている。次にあんなものを冗談ではなく夫人に含ませる気だと思うとふと小夜子は背すじに冷たい汗が流れるのだ。
「ね、小夜子、そのあたりで奥様の舌を吸ってあげなよ。そんな事してあげるのも痛み止めの妙薬になるんじゃない」
銀子は小夜子の白磁の肩先を後ろから揺さぶるようにしていった。
小夜子は銀子の言葉を耳にすると放心したような表情になり、吸い寄せられるように夫人の上半身にフラフラと身を寄せつけていく。
「お姉様」
「ああ、小夜子さん」
夫人と小夜子は荒々しい哀しさをぶつけ合うように顔面を重ね合わせ、唇と唇を強く触れ合わせた。
貪るように舌先と舌先をからみ合わせて互いに強く舌を吸い合う夫人と小夜子を眼にした銀子達は手を叩いてはやし立てた。
双臀の奥深くに尻尾のようにガラス棒を突き立てたままで小夜子に舌を吸われている夫人がズベ公達の眼には痛快なものとして映じるのだ。
鬼源がついと立ち上って夫人の下腹部に近づいていく。
平手でぴしゃりと夫人の双臀を叩いた鬼源はガラガラ声でいった。
「自力でこのガラス棒を吸い上げてみな。肛門を収縮させて強く緊めてみろ。ここだってそんな芸が出来るって事をお客様にお見せするんだ」
すると、吸い上げるまでには至らなかったが、深々と差しこまれたガラス棒はその紡肉の強い収縮によってヒクヒクとわずかながら痙攣し、銀子達は大口を開けて笑い出した。
「小夜子に舌を吸われながら括約筋を気分よさそうに収縮させて見せるのだからもう奥様は完全にプロだわ」
夫人の両頬を両手で押さえるようにしながら夫人とぴったり唇を重ね合わせ、狂おしく舌を吸い合っていた小夜子は鬼源に再び、引き戻されてガラス棒の操作をくり返す事になる。
「もっと強く小刻みに突きまくるんだ。これから奥様のそこへピンポン玉を幾つもつめこむんだぜ。充分に穴を拡げておかなきゃ、後の調教がやり憎いってものだ」
鬼源にいわれて小夜子は自棄になったように激しく責具を使い始めた。
夫人は艶やかなうなじを大きく見せて、ううっとうめき、小夜子の激しい攻撃に合わせるかのように荒々しく喘ぎながら双臀を狂おしく揺り動かす。
「ああ、小夜子さん、笑わないでっ、笑っちゃ嫌よ」
と、夫人は切れ切れの声で哀願するように口走った。それは上層の花弁が再び溶け潰れておびただしい樹液のしたたりを夫人が知覚し、それを詫びるように小夜子に伝えているのだろう。
「羞ずかしいわ、こんな姿を貴女に見られるなんて、静子、死ぬ程、羞ずかしいわ」
夫人は唇をわなわな慄わせながら上ずった声音でいった。
小夜子はすっかり倒錯した気持になり、もう押さえがきかなくなったように宙に向かって開いた夫人の両腿の附根にいきなり顔面を沈ませていった。
「ああっ、そんな、駄目、小夜子さん」
小夜子の舌先がその熱い粘膜の内側に喰い入るように侵入した事に気づいた夫人はつんざくような悲鳴を上げた。
「お姉様一人に羞ずかしい思いをさせないわ。私だってこんな羞ずかしい事が出来るのよ」
小夜子は夫人の繊毛を濡らすばかりに噴き上げて来る樹液を舐め尽くすかのように舌先と唇を激しく使い出している。
「小夜子もなかなかやるようになったじゃないか」
と、鬼源は銀子の方に眼を向けていった。
「私達のお仕込みがよかったからよ」
と、銀子は得意そうにいった。
「よし、それ位でいいだろう。後はこっちの方のプロに任せな」
と、鬼源は小夜子の滑らかな肩先を両手で押さえるようにして行為を中断させた。
夫人の下腹部から顔を上げた小夜子はフラフラと足元をよろめかせて床の上に坐りこんだ。静子夫人も真っ赤に上気した顔面を横に伏せて虚脱したように眼を閉じ、肩先で息づいている。
「御苦労だったわね、小夜子。これで後の仕事がやりやすくなったわ」
と、春太郎は茫然となっている小夜子を見下していった。
「次はこういうものを奥様に入れるのよ」
春太郎は指につまんだピンポン玉を小夜子の眼に示してから夏次郎と一緒に再び、夫人の下腹部へ左右からつめ寄り、深々と突き立っているガラス棒をゆっくりと抜き取った。ガラス棒に薄く血が付着していたが、ふとそれを眼にしても春太郎達は冷淡な表情で、
「普通ならもっと出血するんだけど、これ位ですんだというのは奥様の心掛けがよかったからね」
などといってその赤く膨張した菊座の部分に薬液を素早く塗りこみ、その後、脱脂綿を使って軽く揉み始めている。それは腕のいい料理人が魚を扱っているようなテキパキした仕事ぶりを感じさせるものだった。
「こうして両肢を吊られっ放しじゃ、さぞ疲れたと思うけど、ピンポン玉を三つ位、呑みこめるまでは許してあげられないわ」
春太郎がそういって夫人のその部分にまた潤滑油のようなものを塗りつけ、すぐにその作業にかかろうとすると、千代が、
「その前に一寸、奥様に報告しておく事があるわ」
といって眼を閉じたまま熱っぼく息づいている夫人の優雅な横顔に眼を向けるのだった。
「千原流生花の御令嬢の事よ。千原流の後援会長の折原珠江と千原美沙江、この二人は奥様がこうして熱演して下さる事の代償として誘拐はしないと約束しましたわね」
千代のその言葉に何となく不気味なものを感じとって静子夫人は睫を開いた。
「ところが田代社長の気が変って大塚順子女史の依頼を承諾しちゃったのよ」
悪いけど、その御両人、もうこちらの網にかかってこの屋敷に監禁されちゃっているわ、と、千代がいうと、
「な、何ですってっ」
と、静子夫人の顔面からは血の気が引き、頬のあたりは恐怖でひきつったようになった。
「千代さん、あれ程、固く私と約常しておきながら♢♢」
静子夫人は憎悪の色を滲ませた瞳で睨むように千代を見つめ、口惜しげに唇を噛みしめるのだ。
「まあ、こわい顔。でも奥様のような美人の怒った顔なんて振るいつきたい程、色っぼく見えるものね」
と、千代は笑い出している。
「でもさ、こんな風にお尻の穴までポッカリ晒しながら怒ったり、おねだりしたって様にならないじゃないの」
といって千代は腰枕を当てられた夫人の双臀を平手打ちして笑いこけた。
恨みとも呪いともつかぬものが憤怒と屈辱にあえぐ夫人の胸元に熱っぼくこみ上げてくる。
「千代さん、川田さん、卑怯だわ。あなた達は最初から家元のお嬢さんを誘拐する気だったのね」
静子夫人は耐え切れず、乱れ髪を激しく揺さぶって号泣した。
「折原珠江は医学博士夫人で奥様とは古いお友達だそうじゃありませんか。静子夫人に珠江夫人。仲間が一人増えれば楽しいじゃない」
「よ、よくもそんな事が♢♢」
静子夫人は千代のその言葉に戦慄めいたものを感じて一層、激しく身をよじらせて口惜し泣きするのだった。
「さ、もうそんな事はさらりと忘れて、玉入れを始めましょう。捨太郎さんのお相手も充分に出来るような見事なお尻の穴に仕上げてあげるわ」
春太郎はそういって夫人のそこへピンポン玉を強く押し当てた。
「ああ、折原家の奥様を家元のお嬢様までが♢♢、恐ろしい事だわ、そんな恐ろしい事が♢♢」
夫人はうわ吉のように口走り、次にその部分へ玉が埋めこまれる苦痛に汗ばんだ額を辛そうにギューとしかめた。
千原美沙江達だけは彼らの餌食にしたくはないと汚辱の調教を受け入れたが、結局は悪魔達に裏切られ、その悲痛さの中で更に汚辱の極致に追いこまれるこの口惜しさ。夫人は狂乱しそうになる自分に必死に耐え、大粒の涙をしたたらせながら春太郎と夏次郎の巧妙な手管によって陰微な菊座を割り、徐々に白球を呑まされていくのだ。
「何とかうまくいきそうよ。半分位入ったのだから、あともう一がんばり」
春太郎と夏次郎はわずかに白の半球をのぞかせるだけとなったそれを粘土細工でも楽しむように指先で押しつづけ、ようやく一個を埋没させると歓声を上げるのだ。
捨身の脱走
千原美沙江と折原珠江は、田代が時折、秘密会員達を集めてショーを開催することになっている土蔵の地下に監禁されていた。その土蔵は、かつて、静子夫人や京子が、満座の中で触りぬかれ、美津子や文夫が血を吐く思いで実演を強制された場所である。
田代は、この土蔵の地下にショーに出演する奴隷のための楽屋という意味で、二つの牢舎を新築させていたのである。二つとも、五坪ぐらいの広さ、床は板の間になっているが頑丈な鉄格子で外とは隔離されている。
その一つの牢舎に美沙江と珠江夫人とは一緒に監禁されている。ここへ押しこめられてから、もう二、三時間はたったようだ。二人とも縄は解かれていたが、生きた心地もなく美沙江は、珠江夫人の膝に顔を埋めて、恐怖に肩を慄わせているのだった。「おば様、私達、無事にここから帰れるのでしょうか。ね、おば様」
美沙江は悲痛な表情で、珠江夫人の膝を揺さぶるのだ。
「今日一日の辛抱ですわ。お嬢様。あの連中は千原流の今日の会を妨害するのが目的なんです。お嬢様の身に危害を加えるようなことはありませんわ」
珠江夫人は、おびえ切っている美沙江にそんな風にいってなだめたが、珠江夫人も恐怖と不安でじっとしていられない気持だった。
「遠山の奥様がここにおいでになるのは本当なのでしょうか」
美沙江は、美しい睫を慄わせながら、珠江夫人を見上げる。
「さ、それは♢♢」
掛江夫人は、深い憂愁の色を白い繊細な眉のあたりに浮かべて、苦しそうな表情を見せた。
急に誰かが地下の揚戸を音を軋ませて持ち上げ始める。
珠江夫人と美沙江は、ハッとして、手をとり合った。心臓の音が早鐘のように二人の胸を打つのだ。
地下の階段を何人かの足音が降りて来る。珠江夫人と美沙江は、体を寄せ合うようにし牢舎の隅へ後ずさり始めた。
降りて来たのは、大塚順子で、その後に川田と吉沢が用心棒のようについている。
珠江夫人は、順子を見ると、憤怒の色を燐光のように瞳の底に滲ませ、弱身を見せては負けだとばかり、落ちついた口調でいった。
「何時、私達をここから解放して下さるのです。はっきりおっしゃって下さい」
さあ、どうしようかねえ、といいたげに順子はおかしそうに川田と吉沢の方を見て、
「おとなしくして下さるなら、決して悪いようにはしないわ」
順子は、そういって、煙草を取り出して口にする。
「ただし、俺達が解放するまでに下手にあがいて、ここから逃げ出そうってことをしゃがりゃ、只じゃおかねえからな。二人とも、二度とそんな気が起こらねえよう素っ裸にするぜ。よく覚えておきな」
吉沢が、腰をかがめて、牢舎の中をのぞきこみながらいった。
吉沢のそのおぞましい言葉に、珠江夫人と美沙江の顔から血の気がひく。
順子は、小気味よさそうに二人の美女をしばらく見つめていたが、川田達に、
「じゃ、しばらくお二人のおもりを頼むわ。お二人とも退屈で、体をもてあましていると思うから、何かお話し相手にでもなってあげてよ」
順子は、そういって、地下から出て行こうとする。
「待って下さい」
美沙江が気弱そうに睫をふるわせながら、順子に声をかけた。
「何なの? お嬢さん」
「遠山家の奥様は、本当にここにおいでになるのですか。ね、事実を教えて下さい」
「いらっしゃるさ」
と川田と吉沢は顔を見合わせて笑った。
「すっかりここが気に入っちまって、もう外へは出たくないとおっしゃるんだよ。俺達の待遇が余程お気に召したようだぜ」
「嘘ですっ」
珠江夫人が柳眉を逆立て、急に激しい声を出した。
「どうして遠山家の女中であった千代さんがここにいるんです。それだけじゃないわ。遠山家の運転手であった川田さんまでが、どうしてここへ」
川田は、自分の事をはっきり記憶していた珠江夫人に冷やかな視線を向けた。
「俺の事を覚えていたのかい。奥さん」
「貴方と千代さんが、共謀して、遠山家の奥様をここへ監禁したのね。きっと、そうに違いありません」
珠江夫人は、怒りに美しい眉を神経質にぴりぴり震わせ、顔色は青かった。
「そこまで読まれちゃ仕様がないな」
川田は苦笑した。
じゃ、後はよろしく、と順子が意味ありげな微笑を残して地下から出て行くと、川田は、ふと口元に凄味を浮かべて、鉄格子から珠江夫人を見つめた。
「こうなりゃ奥歯にもののはさまった言い方をしたって仕方がねえ。はっきりと教えてやるぜ」
川田は、ポケットから、何枚かの写真を取り出し、せせら笑うとそれを無雑作に鉄格子の中へ投げこんだ。
「よく見な。それが遠山家の奥様の近況だ」
珠江夫人は投げこまれたその一枚に手を触れたが、瞬間、あっと声をあげ、さっと首を横へそむけた。珠江夫人の顔も頬も、みるみるうちに真っ赤に燃え上る。そしてそれを美沙江の眼に触れさせてはならぬとばかり、あわてて拾い集めると珠江夫人は、憤怒に眼をつり上げ、川田めがけて投げたのだ。
「何をしやがる」
と、吉沢が凄んだが、川田は、自分の顔に当たって散乱した写真をゆっくりと拾い集めながら、ニヤリとして、
「どうだい。これで大体、遠山夫人の日常がわかったと思うぜ」
と、その一枚を手にし、「これなんか、中々よく撮れてるじゃねえか。そら、お嬢さんよく見てみな」
と、鉄格子の聞から、それをもう一度差し入れようとする。
「見ちゃいけませんっ、お嬢様」
珠江夫人は、美沙江の顔を袂で覆うようにして牢舎の隅へ身をかがませるのだった。
「一体、何の恨みがあって、このようなひどい事を♢♢」
珠江夫人は、あまりの恐ろしさに全身の慄えは止まらず、しかし、精一杯の憎悪をこめた瞳を川田に注いでいった。
「へへへ、ひどいといったって、遠山家の奥様は案外、こういう風な事がお好きなようだよ。満更でもねえ顔つきしてるじゃねえか」
川田はそういって、手の中の写真に眼を向ける。それは、三階の広間で、満座の中で捨太郎と実演を演じた静子夫人のみじめな姿であった。均整のとれた優美な身を緊縛され、しかも一本のロープにつながれて立ち、後ろより捨太郎の攻撃をまともに受けている。夫人の豊満な胸には、背後にまといつく捨太郎の毛むくじゃらな両手が襲いかかり、その上、夫人の姿は背後の捨太郎を見事に受け入れたことを示しているのだ。それだけではなく夫人は、首を仰向かせるようにねじって、背後の捨太郎の醜悪な唇にぴったり紅しん唇を押しつけている。
「こうした写真は、この道の玄人も舌を巻いたぜ。何しろ、縛り上げた女とのからみってのも珍しいが、これだけの美人スターは、何百万、積んだって手に入る代物じゃねえからな。大変なプレミヤがついて飛ぶような売れ行きさ」
川田は得意な調子で、そんな事をいって愉快そうに笑った。
珠江夫人と美沙江は、身を寄せ合い、深く首を垂れて、もう二言も発せず、恐怖と屈辱に全身を硬化させているようだった。
玄人好みの渋い和服を着た珠江夫人の襟元の艶めかしさ、眼もさめるような振袖姿の美沙江の見事な黒髪。そして、妖しいまでに高貴な感じに満たされた白蝋のように色白の三人の横顔を見つめているうち、川田の全身に兇暴なものがわき上って来た。珠江夫人の悪を徹底して憎む気性の激しさといったものに、ムラムラと闘志のようなものがこみ上ってきたのかも知れない。
「吉沢兄貴は、お嬢さんの方がいいだろう。俺は人妻が気に入った」
川田は吉沢の方を見て片眼をつぶると、ポケットから鍵を取り出し、鉄格子の錠前に差しこんだ。
珠江夫人と美沙江は、ハッとして顔を上げる。
「どうせお前達は森田組の商品になるんだ。ちっとばかり、俺達にいい思いさせてくれたって、大した事はねえんじゃねえか」
吉沢は扉を開けて、中へ入って来ると、淫靡な笑いを口元に浮かべて、美沙江に迫る。
美沙江の絹を裂くような悲鳴。
「な、何をなさろうというのです」
珠江は、美沙江を後ろにかばって、吉沢と川田に必死な眼を向けながら、ジリジリ後退して行く。
「奥さんの方は俺が可愛がってやるぜ。さ、来な」
川田は、珠江の手を取ろうとする。
「け、けだものっ」
珠江は、川田の手を払いのけ、美沙江の手をつかむと、牢舎の外へ逃げ出そうとした。
「そうはいかねえぜ」
吉沢が後ろから、美沙江の振袖の挟をつかむ。
「あっ、嫌っ」
吉沢にからみつかれた美沙江が再び悲鳴をあげた。振袖の裾前が大きく割れて、淡い緋色の蹴出しがさっとひるがえる。美沙江の襟をとってその場へ引き据えようとした吉沢の鼻を伽羅の甘い香りがくすぐり、それで一層、狂暴さを発揮した吉沢は亀甲くずしの帯地に手をかけた。
珠江夫人は、美沙江をかばおうとしてその中に割って入り、吉沢に体を当てる。
「この阿女」
吉沢は、はずみを喰って、後ろにいる川田の足にけつまずき、尻もちをついたが、その時、ジャンパーのポケットへ押しこんでいた拳銃が床の上へ転がり落ちたのである。
ハッと珠江夫人は、息をのんだが、すばやくその拳銃を拾い上げた。
「あっ」
と、吉沢も川田も顔色を変えた。
珠江夫人がいきなりこちらへ拳銃の銃口を向けたからだ。
「動かないで、私だって、命がけになればこの引金ぐらいひけますわ」
珠江夫人は、大きく肩で息づきながら、両手で拳銃を握りしめ、川田と吉沢に銃じを向けている。出ようによっては、本当に引金をひきかねない珠江夫人の凄惨なばかりの表情に川田も吉沢も、慄えてジリジリ後退するのだった。
しかし、身を守るため、必死な思いで武器を手にしたものの珠江夫人の手はブルブル小刻みに震えている。
それを見てとった川田が、口元を歪めて、
「俺達に楯つきゃあ、あとで大変な目に合うぜ。さ、そんな物騒なものはこっちへ寄こしな。その方が身のためだ」
「近寄らないでっ」
珠江夫人は、二人の男に銃口を向けながら美沙江の手をとって、牢舎の扉をくぐり外へ走り出た。
「お嬢様、さ早く」
珠江夫人は、恐怖にわなわな慄えている美沙江を叱咤するようにして地下の階段をかけ上って行くのだ。
「くそっ、ここから逃げられるとでも思ってやがるのか」
川田と吉沢も、必死な形相になって、二人の後を追って行く。
土蔵の外へ走り出た珠江夫人と美沙江は、右につまずき、つんのめりそうになりながら竹薮の中へ走りこんだのだ。
「ああ、おば様。もう、私、走れないわ」
美沙江は、苦しげに息をはずませて、うずくまってしまう。
「駄目ですわ。ね、お嬢様、元気を出して」
珠江夫人は、がっくりくずれてしまった美沙江の肩を揺さぶった。
「畜生、あんな所にいやがったぜ」
すぐ眼と鼻の先へ現われた川田を見た珠江夫人は、ドキンとして、銃口を向けた。しかし川田は、せせら笑って、突き進んで来る。
珠江夫人は、ハッとして反射的に引金を引いた。
轟音一発。川田は、手の甲を押さえて、その場へ跳ね飛ぶようにひっくり返った。
「あっ」
と声を出したのは、川田より珠江夫人の方であった。恐怖のあまり思わず引金をひいてしまったのだが、拳銃の発射音に驚き、その場に脆いてしまう。眼がつり上って口がきけなくなってしまった。
「畜生、よくもやりやがったな」
運よく弾丸は、手の甲の表皮をかすっただけであったが、それでもかなりの血が流れ、川田は大仰な悲鳴をあげて、その辺をのたうち廻るのだった。
吉沢がかけつけて来て、そんな川田を助け起こす。
「しっかりしねえか。大した傷じゃねえ」
と、川田の手を首にかけて、一旦、竹薮の外へ運び出す。
「女でも死物狂いになりやがると恐ろしいからな。ここは皆んなに応援を頼もうぜ。この竹薮を取り囲むんだ」
と吉沢はいって、川田の手に血止めの手枕をかたく結びつけると、
「よく見張ってるんだぜ」
といい捨てて、屋敷の方へ走って行く。
川田は、いまいましげに舌打ちして、竹薮の中に向かっていった。
「覚えてろよ。今度とっ捕まえたら最後、只じゃおかねえからな。覚悟していろ」
そんな川田の声を竹薮の中程で珠江夫人と美沙江は、互いにひしと抱き合ったまま虚脱した表情で聞いていた。
人を殺さずにすんだということに珠江夫人の心は救われたものの、傷を負わされた川田はどのような報復手段に出るか知れたものではない。それを思うと珠江夫人も美沙江も生きた心地はなかった。
「おば様、美沙江を生きたままあの恐ろしい人達の手に渡さないで。いっそ、美沙江をここで♢♢」
美沙江は、泣きじゃくりながら、珠江夫人の手を握るのだった。
「何をおっしゃるの。お嬢様の身は、私が命に代えてもお守りしますわ。そんな弱気な事をおっしゃっちゃいけません。それより、何とかしてここから逃げなければ♢♢」
珠江夫人は、美沙江の肩に手を添えて立ち上らせようとする。美沙江も歯を噛みしめて体を起こしたが、先程つまずいた時に足をくじいたらしく、三、四歩、土の上を自足袋で踏みしめて歩いたが、耐え切れなくなったように再びかがみこんでしまうのだった。
第六十八章 地下の花々
暗い部屋
再び、土蔵の地下へ珠江夫人と美沙江は森田や吉沢に肩を押され、背を押されながらよろめくようにして入って行く。その後から田代が井上と川田を従え、ゆっくり階段を降りて来たのだ。
「あれ程、お願いしたじゃありませんか。今日一日おとなしくして下さらなきゃ困ると」、田代はニヤニヤ口元を歪めて、血の気を失った二人の美女を楽しそうに見つめている。
珠江夫人と美沙江は実際、生きた心地はなかった。無我夢中で吉沢の拳銃を奪って逃げ、襲いかかって来た川田に恐ろしさのあまり、思わず発砲したが、命に別条はなかったというものの手傷を負わされた川田はどんな報復手段に出るかも知れない。それを思うと肌に粟粒が生じる思いだった。しかし田代は、わざとらしく慇懃な口調でしゃべりつづける。
「奥様とお嬢様みたいな美人を見ると男がムラムラと変な気を起こすのは当然ですよ。それを拳銃でこらしめるなんて、ちょっと、ひど過ぎやしませんか」
「でも♢♢」
珠江夫人は、ぐっと憤懣をこらえ、柳眉を上げて田代を見た。
「無体な真似をなされば、女は死物狂いになるものですわ」
冷たいくらいに硬く引き緊まった珠江夫人の美貌を田代はしげしげと見つめていたが、そうした強い言葉が彼女の口から出ると、
「ま、とにかく、こんな真似は二度として貰っちゃ困ります」
といって、吉沢に二つ並んだ牢屋の扉を両方とも開けさせる。
「一緒にしておくと、また何か悪だくみの相談をされちゃ困りますからね。今度は別々に入って頒きましょう」
「嫌です」
珠江夫人は、一層、頬を硬化させ、先程から慄えつづけている美沙江を後ろへかばうようにしながら、はっきりいうのだった。
「お嬢様と私を一緒にして下さい。貴方達は油断がなりませんわ」
カチンと冷たい表情で強くいった珠江夫人の眼は、瑞々しいまでに銃く輝いている。
「何て気位の高い女だ」
川田は、頭にきて、
「社長、こんな女、何も優しく出ることはないじゃありませんか。傷を負わされた俺の身にもなって下さいよ」
と川田はいい、憎々しげに珠江夫人を睨むのである。
「まあ、そう怒るな」
と、田代は微笑しながら川田をなだめて、珠江夫人の方へ向き直ると、
「別々に入るのが嫌だとおっしゃるなら、それでも結構。その代り、お二人とも丸裸になって牢屏へ入って頂きましょう」
「な、何ですって」
珠江夫人のこめかみのあたりが痙攣した。
「丸裸にしておけば、逃げる気も起こらないでしょうからね。如何です」
珠江夫人と美沙江の顔は恐怖のあまりひきつって、二人は、ヒシと抱き合うようにしながら後ずさった。
「どうなんだよ。はっきりしろい」
急に吉沢が凄んで、先頃、珠江夫人に奪われた拳銃をポケットから出す。
「もう二度と逃げたりは致しません。ですから」
珠江夫人が喉をつまらせた声を出すと、田代は笑って、
「裸になるのが嫌なら、別々に入るより仕方がありませんよ」
珠江夫人は、力強く美沙江の手を握りしめた。
「お嬢様、一日の辛抱ですわ。お嬢様の体は命に代えても私が守ります」
と、慄える美沙江を励ますようにいったものの、別々の牢舎へつながれれば、もし美沙江に竜牙が迫った時、どうすればいいのか、珠江夫人は、たまらない不安に見舞われる。
「さ、入んな」
吉沢は、美沙江を珠江夫人の傍から強引に引き離すと一方の牢舎の中へ押しこんだ。
「ああ、おば様っ」
美沙江は一人、牢舎へ押しこめられた不安と恐怖で鉄格子に手をかけ、綺麗に揃った柔らかい睫の聞から涙を光らせている。
「奥さんは、こっちだ」
森田は珠江夫人の肩を押し、隣の牢舎へ押しこんだ。バタンと両方の牢舎の扉は閉ざされ、鍵がかけられる。
「さてと」
田代は、鉄格子の聞から、二人の美女を楽しそうにのぞきこんで、
「これから本題に入るんだが、川田の受けたこの怪我の始末はどうつけてくれるんです」
田代は、川田の包帯した手を握っていうのだ。痛えっと川田は大袈裟な悲鳴をあげ、わざと顔をしかめて痛がって見せる。
「治療代として、三百万。御大家の奥様と、千原流生花の家元令嬢なら、安いものだと思うのですがね」
田代は葉巻を口に咥えながらそういうと、珠江夫人は、白蝋のような白い顔をさっと上げて、冷やかな口調でいった。
「主人に電話をかけさせて下さい。すぐにそのお金は都合致します」
「奥さんに電話をかけさせると何を言い出すかわかりませんからね。そこで、いい方法を思いついたのです」
田代は森田の顔を見て、眼くばせする。うなずいた森田は地下の階投を上って行った。
田代は、更に続けて珠江夫人に、
「京都からお嬢さんの添人として来ている二人の女中さんを、この屋敷へ呼び寄せたのですよ」
「えっ、友子さんと直江さんが、ここへ来ているのですか」
美沙江は、ふと顔に生気を蘇らせて田代の顔を見た。
「その二人の女中さんに使いに立ってもらいます。ただし、その女中さんが途中で警察へ知らせたり、今夜中に金を持参しなかった場合は、お二人とも、治療代がわりに着ておられるその豪華な着物を全部脱いで頂かねばならなくなる。いいですね」
含み笑いしながら、そんな事を田代がいった時、森出が美沙江お付きの女中、友子と直江を連れて階段を降りて来た。美沙江も珠江夫人も、二人の女中が田代や大塚順子達と共謀になっていることなど、夢にも知らない。
「あ、友子さんっ」
「直江さんっ」
美沙江と珠江夫人は、鉄格子につかまっておろおろした声を出すのだった。友子と直江も、なかなかの役者で、
「ああ、お嬢様」
「奥様、一体どうして、こんな♢♢」
と、涙声になって、鉄格子の聞から美沙江と珠江夫人の手を握ったりして、肩を慄わせるのである。
「わかったな。折原源一郎と直接に逢って三百万、現金で受け取って来るんだ。今夜、十二時までにここへ届けないと、かわいそうにこの奥様とお嬢様は、素っ裸にならねばならん」
と、田代がいえば、森田も調子を合わせて、
「それでもなお金の着くのが遅れれば、この二人の別嬪さんはどういう事になるか、そこのところをよく考えて、大急ぎで金を持ってくるんだ。いいな」
ハイ、と友子と直江は、わざと慄えて見せ立ち上るのだ。
「友子さん、直江さん、ほんとに大至急お願いしますわ。お嬢様と私の命にかかわることですから」
珠江夫人は、何度も念を押し、夫の源一郎が女中の話を疑うことを懸念して、田代に紙切れと鉛筆を借り、二人が誘拐され、三百万の金が至急必要なことを走り書きするのだった。
「じゃ、行って参りますわ。すぐ戻って参りますから、安心なさって下さい」
友子と直江は、珠江夫人よりメモを受け取ると立ち上った。
「さ、急げ、急げ」
と、田代達は、二人の女中を追うようにして一緒に階段を上り、地上へ出たが、そこで友子や直江と舌を出し合い、大声で笑い合った。
「中々、芝居がうまいじゃないか、友子」
森田が涙まで見せた友子の熱演をほめると、
「昔はこれでも、役者志望やったんよ」
と、気楽に関西弁になり、手にしていた珠江夫人のメモを破り捨て、
「お小遣い、頂戴」
と田代に手を出した。
「よしよし」
と田代は二人に、何枚かの札を握らせ、
「葉桜団の銀子達を紹介してやるよ。ついて来い」
「ね、社長はん」
と、直江が白痴めいた、とろんとした眼で田代を見上げる。
「あの折原の奥さんと、うちのお嬢さん。これからどないなるの」
「さあ、どうなるかな。さしづめ、ストリッパーにでもするか」
「あんまりかわいそうなこと、せんといてね。お嬢さんは、あんまり体の丈夫な方やないさかいな。何しろ、生花以外のこと、何も知らんお嬢さん育ちや」
こいつ、主人を裏切っていながら同情してやがる、と男達は笑った。
「心配するねえ。そのうち、丈夫な体に俺達が鍛えてやるさ」
川田はそういって、次に田代に向かっていった。
「社長、何もあんなに手数をかけることねえじゃありませんか。ひと思いに剥いで、吠面かかせてやった方が♢♢」
「待て待て、楽しみは、そうガツガツ急ぐもんじゃない。俺は、じわじわいたぶるのが性に合ってるんだ」
と、太鼓腹を揺するのだった。
♢♢田代達が地下から出て行った後は、凍りつくような不気味な静寂が流れた。珠江夫人は、牢舎の冷たい床に正座したまま、時々、隣の牢舎にいる美沙江に声をかけるのである。
「お嬢様、心配なさらなくても、友子さん達はすぐに戻って来ますわ。元気を出して下さい。いいですね、お嬢様」
ええ、わかっていますわ、おば様、と力のない美沙江の声が戻って来、続いて、奥歯を噛みしめるような、かぼそい美沙江の哀泣が断続的に聞こえて来る。
ともすれば、珠江夫人も胸が押し潰されそうになるのだ。友子と直江が三百万を主人より受け取ってここへ戻って来た時、田代や順子が簡単に自分達をここから解放するかどうかが疑問になってくる。解放すれば、この屋敷の秘密がその筋へ露見することになるのは必定だから女中達も自分達の命も、そこで断たれることになるのではないかという恐怖の念がわいてくる。一体、どうなるのか予想もつかない。名状しがたい不安と恐怖、それに刻々と過ぎていく時間がかもし出す重苦しいあせり♢♢。
「おば様、今、何時になりますの」
美沙江も、そうした気分に苦しんでいるらしく、たまりかねたように声を慄わせて聞くのだった。
珠江夫人は、銀の腕時計に眼をやる。地下室の壁にともっている裸電球の鈍い光波にうつして見ると、もう夕方の七時であった。
あと五時間♢♢珠江夫人は、眉を寄せ、その不安を自分で追い払うように立ち上ると、牢舎の壁に身を寄せ、隣の美沙江を慰めるのだった。
「七時ですわ、まだ五時間もあります。何も心配することはありませんわ」
もし、十二時までに友子達がここへ姿を見せなければ♢♢、美沙江の恐怖も珠江夫人の不安もそれにあった。
「今日の生花の会場は、どうなったでしょね、おば様」
美沙江は、胸をついて溢れそうになる慟哭をこらえて口にする。
定刻に家元の令嬢が姿を見せないというので、会場の方は恐らく大騒ぎになったことだろう。それに後援会の代表者である珠江夫人まで顔を見せないので、関係者はあわてふためいているに違いない。千原流の信用に大変な傷がついたことになると、珠江夫人は胸がはり裂ける思いだったが、それどころではなく、現在、自分達は生命の危険に晒されているのだ。
珠江夫人は、背中に冷たいものが走りじっとしていられず、狭い牢舎の中を歩き廻った。地下の土間に面した鉄格子、そして三方の壁が厚い板で取り囲まれた牢舎は、不気味で陰惨であった。こんな中に、たとえ一日にせよ監禁される美沙江の気持を思うと、珠江夫人は、いても立ってもおられぬ気分になるのである。
「ああ、出たいわ。早くここから出たいわ、おば様」
美沙江は、おろおろした声音でそういうとたまらなくなったように振袖の袂で顔を青い泣きじゃくるのだ。
肉の鍋
静子夫人の調教ショーなどを夕方近くまで見物した岩崎は、
「また、来月、必ず、ここへお邪魔するで」
と、新しく入った獲物などに心を残しながらも、関西の方に仕事が待っているので一旦引き揚げることになった。
ボディガード二人と一緒に車に乗りこむ岩崎を、田代や森田達、それに葉桜団のズベ公達までが一斉に玄関へ送りに出る。
津村義雄は、岩崎の用事で、伊豆の方へ来月、出向かねばならないので、それまで当分の間、田代の屋敷へ滑在することになった。
「それじゃ親分、お気をつけて」
義雄が車に乗った岩崎に頭を下げると、
「こんな楽しい思いさせてもろうたんも、みんなお前のおかげや。感謝するぜ」
と岩崎は、えびす顔になった。
「この次は、またおもしろいもん見せてや。期待してるぜ」
岩崎の車が走り出し、しばらく見送っていた田代達は、やがて、ほっとしたように大きな門戸をガタンと閉ざす。
「やれやれ、これで肩の荷が軽くなったよ」
ショーが一段落し、あちこちから集まった客人達も、これで一応、引き揚げた恰好になり田代も森田も、会が成功裡に終わったことを喜び合った。
「俺達、身内の者だけでも祝杯といこうか。親分」
田代はそういって、さも楽しそうに森田の肩を叩いた。
千代の部屋では、もうすでに祝宴が始まっている。
スキヤキ鍋を、順子、葉子、和枝の四人で賑やかにつつき、おそい夕食をとっていたのだ。
襖が開いて、春太郎が湯上りの上気した顔を見せる。
「御苦労さん。よく洗ってやった?」
春太郎と夏次郎は、静子夫人を風呂に入れていたらしい。
「ええ、とくに念入りに、とっくり洗ってやりましたわ」
春太郎がそういって笑った時、夏次郎が静子夫人の背を押すようにして入って来る。
夫人は湯上りタオル一枚を体に巻きつけただけの姿で、前屈みになり、よろめくようにして部屋へ入って来たのだ。
うすら冷たい表情で、夫人は、その場に小さく坐りこむ。もう恐怖も屈辱も、そうした感情すら夫人は喪失してしまったように、凍りついた視線を畳に落としている。夫人の今の願いは、ただ一つ、千代達のいるこの部屋から解放され、冷たい牢舎へ戻りたいということであった。そして、疲労し切った体を横たえたかった。暗く、冷たく、黴くさい牢舎であっても、鬼女達のいるこの明るい部屋にくらべれば天国と地獄の差があった。
今日から三日間、千代の部屋へつながれることになった静子夫人は、暗い牢舎が、ふと恋しくさえなったのである。
「ホホホ、お風呂へ入れてもらって、少しは疲れがとれたんじゃない。奥様」
千代は、順子の盃に酒を満たしながらいった。
静子夫人は、疲れがとれたどころではなく風呂へ入ったことで、肉体は水を含んだ綿のように重くなり、先程まで春太郎達に受けた調教の痕が、火傷のようにとリヒリ痛み始めている。と同時に、朝から食事を与えられていない静子夫人は、二度三度にわたる浣腸で胃を洗源された故もあり、気が遠くなる程の空腹を覚えていた。
賑やかに千代達がつつくスキやキ鍋の匂いが夫人をやり切れない思いにかりたてる。
和枝は、春太郎と夏次郎に、
「どう、あんた達も一緒に食べない」
とスキヤキ鍋の仲間に入るようにすすめる。
「おなか、ペコペコなのよ。じゃ、御馳走になりますわ」
春太郎と夏次郎は喜び、
「ところで、この奥様は、どうしましょう」
と千代に聞く。
「そこの床の間の柱にでも、縛りつけておきなさいよ」
千代は無雑作にそういって、床の柱を顎で示した。
「お立ち」
春太郎が夫人の肩を突いた。
「あんたは朝から食べていないんだから、さぞひもじいでしょうけど、三日間はこの調教のため、断食修業をして頂くわ。わかっているわね」
春太郎と夏次郎は、夫人の肩に手をかけて引き起こし、床の間へ押し立てて行く。「さ、タオルを取って」
春太郎が後ろから、夫人が体に巻きつけているタオルをさっと剥ぎとった。湯上りの見るからに暖かそうな艶をうかべている夫人の肌があらわになる。夫人は、形のいい、ふくよかな胸を両手で抱くようにし、その場に腰をかがめたが、春太郎が戸袋の中から麻縄を取り出して近づくと、夫人は、命令されるまでもなく、胸を覆っていた両手を静かに背中へ廻して行くのだった。
そのように柔順になった静子夫人を、千代は頼もしげに眼を細めて見つめている。
かつての舞踊の愛弟子であった小夜子の眼前に、醜悪無残な姿を晒け出し、今はもう生きた心地もなく、中身のない人形のように春太郎に操られている夫人であった。
「さ、柱を背にして、しゃんと立って頂戴」
豊満な胸の上下には、黒ずんだ麻縄が二巻き、三巻きとかけられ、きぴしく後手に縛りつけた夫人を二人のシスターボーイは、かっちり柱に押しつけて、別の縄をつかって、かたくつなぎとめる。
夫人は、涙も涸れ果てたような空虚で物悲しい瞳をぼんやり前方へ向けているのだ。
「せめて御馳走の匂いだけは、うんと嗅がせてあげるわ」
千代は、わざとガスコンロや鍋を床の間近くに移動させ、和枝や葉子達と再び鍋のまわりを取り囲むのだった。
「どう、おいしそうでしょう。奥様」
グツグツ煮えている鍋の中を箸で示しながら、千代は夫人の顔を面白そうに見上げてい局。静子夫人は苦しげに眼をそらせたが、思わず夫人が生唾を呑みこんだのを悪女達は見つけて、どっと哄笑するのだった。
「でも、いくら見ても見飽きがしない程、きれいな体をしているわねえ。男達がカッカとなるのは無理もないわよ」
和枝は盛んに箸を動かせながら、床の間の晒し者になっている静子夫人を、しげしげと見つめている。
日々のあくどい調教のため、いささか痩せた感があるが、それでも充分に脂がのった官能味豊かなムッチリした体、大理石のような光沢を浮かべた優美な両肢、それは、つい先程まで、木っ葉微塵なまで責めさいなまれたそれとは、どうにも思えない美しさであった。
「これからお食事の時は、何時もこういう風に奥様も一緒よ。匂いだけは、たっぷり嗅がせてあげるわ」
千代は、悪戯っぼく笑うと小鉢の中に鍋の肉や野菜を盛り上げて、よっこらしょ、と立ち上り、夫人の横に立った。
「そら、ね、おいしそうでしょう」
千代は、夫人の顎に手をかけて、小鉢を夫人の鼻先へ押しつけた。
夫人は、湯気を充てている鉢の中身に悲しげな影の射す瞳を向ける。
「いいのよ、食べても」
千代は箸で肉片をつまみ、夫人の口元へ押しつけていった。
夫人は、ごくりと唾を呑みこみ、千代の顔を見た。
「さ、遠慮なさらず」
千代は、クスクス笑っている。
たまらない空腹にもう見栄も体裁もなく、夫人は吸い寄せられるようにそれへ唇を近づけたが、瞬間、千代は、さっと手を引き、吹き出した。
「あら、駄目よ奥様。どうしても召し上りたいなら、こちらで召し上って頂くわ」
千代は、身を沈めて、箸につまんだ肉片を夫人の両腿の附根に近づけていく。その部分の艶っぼい漆黒の繊毛を掌で撫で上げるようにした千代は、小高く盛り上った丘を露にさせて、おかしそうにいった。
「さ、アーンと大きく口をお開き遊ばせ。ここでなら、いくらでも召し上れ」
それを見た和枝、葉子、順子の三人は、キャッキャッと肩を叩き合い、笑いこけた。
また、千代のいたぶりが始まったと夫人は口惜しげに唇を噛みしめ、さっと顔をねじるようにそむける。
「どうしたの、さ、早くお食べなさいよ」
千代は、段々、残忍な眼つきになって、箸につまんだそれを嵩にかかって押しつける。
静子夫人が緊縛された身をよじって、すすり泣くと、千代は、フン、と鼻を動かせて、夫人を憎々しげに見上げた。
「遠山家の、若奥様でいられた頃は、屋敷に一流のコックを雇って、随分と贅沢なものを朝昼食べていたじゃないの。そして夜は遠山と一緒に、銀座か赤披の高級クラブで晩餐をとる。ホホホ、それが今じゃ、元、女中が食べ残したものさえ口に出来ない哀れな身の上、随分とみじめになったものね、奥様」
千代は、そんな事をいって、妖怪めいた笑い声を立てていたが、夫人が千代のいたぶりの言葉に身を慄わせ、一層、激しく嗚咽し始めると、いきなり夫人の高貴な鼻をつまみ上げ、ひねり上げた。
「みんなのいる前で、あんな羞ずかしい姿を晒しながら、よくそんなおしとやかな顔が出来るものだわ」
酒癖の悪い千代がまた荒れ出したと、春太郎と夏次郎はニヤニヤしながら、スキヤキをつついている。
「ホホホ、朝から何も食べてないとはいわせないわ。さっきは奥様、川田さんより愛情のこもったすばらしい生ジュースを御馳走になったじゃありませんか」
頭のてっぺんから出したような甲高い声で千代は、心身共に打ちひしがれている静子夫人に追討ちをかけるように嘲弄しまくるのである。そんな風に千代が、執拗なくらいに夫人をいたぶる気になるのは、やはり、汚辱の底にのたうちながらも失われることのない夫人の美貌に対する腹立たしさが、原因しているようであった。
数々の言語に絶する辱しめを受け、心身共に疲れ切ったように薄く眼を閉ざして顔をそらせている静子夫人だが、そのしっとりと翳のある、男心をうずかせるような情感的な深みのある夫人の優雅な横顔は、千代に一種の反撥心と、いまいましさを覚えさせるのである。
「ね、あんた達」
千代は、春太郎達の方へ酒で濁ったトロンとした眼を向けた。
「これから、この奥様の夜の部の調教に入るのでしょう」
「ええ、もうお稽古場の支度も出来ていますわ」
夏次郎が立ち上って次の間に通じる襖を開ける。そこは、千代達の寝室になっている六畳だったが、畳の中央へ、六尺四方もある四角い板が敷かれてあった。その板の上には、三尺位の間隔をおいて太い杭が打ちこまれ、鎖が結ばれてある。板台の上に乗った生贅を、大きく割らせるための細工であることはすぐにわかったが、天井の方からも、生贅を板台の上の中央に固定するため、不気味な鎖が二、三本、からみ合うようにして垂れ下がっていた。
「まあ、私の寝室がこれじゃ型なしね」
と、千代は苦笑し、
「あんたのおかげで私達ここで雑魚寝しなきゃならないのよ。一生懸命、お稽古に励まないと承知しないから」
と静子夫人の縄に緊め上げられている胸を指ではじく。
ああ、まだ、この疲れ切った肉体に、おぞましい調教を♢♢静子夫人は、眼前に開けた寝室の不気味な臨時の調教場を気の遠くなる思いで見つめている。
千代は、調教場と、おののく夫人の凍りついた横顔とを交互に眺めて北叟笑むと、
「でも、腹がへっては戦が出来ぬというわねえ。調教に入る前に春太郎さん、奥様に鍋の残りものを食べさせてあげて頂戴。ただし」
千代は、夫人のそれを指さし、笑いこけながら、
「私なら遠慮なさるけど、調教師のあんた達なら奥様、喜んでお腹に入れて下さると思うわ」
二人のシスターボーイも、千代の狂気めいた残忍さにいささか閉口したが、さからうわけにもいかず、顔を見合わせて立ち上った。
静子夫人は、春太郎と夏次郎が傍へ近寄って来ても、人間的な意志を完全に喪失させてしまったように、うすら冷たい表情を前に向けたまま、微動もしなかった。
千代は、このスキヤキパーティの座興として春太郎達にそんな事を命じたわけだが、かなり酩酊して来た和枝も華子も、
「うんと御馳走してあげてよね。そら、お刺身だってあるわよ」
と、刺身の皿を春太郎に手渡したりして、はしゃぎ廻っている。
春太郎は、しっとりと翳を沈ませた夫人の柔媚な頬に軽く接吻して、
「いいわね、ここにいるご婦人方の御機嫌をしっかりとって頂戴。皆んな大事なお客なのよ」
つまり、ここにつめかけている女達は客、自分は、客を楽しませる実演スターだ、と、春太郎に改めて念を押されるまでもなく、夫人は自分の心にはっきりふんぎりをつけたのだろう。夫人は、軽く瞑目しながら、小さくうなずいて見せたのである。
自分が、みじめな実演スターとして成長することが千代や川田の狙いであるなら、彼等が望むように振る舞い、心身ともに自分を作りかえ、彼等を満足させる、それが彼等に対する一種の復讐行為かも知れない。あれ程にまで哀願し、哀訴し、その代償として自分を汚辱の底に投げこんだのに、彼等は遂に千原美沙江を罠にかけたのだ。裏切られた憤り、絶望と屈辱、そうした苦しさを一切忘れる方法は彼等の手に我が身を日夜委ね、狂気した被虐の調教を受けること、そして、それを快感として感じる肉体に自分を変貌させていくことよりない。
静子夫人は、次第に自分をもっともっと傷つけたいという血走った気分に駆られてきていたが、千原美沙江と折原珠江がすでに彼等の手に落ちたことを知って、それで、はっきり自分のとるべき方針が決まったような気分になったのだ。自分の肉体にあって、自分の今まで気づかなかった能力を調教師達のリードで巧みに引き出されていくうち、ふと夫人は、さらにその能力を引き出されてみたいという願望が、嫌悪の戦慄、自尊心の痛みと並行しながら、マゾヒスチックな感触となってこみ上って来たのかも知れなかった。
肌に咲く花
春太郎と夏次郎は、夫人の足元に体を沈めて小鉢と皿を手元に引き寄せた。
「じゃ、御馳走するわ。お肉がいい? それともお魚」
静子夫人は、空気でも見るような無表情さを装おうとして、ねっとりとした瞳を前に向けていたが、春太郎の言葉に首すじまで赤く染め、顔を横へそらせてしまった。
「じゃ、最初、お刺身から御馳走してあげるわ」
夏次郎は小皿に醤油とわさびを入れ、それに箸でつまんだ刺身をたっぷり浸し始める。
「さ、召し上れ」
箸でつまみ上げられた刺身が両腿の間に押しつけられて来ると、夫人は、もうひるんだりはせず、もうどうにでもするがいいわ、とばかり不貞くされた覚悟を決めたのだ。
「戴くわ」
夫人は、今までのメソメソした風情とは打ってかわり、白い柔らかな頬に婀娜っぼい微笑さえ浮かべて、自らそのいたぶりに挑戦してゆくのだった。
「まあ、ホホホ」
千代は、葉子の方を見て笑い出した。
夏次郎が器用に箸を使い始めると、夫人もそれに答えるかのように応じたのである。
「はい、それじゃ、もう一つ、アーンとお口を開けて」
次は春太郎が箸で刺身をつまみ、近づけて行く。
何ものをも溶かせるような悩ましい肉づきと甘美な吸引力。加えて、媚めかしい双臀の動き♢♢千代達は、夫人のその動きに改めて眼を瞠るのだった。
「どう。奥様、おいしい? ね、何とか、おっしゃいよ」
夫人の乳房のあたりを指で押して、葉子が笑う。
「おいしいわ」
夫人は、柔らかい睫を哀しげにそよがせながら、女達に命じられてそこに魚肉を含むとゆるやかに腰部をくねらせている。
そんな静子夫人のまわりに腰をかがめて女達四人は哄笑し合うのだったが、夫人は感覚が麻痺したのか、恨みも口惜しさも忘れ果て、妖しい夢の中をさまよっているようなうっとりした表情にさえなっている。いや、それだけではなく、つめ寄っている女達に自分はこの種のスターとしてどれ程成長したか示そうとさえするのであった。
「ねえ、そんなにわさびをきかしちゃ嫌ですわ」
と、刺身を醤油に没している春太郎の手元を見て鼻を鳴らしたり、
「もうおなかが一杯ですわ。もう沢山」
と、体をくねらせて、甘く拒否して見せたり、そんな風に夫人は、悪女達の食後の余興をためらわず演じるのである。
やがて、夫人は、千代が持ちそえる小鉢の中へ身をよじりつつ、一つ一つ吐き出して見せ、悪女達の喝釆を受けるのだ。
「御苦労だったわね。おかげで、今日はいい座興になったわ」
千代は、クスクス笑いながら、帯の間からチリ紙を取り出して、夫人の前に坐った。
「こんな芸が出来るようになって嬉しいと思わない? どう、奥様」
千代は、丹念に後の始末をしてやりながら、夫人を見上げていった。
「でも、静子がこんな女に転落して、一番嬉しいのは千代さんじゃありませんの」
静子夫人は、千代のそうした行為を甘受しながら、水が弛み入るような皮肉な微笑を口元に浮かべ小さくいった。それ位の皮肉をいうのが、夫人の千代に対する精一杯の反抗なのだ。
「そうよ。私しゃ嬉しくて嬉しくて仕様がないわ。千原美沙江も誘拐出来たし、折原夫人も罠にかかったし♢♢」
千代は唄うようにいって立ち上ると、ホクホクした表情で、順子の方をチラと見る。
「千原美沙江にお稽古させる造花があったわね。あれ、この奥様に一寸、お見せすれば」
「そうね」
大塚順子は押入れを開け、小型のトランクを持ち出した。蓋を開ければ、中にはぎっしりと色々な種類の造花がつまっている。
「ね、よく出来ているでしょう。鬼源さんの仲間に注文して作らせたものなのよ」
千代は、二、三本の造花を手にして夫人の鼻先へ近づけた。
造花の根はすべて針金になっていて、その先端に、小さなゴム球がついていた。
「最初から生花にするのは大変だから、まずこうした造花であのお嬢さんの身体を鍛えていこうと思うのよ。少し、試させて頂戴ね」
順子は、そういうと、トランクの中から赤と白のバラの造花を何輸か選んで取り上げた。
「奥様のお好きなバラの造花も、こうして用意してあるのよ」
それが順子の手で巧みに植えられていくと夫人は、ねっとりと溶けるような眼差しを上の方へ向け、それを甘受すべく、順子にうながされてムッチリした太腿を心持ち左右へ割るのだった。
さっきは、仰向いた寝姿のまま、花を植えたけれど、こうして立たせたまま花を植えることだって出来るのよ、と、順子はすでに三輪のバラを夫人の体に咲かせて悦に入っている。
「まあ見事に咲いたわ。すばらしいわね」
葉子と和枝は、大きく眼を開いて、感にたえぬといった表情になった。
蛍光灯の蒼味がかった電光に艶々と浮き出されたような夫人の乳白色の素肌、麻縄に緊め上げられた豊満な胸から滑らかな象牙色の鳩尾、そして、官能味たっぷりの腰からムッチリ引き緊まった下肢に至るまで、その優美な夫人の肉体は、飽かず眺め入る悪女達に驚嘆と羨望、それから嫉妬まで惹き起こすのだったが、今、バラの造花を植えつけられたことによって、夫人の優美な肉体は、悪女達の瞼がムズ痒くなるはど、妖しいばかりに官能的な、また、美術品的な優雅な美しさを感じさせたのである。
夫人は、三輪のバラが落下するのを防ぐようにそっと腿を閉ざして、その優雅な頬を見せていたが、三つの花は、フルフルと思いなしか顫えているようだ。
「どうしたの。急にまた泣き出したりして」
千代は、夫人のぴったり密着させた腿と腿との間に咲くバラの花から眼を移行させ、急にシクシクと繊細な白い頬に涙の滴を流し始めた夫人の顔を見上げた。
「家元の、家元のお嬢様が、こんな姿にされなければならないかと思うと♢♢」
静子夫人は、事実、それを思うと、たまらなくなって、慟哭が胸をついたのだろう。
女の肉体のいわゆる泣き所を知悉した順子のいたぶりをほどこされ、人間花瓶に仕上げられる美沙江の事を思うと夫人は、あまりのむごたらしさに、ふと血が凍りつくような思いになったのだ。我が身に加えられる限りない汚辱の責めには耐えられる。いや、耐えられる肉体に悪魔の手で作り変えられた夫人であったが、そうしたいたぶりが千原美沙江に加えられるという思いは耐えられるというものではなかった。
だが、それは千代達の計算でもあったのだろう。夫人に心理的な苦痛を与える、何よりもそれが千代にとっては楽しいのである。
「あのおしとやかなお姫様を、こんな風な人間花瓶に仕上げるのは大変な根気がいるでしょうね」
千代は順子の方を見て、さも楽しそうにいうのだ。
「大丈夫。私が腕によりをかけて完全な人間花瓶に仕上げてやるわよ。千原流家元の娘の体に湖月流の生花を植えつける、これ程、痛快な復讐はないと思うわ」
順子は、眼に残忍な色を滲ませて、夫人の身体に咲く花をしばらく見つめていたが、トランクの中からもう一本のバラを取り出し、それを横にして夫人の口に咥えさせるのだ。
「まあ、一段と妖艶が増した感じね」
女達は、カメラをかまえて色々な角度よりシャッターを切り始める。
静子夫人は、涙を滲ませた綺麗な睫をそよとも動かさず一点を見つめ、口に含んだバラの枝を噛みしめている。上と下とにバラを咲かせた静子夫人の名状の出来ない凄艶な容貌を順子は見ながら、千原家の令嬢、美沙江をこういう姿にした時の光景を脳裡にあれこれ描いている。
「こういう風に私の部屋の床の間に、美沙江を一日中縛りつけておいて、朝昼夜一度ずつ花を取り替えてやるのよ。花に必要なお水の方は美沙江の身体で作らせる。フフフ、ね、実に便利な花瓶だと思わない」
順子は自分の着想に興奮し出したのか狂気めいた笑い方をし、
「そうそう、ヒップの方に咲かせる造花も用意してあるのょ」
と、春太郎達に、夫人を後ろ句きにして柱へ縛り直すように命じた。
「さ、今度は後ろ向きよ」
腿の聞から花を抜きとり、口に咥えたバラを取り除いたシスターボーイ二人は、一旦、夫人の身体を柱から離し、くるりと一回転させて今度は後ろ向きに柱につなぎ始めるのである。たくましいばかりに盛り上った夫人の美臀が女達の眼の前に晒される。全面に白粉を溶かせたような滑らかで優美な背中の中程にはがっちりと麻縄をからませた夫人の両手首が痛々しいばかりに脂汗を滲ませていた。
「まあ、見事なお尻ねえ」
順子は、貪欲なぐらいにムッチリと盛り上りそれでいて柔軟さと繊細さを兼ねている夫人の双臀をしばらく手でさすっていたが、千代から菊の造花を一本受け取ると、柔らかくまさぐり始めた。
「ねえ、順子さん」
静子夫人は、造花が植えられようとすると甘く拗ねたような声を出した。
「大塚先生よ。順子さんなんて奴隷が気安く呼ぶんじゃないよ」
千代が叱った。
「どうしたの奥様。フフフ、さっきあれだけ調教を受けたんだから、もうコールドなんか必要ないでしょ」
順子がそういうと、夫人は、なよなよと左右に首を振って、声を慄わせた。
「大塚先生は、こんな事を、ほんとに千原流のお嬢様になさるおつもりなんですか」
「そうよ。それがどうかしたの」
順子は鼻で笑って、静かにそれを植えつけていく。夫人はその一瞬、うっと異様な声を発して美しい眉をしかめ、キリキリ歯を噛み鳴らした。
「こんな、こんなむごい事をお嬢様に♢♢」
静子夫人は呪うように呻きつづける。
「こ、こんな事をされるのは、女にとって、どんなに辛い、羞ずかしいことか、大塚先生は御、御存知ですのっ」
夫人は、身も世もなく取り乱して、そんな事を口走ったが、無情に植えつけられた菊の造花は悪女達の眼を再び楽しませた。
「こう見事に花を咲かせることが出来たのも、調教のおかげね」
順子は夫人の粘りつくような柔らかい吸引力に驚くとともに、美沙江に対しても、ガラス棒などで根気よく体調を作る必要があると春太郎に協力を頼むのだ。
「世間の事は何も御存知ない十九歳のお嬢様に、こんな、ひどい事を♢♢」
静子夫人は、哀しげな言葉を吐いて首を垂れ、肩を慄わせている。
「ブツブツいっていずにお尻を振ってごらん」
ぼんやりつっ立ってるだけでは芸がなさ過ぎるわよ、と悪女達は夫人の尻を平手打ちして、花を咲かせた双臀の踊りを強要するのだった。
静子夫人は、もうどうともなれとばかり涙を振り切り凍りついた横顔を柱にぴったり押しつけると、ゆっくり体をくねらせる。
「もっと派手に揺さぶってごらんよ」
「こう、こうすればいいの」
夫人は、羞ずかしげに顔を染めながら、大きく体をくねらせ始めた。
菊の造花をフルフル慄わせながら、うねり舞う優美でたくましい双臀の何ともいえぬ艶めかしさを悪女達はうっとりとして見入っている。
迫る毒牙
十一時半になって、田代は、川田、吉沢、そして鬼源の三人と、二階のホーム酒場へ入った。
そこでは、銀子や朱美達が京都から来てこの不良団に加わった恰好の友子と直江に酒を飲ませていた。
「関西のズベ公に関東のズベ公か。大分、気が合ったようだな」
と田代が笑うと、
「うちらズベ公やない。ただ、お金が欲しかっただけや」
と友子は反撥した。
こっちに協力すれば、遊んで暮せるだけの手当てを毎月出してやると大塚順子に持ちかけられ、令嬢誘拐の片棒を担いだわけだが、順子や田代達が誘拐した令嬢に何を企んでいるのかは友子も直江もはっきり知らなかった。知っていたとすれば、その恐ろしさにこの仕事を途中でおっぼり出したかも知れない。
「同じ女でありながら、あんた達、千原美沙江のような娘、憎いとは思わない」
銀子や朱美達はそんな風な言い方で、友子や直江に階級意識、つまり、大袈裟にいえば貴族主義打破の欲求に共鳴させようとしたのである。
「ま、そんなむつかしい事わからんけど、こうなったら、うちら銀子姐さんの身内や。よろしゅう頼んます」
直江は、金壺眼をキョロキョロさせながら銀子にいい、ムシャムシャとスルメを齧っている。
「お前たち二人が金を持って戻って来るのを、地下の奥様とお嬢様はイライラお待ち兼ねだぜ。約束の十二時まで、あと何分もねえのだからな」
吉沢が、そういって笑った。
珠江夫人と千原美沙江をどう扱うか、その相談が田代を中心に始められた。
千原美沙江はしばらくこちらへ任せてくれという大塚順子の希望であったので、美沙江の身柄は順子の許へ預けることに決まったが、珠江夫人の方はどうするか。
「俺と鬼源に一任してもらいたい」
と川田が繃帯を巻いた片手を田代に示していった。
「こんな目に合わされて、黙ってひっこむわけにはいきませんよ、社長」
川田は、手傷を負わされた復讐の意味で、珠江夫人の調教を買って出たのである。
「あの気位の高い博士夫人を操作出来るようになるにゃ、大変な苦労がかかるだろうな」
田代は、顎をさすりながらしばらく考えていたが、
「よし、川田、お前に任してやる。鬼源と相談して、折原珠江のしごきにかかれ」
と、はっきりいった。
「ニグロのジョーを近々に呼び寄せようと思っているんですがね」
鬼源は、珠江夫人の調教はどんな風にする気だ、と田代に聞かれてそういった。
「静子にゃ捨太郎という実演の相棒がいるんですから、珠江夫人にもやっぱりそうしたコンビを組ませる必要があると思うんです」
それは、もっともだが、あの高慢そうな夫人を果たして、そこまで追いこむことが出来るだろうか、と田代は、しかし、満更でもない顔つきで鬼源にいうのだ。
「それが俺達の仕事じゃありませんか」
と笑った川田は、明日までに若い衆達に命じて磔台を作らせてくれ、と吉沢に頼むのである。
「ここから逃げ出そうとしただけじゃなく、拳銃まで振り廻しゃがったんだ。そのお仕置として、珠江夫人の方は明日一日、楔にしてこの庭に晒しておこうと思うんです」
「いいだろう。見せしめの意味もある」
田代はうなずいて、腕時計に眼をやった。
「そろそろ穴倉の二人に因果を含めに行こうか」
田代は、直江と友子をこの酒場へ残し、銀子や朱美達は、この仕事を手伝わすべく一緒に連れて部屋から出て行く。
♢♢その頃、土蔵の地下では♢♢珠江夫人と美沙江の心臓は高鳴りつづけている。今日の新作生花発表会が謀略のため微塵に打ち砕かれたというショックではなく、十二時までに友子と直江がここへ戻らなかったら♢♢それを思うと恐怖のため、身体がガタガタ慄えるのだ。その約束の時刻は、あと数分に追っている。
「おば様、ね、おば様」
美沙江は焦りと恐怖に耐えられなくなって牢舎の分厚い板壁を叩くようにしながら、隣の珠江夫人に声をかけた。
「一体、友子さん達は何をしているのでしょう。随分と遅いわ」
「心配なさらなくても大丈夫ですわ。もう程なく♢♢」
珠江夫人は、そういいながら腕時計に不安げな眼差しを向ける。針はもう十二時をさしている。
珠江夫人の陰翳をもった額のあたりが不安げに曇った。これも、謀略ではないか♢♢珠江夫人は居たたまれなくなって立ち上る。
先程、川田に見せられたあの恐ろしい写真のことが生々しく脳裡に浮かんで来たのだ。あれは、きっと模造したものだわ。いくら何でも遠山夫人があんなむごい♢♢珠江夫人は、田代達が自分達をおどかすため、静子夫人の首をすげかえた写真を見せたのだとしか考えられなかった。
しかし、もし、あれが事実であったのなら♢♢そう考えると珠江夫人は、ぞっとしたものが背すじを走るのを感じた。
その時、揚戸の開く音。続いてドヤドヤと何人かの足音が地下の階段を降りて来る。
珠江夫人はハッとして思わず後退りした。
「きっと、友子さん達が戻ったのですわ。お嬢様」
そうであるように祈りながら、珠江夫人は美沙江に声をかけたのである。
だが♢♢鉄格子の前にぞろりと立ち並んだ男女の中に友子と直江の姿はなかった。
「約束の時間まで待ったが、女中は戻って来ねえぜ。二人とも覚悟してもらおうか」
吉沢が舌なめずりするような頬つきで美沙江の牢舎をのぞきこむ。
美沙江の端正な顔からさっと血の気が消え、眼がつり上った。
「へへへ、お嬢さん、約束通り素っ裸になって頂きましょうかね」
「素っ裸になったら、大塚女史のお部屋へ御案内するぜ、何か色々お嬢さんに面白い遊びを教えてくれるそうだ」
吉沢と川田にそんな言葉を浴びせかけられた美沙江は、強烈な電気に感電した瞬間のように全身を硬直させ、次にフラフラとよろめいて、土間にくずれ落ちる。
「あれ、また気を失っちまいやがった」
吉沢が舌打ちする。
「その方が楽だぜ。今のうち剥いじまおう」
川田がポケットから鍵を出し、美沙江の牢舎の錠前へ差しこもうとすると、
「待って、待って下さいっ」
隣の牢舎から珠江夫人の狂気めいた声が聞こえた。
「もうしばらく時間を下さい。友子さん達は必ずここへ戻って来ます」
珠江夫人は必死な眼つきになり、鉄格子に手をからませていうのである。
「そいつは当てにならねえな」
吉沢は、吹き出しそうになるのをこらえ、田代の方をチラと見ながらいった。珠江と美沙江が命の網だと思っている友子と直江は、ホーム酒場の方でもう酔寝してしまったかも知れないのだ。
「私から直接、主人に電話させて下さい」
と珠江夫人がいうのを、駄目だね、と田代は、せせら笑いながら一蹴した。
「約束は約束だからな。川田の治療代がわりに身ぐるみ脱いで頂きますよ」
ひきつった表情になる珠江夫人であっ一。恐怖のあまり、その美しい額を汗が流れた。
「それじゃ少し気の毒だから、二人を一緒に裸にせず、奥様の方から脱いで頂きましょうか。その豪著な着物を一枚一枚、うちの連中へ競売するんです。それなら少し時間稼ぎになる。女中二人がその間に戻れば、このお嬢さんは我々の眼に肌を晒さなくてすむってわけです」
田代は、珠江夫人の監禁された鉄格子の中をのぞきこみ、相談を持ちかけるような調子で話しかけた。
「わかりましたわ」
珠江夫人は陶器のように冷たく蒼ずみながら、濃い睫を怒りにふるわせ、田代をキッと睨みつけるようにしていった。珠江夫人には哀泣して憐憫を乞うというようなところは微塵もなかった。敵の挑戦を受けて立とうとするような、はっきりした敵意を、ありありとその妖しく燃えるような両の瞳に滲ませている。
珠江夫人の横顔に滲み出ている、驕慢の傲りや自尊心の高さといったものを感じとった銀子や朱美は、何かカチンと頭にきて、ムラムラと珠江夫人に対し、敵愾心をわかせたのである。
「貴方がたが私に対し、どのような紳士的振舞いをなさるのか私にも興味がございます」
皮肉をこめて冷やかにそういい放った珠江夫人を、銀子達は憎々しげに見て、
「そうかい。じゃ、葉桜団の作法を教えてやるよ。出て来な」
銀子は川田から鍵を受け取って珠江夫人の牢舎の扉を開けた。
「さ、出ておいで」
珠江夫人は、陶器のように澄んだその頬をさすがに屈辱の慄えで蒼白にしながら牢の扉から姿を出した。
「じゃ、競売はこの上で始めることにしよう。仲間の者達を集めな」
川田が朱美にいった。
「さ、奥さん、どうぞ」
田代が階段の方を手で示し、上るようにいった。
珠江夫人は、硬化した表情のまま、美沙江の牢舎の方を見た。
「気になるのかい。大丈夫、奥様が素っ裸におなり遊ばすまで、このお嬢様には指一本触れやしないよ」
川田はそういいながら美沙江の牢舎の扉を開け、入って行く。
「な、何をする気なのですっ」
川田の手が失神している美沙江の肩にかかろうとすると、珠江夫人は逆上したように鈍い声を発した。
「あわてるない。お嬢さんを正気づかしてやろうといってるんだよ」
美沙江の肩を抱き起こした川田は帯のあたりを膝でいきなり突く。美しい額にこまかい汗の玉を浮かべていた美沙江は、うっと呻いて眉を寄せ、そっと眼を開いた。
「あっ」と川田を見て、思わず身を引く美沙江である。
「へへへ、珠江夫人の競売がすめばお嬢様の番だ。これくらいで一々気を失ってくれちゃ困るぜ」
牢舎から出た川田は、元通りに扉に鍵をかけた。
「お、おば様っ」
田代や川田達に取り囲まれ、連れ去られようとする珠江夫人を見た美沙江は愕然とし、悲鳴に似た叫び声をあげる。
「どこへ、どこへ、おば様を連れて行くのですっ」
美沙江は、おろおろしながら、鉄格子に手をかけて川田や吉沢の顔を見る。
「奥様が着ていらっしゃるこの立派な着物を葉桜団が競売にするのさ。何しろ、静子夫人同様、大家の御令室がお召しになっているものだから、肌襦袢からお湯文字に至るまでいい値がつくと思うよ」
銀子が、珠江夫人の硬いくらいに引き緊まった白い頬を、冷笑を浮かべて見つめながらいった。
「お嬢様、私、時間を稼ぎますわ。必ず友子さん達は戻って来ます。しばらく辛抱して下さいね」
珠江夫人は、悲痛な表情を湛えながら落着いた声音で美沙江にいった。
ニヤニヤして仲間同士、顔を見合わせていた男達は、
「あまり時間を稼がれちゃ面白くねえな。競売は一時間ぐらいですまそうじゃねえか」
さ、歩きな、と川田は珠江夫人の背を押した。
階段を上がると、そこは、かって静子夫人と京子が羞恥地獄へ叩きこまれ、涙と汗を流した土蔵部屋である。
祭壇のように、奥に作られた台の上に二本の丸木が立てられてあったが、それは静子夫人と京子が共に剃毛という、血が逆流する程の屈辱を受けた柱である。
「ついこの間のような気がしますね、社長」
吉沢は、二本の柱を指さし、京子のそれを剃りとった時のうずきを思い出して顔をくずした。
朱美の連絡を受けた義子やマリ、それに千代や大塚順子達が何か声高に話し合いながらぞろぞろと土蔵の中へ入って来る。
珠江夫人は彼女達に憎悪のこもった眼を向け、硬い頬を憤怒に慄わせた。
悪党と悪女達にぐるりと取り囲まれた形の珠江夫人は、負けるものかとばかり鉄のように硬くつっ立っているのだが、彼等に対抗出来る自信があるわけではない。
「さ、ぐずぐずなさらず奥様、お脱ぎになって。千原流後援会長のお召物ですもの。湖月流の大塚順子が散々、煮え湯を飲まされたお礼の意味で、下着一切もいい値で引きとらせて頂きますわ」
大塚順子からそう浴びせられた折原珠江はギクリとしたように肩を慄わせた。順子に対し何か悪態の一つもつこうとするのだが、次第に生気を失って来た珠江夫人の端正な顔はすっかり蒼ざめてしまっている。
「私が、私が、皆さんの前で肌をあらわにしたならば♢♢」
珠江夫人は、柔らかい睫をフルフル慄わせつつ、やっと口に出していった。
「そ、そんな私を、皆さんはどうなさるおつもりなんです」
さあね、と悪魔と鬼女達は頬を見合わせ、意味ありげな微笑をかわした。
田代がいった。
「どうもしませんよ。女中二人がここへ現われるまでの間、お気の毒だがこの穴倉で素っ裸のまま暮して頂くことになるだけですよ」
さ、お手伝いしましょうかね、と銀子や朱美達が珠江夫人の傍へ嘲笑いながら近寄っていく。
「寄、寄らないでっ」
珠江夫人は鈍い声でズベ公達を叱咤した。
「自分で、自分の着物ぐらい脱げますわ」
珠江夫人は、自棄になったように慄える手で帯じめを解き出したが、遂に屈辱の口惜し涙が一滴、その白い頬を伝わって流れた。
第六十九章 落花の嗚咽
衣類競売
じっと眼をつぶった珠江夫人の長い睫から遂に大粒の涙が尾をひいて、その白蟻のように白い頬を濡らしたのを見た田代は、心を浮き立たせて煙草を口にした。
珠江夫人の手は、屈辱に慄えつつ、帯じめを解き、ついでに綸子の帯あげを解き始めている。小粋な黒地の丸帯がスルスルと解けて、とぐろを巻くように床に落下していくと、川田の眼も森田の眼も粘っこくギラギラ光り出した。
珠江夫人の着物の競売を始めるという名目で呼び出しを受けた葉桜団のズベ公達はそのあたりにゴロゴロし、
「そんな勿体ぶった脱ぎ方をせず、さっさと素っ裸におなりよ」
と盛んに弥次りまくっている。
身内に走る嫌悪と屈辱の戦慄をぐっつとこらえて、珠江夫人は、腰紐を解き、支えのなくなった着物を静かに肩から脱いでいった。
絹の綸子に蝴蝶が飛び交う派手な長襦袢姿になった珠江夫人は、そのまま、恐怖の胸の慄えをおさえるかのように、そっと両手せ胸元に当てて立ちすくむのである。その色香あふれる艶美な珠江夫人の容姿に川田はごくりと唾を呑みこんだ。
珠江夫人には静子夫人の持つ妖艶な官能美というものはなかったが、男性を恍惚とさせる雅と清磨さというものがあった。清美で、精緻な肌理の細やかさがある。
「さ、早く長襦袢も脱がねえか」
川田は、焦燥めいたものを覚えて、その場につっ立っている珠江夫人に声をかけた。
「お前さんの願いを聞いて、美沙江の方は後廻しにしてやったんだ。モタモタすると、美沙江の方を先に剥ぐぜ」
川田に叱咤された珠江夫人は、唇を噛みしめ、悲痛な表情になって、伊達巻に手をかけた。
♢♢ 友子さん、直江さん。早く、早く救いに来て頂戴♢♢
艶江夫人は胸の中で祈りながら、くるくる長襦袢の伊達巻を解いていく。
カチンと硬質陶器のように硬化した表情のまま、華美な長襦袢を脱ぎ出した珠江夫人は周囲に陣どる野卑な男女に、蔑みを帯びた冷淡な瞳を時折、燐光のように光らせて差し向けた。
さすがに肌襦袢までは取りかねて、珠江夫人は、体を丸くして、その場にちぢかんでしまったが、
「モタモタするなといったろ」
川田は吉沢と眼で示し合い、身も世もあらず、俯伏している珠江夫人に襲いかかったのである。
「あっ、何を、何をするのですっ」、
「令夫人のおしとやかさが頭にくるんだよ」
川田は、珠江夫人の上体をひっぺがすようにし、強引に肌襦袢を剥ぎとった。
「あっ」
珠江夫人は、ひきつったような声を出し、あらわになった乳房を両手で抱きしめる。
突然、獣の本性をむき出しにした川田達の残忍さで、珠江夫人は忽ち湯文字一枚残すだけに剥がれてしまったのである。
水色に白菊を散らした湯文字一枚にされた珠江夫人の素肌は、思った通り、眼に沁み入るばかりの冷たい白さと清麗な滑らかさを持っていた。
「さ、触らないでっ」
上へ引き起こそうと川田と吉沢が、その美麗な肩や背に手をかけると、珠江夫人は二人の手の中で、狂ったように体を揺さぶるのである。
「おい、朱美、縄をかせっ」
「あいよ」
朱美は、部屋の眼に用意しておいた麻縄の束を川田に投げつける。
「そら、おとなしく両手を後ろへ廻しな」
川田と吉沢は、必死に胸の隆起を押さえている珠江夫人の雪のように白い、陶器のように冷たい二つの腕を、強引に後ろへねじ曲げていく。
珠江夫人は苦痛と屈辱に美しい眉を寄せ、うめきつつ身悶えしたが、二人の男の力には勝てず背中の中程まで手首をねじり上げられてしまった。素早くそれに縄がかけられる。
「友子さんっ。ああ、直江さん!」
珠江夫人は、川田と吉沢にヒシヒシと縄をかけられながら望みの網の救援者である二人の女中の名をうわ吉のように呼ぶのだった。
「たまらねえな。きれいな肌をしてるじゃねえか」
がっちりと後手にきびしく縛り上げた珠江夫人の縄尻を、力一杯ひいて立ち上らせると、その幻想的なまでに色白の夫人の美肌に眼を見はった。
「ひとまず、そこの柱に」
田代はゆっくりと煙草の煙を吐きながら、土蔵の奥の一番高い祭壇のようになっている所を指さした。そこには、静子夫人と京子が数々のいたぶりを受け、苦悩の汗と脂を滲ませた二本の柱が立っている。
「あ、あなた達に、こんな辱しめを受ける理由はありませんわっ」
珠江夫人は、祭壊の上へ押し上げようとする川田と吉沢に抗って、必死に身を揺さぶっている。
「プツブツいわず、早く上らねえか」
川田と吉沢は、身を折りつづける珠江夫人を叱咤し、水色の湯文字に覆われたふくよかな腰のあたりを足で蹴った。
「あなた達は、け、けだものだわっ」
珠江夫人は、ひきつった声をあげて、がっちり左右から体を押さえこむ川田と吉沢を罵倒したが、遂に背を丸木の柱に押し当てられる。
川田と吉沢は馴れた手さばきで、別の縄を使い、珠江夫人を柱へ縛りつけるのだ。
珠江夫人は、憤怒と羞恥の入り混った悲痛な表情で血の出る程かたく唇を噛みしめていた。
まるで絹餅のように柔らかそうな二つの乳房の上下に、数本の麻縄をからませた珠江夫人は、陶器のように冷やかな裸身を口惜しさのため一層硬くさせ、白蝋のような頬を昂奮のため、わなわな慄わせているのだ。
「や、やめて下さいっ」
川田がニヤニヤしながら、珠江夫人の湯文字の紐に手をかけると、彼女はまるで火でも押しつけられたように狂おしく優美な腰を揺さぶって、網を裂くような悲鳴を上げるのだった。
「こ、これ以上、淫らな真似をなさると舌を噛みます」
川田は珠江夫人の激しい怒気にはじかれたように手を引いたが、すぐに笑い出した。
「静子も最初はお前さんと同じように気位の高い女だったぜ。それが今じゃ身も心も俺達に捧げ尽して一生懸命ここで働いているんだ。そのうち、きっとお前さんも♢♢−フフフ」
川田は、舌で唇をなめながら、白い頬をひきつらせている珠江夫人にいった。
田代がゆっくり台上へ上って来る。
「奥さん。約束じゃありませんか。その腰のものもこっちへ渡して頂かないと、ここにいる血の気の多い連中は地下のお嬢さんに対して何をしでかすかわかりませんよ」
珠江夫人の身につけているものを一枚残らずここで競売にする約束だった筈だ、と田代は口を歪めて笑うのだった。
珠江夫人が、こみ上ってきた憤辱に肩を慄わせ、美しい顔をねじ曲げるようにして、こらえ切れずに繊細なすすり泣きを始めると、川田と吉沢は、心地よい痺れを感じながら、
「泣いてばかりいちゃわからねえ。脱ぐのか脱がねえのか、はっきりしろい」
とわざと凄んで見せ、
「へへへ、俺達はな、お前さんみてえな気位の高い貴婦人や御令嬢の素っ裸が見たくて、うずうずしてるんだ。俺達の身にもなってくれよ」
などといって笑ったりする。
「待って、待って下さい」
珠江夫人は、再び、左右より、にじり寄って来た川田と吉沢に気づき、戦慄したように頬を震わせていった。
「もう少し、お願いです。時間を下さい。必ず、友子さんと直江さんはここへ参ります」
川田は、吹き出したくなるのをこらえて、田代の顔を見た。珠江夫人が、命の網だとしている鈍重な二人の女中は、葉桜団の振舞酒に酔い痴れ、二階のホーム酒場でとっくに酔寝している筈だ。
しかし、田代は、そんな事はあくまでもとぼけて、
「よろしい。じゃ、あと一時間だけお待ちしましょう」
といい、床の上に散乱している珠江夫人の色とりどりの衣類を銀子達に集めさせ、一か所へうず高く積ませた。
「つまり、奥さんに一時間、時間を稼がせてあげるわけです。その代り、それでも女中達が現われなかったら♢♢」
田代は、必死に顔をそむける珠江夫人を面白そうに凝視しながら、
「御主人にしかお見せにならなかったものを我々にも観賞させて頂く。いいですね」
珠江夫人の背すじに、いいようのないおぞましい戦慄がよぎった。
「それから、いいですね。地下のお嬢さんもここへ連れ出し、生まれたままの♢♢」
「わ、わかりましたわっ」
珠江夫人は、田代のネチネチしたいい廻し方を封じるように、強い語気でいった。
「友子さん達は、必ず参ります。何もおっしゃらず一時間だけ待って下さい」
珠江夫人は激しい調子でそう言い切ると、再び、さっと赤らんだ顔を横へそむけ、小さくすすり泣くのであった。
「僕達としては、女中がここへ現われないことを祈りたい気持ですな」
田代はそんな事をいいながら、楽しそうに腕時計に眼をやるのである。
うず高く積まれた珠江夫人の衣類の競売がまるで前座の余興のような調子で行われた。
「この豪奢なお着物はどうだ。裏地にしたって、緋に金小紋のついた豪勢なものだ。さすがに博士夫人のお召しになるものは違うじゃねえか。さ、誰か、いい値をつけてくれ」
吉沢が、ねじり鉢巻などして、おどけた調子でセリ売りを始める。
「私が全部引きとろうじゃないの。二十万でどうなの」
そういったのは、大塚順子であった。
「へえ、二十万。それなら、文句はありませんや。ねえ、社長」
吉沢は田代の方を向いて、ニヤリとした。順子は、ハンドバッグの中から札束を取り出して田代に波すと、花のように積まれた珠江夫人の衣類を抱きかかえ、柱に縛られている珠江夫人の、さも口惜しげな顔を楽しそうに眺めるのだった。
「約束通り、奥様のお着物は全部、私が買い取らせて頂きましたわ」
そして、順子は田代の顔を見て、おかしそうに、
「もうそろそろいいのじゃありません。奥様のお湯文字もこっちへ頂きたいわ」
田代は、顔をいやしげにくずして腕時計に眼を向けた。
「約束の時間には、まだ少し間があるんですよ。もう少し待ってやって下さい」
それから、田代は鬼源を呼び寄せて、ヒソヒソと後の打合わせを始めるのである。
「せいては事を仕損じるといいますからね。ま、あわてず、こちらのペースに巻きこんでいきましょうや」
鬼源は黄色い歯をむき出して笑い、田代の肩を叩くのである。
「あと十分だぜ。え、奥さん」
川田は、口笛を吹きながら腕時計を見、がっちり柱に縛りつけられている珠江夫人の周囲を浮き浮きした表情で歩き廻るのだ。
珠江夫人は、固く眼を閉ざし、何かを祈るように端正な顔を正面に向けている。
「何だかこう、体中がムズムズして来やがった。早く見てえもんだな」
吉沢がたまりかねたように、珠江夫人のたった一枚の布に覆われた腰のあたりに手を触れさせた。
「な、何をするんですっ」
この辺だろう、などと吉沢が湯文字の上から掌でさすると珠江夫人は、かっと頭に血がのぼったのか激しい声をあげて、電気にでも触れたように全身を痙攣させた。
激しく身をよじり、豊艶な腰を揺さぶったため、珠江夫人の白梅ちらしの湯文字の裾前はパッと左右に割れ、眼に沁みるばかりに雪白の美麗な夫人のふくらはぎから内臓のあたりまでが、あぶな絵のように露出する。
「こ、このように自由まで奪った女を、あなた達は嬲りものになさろうというのですか」
珠江夫人は、柳眉をあげ、端正な頬を蒼白にしてはじき出すようにいった。憤辱のためか、夫人の艶々しい肩のあたりが激しく息づいている。
しかし、吉沢と川田は、えへらえへら笑うだけで、乱れた湯文字の間からのぞいた内臓の、青く浮かび出た血管の模様のような美しさに見とれているのだ。
そうがっついちゃいけねえよう、と森田が川田と吉沢を制した。
「あと何分かたちゃあ、この奥様は、生まれたまんまの素っ裸におなり遊ばすんだ。悪戯してえんなら、それからの方が面白いんじゃないか」
それもそうだと、川田と吉沢はうなずいて珠江夫人より手を引いた。
「へへへ、といってるうち、あと三分だぜ。女中の事はそろそろ諦めた方がよさそうだな」
川田にそう浴びせられた珠江夫人は、心の軸がポッキリ折れたように深く首を垂れて、シクシクとすすり泣くのである。
♢♢貴方、珠江は一体どうすればいいの。ああ、早く助け出して。そうでないと、私、貴方の前へ出られない女になってしまいますわ♢♢
珠江夫人は動乱する胸の中で、血を吐くように囁くのだった。
「さ、時間がきたようですね、奥さん」
田代は含み笑いしながら、珠江夫人に近づき、腕時計を示した。
「約束の一時間がきましたよ。待てども援軍きたらず。お気の毒だが覚悟して頂きましょうか」
田代がそういうと、川田と吉沢は、再び、舌なめずりして、珠江夫人に迫り出したが、
「貰ったのは私よ」
大塚順子が、二人を押さえて、珠江夫人の前に立った。
「悪く思わないでね、奥様。このお湯文字、私が頂戴致しますわ」
順子は腰を低めて、珠江夫人の腰布の紐に手をかける。
「大塚さんっ」
順子が結び目をゆっくり解き始めると、珠江夫人は、さすがに狼狽し、上ずった声をはり上げた。
「あなたって方は、何という卑劣な人なの。ここにいる悪党達と一緒になって、私を笑いものになさろうというのね」
順子は、平然とした顔つきで、
「ま、何とでもおっしゃるがいいわ。千原流生花を応援して、湖月流を馬鹿にした罰だと思って下さればいいのよ」
順子の手で、遂に結び目が解かれ、たった一枚、珠江夫人の身を守る布はハラリと夫人のぴったり合わせている足首の上へ落下する。
うっと珠江夫人は羞恥に悶えて、美しい顔を横へ伏せた。
珠江夫人は、その下に和服用の薄いパンティをはいていた。
「こんなもの脱がせて頂戴」
順子は、傍に控えている川田と吉沢にいった。よし来た、と二人の男は左右よりゴム紐に手をかける。
優雅な線を描く腰部ょり、それがずり下げられて行き、艶美な雪白の下肢の下まで引き落とされて行くと、珠江夫人は火のついたように真っ赤になった顔を左右に振りながら、切なげな身悶えにすすり泣きの声を混じえるのであった。
反射的に珠江夫人はぴったりと太脇を閉じ合わせた。その附根に網のような柔らかさでふっくらと盛り上る漆黒の繊毛は思いなしかかすかに慄えていた。
「へへへ、どうだい。むしろ、さっぱりした気分だろう」
川田は眼を細めてすすり泣く珠江夫人を見上げるのだった。
珠江夫人の全裸像はどの部分を見ても、男心をうずかせるような煽情的な匂いに満ちていた。
男達は、ごくりと唾を看みこむのである。
「たまらねえな。綺麗な体をしてやがる。人妻とは思えねえぜ」
男達は吸い寄せられるように珠江夫人め傍へ寄って行く。
「ち、近寄らないで、寄らないで下さいっ」
珠江夫人は、男連中がぞろぞろ寄りたかって来ると、逆上したように緊縛された身を震わせて叫んだ。
「水くさい事いうなよ。眼の保養ぐらいさせてもらうぜ」
やがて男達は、いっせいに身をかがめて股間の附根を凝視し始める。
珠江夫人は、男達のそれに向けた射るような視線に狼狽して、なよやかな、線の美しい太腿を、しきりに、もじつかせるのだった。
突然、珠江夫人は、けたたましい悲鳴をあげて、狂ったように身を揺さぶった。
川田がいやらしく指を曲げて、夫人に触れようとしたのである。
「け、けだものっ」
珠江夫人は、川田に唾でも吐きかけるばかりの勢いで面罵した。
「けだものだと」
川田は、急に顔色を変え、いきなり珠江夫人の頬を激しく平手打ちする。
「よさねえか、川田」
森田は、いきり立つ川田を押さえていった。
「今夜のところは強引に出ねえ方がいい。奥様が裸になって下さっただけで充分だ」
「しかし、親分、俺はこの女のために♢♢」
川田は包帯した片手を森田に示し、これ位じゃ腹の虫が治まらねえ、というのである。
「わかってるさ」
森田は、川田の耳に口を寄せて、
「さっきも話したようにこの女は、最初、お前に抱かせてやる。今夜はもう遅い、明日の事にしろ」
苛酷な運命
揚戸の開く音。続いて階段を降りて来る何人かの足音。
牢舎の冷たい床に泣き伏していた美沙江はハッとして顔を上げた。
田代に森田、それから大塚順子達が何か高笑いしながらやって来たのだ。
美沙江は、ぞっとして、牢舎の隅に後退する。
「お嬢さん。面白いものを見せてあげるわ」
順子は、後ろを振り返って眼くばせした。
川副に縄尻を取られた珠江夫人が震える素足で石の階段を踏み、引き立てられて来たのである。
「さ、早く歩かねえか」
川田は珠江夫人の背を邪慳に押し立てる。
「あっ」
美沙江は無残にも後手に縛られた珠江夫人を見た途端、顔から血の気がひき、思わず振紬の袂で顔を覆ってしまった。
「さ、ここへいらっしゃい。奥様」
順子は、尻ごみする珠江夫人の艶やかな肩に手をかけて、美沙江の監禁されている牢舎の前へ充たそうとする。
「おば様を、こんな♢♢あ、あんまりです」
美沙江は袂に顔を埋めたまま、肩を慄わせて号泣するのだった。
珠江夫人は、川田や吉沢達に肩や背を押されて、美沙江の入っている鉄格子の前へすっくと立たされてしまったのである。
珠江夫人は、胸を美沙江の方に向けて立たされると、涙の滲んだ長い睫を固く閉じ合わせ、顔を横に伏せたままシクシクとすすり泣いている。妖しいばかりの優雅な悩ましさを持つ全身が、屈辱の極にブルブル震えているようだった。
「ねえ、お嬢様。おば様って、綺麗な体をなさっているわね。そう思わない」
順子はそういって、しげしげと珠江夫人を見つめるのだった。
美沙江の前に、身を晒さねばならぬ羞恥に珠江夫人は、体を捩ったり、美沙江と視線が合うのを恐れて、捩るように赤らんだ顔をそむけたりしているのだが、美沙江も、まるで自分がそうされてしまったように赤らんだ顔を横へそらし、慄えつづけるのだ。
「大分、夜も更けたから、お嬢様の方の着物の競売は明日にしたわ。みんな今夜はお嬢様もこうされるというので、楽しみにしていたんだけどね」
次に田代が、おびえ切っている美沙江を面白そうに見ながら、
「今夜は、おば様が身代りになって下さったのだから、お嬢様も明日は素直に脱いで下さらないと困りますよ」
そういって田代は、長い睫を慄わせてひときわ激しく泣きじゃくり始めた珠江夫人の横顔をちらと見て、川田に眼くばせを送った。
「来るんだよ」
川田は、夫人の縄尻をとって、珠江の牢舎へ押し立てて行く。
吉沢が牢舎の扉を開いた。
「入るんだよ」
川田が背を押すと、珠江夫人は、ふと牢舎の中を見てギクッとしたように足を止めた。
牢舎の中の周囲の壁には、ぎっしりと怪しげな写真が張りつけられてあった。壁だけではなく、床の上にも足の踏み入れる場がない程、男女がからみ合った卑猥な写真がばらまかれていたのである。
珠江夫人が土蔵の中で衣類を剥がれている間に、田代が井上に命じて、こういう細工をはどこしたのだったが、
「こういうものを毎日御覧になっておれば、退屈されないと思いましてね。それに、我々の仕事に協力しようという気分にも次第になってくると思うんです」
と田代は、太鼓腹を揺すって笑うのだった。
夫人は、冷たく整った頬を屈辱に上気させながら、憎悪のこもった眼を田代に向けた。
「あなたは人間じゃないわ」
「左様。私が如何に恐ろしい人間かは明日ぐらいから骨身にこたえる程、おわかりになると思いますよ。これ位で驚いちゃ駄目ですよ奥さん」
川田は、珠江夫人の怒りを含んだ硬質陶器のような容貌をふと腹立たしく思い、
「素っ裸にされても、クソ生意気な女だぜ。全く」
と吐き捨てるようにいうのだった。
羞恥と屈辱に打ちのめされ、みじめな自分に口惜し泣きするということがあっても、持ち前の驕慢さと負けん気の意志の強さで、それを押し殺し、屈伏の哀泣だけは流さない珠江夫人のふてぶてしさを川田は憎く思うのだ。
今に見ろ、電気に煌々と照らし出されたその下で、臓物までもむき出させ驕慢と虚飾の仮面を剥ぎとって、女であることの悲しさを思い知らせてやる、と川田はむきになるのである。
「一言、御注意申し上げておきますが」
と田代は、わざと慇懃な口調でいった。
「恐らく二人の女中はここへ戻って来ないと思いますよ。当てになさらない方がいいでしょう」
見る見る珠江夫人の表情は、血の気が引いたように強ばっていく。
「も、もしも、そうだとしたら、お嬢様と私は♢♢」
一体、どうなるのか、と後は言葉にならず、珠江夫人の唇は慄えるのだった。
「我々を騙した罰として、お二人とも我々の奴隷になって頂く。つまり、永久にこの屋敷へ住みこんで頂くってわけです」
「な、何ですって」
珠江夫人は、一瞬、目まいが起こりそうになるのを辛うじてこらえ、精一杯の反抗の色を顔に浮かべて、田代を睨むように見た。
「縄を解いてあげろ、川田」
田代に命じられ、珠江夫人の縛めを解いた川田は、すぐに夫人の肩や背を押して、強引に牢舎の中へ押しこむのだ。
ガタンと鉄の扉がしまり、吉沢がすぐに錠をかける。
珠江夫人は、ふくよかな胸を両手で覆い、牢舎の片隅へうずくまるように坐った。怒りと羞ずかしさのため、夫人の透き通るように白い背がブルブルと慄えている。
「ホホホ、檻に入った美しい人魚ってところね。かわいそうに、これからこのままお暮しになるのよ」
大塚順子は、鉄格子の聞から珠江夫人を見て溜飲を下げたように笑い出すのであった。
「この名札はここへ打ちつけておこう」
森田は小脇にかかえていた木札を、珠江夫人が監禁された牢舎の入口に釘と金槌を使って打ちこみ始めた。それには、太い墨字で、折原珠江(三十一歳)と書かれてあり、その下に、元医学博士夫人としるされてある。
「こうしてみりゃ、如何にも動物園だな」
森田は自分が打ちつけた木札を見て、ゲラゲラ笑った。
「動物なみで気の奉だが、便はこいつですましてくんな」
吉沢は、鉄格子の聞から古びた洗面器を投げこんだ。珠江夫人は振り向きもせず、牢舎の隅で身を縮めている。
「お嬢さんの方は、着物の競売がすむまで人間扱いにしてやろう。三時間毎に見廻りに来るから、お小用はその時にいうんだぜ」
森田は、美沙江の方の牢舎に向かってそういった。
順子や男達が立ち去ると、床に泣き伏していた美沙江はフラフラと立ち上り壁を叩いた。
「おば様、ね、おば様っ」
泣きじゃくりながら美沙江が必死に壁を叩くと、珠江夫人も、すすり上げながら、
「お嬢様。私、私、口、口惜しい♢♢」
と歯を噛みならし、こらえにこらえた働突が胸をついて溢れ出し、わっと両手で顔を葎って肩を慣わせるのだった。
「ど、どうして私達、こんな恐ろしい仕打ちを受けなきゃならないの。ね、おば様」
美沙江もキリキリと歯をきしませながら、冷たい壁に額を押し当て涙に咽ぶのだった。
互いの嗚咽の声が、一層二人の働突を引き起こし、涙はますます溢れ頬を伝わるのだ。
「何という恐ろしい人達なの。おば様をそんな羞ずかしい姿にしてしまうなんて」
そういって泣く美沙江であったが、明日はその恐ろしい運命が自分にもふりかかるのだ。
美沙江はふと鉄格子の上に泣き濡れた顔を向けた。そんな辱しめを受ける位なら、いっそ死んで♢♢と思った途端、帯紐を上の鉄の柵に結びつければ首を吊れることを思いついたのだ。
「おば様、許して。美沙江は、もうここで生きる勇気はないのです」
生恥を晒すぐらいなら、その前に自分の命を断とうと決心した美沙江は、帯のしごきを解き始めた。
気配を感じた珠江夫人は、
「いけません。いけません、お嬢様」
と、胸の隆起を押さえたまま立ち上った。
「お嬢様は私と同様、キリスト教信者ではありませんか。御自分の意志で命を断つなんてことは神に抗うことです。いけません、お嬢様」
珠江夫人は、狼狽して、身を鉄格子へぶつけるようにしながら隣の牢舎へ向かって声をはり上げるのだった。
「だって、だって、おば様」
「いけません。お嬢様。まだ望みを捨ててはいけません。明日になれば、きっと私達救われますわっ」
珠江夫人は、美沙江に希望をつながせるべく必死になって声をはり上げるのだった。
肉体の悪魔
翌日♢♢千代の部屋では、朝から千代に葉子、和枝、順子の四人が麻雀を始めていた。
ガチャガチャ、牌をかき廻す悪女四人は、もっぱら昨夜、珠江夫人に加えた、いたぶりを話題にしている。
「とにかく千原流の後援会長を素っ裸にして檻にぶちこんだのだから、あんたも溜飲が下がったろう」
と千代が順子に話しかけている。
「そりゃそうよ。それに今夜は、千原美沙江をむき上げるんだから、まあ笑いが止まらないといったところね」
ね、一寸、新聞をごらんよ、と和枝が傍にあった朝刊を順子に示した。
それには、昨日の千原流生花の新作発表会が家元の令嬢、和美沙江が最後まで姿を見せなかったため、収拾のつかない状態になったことを報じている。同時に、後援会長の折原珠江も遂に姿を見せなかったことも記事になっていた。つまり、かなり大きな見出しで千原美沙江と折原珠江の行方う不明を新聞は書き立てていたのである。
「ざまあみろといいたいわね」
順子は鼻で笑って、ぼいと新聞を横へ投げ捨てた。
「折原珠江と千原美沙江の二人が、この屋敷へ監禁されてるってことは、お釈迦様でも♢♢」
御存じあるめえ、と四人の悪女は嘲笑しながら麻雀を続けるのである。
その時、隣の部屋から襖ごしに、静子夫人の甘美な呻き声が聞こえて来る。
「い、痛いわっ。ねえ、やめて」
うるさいわね、と四人の悪女は顔をしかめて、襖の方を見た。
次の間では、静子夫人に対する朝の調教が春太郎と夏次郎によってすでに開始されていたのである。三日間は、千代達の監視のもとこの部屋に身柄を拘束され、調教を受ける静子夫人であった。
「何をしているんだろう。一寸、様子を見てみようか」
四人の悪女は、腰を上げた。
次の間の襖を開けた途端、千代と順子は、思わず口を手にあてて、ぶっと吹き出した。
天井よりたれ下がっている二本の鎖に身を支えられ、板敷の上に静子夫人は立たされていたが、その後ろにまるで守宮のように春太郎がまといつこうとしているのだ。
近くの椅子に腰かけて、それをぼんやり見つめているのは夏次郎であった。
「アナルセックスって案外むつかしいものなのね。もうそろそろ使えてもいい筈なんだけど」
と春太郎は、試みるのであった。
静子夫人は、美しい富士額にべっとりと脂汗を浮かべ、それでも最初は何とか与えようと美しいカーブを描くように回転させたりするのだったが、すぐにまた、拒否的に下半身を激しく震わせてしまうのだ。
「無理よ。ね、無理ですわ」
昂った声でそう叫んだ夫人は、世にも悲しげな顔になり、上気した頬をそむけて、シクシクすすり上げる。
そんな酸鼻な行為を強制されることが悲しいのか、努力しても受け入れられないのが口惜しいのか、そんな風に身を捩らせて嗚咽する静子夫人を、千代達はうずくような思いで見つめている。
「出来ない苦はないんだけどな」
春太郎は、夫人から身を引くと、不満そうに口をとがらせたが、部屋の中からのぞいている四人の女に気づくと、あわてて両手で隠した。
「嫌だわ。調教をごらんになるなら一言断わって下さいよ」
千代は、それに答えず仲間と一緒に部屋へ入って来ると、鎖に縄尻をつながれて立つっている静子夫人の周囲を取り囲むのだった。
夫人は、もう千代が眼前に顔を見せても、特別の感情は示さず、無言のまま視線をそらせるだけである。
「今朝の調子は如何、奥様」
千代は、口にした煙草に火をつけて、夫人の気品のある鼻先へぶっと煙を吐きかけた。
「今、どういうお稽古なさっていたの? ね、くわしく聞かせて頂戴」
千代に頬を指で押されても、静子夫人はただ美しい彫像のように黙ったままであった。
麻縄数本にきぴしく緊めつけられた夫人の胸は、珠江夫人の乗らかく半球型にふくらんだ端麗さとは対照的に、豊満に盛り上って妖艶さを感じさせる。下肢も珠江夫人のそれは華奢で触ると指が吸いこまれそうな粘着力を秘めていたが、静子夫人は見るからに肉感的で、むっちり肉がのり、心を溶かすような官能味を湛えているのだ。
昨夜見た珠汗夫人を思い出し千代と順子は、比較するようにまじまじと静子夫人を凝視するのだった。
「ちょいと、私が聞いてんのが、わからないのっ」
数々の責苦に遇いながらも、未だ損われない静子夫人の美貌に、またもや嫉妬がこみ上げて来た千代は、憎々しげに眼を閉ざしている夫人の横顔を睨み、次にぴったり閉ざしている優美な夫人の下肢に眼を落とした。それは数々の調教を受けたとは想像出来ないつつましさと、男心を挑発するような妖艶さを兼ねている。
二人の元大家の令夫人を一度コンビにして♢♢という着想が千代の脳裡をかすめた。
「何時までも黙っていちゃ失礼じゃないの。さ、御主人様にどういう調教を受けていたかお話して頂戴」
夏次郎が、静子夫人の艶やかな肩に手をかけるようにしていった。
静子夫人は、そっと眼を開くと、千代の方へ気弱な視線を投げかける。
強制され、叱咤されるまでもなく夫人の心には、もう千代に対する身構えなどなかった。川田や千代のいう事に服従することが、今の生甲斐みたいなものになったのかも知れない。朝早くからの調教で、全身が蒸されたように上気していた静子夫人は、そのあつい熱に息づくような潤んだ瞳で甘えるように千代を見たのである。
「お尻の穴を使って、あの♢♢」
後は言葉に出せず、ぼーと耳たぶを染めて千代より眼をそらせる静子夫人である。
千代は、そんな風に情感的に成長した夫人を見るのが好きであった。
眼を細めた千代は、
「それで、うまくいったの」
夫人は、羞ずかしげにうなだれて左右へ首を振るのだった。
「駄目、駄目でしたわ。ごめんなさい」
そういって、消え入るように頭を下げる静子夫人を見て、千代は、随分長い間かかったが遂に静子を屈服させたぞ、という何ともいえぬ爽快な気分になったのである。静子夫人は自分が奴隷であることをはっきり知悉し、千代を主人とも飼主とも感じるようになったのだ。精神的にも肉体的にも、遠山静子という女性はここに至り完全に生まれかわり、別個の女として再出発したのだ。そう感じた千代は、遂に勝った、という満足感で一杯になったが、わざとそっけない顔をして、
「駄目でしたわ、じゃすまないわよ。奥様」
と不満な口調でいうのだった。
静子夫人は、千代に強い言葉を吐きかけられても、柔らかい睫を悲しげに慄わせるだけで、空虚な表情をぼんやり前方に向けているだけだ。その夢でも見つめているような空虚な表情と、薄く開いた情感に潤んだような眼の色は、ふと、マゾヒズムの陶酔に没っているような感じに思われて、千代は、楽しい気分になるのである。
「あれだけ何度も浣腸させたりして、随分と鍛えてもらった筈なのに♢♢」
千代はわざと舌打ちして、量感のある夫人の尻をピシャリと平手打ちするのだった。
すると夏次郎が露に晒している春太郎の股間の肉塊を指さしてゲラゲラ笑いながらいった。
「お春。それじゃ駄目よ。昨夜の飲み過ぎで、あんたのそこ、全然、元気ないじゃないの」
夏次郎にそういわれて春太郎は自分のそれを握りしめて、
「成程、これじゃ駄目ね。全然、元気がないわ」
と、苦笑した。
「あなた達、やっぱり相手は男性でなきゃ、その気が起こらないんじゃないの」
と、千代がからかうようにいうと、
「あら、私達、両刀使いで有名なんだけど」
と、春太郎はすねたような言い方をして、また、不思議そうにだらりと伸び切った自分の肉塊を手でつかんでみたりした。
そこへ、ドアをノックする音がする。
千代は、いいわ、入ってらっしゃい、と声をかけ、春太郎達にいった。
「そのお稽古代に奥様にはいい相手を選んであるのよ」
ドアを開けて、お早ようございます、と、入って来たのは銀子であった。
銀子の後に続いて入って来たのは朱美に義子だが、この二人は全裸の文夫を引き立てて来たのだ。麻縄で後手にきびしく縛り上げられた全裸の文夫が縄尻をとる朱美に邪険に背中を突かれるようにしてよろけるように部屋の中に入って来ると春太郎と夏次郎は歓声を上げた。
「逢いたかったわよ、文夫さん」
「相変らずハンサムねえ」
まるで恋人が出現したように春太郎と夏次郎は文夫にまつわりつくのだ。
連日の調教によって文夫も新しい性の斜面を知覚するようになったのか、被虐的な柔順さが身についてきたようだ。以前のようにすぐに反撥を示すような気迫といったものは喪失し、マゾの快感というものも知覚するようになってきたようだ。
薄く眼を閉ざしている文夫の彫りの深い気品のある横顔を春太郎と夏次郎は頼もしげに見つめている。
「ね、千代奥様」
と、春太郎は千代の方に眼を向けて、
「私達に何時、この文夫さんを下げ渡して頂けるのですか」
と、質問する。
静子夫人のその部分を調教させるのも結構だけれど、文夫さんにも調教しなきゃ、と、春太郎はいった。お客の中にはそんな癖のある人もいる筈だから文夫さんにもお尻を使うコツをそろそろ教える必要があるでしょう、という春太郎に千代は、
「それを一番、使いたがっているのはあなた達でしょう」
といって順子達と一緒に笑った。
「それはもう少し、おあずけね。今、文夫は女達の稽古代としてモテモテなんだから」
と、銀子は春太郎に向かって冷やかにいった。
「おかまのお相手が出来る程、閑じゃないのよ、文夫は」
と、朱美も春太郎にいった。
この種の変質者というものは銀子や朱美にとってはあまり気分のいいものではないのだろう。
「そうなの、稽古代として文夫さんは女奴隷達の役に立っているのね」
と、千代は銀子にたずねた。
「そう。たとえばフェラチオにしたってその稽古代が鬼源さんと文夫さんじゃ、正に月とスッポンの差でしょう」
銀子はそういって朱美と一緒に笑い合った。
「美津子にしたって桂子にしたって、相手がこのハンサム少年だからこそ稽古に励むのよ」
今度、誘拐した千原流のお嬢様だって、この文夫が稽古代となったなら案外と素直に調教を受けてくれるんじゃないかしら、といった銀子は次の間の方を指さして、
「静子夫人はあそこなの」
といって、文夫の縄尻を手にとった。
「今日のお相手は美津子や桂子のような若手じゃなく、脂の乗り切った人妻よ。たまには熟女のお相手もして頂かなきゃあね。しかも、元はといえば大会社の令夫人」
銀子がそういうと文夫はふと顔面を硬化させて、
「静子さまの事ですか」
といって全身を硬くした。
「ああ、紹介しなくたってこのお坊っちゃまは静子夫人の事はよく御存知よ」
と、かっては遠山家の女中であった千代が銀子に教えた。
姉の小夜子は静子夫人の日舞の弟子であり、何度か文夫は姉に連れられて遠山家をたずねた事もあると千代に聞かされた銀子は、
「ああ、それなら話が早いわ」
と、満足そうにうなずいた。
文夫が、静子さま、という呼び方をした事で小夜子と同様、彼女の弟の文夫も静子夫人に対しては畏敬の念を持ち、上流の貴婦人として敬っていた事が銀子には想像出来た。
「そう、今日のお相手は静子さまよ。あなたのお姉様が師事されていた御大家の令夫人よ」
と、朱美はおびえ切った表情になっている文夫をおかしそうに見ていった。
「今日はね。女奴隷にフェラチオの練習をさせるんじゃないのよ。何しろ、相手は大物なのだから」
朱美は文夫の耳元に口を寄せて小声でささやくようにいうと文夫はぞっとしたように顔面を強ばらせた。
「相手はベテランよ。奥様の方がちゃんとリードして下さるわよ」
どのようにリードするか、今、義子に続いて春太郎と夏次郎の二人が次の間に入って行ったのはその手管を夫人に教示するためであるらしい。次の間から静子夫人の嗚咽の声が流れてくる。
「さ、文夫さん、入ってらっしゃい。奥様はあなたを稽古代にする事、納得して下さったわ」
春太郎に手招きされて銀子に縄尻をとられた文夫は夫人が待ち受ける次の間へ引き立てられていく。
静子夫人は天井よりたれ下がる鎖に縄尻をつながれ、板敷の上に大きく両肢を割った形で立位につながれていた。
こちらに背面を見せて人の字型に固定されている上背のある裸女が静子夫人であるのに気づいた文夫は狼狽気味に視線をそらせた。
深く首を垂れさせてシクシクとすすり泣く静子夫人の南側には春太郎と夏次郎が得意げにつっ立っている。
「文夫さん、もうお姐さん連中から事情は聞いたでしょう。今日は文夫さんにこの奥様のお尻の方を使って遊んで頂こうと思うの」
千代は文夫に向かってそういうと文夫の方に向けている静子夫人の量感のある婀娜っぽい双臀をぴしゃりと平手で叩き、クスクスと笑った。
「これからはお客様相手にこの奥様はお尻の方も使って森田組のために働かなきゃならないのよ。昨日一日、春太郎さん達の調教を受けてかなり穴を拡げたんだけど、テストしてみなきゃあね。最初から捨太郎みたいな馬並みのものをぶちこませるのはかわいそうだし、だから文夫さんに稽古代として登板して頂く事になったわけよ」
銀子も静子夫人のその官能味のある盛り上った双臀を掌で心地よさそうに撫でさすりながら文夫の蒼ざめた表情を楽しそうに見ていった。
「ね、御大家の美しい令夫人に対し、家柄のいいハンサムな美少年、調教用としては理想的なカップルじゃない」
そういって銀子が笑うと耐えかねたように静子夫人は激しく黒髪を揺さぶって悲痛な声を出した。
「お願いです。文夫さんにそんな汚らわしい真似はさせないでっ。鬼源先生だって、捨太郎さんだってかまいません。私、一生懸命、お稽古に励みますから、文夫さんにはそんな事はさせないで」
静子夫人は開股位に立位でつながれた裸身を激しくよじらせて号泣するのだ。
「よくもまあ、そんな勝手な事がいえるもんだ」
と、いきなり鬼源の声がした。朝から酒気を帯びている鬼源は片手に一升瓶を持って何時の間にかのっそり部屋に入って来たのだ。
「一寸、様子をのぞくために入って来たんだが、そんな汚らわしい事とは何だ。俺や捨太郎なら汚らわしい事をさせられても文夫にはさせられねえってのか」
鬼源はむっとした表情でがなり立てると夫人の双臀を強く足で蹴り上げた。
「そうよ。鬼源さんが怒るのは当然よ。いたいけな少年の心を踏みにじりたくはないというお気持かも知れないけど、文夫は今ではすっかり心がけが治って日夜、マゾ少年としてすっかり成長しているのよ」
銀子はそういって、その訳拠を見せてやるわ、と、文夫の縄尻をとって夫人の前面像の方へ引き立てていくのだ。
「いきなり後ろから突きまくるってのは芸がないものね。一度、奥様のその美しい乳房から茂みまで文夫にすっかり見せてやってよ」
自分の正面に縄尻をとられた文夫が姿を見せると夫人は端正な頬を朱に染めてあわて気味に視線をそらせた。
「さ、文夫さん。奥様のその綺麗な身体を見てここを固くしましょうね」
銀子に縄尻をとられてそこに立たされた文夫の股間の肉筒を朱美は軽く手でまさぐりながら淫靡に笑った。
「顔をそむけ合っている見合ってのはおかしいぜ」
鬼源は必死に視線をそらし合っている夫人と文夫を交互に見ながら舌打ちしていった。
「よ、文夫のおチンチンを見な。あれがケツで咥えられるかどうか、眼でしっかりたしかめろ」
と、鬼源は夫人の顎に手をかけて強引に顔を起こさせた。
文夫も鬼源に叱咤されて夫人の方に哀しげな潤みを湛えた視線を向けた。
何かを訴え合うような悲哀を滲ませる視線を二人が合わせあうと、千代はまた、文夫が遠山家に来遊した当時の事を楽しそうに銀子達に語って聞かせた。
「お姉さんの小夜子さんと一緒に奥様に招待され、ホテルの一流レストランでお食事した事もあったわね、文夫さん」
と、千代は夫人と潤んだ悲哀の眼差しを合わせている文夫の気品のある横顔を見つめながら懐かしそうにいった。
「そう、そう。高校でフランス語を選択する事になったといって、試験の前日に奥様に教わりに来た事もあったじゃない」
ほんとに、あの頃の事、ついこの間みたいな気がするわねえ、と、千代はわざとらしく溜息をつくようにいったが、今、涙に濡れた眼を見交している夫人と文夫にはその当時の事が倒錯した脳裡の中に去来したのかも知れない。
へえーと銀子は感心したようにうめいた。
「じゃ、小夜子嬢にとっても文夫にとっても、静子奥様は師匠筋に当たるわけね」
それが、おマンもおチンも丸出しの素っ裸で対面するなんて、夢にも思わなかったでしょうね、と銀子は甲高い声で笑った。
「以前は語学の先生だったかも知れないけど、今ではもっと楽しい事を奥様は教えて下さる筈よ」
朱美は文夫にそういってから次に静子夫人の熱い耳元に口を寄せて、
「ただ、顔を見つめ合っているだけじゃ、お話にならないじゃないの。ベテランの貫禄を示して文夫を煽らなきゃ駄目よ」
これだってショーに使えない事はないのだから、と、こういう事に関してはコーチ役である朱美は夫人に文夫の煽り方を教えるのだ。静子夫人に媚態や痴態を演じさせて文夫の欲情を掻きたてる♢♢それが女愚連隊達の狙いであった。
「さ、始めて」
と、朱美は夫人の片頬にもつれかかった黒髪をかき分けるようにして催促したが、煽られるまでもなく文夫は静子夫人の両肢を左右に割ったあられもない全裸像を正面に見て先程より全身が汗ばむばかりの情欲のうずきを感じとり、切なげに息づき始めている。文夫の股間の豊かな茂みの間より垂れ下がっていた肉棒ははっきりと起立を示しているのだ。
見つめ合うのだ、と、鬼源に叱咤されて互いに涙ぐんだ視線をふと合わせ、すぐにその視線をまたそむけ合う令夫人と美少年を千代や順子達は痛快そうに見つめている。
「まあ、おいしそう」
春太郎は文夫の股間の肉棒がもう熱気を持って吃立し始めたのを眼にすると舌なめずりするような表情で文夫に身を寄せつけていく。
「ちょっと、まだ手を触れないでよ。今、調教中なんだから」
朱美はそっと腰をかがませた春太郎の手が文夫の突起したそれに触れようどすると、あわててその手を払いのけるようにした。
「奥様が以前の教え子と久方ぶりの対面をなさっているのょ。邪魔しないで頂戴」
朱美はそういって次に朱に染まった頬を横に伏せて羞じらいを示す夫人に、
「さ、奥様、お言葉を頂きたいわ」
と、再び、催促した。
「文夫さん、ね、静子をはっきり見て。駄目、男の子がそんなに羞ずかしがるんじゃないわ。さ、静子の♢♢」
と、いいかけて夫人は哀しげに眉根を寄せ、自分も文夫から眼をそらして羞恥に身を揉むのだったが、朱美は、もう、奥様はプロなのよ、自分で羞ずかしがっちゃ、話にならないじゃない、と、叱りつけるのだ。
静子夫人は人間的な思念を投げ捨てたように凍りついた表情を作り、さっと顔を上げた。
「さ、文夫さん。静子のお××こをはっきり御覧になって」
と、声を慄わせていうと、開股位につながれ虹弼銚をょじらせて腰部を文夫の方へぐっと突き出すようにするのだ。
文夫は一瞬、ショックを受けてはじかれたようにおびえた顔を起こし、ぐっと腰部を突き出し、その部分を誇張的に示そうとする夫人の方に眼を向けた。
「うん、私だけにこんな羞ずかしい恰好をさせるのはずるいわ。文夫さんも股を開いて、私にはっきりおチンチンを見せて頂戴」
静子夫人のその思いがけない言葉に文夫が衝撃を受けた事はたしかだが、千代も順子も驚いた表情になり、次には肩をよじらせて笑いこけるのだ。朱美に強制されたとはいえ、そんな大胆な言葉を吐くまでになった静子夫人に千代は頼もしさめいたものを感じた。
「そら、静子さまが股を開いてもっとはっきり突き出してみろとおっしゃっているじゃない」
春太郎と夏次郎は文夫の両馳に左右から手をからませてぐっと割り裂いていく。
千代は文夫の悲壮味を帯びた彫り深い横顔に見入りながら、
「ね、文夫さん。これで今の静子夫人の正体がよくわかったでしょう。美貌と教養を備えてあなたには天使のような人に見えていたかも知れないけど、今はあのざまよ。腰を突き出して、静子のお××こ、はっきり見て、だなんて、調教によっては、天女に見えていた女もあんなふしだらな女になってしまうのね」
と、皮肉っぼい口調でいうのだ。
千代のその言葉を耳にした夫人の眼尻からは大粒の涙がしたたり落ちた。しかし、すぐにその涙を振り払うように夫人は潤んだ瞳を文夫に向けて、
「文夫さん、お願い。静子のここをしっかり見ながら文夫さんのペニスをもっと硬く、大きくしてほしいの」
と、悲痛な声音を出した。
「そう、静子さまは、ああ、おっしゃってるからピンピンにしましょうね」
春太郎はそういって淫靡な笑いを口元に浮かべながら左右にたぐり寄せた文夫の両肢の太腿、内腿の筋肉を掌で撫でさすり、熱気を帯びたたれ袋の下に掌をそっと当てがって玉を軽く転がせるように微妙に撫で上げるのだった。春太郎の微妙でソツのない、ゆるやかな手管によって文夫の情感はムズムズ掻き立てられ、忽ち、肉棒は膨張を示し、生肉の先端は怒張を示し始める。
文夫は熱っぽく息づきながら、静子夫人の数本の麻縄を上下に巻きつかせた情感的な美しい乳房、鳩尾から腰部にかけての悩ましい曲線と絹餅のようにふっくらした腹部、左右に割り開いた乳色の優美な太腿、そして、ぐっと誇張的に押し糾した厳の附根の丸味を帯びた艶っぼい繊毛♢♢などを粘っこい瞳で喰い入るように見つめているのだ。
「そら、奥様。文夫さんはあんなに大きく、固くして見せてくれているわ。奥様も固くなったクリトリスをお返しに文夫さんにお見せしましょうよ」
朱美が耳元でささやくように何か語りかけてくると夫人はうなずいて文夫の方へ情感に溶けて妖しい光の射す瞳を向けた。
「嬉しいわ、文夫さん。静子のために、そんなに固くして下さったのね。それじゃ、静子もお見せするわ」
夫人はぐっと腰部を更に押し出すようにすると、
「朱美さん、お願い。静子のこの茂みの奥の割れ目を拡げて、文夫さんにお見せして」
と、薄紙を慄わせるような声音を出した。
千代と順子は呆然とした顔つきになっている。強制されたとはいえ、夫人が淫婦めいた媚態や痴態を文夫に示している事が何だか信じられない思いになる。
朱美と義子が腰をかがませて夫人の夢幻的にふっくらと盛り上った繊毛を掌で撫で上げ、指でかき分けて女の小高い丘の割れ口を押し拡げていく。柔らかい肉襞まで露に晒させた義子は、
「そら、文夫。よう見るんや。奥様があんたに特別に貝柱まで見せてやるというてはるんや」
と、文夫に声をかけ、夫人のその淡紅色の潤んだ花肉の上壁部より微妙に吃立をのぞかせている陰核を指先を使って絞り出すように露呈させた。
「見て? ああ、見て、文夫さん。静子だって、こんなに固くしちゃってるわ」
と、淫魔にでもとり憑かれたように夫人は腰部を悩ましく揺さぶって文夫を挑発するのだ。
鬼源は春太郎の掌だけで肉襞をさすられている文夫の肉棒がもう反り返るばかりの怒張を示しているのに気づくと二人のシスターボーイに眼くばせした。
「もう充分だ。奥様のケツを使わせな」
美少年
文夫は銀子に縄尻をとられて次に静子夫人の背面に引き立てられていく。
「もう説明しなくたってわかっているわね。奥様の名器を観賞して充分に固くなった男の武器で突きまくるのはここよ」
朱美は静子夫人の官能味を帯びて息苦しいばかりに盛り上った双臀を両手で軽く叩くと、次に春太郎と夏次郎が夫人のその双丘に左右から手をかけてぐっと露に押し開かせる。
「ね、わかるでしょう。ここの穴よ。昨日、一日がかりで磨きにかけたから充分に口は開いているわ。おびえなくてもいいわよ、ベテランの域に達した奥様が優しくリードして下さるわ」
そういった銀子は文夫の背中をポンと押して夫人の優美な背面に文夫の胸を押しつけた。
これから立位でつながれた夫人と後背位で文夫が一つに合体すると思うと千代も順子達も嗜虐の悦びに酔い痴れて、
「朝からこんな面白いものが見られるなんて、私達は幸せねえ」
などといいながら背面と胸をぴったり触れ合わせている二人を取巻くようにする。
背と胸を触れ合わせたまま、夫人と文夫は今まで必死に耐えていたものが崩壊したように激しく嗚咽し、全身を慄わせていた。
「ああ、許して、文夫さん。静子はこんな恐ろしい女になってしまったのよ。でも、あなたまでこんな事に引き込む事になるなんて、お願い、静子を恨まないで」
嗚咽と共に慄える夫人の乳色の肩先に文夫も額を押し当てて泣きじゃくっている。
「僕こそ、静子さまにこんな犬みたいな真似をするなんて、これが現実の出来事だとは思えない。許して下さい」
鬼源は泣きじゃくっている二人を眼にして、
「馬鹿野郎。こんな時に愁嘆場を演じる奴があるかい。早くつながらねえか」
後手に縛り上げられたままの美貌の令夫人と美少年を後背位で合体させる♢♢これはショーの出しものとしても面白いかも知れぬ、と感じながら鬼源は急に調子づき、片隅に転がっていた青竹を取り上げるのだった。調教師としての本領を発揮する所と見たのか、威嚇的に鬼源は板敷の上を青竹で叩いた。
「奥様がこの美少年を甘くリードするのよ。ショーを演じると思ってベテランの貫禄を示して頂戴」
と千代は楽しそうに声をかけ、義子が運んで来た椅子に腰をかけて見物しようとしている。
「文夫さん、静子は淫婦になってあなたのお姉様を奪ったわ。今度は弟のあなたまで奪うのよ。覚悟してっ」
静子夫人は恨みとも呪いともつかぬ、せっぱつまった声を出すと、頬にまで伝わる乱れ髪をさっと払いのけ、悲壮味を帯びた顔面を上げた。
「さ、静子を犯すのよ」
と、それを強制するかのように夫人は文夫の股間の肉棒を求めて双臀をモソモソ揺れ動かせた。文夫も悲痛な決心をしたように顔を起こすと緊縛された裸身をよじらせて夫人の深い翳りを含んだ双臀の割れ目へ怒張した肉棒を突き立てていく。
「駄目っ、違うわ、もう少し、下を狙って」
静子夫人がむずかるように美しい眉根を歪めて腰部をよじらせ、双臀をうねらせて文夫のそれを引きこもうとしているのを眼にすると室内に笑声と嬌声が渦巻き昇った。
「文夫さん、しっかりっ」
「奥様もがんばってっ」
千代や順子達は、変な押しくらマンジュウね、などといって笑いこけている。
何とか一つにつながろうとして背面と胸をこすり合わせ、腰部を共にねじり合わせている令夫人と美少年の狂態、それを取り囲んで弥次り、哄笑する悪女達、室内には異様な昂奮の熱気が充満した。
もうじっとはしていられなくなったのか、春太郎と夏次郎はモソモソ動き出して、あせり気味に腰部の表裏をすり合わせている二人に身を寄せつけていった。
「まだ、的に入らないの、文夫さん」
「そりゃ、そうね。こうしてお互いに後手に縛られているんだもの。お尻と腰だけ使ってつながそうというのが無理よ」
などといいながら、春太郎は夫人の汗ばんできた双丘に両手をかけて割り、夏次郎は文夫の硬く吃立した肉棒を手につかんで菊座の陰口を狙わせようとした。
すると夫人は乱れ髪をはね上げるようにして、手を出さないでっ、と二人の変質男に向かって叱咤するようにいった。
「あ、あなた達の助けはいらないわ。私達だけにしておいて下さい」
激しく息をはずませながら、ふと、怒りを含んだ夫人の妖しい潤みを帯びた瞳に射すくめられて春太郎と夏次郎は思わず手を離した。
「ああ、そう。人の恋路の邪魔をしないで、というわけね」
二人は夫人の昂った神経を感じて苦笑しながら手を引いたが、同時に夫人は、さ、文夫さん、と、励ますように文夫に声をかけ、固く硬直した文夫の肉棒へ挑みかかるように汗ばんだ双臀をすりつけていく。
文夫は夫人の乳色の柔軟な肩に額や鼻先を荒々しくこすりつけながら激しく腰部を使って肉の矛先を夫人の双臀の割れ目へ突き立てたが、ふと、それを菊座の陰口で受けとめた夫人は、
「待って、文夫さん、そのまま、動かないでっ」
と、昂った声をはり上げた。
夫人はそれがはっきり的に触れたのを知覚すると文夫の動きを封じさせて熟っぼく喘ぎながら双臀を上下に揺らして菊座の微妙な筋肉を収縮させながらそれを吸いこもうとしている。文夫は自分を粘っこく吸いこもうとする夫人の肛門の軟化した筋肉の収縮をはっきりと感じとった。その微妙な軟体動物のような収縮と緊縮感に文夫は驚き、同時に息づまるような異様で妖しい快美感を知覚した。
ゆるやかに双臀を動かしてわずかずつ吸い上げた夫人は急に昂った声をはり上げた。
「さ、文夫さん。突いてっ、思い切り突くのよっ」
夫人にけしかけられたように文夫は狼狽気味になって一気に挑みかかった。
「もっと、もっと、強く」
文夫は歯を喰いしばり、必死になって突いて出る。
「ああっ、文夫さんっ」
文夫のそれを深々と受け入れた夫人は上体をのけぞらせるようにして苦痛とも悦びともつかぬ悲鳴に似た声で叫んだ。
それは夫人にも信じられない事で、文夫の火のように熱く、鉄のように硬い肉棒がその微妙な粘膜を突き破って直腸にとどくばかりに侵入してくるとは。激烈な痛みと被虐性の妖しい快感とが同時に炸製し、腰骨まで破け散るかに思われて夫人は一瞬、眼が眩んだ。
「入ったの、ね、奥様、入ったの」
と、春太郎は緊縛された上体を大きくのけぞらせて喘ぐ夫人の汗ばんだ美しい横顔をのぞきこむように見ていった。
静子夫人はさも切なげに眉根を寄せ、キリキリ奥歯を噛み鳴らしながらうなずいて見せた。
その途端、春太郎も夏次郎も、やった、と歓声を上げた。
「私達が一生懸命、調教した甲斐があったというものね。これで安心したわ」
春太郎はそういって後背位で文夫としっかりつながった夫人の妖艶さと悲哀さが滲み出た火照った横顔をうっとりした表情で見つめながらいった。
夫人のねっとり脂汗を珍ませた乳色の背すじに文夫の緊席された胸がぴったりと重なり合って二人はこの痛烈な汚辱感と狂おしい快感とに全身を大きく波打たせている。文夫は夫人の汗ばんだ乳色の肩先に額を押し当て、静子さま、静子さま、と上ずった声を出しながら嗚咽しているのだ。
「ケツに嗟えこんだままじっとしていたって芸がなさ過ぎるじゃねえか。犬の方がましだぜ」
と、鬼源はせせら笑って、
「そら、お互いに仲よくケツを動かして楽しみ合わなきゃ駄目だ」
と、どなった。
「そうよ。奥様。悩ましくお尻を使ってあげて文夫さんにこってり射精させてあげなきゃ」
立位で直結したまま熱い息を吐き合い、汗ばんだ肩先を波打たせて静止している夫人と文夫に向かって女達は一斉にはやし立てた。
夫人は菊座の微妙な蕾を女の性器にかえて文夫の熱くて硬い矛先で突き破らせたという恐怖の故か、時々、戦慄を伝えるるように文夫のそれを深々と咥えた双臀をブルッと痙攣させていたが、やがて、鬼源や女達の要求に応じるかのよう喘ぐような息使いと一緒に文夫を咥えた双臀をゆるやかにうねらせた。
文夫がそれにつられて腹部を強くよじらせると夫人は火でその部分をえぐられるような痛みを感じるのか喰いしばった歯の中で絶息するようなうめきを洩らした。
「静子さま、大丈夫ですか」
文夫は苦しげに喘ぐ夫人が気になって押して出ながら夫人の耳元に口を寄せておろおろしてたずねたりする。
「大丈夫ですわ。静子、これで充分、感じていますわ。それより、ねえ、文夫さん」
こんな方法でも文夫さん、感じて下さる? と夫人が熱い喘ぎと一緒にいうと、文夫はええ、何だか、僕、身体が痺れる位に気持がよくて♢♢と、声を慄わせていった。
「静子が汚らわしい事、させているとは思わない?」
「そ、そんな事、思わない」
「嬉しいわ。じゃ、お互いにうんと楽しみ合いましょう。ね、いいでしょう、文夫さん」
夫人はこの異常な悦楽の陶酔の中に文夫を溶けこませ、自意識を喪失させる事が文夫にとってはせめてもの救いになると悟ったのだろう。それには自分が淫婦になって文夫をキリキリ舞いにさせるより方法はないと夫人は半ば捨鉢の度胸をつけて、もっと、もっと、強く突いて、と、文夫にせがむように口走り、深々と咥えこむとそれを微妙な陰口と筋肉を収縮させて緊め上げながら官能味のある双臀を弧を描くように悩ましくうねり舞わせるのだった。そして、夫人は何時しか文夫を煽情させるつもりが、逆にこれまで知った悦楽とは違う異質の悦楽を文夫に教えられた気分となる。
「ああ、文夫さん。ど、どうすればいいの、静子、こんなに燃えちゃったじゃない」
夫人は意味にならないうめきを洩らしつつ、双臀を大きくうねらせて文夫の押して出る矛先と呼応した。生まれて初めて味わった陰密で、奥深い被虐性の快感が荒波のように押し寄せてきたのだ。
静子夫人の振り乱す黒髪は背後から責め立てる文夫の顔面にも降りそそぎ、文夫は夫人の甘い黒髪の香料に更に酔い痴れて、ああ、静子さま、と、喘ぎながら遮二無二、責め立てていく。文夫から思い知らされるこの陰密で妖しい快美感に夫人はのたうち、若い文夫の腰の力で菊座の快楽源にくさびを打ちこまれる毎に夫人は血のような喘ぎと啼泣を洩らした。腰骨は痺れ切って最初に感じたその部分の痛さはなくなり、代って名状の出来ぬ妖しい陰密な快美感だけが腰から背骨にまで突き上げてくるのだ。
千代は椅子から腰を上げると狂態を晒し合う二人を楽しそうに見つめながらその周囲をゆっくり廻り出した。
背面から文夫を受け入れて汗みどろになってのたうつ夫人と、夫人を背面から突き通して獣のようにうめきつづける文夫。それは千代の眼に双臀と腰部を押しつけ合い、揺さぶり合っている雄、雌の淫獣のように映じた。
千代は激しく息づいて文夫の責めを受け入れている静子夫人の前面に廻りこんだ。板敷に両肢を大きく割ってつながれている夫人の乳白色の太腿にも陶器のような下肢にもねっとり脂汗が珍んでいる。
「フフフ、ねえ、奥様。フランス語を教えていた文夫さんと、まさか、こういう関係を結ぶ事になろうとは夢にも思わなかった事でしょうね」
千代は嗜虐の悦びにどっぷり没りこみながら夫人を揶揄したが、夫人の膝元に腰をかがませていた義子が煙草を灰皿に押しこんで、
「ちょっと千代夫人。この奥様、えらい気分を出してはるわ。そら、固くなったお核をニューと突き出したりして」
ちょっと見てみなはれ、といって義子は夫人の両脇の間にこんもりと膨らむ漆黒の繊毛を指先でかき分け、じっとり潤んだ花肉の合間よりナッツ状の突起を見せる陰核を千代の眼に示すのだ。
どれ、どれ、と順子も葉子も千代に寄り添うように腰をかがめてのぞきこみ、まあ、お見事なクリトリス、といって笑い合った。
「後ろの穴を責められると、余程、気分がおよろしいようね、奥様。まあ、あんなにまた膨らませて来たわ」
三人の鬼女達にこんな嘲笑や揶揄を浴びせられても静子夫人は背後から押して出る文夫の腰の動きに合わせて割り開いた乳色の太腿をよじらせ、双臀をくねらせるだけで、魂まで溶けこませたように恍惚とした表情を見せているだけだ。
「まあ、もう、ぐっしょりよ。やっぱり春太郎さん達がいう通り、お尻の穴だってこの奥様の立派な性感帯になっているのね」
千代はそっと指先を触れさせてみて、もうそこがしどろに熱く濡れているのに気づくと指先をハンカチで拭きながら立ち上り、
「ね、奥様。これで小夜子をものにし、次に小夜子の弟の文夫までものに出来たわけね。美人とハンサムを自分のものに出来るなんて、ほんとに幸せな方だわ」
と、からかうようにいったが、夫人はぬーと自分の顔をのぞきこんでくる千代に熱っぽく潤む黒い瞳をそっと向けるだけで半ば意識が薄れて来たのか、空気か水でも見るように表情一つ変えなかった。今、ここにいるのは文夫と自分の二人きりと、思いこみたかったのか。夫人は背後から責め立てる文夫の息使いが急速に荒々しくなり始めると文夫の射精が間近い事を感じとり、
「いいのよ、文夫さん、おいきになっていいのよ」
と、声を上ずらせて夫人は誘いこむようにいった。
銀子達は一斉に笑い出した。静子夫人のその状態における、おいきになって、とか、お出しになって、とかいう如何にも上層の令夫人的な言葉の癖がおかしくてならないのだ。
朱美が言葉使いを真似て、いいのよ、いいのよ、文夫さん、静子のお尻の穴へどばーとお出しになって、と、声をはり上げ、一座の者を笑わせた。
静子夫人の背面に狂おしく身を押しつけていた文夫は自分が抜き差しならぬ状態に追いこまれた事に気づくと、ハツとしたように全身を硬化させて動きを止めた。
「駄目、文夫さん。どうして、ためらったりするの」
と、夫人はむずかるように身をよじらせ、射精を一瞬、ためらって気持をそらせようとした文夫を憤り立てるように再び、狂おしく双臀を揺さぶり出した。
こんな浅ましい恰好で狂態を演じ、犬のような行為で文夫を自失させるなど、若い文夫の心に傷をつける事になるのでは♢♢それを恐れながら夫人は激しく泣き、
「文夫さんが射精して下さらないと私達、何時までもこんな姿を晒していなけりゃならないのよ」
ね、お願いですから、気をやって、文夫さん、と、うわ言のように口走った静子夫人は自棄になったように双臀をうねらせ、文夫のそれを更に奥へ引きこもうとした。夫人の固く緊まった陰密な菊花が双臀のうねりと共にキューキューと強く筋肉を収縮させて自分の肉を緊めつけるのを知覚した文夫はぐっと情念が昂り、
「ああっ、静子さまっ、いくっ、僕、いくっ」
と、絶息するような鋭いうめきを洩らして夫人の乳色の柔軟な肩先に歯を当て、夫人の双臀に密着させた腰部を激しく痙攣させた。
「ああっ、静子も、いくっ、いきますっ」
静子夫人は文夫の相つぐ発作をその陰密な粘膜の内側にはっきりと知覚するとこの世のものとは思われぬ痛烈で、そして麻薬的な妖しい快感に火柱のように燃え上った全身を文夫に合わせるように痙攣させた。
「ま、そこだけで女は気をやる事が出来るの」
と、千代が鬼源を見て呆れたようにいうと、
「そう、そこに敏感な女はそこを使われるだけで気をやっちゃいますよ。証拠をお見せしましょうか」
鬼源は立ち上って悦楽の陶酔に浸っている静子夫人の耳に口を寄せ、ニヤニヤしながら何かささやきかけ、
「千代夫人や順子女史の御機嫌をこういう機会には徹底してとっておくものだ」
と、いい聞かせるようにいった。
その部分へ文夫の熱い体液が激しく注入されてくる汚辱の感触、それは妖しく異様な心地ょさにつながり、夫人は身も心も溶けこませたようにうっとり眼を閉ざしていたが、やがて、薄く夢見るように恍惚の潤みを湛えた熱っぼい瞳を開くと、
「文夫さん、嬉しいわ。文夫さんの熱いものが静子の身体に入っていくのが、よくわかったわ。でも、こんな事をさせてしまった静子を恨まないで下さいましね」
と、唇を小さく慄わせていい、次に鬼源に催促されて前に膝をくずしている三人の鬼女達の機嫌を取るためにその情感に酔い痴れたような熱っぼく潤む黒眼を彼女達に向けるのだ。
「若い文夫さんとこうした契りを結ばせて下さった千代さん達に静子、心から感謝致しますわ」
と、カスれたような声音でいい、次に、傍で足を投げ出していた春太郎達に向かって、
「ね、春太郎さん、も一度、千代さん方に静子の身体の奥まではっきりお見せして」 と、甘く、低い声音でいった。
あいよ、と、春太郎と夏次郎はようやく自分達にも仕事が廻って来た事を悦び、ついと腰を上げると、夫人の大きく割り開いた両脇の左右へ腰をかがませるようにして、噴き上げた熱い樹液でじっとり濡れた夫人の生温かい繊毛を指先でさすり上げ、薄く割れ口を開いた女の小高い丘を露にさせた。一寸、拡げるわね、と、春太郎が指先で割れ口を開花させると淡紅色の花肉は粘っこく潤んで先程、のぞかせたナッツ状の固い陰核は更に膨張を示して、ヒクヒクとさも羞ずかしげな慄えを見せている。それは今、極めた絶頂感の余韻を伝えるものと千代達にはわかったが、まあ、はしたない、などと千代はわざとらしくハンカチを口に押し当てるのだ。包皮をはじけさせて固く吃立させた肉芽をヒクヒク痙攣させている夫人のその部分を春太郎は指先を使って観察し、樹液の豊かさも調べて、
「はんと、この奥様。完全に気をやっているわ」
と、千代に報告している。
文夫は背後から銀子と朱美に肩を支えられたり、縄尻を引かれたりしてようやく夫人の背面から引き離されたが、そのまま、腰くだけになったように足元をふらつかせて床の上に腰を落としてしまうのだった。
「しっかりおしよ。若いのにだらしがないじゃないか」
と、朱美は精魂を使い果たしたように苦しげに息づく文夫の肩に手をかけて揺さぶるのだ。
「奥様の方を御覧。あんたの精気をお尻の穴で吸い取った後、千代さん達にクリトリスをヒクヒクさせて見せ、御機嫌をとっているじゃない。ベテランの大スターともなればああして休む間もなく働かされているんだよ」
と、いって朱美は前面像を千代達の好奇な眼に晒し、こちらには背面を向けて相変らずの立位の開張縛りにされている夫人を指さしたが、夫人の丸みを持って仇っぼい双臀の割れ目よりミルクにも似た文夫の体液が糸のようにしたたり流れているのに気づくとあわてて腰を上げた。
「嫌ね、床を汚してもらいたくないわ」
朱美と義子はチリ紙を敗枚も使ってとめどなくしたたり落ちる粘っこい美少年の体液を拭い取るのだ。
「ちょいと、文夫。よっぼど気分がよかったんやろ。ようけ出したから見てみい。一寸や、そっとでは始末出来んやないの」
と、義子は舌打ちして、
「そやけど、この高貴な令夫人のお尻にピュツ、ピュツとはじきこんだ時の気分はどうやった、文夫。最高の感激と違うか」
と文夫の赤らんだ横頬を見て朱美と一緒に笑い合った。
「どれ、一寸、見せてみろ」
鬼源が夫人の後ろに廻って腰をかがませると、いきなり腎部の双丘に手をかけて割り裂き、文夫の肉棒の責めを受けて戦い抜いた夫人の肛門を点検しようとしている。
「ほう。大分、口が開いたようだな」
夫人の菊花の蕾はその筋肉をはじかせて暗く秘密っぼい小孔をぽっかり開かせた感じ、赤く腫れ上っているものの小さな孔口を露に晒しているのを見てとると鬼源は満足げにうなずいた。
義子はそれを見て、奥様も大変やね、と笑い出す。
前の割れ目を拡げてお核は点検されるわ、後ろの割れ目も開げてケツの穴も点検されるわ、で、もう無茶苦茶や、と、いって笑うと、それを耳にした千代がつられて哄笑し、
「そんな事いうものじゃないわよ、義子さん。この奥様だってね、今はこうして元女中の眼に大きなおマメをのぞかせて機嫌をとって下さるけど、元はといえば遠山財閥の令夫人、晋通の男なら影も踏む事だって♢♢」
と、いい出した時、今までがっくりと虚脱したように深く首を垂れさせていた静子夫人は耐え切れなくなったようにさっと顔を上げた。
「やめてっ、千代さん。もう遠山家の事は口になさらないでっ。もう私とは関係のない事ですわ。私はこうして身も心もあなた方の奴隷になっているじゃありませんか」
と、涙声になって口走った夫人は自分がどのような淫らで、みじめな女奴隷に仕上げられたか、それを千代にはっきり認識させようと捨鉢になった。こんな女に誰がしたのか、それは千代に対する静子夫人の一種の逆襲のようなものだった。
「ね、春太郎さん、かまいませんわ。もっと割れ目をひろげて、静子のその羞ずかしい、ク、クリトリスを千代さんや大塚さんの眼にはっきりお見せして」
御立派だとか、形がいいとか、そんなに女の陰核みたいなものにこだわるならばはっきり見ればいいのだと夫人はこの三人の鬼女達に挑みかかる気になったのかも知れない。
「ま、ま、奥様。そんなに自棄になる事ないじゃないの」
「でも、窮鼠、猫も噛むという事もあるわ。千代夫人も一寸、静子夫人をいじめ過ぎよ」
と、春太郎と夏次郎は静子夫人がふと自棄気味になって千代に反撥を示した事をむしろ面白がり、
「でも、奥様が時々、そうして怒った顔を見せるの、私、大好きよ。眼に怒りが滲むと、ぞっとする程、色っぼく見えるのですもの」
と、春太郎は夫人の熱っぼく潤んだ黒眼にキラリと燐光のような怒気が一瞬、走ったのを見てゾクゾクした気分になり
「それじゃ、ベテランの女奴隷の貫禄を示して、千代夫人の方にぐっと腰を突き出すようにして下さいね。どうだ、このお××こが眼に入らぬかといった風に名器をひろげさせるのよ」
と、いって千代や順子を笑わせた。
静子夫人は春太郎に指示されるまま、割り開いた乳白色の両脇をうねらせるようにして千代達の眼前に誇張的に恥部を晒すよう、ぐっと腰部を押し出すようにした。
「さ、千代さん、大塚さん、うんとお笑いになって。今では静子、こんな淫らなポーズだって平気でとれるようになりましたわ」
嗜虐魔達に挑みかかるようにそう口走った静子だが、かっての女中の前で、このような痴態を演じるようになった自分、この世の出来事ではないような気がして夫人はスーと気が遠くなりかけた。
第七十章 木馬と願望
地獄の門
津村義雄の寝室に当てられていた二階の一室を川田は一日借り受け、珠江夫人に対して恨みを返すことになった。
「ここは、小夜子を骨抜きにした色地獄の間とでもいう所かな」
義雄は、川田に色々と部屋の構造を説明する。ベッドのシーツを義雄が剥ぐと、四隅には仰臥した生贅を大の字に引き裂くための皮ベルトが取りつけてあった。その上、ベッドの横には生贅の両肢を更に大きく割るためのハンドルがあって、それを操作することによって生贅の足首を縛った及餌は自由に伸び縮みするようになっている。
「こりゃ面白いや」
川田は、ハンドルを動かしながらホクホクした顔つきになった。
更に川田が驚いたのは、ベッドの真上の天井に張りつけてある大鏡である。
「このベッドに、あの気位の高い折原夫人を縛りつけるのだと思うと、何だか、今から胸がわくわくして来ましたょ」
川田は、楽しそうにベッドの上を叩くのである。
「こんなものもあるんだよ」
義雄は、一方の壁を覆っているカーテンを引いた。すると等身大の鏡が現われる。その二米ばかり手前には、天井に打ちこまれている鉄環に先端をつながれたロープが二本、不気味に垂れ下がっていた。
「成程、寝鏡もあれば立鏡もあるってわけですね」
「僕は小夜子を、この鏡の前で剃ってやったよ。なかなか愉快だった」
義雄はその時の事を思い出して、ニヤリと口元を歪める。
「じゃ俺も、折原夫人をここで剃りあげることにするか。だが、俺をハジキで射ち殺そうとしゃがった女だ。ただ、剃り落とすだけじゃ面白くありませんからね。一本一本引き抜いてやろうかと思ってるんですよ」
ハハハ、義雄と川田は顔を見合わせて笑った。
「折原夫人は、千原流の後援会長として、湖月流を敵視し、ケツの毛まで抜こうとしたという罪名で、大塚女史に折原夫人のヤツの毛を引き抜かせるというのはどうだい」
義雄はそんな事をいって腹をかかえて笑うのである。
「そりゃ傑作だ。何としても実行させましょうや」
と川田も手を叩いて笑いこけるのだ。
そこへ、葉桜団のズベ公達が、よいしょ、よいしょと、掛け声を出して大きな木馬を押して来た。
「ごくろうだったな。そこへ置いてくれ」
川田は、ズベ公達が運んで来た木馬を部屋の隅へ押し進めて行く。
「木馬責めにもかけるとは、なかなか念の入ったことだな」
と、義雄がいうと、川田は手を振って、
「いや、これはそんなものに使うんじゃなく、折原夫人のおまるなんですよ」
へ、おまる? と義雄が不思議そうな顔をすると、川田は、卑屈な笑い方をして、
「鬼源が発明した、貴婦人用のおまるってわけで」
木馬資めの木馬ってのは、それに乗せられる罪人に苦痛を与えるため、大抵、荒けずりされているものだが、それは丸太に角材の足を四つ取りつけただけの簡単なものであった。だが、丸太の背の中央部には大きな穴が開けられていて、この穴の上に折原夫人を乗せ上げれば、それで立派に彼女のための便器になる。と川田は、得意になって、義雄に説明するのだ。
「ね、おわかりでしょう」
川田は、木馬にあけられた穴の下へバケツを置いて義雄に示した。
「こうして、穴の下の床へバケツを置いておけば、あの令夫人、大きい方でも小さい方でも、自由にたれ流すことが、出来るってもんですよ」
そういって川田が高笑いした時、今度は田代が鬼源と一緒に入って来る。
「お申し込みの品物を今朝方、取り寄せておいたぜ」
鬼源は、小脇にかかえていた風呂敷包みの中から、大きな皮箱を取り出した。
「一体、何なの、それ」
と、のぞきこんだ銀子や朱美は、鬼源が皮箱から抜き出したものを見た途端、
「まあ、いやらしい」
と肩をすくめて笑い合うのだ。
「アメリカ製で、三万円からする代物なんだぜ。どうでい。この削り具合。まるで本物そっくりだろう」
鬼源は、ふざけてそれを朱美に押し当てた。
キャーと悲鳴を上げてとび過った朱美は、
「冗談じゃないよ。こう見えても、こっちは日本娘だからね。そんなごっついアメリカ製が合うわけないよ」
と、ムキになって怒るのだ。
鬼源は、それにかまわず、次に好奇の眼を向ける男達に見せびらかし、
「こりゃアメリカの女の兵隊のために作られたっていう代物ですが、実によく出来ていましてね。温めた牛乳なんかを、こっちの方から注ぎこんでおきますと、一層、効果があるんですよ」
鬼源は、用意して来た牛乳瓶を風呂敷の中から取り出すと、横の穴口からゆっくりと注ぎこんだ。そして、わざと川田の方へ差し向け後ろについているボタンを押した。
「あっ」
と川田は、顔に牛乳をひっかけられびっくりする。
田代も義雄も、ズベ公達も大口を開けて笑いこけた。
「まるで、水鉄砲だな」
田代は感心した顔つきで、そのアメリカ製の玩具を取り上げ、も一度ボタンを押すのである。かなりの勢いで再びそれは発射された。
「ね、よく出来てるでしょう。それにどうです。この先端の固くもなく、柔らかくもない感触。三万円の値打ちはあると思いませんか、社長」
と鬼源は悦に入っている。
「こんなものを使われて、あのツンと取りすました折原夫人だって、さめざめと女らしく泣き遊ばすに違いありませんぜ」
「だが、最初からこんなもので責めるのはどうかな。あれだけ自尊心の高い貴婦人だ。頭にきて、狂い出しちまうんじゃないか」
「ま、その点は俺に仕せておいて下さい。社長」
川田は、田代の手から玩具を取り、愉快そうに眺めながらいった。
「それから社長。今日一日だなんてケチな事をいわず、あの女、三日ばかり俺に預けちゃくれませんか」
手傷を受けた恨みと、この種の女に落とすべく肉と心を改造してやるため、三日間徹底した訓練を施してやりたい、と川田はいうのである。
「あの令夫人は、ニグロとコンビを組ませる予定なんです。だから、早いとこ、みっちり仕込み上げなきゃ」
と鬼源も田代にいうのだった。
静子夫人も、千代の部屋へ三日間拘束されて、特別調教を受けているのだから、珠江夫人も少なくとも三日間はこの部屋へ拘束させて欲しいという川田の要求なのである。
「いいだろう」
田代は、うなずいた。
「その代り、商品として通用するような身体に、早く仕上げるんだぞ。鬼源と吉沢を川田の助手ということにしておこう」
へい、わかりました、と鬼源はペコリと田代に頭を下げた。
静子夫人は、千代達、女三人に調教指導され、珠江夫人は川田達、男三人に恐ろしい調教を施されることになったのだ。
「そう決まれば社長、善は急げといいますからね」
川田は、うずうずして、土蔵の地下に監禁してある珠江夫人をすぐこの部屋へ移したいという。
「じゃ、お迎えに行くとするか」
田代は、煙草を横に咥えながら、先に立って歩き始めた。
土蔵の地下室♢♢二つ並んだ牢舎の、中の山つには千原美沙江が涙も涸れた空虚な瞳をぼんやり宙に向けながら悄然と坐り、隣の牢舎は珠江夫人が、隅の壁を背にして身を縮めている。茎のように細い、華奢な両手を交錯させて胸を押さえ、繊細な美しい曲線を持つ二つの太腿をすり合わすようにして立膝している珠江夫人は、何か悲しい思い出にでも浸っているかのように涙に潤んだ綺麗な睫をそよとも動かさずに、じっと一点を見つめているのだった。
「おば様、ね、おば様」
隣からの美沙江の喉をつまらせた声に珠江夫人は、ふっと自分を取り戻したように顔を上げた。
「おば様、大丈夫? 寒くありません」
「こんな姿にされてしまった羞ずかしさと口惜しさで、寒さなど感じるゆとりもありませんわ」
珠江夫人は、そういって気弱な自嘲を含めた笑いを口にした。
「私、何だか恐ろしい夢を見ているような気がするのです。夢なら、ああ、夢なら、早く覚めてほしいわ」
美沙江の断続的なすすり泣きが、また聞こえてくる。
「お嬢様、気を強く持たなければいけませんわ。今日は必ず、私達、救われます。希望を捨てないで下さい」
半分は羞ずかしさと悲しさで気が狂いそうになる自分を励ますつもりで美沙江にいったのだが、昨夜、遂にここへ姿を見せなかった女中の事を考えると、珠江夫人は、暗い疑惑に心臓が再び高鳴り始めるのである。だが、これから身に振りかかる恐ろしい運命を珠江夫人は夢にも想像出来なかっただろう。
「誰か、誰か来ますわ、おば様」
美沙江が、おろおろした声を出した。
かなりの人数の、階段を降りて来る足音がする。
珠江夫人は、さっと全身を硬直させ後退りすると、壁の方を向いて、再び、小さく身を縮めた。
田代に川田、吉沢、鬼源の四人がゆったりとした足どりで入って来、その後に、銀子に朱美、マリ達が大塚順子と何か面白そうに語らいながら入って来たのだ。
美沙江も珠江夫人も、生きた心地はなかった。
彼等の中には、やはり友子や直江の姿は、なかったのである。
「気の毒だが、お二人とも、とうとう救いの神に見放されたようだな」
田代は、二つの牢舎をのぞきこみながら、おかしそうにいった。
ヒィーと悲鳴に似た泣き声をあげ、美沙江は袂で顔を雇ってしまう。
「こうなりゃ、あんた達二人、こっちの好きなようにさせてもらうぜ」
吉沢は、鼻の下をこすりながら、得意になっていうのだ。
「ホホホ、ね、そこにいらっしゃる折原夫人。そんな所で小さくなっていず、こっちをお向きなさいな。お尻ばかり向けているなんて失礼よ」
大塚順子は、珠江夫人を鉄格子の間から見て楽しそうにいった。
「奥様の方は、これからすばらしい所へ御案内するぜ。さ、出て来な」
吉沢は、夫人の牢舎の錠前を外した。
「よ、出て来るんだよ」
しかし、珠江夫人は、壁に顔を向け、立膝したまま動こうとはしなかった。
「おい、聞こえないのか」
吉沢は、手にした麻縄の束をくるくる廻しながら、顔をしかめて叱咤する。
「では、何か着るものを与えて下さい」
珠江夫人は、相変らず胸を両手で覆いながら、冷やかな口調でいった。
「着るものを寄こせだと」
川田が舌打ちして、つかつかと夫人の牢舎へ入って来る。
「相変らず生意気な女だぜ。手前、俺にあんな事をしておきながら、よくそんな勝手な事がいえたもんだ」
川田は、いまいましそうな顔つきで、透き通るように白い光沢を持つ夫人の肩先をどんと手で押した。
珠江夫人は、肩を押され、背中を突かれても、優雅で白蝋のような頬を凍りつかせ、ぐっと屈辱に耐えて唇を噛みしめている。
「奥様のお着物は、私が競売で全部引き取らせて戴いたじゃありませんか。そら、一寸ごらんになって」
大塚順子は、何時の間にか、珠江夫人の着ていた藤色の繊縮緬をちゃっかり着こみ、同じく黒の丸帯までしめていた。
「どう、私にこの着物、似合うかしら」
順子は、珠江夫人の前へやってくると、しなを作り、くるりと一回転して見せる。
珠江夫人はふとそれに眼をやると、さも口惜しげな顔つきになり、奥歯をキリキリ噛みしめるのだ。
「こういう立派なお召物を着た時の奥様は、まるで博多人形みたいな美しさだけど、生まれたまんまの姿になられた奥様だって素敵だわ。ほんとに宝石のような綺麗な肌をなさってらっしゃるんだもの」
順子は、そんな事をいって、チラと吉沢の方に眼くばせをした。
珠江夫人の背後に廻っていた吉沢は、いきなり、さっと身を沈めると、乳房を覆っていた夫人の優美な両腕を抱き上げるようにし、素早く後ろへねじ曲げたのである。
あっと珠江夫人は驚きと狼狽に満ちた声をはり上げたが、かまわず吉沢は背中へねじった夫人の両手首を重ね上げる。川田も鬼源もかけ寄って吉沢に手を貸し、キリキリと夫人を後手に縛りあげていくのだった。
「何を、何をなさるのっ」
と、激しい身悶えをくり返す珠江夫人を、ようやく後手にきびしく縛り上げた男達は、胸の上下へ巻きつけた麻縄に手をかけて、強引に夫人を立ち上らせる。
「こ、こんな姿のまま、何処へ、何処へ私を連れて行こうというのですっ」
珠江夫人は、左右から体に触れさせてくる男達の手を必死に身を捩って払いのけながら狂ったように叫ぶのだ。
「うるせえな。来りゃわかるよ」
川田と吉沢は、珠江夫人の縄尻をつかみ、まるで牛でも追い立てるように牢舎の外へ押した。
「一寸待って」
と銀子は、外へ連れ出されようとしている珠江夫人の前に立ち、ジーパンのポケットから、ハート型をした薄手のバタフライを取り出した。
「向こうの部屋へ行きつくまでの間、これを貸してあげるわ」
それを鼻先へ押しつけられた珠江夫人は、ひきつったような顔になる。
珠江夫人の両肩を左右からがっしり押さえつけている川田と吉沢に、しっかり押さえていてね、といった銀子は、朱美と一緒に夫人の足元へ身を沈めて、とりつけにかかるのだった。バタフライの紐が通されるのを拒否する珠江夫人を鍛子は笑った。
「あら、隠さず、見せびらかして歩きたいとおっしゃるの」
珠江夫人は、たまらなくなって、真っ赤に上気した顔をさっと横へそむけ、さも口惜しげな涕泣を洩らすのだった。
「フフフ、そんなに羞ずかしがることはないわ。ね、いい子だから」
珠江夫人は、繊細な頬の線を慄わせながら全身を充血させて、この辱しめを耐えているのだ。
「まあ、よく似合うわ」
仕事をすませた銀子と朱美は、顔を見合わせて笑ったが、とりわけ喜んだのは大塚順子であった。
「博士夫人のバタフライをつけた姿って、おつなものね。一度、奥様の御主人にお見せしたいものだわ」
と笑いこけ、
「さ、一度、この傑作な姿をお嬢さんにお見せしましょうよ」
と、珠江夫人の滑らかな背中を押し、美沙江が閉じこめられている鉄格子の前へ正面に向け、引き立たせたのだ。
「ああ、な、何というむごい事を♢♢」
美沙江は、血の気のひいた顔つきで、恐怖にわなわな唇を慄わせ、打ちのめされたように顔をそらせてしまう。
珠江夫人も、固く眼を閉ざし、この憤辱に肩を慄わせているのだ。
全身、雪を溶かせたような滑らかな肌、麻縄で痛々しいばかりにくびれた胸の隆起、ハート型にふちどられ、挑発的な桃色のバタフライを妖しいばかりに優美な腰へぴったりとはかされている珠江夫人である∵
必死に美沙江の視線から顔をそらせている珠江夫人を心地よげに横から見つめていた順子は、
「どう、折原の奥様。三十歳になって初めてストリッパーの姿になった心境は? 若返ったみたいで満更、悪い気はしないでしょう」
そういって、珠江夫人の可愛い臍を指で突くのである。
「大塚さん」
珠江夫人は、耐えかねたように眼を開けると、肩のあたりを怒りに震わせて、
「このような辱しめを私に与えて、それで貴女は楽しいのですか。貴女は狂人だわ」
強い語気で、反撥するようにいったものの珠江夫人は、今にもどっと溢れ出そうになる涙をこらえて歯をキリキリ噛みしめている。
「何をいってるのよ。奥様が本当の辱しめを受けるのはこれからなんですよ」
と、順子は、せせら笑って、
「さ、向こうの部屋へ連れて行きましょうよ」
と川田の方を見るのである。
「さ、行こうぜ」
川田と吉沢の手が再び、珠江夫人の肩先にかかる。
順子は、牢舎の中に、よよと泣きくずれている美沙江に向かっていった。
「これから三日間、折原夫人はあちらのお部屋で女として修業をつまれることになったのよ。しばらく、奥様とは逢えなくなるけれど淋しがらないでね」
珠江夫人が男達に取り囲まれて連れ去られようとすると、美沙江は泣き濡れた顔を上げ、鉄格子に両手で取りすがった。
「嫌っ、嫌ですっ。お願い、おば様を連れて行かないでっ」
と、せっぱつまった声をはりあげた。
「お嬢様っ」
珠江夫人は、男達に縄尻を引かれながら、のけぞるように振り返る。
「決して、決して短気を起こしちゃいけませんわ。どんな事があっても、生きるのよ。いいですわね。必ず救われる時が♢♢」
すすり上げながら、哀しげな言葉を吐いて美沙江を励まそうとする珠江夫人だったが、
「うるせえな。早く歩かねえか」
と、吉沢は邪慳に、夫人の縄尻を引っ張るのだ。
地下の階段を取り朗む男達の手で、押し上げられるようにして登って行く珠江夫人は、やがて、竹薮のわきの小道を白い素足で踏みしめながら、美しい象牙色の頬を硬く凍りつかせ、屠所へ向かう小羊のように、たどたどしい足どりで歩き始めるのだ。
バタフライのビニールの紐を深く喰いこませている珠江夫人に眼を落とした川田は、何ともいえぬ甘い陶酔がこみ上げて来て、唇を舌でしめすのである。
「一体、どこへ私を連れて行こうというのです。はっきりおっしゃって下さい」
珠江夫人は、じっと前方へ眼を注ぎながら冷やかな口調で、左右に寄り添う男達に声をかける。
「行きゃわかるさ」
と男達はニヤニヤする。
珠江夫人は再び冷たい凄艶な表情で黙々と歩きつづけるのだ。
木馬
珠江夫人は、大理石のような冷たい横顔を一層、硬く蒼ざめさせて、冷たい石畳の上を歩まされて行く。
左右に寄り添うのは川田、吉沢、鬼源の三人である。
「さ、ぐずぐずせず早く歩きな」
バタフライの紐を深く喰いこませている珠江夫人の美しい双臀をピシャリと平手打ちして川田はせせら笑った。
後手に緊縛された珠江夫人は庭から渡り廊下へ押し上げられ、二階へ向かって階段を歩まされる。
津村義雄の寝室のドアが川田の手で開けられる。
「さ、ここだぜ、奥さん」
珠江夫人は、男達の手で透き通るように白い背を突かれ、よろよろと中へ足を踏み入れた。
珠江夫人は室何の異様な雰囲気に息を呑み、全身を石のように硬化させた。
まず、眼に入ったのは、丸木の四つの足を取りつけた不気味な木馬。四隅に皮ベルトが取りつけてある大きなベッド。天井にはめこまれた大鏡。
冷たい彫像のように押し黙ったままの珠江夫人の表情が急に動揺し始める。
「へへへ、今日から三日間、奥さんは俺達三人とここで暮すんだ。女としての修業をみっちり積ませてやるからな」
川田は、さも嬉しそうにそういった。
「じゃ、まず、この木馬トイレに乗っかって頂こうじゃねえか。昨夜からまだおすましになっていねえようだからな」
鬼源がいって、木馬を指さした。
「あっ、くそっ」
いきなり、珠江夫人が隙を見て走り出したのだ。
部屋を飛び出した珠江夫人は、二階の階投をつんのめるようにしてかけ降りて行く。
「まだ、逃げられると思ってやがんのか」
吉沢は眼を血走らせて、必死に珠江夫人を追いかける。
「全く手古ずらせやがる。くそっ、もう手加減はしねえぞ」
川田も眼を怒らせて、珠江夫人を追った。
珠江夫人も必死であった。
野卑な男達三人の嬲りものになる位なら、いっそ舌を噛んで、と思うものの、地下牢に閉じこめられている美沙江の事を思うと、何としてでもこの地獄屋敷から脱出し、助けを求めて、美沙江をはじめ静子夫人達を救出しなければ♢♢。血走った気分となり、土壇場へ来て、再度逃亡を計った珠江夫人である。渡り廊下より、もう一度、庭園に飛び降りようとした珠江夫人は、あっと小さく叫んだ。
廊下の柱より出た釘が、バタフライのビニールの松をひっかけたのである。
珠江夫人は、狼狽し優美な柳腰をもどかしげに揺さぶって釘をふり切ろうとする。
それを見た吉沢と川田は、声をあげて笑い出した。
「こいつは傑作だ。随分気のきくバタフライじゃないか」
余裕たっぷりにニヤニヤしながら、ゆっくり近づいて来る男達を見て、珠江夫人の顔は口惜しげにひきつる。
「ざまあ見ろ」
川田は、珠江夫人の肩をつかもうと手をのばした。
悪寒のようなものを感じて、珠江夫人は狂気したように身を揺さぶった。
「さ、皆んな。この女を担いでくれ」
川田と吉沢、それに鬼源は珠江夫人を寄ってたかって抱き上げる。
「♢♢誰か、誰か、助けてっ」
もう見栄も体裁もなく珠江夫人は、少女のような悲鳴を上げたのである。
「笑わせるない。誰に助けてくれといってるんだよ」
川田と吉沢は、珠江夫人の繊細な肩と優美な腰に手をかけ、どっこいしょ、と横抱きにする。
珠江夫人は、遂に三人の男達の肩に高々と担ぎ上げられた。
再び、二階の津村の部屋へ運び込まれた珠江夫人には、もはや、平常の冷たい表情は見られず、美しい細い眼をおびえたように大きく見開いている。
「まだ観念することが出来ないの」
大塚順子が入って来た。
「いい加減になさいよ」
ヒステリックに叫ぶと順子は、ピシャリと珠江夫人の頬を平手打ちした。
キッとした表情になって珠江夫人は大塚順子に妖しいばかりに鋭い視線を向ける。
「大塚さんっ。私は、私は貴女を呪います」
「ああ、気のすむまで呪うがいいわ」
大塚順子は声を立てて笑った。
「三日もここで暮しゃ、そういう生意気な口はきけなくなるさ」
川田と吉沢は、木馬の前に珠江夫人を押し立てる。
「さ、こいつに乗るんだ」
「嫌っ、嫌ですっ」
珠江夫人は、木馬を眼にすると、全身総毛立つ思いで尻ごみするのだ。
鬼源は踏台を持って来て木馬の横へ置き、川田と一緒に珠江夫人を追い上げる。
「さ、大きく足を開いて、しっかり乗りな」
踏台の上に乗せ上げられた夫人の尻を鬼源はピシャリと叩いた。
珠江夫人の美麗な象牙色の頬は、全く硬化して、死人のように灰色になっている。
「その穴のあいている所へまたがるんだぜ。下にはそら、バケツが置いてある。大きい方でも小さい方でも、御自由にたれ流すことが出来るってわけさ」
昨夜よりその自由さえ許されず、珠江夫人は生理の苦痛と闘っていることは事実であった。べっとり脂汗を浮かべた額、時折、ブルブルと慄える腰のあたりがその苦痛を証明している。
「おっと、こりゃ失礼。バタフライをつけたままじゃ出来ねえわけだ」
吉沢と川田は、左右から珠江夫人の腰に手をかけた。
「や、やめて下さいっ」
珠江夫人は反射的に身をすくませたが、すぐにビニールの紐は吉沢の手で素早く解き放されてしまう。
「♢♢ああ」
と、珠江夫人は、ねじ曲げるように顔をそむけ、真っ赤に上気して、か細いすすり泣きの声を洩らした。
「何も今更、そう羞ずかしがることはねえじゃねえか」
吉沢の手で、それはズルズルと、ねっとり光沢を浮かべた下肢まで引き下げられていく。
「こっちは、やりやすいようにしてやってるんだぜ」
それを足首から外し取った吉沢は、ポイと無雑作に床へ投げて哄笑するのだ。
「まあ、可愛いわ。そら笑窪があるじゃないの」
大塚順子が珠江夫人の雪のように白い、絹餅のように柔らかな双臀を指ではじいて笑い出した。
「それにこいつときたら、たまらねえな。いい艶を出してやがる」
「な、何をなさるのっ」
珠江夫人は、吉沢の指先が追ってくると、電気に触れたように全身を揺さぶらせた。
「♢♢貴方達には人間の血が通っているんですかっ」
キリリと柳眉を上げ、今にも号泣しそうになるのをぐっとこらえて、吉沢と川田を睨みすえた珠江夫人の容貌は、ぞっとする程、美しかった。
「ブツブツいわずさっさと木馬にまたがるんだ」
鬼源が、とげとげしい声で叱咤した。
「お前さんがどうしても嫌というなら、地下のお嬢さんをこの場で嬲りものにしてもいいんだぜ」
それとも、乗る気になるまでこうしてやろうか、と川田が奥から皮鞭を持ち出して来る。
「さ、乗るんだ」
川田はひと声大きく叫ぶと、皮鞭を高々と振り上げた。
ピシリッと珠江夫人の尻のあたりに、大きく宙に弧を描いた皮鞭が炸裂した。
ヒイッと思わず珠江夫人は悲鳴を上げ、踏台より転倒する。
「しっかりしねえか」
川田と吉沢は、床に脆く珠江夫人の優雅な肩に手をかけて引き起こすと、再び踏台に乗せ上げる。
「ど、どうして、どうしてこのような仕打ちを受けなければならないんですっ」
珠江夫人は激しく首を左右に揺さぶって、ほざくようにいった。
「うるせえ。乗るか乗らねえかを聞いてるんだ」
川朗は、またもや皮鞭を振り上げ、力一杯打ち下ろした。
「あっ」
珠江夫人は、骨まで砕け散るような激痛に顔を歪め、踏台の上へ身をかがみこませた。
肉体的な苦痛と並列して生理的な苦痛がぐっと急速にこみ上がり、思わず、その場に立膝して腰をかがませる珠江夫人である。
「ホホホ、ね、折原夫人。貴女、もうがまん出来ない程になってるんでしょう」
大塚順子は、あたかも洩れるのを必死にとどめるかのように両肢をすり合わせている珠江夫人の肩に、そっと手をかけるのだ。
「♢♢お、お願い、お願いです」
珠江夫人は、優雅な肩を揺さぶって、遂に声を慄わせ、哀泣し始めた。
「させないとはいっちゃいないわよ。ただ、貞淑で美しい博士夫人が、どんな顔してお始めになるのか、後学のため一寸拝見させてほしいのよ」
「そ、そんな」
珠江夫人は艶やかな黒髪をゆさゆさと動かしてひときわ激しい哀泣を口から発した。
トイレへ行かせて欲しい、という欲求も、羞ずかしく、はしたなく、口に出してはいえない美しい人妻♢♢そう思うと男達は嗜虐の快感を浮き立つ思いで噛みしめながら、またもや夫人の幻想的な程、色白の優雅な身を引き起こしにかかった。
「ここで洩らしてもらっちゃ困るんだ。さ、いい加減、観念しな」
珠江夫人は、顔をそむけ、シクシクすすり上げながら、遂に川田の手で抱き取られる。
「そら、元気を出して、まず、こう足をかける」
川田は、胸をときめかしながら、珠江夫人の艶々と脂肪に包まれた体を掬い上げ、木馬の背にからませるのだった。
第七十一章 剥奪の契約
冷たい階段
地下牢に続く石の階段を、その優美な肉体を後手に縛られた静子夫人は春太郎と夏次郎に縄尻を取られて歩まされている。
惨澹たる思いに身も心も微塵に打ち砕かれた静子夫人は、未だ悪夢の中をさ迷っているような半ばうつろの表情で、冷たい石段を跣足で踏みしめていくのだ。
幾度、この冷たい石段を登り降りしたことだろう。自分の人生は、この地下牢と満座の中へ引き出されて生恥をかく、それ以外にはないのだ、と思うと、夫人は泣くまいとこらえるものの、ふと美しい切長の眼尻より涙が流れ出て、白蝋のような頬をぬらすのだ。
千代の部屋に三日間監禁し、徹底した調教を夫人に加えた春太郎と夏次郎は、共に満足げな微笑を口元に浮かべ、石段を一歩一歩降りる毎に、悩ましいばかりに左右へ揺れる夫人のたくましい双臀を見つめながら、
「とうとう私達とも秘密を持って下さったわね、奥様」
春太郎は、夏次郎に夫人の縄尻を渡して、ホクホクした表情で静かに歩きつづける夫人の前に廻る。
しかし、静子夫人は春太郎を無視したように冷やかにつくろい、先程までの錯乱の余韻が覚め切らぬ、ねっとりした、妖しいばかりに美しい瞳を前方に向けつつ、歩みつづけるのだった。
「ねえ、奥様ったら」
シスターボーイの揶揄から逃れるように奥の牢舎に向かって、足を早め出した夫人に対し、夏次郎は意地悪く縄尻を引っぱり夫人の動きを封じた。
「随分と私達、女の子とも遊んで来たけれど今日ほど感激したことはなかったわ。顔も身体も天下一品なら、ここの出来具合だって最高じゃない」
春太郎と夏次郎は、何かに酔ったように夫人の美しさや肉体の見事さを改めて見廻し、感に耐えないといった顔つきで、夫人のその凄まじいばかりの吸引力、それに加えておびただしい脂汗、男心をとろかせるような夫人の涕泣、そんな事について語り合うのだった。
「正に女として非の打ち所なしね。第一、鬼源さんのいう通り、稀に見る名器だわ」
春太郎は、悪戯っぼい笑いを見せて、いうのだが、夫人は、薄く眼を閉ざし、口をつぐんでいる。
つい先程までは、あられもないうめきと涕泣をくり返し、甘い柔らかな唇で、魂もしびれるような吸引力を発揮した静子夫人であるのに、まるで、そんな事は嘘のように、端然とした美しい横顔を見せ、優美な太腿をぴったり新着させて、そこに立つ夫人であった。
破壊しようとしても、破壊出来ぬ、この優雅な匂いに包まれた美しさ♢♢千代が反撥し魔神に魅入られたような残虐な責めを夫人に加えようとするのは、これが原因かと、春太郎はわかったような気になった。
「ねえ、奥様、そんなに黙りこんでばかりいず、何とかいってよ」
「奥様は、もう私達と普通の間柄じゃなくなったのよ。わかってるわね」
からかうように、横に伏せた夫人の顔をのぞきこんでいる二人に対して、夫人は、そっと眼を開き情感に潤んだような、美しい視線を投げかけた。
「おっしゃらなくても、わかっていますわ。静子は、静子は、あなた方とも♢♢」
と、象牙色の優雅な頬を薄く上気させ、再び、伏眼に戻って、小さく口に出して夫人はいうのである。
「よくいって下さったわ。でも、そうおっしゃる奥様の、その可愛い唇と舌、さっきは大奮戦だったわ。あんなにお上手になられたとは思わなかった。完全に参っちゃったわ」
と、春太郎が皮肉っぼい笑いをすると、夏次郎も調子づいて、
「鬼源さんの調教がうまかったからかしら。それとも、フランスに留学された時、勉強して来られたものなのかしら」
といって、笑うのだった。
夫人は、再び、軽く背を押されて歩き始める。
裸電球に、ぼんやりうつし出された石畳の上を歩み、一番奥にある四坪ぐらいの広さの牢舎が、夫人の休息室であり、宿舎なのであった。
「ハイ、着きましたわよ、奥様」
春太郎は、鉄格子にかかった南京錠を外し鉄の扉を引っ張った。
夏次郎に縄尻をとられて、その場へ裁っている夫人の物哀しげな眼は、じっと鉄の扉を開く春太郎の動作に注がれている。
一体、何時まで、この黴くさい、孤独と暗黒の牢屋暮しをしなければならないのか♢♢。
夫人は、急に自分があまりにも、みじめに思えて来て、胸がつまり、涙が出そうになった。
この牢舎から出て、実演ショーを演じ、また骨や肉までがバラバラにくずれるような調教を受け、そして、また、この淋しい冷たい牢舎へ連へ戻される♢♢奴隷とはいえ、あまりにも悲惨な毎日のくり返しに静子夫人は、それでもなお生きつづけている自分が、ふと恨めしくもなるのだ。
そんな夫人の気持など考えず、夏次郎は、急に大粒の涙をポタポタ落とし始めた夫人の横顔を不思議そうに見ながらいうのだ。
「あら、急に泣き出したりなんかして、どうしたの、奥様」
鉄の扉は、鈍い音を軋ませて開いた。黴くさい、不気味な牢舎の中には、古ぼけた洗面器が一つ、それから古びた毛布が二枚ばかり隅に重ねてあるだけだ。
夫人は、それを眼にすると、一層、自分が哀れに思われ出し、わなわな頬を慄わせながら牢舎の中へ引き込もうとする二人にさからって肩を揺さぶり、鉄格子に額を押しつけて哀泣し始める。
「何してんのよ、奥様。明日は朝早くからまた調教があるのよ」
少しでもよけいに休息をとらねば駄日じゃないの、と春太郎と夏次郎は、夫人のスベスベした肩や背に手をかけるのだった。
「お願いです。しばらくこのまま静子を泣かせておいて。ね、お願い♢♢」
静子夫人は、これらのシスターボーイ達とも、遂に肉のつながりを持つことになってしまったという屈辱の自意識が、余韻が薄らいで来ると一つの痛恨となって胸をしめつけて来たのだろう。
「嫌ですっ、嫌っ、嫌っ」
まるで駄々っ子のように乳白色の肉体を揺さぶって、牢舎へ入れられまいとするのだ。しかし、それは、身をまかせた男に対して女が一寸した事に抗ったりすねたりして、わざと手古ずらせる、そうした一種の技巧という風に春太郎は受け取って、モソモソ喜んでいるのだ。
「そんなに駄々をこねるもんじゃないわ。明日になれば、もっと素敵な方法で、奥様を調教してあげますからね。さ、おとなしく、牢屋へ入って、お寝んねするのよ」
春太郎と夏次郎は、含み笑いしながら、鉄格子に額を押しつけ、薄紙を慄わせるようにシクシクすすり上げている静子夫人の艶やかな首すじに優しく口吻し、おくれ毛をかき上げてやるのだ。
夫人は、もう昂った声を上げようとはせず、何ともいえぬ繊細なすすり泣きをくり返しているだけだ。
夏次郎は、そっと身をかがめて、滑らかで美しい曲線を描く夫人の双臀をゆっくりと手で撫でさすり、うっとり眼を閉じて頬ずりをする。
「奥様のヒップって、美しいわねえ。素敵だわ」
夏次郎は、次に舌を出して、それに熱い接吻の雨を降らしまくるのだ。
「♢♢一日でいい。一日でいいから、自由が欲しいわ」
静子夫人は、夏次郎の執拗な接吻に美しい眉をひそめて耐えながら、囁くようにいうのだった。
「自由が欲しいですって、奥様」
夏次郎は、ふと口吻するのを止めて、夫人を見上げる。
「一日でいいから、この屋敷から外へ出て、青空の下を歩いてみたいのです」
静子夫人は、シクシクすすり上げながらカスれた声で、
「♢♢せめて、人間らしく何か着るものが欲しいわ。ね、夏次郎さん」
夫人は、夏次郎の方へ濡れた瞳を気弱に向けると、
「お願い。田代社長にお願いして、静子の今いった事を」
伝えて欲しい、といいかけた時、突然、聞き覚えのある甲高い笑い声。
静子夫人は、はっとして身をすくませた。何時の間に入って来たのか、千代がすぐ傍に立っている。田代と森田もすぐ後につづいて来た。
「もう一度、いってごらんよ、奥さん」
残忍な色を眼の底に浮かべ、千代は口元を歪めていうのだった。
「この男達と特別な関係が出来たからって、何もそうつけ上ることはないじゃないか」
「つけ上るって、そ、そんな♢♢」
静子夫人は、おろおろした表情で、険のある千代の顔を見る。
「外の空気を吸ってみたいとか、着物が着たいとか、奴隷のくせに生意気な事をいうんじゃないよ」
そういった途端、千代は夫人の頬をいきなりピシャリと平手打ちした。
「田代社長に頼んでくれとは、よくも、そんな事がいえたもんだ」
千代は、夫人が、たったそれだけの要求をしたことにも腹を立て、更に夫人の頬を激しくぶちつづける。
「ま、千代夫人、そんなにムキにならなくたって♢♢」
春太郎と夏次郎は、興奮する千代をなだめて中に入り、
「たまには、奥様だって、男に甘えてみたくなる時だってありますわ。堪忍してやって下さいよ、千代夫人」
そういった春太郎は、次に、その場に身を縮めて嗚咽している静子夫人に、
「さ、奥様も、素直に千代夫人に謝らなくちゃいけないわ」
と、再び、肩を抱いて立ち上らせる。
「一寸、優しく出ると、すぐにこの女はつけ上るんだからね。あんた達も甘やかしちゃ駄目だよ」
千代は、春太郎にもきびしい眼を向けるのだった。
「静子が、静子が悪うございました」
静子夫人は、涙に濡れた頬を見せ、わなわな唇を慄わせて千代に詫びるのだ。
「二度とつけ上るんじゃないよ。いいかい。奥様はね、もうこの屋敷から永久に外へ出ることは出来ないのだよ。素っ裸のまま一生ここで暮すのだよ。わかったね」
千代にそう浴びせられた夫人は、涙に濡れ光った瞳を静かに閉ざしながら、
「わかりましたわ、千代さん。我儘をいってごめんなさい」
と、消え入るように頭を下げ、左おに立つ春太郎と夏次郎に、
「♢♢牢屋へ入りますわ。縄だけ解いて下さい」
と哀しげに眼をしはたかせていうのだ。
すると、また千代が意地悪い微笑を口元に浮かべて、
「我儘をいった罰に、今日は縄つきのまま牢屋へ入るのよ」
「♢♢」
静子夫人は、何かいおうとしたが、すぐに口をつぐみ、冷やかな表情を作って、そのままゆっくり歩み出し、身をかがめて牢舎の中へ入って行く。
春太郎の手で牢の扉は閉ざされ、夏次郎の手でガチャガチャ南京錠がかけられた。
千代は、鉄格子の間から、さも楽しげに牢獄の中の静子夫人を眺めている。
縛めを解かれることも許されなかった静子夫人は、牢舎の隅に小さく立膝して坐り、憔悴し切ったようにうなだれているのだ。
そうした静子夫人の端正な横顔がまた、比類のない美しさに思われて、千代は、再び、癖にさわってくるのだ。
「ホホホ、かっては、絶世の美女と各界の名士を駿がせた遠山財閥の若奥様が、素っ裸になって穴倉暮し、世の中も変ったものね」
と、片頬を歪めて揶揄した千代は、更に毒気を含んだ言い方で、
「でも、奥様には、数え切れない位の楽しい想い出があるりじゃないの。パリで遊んだりローマで勉強したり、贅沢三昧して暮した時のことを想い起こせば、こうした穴倉暮しも苦痛じゃないと思うわ」
静子夫人のしっとり濡れた長い睫が、慄えるように揺れ動くのを見て、ニヤリと千代は口元を歪めた。
「ま、伊沢先生じゃないの」
千代が、頓狂な声を上げた。
キザなふちなし眼鏡をかけた背の高い男は千代の依頬を受けて遠山家の顧問弁護士として働き、静子夫人名義の土地不動産をすべて千代の所有に変えるための仕事に取り組んでいる男なのだ。
「何だ、伊沢先生か。お久しぶりじゃありませんか」
田代は相好をくずして、お越しになるなら御連絡下されば、よかったのに、という。
伊沢は、えへら、えへらと好色そうな顔をくずしながら、
「一寸、急用が出来たもんですからね。いやそれは口実で、そこにおられる美しい若奥様にも一度お逢いしたい、それが本音かも知れません」
それを聞くと、ま、狭くて汚い所だが、お入りになりませんか、と田代は、扉を開けて、自分が先に入ってから伊沢を中へ招き入れる。
「いや、御無沙汰しました。その後、如何ですかな、若奥様」
伊沢は、そこに生まれたままの姿でいる静子夫人におどけた調子で話しかけるのだ。
「相変らず、お美しい。あれからもう随分とたつが、何かこう天性の美貌に一層磨きがかかったような感じがしますよ」
ペラペラとよくしゃべる伊沢であったが、眼だけはギラつかせ、夫人の優美な肉体を貪るように見つめているのだ。
自分の財産を全部没収する仕事を続けているという、夫人にとっては憎みてもあまりある男に違いないが、今の静子夫人の神経は人間の感情を麻痺させてしまっているのか、ただ、空気でも見るように翳の深い眼を遠くの方に向けているだけであった。
「そうそう、美しさに見とれちまって、大切な用事を忘れていた」
伊沢は手にぶら下げていた大きな黒鞄を開き、大きな封筒を取り出すと千代の方を見た。
「以前、私が静子夫人名義の財産の調査をして約五千万と申し上げましたが、色々、調査を進めているうち、まだ他に莫大な資産があることがわかりました」
「ま、ほんとなの」
千代は、顔面に喜色を浮かべた。
田代も森田も、ふと興味をそそられた顔つきになを。
「北海道に約一億円からなる土地、それから九州の方にも時価三億円はする遊大な山林、そして、約一億円からなる有価証券が、都内の銀行へ預けてあるんです。驚きましたね」
「驚いたのは、こっちの方よ」
千代は、顔中しわだらけにくずして笑ったが、その笑顔が急に止まって、きっと静子夫人の方へ鋭い眼を向けるのだった。
「ちょいと、奥様、あんた、こんなにも財産があるのに私に隠していたのね」
と、いうが早いか、夫人の頬へ激しい平手打ちを喰わせる。
それをあわてて押しとめた伊沢は、
「待って下さいよ。これは、今、脳病院に入っている遠山氏が、この若奥様には知らせずこっそり名義を書き変えておいたらしいのですよ。自分に万一の事があっても、夫人の方には一生、遊んで暮していくだけの財産を残しておこうという、つまり、愛情の発露ということになるのでしょうな」
と、笑っていうのだ。
「フーン、そういうことなの」
千代は、いまいましい顔つきで、うなだれてしまった静子夫人に眼を向け、
「以前の御主人は思いやりがあって、奥様も幸せだったわね。でも、今の奥様には、捨太郎という薄馬鹿の亭主がいることを、忘れないでね」
千代は、伊沢の方へ媚を含んだ微笑を向けて、
「ところで、先生。その財産は、勿論、私のものに♢♢」
「はい。そこは、商売ですからな」
伊沢は、紙包の中から、登記書とか委任状とか、その他、色々な書類を取り出すのだ。
「判というのは、便利なものですな。これだけの大きな取引きが判こ一つで決まっちゃうのですから」
伊沢は黒鞄の中から、大事そうに象牙の判を取り出した。
「これは静子夫人の実印なんですが、この書類全部に捺印することによって、夫人の資産は、すべて千代さんの所有物になるというわけです」
「つまり、私は、億万長者なのね」
千代は、そわそわし始める。
「早く判を押して、この財産一切、私が受けつぐ手続きをして頂戴」
「わかりました。じゃ、以前のように、この判は、元、遠山家の若奥様に押して頂くことにしましょう」
伊沢は、夫人の目の前へ沢山の書類を置く。
「これに捺印することによって、奥様は、個人が所有する一切の財産を千代夫人に誤り渡したことになるわけです。一応、書類に眼を通しますか」
伊沢がそういうと、夫人は、静かに首を左右に振った。
「♢♢もう静子は、一生、ここから出られない身の上ですわ。そうしたものは必要ございません」
優雅な頬をそよがせながら、夫人は、はっきりというのである。
「その通りよ。ホホホ、これで、私は億万長者、奥様は、ほんとの裸一貫におなりになったというわけね」
千代は、子供のようにはしゃぎ廻って、さあ、早く奥様に判を押させて預戴、先生、と伊沢に催促するのだ。春太郎と夏次郎も手伝って、立ち上がらせた夫人の足下に身をかがめ、書類をつみ重ねる。
「さ、前のように、御自分の実印を御自分の足の指で持って頂きましょう。縄を解くのも面倒くさいですからな」
伊沢は笑いながら、高貴な細工物のような夫人の白い足首を持ち上げ、その華奢な足指の間に、象牙の実印を挟ませるのだった。その間、伊沢の粘っこい視線は、乳色に輝く成熟し切った夫人の太腿と、ヴィーナスの丘の魂まで吸い取られそうな柔らかい艶のあるふくらみに向けられている。
千代は、そんな伊沢を面白そうに見て、
「ホホホ、先生、そのあたりは、あとでゆっくり御賞味して頂くとして、先に仕事の方をお願いしますわ」
「ああ、そ、そうでした。どうも、好きなものがこう眼の前にちらちらするもんで♢♢」
伊沢は、皆を笑わせながら、夫人の足指にさしこんだ実印で、幾枚もの書類に捺印させていく。
夫人は、しっとり潤んだ美しい瞳を気弱にしばたたかせるだけで、何ら抗うことなく、伊沢の手に足首を取られ、書類に捺印しつづけるだけだった。
「はい、それで結構です。これで事務は一応終了です」
そういって書類をかかえ伊沢が立ち上ると、千代は、はっとして、
「どうも先生、色々、御苦労様でした。二、三日、ごゆっくりなさってもいいのでしょ」
そして、静子夫人の腰のあたりを指ではじき、伊沢を見て、悪戯っぼく笑うのだ。
「わかってますわよ。明日の夜は、先生のお部屋へこの奥様を連れて行きます。朝まで、うんとサービスさせますわ」
「そう願えれば、有難いですな」
伊沢は、優雅で滑らかな夫人の肌を改めて貪るように見つめながら、身内の血を燃え上らせている。
田代が伊沢にいった。
「以前、先生がここへいらっしゃった頃とは違って、この奥様、今じゃ色々な芸を身につけ、この道のスターとして貫禄も出て来たようです。ま、一度、お試しになれば、よくわかると思いますがね」
それを聞く伊沢は、ますます有頂点になって行く。
フランスからの便り
「そうだ。一つ忘れていたことがあったっけ」
伊沢は、ふと気がついたよう黒鞄の中から白い封筒を取り出した。
妙に話がはずんで、未だ、せまい牢舎の中から立ち去らぬ田代達と千代は、森田が持ち込んで来たウイスキーの角瓶を半分以上あけている。
「何よ、先生、その手紙は♢♢」
「一過間ばかり前、遠山家の静子夫人宛てにフランスから来たものですが」
「へえ、フランスから」
千代は、伊沢から封筒を受け取り、無雑作に封を破った。
「何だ、横文字じゃないか、こんなのは苦手だね」
フランス語でぎっしり書きこまれた手紙が出て来ると、千代は顔をしかめて、伊沢の方へそれを向け、
「先生、読めない?」
「フランス語なんて、チンプンカンプンですよ。それが読めるのは、そこで晒しものになっている静子夫人だけでしょうな」
伊沢は、森田に注がれたウイスキーを飲み、しゃっくりしていうのである。
何だか気になるから、奥様に読んで演こうか、と千代は、酔った足を踏みしめて、夫人に近づくと、
「ちょいと、これ、何て書いてあるのよ」
夫人の眼の前に手紙を押しつける。
そっと眼を開いて、それを黙読し始めた静子夫人の表情にふと明るさが滲み出て、その濡れた夫人の抒情的な眼の色にも、何かを懐かしむような生気が浮かび上るのだった。
「♢♢すみません、先を読ませて下さい」
夫人にいわれて、千代は不快そうに一枚一枚、便箋の頁をめくりながら、急に、今まで悲しげに閉ざされていた夫人の瞳が乗らかく輝き出したことに疑念が生じてくる。
「ね、黙っていちゃわからないじゃないの。一体、何て書いてあるのよ」
千代は、いらいらして、きびしい口調になった。
「♢♢フランスの大学で勉強していた頃、私と一番仲の良かったフランソワ・ダミヤさんが、同じ大学の文学教授と結婚されることになったのです。その結婚式に静子を招待して下さってるのですわ」
「へえ、結婚式にねえ。一体、どこで結婚式をやろうというの」
千代は、吹き出しそうになるのをがまんしていった。
しかし、静子夫人は、現実を忘れ、ふと、懐かしい夢の中をさ迷っているような、一種の無邪気さを表情に表わして、
「♢♢結婚式はスイスで行うと書いてありますわ」
そして、留学時代の無二の親友であったダミヤの手紙に、も一度、眼を向けながら、千代にそれを訳して読み聞かせるのである。
「♢♢パリは、シズコも知っている通り、水もいいとはいえないし、美しい樹木も少ない。しかし、スイスには、豊かでスガスガしい緑の樹木が多く、雪をいただいたアルプスの遠景が何ともいえない荘厳な感じを見る人に与える。ドクター・ジャン・バルーは、このスイスを私達の結婚式場にどうしても選びたいといい出した。彼の講義を最も崇拝する者であり、私の一番の友であったシズコには、どうしてもこの結婚式に参加して欲しい。そして、雪解けの水を青々とたたえたあの美しい湖の傍で、ドクター・ジャンも含めて、昔話に花を咲かせたく思っている♢♢」
静子夫人は、千代に押しつけられたフランスからの便りを懐かしげに眼を潤ませて読みつづけていたが、千代が大きな欠伸をしたことで、ふと現実に連れ戻された気持になったのか、急に口をつぐんで、眼を伏せた。
「へへへ、スイスかフランスか知らないが、毛唐の話ってのは、どうも、退屈でいけねえや」
かなりアルコールが廻って来たらしい森田は、巻き舌になって、がなり立て、千代は千代で、険のある微笑を口に浮かべて、その手紙を帯の間へしまいながら、これも怪しげな呂律になって、何かを思いつめたような表情をしている静子夫人をからかうのだった。
「フフフ、ところで、美しい、素っ裸の若奥様。そのスイスの結婚式に御出席なさるおつもりなんですか」
薄い夜具の上にあぐらを組んでウイスキーを飲む男達は口をあけて笑い合った。
静子夫人は、何か訴えるような、柔らかい情緒的な瞳をじっと前方に向けながら、つぶやくように、
「ドクター・ジャン・バルーは、静子に学問だけではなく、人生をも教えてくれた人。もし、静子に翼があるなら、彼と彼女を祝福するため、飛んで行きたい」
それは、千代に聞こえなかったが、次に、静子夫人がゆっくりと瞼を閉じ合わせて、
「♢♢バルー先生、ダミヤさん、どうか、お幸せに♢♢」
と、ひっそり口に出していうのを聞くと、こうした地獄の底にあえぎながら、昔の友人の幸せを祈ろうという夫人の心情にふと胸をつかれた思いになる。だが、それは千代の場合、こうした人間像があるのに対し、自分のような醜く心のいやしい人間が存在するという劣等感♢♢それが、つまり美に対する憎悪感、復讐心理に変貌するようだ。
「フン、毛唐からの手紙をもらって、いい気なもんだよ。いっとくがね、奥様が、フランスの大学を出たか、スイスの大学を御卒業になったか知らないけど、ここでは、そういう教養は何の役にも立たないんだよ。ここさえ鍛えればそれでいいのさ」
千代は、夫人がぴったり閉ざしている太腿の、附根あたりにひっそり息づいている柔らかそうな盛り上りを指さして笑うのだ。
「今、奥様に残された唯一にして、最大の財産だわよ」
千代がそういったので男達は大口を開けて笑い合う。
「わかってますわ、千代さん。お願い、もうそれ以上、おっしゃらないで♢♢」
静子夫人は、今にも泣き出しそうな顔になり、黒髪を左右へ揺さぶるのだった。
先程、田代に使いに出された春太郎と夏次郎が、そこへ小型のボストンバッグを持って戻って来る。
バッグを受け取った田代は、チャックを開きながら、
「さっきは、伊沢先生の事務が片づいたが、今度は森田組の書類に奥様の実印が頂きたいんですよ」
これから、何か楽しい企画を立てた時、それを行うスターの承諾書をとることにした、と田代は、自分の思いつきを楽しそうに伊沢に語り、
「こうした仕事もやくざっぽくやるより、だんだんと民主的にやって行くべきだと思うんですね」
などといって、何枚かの書類を取り出すのであった。
「嫌なら、無理に押せとは俺はいわん。しかし、一旦、印を押したならば、約束はどんな事があっても果たしてもらわねばならん。いいかね、奥さん」
田代は、楽しそうな顔で夫人を見るのだ。
「まず、これから、奥様のはっきりした御承諾を示して頂きたいわ」
千代は、田代の手から一枚を取り、夫人の気品のある鼻先へ近づける。
夫人の顔は一瞬、強ばった。
千代より、幾度も念を押されたことで、何時かはその日が来ると覚悟はしていたことだが、その日時まで、はっきり明記した書面を突きつけられると、死刑執行日を宣告されたような慄然としたものを夫人は感じたのだ。
その書面には、大体、次のような事が書かれていたのである。
♢♢遠山静子(二十六歳)は、来る六月三日、六時三十分、医師、山内耕平によって、人工授精手術を受けることを承諾致します♢♢
田代が考案したらしい奇妙な文句だったがちゃんとタイプ印刷されてあった。
「どうしたのよ、奥様。これは幾度も私とお約束したことじゃないの。今更、慄えるなんておかしいじゃない。とにかく、まずサインして頂くわ」
千代は、書面を夫人の足元へ再び置いて、華曹な夫人の足指の間へペンをはさませる。
「足で書くサインなんて聞いたことがねえ」
森田は、夫人の足首を持ち上げるようにしてサインするのを手伝っている千代を見ると吹き出した。
「さ、次は判を押すのよ」
千代は、いそいそとして、夫人の象牙の実印をも一度、足指にはさませようとする。
「千代さん、一寸、待って♢♢」
「どうしたのだよ」
美しい繊細な下肢を後ろへ引くようにして捺印することをこばんだ静子夫人を千代は、憎々しげに見上げるのだった。
「一つ、一つだけ、お聞きしておきたいことがあるの」
この判を押すことによって、自分の運命は、また、この地獄の底で、暗く醜く歪んでいくことはたしかだと思うと、夫人の白蝋のような頬をまた大粒の涙が濡らし始めるのだ。
「それで、それで、もし、静子が本当に赤ちゃんを産むようなことになったら、その赤ちゃんは♢♢」
「どうなるかというのね。そんな事、心配しなくていいわ。私達が引き取って育ててあげますからね」
ただし、と森田が付け加えて、
「養育費の方は、ママさん持ちだぜ。しっかり稼いでくれなきゃ、子供がかわいそうだぜ」
静子夫人を妊娠させ、子供を産ませるということは、千代の考えとは別に、田代と森田には、そこに計算があったのである。つまり、捕われ人の静子夫人より人質をとるということ、たとえ、人工授精でもうけた子供であっても、静子夫人の性質から想像して、母性愛を常の親以上に降りそそぐことになるだろう。子供のために身を粉にして働くことになると思われる。天性の美貌と美しい肉体を所有する遠山静子を永久にこの屋敷に封じこめるには静子の手伽足伽となり得る肉の分身を一人この世に誕生させることだ、と山狐のように狡猾な田代は、以前から考えていたのであった。
「さ、奥様、もうこれ以上、手古ずらせず、判を押すのよ」
千代は、夫人の足の指先へ判を挟ませた。
静子夫人は、もう反抗の気力も失せ、千代の手に片足をあずけてしまう。
人工授精承諾書の上へ遂に捺印させられてしまった静子夫人は、その瞬間、自分の運命が決定的に崩れ落ちて行く音を聞いたような心地になった。
「よし、これで一つ契約が終わった」
田代は、千代からその承諾書を手波されると、満足げにうなずいて、
「次は、これだが」
と別の一枚を千代に渡す。
千代は、ちらと内容を読んで、フフフ、と口を押さえて笑い、それを夫人の眼に近づけた。
空虚な眼をぼんやりそれに向けた静子夫人は、はっと怯えて、すぐに田代の方を見た。
「♢♢これは、嫌です。お願いします、田代さん。これだけは、堪忍して下さい」
静子夫人は、田代に哀願し始めた。
奴隷でも、一応の拒否権を与えるといい出した田代の言葉に夫人はすがったわけだが、千代は、
「あら、これも、何時か私、奥様と約束した筈よ。ニグロだって、人間じゃない。何もそう毛嫌いすることはないと思うな」
千代が夫人の鼻先で、ヒラヒラさせている怪しげな承諾書には、
♢♢遠山静子(二十六歳)は、アメリカ生まれ、住所不定の黒人(通称ジョー)と、実演コンビを結び、来る五月末日より開催される第二回秘密パーティに一週間連続出演することを承諾致します♢♢
と書いてあるのだ。
「ヨーロッパの白人連中とは、留学されていた時代から、随分と交遊があったそうだね。たまには、アメリカ生まれのニグロを相手にしちゃどうかね、奥さん」
田代はそういって、腹を突き出して笑うのだ。
「それによ、奥さん」
と、森田がポケットから一枚の写真を取り出して、夫人りの鼻先へ突きつける。それは、ボディビルの一つのポーズをとったジョーの全裸像であった。
反射的にさっと顔を伏せた夫人の頬に手をかけた森村は、
「そら、よく見てみな。このでっかさじゃ捨太郎だって顔負けするぜ」
「いや、いや、ね、お願い、黒人とそんな♢♢」
静子夫人は、乳色の柔軟な肩を揺さぶってシクシクすすり上げる。
「そう強情をはらず、判を押してくれねえかな。そうすりゃ、立川の基地あたりでゴロゴロしてやがるジョーをすぐに呼び寄せ、パーティが始まる日まで、こってり練習が出来るってもんだ」
と、森田がつめより、更に今度は、春太郎と夏次郎までが
「真っ白な肌をした美しい若奥様と、真っ黒な肌をした醜い黒人のジョーとは、正に絶好の組み合わせと思うわ。ショーに出演して、フランス式の妙技をご披露でもしたら、お客は大喜びでしょうね」
「ね、奥様、私からもお願いするわ。この承諾書に判を押して頂戴。ね、奥様ったら」
そんな風に左右から、静子夫人にまといつくようにして口説き始めた二人のシスターボーイを、田代は面白そうに眺めながら煙草をくゆらせている。
奴隷にも拒否権を与えるというものの、結局は強制的に承諾させられることになるのだと、悲しい辞めが次第に夫人の胸の中に充満していく。
苦しげに眉を寄せていた夫人の表情が次第に冷たく冴え始めて、
「♢♢わかりましたわ。それを静子、承諾致します」
と、放心したように口を開いたのだ。
春太郎と夏次郎は、大喜びで、早速、夫人の足指に実印を差しこみ始める。
「さ、奥様、もう少し足を上げて♢♢いいわね、しっかりと判を押すのよ」
承諾書にやっと捺印させた二人は、嬉しさのあまり、わっと歓声を上げた。
夫人の捺印を待ちかまえていたように田代は森田に向かって、
「それじゃ親分、早速、鬼源に知らせて、ジョーにこの屋敷へ来るよう連絡させてくれ。パーティまで、あまり日はないからな。練習は早い日にさせておいた方がいい」
「へい、わかりました」
森田が鉄の扉をくぐって出て行くと、田代は、肩の何が降りたような気分になって、千代の背を叩いた。
「こんなものもあるんだが、どうするかね、千代夫人」
田代は、一応あんたの意見を聞いてからにしようと思ってな、と別の書類のうちから一枚をとって千代に示したのだ。
「まあ、犬と♢♢」
「シー、声が高いよ」
と、田代は、千代を眼で制して、がっくり首を落とし小さく嗚咽しつづける静子夫人の方に気を配りながら、小声でいうのだ。
「この芸当の出来るでかい犬が、香港にいるんだ。相当な高値だがね。今から注文すればニ、三か月後には、ここへ到着するだろう」
「丁度、静子に人工授精をはどこした頃ね」
千代の眼が残忍な光を帯びて来た。
「面白いわ、社長。その犬の代金は私が支払います。とり寄せて下さいな」
そして、千代は、田代の手から、畜犬との交渉を承諾させるその恐ろしい書類を受け取り、
「これは、折を見て私が静子を口説き、必ず判を押させますわよ」
と、ひきつったような微笑をして見せるのだった。
やがて♢♢鬼源が森田に伴われて、小走りでやって来る。
「今、森田親分から聞きましたが、ほんとにジョーの奴を雇い入れるんで♢♢」
鬼源は、牢舎の中へ入って来ると、すぐに田代にいった。
「そうさ。若奥様は、こうして、ちゃんと、承辞書に署名捺印をして下さったのだ」
鬼源は、田代に手波された承護書を見て、ニヤニヤと黄色い歯をむき出した。
「成程、承諾書とはいい思いつきですよ、社長。こうして、自分で認めたからにゃ、本人も一生懸命、励まなけりゃならねえわけだからな」
それにしても、あの黒ときちゃ化物なみですぜ、と鬼源は周囲の男達を笑わせるのだ。
千代も、クスクス笑って、立たされたまま、喪神したようにうなだれている静子夫人の顎に手をかけ、ぐいとその美しい顔を正面にこじ上げる。
「化物なみと聞いて、この奥様は悦んでその承諾書に判を押されたのよ、鬼源さん。前からよく私にこの奥様ったら、捨太郎さんより大きな人は、もうこの世にいないかしら、とこぼしていたのよ。この奥様はね、大きければ、大きい程、いいんですってさ」
といって、千代は笑いこけるのだ。
静子夫人のぴったり閉ざした切長の眼尻より、再び、一筋二筋の涙がしたたり流れる。
今、夫人の心にあるのは、これらの悪魔達が自分の周囲から少しでも早く退散し、このいまわしい時間が、早く終わること♢♢それを一心に神に祈りつづけているだけだ。
よし、わかった、と鬼源は、そんな静子夫人に近づいて、
「それじゃ、二、三日うちにジョーをここへ呼び寄せてやるぜ。あいつは、本場仕込みだからな。特に、お前さん好みのあれは天下一品さ」
というと、千代もそれに調子を合わせて、
「ホホホ、すると間もなく、この奥様は、アメリカ産のジュースをたっぷり御馳走になれるわけね」
一座は、どっと哄笑した。
さて♢♢と鬼源は、懐から手帖を取り出して頁をめくりながら、
「そうなりゃ、奥さんの身体も、またこれから色々と忙しくなることだ。明日のスケジュールを教えておこう」
俯向いたまま、じっと瞑目している夫人に気づいた鬼源は、おい、ちゃんと聞いてなきゃ駄目じゃないかと、強く夫人の胸を押してから、
「いいか、朝は八時に起床、洗顔をし、化粧した後、まず、俺の部屋へ来るんだ。そこで、俺を実験台にして、練習を二時間ばかり始めるんだ」
「おい、鬼源、すばらしい役得じゃないか」
と、田代がからかうようにいう。
「へへへ、そうかも知れませんが、中々これだって骨の折れる仕事なんですよ。何しろ、ジョーと組ませるんですからね。奴は、中途半端なことだと、すぐに怒るんです」
再び、一座に哄笑の渦が巻き起こった。
中でも、一番喜んだのは、千代だろう。
絶世とまでうたわれた美貌と艶顧な肉体を持つ静子夫人♢♢また上流社交界のバラとうたわれ、フランスの大学で文学を専攻した程の教養を持つ静子夫人が、流れ者の巨漢のニグロ相手に、そんな常識を超越した酸鼻な行為を演じることになるとは♢♢。
千代は、しびれるような快感を噛みしめるのである。
やがて、そのうち、香港から来ることになっている動物とまで♢♢千代は息苦しいような興奮を覚えた。
「その次は、いいか、調教室で8ミリ映画の撮影だ。捨太郎の奴の風邪も大分良くなってきたようだからな。明日はぴったり呼吸を合わせて、うんといい商品を作ってくれなきゃ駄目だぜ。夕方まで五本のフィルムを撮る予定だ。♢♢おい、聞いてるのかよ。返事ぐらいしたらどうだ」
まるで、人間ではなくなったように、冷たく冴えた横顔を見せて、黙りこくっている夫人を見ると、鬼源は腹を立てて叱咤するのである。
「♢♢聞いておりますわ」
夫人は、ほのかな香気が立ちこめて来るような美しい顔を鬼源に向け、柔らかな口調でいうのだった。
「それがすめば、三十分の休憩、そして、竹薮の茶室へ行くんだ。そこにゃ、折原博士の奥様が、川田兄貴達の手で調教を受けておいでだ。そこで、折麻夫人と特殊関係を結ぶんだ。そうした方が、今後、あの博士夫人の教育がやりよくなるからな」
「その後は、伊沢先生の部屋へ入って頂くわ」
と千代が口を出した。
先程から、夜具の上へぽつんと坐っている伊沢の手を取って立ち上らせた千代は、
「ごめんなさいね、先生。明日は朝から静子にサービスさせるつもりだったんですけど、第二回目のパーティも近いだけに、色々と忙しいのですよ。その代り、夜は充分、お楽しみになって頂きますわ」
伊沢は、何かモソモソ、ポケットの中へ手を入れていたが、一枚の写真を取り出して、夫人の前へ持って行く。
「フランスから来た封筒の中に、こんな写真が入っていたょ。ついさっき、気がついたんだがね」
それは、雪を頂いたアルプスをバックに立つ美しいフランス娘と日本娘の写真で、恐らく娘時代の静子夫人の写真を見つけた旧友のダミヤが手紙と一緒に同封して寄こしたものなのだろう。
数々の心理的な責め苦にぐったりしていた静子夫人であったが、「まあ」と生気が蘇り、
「♢♢なんて、なんて懐かしい」
白蝋のような美しい頬をそよがせて、その親友と一緒にスイスを旅した当時の写真に見入り、また、二十一、二の頃の自分の幸せそうな笑類が懐かしく眼にしみたのか、夫人の二重瞼の美しい瞳には、キラキラと涙が光り出した。
「そんなものを見せたりすると、この奥さんたら、最近すぐおセンチになって、メソメソしちゃうんですよ」
千代は、笑いながら、伊沢の手より写真を取り、ハンカチを出して、涙に濡れた夫人の頬を拭き始める。
「さ、奥様、もうメソメソしちゃ駄目よ。フランスからの便りを届けて下さった伊沢先生に大いに感謝して、実演スターの魅力を充分に発揮するのよ。まず、春太郎さんに調教された成果を、はっきりお見せすれば♢♢」
千代は、そういって、伊沢を夫人の前に押しつける。
静子夫人は、涙を振り切り、実演スターの静子として、好色漢の伊沢と対峙したのである。
「♢♢懐かしいものを見せて預き、有難うございました。そのお礼に、静子も先生にお見せしたいものがありますわ。ね、御覧になって下さいます?」
静子夫人は、かねがね鬼源達に指導された艶っぼい微笑をほんのり口元に浮かべて、
「ねえ、先生、静子の後ろへお廻りになって」
と甘い声を出すのだ。
「うん、立ってたって、御覧になれないわ。お坐りになって♢♢」
身をかがめた伊沢の眼の前には、妖しい悩ましさを持ち、ねっとり脂肪が乗った夫人の双臀があった。
「♢♢うん、ねえ、早く御覧になって。何時までもじらすなんて、ひどいわ」
静子夫人は、さも、じれったそうに美しく盛り上った双臀を左右へモジモジ揺さぶり、精一杯の媚態を演じるのだった。
第七十二章 多勢に無勢
木馬夫人
上下に数本の麻縄をからませたふっくらとした乳房から、スベスベした自磁の腹部までねっとり脂汗を浮かべて、珠江夫人は、限界に到達した生理の苦痛と必死に戦っているのだ。
木馬の上で、左右に割り開いた、すらりと伸びた肢の線は、華奢で繊細で、心を溶かせるような優雅な美しさを含んでいる。
川田と吉沢はダブルベッドの上にあぐらを組み合って、花札を引きながら、時々、楽しそうに、木馬の上で苦悶する珠江夫人の方を見るのだった。
「随分と辛抱が続くじゃないか、ええ、折原夫人」
「何時までも痩我慢をはらず、さっさとすましちまいなよ。その後、このベッドに縛りつけて、とても楽しい思いに浸らせてやるからな」
川田と吉沢は、顔を見合わせて笑った。
雪白の脂肪で靄がかかったような美肌の珠江夫人は時々、震えが来たように木馬に乗った腰部と左右へ割った優美で悩ましい太腿あたりを揺さぶり始め、切なげな吐息を吐きつづけているのだ。
「そんなにモジモジすりゃ、的から外れてしまうじゃないか」
川田と吉沢はベッドから降りると、木馬に近づき、むっちり引きしまっている珠江夫人の腰部に左右から手をかけ、木馬の背にくり抜かれた穴の上へ押しすすめるのだ。
割られた太腿の柔らかな翳りを眼にした川田と吉沢は、身内の中に甘ずっぱい官能がこみ上がってくるのを感じながら、同様に敵愾心のようなものをも感じ出す。
今に見ろ、うんと吠面をかかせてやるからな♢♢川田は、狂暴な血をわき立たせて、そっと手をのばしかけたが、途端に珠江夫人は電気にでも触れたように滑らかな腰部をぶるっと揺さぶった。
「な、何をなさるんですっ」
きっと、美しい柳眉を上げて珠江夫人は、川田に憎悪のこもった視線を向ける。
「淫らな真似をなさると、舌を噛みます」
「ああ、噛みたけりゃ、噛みな。鉄格子の中にいる千原美沙江がお前さんの代役をつとめるだけさ」
川田は、せせら笑うのだ。
珠江夫人は今にも泣き出しそうな類をして、さっと眼を横へ伏せる。
吉沢は、腕時計を見て、
「ぐずぐずすると、夜が明けちまうぜ」
と舌打ちして、珠江夫人の木馬に乗った双臀を平手打ちした。
「おい、やらかさねえのか、やるのか、はつきりしろい。まだか、まだかとベッドの方が愚痴をこぼしてるぜ」
光沢を持った繊細な珠江夫人の白い頬に大粒の涙が糸をひくように流れていく。
「お願い、ね、お願いですっ」
何分かたって、珠江夫人は、上気した顔を上にあげた。
「どうしたい。とうとう辛抱し切れなくなったというのかい、折原夫人」
吉沢が珠江の腰に手をかけて、意地悪く揺さぶった。
「しばらくの間、お願い、外へ出て、ね、お願いです」
珠江夫人は、美しい眉を八の字に寄せて、川田と吉沢に哀願するのだ。
「俺達の見ている前じゃ、教養が邪魔をしてやらかすことが出来ねえというのだな」
よし、と川田は、うなずいて、
「十分以内にすまさねえと、折檻がきびしくなるぜ。わかったな」
川田と吉沢は、淫靡な笑いを残して部屋を出て行った。
二人の姿が視界から消えると、珠江夫人は木馬の上で、ひときわ激しい涕泣を洩らした。そして、心の中で、必死に夫の源一郎に救いを求めるのである。
♢♢あなた、珠江はいったいどうしたらいいの。ね、助けて、早く助けに来て頂戴♢♢。
「うっ」
と、珠江夫人は、再び、急激にこみ上って来た生理の苦痛に顔を歪め、歯ぎしりをして力一杯、太腿で木馬を緊め上げた。
「もう、もう駄目だわ」
珠江夫人は、べっとり脂汗を浮かべた額を上げ、白い歯を噛みしめた。わなわなと唇が痙攣す。
ついに堰は切れた。
ああー、と珠江夫人は狼狽して、火がついたように真っ赤になった顔を、狂おしく左右へ揺さぶった。
木馬の下のブリキのバケツを激しく水の叩く音。
「へへへ、奥さん、入ってもいいかね」
一旦、外へ出ていた川田と吉沢が、ドアを開けて入って来る。
「♢♢いけないっ。入っちゃ駄目っ。後生ですっ。入って来ないでっ」
木馬の上の珠江夫人は、激しく動揺して、火柱のようになった身体を木馬の上で揺り動かし、悲鳴に似た声を張り上げた。
一旦、切れた堰は、止めようにも止められるものではなく、珠江夫人は、ニヤニヤして闖入して来た二人の男にヒステリックな声を投げつけたのである。
「そう水くさい事いうなよ。俺達と奥さんとは、もう間もなく、他人じゃない間柄になるんだぜ」
川田と吉沢は、断続的に木馬の上で慟哭する珠江夫人を楽しそうに眺めて、近寄ってくるのだ。
恐怖と羞恥の戦慄に木馬の上で両肢を震わせる珠江夫人は、身も世もあらず、麻縄を巻きつかせた、優美な胸を揺さぶり、必死に顔をそむけて、妖しいばかりの号泣をその口から洩らすのだった。
やがて、放水は次第に弱まり、水滴となって、バケツの中へ落下するようになったが、その頃には、珠江夫人は、完全に打ちひしがれたように木馬で身動きもせず、がっくりうなだれていた。
「へへへ、やっとおすましになりましたね」
吉沢が、珠江夫人の妖しいばかりに白い、滑らかな太腿を手で撫でさする。
「およしになって♢♢」
珠江夫人は、先程までとは違って、力のない、か細い声を出すと、上気した顔をねじるようにそらせて、シクシク肩を慄わせて嗚咽するのだ。
木馬にまたがったまま、そういう醜態を演じたという、血が逆流するばかりの羞恥と、それを野卑な男二人の眼に晒してしまったという、息の根も止まるような屈辱とにさいなまれて、まともに頬を上げられぬ珠江夫人であった。
「はう、こりゃ随分とたまっていたものだ。かわいそうに」
吉沢は、木馬の下のバケツの中をのぞきこみ、クスクス笑って、
「どうだい、奥さん。大きな方もついでにすましちまいなよ。その方が面倒がはぶけていいや」
と、珠江夫人の美しい横顔を見つめていった。
珠江夫人は、頬やうなじのあたりをまた朱に染めて、処女が羞じらうようになよなよと首を横に振る。
「そうかい。無理にとはいわねえよ。どうせそのうちには、痛めつけられたお礼に、俺がこってり浣腸をしてやるつもりだからな」
川田は、そういって、ゆっくり服を脱ぎ始める。
「吉沢の兄貴、あんたも裸になっちゃあどうだい」
「そうだな。何だか、蒸し暑くなってきゃがったもんな」
吉沢も川田にならって、服を脱ぎ、パンツ一つになる。
「折原夫人も、生まれたまんまの素っ裸だ。俺達も、不公平だといわれねえよう、さっぱりしようぜ」
パンツも脱いでしまった男二人は、
「へへへ、木馬の上の美しい奥様、すっきりしたところで早速、このベッドの上へ乗って頂きましょうか」
ヒ、左右から珠江夫人の腰に手をかける。
木馬からおろされた珠江夫人は、まともに立つ気力はなく、そのまま床の上へ身を小さく折ってしまった。
冷たい端正さを持つ珠江夫人の白い頬に屈辱の口惜し涙がとめどなく流れるのを、川田と吉沢は、心地よさそうに眺めている。
その時、ドアが開いて、そっと入って来たのは、鬼源と大塚順子であった。
「もう少し早く来りゃ、面白いものが見られたのによ」
吉沢は、木馬の下の洗面器を指さして笑い、ふと気づいて、あわててパンツをはいた。
「そいつは残念だったな」
鬼源は薄笑いを浮かべて順子の顔を見る。
「貞淑な人妻も、やっぱりそれだけは、どうしようもないものね」
大塚順子は声をたてて笑った。
珠江夫人は、その濡れた美しい瞳にキラリと憎悪の色を走らせて、順子を見上げた。
「大塚さん。こ、このような尋しめを私に加えて、ただですむと思ってらっしゃるの」
はっきりと敵意を示し、珠江夫人は、美しい柳眉を上げ、ヒステリックな声をはり上げるのだ。
「男達の見ている前で、こんなものを流し出しておきながら、随分と大きな口がきけますわね。折原の奥様」
順子は、木馬の下の洗面器を指さしながら再び笑うのだ。
「呪います。私、貴女を心から呪いますわ」
珠江夫人は、怒りにブルブルと全身を慄わせて順子にいい、次に、がっくり首を落とすとキリキリ歯の音をたてながら、口惜し泣きを始めるのだ。
川田や鬼源達は、そんな珠江夫人の透き通るような白い華奢で優美な肉体を貪るように見つめている。
どちらかといえば、このように細い華著な線を持つ女は、性感はかなり敏感な筈だと、そんな事を考えているのだ。
「さ、奥さん。ベッドの上へ乗るんだ。テストしてやるからな」
川田と吉沢が、背後から珠江夫人の大理石のように滑らかな肩に手をかけ、引き起こしにかかる。
「テ、テストですって♢♢」
珠江夫人は、きびしく縛められた白磁の裸身を激しく悶えさせ、
「な、何のテストをなさろうというの。はっきり、おっしゃって下さいっ」
と、はげしい口調で川田にいうのだ。
「気の強い女だなあ。そう一々、手を焼かさないでくれよ」
と吉沢が苦笑する。
「敏感か、鈍感か、テストしてやろうといってるんだよ」
川田は、珠江夫人の縄尻を力一杯ひいて、やっと立ち上らせると、その絹餅のようにふっくらした双臀をピシャリと平手打ちして笑った。
「さ、来るんだ」
鬼源も手伝って、珠江夫人をベッドの前に引きずるように連れて行く。
四隅に皮ベルトが仕掛けられてある不気味なベッドを眼にした珠江夫人は、青ざめて全身を石のように硬化させた。
「ここへ大の字になって、おねんねして頂きたいんだよ、奥さん。そうすりゃ俺達が、感受性が強いか弱いか、詳しく調べてあげようというんだ」
川田が、せせら笑って、珠江夫人の硬直した頬を突いた。
憤怒と屈辱に体内の血が逆流する思いの珠江夫人であったが、それを必死にこらえて、
「最後のお願いです。この辱しめを受けるのをもう一日、待って下さい」
「ええ? もう一日、待てだと」
吉沢は、鼻に小皺を寄せて、凍りついたような珠江夫人の横顔を見た。
「お手伝いの友子さんと直江さんは、きっとここへ戻って来ます。明日一日待って、もし二人が戻って来なければ、その時は♢♢」
珠江夫人は、段々と涙声になりながら、左右に立つ川田と吉沢に哀願し始めるのだ。
「医学博士夫人ともなれば、もう少し頭がいいと思ったけど、これじゃ、どうしようもないわね」
と、大塚順子は声をあげて笑い出す。
「まだわかんないの、折原夫人。貴女と千原家のお嬢さん達は、あの二人の女中にまで裏切られてしまったのよ」
そういった順子は、振り返ってドアの方へ声をかけた。
「もういいわ。二人とも入っていらっしゃい」
先程からドアの外で待機していたらしい銀子と朱美が千麻美沙江の付き添い女中である友子と直江を連れて入って来る。
その瞬間、珠江夫人の顔はひきつったようになった。
「あっ、貴女たちは♢♢」
すぐには声も出ず、珠江夫人は驚愕のあまり、気が遠くなりかけた。
「悪う思わんといてや、奥さん」
と、直江と友子は顔を見合わせて舌を出し、肩をすくめて珠江夫人にいうのである。
「人にこき使われて暮すより、贅沢三昧して暮す方が得やさかいな。うちら、これから、葉桜団のお姉さん達の世話になって暮すことにしたんや」
友子の言葉を聞く珠江夫人の顔からは血の気が引いた。
「じゃ、貴女達は、お嬢さんと私を地獄の底へ突き落としたのね」
珠江夫人は戦慄して、声を震わせた。
「何という恐ろしい人なの。そ、それでも貴女達は♢♢」
何かいおうとしても、火の塊のようなものが胸元にこみ上り、珠江夫人は絶句して、さっと顔をねじると、激しく嗚咽するのだ。
「まあ、奥様、かわいそうに素っ裸にされはったのね」
直江は、白磁の震身を慄わせて泣きじゃくる珠江夫人を凝視して、含み笑いする。
「きれいな体をしてはるわ。まぶしい位に色が白い。ね、友子、あんたもそう思うやろ」
友子も、うっとりした限つきで、胸の隆起の上下に巻きつかせた麻縄以外、何も身につけるもののないみじめな珠江夫人を、しげしげと見つめるのだった。
大塚順子が、口元を歪めて、そんな珠江夫人に近づく。
「ホホホ、これで納得がいったでしょう、折原夫人。人間というものを信用すると、ろくな事はない。これで一つ、賢くなられたと思うわ」
さ、わかったら、おとなしくベッドの上に乗るんだ、と川田と吉沢が再び左右より珠江夫人の冷たい硬質陶器のような肩先に手をかけた。
「一つだけ聞かせて下さい。大塚さん」
珠江夫人は、ふるえる頬に大粒の涙を流しながら、順子の方へ視線を向けた。
「何なの、奥様」
順子は、ゆっくりと煙草に火をつけ、面白そうに珠江夫人の泣き濡れた顔を見る。
「貴女達は、お嬢さんと私をここへ監禁し、これから先、どうなさるおつもりなの」
「フフフ、それは幾度も申し上げてある筈じゃありませんか」
順子は、うまそうに煙草の煙を吐きながら、
「私が主宰している湖月流生花は、貴女女達のために、これまで随分と煮湯を呑まされてきましたわ。私は、その復讐をするため、千原流家元のお嬢さんとその後援者である折原夫人をこうして誘拐したのですからね」
順子は、珠江夫人が世にも哀しげな顔になったのを楽しげに見つめて、更に続ける。
「お二人の命までもとろうとはいわないわ。その代り、野蛮な人間達のお座敷ショーに出演するような、最低の女にまで落としてやろうと思うのよ。詳しい事は、ここにいる鬼源という人間調教師からお聞きになるといいわ」
ベッドに乗ってから説明してやるぜ、と鬼源は、珠江夫人を横抱きにしようとした。
「な、何をするのっ、やめてっ」
端正な象牙色の頬にパッと朱を散らして、珠江夫人は身を捩り、昂った声をはり上げたが、
「今更、悪あがきはみっともねえぜ」
と、川田も吉沢も、そして、先程からニヤニヤして眺めていた銀子や朱美も手を貸して珠江夫人をベッドの上へ押し上げる。
川田と吉沢は、後手に縛った麻縄を解くと素早く珠江夫人の両手を割り開かせ、左右の皮紐に縛りつけた。
「嫌です。ああ、お願い♢♢」
気丈な珠江夫人も、遂は悲鳴を上げた。
「生娘でもあるめえし、大袈裟な声を上げるねえ」
鬼源は、のたうち廻る珠江夫人を見て、笑いながらいった。
銀子と朱美が、楽しそうに、暴れまくる珠江夫人の両肢をからめ取ろうとする。
珠江夫人は両手首に喰いこんだ皮紐を引きながら、両肢を縮めたり、のたうたせたり、狂気じみたように暴れるのだ。
「貴方、ああ、貴方、助けてっ」
と、夫の名を無我夢中で口走り、一方に腰をねじったり、また反対側に腰を歪めたりして、悶え、狂乱するのだ。
「いい加減にしねえか」
吉沢は、そんな珠江夫人の頬をいきなり激しく平手打ちした。
「まだ、観念することが出来ねえのかい。おめえはもう今日から森田組の商品なんだぜ」
珠江夫人の美しい瞳から、どっと熱い涙が溢れ出る。
「人間、諦めが肝心だ。おめえは、やがて、第二の静子夫人になるべく俺達の調教を受けることになってるんだからな」
川田は、そういって、珠江夫人の抵抗の意志がくじけ出したことに気づくと、銀子達に早く仕上げろ、と眼くばせを送った。
優美で繊細で、高貴な美術品のような白い下肢に銀子と朱美の手がかかる。
「さ、奥様、思い切って、うんと大きく開いて頂戴」
一瞬、嫌悪の戦慄がブルっと珠江夫人の身内に走ったが、もうそれ以上、頑なに抵抗する気力はなかった。
ぴったり閉じ合わされていた妖しいばかりの白さを持つ美麗な珠江夫人の太腿が銀子と朱美の手で左右に割り開かれていく。
「ああ、そ、そんな♢♢」
珠江夫人は、全身の血が逆流するばかりの羞恥と恐怖に再び絹を裂くような悲鳴を上げたが、すでにおそく、川田や吉沢も手伝って、左右へ引き絞った珠江夫人の細工物のような華奢な足首へ皮紙をきびしく巻きつかせてしまった。
「やれやれ随分と手古ずらせてくれたけど、こんな風にされっちまえば、すっかり辞めがついたでしょ」
銀子と朱美は、ベッドの上に固定されてしまった珠江夫人を見て哄笑する。
雪白の美歴な珠江夫人の肉体は、姐の上に載せられた美しい人魚のように、しかも、身動きも封じられて、ベッドの上に仰向けに縛りつけられてしまったのだ。
しかし、何という優雅で艶めかしい珠江夫人の裸身だろう三十歳になったとは思えない艶々しい輝くばかりの乳色の肌、ふっくらと柔らかく盛り上った胸の隆起、腰のあたりの官能味のある艶めかしい曲線、そして、無残にも、左右へ大きく裂かれて縛りつけられた両肢の線の美しさ。かすかに内臓に青い椅魔な血管を浮かび上らせて、ぐっと削いだように割り開いた大願は、象牙色に冷たく輝いて、何ともいえぬ悩ましい高貴な官能美に包まれている。
男達の射るような視線を辛く感じてか、珠江夫人の麗しい両頼の筋肉は硬直しているようだった。
「こ、このような辱しめを私に加えて、更に何をなさろうというのです」
珠江夫人は羞恥のため、真っ赤になった美しい顔をねじるように横へ伏せながら、しかし、反撥をこめた口調で、ニヤニヤして凝視する卑劣な男女達にいったのである。
この不気味で、淫猥な空気にがまん出来ず最後の敵意を示すかのように、わなわな唇を慄わせる珠江夫人であったが、銀子と朱美は友子と直江を隅へ呼び寄せて、何か、ひそひそ打合わせをして、鬼添の方を向くと、
「ね、鬼源さん、最初は、この二人に、珠江夫人の感度のテストをさせりゃどう。その方が面白いと思うんだけど♢♢」
そういった銀子は楽しそうにペロリと赤い舌を出した。
新たな崩壊
千原美沙江のお付き女中である友子と直江の二人に珠江夫人を嬲らせるという着想を一番喜んだのは大塚順子であった。
「じゃ、ここは二人に任せて、私達は、こっちでしばらく一服しましょうよ」
順子は隅の卓へ歩き、棚から洋酒瓶を取り出す。
「じゃ、ひと息入れるとするか」
川田も吉沢も、椅子に坐りこんで、順子に注がれたコップのウイスキーをうまそうに飲むのだった。
「しっかりやんなよ、友子。あんた達も今日から、あたい達の身内なんだからね。女一匹仕込みあげることぐらい覚えなきゃ駄目だよ」
銀子と朱美も、友子達に声をかけ、卓の傍に坐って、ウイスキーを飲むのだ。
友子と直江は何となく照れ臭そうな顔をしてベッドに縛りつけられている珠江夫人の傍へ近寄る。
「奥さん、悪う思わんといてや」
珠江夫人は、二人の女中が近づくと、大の字に固定された麗身を狂おしげに反り返らせたりして悶えながら、血を吐くような思いで叫ぶのだった。
「貴女達までが、私を笑いものにしようというのっ。きっと、きっと、貴女達、後悔する日が来るわ」
女中二人の眼に、このような浅ましい姿を晒すだけでも、気が狂うばかりの屈辱であるのに、更に、彼女達は自分の身にどのようないたぶりを加えようというのか。珠江夫人はあまりの口惜しさに胸が張り裂けそうになるのだ。
「ね、何を、何をしようというのっ」
友子と直江は、狼狽してわめきつづける珠江夫人を無視し、ニヤニヤしながら、ベッドの上へ膝を載せてくる。
「奥さんの感度を、調べろという命令ですねん。おとなしくしてんか」
直江は、そっと珠江夫人の柔らかい胸の隆起を両手で包むように支えると、その頂点の可愛い薄紅色の乳頭に唇を軽く押しつけるのだった。
「あっ。やめてっ、何をするのっ」
女中の手で嬲られるという憤辱、その虫ずの走るような感触を乳房に受けた珠江夫人は、悲鳴に似た声を張り上げたが、一方、友子は、身動き出来ぬ両肢の方へ廻り、直江なんかに負けるものかといたぶりをしかけたものだから、珠江夫人は、逆上したように両手首、両足首にかかった縄目を引いて悶えまくるのだった。
「馬鹿な真似はよしてっ、よして頂戴!」
身動きもならぬ五体を揺さぶり、のたうたせ、舌足らずの悲鳴を上げつづけるベッドの上の珠江夫人を、遠くから見つめながら、銀子と朱美達は肩を動かせて笑い合い、ウイスキーを飲み合っている。
「あれ位の事で、ギャーギャー騒ぎ立てるようじゃ、今後の調教はかなり骨が折れるだろうな」
と、吉沢がいうと、鬼源は、手を振って、
「そうじゃねえ。博士夫人という気位の高さがあんな風に手古ずらせる原因となってるんですよ。あの女は、体つきから見て、人一倍敏感だと思いますね。だからこそ、一寸、肌に触れられるだけで、よけいにうろたえちまうんですよ」
鬼源はそんな風に講釈しながら、順子に注がれたウイスキーを眼を細めて飲むのだ。
「ところで鬼源さん。これから、あの折原夫人を、どんな風にして仕込んでいくつもりなのよ」
順子は、愉快そうにベッドの方を見ながら鬼源に聞く。
「こういう高慢ちきな女は、徹底的に緊め上げなきゃ駄目ですからね。今夜は、明け方までこいつなんかを使って絞り上げるんです」
鬼源は、静子夫人を苦しめたアメリカ製の責具を懐から取り出して卓の上へ置いた。
効果は絶大で、あの静子夫人が大声で泣きわめいたそうだと、鬼源は千代に聞いた話を順子に話して、
「そして明日は、俺達三人の烙印を押し、田代社長の前で、森出組の商品になりきることの宣誓をさせる。それから、大塚女史に詫びを入れさせて剃毛してやる。そして、すぐに調教開始だ」
順子は楽しそうに相槌を打ちながら、鬼源の許を聞いていたが、その時、ベッドの珠江夫人が、けたたましい悲鳴を上げた。
友子の攻撃が、珠江夫人の最も恐れていたことに切り替えられたようだ。
「♢♢めてっ、やめて頂戴!」
皮紙につながれた両手首を狂ったように振り、双臀を揺さぶり、両足首をつないだ皮紐を引いて必死に悶えまくる珠江夫人である。
右や左に身を伏せようと狂気したように暴れ、腰を揺さぶり、友子のいたぶりを避けるための悲痛な努力をくり返すのだったが、
「いくら悶えても、もうどうにもならんわ。いい加減に締めたらどうやの。奥さん」
友子は、少々もて余し気味らしい。
「♢♢後、後生ですっ、やめて。ね、友子さんっ」
珠江夫人は、もうどうにも身を防ぐ術がないと悟ると、切れ切れにあえぐような熱っぼい声で友子と直江に哀願し出すのだ。
「顎で使っていた女中の私達に、こんな事されるのが口惜しいのやろ。どや、奥さん、何とかいうてみいな」
友子は、直江と顔を見合わせて、ニヤリと笑い合い、更に攻撃を続行するのだった。
「あ、ああ、友子さん、許して。か、堪忍して♢♢」
珠江夫人は、ポロポロ涙を流しながら、若奥様風に美しくセットされた艶々しい黒髪を左右へ揺さぶるのだった。
「今更、何をいうてんの、奥さん。それよりそろそろ、おとなしゅうなってくれたらどうなのよ」
珠江夫人の哀願などには頓着せず、嵩にかかって責め上げる友子だったが、恐怖と屈辱の極に筋肉を硬化させ、屈服を示さぬ珠江夫人を感じると、友子は、いらいらしていうのだった。
「いくらがんばっても、降参するまで責めてやるのや。ええか、奥さん」
しかし、珠江夫人は歯を喰いしばった表情で、負けるまいと必死にがんばっている。
「のいてみな。あたい達がやってやるよ」
銀子と朱美が、もて余し気味の友子達を退ける。
「全く意地っ張りね、この奥さん」
しかし、銀子の自信も崩れかけた。珠江夫人は、依然として美しい眉毛を苦しげに曇らせるだけなのだった。全身で息をつめ、打ち砕かれまいと悲痛な表情を見せている。
「どうしたんだよ、銀子」
川田が酔いの廻った眼で、珠江夫人をいたぶる銀子を見た。
「不感症なのかしら、この奥さん」
銀子は、口をとがらせて川田の方を見、珠江夫人が屈服しないことを告げた。
「まさか。そんな馬鹿な筈はねえ」
おめえ達の責め方がまずいんだ、と男達は笑うのだ。
「このウイスキーの瓶を空にしたら、俺達が交代してやるぜ。しばらくそのまま待たせておきな」
銀子と朱美は、くやしそうな表情で珠江夫人を見つめていたが、
「今度は、ベテランが勝負を挑むってさ。どっちが勝つか、あたい達は見物へ贈るよ」
と舌打ちしながらいうのだった。
珠江夫人は、硬質陶器のような白い頬を横に伏せ、さも哀しげに固く眼を閉じている。
今まで、友子や銀子達に受けた屈辱の洗礼に夫人の乳房は怒りを含んで波打ち、割られた太腿も口惜しさに、ブルブル痙攣を見せていた。
そして、今度は、野卑な男達に……。そう思うと、珠江夫人も、もうこれ以上、耐え得る自信はなく、大粒の涙を流し始めて、
「お願いです。大塚さん♢♢」
と、ウイスキーを飲む順子に声をかけるのだ。
「何なの、奥様」
順子は、グラスを片手に含み笑いしながらベッドの珠江夫人に近づく。
珠江夫人は、哀しげな色を湛えた視線を気弱に順子に拘けて、
「私が悪うございました。どのような償いも致しますわ。千原流生花を崩壊させよとおっしゃるなら、その通りに致します」
「ホホホ、随分と気弱になったのね、奥様」
「ですから、お願いです。もうこれ以上、このようなむごい責めはお止めになって。ね、大塚さん」
珠江夫人は、喉元にこみ上って来たものをぐっとこらえて、憎い大塚順子にすすり上げながら哀願しつづけるのだ。
「何をボソボソいってるんだよ」
川田が卓の傍から声をかける。
順子は笑いながら川田の方を振り返って、
「何時までもじらさずに、責めるなら早く責めてと御催促なさっているのよ」
順子が半分は珠江夫人に一間かせるつもりでそう川田にいうと、
「大塚さんっ、貴女は悪魔の化身だわっ」
と珠江夫人は昂った声でひと声叫び、後は大きく割り裂かれた両手両肢を慄わせ、号泣するのだ。
「それじゃ、今度は俺達がお相手するぜ。いいな、奥さん」
川田と吉沢が舌なめずりでもするような顔つきでベッドに近よる。
「そんな情けねえ顔するなよ。俺達はな、あんたの不感症を、治療してやろうといってるんだぜ」
嫌恵の戦慄に大の字に固定された全身を硬化させ、美しく冴えた象牙色の頬を熱っぼく充血させている珠江夫人のさも口惜しげな表情を見ると、川田は薄笑いを口元に浮かベてそういった。
この高慢ちきな夫人をこれからズタズタに引き裂き、心の底から屈服させてやる、と川田も吉沢も闘魂をわき立たせているのだ。
唇を奪おうとして、川田は珠江夫人の頬に手をかけたボ、狂気したように夫人は、激しく首を揺さぶって、川田の唇をさけた。
「くそ、甘くみるねえ」
吉沢が珠江夫人の頑強さに腹を立てて、激しく横面を平手打ちした。
「おっと、そんなのはいけねえよ。俺達は、もっとお上品に降参させなきゃいけねえ」
川田は、吉沢を制して、こヤニヤしながら珠江夫人の艶々しい象牙色の首すじに熱い接吻を注ぎかけた。
吉沢も川田のすることに習って、柔らかい耳たぶ、線の美しい優美な肩先などに、酒臭い息を吐きかけ始める。
冷やかなうちに優雅と気品とを兼ねた美しい珠江夫人の顔が、次第に上気し始めたのは、それからしばらく経ってからだ。
「旦那には、こんな強情を張らなかったんだろうな、え、奥さん」
川田は、夫人のふっくらした頓に手をかけて、顔をのけぞらせながら、そんな事を耳に口を当て、尋ねるのだった。
珠江夫人は、固く眼を閉じ、唇を噛みしめていたが、苦しげに眉を寄せるあたりにべっとりと汗が滲んでくる。
「ね、後は私に料理させてね」
大塚順子は、二人のいたぶりに挟撃されている形の珠江夫人を、眼をギラギラさせて見ていたが、ふと、嗜虐の衝動にかられて、ベッドへ近づいた。
「レスビアンの大家、大塚女史にかかっちゃ不感症も一気に吹っ飛んじまうぜ」
鬼源がゲラゲラ笑った。
順子は、服を脱いで、玄人っぼい黒いスリップ姿になると、珠江夫人をのぞき込む。
「フフフ、いいわね、奥様、今度は私の受持ちよ」
順子は、子供が好きな玩具を愛撫するような仕草で、夫人のイヤイヤをする顔を両手で挟みこみ、頼ずりし、次にそっと唇を押し当てるのだ。
その瞬間、珠江夫人は、火傷でもしたような激しい声を張り上げた。
「な、何をなさるのつ、大塚さんっ」
ひどく狼狽し、顔面一杯に羞恥の紅を散らせて縛られた美肌を大きくのたうたせる珠江夫人であった。
「いいのよ。そんなに羞ずかしがらなくたって」
順子は、悶え泣く珠江夫人を楽しそうに眺め、夫人の顔を押さえていた手を、のけぞった喉から胸へと這わせ始める。
処女であれ、人妻であれ、相手が美人であれば、こうしたレズボスの悪戯に引きこみたいという衝動に順子はかられるらしい。
まるで、桃源境に浸るかのようにうっとりとした表情に変ってゆく順子を、川田と吉沢は、自分達のすべき仕事も忘れて呆然と見つめるのだ。
ふと、顔を上げた順子は、こっちを見つめる川田達を跳んでいった。
「ぼんやりしてちゃ、駄目じゃない。いいわね、この奥様の体を私達は今、治療しようとしているのよ」
川田と吉沢は、順子に叱られ、首をすくめて顔を見合わせるのだった。
「フフフ、奥様、敵方の私に、こんな事されて口惜しい? ねえ、ねえったら、何とかおっしゃってよ」
順子は珠江夫人の抵抗が次第に弱まって自分の運命を悟ったように、責め手に翻弄されるまま、シクシクとすすり泣くだけとなるとようやく唇を離した。
「まあ、奥様ったら、フフフ、不感症が聞いてあきれるわ」
順子は、わざとらしく頓許な声を張り上げる。
珠江夫人は、美しい端正な顔に一層の紅を散らして、繊細なすすり泣きの声を洩らすのだ。
口惜しくも意志とは逆に、屈服の兆しを責め手に感知させてしまったのである。
順子もまた嗜虐美の酒に酔い痴れたように陶然となった表情で、椅子に坐っている鬼源の方を見る。
「鬼源さん。心配なさらなくてもいいわ」
「それで安心しましたよ。商品として適用しねえと俺の貴任になりますからね」
鬼源は、黄色い歯をむき出して笑った。
先程から、順子の責め方を貪るように見入っていた友子と直江は溜息をつくように、
「そやけど、うまいもんやなあ。こんなヒトにかかったら、いくら強情な奥さんでも意地を張り通せる筈はないわ」
「こっちも、なんやおかしな気分になってきたわ」
といって、肩をすくめるのだった。
珠江夫人は、ますます熱い息を吐きながら時折、上の空のような無気力な、ねっとりした瞳を開いたり閉じたりする。麗わしい太腿が、もどかしげに揺れるのは、責めを拒否するためだけの悶えではなさそうに察せられた。同時に、ふきこぼれるばかりの甘美な脂汗。
珠江夫人は、今や、理性の一切を奪い取られて得仰の知れない苦悩の波に揉み抜かれ、妖しいばかりの涕泣を洩らし始めた。
「鬼源さん、そろそろ支度にかかって頂戴」
順子は、鬼源に声をかけたが、すでに鬼源は奥のガスストーブで温めたミルクをゆっくりと、責具に注ぎこんでいる。
「フフフ、手廻しがいいわね」
順子は鬼輝からそれを受け取ると、懊悩の極にある珠江夫人の鼻先へ近づけた。
ふと、眼を開いた夫人は、はっとし、思わず眼をそらせる。
「そう驚くことはねえよ。そいつは静子夫人で実験ずみだ」
鬼源がせせら笑った。
「これで、いくら頑張っても駄目だってこと思い知らせてあげるわ。いいわね」
順子は、面白そうに珠江夫人の頬を突いていうのである。
「やがて奥様は、静子夫人達と一緒にニグロと見世物に出なきゃならないのよ。少し、きついようだけど、これも修業のためね」
珠江夫人のひきつったような顔を見て、順子は笑いこけた。
無情な順子の手にある責具に、あっと、珠江夫人は声をあげたが、
「フッフフ、暴れようたって駄目。さ、いい子だから」
順子の巧妙な手さばきにつれ、
「貴方、ああ、貴方、許してっ」
珠江夫人は、熱病におかされたように夫を連呼し、このような責めに負け、嬲りものにされる自分を詫びるのだった。
思ったよりもスムーズに珠江夫人が屈服しかけたことに、順子は川田や吉沢達と勝鬨でもあげるようにはしゃぎ出す。
「もうこれで奥様は私達のものよ。これから腕によりをかけ、見世物に出られるような体に仕上げてあげるわ」
順子は、もうこうなればしめたものだとばかり、倒錯の荒々しい飲望も加わって、いよいよ攻撃を開始したのである。
第七十三章 変貌の啜り泣き
人妻無残
このように全体が細い線で取り囲まれたような優雅な体つきの女は、感度が鋭敏だということは、川田にもわかっていたが、それにしても彼女の見せる狂態には舌を巻いた。
硬質陶器のような艶々しい美肌にねばっこい脂汗を滲ませて、珠江夫人は、舌足らずの悲鳴をあげ、端正な美しい顔を苦悶にひきつらせて激しく左右に揺さぶっている。
適度のふくらみを持った形のいい二つの胸の隆起は川田と吉沢の掌の中でゆさゆさと波打ち、優美なか細い腹部から腰のあたり、そして、足首にきびしく皮紐を喰いこませている妖しいくらいに悩ましい雪白の太腿がゆらいだり、硬直したりして、順子の容赦のない責めから逃れようと懸命の努力をくり返しているのだ。
「フフフ、いくら悶えたって駄目よ。もうこうなりゃ諦めることね」
順子は責めに一段と力を加え始めた。
火のように紅く染まった美しい顔を狂気したように振る珠江夫人は、しかし、その意志とは裏腹にその責めを甘受し、順子の巧妙な攻撃につれて、すすり泣きを混じえたうめきを口から洩らし始める。
「フフフ、こういう風にした方がいい。それともこんな風にしてあげようか、奥様」
順子は懊悩の極にある珠江夫人を凝視して含み笑いしながら、更に巧みに攻めていく。
「ああ、ど、どうすればいいの。ね、私、どうすればいいのっ」
珠江夫人は、わなわな唇を慄わせながら、譫言のようにそんな事をいうので、乳房をいたぶる川田と吉沢は、顔を見合わせて苦笑した。
順子もくすくす笑いながら、わざと優しい口調で、
「心配しなくていいのよ、奥様。あとの事は私達に任せておけばいいわ」
というと、最後の圧倒にかかるべく追いこんでいく。
珠江夫人は、先程までの激しいあがきはもう見せず、自分の運命を知悉したように固く眼を閉ざし、順子の責めるままに身を委ねてしまった。
「そうよ。そんな風に素直にならなきゃ。じゃあこれから腕によりをかけて、すばらしい気分に浸らせてあげるわ」
順子は、調子に乗って珠江夫人に攻撃を続行する。
「ね、あんた達、ちょっとよく見てごらんよ」
順子は、珠江夫人を責め上げながら、友子と直江を傍へ呼んだ。
「まあ、凄いわあ」
先程、自分達が責めた時、あれほど頑強な拡抗を示し、かなり強烈にいたぶってみたつもりだが、屈伏のかけらも示をず、気質的にこういう凌辱を嫌悪し、肉体そのものが受けつけぬのではないかという、つまりマゾ的には不感症では、という疑いも起こったのだが、これは何ということか。まるで、悦楽の蕾を満開させたように一切を変貌させ順子の責めを甘受しているのだ。
ベテランの手にかかれば、貞淑な女も、こんな風に落花微塵になるものなのか、と友子と直江は呆れたような顔つきになる。
何よりも二人の女中が驚いたのは、秩序立った優雅な生活に明け暮れし、美貌と貞淑さと気位を未ね備えていた珠江夫人が、悦楽の極致に立ったように拗ねて悶えるよう固定された四肢を慄わせたり、さも切なげに荒い鼻息を立て始めていることであった。
「こりゃ立派に静子夫人の後任が務まるぜ」
鬼源が眼を細めて、媚めかしい身悶えをくり返す珠江夫人を眺めている。
「たいしたもんだ」
急に珠江夫人は、べっとり脂汗を浮かべた美しい額を切なげに曇らせて、むずかるように首を振り始めた。同時に漂わしい太腿の筋肉がブルブルと痙攣し出す。
「遠慮しなくたっていいのよ、奥様」
順子は嗜虐の興奮に酔い痴れながら、残忍な眼を光らす。
♢♢ああ、神様。
♢♢珠江夫人は、卑劣な男女の環視の中で敗北することの恐ろしさに、思わずカチカチと歯を噛みならし、ぐっとこらえた。
だが、順子や川田達の攻撃には、いちだんと拍車が加わる。
「ゆ、許して♢♢」
はざくように叫んだ珠江夫人、ベッドに固定された全身を硬直させ、引き裂かれている両肢を反り返す。
苦しげに何か言葉にならない言葉を口走った珠江夫人に対して、順子は責具のボタンを押した。
肉体が炸裂するばかりの衝撃に全身を激しく痩攣させた夫人は、大きく首をのけぞらせる。相ついで起こる発作に翻弄された珠江夫人は、肉体をブルブル震わせ、そのすさまじい光景に友子と直江は唖然とした表情になっている。
「すさまじいフィナーレね」
順子は、銀子や朱美と並んで、珠江夫人を指さしながら笑いこけているのだ。
「だが、随分と手数をかけさせやがったな。え、折原夫人」
川田と吉沢は、がっくり顔を伏せている珠江夫人の頬を指で突く。
珠江夫人は、自分の意志を裏切って、これら野卑な人間達の眼前でみじめな敗北の姿を露呈させてしまった口惜しさと羞ずかしさで生きた心地もなく、ただ、シクシクと、すすり上げているだけだ。
順子は静かに責具を離し、そのおびただしい珠江夫人の敗北のしるしに改めて眼を向けると共に、一度に溜飲が下がる思いで、
「随分と我慢なさっていたようね、奥様。でも無理ないわ。三十歳といえば、女盛りなんですものね」
そして順子は次に、ねじるように顔を伏せている珠江夫人の熱い頬を両手ではさみ、
「フフフ、よく顔を見せて頂戴。奥様」
と、夫人の顔を正面にすえ、柔らかい陣け涙を一杯浮かベた、さも口惜しげな表情をしげしげと見つめるのである。。
口惜しい屈伏の余韻が遠ざかり、やがて、珠江夫人は熱っぼく潤んだ瞳をぼんやり見開いた。
「御気分はいかが。何とかおっしゃってよ」
順子は、品位のある繊細な珠江夫人の鼻先を面白そうに指で押す。
「お願いです。縄を、縄を解いて♢♢」
珠江夫人は、物悲しげに睫をそよがせながら、声を慄わせて順子に哀願する。
「あら、このぐらいで何をいってんのよ。これから明け方まで少なくとも五回はスパークして頂くわ」
珠江夫人は順子にそう浴びせられると、再び眼を哀しげに閉ざし、顔を伏せ、白い肩を慄わせて嗚咽し始める。
「ああ、いっそ、ひと思いに殺して。ね、殺して頂戴っ」
これ以上、卑劣な男女の眼前で嬲りものにされる気力もなく、珠江夫人は哀泣しながら口を開いた。
「何いっているんですよ。千原家のお嬢さんだって、間もなく、こういう特別調教を受けるんですよ。先輩の方がそう取り乱しちゃ、みっともないじゃありませんか」
順子がいうと、続いて鬼源がどすのきいた声を珠江夫人に浴びせかけた。
「俺達はな、お前さんの肉と心をここで完全に作り変えて、立派な商品に仕上げようと努力してるんだ。まだ、わかんねえのかよ」
川田も吉沢も、大の字にされた珠江夫人につめ寄って凄んだり、叱咤したり、批評したりするのだ。
「ね、川田さん。土蔵の地下にいるお嬢さんをここへお連れしてよ」
順子が川田にいうと、珠江夫人は、ハッとしたように眼を開いた。
「千原流生花の後援会長、折原夫人がこんな無様な姿を晒してしまったことを、お嬢さんの眼でたしかめさせるのよ。これからの、参考になると思うわ」
「待って、待って下さい」
外へ出ようとする川田を珠江夫人は必死になって呼び止める。
このようなみじめな姿を美沙江に目撃されると思うと毛穴から血が噴き出るような戦慄を覚える珠江夫人であった。
「ここへお嬢様を連れてくるのだけはやめて下さい。それだけは、お願い、大塚さん」
激しく狼狽し、大の字につながれた四肢を揺さぶってそう叫んだ珠江夫人は、次に黒髪を揺さぶって号泣し始める。
「じゃ、素直に、俺達の調教を受けるというのだな」
鬼源は弱味につけこんだように珠江夫人につめ寄った。
「よっ、返事をしねえか。悦んで調教をお受けします、とはっきりいってみな」
鬼源に乳頭を指ではじかれた珠江夫人は、すすり上げながら、小さい声で
「悦んで、悦んで調教をお受けします」
そういうと、再び、顔をねじって号泣するのである。
「よし、その言葉、忘れるんじゃねえぞ」
鬼源は満足そうにうなずくと、ぼんやり傍につっ立っている友子と直江に声をかけた。
「今度は、さっきみたいに手古ずることはねえだろう。しっかりやんな」
と、責具を友子に手渡すのだ。
暴力行使者が、今までの使用人だった友子と直江であると知ると、さすがに珠江夫人は動揺して口惜しげに白い歯をカチカチ噛み鳴らす。
「うちらが相手となると、なんで、そう固くなるの、え、奥さん」
友子は、鬼源に方法を習って、ガスの上にミルクの鍋をかけながら、ベッドの上の珠江夫人にいった。
「ミルクはぬるい方がいいの。それともあつい方がお好き。ね、奥さん」
直江が今度は夫人に声をかけるのだ。
女中の手で嬲られるという屈辱に珠江夫人はひきつったような表情を見せている。
テーブルの傍の椅子に坐ってひと息入れている川田や吉沢達は、ゆっくりと煙草の煙を吐き上げながら、面白そうにその光景を眺めているのだ。
「さ、準備は出来たわ」
友子は責具を右手に持ち、直江をうながしてベッドの上へ足をかけた。
「そんな口惜しそうな顔せんといてよ、奥さん」
直江は早速、夫人の頬や乳房を強く、また優しく両手を使っていたぶり始める。
裏切った二人の女中の指先を感じると、その嫌悪の感触に裡からたまらない口惜しさがこみ上って来て、全身がひきつり、麗わしい太腿の筋肉がピーンと張るのだったが、拘束された四肢は逃れる術もなく、彼女達のなすがままとなってしまうのだった。
いや、それだけではなく、先程、口惜しくも異常な頬を一度激しく燃えたせてしまった生身の肉体は、女中二人のいたぶりの前に残り火をかき立てられ、次第に抵抗力は溶け潰れていく。
「えらそうな事いっても、やっぱり奥さんも女やわ」
「どうすんの、奥さん。こんなにおとなしゅうなって、御主人に申し訳ないと思わへんか」
友子と直江はそんな事を口走りながら夢中になって、今はもうところ構わず夫人をいたぶり、
「さ、次はこれよ、奥さん」
その瞬間、珠江夫人は、艶々しい雪白のうなじをくっきりと浮き立たせ、顔を大きくのけぞらせたが、うっとりと瞼を閉じ合わせた珠江夫人の顔は世にも美しく照り輝くように見えた。
「うまくいったわね、フフフ」
銀子と朱美がガムを噛みながら、のぞきこみ笑い合う。
珠江夫人は、女中二人の攻撃に応じるかのように柔らかい全身をぐったりと投げ出す様子までついに見せることになったのだ。
「友子さん、待って、ね、待って」
突然、珠江夫人は激しい涕泣を洩らしながら、おどろに乱れた黒髪を更に揺さぶって叫んだ。
「何やの、奥さん」
友子は、ふと攻撃を中断して、大きくあえぎつづける珠江夫人の汗ばんだ美しい顔を見上げる。
「私は、私は、もうどうなったっていいわ。でもお願い、お懐様を、お嬢様を助けてあげて♢♢」
譫言のように珠江夫人は口走るのである。
「今更、何をいってるのさ」
と、見物している銀子が、吐き出すようにいった。
「千原家のお嬢様も、クモの網にかかった蝶々と同じ運命なのよ。お嬢様のこれからの事は一切、私達に任せておきゃいいのさ。あんたが何も心配することはないのよ」 銀子はそういっで、今度は、友子の腰をつついた。
「さ、グウの音も出ない程責め上げてやんなよ。あんた達の次はあたい達が責めることになってんだから」
友子と直江は愉快そうにうなずいて責めを続行する。
苦悩とも悦楽ともつかぬうめきをあげ、珠江夫人は固定された四肢を反り返らせた。
美沙江と自分とを祭落の底へ突き落とした憎い二人の女中の責めで、崩壊して行く姿を晒さねばならぬ珠江夫人の苦悩は如何ばかりか。それを思うと大塚順子は痛快でたまらず胸を轟かすのである。
「ねえ、大塚夫人、ちょっと、見て」
朱美はクスクス笑いながら、順子を手招きして呼び、夫人を指さした。
友子の残酷な責めに反応している女♢♢そこにはもう貞淑で教養のある博士夫人の面影など微塵もなく、被虐の妖気にむせた一匹の雌に過ぎなかった。
見物に加わる鬼源の口元に意地の悪い微笑が浮かぶ。見世物に引き出しても、この女は充分、男客達の官能を痺れさせるだろう。また今後の調教次第では静子夫人同様、森田組の優秀なタレントになるかも知れぬ。そう思うと鬼源は無性に楽しくなるのであった。
やがて、珠江夫人は、先程よりも更に激しく、つんざくような声を張り上げた。
恨みでも返す気分で、友子は血走った眼つきになり、責めの仕上げボタンを押す。
珠江夫人は、全身をのけぞらせるようにして、絶息する時みたいな異様なうめきを上げると、がっくりと首を落とした。
ついに自分達の軍門に珠江夫人を降したと感じると友子と直江は歓声を上げた。
甘酸っぱい濃厚な体臭を発して、優美な太腿を何時までも波打たせている珠江夫人を好奇な眼で貪るように見つめる順子は世にも嬉しそうな顔つきになる。
「フフフ、今まで使っていた女中さん達に、こんなぶざまな姿をみせるなんて、全く奥さんもいい気なものだわ」
しかし、珠江夫人はもう口をきく気力もないまでに打ちのめされている。
もう口惜しさも恥ずかしさも、そこにはなく、友子や直江の射るような視線の前に屈伏を余儀なくされた筋肉の一切を投げ出しているのだ。
鬼源も川田も、珠江夫人の感受性の豊かさに改めて驚くのだ。
「まだ明け方までにゃ、大分時間があるぜ。こってりと呻かせてやるからな」
鬼源は、がっくりと首を横に落とし、放心したように小さく口を開き、眼を閉じている珠江夫人にいったが、
「これじゃ、ちっとかわいそうだな。一度、きれいにしてやんな」
と、友子と直江の顔を見る。
珠江夫人は、その時、深い溜息をつくようにして蘇ったように柔らかい睫をそっと開く。いまだに夢の中を、さ迷っているような朦朧とした瞳を上げると、そこに友子と直江のニヤニヤした顔がのぞきこんでいるのだ。
珠江夫人は、白い頬を桜色に上気させて、さも恐ろしげに、彼女達の視線から眼をそらせた。
ついに、この女達の手にかかり、再び、生恥をかいてしまった屈辱感が、じわじわ胸にこみ上って来て、珠江夫人は、頬を慄わせ、絹糸のような繊細なすすり泣きを始めるのだ。
友子と直江は、楽しそうに口笛を吹きながら鬼源に命じられた仕事にかかる。
敗戦したみじめさを一層みじめにさせるような友子達の仕事ぶりに珠江夫人は、魂まで震わせるような哀泣を洩らすのだった。
「こんな風に親切にしてあげてんのに、何も泣くことないやないの」
「そやけど、奥さん。そんなきれいな顔してるくせに、相当なものやわね」
友子と直江が仕事をすませると鬼源がいった。
「じゃ、十分の休憩で、次は、銀子と朱美が始める」
「よしきた」
銀子は友子から責具を受け取った。
「次は面白い方法だ。いいか、奥さん。天井の鏡をはっきりみながら、責めてもらうんだぜ」
鬼源は、そういって、壁に垂れている紐を引いた。
天井に張られてあったカーテンがさっと左右に割れて、大きな鏡が姿を現わす。それは縛りつけられている生贅の全身像をはっきりと写し出していた。
あっと、珠江夫人は思わず反射的に紅潮した顔をそらした。
みじめな、あられもない自分の全身像を、ふとその鏡の中に見た珠江夫人は、まともにそれに眼を向ける勇気はなかったが、
「いいか、銀子達の調教が仕上がるまで、上の鏡から眼をそらすんじゃねえ。いうことを聞かねえとすぐここへ、地下の美沙江を引き立てて来るからな」
鬼源はブルブル優美な肩を慄わせている珠江夫人に鋭い声を浴びせかけたのである。
奴隷の食事
地下室の小さな窓から朝の光がほんのりと差しこんで、たった一枚の毛布にくるまって横たわる静子夫人の白蟻のような美しい寝顔をかすかに照らしている。
昨夜、飽くことを知らぬ千代や鬼源のいたぶりを受けて心身ともに疲労し切っている静子夫人は、死んだように身動きもせず、眠りつづけているのだ。
やがて、静子夫人は、かすかに寝返りを打ち、ふっと眼を開いた。
そして、無気力に薄暗い牢舎の四囲を見廻すのであった。
♢♢また、夢を見たわ♢♢静子夫人は、伊豆にある別荘でひと夏過ごした当時の夢を見たのだ。
海の見えるベランダへ出て夫の隆義と並んで立ち、広大な庭園を眺めていた日の夢であった。
晴れ渡った空の下の庭園には、真紅のサルビアの花が燃えるように咲き乱れ、また海を背景にして白いマーガレットの一団が波を打っていた。
「ね、貴方、バラがないと淋しいわ。今年からバラも植えましょうよ」
と、静子夫人は夫にねだり、それをどこへ植えるか場所を調べるため、庭へ降りる。
美しい花の咲き誇る庭を歩き、ふと繚の木の下へ来て、上を見上げると、小枝に一匹の蛇が巻きついていた。夫人は驚いて元来た方へ引き返そうとすると、後ろの木にも、横の木にも、いや美しい花畠にも太い胴まわりの蛇が一面にとぐろを巻いている。夫人は悲鳴を上げて走った。蛇共は、先の割れた赤い舌を出して追って来る。
夢から覚めた夫人は、はっとして、額に浮かんだ汗を拭いた。しかし、現実のカビくさい、孤独と暗闇の牢舎を見ると、どのような恐ろしい夢であるにせよ、それがたった一つの楽しみであるとさえ思える。
やがて、ここへ今日もまた自分の肉と心をバラバラに打ち砕くため、調教師が現われるのだ。それを待つだけが夫代人の日課なのである。
今日は、どのような調教を受けるのだったっけと静子夫申人は、物悲しげな瞳で、厳重な錠前がかけられた鉄の扉をじっと見つめている。そして、今頃、ここへ誘拐された折原夫人や美沙江達はどうしているのだろう、と二人の身を案じ、次に、京子や美津子、小夜子や桂子の運命を考えるのだった。
夫人は、そっと上体を起こし、縄の痕のついた白い両腕をいたわるように抱きしめるのだ。
普通なら、もう現われる恐ろしい調教師達はまだ姿を見せない。
今日一日は、このまま休ませて欲しい、と夫人は彼等の現われぬことを祈りたい気持になった。
しかし、その期待は空しく、賑やかな笑いさざめき声と一緒に何人かの足音が響いて来る。
静子夫人は、おろおろして、起き上り、毛布を折り畳んで隅へ置くと、その場に膝を折って坐った。地下室へ来訪者があった場合、そのようにして行儀よく待つよう鬼源から教育されている。両手を交錯させるようにして胸の隆起を隠し、両膝頭をぴったり合わせて小さく夫人が坐った時、談笑しながらドヤドヤとやって来たのは千代に和枝と葉子、それに、春太郎、夏次郎の五人であった。
「ホホホ、行儀よく、待っていたわね。感心したわ」
千代は、薄暗い牢舎の中で、艶々と輝く優美な裸身を正座させている静子夫人を頼もしげに鉄格子の聞から見つめて、
「昨夜は遅くまで珠江夫人の調教にかかっていたので鬼源さんは寝坊しちまったのよ。予定より一時間も遅れたけど、さ、今日もしっかりお稽古しましょうね」
千代は、そういって、春太郎達に眼くばせをした。
ガチャガチャと錠前が春太郎の手で外される。
「さ、出て来て頂戴、奥様。顔を洗ってお化粧をすませたら、すぐに鬼源さんの部屋へ行くのよ」
春太郎と夏次郎にうながされて、夫人は、そっと立ち上り、腰をかがめて牢舎から出て来るのだった。
「お稽古に入る前は、もっと楽しそうな顔をしなきゃ駄目よ」
千代は、伏眼し、かたくなな沈黙を続けている静子夫人の冷たい横額を見て、含み笑いしていった。
地下室の階段近くにある洗面室で歯を磨き顔を洗い、簡単な化粧を夫人がすませると、春太郎と夏次郎があらかじめ用意していた朝麻縄を持って背後から近づいて来る。
静子夫人は、もはや催促されるまでもなく自分の方からゆっくり両腕を背に廻して手首を交錯させるのだった。
それにキリキリときびしく縄がけした二人のシスターボーイは、たぐった縄で、豊かで水々しい夫人の乳房を上下へ二巻き三巻きと巻きつけ、きびしく縛り上げていく。
「今日はまた新しい勉強を、鬼源さんがさせて下さるようよ。しっかりがんばってくれなきゃあ」
千代は、後手に縛り上げられた静子夫人の見事に充実んた美しい裸身を眺めながら、ホクホクした思いになってそういうと、
「さ、お歩き」
と、縄尻を取って、優美で息苦しいばかりに悩ましい量感のある夫人の双臀を軽く平手で叩くのだった。
華やかに着飾った中年女達に背や尻を突かれながら、素っ裸の静子夫人は、緊縛された身をよろよろと歩ませていく。
「そんなに悲しそうな顔してちゃあ駄目だといってるでしょ。いくらいったらわかるのよ、奥様」
地下の階投を豊かな双臀をゆらしながら歩んで行く夫人のさも悲しげな横顔を見た和枝は、舌打ちして、夫人の耳を引っ張るのだ。
「ね、千代さん」
二階の長い廊下を、鬼源の部屋へ向かって歩まされる静子夫人は、ふと、切長の美しい瞳を哀しげにしばたたかせながら、千代の方を見た。
「何なの、奥様」
千代は冷やかな口調で意地悪そうな視線を夫人に注ぐのである。
「今日は、昨夜の疲れのせいか頭痛がするのです。お稽古は午前中だけにして頂けないでしょうか」
千代の気分を害することを恐れて、気弱な口調でそういったのだが、
「図々しい事いうんじゃないよ。ちょっと、こちらが甘く出りゃ、あんたは、すぐにつけ上るんだから」
という邪慳な言い方を、千代はするのだ。
「こっちも、あんたをこの道の大スターにしてやろうとして色々骨折っているのよ。それなのにお稽古をさぼろうなんていう量見は、気に喰わないわ。鬼源さんに頼んで今日の調教は徹夜で続けることにするからね」
静子夫人の二重瞼の美しい瞳にキラキラと涙の露が光り出す。
「フフフ、いわなくてもいい事をいって掛しちゃったわね、奥様」
春太郎と夏次郎は、悲しげな夫人の横顔を見て笑い出す。
鬼源の宿舎になっている二階の一部屋を春太郎がノック第すると、寝不足で土色の頬をした鬼源が顔を出し、引き立てられて来た静子夫人を見て、ニヤリと黄色い歯をむき出した。
「そうだ。今朝はおめえの調教が、一番手だったな。まあ入りな」
昨夜は、折原夫人の調教で、こっちはろくに眠っちゃいねえんだ、などといいながら、鬼源は夫人の縄尻をとって中へ引き入れた。
「ここへ坐りな」
鬼源は、夫人を坐らせ、縄尻をベッドの脚につなぎ止める。
「川田の兄さん、起きねえか」
鬼源はベッドの上で鼾をかいている川田の肩を揺さぶったゃ
昨夜、おそくまで折原夫人を責めさいなみ、その責め疲れた体をここへ運んで鬼源と川田は一緒に眠ったものらしい。
「何だ、もうこんな時間か」
川田は寝呆け眼で腕時計を見ると、あわてて起き出した。
ふと、ベッドの脚に縛りつけられ、小さく縮んでいる静子夫人に気づいた川田は、
「へへへ、相変らずきれいだね、奥さん」
と、夫人の頬を指でつついて、シャツを着始める。
千代達は、乱雑になっている部屋の中を取り片づけて、
「ホホホ、鬼源さん。昨日約束した通り、今日からこの奥さんには朝食代りにたっぷり特製ジュースを、御馳走してあげることにしたのよ。よろしくお願いしますわね」
「ああ、わかっていますよ。奥様の美容と健康のため、川田の兄さんと俺とが、交代で奥様に飲ませてやることにしましたからね」
川田はクスクス笑いながら、赤ん妨の前垂れを持って来て、うなだれている静子夫人の顔を持ち上げ、それを首にくっつける。
「ミルクを御馳走になる赤ちゃんだから、前垂れをつけねえとな」
それを見た千代や和枝達は口を押さえて吹き出すのだ。
冷たく冴えた夫人の象牙色の頬が次第に赤味を帯びてくる。
「ハハハ、赤ちゃんの前垂れなんかつけると、馬鹿に可愛くなったじゃねえか、え、奥さん」
鬼源と川田は、そんな静子夫人の左おにゆっくり腰をかがめて、ゲラゲラ笑い出すのであった。
第七十四章 朝食の味覚
赤い唇
「さてと」
鬼源は、ベッドの脚につながれている静子夫人の両肢をあぐらにして足首を縛り合わせると、壁際の電気冷蔵庫の中から、西洋皿の上に載ったアップルパイを取り出した。
「どうだい。うまそうだろう、奥さん」
鬼源は、パイを夫人の眼に見せてから、奇妙な事を始めた。
ナイフを使って、パイの真ん中に筋目を入れ、フォークを使って、その中央部に小さな穴を開けるのである。
「こりゃ奥さんに食べさせるパイじゃねえ。調教させるためのものなんだ」
薄笑いを浮かべてそういった鬼源は、
「今日からまた別のテクニックを教えてやろぜ。今まで教えた接吻はかなり上達したが、もっと男を喜ばすには、これから教えることをよく練習するんだ。そうすりゃ、男は有頂天になるぜ」
ケツの穴に接吻して、客を喜ばせる娼婦はいくらでもいる、と鬼源は、静子夫人の髪のほつれを撫で上げ、冴え冴えとした象牙の頬を指で突いていうのである。
「特に、間もなくお前さんと組むことになっている黒人のジョーは、こいつを相手がやらかさねえと機嫌が悪い。だから、早いところ、そのコツを教えておかねえとな」
こいつを、フランス式に対し、イタリア式と呼ぶことにしようぜ、と鬼源は川田と顔を見合わせて笑い合った。
昨夜は、夜明け近くまでの調教、そしてまた今朝は何時もと変らず早朝からの調教開始で、気高く美しい容貌の静子夫人ではあったが、如何にも気怠く疲れた翳りがその表情に表われている。しかし鬼源のいうそのイタリア式調教の意味がわかると、もの憂そうに閉ざしでいた瞳を開き、濃い睫を慄わせながら、夫人はチラと憎悪の色をその視線に含めて鬼源を見た。
「何だよ、その顔は。こっちが新しい手を教えてやろうといっているのに不平面すんねえ」
鬼源は、高貴な感じの夫人の鼻すじを指ではじいた。
「さ、このパイを稽古台にして、上手に舌を使ってみな。今の奥さんなら、こっちがうるさく口を出さなくたって、これ位の事は出来る筈だよ」
川田も、あぐら縛りにされている夫人の横へにじり寄って、パイの皿を夫人の鼻先へ突き出すのだった。
「川田さん♢♢」
静子夫人は、名状の出来ない悲しげな色を表情に浮かべ、綺麗な睫をフルフルと慄わせながら興奮気味にいった。
「こんな事まで、しなければならないという理由がわかりませんわ。貴方達は、静子をこのように犬猫よりも下等な人間に作り変え、完全な性の奴隷にしてしまったのに、それでも、まだ、この静子が憎いとおっしゃるの♢♢」
麻痺した神経が、ふと高ぶって、思わず激しく口走ってしまった静子夫人であったが、
「いいたいのは、それだけかい」
と、鬼源や川田が、邪悪な色を眼に浮かべてニヤニヤ笑っているのに気づくと、夫人はがっくり首を落とし、優美な肩を慄わせて、シクシク泣きながら、
「♢♢ごめんなさい。今日の静子は、どうかしているわ。疲れているせいか、近頃、自分が奴隷であることを忘れて、興奮してしまうのです」
と、率直に謝るのだ。
「一生懸命、稽古に励めば、早い時間に解放して貰えるんだ。わかったな、奥さん」
川田は、夫人の乳色の肩に手をかけながら、すすり上げりている夫人の顔をのぞきこむようにしていう。
夫人は、小さくうなずいて見せるのだ。
「さ、それじゃ、稽古に入ろうぜ。コツが呑みこめりゃ、俺達が実験台になってやるからな」
鬼源は、夫人が次第にその体内にマゾヒズムの血を発生させて来たことに気づいて、喜びながら、調教を開始したのだ。
静子夫人は、鼻先に押しつけられたパイを、しばらくは白蝋のような美しい頬を固く凍りつかせて見つめていたが、やがて、そっと眼を閉ざし、静かに紅唇をのぞかせ始める。
「くすぐるようなつもりで、そのパイに高い鼻先を滑らせてみな」
静子夫人は、鬼源に命じられるまま、従順に高貴な匂いに包まれた鼻先を、パイの上に、滑らせた。
「次は、舌だ」
花びらのような美しい唇を押しつけていた静子夫人は、はっきりと舌をのぞかせ、かすかに鼻息を立てながら、鬼源に指示されて、パイの下から上へ、上から下へ移動させる。
「次は、真ん中だ。こういう風に舌を丸めてな」
鬼源は舌を丸めて見せ、夫人に集中攻撃を命じた。
夫人は、次第に凄艶な表情になった。
「ここだけ見ると、まるで、男になった女が、女になった男を責めているようなもんだな」
激しく首を前後に振り動かせ、我を忘れたように舌の練習を続けている夫人を凝視していた川田は、何を想像したのか、そんな事をいって笑い出す。
夫人の細く丸めた舌の先端からは、自然に唾液が流れ出て、パイの上を濡らしつづける。
「そういう風にしてやりゃ、ニグロのジョーも御満悦だぜ」
川田と鬼源は、顔を見合わせて、笑い合った。
なおも、執拗にそうした稽古を夫人にはどこした鬼源は、
「よし、その要領を忘れるんじゃねえぞ。そういう風にしてやりゃ、相手はモリモリ喜んで、大いにハッスルするにちげ違えねえ」
じゃ、次に、約束の朝食を始めるか、と鬼源はようやくパイから顔を上げることを許され、濡れ濡れとした美しい瞳をぼんやり前に向ける静子夫人にいった。
「川田兄貴、お前さんが先に、御馳走してやんなよ。俺は、一寸、折原夫人の様子を見て来るからな」
鬼源は、今朝、大塚順子の前で、宣誓させ剃毛することになっている珠江夫人のことが気がかりになり出して、部屋を出て行くのだ。
その後、川田は、鏡台の上から口紅を取り出して、横に伏せている夫人の頬に手をかけて、正面に向けさせると、
「御馳走になる前の、身だしなみってやつだな」
と、丹念に口紅を引き始める。
夫人は、うっとりと眼を閉ざし、川田の手に顔をゆだね、もうされるがままであったが、そこには、被虐の生活になれた女としての天性の美貌にプラスされたある美しさが滲み出ているようで、川田は、楽しい気分になるのだった。
仕込み
「ここで商売もののフィルムを撮影するわけですよ」
田代は、十畳の広間の中央に敷かれた白いシーツを指さして伊沢に説明している。 舞台に使われる夜具の周囲には、撮影用のライトが配置されて、森田組のチンピラ達が電球を点滅させながら機械の調子を調べているのだ。
こうした仕事の撮影技士になっている幹部やくざの井上は、小型撮影機を点検しながら近くで焼酎を飲んでいる捨太郎の方を顔をしかめて見て、
「やい、そう飲むと手前、役に立たなくなるぜ。いい加減にしねえか」
と、どなりつけている。
「そら、大スター御登場だ」
襖が開いて、千代や春太郎達に取り幽まれた静子夫人が、その艶麗な裸身を見せたので、田代は楽しそうに井沢の肩を叩いた。
捨太郎は、涎を流しながらのっそりと立ち上がり黄色い歯をむき出して奇妙な笑い声を立てる。
「ね、社長。二時間ばかりこの奥様をお借りするわ。春太郎さん達にあともう少し、磨きをかけさせれば、完全なものになると思うのよ。それがすめばすぐに撮影にかかって頂くわ。いいでしょ」
千代は悲しげに顔を伏せている静子夫人の肩に手をかけながら、田代にいった。
「調教が終われば、一度、これを捨太郎に実験させてみて、うまくいけば、映画に使えるかも知れないじゃないの」
「成程、そうすりゃ、ますます面白い映画が制作出来るってわけだ」
森田が、顔をくずして笑った。
「よし、そりゃ面白い。じゃ、徹底的に磨きをかけてくれ給え。うまくいけば、映画に使おう」
田代も乗り気になって、八ミリ映画の撮影は少し時間をのばすことになった。
「そうと話が決まれば急がなきゃあね。さ、奥様行きましょう」
千代は、夫人の背を押し、伊沢へついて来るように眼くばせした。
二間続きの千代の部屋へ引き立てられた静子夫人は、完全に意志を喪失した人間のように、ただ美しく濡れ光る二つの瞳をしばたかせているだけである。
「いいわね、奥様。伊沢先生は、貴女の財産を全部私のものにするため、色々骨を折って下さった人なのよ。だから、うんと楽しい思いにしてあげて欲しいの。わかるわね」
千代は、夫人が伊沢に対し、色々と媚態を示しながら、春太郎達の調教を受けるよう強制するのである。
「♢♢わかりましたわ。千代さんのおっしゃる通りに致します」
すでに天井から吊り下げられてある二本のロープに静子夫人は縄尻をつながれ、更に腰縄もつながれて、伸びきったようにしてその場へ立たされたが、千代の命じることを、一つ一つ柔順にうなずいて承諾している。
「ね、先生、こちらへいらしてよ」
千代は、何となく照れたような顔つきで、次の問で煙草をくゆらせている伊沢の方を向き、手招きして呼んだ。
「これから、昨日、ちょっとお話した面白い調教が始まるのよ。ゆっくり御見物になってね」
千代は伊沢を、立ち縛りにされている夫人の正面に坐らせ、
「調教のお道具を揃えて来る間、しばらく奥様のお守りを頼みますわ、先生」
千代は悪戯っぽく笑って、伊沢の肩をボンと叩くと、春太郎、夏次郎を連れて部屋から出て行った。
晒しものになっている静子夫人と二人きりになった伊沢は、緑なし眼鏡をかけ直し、夫人の傍へにじり寄る。
夫人は白い頬を固く強ばらせたまま、如何にも好色そうなニヤついた伊沢の眼より顔をそらせている。
「今夜、久しぶりで、奥様を抱けるのだと思うと今から胸がわくわくとして落ち着かないんですよ」
伊沢は、静子夫人の柔らかい、心も吸いこまれるような色白の肌に眼をこらし、それからぴったりと閉じ合わせている程よく脂肪をのせた優美な太腿を、舌なめずりをするようにして見つめるのだ。やがて、伊沢の眼は次第に血走った表情になっていく。
今夜は、この男の玩具にもならねばならないのか、と夫人はそうした約束を千代と取り交したことを想い出し、みじめな思いに落ちこんでいく。
「聞けば奥様は、フランス式とかいう愛情表現が実に上達されたというじゃありませんか。ひどい人だ。以前、僕に抱かれた時、いくら僕が欲求しても、あれだけは絶対に嫌がった奥様だったのに」
と、伊沢は恨みがましい調子で夫人を見上げてそんな事をいい、
「今夜は嫌とはいわせないよ、奥様。何しろ僕もその道は一応極めたつもりでいる男なんだ。あの方法で奥様を有頂点にさせる自信はありますね」
伊沢は、酔い痴れたような気分になって、今夜の獲物にしげしげ眼を注ぎながら、ペラペラとしゃべりまくっている。
「♢♢あの時は、ごめんなさい。だって、静子は鬼源さんに、あの方法を教わったのですもの」
静子夫人は、精一杯の媚を見せるつもりで伊沢の視線に潤んだ美しい眼を合わせた。
「じゃ、いいですね。今夜は僕を堪能させてくれますね」
伊沢は、夫人の甘い言葉に浮足立つようにそわそわとして立ち上ると、乳色の柔らかい夫人の肩を両手で抱きしめるのだ。
「どのような羞ずかしい事だって今の静子は、いといませんわ。どうとも、お好きなようになさって♢♢」
甘えかかるようなハスキーな声でそういった静子夫人は、伊沢に求められるまま、ぴったり紅唇を伊沢の唇へ合わせ、優しく伊沢の舌に舌をからませる。
伊沢から静かに唇を離した静子夫人は、先程、川田に演じてみせたあの屈辱行為を、再びこのキザな男に演じてみせなければならないのかと救われぬ思いになった。
鬼源に幾度も教育され、性の妖気に酔い痴れてふと忘我状態になって演じてしまう夫人も、一時の興奮が覚めれば残るものは自分に対する嘲りだけである。
腐敗した果物の匂いと生臭く甘酸っぱい、激しく鼻をつく異様な臭気。演じた直後は、眼がくらみ、耳をつんざくような狂おしい気分になる静子夫人であった。
しかし、今更、どうなるものでもない。すでに捨太郎、鬼源、川田、更に二人のシスターボーイとまで、そうした醜悪な行為を演じてしまった自分ではないか、と、自嘲的にもなって、静子夫人は、
「いいわ。静子、伊沢先生を充分楽しませるつもりですのよ」
と、熱い接吻を注ぎかける伊沢に、甘い吐息を吐きかけるように口に出していうのだ。
伊沢が荒い息づかいと一緒に注ぎかけようとすると、夫人は甘い拒否を示して、なよなよと柔らかい体を揺さぶった。
「♢♢ね、駄目、先生。それは、夜まで、おあずけよ。ね、嫌、嫌」
夫人が、もじもじと体を揺さぶって、伊沢を避けていた時、襖が開いて、千代が春太郎達と色々な小道具を持って入って来た。
伊沢は、あわてて夫人から身を引き、何事もなかったようなケロリとした表情に戻って、煙草を口に咥えるのである。
そんな伊沢に静子夫人は、情感的な瞳を向け、自嘲的な微笑を口元に浮かべて、
「これから、静子は、とても羞ずかしい調教を受けるのです。お笑いにならないでね、先生」
そういった静子夫人は、すでに覚悟は出来ているらしく、春太郎達が不気味な小道具を、ぴったり合わせた華著な足首の前に並べ出しても、何ら狼狽の色を示さなかった。そしてまるで水のように澄んだ冷たい表情に戻り、抒情的な美しい瞳をぼんやりと前方に向けて調教開始を静かに待っている風情であった。
「それじゃ奥様、始めましょうか」
春太郎は、手にしていた紙袋の中から放つかのピンポン玉を取り出して、それを夫人の眼の前に近づけた。
「これが二つか三つ、受けられるようになれば、もう大丈夫というわけよ。こちらも一生懸命、調教するから奥様も自分の体を作り変えるつもりでがんばって頂戴ね」
春太郎は、静子夫人の形のいい白い頬に軽く接吻すると、ぼんやりつっ立っている伊沢の方に笑いかける。
「じゃ、今日は伊沢先生にも色々と手伝って頂こうかしら」
すると、伊沢も、あわてて煙草を灰皿に押しこんで、
「ああ、何なりと手伝わせてくれたまえ」
と、妙に腰が落ちつかず、二本のロープにつなぎ止められている静子夫人のまわりを、グルグル歩き廻るのだった。
第七十五章 鶏卵の曲芸
第二の調教
二本のロープにその艶麗で優美な裸身を支えられて立つ静子夫人は、弱い光を含んだ美しい瞳をぼんやり見開いたまま、春太郎と夏次郎の責めを待機している。
得体の知れない薬液や奇妙な形のバイブレーター、それにピンポン玉や大小様々のガラス棒などが、ぴっちり閉ざした夫人の美麗な足首の前あたりに次々と配置されていく。
これから、この男達は、またどのような方法で自分を虐げ抜く気なのか、半分は嫌悪しながら、半分はそれを心のどこかで待ち望んでいる♢♢そんな自分にふと気づいた静子夫人は、不意にさっと顔を伏せ、自分が恐ろしいものに思えて来て、思わず身を硬くするのだった。
千代と伊沢は、すぐ横の卓の前に坐り、何か談笑しながち、さも愉しげに横に伏せている静子夫人の美しい横顔を眺めている。
「まず、御自分で体の調子を整えて頂くわ」
春太郎が紙袋の中から、銀で出来た細くて長い鎖を取り出した。
「この道の大スターとなる奥様のために、千代夫人が特別に誂えて下さった銀の鎖に金の鈴よ。さ、千代夫人にお礼をおっしゃいな。奥様」
春太郎と夏次郎は、銀の細い鎖を静子夫人の乳色に霞むむ柔らかい腹部に巻きながらいうのだ。
夫人の縦長の臍を中心に菱割に鎖を縛りつけ、大小二つの金の鈴をつけた一本の鎖はその股間をくぐろうとする。
以前の静子夫人ならば、そんな股縄をかけられるということに対して死ぬほどの羞ずかしさで激しい動揺を示したものだが、今は綺麗な睫も動かさず責め手の行為を甘受しているのだ。
「少し、気分を出してくれなぜゃ駄目よ」
春太郎と夏次郎は、夫人の緊張をほぐしにかかる。
例によって、春太郎がその豊満で柔らかい夫人の胸を、夏次郎は夫人の前に腰を沈めるのだ。
未人は、自分の方からそれに巻きこまれようとして努力しているように見える。
「♢♢ねえ、もっと、優しくして下さらなきゃ、嫌」
と、夏次郎へすねて悶えるような素振りを見せて、甘い吐息をはきながら、なよなよと双臀を揺さぶったりする静子夫人なのである。
夫人の感覚が酔い痴れてきたと見てとった二人のシスターボーイは、素早く銀の鎖を通し始め、二つの鈴をかませて、力一杯、鎖を引き絞っていく。
夫人は、心持ち朱に染まった繊細な頬を横へ伏せるようにするだけで、それを拒否する仕草を示さないばかりか、その的が外れて充分ではないことまで責め手へすねるようにして訴えるのである。
「ねえ、これじゃ駄目。もう一度、やり直して頂戴」
何度もやり直させた静子夫人は、その心地よさに浸るかのよう、うっとりと眼を閉じ合わせ、キリキリと下半身に鎖を縛りつけられていく。
臍を中心に菱型に鎖をまきつけ、完全に股間縛りに夫人を仕上げた二人のシスターボーイは、ほっと息をつき合って、卓の前に坐っている千代と伊沢の方を見た。
「保何が、伊沢先生。以前と違って、この奥様、随分と進歩なさったでしょう」
千代は、唖然とした表情で静子夫人の方へ眼を向ける伊沢に対し、楽しそうに語りかけるのだ。
「さ、奥様、どんな風にして自分の肉体を鍛えているか、お客様に教えてあげなきゃ駄目じゃないの。早く始めて頂戴」
半ば、うつつの心地で、名状の出来ないはどの美しい、切なげな表情を横に見せていた静子夫人は、千代に命じられるまま、ゆっくりと双臀をくねらせ始めるのだ。
伊沢は、フラフラと引ぜ寄せられるようにそんな身振りを始め出した静子夫人の傍へ近づいて行く。
「こんな、こんな事をして、静子は自分の体を鍛えていますのよ、伊沢先生」
静子夫人は、痴呆のような顔つきになってすぐ前までやって来た伊沢に対して、哀しいような媚めかしいような笑窪を繊細な頬へ作りながらいうのであった。
「そんなにジロジロ御覧になっちゃあ嫌ですわ。こんな事をお見せしなきゃならない私、本当は死ぬほどの羞ずかしさですのよ」
静子夫人は、次第に磨ぎ澄まぜれた、凄艶な表情になり、ぞっとするはどの美しい情感に濡れた瞳を眼前にかがみこむ伊沢に向けながら、双臀の身振りに一段と調子をつけ始めるのであった。
窓より入ってくる明るい日射しを艶々とはね返すような滑らかで優美な太腿は、ぴったりと閉じ合わされたまま、前へ押し出されたり、後へ引いたり、そのたびに銀色の一本の鎖を縦に走らせた乳色の柔らかそうな腹部が大きく息づくのである。
銀色の細い鎖は、身をかがませた伊沢の貪るような視線の前にピーンと伸びたり、縮んだり、金の鈴の躍動まではっきり晒し出しているのだ。
夫人は、熱っぼく上気した頬を慄わせながら薄く眼を閉じ合わせ、むせぴ泣くようなかすれた声で、
「もっと、もっと羞ずかしい姿を、これからお眼にかけますのよ。お笑いにならないで、お笑いになっちゃ嫌ですわ、先生」
静子夫人は、わなわな唇を動かしながら、うめくようにいうのであった。
「もう充分なようね。それじゃ、始めようか。お夏」
春太郎は夏次郎をうながし、全身に脂汗を浮かばせている静子夫人につめ寄った。
夫人の腰に巻きつかせていた銀の鎖は、二人のシスターボーイの手で素早く取り外されていく。
「フフフ、もうこんなになっちゃって。いやな奥様」
春太郎はクスクス笑い出し、夫人の背後に贈って、たくましく盛り上った官能味のある双臀を掌で撫で始めるのだ。
静子夫人は、優婉なうなじをくっきりと浮き立たせ、さも切なげに眼を閉じ合わせる。
白い豊かな肉に、春太郎の手が触れると、夫人は思わず、ブルッと身体を痙攣させ、モジモジ双臀を揺さぶるのだった。
「おとなしくしなきゃ駄目じゃないの」
春太郎は舌打ちして、夫人の双臀をぴしゃりと手でぶった。
「だって、だって」
夫人は、春太郎の手が触れると、再び、優美な腰の曲線をよじらせる。
「ホホホ、伊沢先生が御覧になっているからって何もそんなに羞ずかしがることないじゃないの」
千代は、うまそうに煙草の煙を吐きながらそういい、次にキッとした表情になって、
「足を開かせて縛っておしまいよ。春太郎」
といった。
夏次郎が廊下へ出て、長い青竹を持って入って来る。
夫人の足元に身をかがめた夏次郎と春太郎は、
「さ、私達の仕事がやりいいように大きく足を開いて頂戴、奥様」
と薄笑いを浮かべて青竹で夫人の艶やかに輝くむっちりした太腿を叩くのだった。
「ぐずぐずしないでよ。どんな調教を奥様が受け、どのように柔順になってきたか、それをここにいらっしゃる伊沢先生のお眼にかけるのが私の目的なのよ。さ、早く、この道のスターとしての貫禄を示して頂戴」
千代にそう浴びせられた静子夫人は含羞みに染まった美しい顔を横に伏せながら、小さくうなずいて見せるのだ。そして、静かに顔を正面にもどし、濡れ光る美しい瞳を、すぐ前に身をかがめ、夫人を凝視している伊沢に向ける。
「もっとはっきり御覧に入れますわ、先生」
夫人は、誘いかけるような微笑を口元に浮かべ大胆なポーズをとり始めた。
伊沢は、ごくりと唾を呑みこみ、眼を血走らせた。
夫人は、ただそうした痴態を演じるだけではなく媚態も示し始めるのである。
濡れ光る情感的な瞳を伊沢に注ぎかけながら、さも切なげに身をよじりつつ挑発的に大きく喘いでみせ、
「もっと、もっとよく御覧になって。ねえ先生」
と、鼻にかかったような甘い声を出す静子夫人であった。
「まだまだ不足よ、奥様」
春太郎と夏次郎は、青竹と麻縄を持って夫人の下に坐りこみながら、楽しそうに声をかける。
「これでも、これでも、まだ駄目?」
静子夫人は、潤んだ美しい瞳を気弱にしばたかせながら、しかし、とり乱した様子は見せず、更に大胆な姿態を示して見せた。
甲高い声で笑い出した千代は、魂をもぎ取られたような表情で、うっとりと見惚れている伊沢の肩に手をかける。
「どう、先生。驚いたでしょう。遠山財閥のかっての令夫人は、今では、こんな浅ましい恰好だって平気でなさるようになったのですからね」
春太郎と夏次郎は、あられもない姿態となった夫人の足首に青竹を当てがって、キリキリ麻縄で固定し始める。
「今日は、卵が産めるようになるまで、徹底的な仕上げにかかるわ。奥様もそのつもりでがんばってくれなきゃ駄目よ」
春太郎が、夫人の端正な美しい頬に軽く口吻してそういうと、
「それから、伊沢先生にもこの調教を手伝って頂きますからね」
と、千代は意地の悪い微笑を口元に浮かべ、あられもない静子夫人につめ寄った。
「いいわね。わかっているわね。奥様がむしろ伊沢先生をリードしてあげなきゃ駄目よ」
千代は、さも楽しげに春太郎と一緒に夫人に要領を教えにかかる。
夫人は翳の深い瞳の中にもの静かな憂愁の色を港えながら、悪魔や魔女の説明を小さくうなずいて聞くのであった。
「じゃ、先生、ここへいらして。静子夫人が、全財産を没収され、先生のおかげで、さっぱりした気分になったことのお礼などおっしゃりたいそうよ」
千代にうながされて伊沢は再び夫人の前にぺたりとあぐらを組んで坐るのだ。伊沢の濁った好色そうな視線は相変らず、夫人の一点に注がれている。
「さ、奥様、先生にお礼をおっしゃいな」
千代に横から乳房を突かれた静子夫人は、わずかに伏せていた顔を悪びれず正面に戻したのだがそれは、人間的思念の一切を断ち切ったとでもいうような、ほのぼのとした、美しい色を湛えていた。
「先生のおかげで、静子は、身心も裸になることが出来ました。これより静子は、性の奴隷として森田組に一生この身を捧げることを決心したのでございます」
そう口に出していった静子夫人の美しい切長の眼は、次第に、妖艶で、情感的な潤みを持ち始める。
「先生に調教して頂きたいわ。ねえ、後ろへお廻りになって」
伊沢は、夫人に甘い誘怒を受けたように、ふわふわした気分になって、這うようにして背後へ廻る。
眼に弛みるように白い量感のある夫人の腎郡を前に腰をかがめた伊沢は、矢も楯もたまらなくなった気分で、それに遮二無二熱い接吻を注ぎかけ、両手をかけ始めるのだ。
さっと困惑と羞恥の戦慄が夫人の表情をよぎったが、それも一瞬の事で、顔面を朱に決めながらも強いて平静さを取り戻そうとし、唇を噛みしめる静子であった。
「春太郎さん達にとても素敵な調教を受けましたのよ。うん。黙って御覧になるばかりでは嫌。何とかおっしゃって」
静子夫人は、濡れ光った眼をぼんやり前方に向けながら、双臀をさもじれったそうになよなよ揺きぶって見せるのだ。
伊沢は、胸を切ないばかりにうずかせながら、悪どく調教されたとは信じられない夫人の奥に秘めた、可憐なばかりに愛くるしい、ぴっしり緊まった後姿を凝視している。そして、何年か前、ふとどこかのパーティで出会った時の、静子夫人の美しい容姿を伊沢は思い起こすのだった。
何人かの外国人の名士に取り囲まれて、ワイングラスを片手に流暢なフランス語で談笑していた静子夫人の何というあでやかさ。黒のドレスがよく似合い、胸の線のふくらみの悩ましさ、大胆に緊まった腰部から肢にかけての優美な曲線など、それに高貴で、しっとりした翳のあるふるいつきたいばかりの美貌。初めて静子夫人を見た目以来、伊沢は夢にまで恋い焦れて仕事も何も手につかなくなったのだが、それが何ということか。あの日見た大富豪の美しい令夫人は、今はやくざ一家の性の奴隷、しかも俺の眼前にこのようなものまでむき出しにさせられ、いや、それだけではなく、性のスターとして強制されたぎごちない媚態まで演じなければならないのだ。
「ホホホ、奥様。そろそろ先生に調教をおねだりしちゃどうなの」
千代は、静子夫人の白蝋のような優雅な頬を指ではじいた。
天性の美貌を持つ静子夫人を、貴婦人の座から売春婦以下の女に転落させてやったという会心の微笑が、たえず千代の口元に浮かんでいる。
静子夫人は、情欲的にしっとり濡れた瞳を流し眼にして、背後に身をかがめている伊沢の方に顔をねじった。
「ねえ、先生、お願い]
伊沢は、夫人の言葉を受けると、興奮の色をまざまざ顔に浮かべる。
同時にむせぴ泣くような、何ともいえぬ悩ましい夫人のうめきが伊沢の耳に聞こえてくるのだ。
「ねえ、ねえ、お待ちになって!」
夫人は、青竹につながれて悶えた。
「どうしたんだよ。奥さん」
伊沢は、血走った表情になって、怒ったようにいった。
「ワセリンを使って下さらなきゃ、嫌」
静子夫人は、すねるような、もどかしい身悶えを見せて甘えるようにいうのである。
春太郎が含み笑いして渡すワセリンを伊沢は慄える指先ですくい取った。
「ち、ちがうわ。もっと、もっと激しくしなくちゃ、駄目ですわ」
伊沢のマッサージの手ぬるさに静子夫人は不平をとなえ、ますます伊沢の官能を高ぶらすのである。と同時に伊沢は、己れの技巧の拙劣さを女に指摘されたようなあせりを感じ出すのだ。
「そ、そんな事では駄目。じれったいわ」
静子夫人は、さも口惜しげに頬をそむけ、綺麗に揃った睫をフルフル慄わせながらすすり泣くのである。
春太郎と夏次郎が笑いながら近づき、伊沢の背を軽く叩いて、
「そとんところはちょっとむつかしいんですよ。交替しましょ、先生」
伊沢は、二人のシスターボーイに持ち場を奪われ、自尊心を傷つけられたとでもいうような、ベソをかくような表情になった。
しかし、静子夫人は、それでむしろ救われたというようなほっとした顔つきになり、微妙な微笑を口元に浮かべて、横に昇然とつっ立つ伊沢を妖艶な流し眼で見るのである。
「女の身体というのは稜雑ですのよ、先生。この方達がすることをよく御覧になって下さいましね」
春太郎と夏次郎は、夫人の前と後に腰をかがめるのである。
春太郎が攻撃し始めると同時に、夏次郎もそれに同調して柔らかい責めを加え始める。時々、責め手を控えて熱い接吻を注ぎかけ、また調子を合わせて柔らかい攻撃をくり返すのだ。たしかにその責めは巧妙を極めていた。夫人が耐えかねて来たことは、その次第にあらわになって来た身のよじり方と激しい啼泣とで充分に察しられる。
春太郎と夏次郎は、ただそうして、黙々と夫人を責め続けるのではなく、夫人の被虐感が高まって行くムードを壊さぬよう、いや、一層、夫人が溺れこんで行くことを計算に入れた、からかいや含み笑いなど繊り混ぜて低い声でしゃべりつづけるのだ。
夏次郎は、夫人が責めに敗れ始めた反応を示し出すと、
「フフフ、美しい顔に似合わずエッチな奥様だこと。これが元遠山財閥の若奥様だって何だか信じられないわ。でも、さすがね。おしとやかで、美しい小川のせせらぎのよう。ね、お春、聞こえるでしょう」
と、からかえば、背後に贈っている春太郎も根気よくマッサージを続けながら、
「ねえ、美しい若奥様。いくらどうでもよくなったからといっても、おならなんかしないでね」
といって笑いこける。
そういう言葉のいたぶりに、高まって来た被虐感がまた熱っぼく揺さぶられ巻きこまれていく静子夫人である。
夫人のギラギラする濡れた瞳は、やがて、したたり落ちるばかりに潤み出し、妖しく何かに酔い痴れたようになる。
「フフフ、どう、伊沢先生」
春太郎は、伊沢の眼にそのマッサージの効果を示して驚かせ、
「こうなりゃもうこっちのもの。これから先は最後の仕上げよ」
再び、ワセリンをたっ点りとすくい上げた春太郎は、次にバイブレーターを取り上げた。それに調子を合わせて夏次郎も別のバイブレーターを取り上げる。
あっと声を上げる間もなく夫人は、二つのバイブレーターの電動音と共に、縛られた身をブルブル慄わせ、夫人は舌たらずの悲鳴を上げた。
優雅な奴隷
津村義雄の寝室であった二階の一室で、徹底したいたぶりを受けた珠江夫人は、二本のロープに支えられて、立鏡の前に立たされている。
一昨日までの大理石のように硬い美しい容貌もがっくり髪は乱れ、半開きになった口からは熱い吐息が洩れ、白磁の艶やかな肌には、ねっとり脂汗が浮かんで、如何にも微塵に打ち砕かれた感であった。
つい先程まで珠江夫人が大の字に縛りつけられていた大きなベッドの上では、川田と吉沢が花札遊びをしているのだ。
ふと、立位で縛られている珠江夫人の方を見た吉沢は、不快な表情になってベッドから飛び降りた。
「よ、どうして前の鏡から眼をそらすんだ。いわれた通り、しっかり鏡を見てなきゃ駄目じゃねえか」
吉沢は、珠江夫人の顎に手をかけて、ぐいと顔を持ち上げた。
珠江夫人は、おどろに乱れた黒髪を頼の半分にもつらせたまま、妖艶さの滲んだ表情で前の鏡にねっとりした頬を向けるのだ。
もう反抗する気力も喪失した珠江夫人であったが、それをいい事に吉沢は、後ろからぴったり体を押しつけ、珠江夫人と頬を合わせて一緒に鏡の方へ眼を向けるのだ。
「昨夜は随分と乱れてたじゃないか。覚えているかい」
珠江夫人は肉体がどろどろに溶け潰れたその余風の中でいまだ意識が元へ戻らぬような、うっとりした表情を鏡の中へ向けている。
「明け方までに七度も泣いたぜ。いやはや奥さんも嫌いな方じゃないようだな」
吉沢に頬を突かれて、羞ずかしげに身をよじった珠江夫人は、顔を伏せてシクシクすすり上げるのだ。
「鏡から眼を離すなといったろう。こちらがよしというまで、自分のみじめな姿を何時までも眺めているんだ」
今度は川田がベッドから降りて来て、もじもじする珠江夫人を叱咤した。
「まだ、まだ、私に、これ以上、生恥をかかせるおつもりですの」
珠江夫人は、白々と冴えた繊細な顔を鏡へ戻しながら、滴るように美しい、潤んだ黒眼をしばたかせていった。
ふっくらした胸の隆起にきびしく巻きついている麻縄以外、何も身につけることを許されず、その鏡にうつる、生まれたままの姿を見ねばならぬ屈辱は、耐えられないものだったが、それよりも、この男達はまだ自分に対するいたぶりを続ける気なのかという恐怖で、珠江夫人の心臓は高鳴りつづけているのだった。
「何をいってやがる。生恥をほんとにかいて頂くのは、これからなんだぜ、奥さん」
川田は象牙色に輝く珠江夫人の緊縛された美肌を舌なめずりでもするような顔つきで眺めていった。
品位を帯びた妬ましいばかりに繊細な珠江夫人の下肢は、川田が近づくとぴったりと閉じ合わされ、かすかな慄えを見せる。
固く緊まった珠江夫人の程よく脂肪を乗せた悩ましい、瞼に染みるような色艶をニヤニヤ眺めていた川田は、
「間もなく奥さんは、大塚女史に長年、千原流生花を後援したことの詫びを入れ、それから剃り落とされることになっているんだ。覚悟は出来ているだろうな」
川田のその言葉に、珠江夫人の端正な顔は見る見る紅潮する。
「こうして鏡の前に立たせるのは奥さんにお名残りを惜しませてやるためだからだぜ」
川田がそういって笑うと、珠江夫人は、耐えられなくなったよう、さっと赤らんだ頬を横に伏せ優美な肩を慄わせて嗚咽し始めるのだった。
そこへドアが開いて、大塚順子が直江と友子を連れて入って来る。
珠江夫人は泣き濡れた顔を上げ、大塚順子に呪うような眼を向ける。
「まあ、こわい顔。昨夜、あれだけ女らしく泣きつづけたんだから、きっと今朝は、もっと、女っぼくなっていると、期待していましたのよ。フフフ」
順子は手にしていたカメラを珠江夫人の方へ向けるのだ。
珠江夫人は狼狽してカメラより必死に顔をそらせた。
「あら、駄目じゃない、そんなに顔をそむけたりしちゃ」
順子は舌打ちして、ずいっと珠江夫人の正面に廻りこむ。
「♢♢こんな姿をカメラにおさめて、一体どうなさるおつもりなの、大塚さんっ」
珠江夫人は白い頬に幾筋もの涙を流しながら必死な口調になり、緊縛された厳しい裸身をよじってカメラの眼から逃れようとするのだ。
「千原流後援会の全会員に折原夫人のヌード写真を送るのよ。後援会長のヌードを見て会員達はどんなにうろたえるか。想像するだけでも楽しくなるわ」
それを聞くと珠江夫人は慄然とし、大きく眼を見開いた。
「な、何という恐ろしい事を。大塚さん、貴女は気が狂っていますわっ」
珠江夫人は、胸が張り裂けるような思いになってヒステリックな声をはり上げた。
「つべこべ、いうねえ。昨夜の事を思い出してみろ。もうお前さんは、まともな連中の前へ顔を出せねえ筈だぜ」
吉沢が哄笑し、珠江夫人の耳をひっぱる。
「どうしても写真を撮られるのが嫌だというなら千原美沙江に奥様の代役を頼んでもいいのよ。その方が効果的かも知れないわね」
順子の言葉に、珠江夫人はハッとして首を上げた。
「家元の御令嬢の写真をバラまく方が、面白いじゃありませんか」
吉沢はそういって、ざまを見ろといわんばかりに珠江夫人のひきつった表情を見る。
「それだけは、ああ、それだけは♢♢」
珠江夫人は、さめざめと涙を流しながら、美沙江をかばい、ついに、悪魔達の軍門に下ったのである。
「気のすむまで、私を嬲りものにして下さい。その代り、お嬢様には手出しなさらないで。お願いです、大塚さん」
珠江夫人はそう哀願すると、顔で潤ませた瞳を静かにAHわせ、覚悟したことを示すのだった。
「もうあまり手数をかけさせないでね、折原の奥様。今日からは貴女は森田組の商品となったのですからね。もう二度と世間へ出られない身となったことをお忘れなく」
順子は楽しそうに、そういいながら、縛られて立たされている珠江夫人の周囲をグルグル廻り、色々な角度から写真を撮り始めた。
「さて、次は、御主人に送る写真を撮βましょうね」
新しいフィルムと取りかえた順子は、再び珠江夫人の正面に廻った。
夫にまで写真を送ろうという大塚順子の鬼畜的な着想に珠江夫人の表情はまた強ばったが、今はもう悪魔達に引きずられてずるずる谷間へ落ちこむより仕方のない自分を悟ったように、がっくり首を落としてしまう珠江夫人であった。
「ちょっと、顔を隠したらあかんやないの」
元は、千原家の女中であった友子と直江が珠江夫人の顎をとって正面へすえた。
「そんな口惜しそうな顔しちゃ駄目。これは今日で永遠のお別れとなる御主人様に送る、奥様の記念品なのよ」
順子は、珠江夫人の憎悪を含んだ美しい濡れた瞳を楽しそうに見つめながら、
「ね、最後の記念品なんだから、もっと大胆なポーズをとってみない、奥様」
といい、片頬を意地悪そうに歪めると、
「大きく開いて頂戴。どうせ写真を撮るなら、御主人の、うんと喜びそうなのを撮りましょうよ」
珠江夫人はあまりの屈辱に気が遠くなりかけ、血の出る程、固く唇を噛みしめる。優雅で華奢な珠江夫人の下肢は反射的にぴったりと閉じ合わされたが、重ねた自磁の冷たそうな太腿までが、憤辱にブルブル慄えているように見えるのだった。
「おい、いわれた通りにしねえと、俺達は美沙江をお前さんのいる前で玩具にするぜ」
吉沢が調子に乗って凄んで見せる。
両足首に縄をかけ、左右に引っ張って、そんな恰好をとらせることは簡単だったが、珠江夫人に自分の意志でやらせる方が面白いと順子は直接行動にかかろうとする男達を制しているのだ。川田と吉沢は、珠江夫人の左右に廻って縄に緊め上げられた珠江夫人の乳房を突いたり臍を押したりして脅迫するのだ。
「川田さん。お嬢さんを連れて来てよ」
順子に頼まれた川田が部屋を出ようとすると、珠江夫人は、けたたましい声を上げた。
「待って、おっしゃる通りにするわ」
珠江夫人は川田を呼び止めると、順子の方へ恨みとも口惜しさともつかぬ湊惨な色を含めた視線を向けた。
「♢♢気がすむまで、写真をお撮りになればいいわ。こうすればいいのね」
刺すような冷やかな口調でそういった珠江夫人は、さっと頬を横へそらし、艶々した幻想的なくらいに色白の太腿を、徐々に割り始めたのである。
第七十六章 生花の哀調
珠江夫人の啼泣
色々な角度から写真を撮る大塚順子は、最後に腰をかがめ、珠江夫人のそのクローズアップまで撮り出して、
「フフフ、この写心具を見て御主人はどんなに驚くか、想像するだけでも面白いわ」
と笑うのだったが、珠江夫人は、美しい顔をひきつらせたたまま固く眼を閉ざし、しかし川田や吉沢等に叱咤されて優美で繊細な両肢を左右に割りカメラの集中攻撃を受けているのだ。
「御苦労様。これだけカメラに収めれば充分よ」
順子がようやく腰を上げると、珠江夫人は元通りぴったりと両肢を閉じ合わせ、張りつめていた気持が砕け散ったようにがっくり首を落とすと、ねっとり白く輝く両肩を激しく慄わせて号泣し始めるのだ。
「今更泣いてもおそいぜ。この写真は現像出来次第、千原流後援会の全メンバーに発送することになっているんだ。これで折原博士の社会的地位も壊滅したってことになる」
川田がそういって笑うと、珠江夫人は、ひときわ激しく首を揺すって哀泣する。
「フフフ、折原の奥様、こんな写真が世間にバラまかれるってことになれば、もうまともに奥様は陽の当たる場所へは出られないわね。となれば、これからこの屋敷内で修業をつみ、別の女となって再出発をするより方法はないと思うんだけど」
大塚順子はさめざめと泣く珠江夫人を楽しそうに眺めながら皮肉めいた言い方をし、つい先程、様子を見るためにこの部屋へ入って来た田代と森田の方に眼を何けた。
「それじゃ社長、契約書に、判を押させて下さいな」
田代は北叟笑んで小脇に抱えていた小さな鞄からタイプ印刷された一枚の紙を取り出した。
「一度、眼を通して下さいな、奥様」
順子は田代からそれを受け取って、すすり上げている珠江夫人の眼の前に持って行く。
「判を押す前に一度はっきり内容を御覧になった方がいいわよ」
順子は珠江夫人の顎の下に手を入れて、ぐいと顔を上に立てさせ、奇妙な契約書を泣き濡れた眼の前に突きつけた。
気弱に眼をしばたかせ、それを見た珠江夫人は思わずさっと赤らんだ顔を横へねじって嗚咽をくり返しながら、
「性の奴隷だなんて、私がそんな罰を受ける程の罪を犯したというの。ひどいわ。ひどすぎます」
珠江夫人は、おどろに乱れた黒髪を揺さぶり、口惜しげに身悶するのだ。
田代は快悩する珠江夫人を愉快そうに見つめながら、順子の手より契約書を受け取って音読し始める。
♢♢折原珠江(三十一歳)は長年、千原流生花の後援会長として横暴に振舞い、湖月流生花の発展を妨げたる罪によって、本日より性の奴隷として当屋敷に監禁、森田組の商品として一生涯飼育されるものとする♢♢
田代が読み上げると、横に伏せた珠江夫人の白い頬に大粒の涙がしたたり落ちる。
田代は、そんな珠江夫人を楽しげに眺めて更に読みつづけるのだ。
「一つ、性の奴隷、折原珠江は森田組の許可なしに身に布をまとうことを許さず♢♢つまり、遠山静子と同じく、この屋敷内では素っ裸のままで暮して頂く、いいですな、奥さん」
田代は口を歪めて笑った。
「一つ、商品化するための如何なる調教にも不平をいわざること。一つ、定期的に行われる秘密ショーには、特別な事情のない限り、出演するものとす。一つ、森田組の.資金源である秘密写真、その他の仕事にも積極的に協力するものとす」
そんな風に田代は珠江夫人の屈辱に歪む顔をチラチラ眺めつつ、読み上げていくのだ。
「それでは、これに判を押して頂きましょうか」
そんな事をするのは田代の趣味だとわかっている川田と吉沢は、それを手伝って奇妙な契約書を立位で縛られている珠江夫人の足元に開げ、静子夫人に署名させた時と同様、足の指にペンを無理やり挟みこませようとするのだ。
「いいですか、折原夫人。ここにいる女奴隷は皆こういう風に契約書に判を押させることにしているんだよ。一旦、判を押せば、契約書に書かれたことはどうしても守っていただく」
それを聞くと珠江夫人は激しい狼狽の色を見せて足指の糾問へペンを挟ませようとする川田と吉沢に抗って、両肢を身悶えさせ、腰を揺さぶるのだ。
「おとなしくしねえか。さ、指に挟んで、はっきりとサインするんだよ」
吉沢と川田は、必死に腰を揺さぶる珠江夫人を取り押さえ、ペンを指に挟みこんだ。
「嫌っ、嫌です!」
珠江夫人は悲痛な声を張り上げたが、今更何をいってやがる、と強引に押さえつけ、ペンを持ち添えて折原珠江に無理やりサインさせた川田は、更に朱肉を取り出し、珠江夫人の足の親指にべったり浸らせて、名の下へ強引に押しつけるのだ。
「よし、御苦労だった」
と、田代はえびす顔になって、契約書を取り、満足げに眺める。
「これで奥様は今日から森田組の女奴隷だ。今までの有閑夫人としての生活はもう過去のものだとはっきり割り切り、ショーのスターとしての修業を今後は積んで頂きますからね」
田代は勝ち誇ったようにそういって笑ったが、珠江夫人は打ちひしがれたように頭を垂れて泣きじゃくるだけであった。
「それじゃ森田組の商品となられた、元博士夫人に対する歓迎会をこの場で簡単に開こうじゃありませんか、社長」
大塚順子は、田代の肩に柔らかく手をかけ、すすり扱く珠江夫人を見ながら頬を意地悪そうに歪めるのだった。
「そうだな。女奴隷となられた折原夫人に対して乾杯をしょう。出来るだけたくさん人間をここへ集めてくれ」
田代は吉沢の顔を見てそういった。
それから十数分後♢♢、吉沢の召集でぞろぞろつめかけた男女は、珠江夫人を酒の肴にした恰好で賑やかに酒盛りを始めていた。
「こんなすばらしい獲物が網にかかったというのも、みんなあんた達のおかげよ。さ、どんどん飲んで頂戴」
大塚順子は上機嫌で、千原美沙江の女中であった直江と友子のグラスにビールを注いで廻る。
「これからは大いに仲良くやっていこうよ。あんた達も今日から葉桜団の一員だからね」
と、銀子達も直江や友子に酌をし、肩を叩いて男みたいに笑うのだ。
「ちょいと、そこの美しい女奴隷さん。黙りこんでばかりいず、何とかいったらどうなのさ」
そろそろ酔いが廻り始め出した銀子は太いロープに緊縛された裸身を支えられて立つ美しい晒し者に対して毒づき始める。
長い睫を伏せて、うなだれている珠江夫人の知的に整った横顔を小気味よさそうに眺めるズベ公達は、静子夫人をこのように丸裸にして嬲りものにした日のことを思い出すのだ。
あの時、まるで処女のように泣き叫び、死物狂いになって抵抗した静子夫人も、連日連夜の徹底した調教のもと、色々の珍芸を覚え、今は別室で捨太郎とコンビを組み、痛快な映画に出演しているのだ。
「どう、鬼源さん。静子夫人は熱演していらっしゃる?」
と、朱美がつい先程までその珍映画の撮影に立ち合っていた鬼源に尋ねる。
「ああ、大熱演さ。ありゃ大変なプレミアがついて売れるぜ」
鬼源は、口をとがらせて酒を飲みこむと、
「とうとうあの奥さん、俺達の念願が叶って森田組のドル箱スターになってくれたようだな。腰づかいにしろ、しゃぶり方にしろ、完全にプロ並みになってきたようだ」
その映画の演出は、かっての静子夫人の女中であった千代がしている、と聞かされてズベ公達は大笑いする。
鬼源は、盃を置くと鼻の頭をこすりながら眼の前の美しい晒し者を見上げるのだ。
「お前さんも先輩に負けねえようしっかり修業をつんで、うちのドル箱スターになってくれなきゃ困るぜ」
珠江夫人は、やや上気した顔を横に伏せ、ただ押し黙ったままであったが、
「ね、せっかくだから、ここへ地下の美沙江を引っ張り出し、その奥様と同じように晒し者にしましょうよ」
と、順子が田代へ提案し始めると、ハッとしたように顔を上げるのだった。
「お、大塚さん♢♢」
珠江夫人の白い冷たい頬を再び大粒の涙が濡らし始める。
「お願いです。まだ何の汚れも知らない家元のお嬢さんだけは救ってあげて。お嬢さんには何の罪もありません。ね、大塚さん」
必死に哀願する珠江夫人をニヤニヤ見つめていた川田は、大塚順子の耳元に口を寄せていった。
「こういう犠牲的精神は大いにこっちが利用すべきですよ」
以前、桂子や小夜子を何とか庇おうとする静子夫人の犠牲的精神をうまく利用し、徹底的ないたぶりを夫人に加えて、彼女の肉と心を変貌させるまでの調教に成功した、と川田は順子に洲訳明するのである。
「成程ね。わかったわ」
大塚順子は川田に悪智恵を授けられて口元に薄笑いを浮かべた。
「それじゃ折原の奥様。貴女の切なる願いを聞き届けて、家元のお嬢さんを女奴隷にすることだけは勘弁してあげますわ。そのかわり奥様には女奴隷として、また性の演技者として、徹底した調教をはどこしますわよ。いいですわね」
大塚順子は煙草の煙をゆっくり吐きながら美しい晒し者に声をかける。
珠江夫人は、透き通るような色白の美しい頬をさも悲しげに歪めながら、
「お嬢様を救って下さるなら、私は、私はどうなっても♢♢」
唇を慄わせながらそういって再びポタポタと大粒の涙を流すのだ。
あのような写真まで撮られてしまったのだ。この連中がいうように、もう自分はまともに陽の当たる場所へは削られない。そうした悲しい辞めが珠江夫人の胸に充満し始めたのだ。
「それから俺の方からもいっておくが」
鬼源がのっそりと体を起こして、
「お前さんの調教は俺が受け持つが、そちらが、元社長夫人であれ医学博士夫人であれ、そんな事にはこちらは頓着しねえし、手加減もしねえ。最低の女郎を仕込み上げる要領で手きびしくしごくからな。妙な気位や、気取りなんか持つと承知しねえよ」
そういった鬼源は、懐から巻尺を取り出して、
「一応、商品の身体のサイズを測っておこう。朱美、手伝ってくれ」
朱美と銀子は鬼源の仕事に協力して、緊縛された珠江夫人の優美な裸身に寄りつくと、形のいい胸のふくらみを巻尺で測り始めるのだ。
「バストは、八十五だわ」
子供を生んだ経験のない珠江夫人の隆起は陶器のように冷たい滑らかさとそんな年齢とは思われぬ位の水々しさを感じさせる。
「はい、次は、おヒップね」
銀子と朱美は、腰を低めて、次に珠江夫人のヒップを測り始めた。
「八十八というところね」
珠江夫人は、ズベ公二人にヒップへ巻尺を巻かれて、さも羞ずかしげに顔をそらせ、ほっそりした美しい眉根を悲しげにしかめさせている。
「じゃ、次にこのサイズは」
含み笑いしながら朱美が巻尺を持って行くと、珠江夫人は、ブルッと下半身を震わせて腰を引いた。
顔をひきつらせ、怒ったような眼を二人のズベ公に向ける珠江夫人を見て、順子は哄笑する。
「フフフ、奥様、それは性の奴隷として山番大切な事なのよ。これから奥様を色々調教するための参考にもなるんだから、くわしく調べさせて頂くわ」
珠江夫人はキューと唇を噛みしめて、眼を閉ざした。
調教に抗ったりすれば、千原美沙江にとばっちりがいくぜ、という鬼源の凄んだひと言が珠江夫人に忍耐をもたらしたのかも知れない。
「そんなにはずかしがっちゃ駄目よ。あまり身体を固くすると測りにくいわ」
銀子と来美は、巻尺を使いながら、陶器のように白い冷たい頬を蒼白にさせている珠江夫人を見上げて笑うのだ。
それは昨夜、川田や吉沢達の攻撃の前に口惜しい開花を示したとは信じられぬ位にいじらしいばかりにぴっちりと緊まり、ふと意志の反抗を示すかのように思われて、銀子と朱美は腹立たしいものを感じて、まさぐり始める。
耐えかねたように珠江夫人は、ヒステリックな声を張り上げ、優美な腿をぴったり閉じ合わせると刈双臀を激しく揺さぶった。
「な、何をなさるのですっ」
その敵意と反抗をはっきりと顔に表わせて激しく肩で息をする珠江夫人を見た銀子は、フンといった表情になり、
「何さ。こちらはね、♢♢の大きさまで調べる義務があるんだよ。あんた、私達の仕事に協力しないというのかい」
蛇のような眼つきになって銀子は凄んで見せたが、川田がそれをなだめるようにしながら、
「お前達はそのものズバリに攻撃をしかけるから奥様はびっくりなさって身体を固くしてしまうんだよ。女を可愛がるにはムードというものが必要だ」
と笑って、シクシクすすり上げている珠江夫人の肩に手をかけるのだ。
「それじゃ奥さん、何から何まで調べて欲しくなるまで俺達がリードしてやるぜ。ま、こっちへ任しておきな」
そして、川田は吉沢の方を向いて、支度にかかりな、と合図した。
吉沢は前もって打ち合わせが出来ていたらしく友子や直江と一緒に立ち上がると、部屋の隅から西洋剃刀や石鹸などを乗せた盆を持ち運んで来ると、珠江夫人のぴったりと揃えている足元に白いハンカチを丁寧に広げて置くのだ。
何ともいえぬ不気味さに珠江夫人の美しい顔はますます蒼ずみ始める。
「何をなさるおつもりなのっ。ね、大塚さん、はっきりおっしゃって」
重苦しい沈黙に耐え切れなくなって、珠江夫人は身慄いしながら声をあげた。
「何度もいってるじゃありませんか。この場で奥様に湖月流生花を愚弄したことに対する詫びを入れて頂くのよ。やくざなら指の一本も斬り取るところだけど、森田組の商品になった奥様にそんな手荒な事は出来ないじゃありませんか」
陶器で出来たコップの中の石鹸水を川田は刷毛で溶かしながら、珠江夫人の爪先の前へ楽しそうにあぐらを組む。
「遠山家の若奥様だって、最初は俺達を色々と手古ずらすので一度きれいに剃り上げてやったことがあるんだ。それからってものは割りと素直に調教を受けるようになったぜ」
川田はそういって、象牙色に輝く心も吸いつくような柔らかい珠江夫人の太腿に眼を向け、徐々に見上げていく。
網のように柔らかい、ふっくらとした繊毛は、これから開始される屈辱を感知してか、かすかに慄えているように見えた。
そうした仕置を受けることによって、珠江夫人の虚栄も自尊心も音を立て、崩れ落ちるだろう、そう思うと大塚順子は身体が震える程の興奮を覚えるのだ。
珠江夫人は、固く閉ざした眼尻より幾筋もの涙をしたたり流していたが、血の出る程、唇を噛みしめ、それは、こうした絶体絶命の場面に遭遇しても驕慢な意志の力でそれをはねのけようとする強さを秘めているように見受けられるのだ。
「さ、折原夫人、少し、あんよを開いてみな」
川田が石瞼水にたっぷり浸した刷毛を持って、珠江夫人に塗りつけようと身を寄せた。
「およしになって!」
珠江夫人はそれが触れようとした時、たまらない生理的嫌悪にかっと頭に血がのぼり、激しい声と共に腰をひねった。
川田の手からシャボンの入ったコップと刷毛が床に転がり落ちる。
「くそ、何て事をしやがる」
川田も、かっと頭にきて、仁王のような顔になって立ち上ると、いきなり珠江夫人の頬を平手打ちした。
「こっちが優しく出りゃつけ上がりやがって、くそ、こうなりゃ一本一本引き抜いてやる」
川田は、銀子達に向かっていった。
「地下の美沙江を丸裸にしてここへ連れて来な。折原夫人の泣きわめくところを見物させてやるんだ」
よしきた、と銀子達が立ち上ると、珠江夫人は、必死な表情になって首を振る。
「私が、私が悪かったわ。お嬢様だけは、お願い」
珠江夫人は叫ぶようにそういうと、がっくり首を落とし、ひきつったように号泣するのだった。
大塚順子は、それ見ろ、といった表情で珠江夫人に近づき、
「ね、わかったでしょう。ここにいる人達はみんな気の短い人達ばかりよ。さっき約束したことに違反した行動に出ると何をするかわからない。今後はよく気をつけることね」
珠江夫人の驕慢な意志の力も次第にくずれ出したことを感じる大塚順子は楽しい気分になるのだ。
「それじゃ、友子さんに直江さん。この仕事はあんた達に任せるわ。傷つけないように気をつけてきれいに剃り上げて頂戴。折原夫人も、どうやら覚悟は出来たようだからね」
大塚順子は、すすり上げる珠江夫人の白い肩をさするようにしながら、小気味よさそうにいうのだ。
ニヤニヤして近づいて来た友子と直江に珠江夫人は何ともいえぬ口惜しげな眼をチラと向け、すぐに涙に濡れた優雅な頬を横に見せて観念したように瞑目するのだった。
麻薬
優雅な匂いに包まれたような妖しい悩ましさを持つ珠江夫人の太腿を抱くようにして腰を沈めた直江と友子は、
「こんな事したいことはないけど、大塚先生の命令やさかいな。奥さん。気を悪うせんといてや」
と、繊細で徹妙な美しさを持つ純黒のふくらみを凝視しながら、そっと剃刀を当てがうのだった。
美しい眉根を苦しげにしかめて、この羞恥地獄を耐え切ろうと魂まで凍りつかせていた珠江夫人であったが、冷たい刃が、しかも、美沙江のお付きの女中であった友子の手で肌に当てられると、嫌悪の戦慄が背すじまで走り、反射的に腰部を動揺させるのだ。
「動いたらあかんというてるのに。うちらあまり器用な方と違うさかいな。傷でもついたらどうすんのよ」
直江は舌打ちして、珠江夫人の双臀をピシャリと平手打ちする。
酒を飲みながら、それを余興として眺めていた田代達は大口を開けて笑い出す。
「そんなにモジモジ羞ずかしがってばかりいちゃ仕事がやりにくいじゃないの、折原夫人。友子さん達の仕事がやりいいようにもっと前へ突き出すようにしてやってよ」
銀子はそんな事をいって朱美と一緒にキャッキャッと笑い出す。
「ね、やっぱりシャボンか何かつけてやらないとかわいそうじゃない」
順子が含み笑いしながら川田にいうと、
「そんな必要はありませんよ。せっかくこっちが優しくしてやろうと思ったのに腰を振ってシャボンをひっくり返しちまいやがったんですからね」
川田はせせら笑ってコップ酒を飲みつづけるのだ。
「ね、奥さん、少し肢を開いてよ。このままじゃうまくいかへんわ」
友子は珠江夫人の膝元に身をかがめたままモタモタしている。
しかし、珠江夫人は頑強なくらいにぴったり二つの腿を閉じ合わせて、歯を噛みならし、女中達のいたぶりに耐えかねたよう深く首を垂れて泣き沈むだけである。
「大分、手古ずっているらしいな。よし、援軍として出動するか」
鬼源が川田の耳に口を寄せて何か囁いた。
「そうだな。そいつもこの場の余興になるぜ」
川田は部屋を出て行くと小さな擂り鉢を抱えて戻って来た。
「それだけありゃ充分だ」
鬼源は、よ、お前達、少し退きな、と友子達を押しやると、代って、珠江夫人の足の下へ擂り鉢を置く。
「これはな、お前さんのような気位の高い御婦人には一番の妙薬なんだ。身体中がどろどろに溶けちまうようなたまらねえ気分になって、剃られようが何されようが少しも気にはならなくなる」
鬼源は鉢の中のどろどろした液体を指でかき混ぜながら面白そうに珠江夫人の恐怖に歪んだ顔を見つめるのだ。
「それにシャボンの必要もいらなくなるぜ」
鬼源と川田にその薬の効用を聞かされた珠江夫人は、ハッとして顔をそむけ、狼狽と羞恥にブルブル白い肩先を慄わせるのだ。
「昨夜、アメリカ製で可愛がられて幾度も演じたあのすさまじい恰好を、も一度この場で演じて頂こうじゃねえか。そうすりゃ気楽な気分で友子達の剃力を受けられると思うぜ」
「待って、待って下さい」
鬼源がたっぷり掬い上げてつめ寄ると、珠江夫人は、乱れた黒髪を揺さぶって首を左右に振り、哀しげな言葉を吐いた。
「友子さん達のお仕置を受けます。ですから、そんな事をなさるのはやめてっ。お願いです!」
すると、大塚順子が吹き出して、
「全身の緊張をほぐすために一度この場ですっきりした気分に浸った方がいいと思うわ。奥様がどれ程感受性の強い女性か、田代社長にも御覧に入れておきたいと思うのよ」
鬼源は舌なめずりをしながら、珠江夫人の背後へ廻って腰を沈めた。
「まず最初はここだけにしておくんだ。薬の効果がどんなに鋭いか身に沁みてわかるだろう」
柔らかく、ふっくらと盛り上る珠江夫人の双臀に手をかけた鬼源は思い切った行動に出た。
あっと、つんざくような珠江夫人の悲鳴。
深く秘めた菊花の個所に塗りこめられる羞恥と苦悩に珠江夫人は、異様な声を張り上げて背中の中程に縛り合わされている両手を悶えさせ、狂ったように双臀を揺さぶり始めた。
手に入った美しい獲物に対して、真綿で首を絞めつけていくようなこうした残忍で淫靡な責めを加えることは彼等の得意とするところであった。しかも相手が驕慢の美を誇り、虚栄心と自尊心が傷つくことを極度に嫌い、まだどこかに反抗の心を持っていると感じた場合、悪魔達の残忍さは更に一層の激しさを加え出すようである。
わざとその部分だけに悪魔の薬液を注ぎこみ、美女の苦悩を観察した上で、更に責めを加えて苦痛を倍加させていく♢♢そのように残忍さにも計昇が加わっている。
「そのうち、たまらねえ痒みにがまん出来ず、面白い尻振りダンスを始めますぜ、社長」
鬼源は、田代の持つ盃に酒を注いで、ニヤリと黄色い歯を見せた。
「どれ程、敏感な女か、その証拠をもうすぐ社長の前に晒しますよ。ま、お酒の余興にゆっくり御覧になって下さい」
と川田も田代の横へ坐りこんで楽しそうにいうのだ。
鬼源のいう通り薬は次第にその強力な効きめを発揮し始めたようである。
徐々にこみ上って来るたまらない痛痒感に珠江夫人はブルブルと双臀を痙攣させ、真っ赤に上気した顔を組も世もないように右に伏せたり左に伏せたりしながら、媚めかしいうめき声を立て始めたのである。
「如何が、折原夫人。何時までも高慢ちきな顔つきをしていると、こういう目に合うのよ。少しは骨身にこたえたでしょう」
大塚順子は、べっとり額に脂汗を浮かべて苦悶する珠江夫人を見つめながら、おかしそうにいった。
「ああ、ど、どうすればいいのっ」
珠江夫人は、やがて狂ったように激しい身悶えを見せて、酒を飲む悪魔達を哄笑させるのだ。大塚順子は立ち上って、ゆっくりと珠江夫人の背後に廻すと、両手を廻して縄に緊め上げられた珠江夫人の乳房を抱き、熱っぼい彼女の頬に優しく頬ずりするようにして、
「もう二度と私達に手を焼かさないでね。奥様はこれから最低の女として、ここで生まれ変るのよ。わかった?」
順子はそうい心ながら、珠江夫人の柔らかい二つの乳房を優しく両手で愛撫し始めるのだ。
「ああ、大塚さん、そ、そんな」
珠江夫人は順子の巧妙な掌の愛撫に狼狽を示し更に激しく身悶えを見せた。
その部分のたまらない掻梓感と順子にそうされることにょってこみ上って来る不気味な快感は言葉ではいえぬ狂おしいものだった。
「いいか、今後、俺達には絶対服従するんだぜ。わかったな?」
鬼源も懊悩の極にある珠江夫人につめ寄ってドスのきいた声を浴びせかける。
珠江夫人は、わなわな唇を慄わせながら、はっきりとうなずいて見せるのだ。
「よし、それじゃ、さっきのようなそっけない態度をとらず、銀子に何もかも測定させるんだ。自分の口から銀子に頼んでみな」
鬼源に熱い頬を指で突かれた珠江夫人は、すすり上げながら、唇を慄わせて鬼源の命じた通りの事を口にする。
「もう二度と生意気な態度はとりませんわ。くわしくお調べになって」
途切れ途切れにそうつぶやいた珠江夫人は激しく啼泣をくり返しながらも、銀子と朱美が位置を占めると、ぴったり重ね合わせた艶々しい太腿をゆっくりと割り始めたのである。
「そういう風に協力してくれると大助かりよ」
銀子と朱美は、見物人達の喝宋を受けながら再び巻尺を使って仕事にかかった。
「まあ」
銀子と朱美は、すでに女のもろさを見せているそれに手を触れさせると、わざとらしく頓狂な声を上げて笑い出した。
「皆んなの見ている前でもうこんなざまになるなんて、フフフ、それで貴婦人のつもりなの」
ズベ公二人の気が遠くなる程の屈辱的な揶揄を珠江夫人は甘い身悶えとすすり泣きをくり返しつつ聞いている。
遂に優雅で高貴な捕われの人妻は、ズベ公二人に弄ばれて細部まで露に曝け出し、見物人達の納得のいくまでの鑑賞を受けることになったのだ。
麻薬を塗りこめられたその部分の刺戟に誘発されるのか、珠江夫人はズベ公達の軽いいたぶりに対してもおびただしい反応を示すのである。
「ああ、もう、もう堪忍してっ」
珠江夫人は、乳房をいたぶる順子に仰向くようにして首をもたれさせ、艶々しいうなじをはっきりと浮き上らせ、甘えかかるように頭を振るのだ。
「どう、社長。この奥様って、すごく敏感でしょう」
順子は、調子を一段と上げて珠江夫人をいたぶりながら正面にあぐらを組む田代社長を見て笑った。
「女も三十を一つ二つ越した時が一番激しいというからな。無理もないさ」
田代は珠江夫人の狂態を酒の肴にして眼を納めて悦んでいる。
鬼源は、狂乱に近い状態の珠江夫人を見ると、ここが機会だとばかり、森田組に対する服従を徹底させようと懸命になり始めるのだ。
銀子と朱美をひとまず引かせた鬼源は、友子と直江を押し出して、女中としてこれまでこき使ったことの詫びを入れさせようとする。
珠江夫人は、鬼源に教えられた通り、涙に濡れ光った眼をしばたきながら、二人の元女中に語りかけるのだ。
「今まで貴女達二人を使用人とし、冷たい眼で見て来たことをどうかお許し下さい」
珠江夫人は、大粒の涙をこぼしながらそういい、更に濡れた瞳をひきつらしながら、
「けれど、今日からは、貴女達が私の御主人ですわ。これまで私に受けた恨みをどうか晴らして下さいませ」
そういう屈辱の言葉を口にしながらも、珠江夫人は断続的にこみ上って来る痛痒感に眉根を寄せ、双臀を痙攣させるのだった。
「そんなに揮いの? 奥さん」
友子は珠江夫人の尻振りダンスを面白そうに眺めて、
「何なら私が悩みを解決してあげてもいいのよ」
と、次に珠江夫人の朱に染まった顔をのぞきこむようにしていうのだ。
珠江夫人は必死に友子から顔をそらせ、消え入るように小さくうなずくのである。
「その代り条件があるんや」
友子はチラと銀子の方を向いて片眼を閉じた。二人の間に珠江夫人を更に懊悩の極に落とし入れるべく何かの相談が出来ているらしい。
「ここにいる人達は、家元のお嬢さんの尻振りダンスをぜひ見たいといっているのや」
奥様に千原美沙江は嬲り者にしないと約束したばっかりだが、美沙江も仲間に引きこむことを承知してくれるなら、悩みを解いてやってもいい、と友子はいうのだ。
珠江夫人は、上気した顔を見る見るうちに蒼ずませ、長い睫を怒りに慄わせて口惜しげに友子の顔を見たが、すぐに顔をそむける。
その涙に濡れた美しい横顔は憤怒のためか冷やかに硬化していくようである。
「もうこうなったらお嬢さんも仲間に引きずりこんだ方が身のためというもんや。え、奥さん、返事せんかいな」
友子は、苦しげに眉を寄せる珠江夫人の肩を揺さぶった。
「嬲り者にするのは私一人で充分でしょ。約束を破るようなことはなさらないでっ」
珠江夫人は喉元にこみ上って来た火の玉のような口惜しさをぐっと呑みこむようにして友子に対し、敵意を含む、燃えるような瞳を向けたのである。
「何だよ、その生意気な言い草は」
と銀子が不快な表情を見せ、続いて朱美が、
「まだ、この二人を女中だと思ってそんな生意気な口をきくんだろ」
と、口をとがらした。
「いいかい、奥さん。千原美沙江も私と同じく素っ裸にして、性の奴隷にして下さい、とはつきりひと言いえば、痒くてたまらないお尻の悩みを私達が優しく揉みほぐしてあげる。もし、いわないのなら」
朱美は珠江夫人の足下に置いてある擂り鉢を取り上げて、
「この残りを全部ここへ。フフフ、お尻だけでもそんなに苦しいのに、そんな目にあったらどんな思いをしなきゃならないか」
朱美は見るからにむず痒くなるようなその中身を見つめながら、わざとらしく珠江夫人の微妙な美しいふくらみの前に近づけていくのだった。
反射的にハッと願を引く珠江夫人であったが、悲痛な表情になって、
「たとえ気が狂うような責めに合っても、私も千原流をこれまで後援してきた女です。家元のお嬢さんだけは命に代えても、貴女達のなぐさみものにはさせないわっ」
と激しい口調でいうのだ。
大塚順子の顔に険悪なものが走った。∵
身も心もこれで微塵に打ち砕かれたであろうと見ていた折原珠江が、美沙江に危機が迫ると見るや息を吹き返したょうに立ち直ったので腹立たしくなったのだ。
私も千原流をこれまで後援して来た女♢♢という自負めいたものの言い方も、順子は癪にさわった。
順子が怒りをぶちまけるより先に銀子と朱美がカッとなって、
「フン、そんなみじめな恰好にされながら、よくもそういう生意気な口がきけるものさ。それならこっちも手加減しないからね」
銀子は、川田の方を見て、
「川田兄さん。この奥様をも一度しっかり縛り直して頂戴。少し縄がゆるんできたようだわ」
よしきた、と川田はベッドの下から新しい麻縄を引っ張り出して珠江夫人の背後へ吉沢と一緒に廻った。
「塗りつけられりゃ狂ったように暴れ出すに決まっているからね。ゆるまないようにしっかり縄をかけておくのよ」
「わかってるよ」
川悶は楽しそうに口笛を吹きながら、滑らかな背中の中程に縛り合わされている珠江夫人の手首にキリキリ別の縄を巻きつけ、余った縄尻を前に廻して、柔らかく形のいい乳房の上下をきぴしく緊め上げていくのだ。
「何だよ、奥さん。また、ブルブルとケツを震わせているじゃねえか。この上まだ塗られちゃ本当に気が狂っちまケぜ」
吉沢は、観念したように眼を閉ざしている珠江夫人の神々しいばかりに美しい横顔を見つめながら、からかうようにいったが、何か祈りでも捧げているよう珠江夫人は綺麗に揃った柔らかそうな睫さえ動かさず、口を噤んでいる。
「さてと。本当にいいんだね、奥さん。思い直すなら今のうちだぜ」
川田は、時々、腰部を痙攣させながらも硬直した表情で立つ珠江夫人の前に腰を沈めるのだ。
その華著で優雅な眼に沁みるばかりの自さを持つ両脇にぴったり押しつけられている艶やかな純黒のふくらみを凝視しながら、川田はゆっくりと掬い上げる。
「強情な女だ。吠面をかいても知らねえぜ」
川田の仕事を手伝うべく銀子と朱美は、優美な線を描く珠江夫人の太腿と繊細な下肢を左右から押さえつけ、身動き出来ぬようにした。
「もう情けをかける必要もないようね。いいわ、うんと吠面をかかせてやってよ」
大塚順子は敵意のこもった眼を光らせて川田達に声をかける。
よし、俺も手伝うぜ、と吉沢も川田の横に腰を落とし、擂り鉢からたっぷり掬い上げるのだ。
白い頬を真っ赤に充血させて、歯を喰いしばった表情を見せていた珠江夫人は、男達の手が触れると、うっとうめいて、顔をのけぞらし、毛穴から血が吹き出そうになる嫌悪の戦慄をキリキリ噛みこたえるのだ。
色の道の巧者である川田と吉沢にとって崩れかかった女を泣かせるのは容易な事であった。面白半分に誘ってはいなし、いなしては誘いとくり返して、またたく間に珠江夫人を順応させていく。口惜し泣きと共に珠江夫人が再び細部を露にし始めると、待ちかまえていたように野卑な二人の男は麻薬を注ぎこんでいくのだ。
傷ついた獣のようにうめきつづける珠江夫人を見て会心の微笑を口元に浮かべる大塚順子は、そっと田代の耳に口を当てる。
「千原美沙江をどうしてもここへ引っ張り出したいわ。千原流後援会長のダンスをぜひとも見せてやりたいと思うのです」
田代は、口元を歪めてうなずいた。
一方、川田と吉沢は珠江夫人に細工をほどこすと、ざまあ見ろ、とばかりに立ち上る。
「おや、社長に大塚女史、これからまた面白いダンスが始まるってのに、何処へ行くんですよ」
そっと部屋から抜け出そうとする田代と大塚順子を奇妙な顔で川田は見るのだ。
順子は白い歯を見せて照れ臭そうに笑ったが、急にふてくされたような顔つきになって珠江夫人の顔を見る。
「色々考えたんだけど、やっぱり美沙江嬢もここへお呼びするわ。だって、折原夫人の耐白いダンスを私達だけで見物するのは勿体ないものね。ま、気を悪くしないで頂戴」
瞬間、珠江夫人は、名状の出来ない程の口惜しげな顔になった。
「大塚さんっ。よくも、よくも、そんな♢♢」
胸が張り裂けるばかりの悲痛な声を出した珠江夫人は、あとは言葉にならず、わっと声を上げて泣き沈んでしまう。
「奥さんが思っている程、私は人情家じゃないのよ。よく覚えておくがいいわ」
大塚順子は薄笑いを口に浮かべ、田代をうながして部屋を出て行った。
「ちょいと、大塚先生に対して今の口のきき方は何さ」
銀子と朱美は、肩を揺さぶって激しく泣きじゃくる珠江夫人のあちこちを指でつく。
「あまり俺達をなめると後悔することになるぜ」
川田は、再び、擂り鉢の中のものを掬い上げると、珠江夫人の柔らかい双臀にまたもや手をかけた。
「もう一度、ここにも辛い思いをさせてやるぜ」
しかし、珠江夫人はただ号泣するだけで、もう反抗する気力もなく、再度、菊花にそれを塗りこめられていく。
「まだまだ」
銀子と朱美は、何かにとり憑かれたようにはしゃぎながら、川田とは逆に前方へ贈った。
「私達の恐ろしさを知らせてやるからね」
朱美が手に持つ擂り鉢の中から掬い上げた銀子は眼尻を上げて、落花微塵とばかり注ぎこんでいく。
「さあ、面白くなるぜ。肢を縛りな」
川田と吉沢は、珠江夫人の早くもヒクヒクと痙攣し始めた両肢を重ねて、キリキリ縄をかけ始めた。
「恨みます。死んでも、あなた達を恨みつづけるわっ」
珠江夫人は、脂汗をねっとり静ませた太腿にもヒシヒシ縄がけされていきながら、妖しい悪夢の中をさまよっているようにあえぎつつうめくのである。
「うるせえな。おい、猿轡をはめろ」
川田は、むっとした顔で立ち上がると、ぼんやりつっ立っている友子と直江に、お前達パンティを脱げ、と命令するのだ。
びっくりした顔になる二人に、
「それで奥様に猿轡をするんだ。早くしねえか」
と、川田はいらいらしてどなるのだった。
恐ろしい川田の顔におびえたように友子と直江は身を縮めて脱ぎ始める。
「ピンク色とは気に入ったぜ」
川田は唇を舌で嘗めながら、それを指でつまみ上げた。
第七十七章 新花の序奏
鬼女の奸計
薄暗い地下牢の中にまる二日監禁された千原美沙江は、生きた心地もなく蒼ざめた表情で冷たい床の上に坐っていたが、
「さ、お嬢さん、今日で貴女は無罪放免よ。友子と直江が、お金を持って来たからね」
と大塚順子にいわれ、顔に生気が表われた。
「ほんとに、友子さん達が——」
美沙江の美しい瞳から、これでやっと救われたという嬉し涙があふれ出る。
「辛い思いをさせてごめんなさいね。でもこれで自由になれたんだから、恨まないでほしいわ。さ、早く出てらっしゃい」
順子は田代にチラと眼くばせして牢屋の錠前を外した。
すべて、田代と打ち合わせたことである。
千原美沙江が牢舎の中から出て来ると順子は、いわゆる猫撫で声になって、
「貴女のおば様にも随分、辛い思いをさせてしまったけれど、みんな、ここだけの話にしてほしいわ。その方がお互いのためですものね」
「あの、おば様は、今どこに?」
「奥の間で休息なさっているわ。さ「行きましょう」
千原美沙江は順子にうながされて、急ぎ足で地下の階投を上って行く。
——ほんとに、私達はこれで助かったのだろうか——
芝生の庭を歩き、本館の方へ案内されて行く美沙江の心には、まだ一抹の不安があった。
何かひそひそ小声で話し合ったり、薄笑いを浮かべたりして先に歩く田代と順子の態度が気にかかる。
そんな美沙江の心を見通してか、順子は振り返ると、
「私達はね、大金が手に入ったので外国へ高飛びすることにしたわ。だから、お嬢さんが私に受けた仕打ちを、その筋に知らせても平気よ」
「私、訴えるようなことは致しませんわ。おば様と私をここから逃がして下さるなら、それで充分です」
美沙江は、おどおどした口調でいった。
本館の二階の一室、そこは大塚順子に当てられた八畳の和室であって、これも打ち合わせ通り、美沙江の二人の女中、友子と直江が、待機している。
「ああ、お嬢様っ」
友子は美沙江を見ると大仰に篤いて見せ、順子に教えられた通りめ芝居を演じ始めた。
「よく、ま、御無事で」
眼に涙まで浮かべて、友子もなかなかの役者であった。
「友子さん、直江さん、よく助けに来てくれたわね」
美沙江は袖で顔を覆って泣きじゃくる。
「もう貴女達は来てくれないのじゃないかと私、生きた心地もなかったわ」
そういって、友子や直江の手を取ってすすり上げる美沙江を、速くの方で眺めていた順子は、
「それじゃ、お嬢さんにお風呂にでも入って頂いてゆっくりくつろいでもらうのよ。そのうち折原夫人の支度も出来ると思うからね」
と三人の女中にいって、田代と共に部屋から出て行った。
「おば様は、どこにいらっしゃるの。御無事でいらっしゃるの。ね、友子さん」
美沙江は恐ろしい女が引き揚げると珠江夫人の安否をたずねた。
「心配いりませんわ、お嬢さん。そやけど、大変なショックだっただけに助かったとわかった途端軽い貧血を起こされて、今、ベッドで休んだはります」
友子は、そう出鱈目をいった。
恐らく、川田や吉沢達に塗りこまれた麻薬の効果が最高に達し、今頃、珠江夫人は気の狂うばかりの錯乱状態に陥っているに違いない。
しかし、そんな事は顔色にも見せず、
「さ、お嬢さん、お風呂へ入って下さい。狭い汚い牢屋の中で二日も暮した垢を、さっぱり洗い流して下さい」
としきりに美沙江に入浴をすすめるのだ。
「呑気に今、お風呂なんかに入る気持にはなれないわ。それより、早くおば様に逢いたいわ。ね、おば様の休んでおられる部展へ案内して下さらない」
美沙江は、早く珠江夫人に逢って救出されたことを二人で悦び合いたかった。
「でもね、お嬢様。せっかくこの屋敷の人達が二日間の垢を落とすようにといってお風呂をわかして下さったのやから、その好意を無にしたら相手の感情を害すことになりまっせ」
と直江は奇妙な理屈をこねだした。
「お風呂に入ってお嬢さんがさっぱりしゃはってる間に、珠江奥様の気分も、よくなると思いますわ」
ここまで来て、相手を怒らせてはまずいから、好意を素直に受け入れるよう、二人の女中は美沙江を説得するのだ。
こんな時に敵方の家の風呂を使うという気分になれる筈はなかったが、女中達のいう事にさからうわけにはいかない。
「じゃ、少し、体を洗わせて頂くわ」
美沙江は、友子に案内されて、浴室へ向かった。
新作生花発表会の後の、祝賀パーティに出席するために着た真紅の紋綸子の中振袖も逃亡を計って竹薮を走ったりしたため、かなり裾元が汚れている。
溶室の脱衣室で二人の女中に揚げ羽蝶に結ばれた帯を解かせながら美沙江は、
「身体の汗を流すだけですぐお風呂を出ますわ。こんな所にもう一分でも長居はしたくないの。わかるでしょう。友子さん」
美沙江が薄紅色の艶めかしい長襦袢になると友子は、
「もうここまで来て、何もあわてることはありませんわ。ゆっくりお風呂ぐらいは入って下さい」
そういって、直江と一緒に脱衣場から出て行った。
美沙江は長襦袢を脱ぎ、すぐくるっと向こうむきになって願をかがめると肌襦袢、湯文字を脱いで、手拭で前を隠しながら、浴室へ素早く入って行く。
同時に脱衣場の戸が静かに開いて、こっそりと直江と友子が入って来たのだ。
浴室のガラス一戸の鍵穴から中をのぞくと、美沙江は鏡の前に立膝して坐り、アップに巻き上げた髪を解いている。
ウェーブのかかった艶々しい見事な黒髪はハラリと肩まで垂れかかり、輝くような雪白の肌とのコントラストが悩ましいばかりに美しい。
友子と直江は眼で合図し合って、脱衣寵の中に花束の一のように積まれた豪奢な美沙江の衣類を一枚残らず抱きかかえ、そっとその場から立ち退いた。
部屋に戻ると、すでに、順子と田代が坐っている。
「うまくいったようね」
順子は友子と直江が抱きかかえている美沙江の豪華な衣類を見て北叟笑んだ。
すべて手筈通り進んだわけである。
青い畳の上にさっと投げ出された華麗な真紅の紋綸子、御所解き模様を浮き上らせた中振袖や黒地に金と赤の袋帯、それに絹綸子の長橋絆、湯文字に至るまでの下着類など、それだけ見ても滴るばかりの色気が感じられて、田代は生唾を呑みこむのだ。
「今日限りであの御令嬢は、こういう立派なお召物を着る時がないんだから、色々骨を折ってもらったお礼に、これはあんた達に差し上げるわよ」
順子は手に取って眺めていた美沙江の衣類を友子達の方へ押しやって、
「でもこれからが大変ね。名門の御令嬢だけに、一流の調教師が揃っているからといっても相当手古ずることだと思うわ」
「しかも、処女だけに一層、始末が悪い」
田代は苦笑して見せた。
「でも、またそれが値打ちということになるんじゃありませんか」
順子はそういって、
「羽衣を奪われた天女みたいに今頃、御令嬢は嘆き悲しんでいると思うわ。一寸、様子を見に行きましょうよ」
と立ち上った。
順子がいった通り、浴室から出た美沙江はたった今、脱いだばかりの衣類が紛失していることに驚き、しきりに女中達の名を呼んでいた。
「友子さん。着物を何処へ持って行ったの。早く着物を持って来て頂戴」
美沙江は、女中達が汚れを落とすために着物を持ち去ったものだと思ったのだ。
「ね、早く、着物を持って来て。お願い、直江さん」
美沙江は浴室のガラス戸を叩いて声を立て始める。
吹き出すのをこらえるようにして廊下でそれを聞く順子達。
友子が順子に何か耳うちされて、口を開いた。
「何いうてるの、お嬢さん。うちら、お嬢さんの着物なんか知りませんわ。御自分で外へ出て来てこの屋敷中、探さはったらええやないの」
そういった友子は、直江と一緒に笑いこけた。
ふと、悪魔の計略にかかったのでは、という疑問が美沙江の胸をしめつける。
女中達の態度が、急にがらりと変わったことで、その恐怖の念は一層つのり出したのだ。
「冗談はよして。ね、お願い、早く着るものを持って来て」
美沙江は必死な声を上げ出した。
「ハハハ、出るに出られぬ寵の鳥か」田代の大きな笑い声が突然響くと、美沙江は電気にでも触れたように身体を硬直させ、縮かむように膝を助げると手拙で胸元を押さえた。
「お嬢さんを素っ裸にするためには随分と手数がかかると思ってね。女中さん達と相談してお風呂へ入って頂いたわけなんだよ」
田代にそう聞かされた美沙江の顔からは見る見るうちに血の気がひいていく。
「友子さんっ、直江さんっ。これはいったいどういう事なの」
美沙江は廊下にいる二人の女中に向かってガラス戸越しに激しい声を出した。
「悪う思わんといてね、お嬢さん。うちら、お嬢さんを裏切ったというわけや」
友子は、はっきりした口調でいった。
次に大塚順子の声が響いてくる。
「これで事情がわかったでしよ。苦心して釣り上げた魚をまた広い海へ逃がすような、そんな馬鹿な真似を私達がする筈ないじゃありませんか。お嬢様は今日限りで、今までの生活とは、いさぎよくお別れし、私達の奴隷となって、この大きな屋敷の中で一生、暮して頂くことになったのよ」
それを聞くと美沙江は目まいが起こる程の衝撃を受け、床に手をついてしまう。
「折原の奥様も、今は心がけをすっかり変えて、性の奴隷としての修業を了心に積んでいらっしゃるのよ。お嬢様も奥様に負けないよう、これからはしっかり修業を積んで頂きたいわ」
そういった順子は、友子達に合図してガラス一戸を開けさせた。
瞬間、美沙江は悲鳴を上げ、脱衣場より浴室へ走りこんで戸を閉め、内鍵をかける。
田代は、舌打ちして、激しく浴室の戸を叩いた。
「鍵を外すんだ、お嬢さん。ここにいる女奴隷がどんな修業を積んでいるか参考のために見学させてあげるんだよ」
たった今、あわてて浴室へ走りこんだ美沙江の肌の光沢と、ごの腕から肢までの均斉のとれた美しさが、一瞬であったが田代の眼に灼きつき、切ないばかりの思いになって、田代は美沙江を浴室から引き出そうとする。
「もう何もかも辞めることね。ここにいる女奴隷は皆んないい所のお嬢さんとか、家柄の立派な若奥様とか、そんな風な美人ばかりなのよ。お友達だって、すぐに出来るわ。だからおとなしく出ていらっしゃい。羞ずかしがったりこわがったりする気持も、すぐになくなるから」
などと、順子は優しげな口調で説得し始めるのだ。
「お願いです。何か着るものを、着るものを下さい」
浴室の中の美沙江は、すすり上げながら身につけるものを与えてほしいと、哀願を、くり返すのだ。
「何いってるんだ。ここにいる女奴隷はな、皆んな生まれたままの丸裸で、修業に励んでいるんだよ」
業を煮やした田代が思わず叫んだが、それを順子はたしなめて小声で田代にいって聞かせる。
「こういう名門の御令嬢をおどかしたりするのはよくないわ。うまく騙して、こっちのペースに巻きこむのよ」
そこで順子はまた猫撫で声になる。
「じゃ、お嬢さん。着物を涯すから、ほんの少しこのドアを開けて頂戴」
天の岩戸じゃないが、少しでも戸を開けたら最後、田代は躍りこんで美沙江を引っ張り出し、用意して来た麻縄でがんじがらめに縛り上げる肚だった。
「大塚さん、貴女のおっしゃることは信用出来ないわ。死んでも私このドアは開けません」
美沙江の手きびしい声を聞くと、順子はむっとして、
「あらそう。いいわ。何時までも強情を張っていなさい。その代り、最初、考えていたような特別扱いにはしてあげないからね。捕まえたら最後、骨身にこたえるような辛い修業をさせてあげる」
順子の毒気のある言葉は、浴室の中の何一つ身に覆うもののない美沙江の魂をしめ上げるのだ。
順子は友子と直江にいった。半分は、素っ裸で浴室内に寵城した美沙江に、聞かせるつもりである。
「若い連中を何人かここへ集めて頂戴。それからロープなんかも持ってこさせるのよ」
肉の競演
夕方近くに至って、やっと三本の映画を撮り終えた静子夫人は、精力という精力をすべて出し切ったように、ぐったりとマットの上に俯伏してしまった。
捨太郎も同じで、そんな夫人の横に流木のように仰向けに倒れ、大きく肩で息をついている。
「二人の息がこんなに合ったのは初めてだ。こりゃいい値がつくぜ」
鬼源はホクホクした表情で茶碗酒をあおった。
何時もは緊縛された身を捨太郎にゆだねるというものだったが、その日は最初から縄のからまない本格的なもので、勿論、夫人にしても初めての仕事だったが、最初から自棄になったように捨太郎のがっしりした黒い肩を柔軟で優美な両腕で抱きしめ、鬼源に強制されるまま露骨な姿態を織り込みつつからみ合いを演じたのである。
犬のように四つん這いになって捨太郎に、調教結果を試させ、成功させた時は、この映画撮影を酒を飲んで見物する連中の聞から歓声と拍手が巻き起こった。
「よ、捨太郎、だらしがねえな。しっかりしねえか」
鬼源は完全にのびてしまった捨太郎の腰のあたりを足で蹴った。
「親方、おら、もう駄目だ」
捨太郎は指でそれを示して見物人を笑わせ、負け犬みたいにマットの上から這い下り、隅の方へ逃げていく。
「男役者が参っちまえば、もう、仕事にならねえや」
撮影技師をつとめるやくざ達は笑い合う。
「だけど、奥様も随分進歩なさったものね。あんな大男に対して一歩もひけをとらないじゃありませんか。いえ、むしろ大男を打ち負かしてしまったのには驚いたわ」
千代は仲間の葉子や和枝の顔を見ながら笑いこけた。
捨太郎の野獣めいた攻撃の前に、最初は彼の動きに対応する力がないほど消極的な応戦を示していたが、ついに追いつめられた狂態を意地の悪いぐらいに克明に撮影されてしまうと、二本日の撮影からは糞度胸をつけたように夫人は積極的に応戦し始めたのだ。
絶息してはまた燃え上り、燃え上ってはまた絶息しながら捨太郎に喰らいつき、激しい嗚咽の声と共にまるで命がけとなって、捨太郎を陥落させてしまったのだ。
三回日の撮影の時は、鬼源の指示で最初はフランス式を命じられたのだが、夫人のすばらしい舌の技巧で完全に捨太郎を痺れさせ、続いて新しい実験に入ると、美しい量感のある双臀を揺さぶりつつ、その部分に劣らぬ貝類のような強い吸引力を発揮して捨太郎を完全に屈服させてしまったのである。
この種の仕事を渡世にしている、いわゆるプロの鬼源や井上達は、男達を悦楽の境地にいざなう宝庫を夫人が有していることを、改めて認識すると共に、如何に夫人が貴重な商品であるかを思い知ったのである。
精も根も尽き果てたといった風に、マットシートの上に額を押しつけている静子夫人の横顔は見る者の心を揺さぶるばかりに美しい。
「御苦労だったね、奥さん」
鬼源は夫人の優美な肩に手をかけて、ひっぺ返すようにして上体を起こさせた。
夫人は、おどろに乱れた黒髪を頬の半分にもつらせたまま屈辱と快楽と苦痛の焔の残り火の中でいまだはっきり意識が戻らないのか、ぼんやりと潤んだ視線をシーツの上へ投げかけている。
「あと二本分の撮影を続けたいんだが、捨太郎の奴が駄目になっちまったから、今日は、これで中止。この続きは明日ということにしようぜ」
それで三十分の休憩だ、と鬼源は周囲を見廻していった。
次にここで文夫と桂子のコンビが撮影されることになっているのだ、と鬼源がいう。
「どうだい奥さん、ついでに見物していくかね」
井上がそういって笑った時、襖が開いて、数人のやくざが、きびしく後手に縛り上げた一片の布も身につけぬ桂子と文夫を引き立てて入って来たのである。
「ああ、け、桂子さん」
静子夫人は、入って来たのが桂子だと気づくと切長の美しい瞳から幾筋もの涙を流した。
文夫と桂子は床の間の柱に縄尻をつながれたが二人とも静子夫人の方には一瞥もくれず、白く冴えた顔を、互いにそらせ合うようにしているだけだ。
この場に夫人が居合わせたことを桂子はあきらかに不快に感じている、という表情を露骨に見せて時々、チラと桂子は夫人の方を見るのだが、まるで空気でも見るような無表情さであった。
静子夫人は、自分が桂子に侮蔑されているということを悲しく感じとって、がっくりと首を落としてしまう。
「捨太郎という馬鹿とママはコンビを組んだのですってね」
桂子は冷やかな口調で、うなだれている夫人にいった。
その二言にハッと顔を上げた夫人に向かって更に桂子は、
「強制されたとはいえ、そんな男とコンビを組むことになったママを私、軽蔑するわ。もう顔も見たくないわ」
その非情な桂子の言葉に、静子夫人の全身は慄えた。
「——桂子さん。あ、あんまりだわ」
両手で顔を覆って静子夫人が泣きじゃくると、
「よ、何の親娘喧嘩を始めているんだよ」
と鬼源が近づいて来る。
桂子は、顔を上げるとはっきりした口調で鬼源にいった。
「早くママをここから連れ出して頂戴。そうしないと私達、演技に調子が出ないわよ」
よし、わかった、と鬼源はうなずいて、
「その代り、文夫とぴったり息の合ったいい演技をしてくれなきゃ困るぜ。何しろ、静子夫人と捨太郎のコンビは、抜群で、すごい売れ行きなんだ。お前達のコンビも、それに負けねえよう、がんばってくれなきゃあ」
鬼源は井上から麻縄を受け取ると、夫人の白い肩を叩いた。
「さ、奥さんは、しばらく休憩してから、次の仕事にかかるとしようぜ」
顔を覆ってシクシクすすり上げる静子夫人は、鬼源に背後から両腕をとられて背後へねじ曲げられる。
「桂子から愛想づかしをされるとは気の毒だったな」
鬼源は、キリキリと夫人に縄がけしながら笑った。
「捨太郎のような亭主を持ちゃあ、娘が愛想づかしするのも無理ないわよ」
千代も調子を合わせて笑い、鬼源に手渡された夫人の縄尻を持つと、さ、お立ち、と夫人を引き起こした。
「まずお風呂に入って少し休憩してから、奥様は親友である折原夫人と対面、そういう予定でしたわね、鬼源さん」
「そうです。そこで、美しい若奥様二人が、特殊な関係をお結びになるってわけですよ」
次回に開催する予定のショーには、ぜひとも、この二人の人妻のプレイをプログラムに加えるよう田代社長の命令を受けているのだと鬼源は千代に説明するのだった。
「何しろ女盛りの脂の乗り切った人妻二人のショーですからね。生っちょろいもんじゃあ、もう客も満足しねえから、こっちも腕の見せどころ、面白い番組にしようと張り切っているんですよ」
鬼源にそう聞かされると、千代は何度も満足げにうなずいて、
「わかったわね、奥様。相手が親しいお友達だけにいいコンビが組めることだと思うわ」
千代は、夫人の背を押して、
「さ、お風呂に入って、春太郎さん達に身体中よく洗ってもらうのよ。お歩き」
千代に引き立てられる静子夫人の左右に春太郎と夏次郎が付き添った。
部屋から出ようとした時、夫人はそっと後ろを振り返り、床の間の柱につながれている桂子の方へ物悲しげな視線を向けた。
桂子もふと顔を上げ、夫人の視線と眼が合ったが、すぐにそっぼを向き、冷たい横顔を夫人に見せるだけだった。
夫人は、とりつく島がないように深くうなだれ艶々しい黒髪を片頬に長く垂れ流しながら千代に背を押されて行て行くのだ。
その後、鬼源はニヤニヤしながち、柱につながれてうなだれている桂子と文夫の傍へやって来る。
「じゃ、そろそろ撮影にかかるぜ」
新しいシーツが取りかえられたマットの上に若い二人は、縄尻を鬼源に取られて歩まされる。
「どうしたい。お坊っちゃんの方は馬鹿に元気がないじゃないか」
緊縛されたままの裸身を、マットの上で小さく縮める若い二人に、カメラ係の井上がいった。
文夫は、あぐらを組んだまま元気なく顔を横に伏せ、桂子は文夫の背にぴったり背を押しつけるようにして立膝に足を組んでいる。
「ね、文夫さん。どうしたの。今更、悲しんだって仕様がないじゃないの」
桂子は、背中で縛り合わされた両手を動かせて文夫の縛られた手首を握った。
「文夫さん。貴方、まだ美津子さんの事を想っているのね。そうでしょう」
桂子は口惜しげにいった。桂子は、人間的感情はとうに失い、この地獄の世界で与えられた仕事を、熱意を持って果たそうとする女に変貌していた。だが、それは非合理的だが文夫という愛人を得たからであって、それ故にこの恐ろしい奈落の世界も自分にとっては快楽の修羅場かも知れぬと思うようになってきたのである。
人間的な思念は失ったといっても、やはり嫉妬だけは酸っぱい形で胸に残るのだ。
「お願い。文夫さん。もう美津子さんの事を考えちゃ嫌。ね、文夫さん」
桂子は身体を肋げると、文夫の頬に鼻をすり寄せ、文夫の唇を吸おうとする。
「僕は、僕はもう生きているのが嫌になったんだよ」
「嫌っ、そんな事いわないで。私は今、生きていることに喜びを感じるようになったのよ。文夫さんがもし死ぬようなことになれば私だって生きちゃいないわ」
桂子は、激しくそういうと、ぴったりと文夫の口に唇を当てた。
「ハハハ、まだカメラは贈っちゃいねえよ。そうあわてることはないさ」
鬼源は笑って、チンピラの竹田と堀川に合図して、二人を一旦、マットの上へ引き起こすのだ。
「少し準備運動をしておかなくちゃあいけねえ」
文夫と桂子が、後ろからチンピラに肩を押さえられて立つと、マリと義子がガムを噛みながら近づいて来て、二人の前に腰をかがめる。
「大いにハッスルしていい商品を作ってね」
義子は、用意して来たクリーム瓶を突き出すようにして一見せつけた。
こういう場合、文夫に長時間耐えさせるため、特別なクリームを女達の手で塗らせることに鬼源はとり決めていた。
また、桂子の方も、一層、燃えて画面に迫力を盛らせるため、特殊なクリームを使用させることになっている。
もう何本かの映画に出演した文夫や桂子は、ズベ公達の手でそうした処置を受けるのも初めてではなく、大して狼狽は示さない。
薄く眼を閉ざし、心持ち、肢を開いて、マリの処置を甘受する桂子は、さも心地よげにうっとりとした表情さえ見せて、
「ね、今日は私、何だか文夫さんにうんと愛してもらいたい気になったの。何時もよりよけいに塗ってほしいわ」
とマリに甘えかかるような声を出すのだ。
「へえ、やる気充分、というわけね。気に入ったわ」
マリは面白そうに桂子を見上げて、たっぷりとクリームを掬い上げた。
「ね、いいでしょう。文夫さん」
桂子は、横に立つ文夫に情感に濡れ光る瞳を向け、甘い声を出すのだ。
「それじゃ、お坊っちゃんの方もがんばって頂かなきゃあね」
義子は文夫をひやかすようにいう。
「まあ、頼もしいわ。ちょっと、桂子。、見てごらん」
義子は桂子の臍を横から指ではじいた。
チラと文夫に眼をやった桂子は、すぐに反対側に顔をそむけて、
「文夫さんを、そんなにいじめないで——」
と頭を振りながらいうのだ。
「さて、準備も出来たようだな。それじゃ始めるぜ」
鬼源はカメラやライトの方の点検もすまして、マットの上へ足を踏み入れた。
はかない抵抗
線の美しい象牙色の頬に涙を滴らせながら静子夫人は二人のシスターボーイに左右を挟まれ千代に縄尻を取られて長い廊下をゆっくりと歩いていく。
桂子にもう顔を見るのも嫌だと浴びせられた一言が胸に突きささり、夫人は、悲しく情けなかったのである。
「桂子さんに軽蔑されたのが、そんなに悲しいの奥様」
春太郎はポケットからハンケチを出すと夫人の涙を拭きとってやりながら、
「でも桂子さんは最近、森田組の仕事には、とても協力的だそうよ。その点では皆んなに可愛がられているそうだし、奥様も案心なさっていいのじゃないかしら」
というのだ。
それを聞くと夫人は、何故かはっとした気持になった。
この地獄の毎日を苦悩に思う心が、地獄といえる。こうした恐ろしい仕事に対して心の抵抗がなく勤められることになれば、むしろ、それは本人にとって救いなのかも知れない。
もうこの悪魔の屋敷より救出される日がないのならば、命運の尽きる日まで、自分の肉体も悪魔に作り変えて心に来るべき反撥を忘れ、歪んだ性の陶酔に浸るより方法はない。そんな風に静子夫人は桂子の事を考えるのだ。
二階の廊下を曲がった所に浴室があるのだが、その前に田代や森田、それに銀子や朱美達がつめかけている。
「あら、何かあったのかしら」
春太郎と夏次郎が不思議そうに顔を見合わせた時、大塚順子が苦笑しながら、こっちへ近づいて来た。
「家元の御令嬢が、浴室に、籠城してしまったのよ」
順子は、千原美沙江をうまく騙して浴室へ入れたまではよかったが、美沙江は、内鍵をかけてこっちを遮断してしせった、と事情を千代に説明した。
「大家の御令嬢も死物狂いになると、なかなか手ごわいものね」
千代は、ふと、その場にうなだれて立つ静子夫人を見て、いい方法があるわ、と夫人の縄尻をいきなり強く引っ張った。
「この奥様に美沙江を説得させるのよ。無駄な抵抗はやめて、すぐに出て来るようにね」
静子夫人も、珠江夫人と同じく千原流生花を後援して来た一人で、美沙江とは親しい間柄だ。
「千原家の御令嬢は、美貌と教養を兼ね備えた遠山夫人を、以前から崇拝なさっていたようだし——」
千代は意地の悪い微笑を頬に浮かべて、
「奥様なら美沙江嬢を、うまくおびき出せることと思うわ」
白い頬を硬くして眼を閉じ、口をつぐむ静子夫人の見事な双臀を、ぴしゃりと平手打ちした千代は、
「説得に失敗すると承知しないわよ。罰として——」
千代は、夫人の耳元に口を寄せて、何かささやいた。
夫人の優雅な美しい顔は、ショックで忽ち紅潮する。
「——い、犬ですって」
夫人の思わず取乱した狼狽の表情を千代は面白そうに見つめながら、
「そう。奥様は犬とか猫とかあまり動物はお好きじゃなかったわね。以前、私が遠山家の女中だった頃、庭の隅で小犬をこっそり飼っていたのを奥様に見つかって、大変叱られたことがあったわ」
千代は小鼻に敏を寄せて笑いながらそういい、
「犬とコンビを組まされるのが、それ程嫌なら美沙江嬢を説得して女奴隷にするのよ。説得に失敗すれば奥様だけではないわ。風呂場のガラス戸をたたき潰して男達は美沙江嬢を引きずり出し反抗した罰として彼女もまた犬と——」
「待って、待って下さい」
それ以上、千代の言葉を聞くのが恐ろしく夫人は首を左右に振りながら、千代の顔を見るのだ。
「ね、千代さん。貴女は本気で千原家のお嬢さんまで私のような女奴隷になさるおつもりなの」
「今更、何をいってるのよ。千原美沙江を大塚女史がどのように扱うか、それは何度も説明したじゃありませんか」
さ、行って、美沙江を洛室からおびき出して頂戴、と千代は夫人の背を押し、洛室の前まで引き立てる。
脱衣室の床には、美沙江を縛り上げるためのロープなどが置かれ、田代や森田がしきりに浴室の中に立て寵る美沙江に対して、ガラス戸を叩きながら、おどしているのだ。
「お嬢さん、そう何時までも強情をはらずに内鍵を外してこっちへ出て来な。早くいわれた通りにしねえと、捕えてから痛い目に合わすぜ」
森田は、そんな風にどなってガラス戸を叩くのが、おどすというより楽しんでいるようだ。
「うちの若い連中が生花家元御令嬢の丸裸を見たがって、うずうずしているんだよ。何時までも出し惜しみするねえ」森田は、そうどなって、田代の顔を見て笑うのだ。
「そんな風におどかしちゃ駄目よ。ここは、静子夫人に任そうじゃありませんか」
千代は、森田をたしなめて、夫人の縄尻を引きガラス戸の前に立たせた。
「何時見ても、相変らずきれいだね、奥さん。じゃ、一つ、ここはよろしく頼むぜ」
森田は、夫人の艶々と輝く象牙色の裸身を眼にすると口元を歪めてガラス戸の前から身を引いた。
「仕事をする毎に、肌の艶がよくなっていくようだな。え、奥さん」
酒気を帯びている森田は、豊かに引き緊まった夫人の豊かな太腿のあたりを眼を細めて眺めながらそんな事をいうのだが、夫人は凍りついたような礫い表情で、視線を横へそらせている。
「お嬢さん、貴女の大好きな人を、ここへお連れしたわ。遠山家の美しい静子奥様よ」
大塚順子は、ガラス戸を軽く叩きながら中の美沙江に声をかけた。
「え、静子奥様が?」
浴室に一人、立て寵る美沙江の悲痛な声が響いて来る。
「黙っていちゃ駄目よ。美沙江を口説き落として戸を早く開けさせて頂戴」
千代は、夫人の耳を引っ張り、ぐずぐずしていると二人とも犬と組まねばならなくなるのよ、と小声でおどすのだ。
「お、お嬢様、静子ですわ。おわかりになって——」
「あ、静子奥様」
美沙江は、こらえていたものが急に堰を切ったように働突となってあふれ出て、ガラス戸に額を押し当てて肩を慄わせるのだった。
静子夫人も翳った深い眼の中に一杯の涙を浮かべながら、
「——おかわいそうなお嬢様。でも静子は、お嬢様をお救いすることは出来ないのです」
そういうと同時に静子夫人は耐えられなくなったように頬をそむけて号泣し始めた。
「何をしてんのよ。お互いに泣き合っていたってらちがあかないじゃないのよ」
千代は、けわしい顔つきになって夫人の尻をつねり上げた。
「——お嬢様、こうなれば覚悟を決めて下さいまし。静子と一緒にこの屋敷内で女奴隷となるよりもう逃れる方法はないのです」
「な、何という事をおっしゃるの。嫌っ、そんな事、死んだって嫌です」
美沙江の嗚咽は、静子夫人の苦しい胸の中を一層かきむしるのだった。
「——もう助かる見込みはないのです、お嬢さん。死ぬ時はお嬢さんも静子も一緒ですわ。ですからお願い、これ仕上ここにいる人達に抗うと、お嬢さんはもっと辛い思いをしなくてはならなくなります」
静子夫人は涙まじりの声で必死に美沙江に呼びかけるのだった。
しばらく美沙江のすすり泣く声が断続的に聞こえて来たが、夫人の悲痛な説得に観念の座に自分を置いたのだ。
「れかりましたわ。珠江おば様までが、そんな辛い思いをなさっているのに——」
自分一人が助かろうという気になった我侭を許してほしい、という意味の事を美沙江はいって、よよと泣きくずれるのだ。
「——ああ、お嬢さん」
静子夫人は美沙江のそうした心情を思うと胸のはりさける思いになり、ガラス戸に額を押し当て再び号泣するのである。
「そうと話が決まったら、早くこの戸を開けるんだよ」
森田がまたガラス戸を叩いて催促する。
美沙江は震える手で内鍵を外した。
同時に、ガラリと戸を引き開けた森田と田代は麻縄の束を手づかみにして中へ突入して行く。
美沙江は、反射的に身を引き、浴室のタイルの壁に背を押し当て、片手で乳房、手拭を持った手で前を押さえながら、必死な眼を闖入者に向けるのだった。
「思った通り綺麗な身体をなさっているぜ。さすがは京都の名門の御令嬢だけのことはあるな」
森田は、美沙江のきらめくように美しい全裸をまぶしそうに見ながらいった。
艶々した長い黒髪を自磁の肩から胸元のあたりまで垂れさせた美沙江の全裸像は、一つ一つの曲線が優雅なしなやかさを持ち、むせ返るはどの高貴な官能美といったものを感じさせる。
「さ、女奴隷らしく縄をかけさせてもらうぜ」
と森田が近づこうとすると、美沙江は白蝋のような頬を硬化させ、
「こんな姿の私を、縄でゆわえようというのですか」
と、美しい眼の中に憤怒の色を浮かべて美沙江はタイルの壁に背を当てたまま、横へ横へと身体をずらしていくのだ。
「ゆわえる?」
森印と田代は顔を見合わせて笑い、
「ここにいる女奴隷は皆、こんな具合にされているんだよ」
と、千代に合図して静子夫人を浴室へ引き入れる。
「あっ」
美沙江は、静子夫人の山糸まとわぬ素肌に麻縄をかけられたみじめな姿を見て、息を呑んだ。
「どうだい。かっては上流社交界の花形スターだった遠山夫人が、今は俺達のドル箱スターさ」
美渉江の方をまともに見ることが出来ず、静子夫人は美しい眉根を寄せて顔をそむけている。
「こんな風に何もかも丸出しで奥様は、この屋敷にずっと監禁され、長い間、修業に励んでこられたのよ」
千代は、面白そうにそういって、伏せた夫人の頭髪を楓み、ぐっと顔を正面にこじ上げた。
大粒の涙を閉じ合わせた切長の眼尻より流しつづける静子夫人は、
「——お嬢様、もう、もう駄目なの。何もかも諦めて頂戴。死んだ気になって、この人達のいうことを聞くのです。ね、お願い」
と、嗚咽の声と一緒に肩を慄わせ、そういった。
力が抜けたようにその場に腰を落として美沙江は両手で顔を覆って泣きじゃくったが、森田と田代は、背後から美沙江のか細いその両腕に手をかけて、ぐいっと後ろへねじ曲げていく。
美沙江は、たださめざめと泣くだけで一切の望みを断ち切ったように森田達の手でキリキリと縄をかけられていくのだ。
色白で繊細な背面の中程に美沙江の両手首を重ね合わせてきびしく麻縄で縛った森田は絹餅のように柔らかくふっくらと盛り上る美沙江の二つの乳房の上下に余った縄尻を固く巻きつけ始めた。
ぴったりと華奢で優美な両肢を立膝させて男達に縛り上げられていく美沙江の、世にも悲しげな表情を見る千代と大塚順子は、互いに北叟笑むのだ。
「大分手数がかかったけど、この捕物もやっと終わったわね」
千代は、順子の肩を叩いていった。
「——お嬢さん、我慢して頂戴」
静子夫人は、男達の手で高手小手に縛り上げられた美沙江を見ると、たまらなくなったように類をねじって号泣する。
「そら、立ちな、お嬢さん」
森田は美沙江の縄尻を取って、ぐっと引いた。
よろよろと足をふらつかせながら立ち上った美沙江の美肌を正面から見つめた田代は思わず胸をときめかす。
長い艶々した黒髪を縄に緊め上げられた美しい乳房のあたりまで垂れさせた美沙江の優雅な肢体——そして、翳りを含む濡れた美しい黒眼より細い涙の雫を白く貯えた繊細な頬にしたたり流す美沙江は、華奢で柔らかい二つの太腿をぴったり閉ざしてそこに立たされている。
「さすがに家元のお嬢さんだわ。どう、このきれいな肌の色——」
千代は感嘆したようにいったが、春太郎も夏次郎も無垢で美しく深窓に生まれ育った美女の白銀色に輝くような妖しいばかりの美肌を心腿を射ぬかれたような表情をして眺め入るのだった。
とくに美沙江の美麗な太腿、ひっそりと翳を作る煙のように淡い夢幻的なふくらみに眼を向ける男達は、切ないばかりに胸をうずかせるのだ。
「まだ男を知らないお嬢さん育ちだけに、何だかかわいそうな気がするわね」
銀子が柄にもなく同情した言い方をして、腰に巻いている赤いネッカチーフを取ると、それで美沙江の腰のあたりを覆ってやろうとする。
美沙江は今にも失神しそうな表情でその場に立っているだけであったが、銀子がネッカチーフを腰に巻き始めると、蘇ったようにブルブル全身を慄わせるのだった。
「それじゃ、友子さんに直江さん。このお嬢さんを私の部屋へひとまず連れて来て頂戴」
大塚順子は美沙江のかっての女中二人にそう命令して田代と一緒に先に浴室から出て行った。
「それじゃお嬢さん。私達が御案内させてもらいまっせ」
と、友子と直江が代って美沙江の縄尻をとった。
美沙江の滴るように美しい黒眼の中に、二人の女中に対する憎悪の色がはっきり浮き上る。
「友子さん、直江さん。貴女達まで、一体、私に何の恨みがあって——」
美沙江は縄尻をとった二人の女中に恨みの言葉を投げつけようとするのだが、興奮のあまりはっきりした言葉にならなかった。
「千原流生花のやりかたが汚いから、湖月流生花に味方しただけのことよ。ね、友子さん」
静子夫人の縄尻をとる千代は、笑いながらそういって、
「さ、早くお嬢さんを大塚女史の部屋へ連れてお行き」
と友子達にいい、次に静子夫人の肩を押して、
「奥様は、これから折原夫人と御対面して、鬼源さんの指導のもとに特別の関係を持って頂くのでしたわね。さ、御案内しますわ」
静子夫人が千代に引き立てられようとする別の方向に、友子達の手で引き立てられる美沙江に哀切極まりない視線を向けた。
「——お嬢様。どのようなむごい仕打ちを受けても、生きる望みを失ってはいけないわ。ね、お嬢様」
ハラハラと大粒の涙を白い頬に流しながら夫人は必死なものを含めて、美沙江に呼びかけるのだった。
「し、静子奥様!」
美沙江は悲痛な声をあげると、引き立てようとして肩や背に手をかける友子と直江の手を、身体を揺さぶって払いのけ、夫人の傍に走り寄る。
「——お嬢様っ」
「——静子奥様っ」
二人の美女は緊縛された美しい裸身をぴったり寄せ合い、互いの肩に頬を埋め合い全身を慄わせて哀泣するのだ。
「ここで、そんな愁嘆場を演じて頂く時間はないんだ。二人ともいい加減にしねえか」
森田は、邪慢に夫人と美沙江の身体を引き離して、早く連れて行け、と友子達に眼で合図をした。
懲罰室
大塚順子は、美沙江が友子達に縄尻を取られて引き光てられて来ると、床の間の柱を指さして縛りつけるように命じた。
美沙江はもう生きる屍になったような表情で、友子達に背を押されて床の間へ上り、柱を背にして立つ。
すぐ前の円型の単には酒や肴の支度がすでに出来ていて順子は田代の持つ盃に酒を注ぎながらやっと念願が叶えられたことの悦びを噛みしめているようであった。
銀子と朱美が順子に頼まれたらしい八ミリの映写機を持って入って来る。
続いて、春太郎と夏次郎が、これも、順子に頼まれたらしい茶色の紙包みを持って入って来ると、
「大塚先生、どうもこのたぴは、おめでとうごぎいます」
などと千原美沙江を生け捕りにしたことの祝いをのべ、皆んなを笑わせるのだった。
「色々皆さんにもお骨折りを願ったけど、これでどうにか最初の予定通りの運びとなったわ。さ、ここへ来て一杯やって頂戴」
順子は顔面一杯に喜色を浮かべて、皆んなを招き、いそいそと酒の酌をして廻る。
床の間の柱にがっちりと立ち縛りにつながれた美沙江は、象牙色に冷たく澄んだ美しい横顔を見せて小さくすすり上げている。
銀子の情けでわずかに腰の廻りだけを赤いネッカチーフで覆われただけの美沙江を酒の肴にして順子達は賑やかに唄などうたい出した。
「社長。いいですわね。これから一週間ばかり千原家のお嬢さんは、この大塚順子がこの部屋で預らせて頂きますからね」
「いいですとも。長い間、煮え湯を飲まされた千原流家元の娘を一人でたっぷりいじめにかかるというわけですな」
「ま、そういうこと。以前お話したと思いますが、千原流家元の娘の身体に湖月流生花を植えつける。ね、愉快な復讐でしょう、社長。あのお嬢様を美しい人間花瓶に仕上げることが出来れば、早速、社長のお部屋へ飾らせて頂きますわ」
順子はそういって笑いこけた。
順子の言葉の意味が初心な美沙江にわかる筈はないが、濡れ光った美沙江の黒い瞳の中に得体の知れぬ恐怖の色がちらと掠めるのを順子は見つけて、残忍な微笑を口元に浮かべるのだ。
「いいですわね、お嬢さん。今日からお嬢さんはもう大家の御令嬢という考えはきっぱり捨てて、御自分はやくざ一家の性の奴隷になったということを認識しなければ駄目ですわよ。折原夫人も目下激しい修業を積んでおいでですからね」
順子がそういうと、銀子や朱美が口を開けて笑い出した。
「私も今日からお嬢様の調教を受け持つことになるのですから、一応、予備知識が必要なのよ」
大塚順子は田代に注がれた酒を口の中へ流しこむとメモを取り出した。
「千原流生花家元、千原元康の一人娘、千原美沙江。ええと、年齢は満十九歳、そうでしたわね」
順子は楽しそうに田代にメモを見せながら、
「趣味は、琴、それに茶の心得もある。フフフ、でも、こんなものはここじゃ通用しないのよ、お嬢様」
順子は友子と直江の方を見ていった。
「お嬢様のお腰につけていらっしゃるものを剥いで頂戴」
友子と直江が近づくと美沙江は背すじに冷たいものが走って、石のように身体を硬直させた。
「——ち、近寄らないでっ」
美沙江は美しい顔をひきつらせて憎い二人の女中を面罵するのだ。
「——貫女達は今まで私の身の廻りの世話をしていた千原家の女中なのですっ。いくら、いくら、湖月流に尻尾を振ることになったとはいえ——」
美沙江は熱い口惜し涙を頬に流しながら追って来た二人の女中を呪いつづける。
「何だよ。その口のきき方は」
銀子が立ち上って、興奮に肩を慄わせる美沙江の横面をいきなり平手打ちした。
あっと悲鳴を上げて美沙江は首を曲げ、キリキリと口惜しげに歯を噛みしめる。
「私しゃね、ブルジョア娘のそういう生意気な口のきき万が一番癪にさわるんだよ。第一それは私のネッカチーフなんだよ。腰を包んでもらった情けにお礼一つもいわず、全く頭にきちゃうわ」
銀子は腰をかがめて素早く布の結び目を解き、さっと引ったくった。
毛穴から血を噴くばかりの真っ赤になった顔をうっとそらせて、美沙江は火のような羞恥に全身を硬直させる。
「もう情けなんかかけてやるものか。これからは、何時もそうして素っ裸のままにしておいてやるからね」
銀子と朱美は小気味よさそうに笑った。
肩から胸のあたりまで垂れた長い黒髪を揺さぶって、美沙江は慄える頬に大粒の涙を流しつつ世にも哀しげに細い眉根を寄せている。
身を覆うものを一切剥がれた十九歳の令嬢は、貪るような男女の視線を辛く感じて、もじもじ身を動かすのだが、何という、美しい肌の光沢だろう。
麻縄数本に緊め上げられた乳房は、いまだ完全に成熟していない少女じみた稚さを持っていたが、スベスベした雪白の腹部や腰部の曲線は優雅でしとやかで、悩ましいばかりの肉の緊まりを見せていた。
いじらしいばかりに可愛い臍——そして酒を飲む野卑な男女の眼は移行して、どこか幼い感じのする淡くて薄いふくらみのあたりを凝視する。
美沙江は、恐怖と羞恥の旋律に身を慄わせながら身をよじって、見物人達の視線からそらすべくはかない努力をくり返すのだ。
「今更、羞ずかしがってもおそいわよ。ちゃんと正面をお向き」
銀子は両肢をねじ合わせている美沙江の腰を叩いて、朱美の持って来た別の麻縄を手にすると腰をかがめた。
美沙江の両肢を柱に縛りつけるべく朱美と二人で仕事にかかる。
「——誰か、ああ誰か来てっ」
美沙江は上ずった声で悲鳴を上げる。。
「笑わせるんじゃないよ」
銀子と朱美は、必死に悶えさせる美沙江の両肢を取り押さえ、柱に押しつけて縄をかけ始めた。
生まれて初めて味わう魂も砕け散るばかりの羞恥と屈辱に、美沙江はがっくり首を落とし白い肩先をわなわな慄わせながら激しい啼泣を口から発した。
両肢をぴったり合わさせて柱に縛りつけた銀子と朱美は、もう逃げも隠れも出来ず、その美しい全身を正面に向け了立たされた美沙江を満足げに眺めていった。
「男を知らない女の体って、どこか神聖な感じのするものなのね」
ミルク色の霧に包まれたような幽玄的な感じさえする筆沙江の美麗な肌を改めてしげしげ見つめる田代は、その淡いはのかな翳りを恍惚とした気分で眺めて、やがてそれが鬼源達の調教の前にどのように変貌することになるのかと想像する。さすがの田代もこの汚れを知らぬ美しい十九歳の令嬢が、今後、性の奴隷としての辛酸をなめることになるのかと思うとふと胸が痛むのだ。
「社長、どうなさったの。妙に考えこんだりして——」
大塚順子が田代の表情を見て、おかしそうにいった。
「いや、こういう生花しか知らぬ深窓のお姫様を調教するというのは大変だろうと今から心配になってきたんだよ」
「社長がそんなこと心配するなんておかしいわ。ここには、調教の名人がたくさんいるじゃありませんか」
順子は鼻で笑って、次にシクシクとすすり上げる美沙江の傍へ近寄って、
「もう諦めがついたでしょうね、お嬢さん。さっき、ここでは生花とかお茶とか、そんなものは通用しないといったしょう。じゃ何が通用するのか。それは、たった一つの女の武器、つまりこれよ」
順子は美沙江の肩を片手で抱くようにし、片手で軽く叩くのだ。
一寸、手が触れただけだったが、美沙江はその瞬間、ブルブルと麻縄で固定された全身を慄わせて、
「な、何をするのですっ」
と、激しい声を上げ、怒りと屈辱にわなわな頬を慄わせるのだ。
「今からこんな具合じゃあ、先が思いやられるわね」
銀子と朱美は、顔を見合わせてクスクス笑い合う。
「折原夫人だって遠山夫人だって、いえ、その他ここに捕われている美しいお嬢様方も皆んなそれだけを頼りにして生きているようなものなのよ。そのうち、それが生甲斐となってくる。お嬢様も先輩に負けないように、みっちりその修業を積んで頂きますからね」
つまり、今日からは、ほかのことは一切考えなくてもいいのよ、お嬢様、と順子は笑いながら、再び、軽く掌で叩くのだった。
息の根も止まるような屈辱感に美沙江は全身を上気させ、血の出る程、かたく唇を噛みしめていた。
「大家の御令嬢であるという気位をまずはっきり捨てさせるために、今日から一種の特別訓練をするわ。調教以外の時は、この地下穴で暮して頂くのよ」
順子は、春太郎と夏次郎に命じて美沙江の立ち縛りにされている床の間のすぐ前の畳を上へあげさせた。そして、その下の古びたハメ板を外させると、ぽっかり穴があいていて、ちょうど人間一人坐れるくらいの広さに荒むしろが一枚敷いてある。
「反抗を示す女奴隷を入れるために作った、いわぱ懲罰室みたいなものさ」
と田代が説明し、すぐ順子に向かって、
「しかし、ここへ家元令嬢を早速ぶちこむというのは、何だかかわいそうな気がするんだが」
と、顔色をうかがうようにしていうのだ。
「あら、そんな事ありませんわ。さっきこのお嬢さんは浴室へ立て篭ったりしてはっきり反抗を示したじゃありませんか。二度とああいう気を起こさせないように最初から制裁を加える必要があると思うのです。女奴隷に甘やかしは禁物だと社長もおっしゃったじゃありませんか」
順子はわざと取りすました顔つきになってそういい、美沙江に対する並々ならぬ敵愾心を見せるのだった。
「それから、こういうものも用意してありますのよ」
順子は春太郎が持って来た茶色の紙包みの中から薄い透き通ったナイロン製のバタフライを取り出した。
順子が四代に拡げて示すその三角型のバタフライには、末端に同じくナイロンで出来た小袋がぶら下がっている。
「鬼源さんが考案したおしめ代用のバタフライで、放尿すると、この小袋が風船玉のように大きくふくらむことになるの。この穴に入る時、お嬢様にこの特殊バタフライをはかせておくわけよ。そうしておけば、いちいちトイレへ連れて行く手間がはぶけるじゃない」
それを聞くと銀子と朱美は吹き出した。
「千原家の御令嬢が、お小水でふくれた袋をぶらぶらさせてこの穴の中で動き廻るのかと思うと笑いが止まらないわ」
淫虐な悪魔の考えとしかいいようのない順子の恐ろしい着想を聞かされた美沙子は、もう生きた心地もなく、蒼ざめた顔を横に伏せているだけだ。
「毎日のおしめの取り替えは友子さんに直江さん、あんた達にお願いするわ。今までこのお嬢様に仕えて来たんだから、それ位のサービスは出来るわね」
順子にいわれた美沙江のかっての二人の女中は二つ返事で承諾した。
「それ位の事はこれまで御恩になったお返しの意味で喜んでさせてもらいますわ」
ね、早速、これ、お嬢様にはかせてみましょうよ、と順子の手からバタフライをとった春太郎はその珍妙な袋を面白そうに見つめていった。
「その前に、もう少しお嬢様に、この屋敷内の仕事を知って頂こうと思うのよ」
順子がそういうと、銀子と朱美は心得たとばかり、柱に縛りつけられている美沙江のちょうど正面にあたる襖に白い映写幕を張り始め、八ミリ映画を上映するべく、映写機を配置し始めた。
「さ、みんな、こっちへ集まって」
順子に声をかけられて、田代も二人のシスターボーイも友子達も、柱を背にして緊縛されている美沙江の足元へ尻をついたり、かがみこんだりして眼を映写幕に向けるのだ。
「やがてお嬢様もこういう映画に出演することになるのだから、しっかり勉強しなくては駄目よ」
順子は床の間へ酒や肴を運んで来て、わなわな慄えつづける美沙江の臍のあたりを指ではじくのだった。
「静子夫人と捨太郎のがいいわ」
オーケーと銀子は持参して来たフィルムの中から一本を選び出し、機械にかけ始めたのである。
第七十八章 人妻奴隷
地獄での邂逅
全身がズタズタに引き裂かれるような激烈な苦痛と快楽との間で気を失ってしまった珠江夫人は、あれから何が起こったか、まるで覚えていなかった。
川田や吉沢達に盛んに揶揄されながら、たまらない痒痛に悶え苦しむ身を一寸だめし五分だめし、嬲り抜かれているうちに失神してしまったのだと珠江夫人は朦朧とした意識の中で想い出すのである。
ふと気がつくと前面には厳重な鉄格子が冷たく光っている。
気を失っているうち、男達の手でここへ運びこまれたのだ。珠江夫人は、思わず上体を起こし、おどおどと怯える気弱な瞳で周囲を見姻した。
「気がついたようだな、奥さん」
鉄格子の聞から声がとびこんできた.。ニヤニヤしながらこちらをのぞきこんでいるのは川田と吉沢であった。
珠江夫人の冷たく輝くような白い裸身を川田と吉沢は、口元に微笑を浮かべて見つめながら、
「さっきは、少し薬がききすぎたようだな。物凄く暴れるんで肝心のものを剃り落とすことがとうとう出来なかったよ」
あの屈辱を想い出した珠江夫人の、美しい顔が朱く染まり出す。
以前の、寄ればはじき返すような気性の激しさはもうすっかり喪失して、身も世もあらず、小さくすすり泣く珠江夫人を見る川田は気を良くしたのか、さも楽しげな表情になるのだ。
「これからも、聞きわけのねえ時は、何時だってあの薬を塗りつけられることになるんだ。よく覚えておきな」
そういうと、後ろを振り返って顎をしゃくった。
後手にきびしく繰り上げられた静子夫人が鬼源と千代に縄尻をとられて、その優美な裸身を押し立てられて来る。
「懐かしい人に面会させてやるぜ。ちょっと、檻の中を見てみな」
川田にそういわれて、ぼんやりと牛舎の中に眼を向けた静子夫人は、ハッとし、何かいおうとしたが、みじめな自分の姿を恥じ入ったように、哀しげに顔をそむけてし計うのだった。
牢舎の中の珠江夫人も、それが静子夫人であることに気づくと、驚愕し、これもすぐには声が出ない。
「どうしたい。昔から親しく交際していた間柄なんだろう。何もそう遠慮し合うことはないじゃないか」
川田と鬼源は顔を見合わせて、さも面白そうに笑い合った。
「久しぶりのご対面でつもる詰もあることだろうし、しばらくは、この中に一緒に入れておいてやろうよ」
千代が川田にいった。
「そうだな」
と川田は静子夫人の縄を解くと鉄格子の南京錠を外した。
「さ、お入り」
千代は静子夫人の柔軟な肩に手をかけて、ためらうのを構わず牢舎の中へ押しこんだのである。
一糸まとわぬ美しい二人の人妻は、狭い牢舎の中で身を縮め合い、頭を深く垂れてすすり泣く。
「一時間の休息をあげるわ。昔話がすめば、レスビアンプレイについての細かい打ち合わせもしておくことね」
千代はクスクス笑いながら鉄格子の中の二人の美女に語りかける。
「女盛りの奥様二人のために、特製のすばらしい道具を用意してやるからな。楽しみにしていな」
と鬼源も浴びせかけ、川田や千代達と一緒に地下の階段を、大声で笑い合いながら上って行くのだった。
「——折原の奥様、あなたまで、あなたまでがこんな目に合うなんて」
静子夫人は、そっと頬を上げると、涙に濡れた気弱な視線を珠江夫人に向けて、唇を震わせるのだ。
珠江夫人は両手で顔を覆い、かすかに肩を慄わせていた。
「どうしてこんなひどい仕打ちを受けねばならないのか、私、わかりません。こんな、こんな畜生にも劣るようなむごい目に……ああ、どうして」
珠江夫人は口惜しげに歯を噛み鳴らし、耐えられなくなったように、わっと号泣するのだった。
「遠山家の奥様、いったい、どうしてこんな恐ろしいところへ——」
「——どう説明していいか静子もわからないの。ただ、わかっているのは、もう静子は陽の当たる場所へは出られない女に転落してしまったということです」
「私だって、もう主人の前に出られる身体じゃないのよ、静子奥様」
珠江夫人は、美しい象牙色の乳房を両手で隠しながら、静子夫人の方へ哀しげな瞳を向けた。
「それよりも、私、お嬢様のことが気がかりで——ああ気が狂いそうだわ」
珠江夫人がうめくようにいうと、静子夫人は頬をわなわな慄わせて、
「許して、許して、折原の奥様。私が、この私がここの連中におどかされて、さきはどお嬢様を……」
静子夫人は、激しくすすり上げながら、千代や森田に脅迫されて浴室に立て籠った千原美沙江を説得し、悪魔の手に渡したことを告白するのだ。
「——静子は、もう身も心も腐り切った女になってしまったのです」
と、ハラハラ涙を流していた静子夫人は、ふと顔を上げると次にしいんと凍りついたような冷たい表情になって、眼前の鉄格子をじっと見つめるのだ。
「——でも、もういくらあがいてみても駄目なのです。私達はこの地獄から逃れる方法はないのですわ。ああするより仕方がなかったのです」
一片の布も許されぬ牢舎の中の美しい二人の人妻は、自分達の暗い運命を嘆き悲しみながら、それでも地獄の中でめぐり逢えたことにわずかな安らぎを労えるのだ。
もう何か月も世間から隔離されている静子夫人は、折原珠江の口から夫の遠山隆義の病院での日常など聞かされ、懐かしさとすまなさに胸がしめつけられ、白い頬に大粒の涙を流すのである。
静子夫人と珠江夫人は、同じ千原流生花の後援者という立場から月に何度かは顔を合わせ、親しい間柄でもあったのである。
地下の階段を何人かが降りて来る足音に、二人の人妻は、ハッと現美に戻り、口をつぐみ、全身を硬化する。
千代が鬼源、川田、吉沢の三人を家臣のように引きつれ、鉄格子の前まで来ると金歯を見せてニーと笑った。
「如何が、奥様方。プレイの細かい相談はまとまりまして」
静子夫人と珠江夫人は、世にも悲しげな顔をチラと千代の方に向け、すぐに、眼を伏せてしまった。
脂の乗り切った二人の美しい人妻に肉の演技を強要し、身も心もそれに溺れさせるというのが千代の着想であった。
「お前さん達のために特別製の道具も作ってやったぜ」
鬼源は布にくるんだものを鉄格子の聞からのぞかせて、
「アフリカでとれる薬草の芯をキリキリ巻きつけ特殊な油で何日も煮こんで作り上げたという珍品なんだ。アフリカ土人の女達が愛用しているという代物で、すごく高価なものなんだぜ」
鬼源は黄色い歯を見せて楽しそうにそういってから、
「この次、開くことになっているショーでは、お前さん方のレズプレイを一つの呼びものにしたいと社長もおっしゃってるんだ。何しろ奥様方は、熟れ切った女盛り、十八、十九の小娘が演じるような生っちょろいもんじゃ客が承知しねえからな。とことんまでしゃぶり合うような、すさまじいのをやってもらわねえと困るぜ」
それじゃ、早速、稽古にとりかかろうじゃないか、と鬼源は、鉄の扉の南京錠を、外しにかかった。
「待、待って、待って下さい」
鬼源と川田が扉を開けて、出て来なと、どなると珠江夫人は悲痛な表情になって尻ごみをするのだ。
「何をうろたえているんだ」
「おっしゃる事がわかりませんわ。何をしろというのです」
珠江夫人は、追って来る恐怖に上気しながら昂った声を出す。
「とぼけるんじゃねえ。こんな道具まで見せられてカマトトぶるのもいい加減にしろ」と、鬼源は激しい声を出し、巻きついている布を剥いで中身を珠江夫人の眼前に突き出した。
「まあ、凄いわねえ」
千代は鬼源の手にあるものを見て吹き出した。
真ん中に竹力の鍔のようなものをはめこんであるそれは、黒光りした巨大なものであった。
「やがて、この奥様方は、ニグロともコンビを組むわけですからね。これ位のもので馴れさせておく必要があるんですよ」
鬼源は千代にいい、早く出て来るんだ、と再び牢舎の中に大声をかける。
静子夫人と珠江夫人は、片手で二つの乳房を押さえ、片手で前を隠し、小さく腰をかがめて牢舎から出て来た。
暗い、もの哀しげな瞳をしばたかせ、おろおろした表情を見せる二人の夫人を、鬼源は楽しそうに見つめながら、
「二人とも両手を後ろへ廻しな」
と冷やかにいって、川田と一緒に麻縄を手にした。
「ぐずぐずするねえ」
と川田と吉沢は、夫人の背後へ廻ると乳房を抱く両手を強引に背後へねじ曲げ、キリキリと縄をかけ始める。
千代は含み笑いしながら、きびしく縛り上げられていく二人の夫人にいった。
「奥様達は、昔から仲がとてもおよろしかったじゃありませんか。ですから、ぴったり息の合ったレズのコンビになれないはずはないと思いますわ」
両夫人の乳房の上下は麻縄で固く緊め上げられ完全な後手縛りにされてしまったのを見ると千代は懐から煙草を取り出して、
「じゃ、お二人共、お疲れだろうけれど、ショーの日も近づいているので、早速、お稽古に入って頂くわ。いいですわね」
その前に山服、如何が、と千代は煙草を二人の夫人の口元へ近づける。
静子夫人も珠江夫人も、憂愁を帯びた美しい表情でぼんやり一点を見つめながら、静かに首を振った。
「あら、お二人とも煙草はお吸いにならなかったっけ。これは失礼」
千代は煙草を引っこめて川田の方へ眼くばせした。
「さ、歩きな」
川田と吉沢は両夫人の縄尻をとって、その乳色の柔らかい背を押した。
「今日から奥様達は、当分の間、このお稽古のため、鬼源さんのお部屋に寝泊りして頂くわ」
千代は、静かに歩き始めた両夫人の優雅な横顔を見ていった。
冷た心石の階段を川田と吉沢に縄尻をとられた両夫人の美しい双臀が、かすかに揺れながら登って行く。
二階の鬼源の部屋は、すでに両夫人を迎え入れるための準備が整っていた。
壁にそって立つ二本の丸木の柱。そして、部屋の中央には、薄い夜具が敷かれ、二つ枕が配置してある。
恐怖のためか、硬化した表情で、綺麗な睫も動かさず、ここまで足を運んで来た二人の夫人であったが、柱の下に置かれた洗面器や夜具の周囲に散らばっているゴム球やガラス器具など、そして、天井から垂れ下がっている鎖を見た途端、その得体の知れない不気味さに珠江夫人は総毛立ったように身をすくませ、この屈辱の経験を持つ静子夫人は、さも悲しげに眼を閉ざすのであった。
「——折原の奥様、今、ここで御自分が人間であるという気持を捨てなければ、この屈辱を耐え抜くことは出来ませんわ。覚悟なさって下さいまし」
静子夫人は、大粒の涙を白い頬に流しながら、珠江夫人の恐怖におののく心を包もうとする。
川田と吉沢は、両夫人の背を押して部屋の中へ押しこむと、千代に命じられて二つの柱に夫人の背をそれぞれ押しつけ、縄でがっちりとつなぎ止めるのだった。
「まず調教に入る前、打ち合わせておく事があるからな」
鬼源は隅から一升瓶を持ち出して来て、コップに並々と注ぐと、立ち縛りにされた二人の夫人の前にあぐらをかいて坐った。
「へへへ、俺も色々な女に芸を仕込んで来たが、御大家の若奥様二人にレスビアンの指導をすることになるとは思わなかったな」
鬼源は、柱につながれた二人の夫人の乳色に輝く美肌と柔らかい盛り上りを見くらべるようにしながら嬉しそうに口元を歪めるのだった。
「静子夫人の方はもうベテランの域に近づいているから、心配はねえと思うんだが、新入りの珠江夫人の方が、まだこっちとしては不安だからな。静子夫人の方が、先輩らしく珠江夫人をうまくリードしてやらなきゃならねえ。わかったな」
鬼源はそういって、先程の道具を手に持った。
「これは、通称クロンボという道具で、日本の女にゃ無理だといわれているもんだ。でか過ぎるだけじゃなく薬草の汁が滲み出てくるとニグロの女でも有頂天になってわけのわからねえ事をわめき散らすそうだからな。だがおめえ達はプロなんだから、こんなので楽しみ合うようにならなきゃ駄目だ」
などといって笑うのだ。
恐ろしさと自分のみじめさに珠江夫人は緊縛された裸身を携るようにして、声をひそめて泣き始めた。
「ね、鬼源さん」
千代が鬼源のコップに一升瓶の酒を注いでやりながらいった。
「折原夫人の方は、まだ、この道のスターというのがどんな事をしてお客の御機嫌をとるものか、それがまだ、はっきりおわかりにならないと思うわ。一度、静子夫人にこの場で実演して頂いたらどうかしら」
成程、と川田がうなずいた。
「少し見本を見せてやった方がいい。ショーのスターは、どんな風にして客をモリモリ悦ばせていくか、そのコツがわからねえと調教だけ受けても何にもならねえからな」
川田は、静子夫人の縄尻を柱から解いて、夜具の方へ引き立てて行く。静子夫人は、夜具の上に乗ると縄尻を鎖につなぎ止められ、珠江夫人の方を向いてすっと立つのだった。
しばらくは静かに瞑目したままの静子夫人だったが、珠江の眼に浅ましい自分の演技を見せるということは、もうこの奈落の底へ落ちてしまった彼女に対しては自分の運命をあきらめさせるために必要な事に思わせる。
そう決心すると、夫人はそっと眼を開き、探みを湛えた静かな表情になって、小さくすすり上げる珠江夫人に対して口を開くのだった。
「折原の奥様、これから静子が、どのように淫らな女になったか、その証拠をお見せ致しますわ。この世界で生きていく道はただ一つ、ここにいる人々のいうとおりになり、なぐさみものにされることを生甲斐とするより道はないのです」
さて、何を演じて頂きましょづかね、と川田達は静子夫人の白々と貯えた美しい容貌と艶やかな肌、柔らかくむっちり緊まった腰部や太隠に眼を注ぎながら、楽しそうにいった。
「簡単なものでいいじゃない。卵の一つや二つ割らせてみればどうなの」
と、千代が川田にいった。
「おい、先輩が見本を示して下さるというのに顔をそむける奴があるか」
珠江夫人が顔を伏せているのに気づいた吉沢は口をとがらせて珠江夫人の耳を引っ張るのだ。泣き濡れた珠江夫人の視線と毒っぼい光をこめた静子夫人の視線とが合致する。
「御覧になって。そして笑って下さいまし。静子はこんな淫らな女になったのですわ」
静子夫人が、か細いハスキーな声でそういった時、鬼源が隅の冷蔵庫の中から卵を二つ三つ皿に載せて戻って来た。
「いいか。周囲にぎっしり客が埋まったつもりになって演じるんだ」
その時、千代は、ドアの隙間から誰かが中をのぞきこんでいるのに気がついて、
「誰なの」
いきなり内からドアを開けると、そこに身をかがめていたのは弁護士の伊沢であった。
「なんだ、伊沢先生じゃないの」
千代は笑い出す。
伊沢は、先程から見え隠れしながら、ずっと静子夫人の後ばかりついて来ていたのだ。
「何時になったら僕と二人きりになれるのかと何だか落ち着かなくてね」
伊沢は照れ臭そうに笑うのだった。
「ごめんなさいね、先生。何しろ静子夫人はうちのドル箱スターでしょう。それにショーの開催日も近づいているので、何かと忙しいのですよ」
千代は片頬を歪めて笑いながら伊沢を中へ招き入れる。
二、三メーールの間隔を置いて対峙している美しい二人の女を見た伊沢はこれからまた何が始まるのかと興味探げな顔つきになるのだった。
「そうそう。伊沢先生は初めてでしたわね。ここにおいでの美しい奥様は、静子夫人のかっての親友で、折原珠江さん、元は、医学博士夫人なのよ」
柱を背に一糸まとわぬ麗身をキリキリ縛りつけられている珠江夫人を千代は指さして伊沢にいった。
静子夫人とは対照的に華奢でしなしなした雪白の肉体
——腰から太腿にかけても、どこかはっそりとして、それが一つの性的魅力となっている珠江夫人の全裸像を伊沢は吸いつけられるように見つめるのだった。
「如何が、こういう柳腰の美人というのもいいものでしょう。先生、この医学博士夫人も今日から静子夫人同様、性の奴隷として、この屋敷内で生活することになったのです。静子夫人同様、御贔屓にお願いしますわ」
と千代は楽しそうにいって、これから女奴隷の演技というものを、静子夫人が珠江夫人に対して教える意味で見本を示すのだと、話すのだった。
「それじゃ、鬼源さん」
と千代は眼で合図する。鬼源はうなずいて、川田と一緒に静子夫人の左右に廻った。
第七十九章 処女嵐
変貌する戦慄
柔軟な肌がうねり舞い、麻縄に緊め上げられた豊満な二つの乳房が揺れ動く——画面に現われた肉感的な美女は静子夫人である。床の間の柱を背にしてきびしく縛りつけられている美沙江は、順子に顎をとられ、泣き濡れた美しい瞳を画面に向けたが、途端に血の気は消えて白い額に汗が珍み出した。
ハッとして苦しげに眼を閉ざし、顔をそらせた美沙江を銀子と朱美は叱咤して、
「あんたのために、わざわざ、こうして映画会を開いてやってるのじゃないか。大きく限を開けてしっかり見るんだよ」
肩まで垂れかかる艶々とした黒髪を銀子はわしづかみにして揺さぶったりするのだ。
美沙江はそうしたズベ公達の剣幕におびえながら、全身を石のように硬くし、再び、おずおずと顔を上げ、その醜悪な映画に泣き濡れた視線を向けるのだった。
緊縛された美しい裸身を、捨太郎の毛むくじゃらの手に後ろから抱きしめられるようにして夜具の上に両肢を投げ出している静子夫人の、眉根を寄せた切なげな表情がクローズアップされる。捨太郎は、おくれ毛をかきわけるようにして、艶やかな夫人のうなじあたりに熱い接吻を注ぎかけ、両手は休む間もなく、縄を上下に喰いこませた両乳房をまさぐっているのだ。
首すじから耳元へと粘りつくような捨太郎の接吻を注ぎかけられていた静子夫人は、耐え切れなくなったように深く上体を捨太郎の胸にもたれさせていき、顔をねじるようにして捨太郎の昏に自分の唇を押しつけていく。
うっとりと眼を閉ざすょうにして、濡れた舌の先端を捨太郎の舌にからませる静子夫人の表情が再びアップに写し出されると、美沙江はブルッと全身を慄わせ、思わず眼をそらせてしまうのだ。
「面白くなるのはこれからじゃないの。駄目。眼をそらしちゃ」
美沙江の足元に腰をおろしてビールを飲みながら映画を見る銀子と朱美は、真っ赤になった顔をはっきり横へそむけてしまった美沙江に腹を立てて再び裁ち上がり、頬を小突いたり乳房を指ではじいたりするのだ。
「今度、眼をそらせたりすると、ここにいたずらするよ」
朱美の手が伸びた途端、美沙江は悲鳴を上げて緊縛された美麗な裸身を狂ったように震わせた。
「嫌なら最後まで、ちゃんと見るんだよ」
臍のあたりを銀子に指ではじかれた美沙江は、涙に掛む綺麗な睫でかこまれた美しい黒眼を、しいんと凍りつかせたようにして瞬きもせず画面に向けたのである。
捨太郎の手で、柔軟な静子夫人の裸身が夜具にそっと仰向けに倒されていき、やがて捨太郎がその足元に頬を寄せるや、美沙江の心臓は高鳴り、ひきつったような表情こなる。
捨太郎のがっしりした両手に夫人の滑らかでむっちりした両腿が抱き取られ、その女の部分は貪り吸われるままになっている。やがて落花微塵とばかり捨太郎の舌先は攻撃せ開始するのである。悶え泣く夫人の表情がアップになる。夫人は、おどろに乱れた黒髪を激しく揺さぶりつつじを半開きにしてのたうっているのだ。
「如何が、お嬢さん。面白いてしよう。あれが遠山夫人なのよ。貴婦人でも、あんな事をすると思えば全く愉快じゃない」
やがて、迫りくる捨太郎に、夫人はためらいを最初のうちは見せて、二度三度顔せよじったが、ついに情痴に煽られ、巻きこまれる。
その一瞬、美沙江は呼吸も止まる程の衝撃を受けて、全身をブルブル痙攣させた。
柔らかく、くすぐるように夫人は唇を男根に摺りつけそっと舌をのぞかせて、美しい顔をくねらせている。
あれは、この世の出来事か——知覚が段々と麻痺し始めた美沙江は、美しい象牙色の頬を真っ赤に染めながら、
「お願いです。もう止めて、映画を、止めて下さい」
と唇をわなわなさせながら哀願するのだ。
「フフフ、お嬢さんには、ちょっと、刺激が強過ぎたようね。でも、大家の奥様だってちょっと修業すればこれ位の映画のスターにはなれるということを知ってもらいたかったのよ」
大塚順子はそういって笑い、そっと立ら上ると美沙江が縛りつけられている柱の後ろへ廻るのだ。
「あっ、な、何をするのっ」美沙江は順子の両手を乳房に感じると、激しく狼狽して緊縛された麗身を揺さぶり始める。
「まあ、柔らかいおっぱいね。まるで溶けてしまいそう」
「やめてっ、やめて下さいっ」
美沙江は肩にまで垂れた黒髪を嵐のように揺さぶった。
「うるさいわね。おとなしく見てなきゃ駄目じゃない」
銀子はたまりかねたように美沙江の頬をピシャリと平手打ちするのだ。
画面は、完全なフランス式を組み始めた二人を色々な角度から写し出している。
美沙江は、じっと息を殺して凝視するズベ公達に同調したよちノに、次第にねっとりと潤みを持ち出した瞳を、まばたきもせず再び画面に向け出している。そんな美沙江の胸の柔らかい隆起を順子の掌がゆっくりと揉みほぐしているのだ。
やがて、画面は足を投げ出して坐った捨太郎の膝の上へ、静子夫人が尻もちをつくように乗っかっている。
くなくなと唇と層を擦り合わせ、舌を吸ったり、吸わせたり、そして、双臀を躍動させながら、捨太郎と夫人は本格的な痴態を演じ合っているのだ。
スベスベした美しい背中の中程に麻縄で縛り上げられている夫人の両手首のあたりを捨太郎は両手で押さえこみ、激しい攻撃を開始している。
その噎せかえるような痴態を強制的に目撃しなければならない美沙江は、つい先程まで見せた反撥は影をひそめ、初めて見る桃源境の不思議さに次第に身心を酔い痴れさせていくようなうっとりとした表情になっていく。
それは、背後から時には柔らふく、時には激しく、いまだ固く凝っている紅色のこつの蕾を揉みほぐすような、順子の手さばきのせいにもよるのだろう。
時折、美沙江はブルッと全身を慄わせ、肩まで垂れる艶々しい黒髪を狂おしく揺さぶりながら、
「もう、もう、堪忍して」
と、哀れで傷々しいような哀願をくり返し、再び、上にあげた顔は、十九の令嬢とは思えぬような妖艶な、そして、凄惨なばかりの表情となり、吸い寄せられるように、ねっとり潤んだ瞳をものすざまじい画面に向けるのだった。
そんな美沙江の姿が頼もしくなったのか、銀子と朱美が左右からにじり寄り、ぴったり閉じ合わせている美麗な太腿のあたりに頬ずりし始める。
「や、やめて下さいっ」
その瞬間、美沙江は狂おしげに下半身を揺り動かして、はかない抵抗を示した。
「いいじゃないのさ。私達はお嬢様を少しでもいい気分にしてあげようと、サービスしてあげるのよ」
「お願い、もうこれ以上、ひどい事はなさらないで」
美沙江は、長い黒髪を慄わせて、シクシクすすり泣くのだ。
「何も泣くことはないじゃない。こっちはお嬢様を悦ばせようと思っているのよ」
美沙江の上半身は如何にも深窓育ちの令嬢といった華奢で色白でほっそりしていたが、下半身の腰部は美しいまるみを帯び、太腿のあたりは充分に成熟して粘着力もあった。
削いだように形のいい膝のあたりから上へ上へと指を這わせてゆき、接吻を注ぎ、それが次第に淡い繊細な柔らかいふくらみのあたりに近づき始めると、美沙江はしきりに腰をもじつかせ出し、戦慄めいた悪寒と甘くうずくような感触にカチカチ歯を噛み鳴らすのだった。
その時、ようやく一巻の映画が一終わり、室内に電気がともされた。
同時に銀子達も手をひいたが、美沙江は額や唇のあたりに、べっとりと脂汗を滲ませている。
続いて、静子夫人の出演する別の一巻を見せようといい出す銀子達を順子は制して、
「今日はこれ位にしておいた方がいいわ。毎日、少しずつ教育していくのよ」
順子は、えびす顔になって酒を呑んでいる田代に向かい、
「これから私、このお嬢様に今後の事について打ち合わせしておきたい事があるんです。元お嬢様お付きの女中、友子さんと直江さん以外の方は、この部屋からちょっと遠慮してほしいのですけど」
田代は上機嫌でうなずき、
「とにかくこのお嬢さんのことは、大塚女史に任せるとしよう」
といって、いい加減酔った足を踏みしめるようにして立ち上がる。
「銀子さん」
順子は、銀子の耳に口を当てて、何か囁いた。
「わかったわ。じゃ、また後からね」
銀子は含み笑いして部屋から出て行った。
「さて」
順子は、元女中の二人を残して皆んなが部屋から出て行くと、口元を歪めて立ち縛りされている美沙江の前に近づく。
「ごめんなさいね。いきなりあんな映画を見せたりして、フフフ、さぞびっくりしたでしょうね」
美沙江は象牙色の美しい横顔を見せ、眠ったように眼を閉じ合わせている。
そのかすかに上気した頬に細い涙がしたたり落ちるのだ。
「でも、やがてはお嬢様も、今の遠山夫人のようにああいう映画にも出演して頂くことになるのよ。その覚悟は今のうち、はっきり定めておいて頂きたいのよ」
ふと、美沙江は、切長の美しい眼を大きく開き敵意をこめた視線を順子に投げかけたが、すぐに眼を閉じて凍りついた表情を横に見せ、小さくすすり上げるのだった。
「千原流生花家元の御令嬢の身でありながら、しかも十九歳という若さで——フフフ、まことにお気の毒とは思うけど、私も復讐のため、命がけでお嬢さんを誘拐したのですからね。まあこれを運命と思ってあきらめて頂くわ」
固く閉じ合わせた美沙江の瞳から涙はとめどなく流れて、その美しい頬を濡らしつづけるのだが、直江も友子もさも楽しげに微笑を浮かべてそれに見入っているのだ。
「鬼源とかいう調教師の手にお嬢さんを波す前に私が何日かここでお嬢さんを教育するのだけれど、助手として友子さんと直江さんを使うことにしたわ。ついこの間までは、この人達、お嬢さんお付きの女中だったでしょう。気心が知れてるだけに、お嬢さんもその方がいいと思うのよ」
順子は肩を動かして笑い出した。
「それじゃ、あんた達、これから私の助手としてお嬢さんの教育をするのだから、しっかり頼むわよ」
あいよ、と友子は気をきかしたつもりか、畳の上に落ちているビニールのバタフライを拾い上げて、
「さ、お嬢さん。これをおはき遊ばせ。お小水の取り替えは毎日、うちと直江が、交代でしたげるわ」
二人の女中は、顔を伏せてシクシクすすり上げる美沙江の左右へ寄り添い、面白そうにそれを当てがおうとする。
「友子さん、直江さんっ。美沙江は貴女達のこと、死ぬまで呪いつづけるわ」
美沙江は美しい黒眼に一杯の涙を浮かべて口惜しげに唇を噛み、二人の女中に射るような視線を向けるのだ。
「ちょっと、待って。やだ、そんなものはかしちゃ駄目よ」
順子はバタフライを美沙江にはかせようとする友子を止めて、
「あんな映画を見て、銀子さん達に体のあちこちくすぐられたりして、お嬢様の体は今、カッカッと燃えているのよ。そんな状態のままで穴倉に押しこめるなんて、かわいそうじゃないの」
順子は、部屋の隅にある小さなベッドを指さして、こっちへ運んで来るよう友子達に命じた。
ベッドの脚には金属製の車がついていて簡単に部屋のあちこちへ移動出来るようになっている。
「お嬢さんに教育をはどこすため、社長に頼んでこしらえておいたものなのよ」 というそのベッドを友子と直江がガラガラと押して美沙江のすぐ前まで運んでくる。
美沙江はそれを眼にした途端、何かぞっとするものが身体の中を走り、思わず眼を伏せ肩をブルブル慄わせるのだった。
ベッドの二隅には不気味な鉄の輸が取りつけてある。それは生贄の足を裂き、人の字型に固定するためのものとはさすがに美沙江も気づかなかっセが、得体の知れぬ恐怖感に美沙江の緊縛された裸身に粟粒が生ずるのだった。
「ねえ、お嬢様、フフフ」
順子は美器な太巌をぴったり合わせて顔をそむけ、スベスベした肩先を慄わせている美沙江の頬に指をかけた。
「ああいう映画を見せられて、このままおとなしく寝られないでしょう。だからさ」
「何を、何をおっしゃりたいの」
美沙江は、顔をよじって、順子を睨むように見た。
「家元のお嬢様だって、女ですもの、十九歳にもなれば何かの刺戟を受けた時、御自分の体を慰めたという経験はおありでしょう」
美沙江の顔が屈辱に歪んだ。
「不潔な事いわんといて、ちゅう顔してはるわ」
友子と直江が顔を見合わせて笑った。
順子も笑いながら続けて、
「でも、両手は固く縛られているので御自分ではどうしよ6うもない。だから、お付きの女史に悩みを揉みはぐさせて——」
「や、やめて下さいっ」
美沙江は耐えられなくなったようにヒステリックな声を上げた。
両手が自由になれば耳を覆いたくなるような順子のいまわしい言葉——美沙江は緊縛された裸身を激しく左右によじり床の柱に背をすりつけさせて、
「そんな事だけは嫌っ、嫌ですっ」
と、泣きじゃくりながら長い髪を嵐のように揺さぶるのだった。
憎い友子と直江の手でそのような辱しめを受けるくらいならいっそ舌を噛んで死んだ方が、とさえ思う美沙江だったが、
「これも修業の一つよ。友子さん達は今日からお嬢さんの主人筋にあたるんだからね。二人の前に」腸まで晒けだして、今まで女中としてこき使ったことの詫びを入れて欲しいのょ。わかるでしょう」
そういうと順子は柱につないである美沙江の縄尻を解いた。
「後生です。それだけは堪忍してっ」
美沙江はこれからベッドむ上へ乗せられるのだと知ると、逆上したように身を揺さぶり、その場へ腰を沈めようとする。
「何してんのよ。さ、おいでっ」
友子は美沙江の縄尻を力一杯引っ張り、直江が美沙江の黒髪をわしづかみにした。 三人の女に抱きかかえられるようにしてベッドの上へ乗せられた美沙江は忽ち上半身を台の上へ別の縄を使って固定されてしまう。
「やめて下さいっ、それだけは嫌っ、絶対に、嫌っ」
足を取り押さえようと友子と直江がのしかかってくると美沙江は激しい力で腰を揺さぶり両肢をばたつかせ、最後のあがきを示すのだった。
友子も猛然と襲いかかり、直江と一緒に美沙江の両肢を、やっとかかえこむ。
「離してっ、離して頂戴っ」
美沙江は泣きじゃくりながら、友子達に押さえられた太願のあたりを揺さぶりつづけるのだ。
「うっ」
と、美沙江は突然、順子の口で口を覆われ、必死になって首を振り、逃がれようとしたが、順子は両手で美沙江の首を力一杯抱きしめ、強引に唇を押し当てるのだった。
「好きなのよ、お嬢さん。好きで好きでたまんないのよ」
順子は、美沙江の頬を力一杯両手ではさみこんで溜息をつくようにそういうと、再び、美沙江の美しい紅唇にぴったりロを押しつけるのだ。
恨みは恨みだが、美沙江に対する愛は愛だと順子はほざくように自分の心にいいながら美沙江の耳といわず首すじといわず、遮二無二接吻の雨を降らすのだ。
美沙江を誘拐し、こういう地獄の苦しみにのたうたせることになったのも、つまりは、美沙江に対する異常なレスボスの愛が起因していると順子は美沙江を思わず抱きしめた途端はっきり知覚したのである。
あまりにも激しい順子の愛撫に、美沙江は一瞬とまどい、そして、次第に抵抗の気力が薄れていくのだ。
順子の手は美沙江の縄に緊め上げられた乳房にかかり、甘い優しさで顔半分を寝い隠していた黒髪をかき分けると、熱い口吻をうなじから肩のあたりに注ぎつづけるのだ。
それは女であるだけに女の性感帯を知り尽したとでもいうように巧妙を極めていた。
やがて、美沙江はぼんやりと眼を閉じ合わせ、順子の支配下に置かれたように全身から力が抜けていく。
夢中になって美沙江を弄んでいた順子はふと我に返ったように顔を上げ、美沙江の両肢を押さえつけている友子と直江の方を見て照れ臭そうに笑って見せた。
順子に眼くばせを受けた友子と直江は、左右から、美沙江の品位を帯びた美麗な太腿に手をかける。
「さ、お嬢様。もう聞きわけのない事いっちゃ駄目よ。いい子だから、うんと大きく肢を開いて頂戴」
順子は美沙江の熱い耳たぶを唇でくすぐるようにしながれらいうのだ。
友子と直江が左右に引くと、もうそれは美沙江の意志を離れたようにスルスルと左右に割れていく。
「もう少しよ。さ、今更、羞ずかしがっちゃ駄日。そら、勇気を出して」
友子と直江は、更に力を入れて美沙江の足首を左もの鉄環の所へ持っていこうとするのだ。
美沙江は艶々しいうなじあたりを大きく見せ、細いい眉根を悲しげに寄せて、友子と直江にたぐられるまま更に両肢を裂かれていく。
友子と直江は鉄環に美沙江の足首をかっちりと縄でつなぎ止めた。
堂々とばかり、人の字割にベッドへ固定された美沙江を見下ろして女三人はほっと息をつき、次に息をひそめて談笑するのだった。
「鬼源さんの手にお嬢さんを渡すまで、当分の間、ここでレズの修業をつませるのよ」
順子は友子達にいった。
火のように熱くなった頬を横に見せ、固く眼を閉ざしている美沙江を恍惚とした表情で眺めていた順子は友子と直江と眼くばせして、
「あんた達で少し可愛がってあげなさいよ」
というとハンドバッグの中からマッサージ用の小型のバイブレーターを取り出し、彼女達に手渡すのである。
「お嬢さん、ちょっと、キッスさせてんか」
と、友子は必死に顔を伏せようとする美沙江の赤らんだ顔を両手ではさみこんだ。
「友子さん。か、堪忍して」
相手が友子だとわかると美沙汰は押しつけて来た唇をそらせ、しっとりと潤んだ美しい瞳を哀願的にしばたかせるのだ。
女中達に嬲られるという屈辱感が、潰れ落ちかけた心身にふと反撥を起こさせたのだろう。
「もううちら、あんたの女中と違うんや。立場は逆で、うちらはあんたの御主人様やからね。こんな事してもらうの光栄に思わんかいな」
友子は美沙江の長い黒髪をわしづかみにして、顔を自分の方へ無理やり向けさせると、強引に美沙江の唇に口を押しつけた。
美沙江の悲しげなうめき、それも友子の口に押し殺されて、大きく左右に割って縛りつけられた美沙江の高貴な細工物のような両肢が、くなくなと、はかなく揺れ動くだけであった。
ぼんやり見つめていた直江も甘い陶酔のようなものが全身にこみ上げて来て、美沙江の縄に緊めつけられている、柔らかい形のいい乳房に頼ずりし、赤い蕾に舌を押しつける。
すねてもがくように甘い身悶えを見せる美沙汗であったが、直江が順子から借りたパイプを肌に押しつけだすと、美沙江は、激しい狼狽を示し、顔を揺さぶって友子から口を離した。
「な、何をするのっ、直江さん。嫌っ、嫌よっ」
パイプは可憐な乳頭から鳩尾を通って臍のあたりせ行ったり来たりする。
「これも自分の体を成長させるための修業の一つよ」
順子は美沙江の狂気したようなもがき振りを見て声を立てて笑い、自分もまた悦楽めいた痺れを感じて、美沙江の大きく割った優雅な白磁の太腿から内腿に至るまでに、唇と舌を押しつけるのだ。
美沙江の悲鳴は、やがて、三人の女の手管に巻きこまれて、身も心も溶け始め、優雅で繊紙な、すすり泣きに変わっていく。
淡くて薄い溶けるような繊毛を掌で離でながら幼なさを匂わせる薄い秘裂を指先でそっと開かせていくと、ピンク色に潤んだ柔らかい花肉が露となった。
「やっぱり処女っていいわね。きれいだわ」
ねばっこい口づけを美沙江の内腿に注ぎながら順子は、まだどことなく幼い淡い翳りを凝視していった。
「ちょっと、それを貸してごらん」
順子は直江から武器を受け取ると、繊細で優美な下肢から膝頭のあたり、美麗な太腿に至るまでに甘い攻撃をしかけるのだ。
「ああ、そ、そんな、ねえっ、やめてっ」
美沙江はそう叫びながらも、陶酔の火照りで真っ赤に上気した顔をもどかしげにもへよじったり切なげに左へよじったりして、甘美なすすり泣きの声を洩らし始めた。
友子と直江の手が左右から美沙江の白い二つの丘に触れ、包みこむようにしてゆっくりと揉みはぐしていく。
「いいわね、お嬢さん。今日はお腹の中まですっかり女中さん達の眼に晒け出して、今までこき使ったことのお詫びをいうのよ」
順子は、わざと直接攻撃は避けるようにして、肌に武器を這わせていく。
もはや逃れられな♪と知った美沙江は、自分の運命を辞めたかのように順子の蹂躪に任せてしまうのだ。
「これから友子さんと直江さんが処女のままお嬢さんを天国に遊ばせてくれるわ。そのままおとなしくしているのよ」
順子は甘美な責めを続行しながら、眼を輝かせた。
甘いすすり泣きと共に美沙江は、誘発されるまま悦楽の道を辿り始めている。その中に順子は、美沙江の女を発見した気分になったのだ。
第八十章 阿修羅
哀れな姉妹
調教室の鉄柱に、一片の布も許されぬ京子は雁字搦目に縛りつけられている。
「いよいよ今夜は、美津子と一緒に清次さん達とパーティを開くことになったのよ。下手に抗ったりすると承知しないからね」
肘掛椅子にふんぞり返るようにして、春太郎がいうのだ。
「私と夏次郎は、あんたの調教師として責任があるのだからね。清次さん達の花嫁に京子と美津子を——」
「ね、春太郎さん、聞いて」
今まで、深くうなだれていた京子が、ふと首を上げた。
暗い翳りを帯びた眼に以前の京子には見られなかった哀調の色を湛えて、
「清次さん達が憎いのは私一人だわ。美津子には何の貴任もないことなんです。あなた達の力でお願い、どうか、美津子だけは救ってやって。ね、ね、後生です」
今にも大粒の涙を流しそうな哀切極まりない表情で京子は春太郎に哀願するのだった。
「あんたの妹を思う気持はよくわかるけど、もう手遅れね。清次さん達は今夜、美人姉妹と乱痴気パーティを開くというので前景気をつけて大騒ぎしているわ」
その時、ドアを開いて、夏次郎が美津子を引き立てて来た。
「あっ、美津子っ」
京子は、緊縛された裸身のまま夏次郎に縄尻をとられている美津子を見ると、昂った声を上げた。
水々しい黒髪に花のリボンをつけ、すっかり美しく化粧されている美津子であったが、その冷たく冴えた頬に赤味が浮かび、
「お姉さんっ」
あとは言葉にならず、顔をそむけて号泣するのだ。
「生理もすっかりおさまって、コンディションは上々というところよ」
夏次郎は美津子の縄尻を引きながら、得意そうにいい、
「お化粧も終わって、こちらは花嫁の支度はすっかり整ってるのよ。お姉さんの方も、そろそろ支度にかかったらどうなのよ」
夏次郎は清次達の振舞い酒に酔ったらしく舌をもつらせて春太郎にいうのだ。
京子のすぐ隣に立っている鉄柱へ美津子の背を押しつけ、キリキリ縛りつけると、夏次郎と春太郎は京子に近づくのだ。
「最近の京子ったら、随分と泣き虫になっちまったじゃない。さ、お化粧するから、しゃんと顔をあげて頂戴」
大粒の涙をぼたぼたと落とし始めた京子の顔を上へ上げさせ、ハンカチで涙を拭いた春太郎は、馴れた手つきで京子に化粧を施すのだ。
口紅を引き、耳たぶから首すじまで香水をふりかけた春太郎は、更に腰をかがめ、麻縄にきびしく上下を緊め上げられている形のいい乳房から臍、そして、ぴったり閉じ合わせているむっちり肉のついた太腿、また、その周囲に香水を面白そうにムりかけ、こすりこむのだ。
京子は、憂いに沈むもの斉しげな横顔を見せ、薄く眼を閉ざして、そうした春太郎の行為を甘受している。
煙のように片頬へ垂れかかった京子の黒髪を夏次郎は櫛を使ってときながら、
「まあ、すっかりきれいになったじゃない、京子。これなら清次さん達、お喜びだわ」
春太郎の手で隈なく化粧された京子の顔は妖しいばかりの美しい輝きを湛えている。
「美津子、姉さんを恨まないでっ」
京子は突然、わなわなと頬を慄わせてそういうと、肩を落とし、激しく嗚咽し始めたのだった。
「ちょいと、せっかくの化粧が台なしになるじゃない。もう泣くのはおよし」
春太郎はヒステリックな声を上げ、京子の肩を両手でつかんで揺さぶった。
「お姉さん、もう泣かないで。美津子は、もう覚悟しています」
そういう美津子もこらえきれず、髪につけたリボンをふるわせて慟哭するのである。
「このまま、殿方の前へ連れて行くのは、何だか不様だわね。だから、こういうものを用意しておいたわ」
春太郎はテーブルの下から長い布を二本とり出した。
「京子は水色の褌、美津子はピンク色の褌、美人姉妹がこう色っぼい褌姿で、寝室へ入りゃあ男達はきっと大はしゃぎするわよ」
さ、私達が締めてあげるわ、と二人のシスターボーイは手に手に布を持って哀れな姉妹の傍へ再び近づいて行く。
京子も美津子も涙に潤んだ瞳を気弱にしばたき、やがてその眼をゆっくり閉じ合わせていく。
「さ、京子。もう少し肢を開かなきゃ、うまく締められないじゃないの」
「美津子もよ。そう何時までも羞ずかしがってちゃ駄目。このままにされておくより、ずっといいじゃないの」
春太郎と夏次郎は、大笑いしながら、姉妹に褌を締めつけようとするのだ。
やがて京子も美津子もいさぎよく肢を割って布をくぐらせる。
春太郎も夏次郎も渾身の力を振り絞るようにしてキリキリ布をねじ上げ、京子と美津子にそれぞれの褌を締めさせて、ほっと息をついた。
「フフフ、二人とも褌がよく似合うわ。でも奇妙な花妹ね」
二人のシスターボーイは顔を見合わせて吹き出した。
水色の褌とピンク色の褌をかたく腰に締めつけた京子と美津子は、頬を熱く上気させながら唇をかたく噛みしめている。
その時、ドアが開いて、大酔した清次と五郎、それに三郎の三人が、なだれこむように入って来た。
「そろそろパーティを開こうと思うんだ」
そして、鉄柱を背にして立ち縛りにされている京子と美津子の姿を眼にした清次は大声をあげて笑いこける。
「おい、皆んな、見ろ。今夜の花嫁は褌スタイルだぜ」
五郎も三郎も手を叩いて笑いながら、
「京子姐さん。水色の褌がよく似合うぜ。締め心地はどうかね」
男達は鉄柱を背に縛りつけられている二人の美女へ、貪るような視線を注ぎながら、近寄って行く。
「美津子のピンク褌もなかなか、いかすじゃねえか」
三人の男達はしばらく腰をかがめて京子と美津子の腰にぴったり喰いこむばかりの六尺色褌を面白そうに眺めてから、
「じゃ、行こうか」
と、二人の縄尻を鉄柱から解き始める。
「もうパーティを始めるのですか」
春太郎が聞くと、俺達のコンディションも、今がちょうどいい頃だからな、と清次は笑い、五郎と三郎に縄尻を上られている京子と美津子の頬を指でつついて、
「今夜は姉妹仲よくさめざめと明け方まで泣かせてやるぜ。腰を抜かさねえよう、気をつけることだな」
さ、歩きな、と五郎と三郎に背中を押されて、京子と美津子はよろよろと緊縛された裸身を泳がせていく。
廊下へ出ると、京子と美津子はぴったり肩を寄せ合うようにしながら、しいんと凍りついた表情のまま、ゆっくりと歩き始めるのだった。
廊下の向こうから森田組のチンピラである竹田と堀川が顔を出し、ニヤリと顔をくずして、
「兄貴、これからお楽しみってわけですか」
と近づいてくる。
「何ならお前達も仲間に入んなよ。数が多いほど面白いや」
清次は片頬を歪めて笑った。
「それじゃ、お言築に甘えさせて預きましょうか。俺達は、その美津子に煮え湯を飲まされた経験がありましてね。何とかして一度、思いを遂げたいものだと、機会を狙ってたんですが1」
と、チンピラ二人は美津子をものにしようと果たせなかった時の事を語り出す。
「それじゃ、いい機会だ。俺達について来なよ。お裾分けしてやろうじゃねえか」
如何にも愚連隊の兄貴分らしい言い方をした清次は、顎をしゃくるようにして先に立って歩き出すのだった。
清次の部屋は酒やビールや食べ散らかした食物の皿などで乱雑を極めていたが、竹田と堀川はそれらを足で押しやるようにして隅へ片づけ、押入れからいくつかの夜具を引っ張り出した。
五郎と三郎に縄尻を取られて、部屋の隅に立つ京子と美津子の世にも哀しげな表情を、清次は心地よげに眺めながら、
「男は五人だ。少し骨は折れるだろうが、姉妹でうまくさばくことだな」
三つばかりの夜具が乱雑に敷かれると、
「それじゃ、姉妹仲よくお寝んねして頂こうか」
と清次は、硬化した表情になる京子を見てニヤリと笑った。
「二年前、お前に受けた恨みを利子をつけて返してやるつもりだよ。五人がかりで骨身にこたえる程、可愛がってやるからな」
さあ、二人とも褌をとってもらいましょうか、と五郎と三郎が身をかがめる。
この野卑な男五人にこれから死ぬより辛い辱しめを受けるのだ、と思うと京子は血管から血が噴き出すばかりの□惜しさが、こみ上がって来たのだ。
自分だけならともかく、何の罪もない妹まで巻き添えにする。この卑劣な悪魔達——恨みとも呪いともつかぬ火のような憎悪感が喉元に熱っぼくこみ上がり、死んだようになっていた京子の神経が急に昂り始めたのである。楽しそうに口笛を吹きながら、褌の結び目を解こうと腰に手を廻して来た五郎に、京子は思わずどんと体当たりを喰わしてしまった。
あっ、と五郎は横転する。
続いて京子は、美津子の褌の結び目を解こうとしていた三郎を足で蹴り上げた。
悲鳴を上げて三郎がつんのめると、京子は美浄子を背にかばって、鋭い視線を清次に向けつつ、ジワジワ後退していく。
「くそ、手前、まだ俺に刃向かう気なのか」
清次は眼をつり上げてポケットから飛び出しナイフを出した。
これから、夜具の上へ姉妹揃えて大の字に縛りつけ、ゆっくり料理にかかるつもりであった清次は、急に冷水を頭からぶっかけられたような衝撃を受け、狼狽したのである。
竹田も堀川も、あわてて京子に対し身構えるのだったが、褌一本の哀れな姿で、しかも後手に縛り上げられたままの京子を見ると、何もあわてることはないと笑い出す。
「今更、じたばたしたって、仕様がねえじゃねえか。ヒステリーを起こすのはよしなよ」
ニヤニヤして近づいて来る二人のチンピラに、京子はキッとした視線を向ける。もう破れかぶれといったような血走った気分で、
「卑、卑劣にも程があるわっ。妹にまでいったい何の恨みがあるというのっ」
はじき出すようにそういった京子は、次に清次の方へ鋭くて冷やかな視線を向ける。
「あなたも男なら、以前、私に受けた恨みをどうして男らしく戦って返そうとしないの。自由を奪った女を嬲りものにするしか、あなたには能がないってわけなの」
興奮して、今にも泣き如しそうになるのを京子は心死になってこらえながら、そういうのであった。
「何を吐かしよがる。俺達の前で、あれだけ恥を晒しながら、よくもそんな口がきけたもんだ」
清次はナイフを構えながら、じわじわ京子に近づきつつ毒づくのだ。
「そうよ。私は死ぬより辛い恥をあなた達の前で晒したわ。私は、そして、二年前の詫びも入れたはずよ。そ、それなのに、どうして美津子まで——」
京子は、ついに大粒の涙を流しながら、声をつまらせるのだ。
「お姉さん、お姉さん」と、美津子は京子の後ろで、おろおろするばかりである。
「美津子、逃げるのよ。さ、早く」
京子は、気も顛倒している美津子をせき立てるようにして、開いているドアから廊下へ出た。
「くそ、そうは問屋が下ろさねえぞ」
京子に蹴り上げられた三郎も五郎も起き上り京子と美津子を追って廊下へ出た。
後手に縛られたままの京子と美津子は必死になって廊下を走り、縁先から庭へ飛び降りた。
「ねえ、お姉さん。捕まったら、いよいよ今度は私達、最後だわよ」
美津子は恐怖に顔をひきつらせて京子にいうのだ。
「逃げても逃げなくても、もう私達、最後なのよ。いい、美津子。塀の外へ向かって大声で助けを呼ぶのよ」
京子は、気がくじけそうになる美津子を励まして先へ走らせると、追って来た清次達の方に向かって体を向け、立ち止まった。、幾つかの懐中電灯の光波に京子の緊縛された白い裸身が、くっきりと浮かび上った。
「畜生。逃亡を計った奴隷は、どんな折檻を受けなきゃならねえか、お前はよく知ってる筈だったな」
竹田は棍棒を横に持ってジワジワと京子に迫るのだ。
「待ちな」
と清次が竹田を押しとどめる。
「この阿女、そんな姿のまま追手を喰い止める気でいやがる。よし、二年前の恨みを空手で返してやるぜ」
清次は、下駄を脱ぎ捨てて、空手の構えを見せた。
五郎も三郎も、奇妙なうなり声を上げながら手を中段に上げ、京子の背後の方に廻る。
自由を奪われた裸の京子に対し、清次達は本気で打ってかかる気でいるのだ。
京子は、必死な眼を三人の男に配りながら身体をゆっくり回転させていく。
「両手が使えねえといっても、この女の足蹴りは油断がならねえぞ。気をつけろ」
「なーに、あれだけの調教を受けりゃ、空手の技なんて、とっくの昔、忘れていますよ。心配することはねえと思いますがね」
竹田はそういって笑ったが、誰か、助けて下さいっ、という遠くで叫ぶ美津子の声を聞くと舌打ちし、
「くそ、美津子の奴」
と、あわてて声の方へ走り出す。
すると、京子は、草を蹴って走り、竹田の走る足を、足で払ったのだ。
もんどり打って転倒する竹出を見て五郎と三郎は、くそっ、と左右から京子に飛びかかった。
「あっ」
京子の右足は大きくはね上って五郎の脇腹を蹴り上げた。
続いて京子の左足は、三郎の急所を蹴りつけそのまま、両手の自由を奪われている京子は身体の中心を失って芝生の上へ転がったが、すぐに立ち上る。
しかし、五郎も三郎も、身体を折り曲げたように芝生に僻伏したまま苦しげに呻きつづけるだけであった。
清次は慄然とした。
もう心身とも爛れ切り、反撥の気力などとうに失せたと思っていた京子が死物狂いになって飛鳥のような空手の技を今、見せたのである。
「たしか、京子に仕返しする気で、空手の修業をしたといったわね。その結果がこれなの、清次さん」
京子は大きく息づきながら、妖しいばかりに美しく光る瞳で清次の方を見るのだ。
「今夜は五郎達は酔い過ぎているんだ。俺はそうはいかねえぞ」
清次は、普通ではかなわぬと見たのか、再びナイフを取り出した。
「ね、清次さん、聞いて。弱い女をいじめていたって男を売ることにはならないわ。田代のような悪人とは早く手を切って、ここにいる遠山家の奥様達を救って上げて頂戴。そうすれば私、そのナイフで殺されたって、かまわないのよ。ね、清次さん」
「うるせえ。手前に説教される程、俺は耄碌しちゃいねえぞ」
清次は、カッとなってナイフをふりかざして京子に突進した。
「これほどいってるのが、わからないのっ」
京子は清次の体当たりをさける。
やはり清次も酔って身の動きは鈍かった。
更に突きまくって来るのを京子はコマのように廻して避けながら、急に身を沈めて、清次の脇腹に力一杯、肩先をぶつけたのである。
うっと苦しげに身を曲げた清次の腰を、京子の片肢は、したたか蹴り上げる。
地面に転倒した清次のナイフを持つ手を京子は踏みつけ、
「ね、清次さん。私のいう事を聞いて」
「くそ、誰が手許のいう事なぞ聞くものか」
清次は、京子に打ちのめされた口惜しさでポタポタ涙を流しながら、駄々っ子のように足をばたつかせるのだった。
新しい感覚
鋭い心地よさとでも表現するものなのだろうか。伊沢は生まれて初めて味わった感覚の中で、気が遠くなる程の痺れを感じるのだ。
静子夫人も、伊沢が突然、挑んで来た不自然な行為に、
「そ、そんなの、嫌っ。ねえ、嫌ですわ」
と、最初のうちは甲高い声で全身をくねらせたりしたが、やがて、熱い悦びの戦慄に双臀をふるわせ、その異様な陶酔境に自分を没入させていくのだった。
充分、夫人には練習をつませてある、と鬼源から聞いていたが、それとは別の場所でそんな行為が演じられるなど、伊沢は信じられない思いになる。
「は、羞ずかしいわ。ああ、死ぬ程、羞ずかしいのよ」
静子夫人は、上ずった涕泣を洩らしながら全身をのたうたせた。
これも一つの快楽の源泉なのか、と伊沢もその甘美な桃源境に溶けるように浸りつづける。そして、背骨まで貰くような痺れについに自分を失ってしまった。
しばらくそのままぐったりなっていた伊沢は、やがて、ゆっくりと身を起こし、その跡に好奇の眼を向ける。
静子夫人は、象牙色の美しい頬におくれ毛を垂らして、切なげに息をはずませ、うっとり眼を閉ざしたまま伊沢の貪るような視線を受けているのだった。それはいじらしいばかりに可憐な感じさえするのだった。
「よく御覧になって。静子って、こんな変った事の出来る女になったのよ」
夫人は薄く眼を閉ざしながら、小さな口を開いていった。
「こんな時の感覚ってのは、どうなの、奥さん。随分と燃え上がったようだけど、そんなに素晴らしいのかい」
伊沢がからかうようにいうと、夫人は赤らんだ顔を横へ伏せ、すねるように、存じませんわ、というのである。
最初、春太郎や夏次郎に強引に教えこまれた時の恐怖と、切り裂かれるような痛覚は今でも夫人ははっきり覚えている。しかし、その時の何ともいえぬ羞恥感が、被虐性の異様な快感を呼び覚まし、むしろ、こうして賓められることによって肉の痺れに早く到達出来るような気がするのだ。
伊沢は優しく、
「美貌と教養に恵まれた遠山家の令夫人が、こんな芸当を覚えられるとはね」
と、笑い、高々と吊り上げられている夫人の優美な肢に頬ずりして、
「ね、今まで奥さんは色々な調教を受けたろうけど、自分で一番素晴らしいと感じたのは何だい」
「そんなものはありませんわ。みんな苦痛ですもの」
「嘘ついちゃいけないよ。以前と違って奥さんの肉体は被虐の快感っていうものを感知するようになってきている。ね、参考のため聞いておきたいんだ。今のような方法がいいのかい」
伊沢は夫人の尻たぶをつねったりして告白させようとするのだ。
「いわなきゃ、千代さんに奥さんの悪口をいっていじめさせるよ」
「嫌、嫌、そんなの」
夫人は甘えかかるように首を振って、
「静子、もう、伊沢さんには、完全に負けましたわ」
と艶めかしい色を浮かべた瞳を伊沢に注ぐと、
「きっと誰にもおっしゃらないと約束して下さいます?」
と、羞恥の混ざった表情でひっそりいうのだった。
「ああ、誰にもいわないよ。男ってのはね、好きな女の一番悦ぶ方法をどうしても知りたいものなんだよ。さ、遠慮せずいってごらんよ。奥さん」
「静子がそんな事を悦ぶからといって、それを実行なさったりしちゃ嫌。ね、お約束して下さいますね」
「ああ、約束するとむ」
伊沢は、幾度もうなずくのだ。
静子夫人は、そっと伊沢の耳に口を寄せ、小さく囁くと、
「ね、おわかりになったでしょ」
と、媚を含んだ美しい瞳を、ねっとり開いて、高貴な感じの鼻先で伊沢の耳元をくすぐるようにし、次に花のような唇を伊沢の方へ向け、静かに眼を閉じて接吻を求めるのだった。
「わかったよ、奥さん」
「きっとお願い、誰にもおっしゃっち嫌ですわよ。伊沢さん」
伊沢は夫人の求めに応じて、夫人の唇に唇を合わせた。
甘くて熱い接吻を交し、互いの舌を充分に吸い合って唇を離した伊沢は、
「しかし、その方法を田代社長にいえば悦んで、早速次のショーに採用するのだろうな」
「嫌っ。お約束を破っちゃ嫌ょ。伊沢さん」
「それじゃ口止め料に、そろそろ奥さんの濃厚なフレンチキッスをお願いしましょうか」
伊沢は夫人の吊り上げている肢の縄を解き、後手に縛った縄も解いてやる。
夫人は、しばらく両手を腕の上で交縛させるようにして、その場に身を縮めて休んでいたが、伊沢が夜具の上へ仰臥すると、ゆっくりと身を寄せつけていき、伊沢の胸毛に頬ずりしながら、顔を移行させていく。
「上手にすっきりした思いにさせてくれないと、さっきの事、皆んなに吹聴すろからね」
伊沢は、そういって笑うのだ。
「ひどい方」
夫人は、甘えかかるように伊沢に親度も接吻しながら、その白蝋のように白くて華著な指先を這わせていくのだ。
伊沢は、陶然とした思いになって、夫人の白魚のような指の感触を楽しんでいる。
「僕がさっき接吻したように、奥様にも、お返しが欲しいな」
伊沢は、ふんばるような、不自然な恰好になった。
静子夫人は、こっくりと領いてみせる。
羞恥とか嫌悪、それに不潔感といった感覚は、次第に男の妖気に酔い始めた夫人の脳裡から消え失せていく。
「僕も奥さんの体を堪能する程、観賞させてもらったんだ。奥さんも遠慮せず、じつくりと観賞したまえ」
伊沢は楽しそうにいった。
「こうすればいいの」
夫人は舌をのぞかせて、ゆっくりと近寄せる。
「もっと、情熱的に出来ないのか」
伊沢は、全身、痺れたような思いになっているのだが、歯を喰いしばるような顔つきになって叱咤するのだ。
夫人は、ふと顔を起こし、艶々した黒髪をかきわけるようにし、も一度、顔を斜めにして押しつけていく。
伊沢は我を忘れて陶酔しているのだ。
「だって、こんな事、静子、初めてするんですもの」
情感を深々と湛えた、うっとりした表情で本人は、熱い吐息を吐きかけつつ、気品のある鼻先でくすぐったりする。
「如何が、お気に召しまして」
熱っぼい声音で、そう囁きかけるようにいった夫人は、大胆に舌を見せて熱い接吻を注ぎかけるのだ。
第八十一章 奴隷裁判
逃亡失敗
川田に吉沢、そして鬼源までもが捨太郎を連れて清次達の応援にかけつけて来た。
京子は、清次を踏みつけていた足を離すとさっと、塀の方へ向かって走り出す。
「逃がすなっ」
鬼源が眼を血走らせて京子を追う。
塀の近くでおろおろしている美津子をせきたてた京子は竹薮の方へ逃げこもうとしたが、その前を捨太郎がさえぎった。
美津子を背にかばって、必死な眼を捨太郎に向けながら後退する京子。
褌一本のみじめな姿を後手に縛り上げられた京子と美津子の周囲に、男達は続々とっめかけてくる。
「くそ、京子ッ。手前、幾度、俺達に楯をつく気なんだ。今度という今度は、俺達も頭に来たぞ」
吉沢はポケットから拳銃をとり出して、美しい姉妹の白い裸身に狙いをつけた。
「ひと思いに私を射って——」
と姉の背に姿を隠していた美津子が身を乗り出した。
「美津子、危いっ」
と京子がまた美津子を庇いながら吉沢の方に鋭い視線を向ける。
「射つなら私を射って。吉沢さん」
その時、鬼源の投げた捕縄が京子の首にかかった。
「あっ」
と、京子は悲鳴をあげ、鬼源に縄をたぐられてつんのめるように泳ぎ出す。
「お姉さんっ」
と、必死な声を上げる美津子の首を川田が後ろから羽交い締めにした。
それとばかり男達はわらわらとかけ寄り、一人が青竹で京子の足を払った。
地面に膝をついた京子に捨太郎と吉沢がつかみかかる。
「足を縛れっ、足を縛るんだ」
鬼源が大声で叫んだ。
京子の空手蹴りを恐れて、男達は必死になってばたつかせる京子の足を取り押さえようとする。
「美津子っ」
「お柿さんっ」
姉妹は、男達に組み敷かれながら血を吐くような声をはり上げるのだ。
数人がかりでようやく京子の足を縛り上げると男達は地面に流木のように投げ出されている京子を見て哄笑した。
「ざまあみろ。俺達に刃向かって勝てるとでも思ってやがるのか」
無念そうに眼を閉じ、唇を固く噛みしめている京子にそう浴びせた吉沢は、捨太郎と鬼源達と一緒に腰を固く緊めつけている京子の褌に手をかけた。
「そら、担ぐんだ」
三人は京子の体をよっこらしょ、と持ち上げ天秤棒のように肩に担ぎ上げた。
「さ、美津子の方も連れて行きな」
川田にいわれて、堀川と竹田が美津子を担ぎ上げる。
「逃亡を計った奴赦の裁判を開くんだ。田代社長に連絡しろ」
川田は、ズボンについた泥を払いながら楽しそうにいった。
それから十数分後には、調教室の二つ並んだ鉄柱に、京子と美津子は立位にされて縛りつけられていた。
その前の椅子に田代が煙草をくゆらせながら、ふんぞり返っている。
最後の望みをかけて逃亡を計り、ついにそれも失敗した京子と美津子は、一切の希望を喪失したような凍りついた冷やかな表情でじっと一点をみつめている。
田代の横には、森田、そして川田や吉沢などが居並んで美しい姉妹の虚脱した表情をニヤニヤしながら見つめているのだった。
「京子、お前は俺の大事な三人の客人に怪我をさせてしまったそうだな。お前は、俺の顔を丸潰れにしてしまったんだ」
田代は煙草を横へ投げ捨てると、腹立たしげにどなった。
田代が感情をむき出しにするのは珍しい事なので、川田も吉沢も落ち着いてはいられない気分になり、
「京子、全くお前という奴は——」
とイライラして立ち上ると、いきなり京子の横面を激しく平手打ちした。
京子は歯を喰いしばった表情で、それをこらえ、憎悪に燃える瞳を田代の方に向けるのだ。
「自由を奪った女達をこういう目に合わせてそんなに楽しいの、田代さん。一度、精神病院の診察を受ければいいわ」
と、吐き出すように京子はいった。
「な、何だと」
田代は、かっと血の色を顔面に浮かべて、京子に近づく。
「もう一度、いってみろ、京子」
「ええ、何度でもいうわ。あなたは人間の皮をかぶった、けだものよ」
京子は、もう破れかぶれになって、男達に毒づくのだ。
もうこの地獄屋敷からは生きては出られないのだ。そう思うと京子は、息の根が止まるまでこの悪魔達に反抗しようという捨鉢な気分になったのかも知れない。
「この阿女」
吉沢が京子の黒髪をわしづかみにして、ぐいぐいと揺さぶった。
川田が京子の鼻先を指でつまみ上げた。
しかし、京子は悲鳴を上げなかった。そして、激しく首を揺さぶっては、悪魔っとか、けだものっとか、暴虐を振るう男達を罵倒するのである。
「おい、鬼源」
と、田代は鬼源の方を振り向いていった。
「こんな具合じゃ何のため、これまで調教してきたかわからないじゃないか。体だけ調教したってこんな性根じゃ、何時また反撥し出すかわからない。これはみんな、お前の貴任だぞ」
田代に叱咤された鬼源は、不服そうな表情で、隅の方に坐りこんでいる二人のシスターボーイを見た。
「京子を調教したのは手前達だぞ。手前達のやり方が甘すぎるからこんな事になるんだ」
春太郎が口をとがらせていった。
「京子姐さんが逆上して逃亡を計るというのは、すべて妹の美津子を助けようとする気持からでしょ。これはど妹思いの姉ってのは、珍しいぐらいだわ。だから、どうでしょう。思い切って、この姉と妹にショーのコンビを組ませたら」
春太郎がそういった途端、眼を閉じ身動きも見せなかった京子が、ハッと狼狽して頬を上げた。
「こんなに仲のいい二人なんだから、コンビを組ませれば、ぴったり呼吸があって、すべてうまくいくと思うのよ。段々と楽しくなってきて、二度とここから逃げ出そうという気なんか起こらなくなると思うんだけど」
成程、そりゃ、そうかも知れねえ、と鬼源はうなずいた。
京子は狂ったように激しく首を左右に振った。
「嫌、嫌よっ、私達は、私達は、本当の姉妖なのよ。そ、それなのに——」
京子は、頬をひきつらせ、喉をつまらせてじわじわ身を包んでくるおぞましいものを振り払うかのように身を揺さぶるのだった。
美津子はがっくりと深く首を垂れ、肩を慄わせてすす打上げている。
「本当の姉妹でも、二人とも女にゃ違えねえだろ。ここじゃな、親類とか姉妹とか、そんなものは、通用しねえんだ。客が喜んでくれりゃ、それでいい。手前達は、性の奴隷なんだぜ。人なみの扱いなんてしてもらえると思うな」
鬼源は、大声で噛みつくようにいった。
「よし、それじゃ明日より、この二人をコンビにして調教しろ。鬼源」
田代がいった。
「そ、そんな、嫌よ。死んだって、そんな事は嫌っ」
と京子が取り乱せば、美津子は泣き濡れた黒い瞳を上げて、
「後生です、それだけは堪忍して。ね、他の事なら、何でもがまんします。それだけは、ね、お願い♢♢」
と激しくすすり上げながら、周囲の男達に哀願するのだ。
鬼源は、そんな姉妹の哀泣に耳をかさず、一戸棚の上から黒塗りの箱を取ってくる。
「何時かはこういう事になるだろうと思って作っておいたんだ。どうだい、見事な道具だろう」
鬼源は箱の中からそれを取り出すと、得意げに京子と美津子の鼻先に近づけるのだ。
同時にパッと顔を赤らめて互いに顔をそらせ合う京子と美津子を男達は楽しそうに眺め入る。
「ま、こいつを使うのは、明日からの事にして、今夜は一つ、キッスの練習ぐらいしておこうじゃねえか」
鬼源は小刻みに身体を慄わせている美しい姉妹を眼を細めて眺めているのだ。
「お互いに舌を吸ったり吸わせたり、レスビアンショーてのは接吻が濃厚でなけりゃ面白くねえ。わかってるだろうな」
「嫌。そんな事、絶対に嫌っ」
京子と美津子は互いにねじり合うようにして顔をそむけ、わなわなと背のあたりをふるわせている¢
「清次さん達の前で、姉妹でレズショーを演じて二年前の詫びを入れさせてやるといってるんだ。こっちは、思いやりをかけてやってるつもりなんだぜ」
と、川田がいい、
「それとも、この場で、清次さん達に美津子をおもちゃにさせてやろうか。妹がそんな目に合ってるのを見物した方がいいってのならレズショーはやらなくたっていいんだ。さ、京子、どっちにするんだよ。はっきり、返事しな」
川田は、麻縄にかたく緊めつけられた京子の乳房を指ではじいていちノのだ。
「さ、どっちにするんだ。京子」
と、吉沢もつめ寄る。進退極まったような悲痛な表情になって唇を噛みしめる京子。
「妹とショーをするか、それとも、妹がおもちゃになるのを見物するか、二つのうち一つを選べばいいんだ。簡単な、事じゃないか」
田代も京子がベソをかきそうな表情になったので楽しい気分になり、そういって京子の顔をのぞきこむようにする。
「京子が、京子が清次さん達のおもちゃになる。それでいいはずじゃありませんか、田代さん。あの人達の恨みをかっているのは京子なのよ。美津子は何の関係もないんです」
そういった京子の切長の眼尻から、細い涙が糸を引くようにして、白い頬の上を流れていく。
田代はしばらく考えるようにして、よし、といった。
「お前が、真底から清次さん達に詫びを入れるというなら話は別だ。美津子を巻き添え止することは勘弁してやる」
京子は、その言葉にすがりつくように眼を開けた。
「心から清次さん達に謝ります。ですから、美津子とコンビを組ませるような恐ろしい事だけはやめて下さいっ」
「よし、その代り、清次さん達の気分を、二度と損ねてみろ。ただじゃおかないからな」
田代は決めつけるようにそういうと、鬼源を呼んで耳打ちした。
「わかりました」
と、うなずいた鬼源は、京子の顔を見て、
「じゃ、京子、清次さんのいる部屋へ来るんだ。いいか、もし、気に入らねえ態度を手前がとりゃ、ここにいる美津子は、すぐに剃毛だぞ」
鬼源は懐から西洋剃刀を出し、黄色い歯を見せて笑った。
「お前の体と同じように美津子もきれいに剃り落とし、お前とショーのコンビを組ますことになる。いいな」
鬼源は、京子の縄尻を鉄柱から外した。
「お姉さんっ」
美津子は鬼源に連れ去られようとする京子を見て涙ぐみ、おろおろした声を山Hす。
清次や五郎達が、先程の復讐で抑にどのような仕打ちを加えるか想像するだけでも気が遠くなる美津子であった。
「さ、京子姐さん、行きましょ。清次さん達にどういう風に詫びを入れりゃいいか、私達が少し演出してあげるわ」
春太郎と夏次郎は、京子の柔軟な肩に手をかけて、縄尻をとる鬼源と一緒に部屋の外へ出て行った。
京子の形よく盛り上った双臀の間をキリキリ緊めつけている水色の褌を鬼源は面白そうに見つめながら、さ、早く歩かねえか、と京子の、艶やかな背を押し、廊下を歩かせていく。
「清次さん達は余程、頭にきているぜ。あんな女にまた蹴り倒されたと三人共、口惜し泣きをしている始末だ」
清次達の部屋の様子をひと足先にのぞきに行った吉沢が走って来て鬼源に告げるのだ。
「お前の空手の術で皆、手傷を負っているんだ。女らしく振舞って、心から慰めてやるんだ。わかったな」
鬼源がそういうと、春太郎と夏次郎が京子の左右に寄り添い、
「いいわね。妹とコンビを組まされるのがそれ程嫌なら、私達が仲に入ってやるから清次さん達に心から謝るのよ」
京子は、冷たい光を湛えた瞳を静かに閉じ合わせ、清次達のいる部屋へ歩き始めるのだ。
肉の復讐
すりむいた頬に膏薬をはったり、蹴られた腰をさすったりしていた清次達三人は、引き立てられて来た京子を見ると、眼をつり上げていっせいに立ち上った。
「くそ、よくもさっきは——」
と、いきり立つ三人の男を春太郎と夏次郎はおさえて、
「ま、お腹立ちは、ごもっともですが——」
などといって、
「やはり何といっても人間ですもの、虫の居所が悪い時だって、ありますわ。ねえ、京子さん」
と、夏次郎は、口をつぐんで眼を閉じている京子の頬を指先で、くすぐるようにして笑い、春太郎と一緒に京子の背を押して隅の柱に立位のまま縛りつけようとする。
「もう二度とさっきみたいに暴れたりはしないわね、京子さん」
春太郎は、褌一本の京子の裸身をキリキリ柱に縛りつけると、深くうなだれている京子の頓に手をかけていった。
「そんな事、当てになるもんか。この女はちょっとやそっとの折檻じゃ性根は直らねえ。ひと思いに殺ろしてやりてえよ」
京子に突き倒されて額に傷を作った五郎は、いまいましそうにそういうと、ヒ首を出し、さも腹立たしそうに、ぐさっと床の上に突き刺した。
「そんな事されちゃ、こっちは元も子もなくなるじゃありませんか」
鬼源は苦笑して、今度という今度は、京子も本当に心を入れかえると詫びているから、俺の顔を立てて勘弁してやってほしい、というのである。
「なら、美津子はどうした。あの娘もここへ連れて来て詫びを入れさせろ」
と、三郎が大声でいった。
ふと京子は、もの哀しげな色を湛えた白い顔を上にあげる。
「美津子に乱暴なさりたい気持を、どうかこの京子に向けて下さい。どのような責めも悦んでお受けします。お願いです。どうか、美津子だけは——」
頬をふるわせ、黒眼勝ちの美しい瞳にキラリと涙を光らせて哀願する京子であったが、
「何を吐かしやがる。俺達に本当に詫びを入れる気なら、姉妹仲良く揃って詫びを入れてもらおうじゃないか」
清次が白眼を向いていったが、まあ、まあと鬼源は、清次の手を取って部屋の隅の方へ連れて行く。
「ま、ここのところは、京子の望みを聞いてやるってことにしておこうじゃありませんか。美津子の方は何時だって玩具にすることは出来ます。だからさ、ね」
鬼源に何か耳元に吹きこまれた清次は、ニヤリとして、うなずいた。
「よし、京子。じゃ、手前、今度という今度は本当に改心したっていうのだな」
清次は、京子につめ寄って、わざと棲んで見せる。
「美津子さえ許して下さるなら、京子は、どんなはずかしめでもお受けします」
京子は冷たく貯えた表情を作って、清次にはっきりといった。
「よし、その代り、お前の態度が気に入らなきゃ、すぐにここへ美津子を引っぱりこんで玩具にするぜ」
清次がそういうと、すぐに二人のシスターボーイが京子の左右へ近づき、
「よかったわね、京子姐さん。さ、まず、先程、清次さん達に乱暴したことのお詫びをするのよ」
京子は、その白く貯えた美しい顔を上へあげ、ゆっくりと眼を閉ざすと、
「清次さん達三人に乱暴致しましたこと、心からお詫び致します。あのような振舞いは今後二度と致しません。どうかお許し下さい」
唇を慄わせて、そういった京子は、固く唇を噛みしめ、小さく頭を下げて見せるのである。
よし、その言葉、忘れるんじゃねえぞ、と五郎と三郎は、左右から京子の黒髪をつかみあげて、ごしごし、しごく。
「こういう鉄火娘に泣きべそをかかすにゃ、どういうお仕置がいいかな、鬼源さん」
清次が鬼源の顔を見ていうと、
「そりゃ何といっても♢♢」
春太郎が鬼源のかわりに清次に答えた。
「浣腸してやるのが一番だと思うわ」
京子の固く整った美しい顔が、ピクッと痙攣する。
チラと憎悪のこもった視線を春太郎の方に投げかけ、すぐに固く眼を閉ざして口惜しげに顔を伏せた京子を、清次は冷やかに見つめた。
「成程、浣腸ねえ」
五郎や三郎と頬を見合わせ笑い出す清次に向かって春太郎はいった。
「こういう気性の激しい娘には、ぶったり叩いたりしたって、それはかえって逆効果だと思うわ。それより、清次さん達三人が優しく浣腸して排泄物の始末まで念入りにしてやれば、段々と女らしい心に入れ変えると思うのよ」
よし、わかった、と清次はうなずいて、
「それじゃ、京子。春太郎のいう通り俺達三人がお前に優しく浣腸してやろうじゃねえか」
京子は、冷たい白い顔を一層蒼ざめて清次達から必死に眼をそらせるのだ。
「じゃ、支度にかかろうか」
五郎と三郎は、ニヤニヤしながら、鬼源に指示されてベッドの上のパイプ管にロープをつなぎ始める。
つないだロープに夏次郎が持って来た青竹を横にして結びつけると五郎と三郎は、再び鬼源に指図されてベッドの真中あたりに京子の双臀を、でんと乗せつけるための枕を配置するのだった。
逃亡を計った懲罰として、京子に浣腸を施すべく男達は、洗面器やガラス製の浣腸器など持ちこんで来て、着々と準備にとりかかるのだ。
「散々煮え湯を呑ませてくれた礼をたっぷり返させて頂くからな、京子」
五郎と三郎は、洗面器の中にぬるま湯を注ぎ、ゆっくりと石瞼を溶かしながら、柱に縛りつけられている京子の方を向いて、せせら笑うのだ。
「フフ、いいわね、京子姐さん。こうなりゃ覚悟して清次さん達のお仕置を悦んで受けるのよ。ふてくされた態度をとると、美津子とコンビを組まなきゃならなくなる。そんなの嫌でしょ」
春太郎が、がっくり首を落としている京子の現に手をかけて、ぐいと顔を正面にこじ上げていった。
京子は、ふと眼を開き、左右に立つ春太郎と夏次郎を冷たい視線で見据える。
「この辱しめを京子が、がまんすれば、本当に美津子には手出ししない、と約束して下さるわね」
京子の瞳の底に敵意のようなものが沈んでいるのを見た春太郎は、
「そんな憎らしい顔つきをしていりゃ、あんたの努力が無駄になってしまうわよ。どうしてもっと優しい女になれないの、あんたは」
春太郎は口をとがらせてそういうと、清次達がモソモソ悦ぶような女の媚態を演じつつ自分からすすんで、その浣腸を待ち受けるようにして見せろ、と諭すのだ。
「そ、そんな——」
静子夫人が要求する、女の演技の羞ずかしさに京子は乱れた黒髪を左右に打ち振って拒否を示すのだった。
卑劣で野卑な清次達の責めに呼応して媚態を示すなど、それは京子のような女にとっては全身の血が逆流するばかりの屈辱である。
「私のいう事が聞けないというなら、美津子の事は保障が出来ないわよ」
春太郎は怒ったような声を出して、京子の麻縄に緊め上げられた乳房を指ではじいた。
「わ、わかったわ」
京子はそういって、再び首を落とし、小さく肩を慄わせた。
「さあ、支度は出来たぜ。京子」五郎と三郎がガラスの浣腸器にたっぷり石鹸水をつめこんで立ち上がると、含み笑いしながら京子の傍へ近づいて来る。
京子は涙に潤んだ瞳を、宙に据えるようにして、
「——京子は、本当に今日から心を入れかえて、優しい女になるつもりですわ。さっきの事は、本当に許して下さいね」
涙で喉をつまらせながら、そういった京子は北叟笑んでつっ立っている清次の方にチラと気弱な視線を送って、
「——ねえ、清次さん、京子と仲直りのキッスして」
と、甘えるような声を出すのであった。
春太郎に強要されたそんな媚態を息のつまる思いで演じる京子の頬や首すじは、ぼうっと桜色に染まり始める。
「ハハハ、最初からそういう態度に出りゃ、こっちも頭に血がのぼったりはしねえんだ」
清次は歩み寄って、京子の柔軟な肩を手をかけた。
清次の分厚い唇が、やや横にそらせている京子の唇に強引にまつわりついていく。
京子は心のふんぎりをつけたように正面に向き直り、ぴったりと清次の唇を唇で受け止めた。
口中を愛撫してくる清次の舌を京子は口惜しさで噛み切ってやりたい衝動にかられるのだが、反撥しても所詮、この男達には勝てないのだという悲しい辞めが切なくこみ上げて来て、京子はぐっと屈辱を噛み殺した思いで清次の舌に舌をからませるのだった。
「へへへ、兄貴。相手は、じゃじゃ馬だ。舌を噛み切られねえよう、気をつけな」
五郎がいったので、清次はあわてて京子から唇を離した。
「おどかすねえ」
と、清次は笑い、京子の方を再び見て、
「お前が本当に柔順になったのか、こいつらまだ半信半擬でいやがるんだ。じゃ、こいつらに浣腸させて、もう一度、心から、詫びを入れてもらおうか」
五郎は、幼児用の可変いブルーの便器を取り出し京子の前で揺さぶって見せた。
「あいにく子供用のおまるしかねえそうだ。これじゃ小さすぎて入りきれねえかね。どうだい、京子姐さん」
五郎は、そういって大声で笑い出す。
京子は、空虚な瞳で、ぼんやり遠くの方を見つめながら、
「ベッドの上へ乗りますわ。さ、腰のものを脱がせて頂戴」
と、自嘲的な響きをこめて、はっきりと口に出していった。
「そう柔順に出られると、何だか気持が悪いくらいだな」
男達は頬を歪めて京子へまといつくと、腰を緊めつけている褌の結び目を、せかせかと解き始めるのである。
京子は、わなわなと唇を慄わせながら、上気した顔を右へ伏せたり、左へ伏せたりしている。
五郎と三郎の手で、くるくると褌が巻き取られていくと、京子は身も世もあらず全身をもじつかせた。
水色の長い褌がついに男の手で抜き取られると京子は、ねじ曲げるようにうなだれた首を横へそむけ、ぴったりと肉づきのいい太股を密着させるのだ。
露になったそれに身をかがめた男達は、貪るような視線をしばらく向け、上向きだ、いや、下向きだ、などと笑い合っていたが、
「さ、ベッドへ乗せようぜ」
と、清次は五郎をうながして京子の縄尻を柱から解き始めた。
「そら、皆んなで担ぎ上げようぜ」
京子は男達の手で横倒しにされ、そのまま担ぎ上げられて、ベッドへ運ばれるのだ。
「もう、二度と、あなた達にさからったりはしないわ。ですから、ですから、美津子だけは♢♢」
ベッドの上へ仰向けに倒された京子は、喘ぐような声で熱っぼくいいつづける。
「さ、思い切り足を開きな。京子姐さん」
ベッドに仰臥した京子のぴったりと閉じ合わせた両膝に手をかけた五郎と三郎は、うわずった声でいった。
「浣腸がしやすいように、うんと開くんだよ」
天井から垂れ下がる青竹に京子の両肢を割って縛りつけるべく五郎と三郎は、左右より京子の足首に手をかけるのだが、京子は頑なに両肢に力を入れてそれを拒否するのだ。
「どうしたのよ、京子姐さん。ここへ来て清次さん達にさからうというの」
夏次郎が全身を硬化させている京子の臍のあたりを指ではじきながらいった。
「あんたの足を縛っておかないと、空手の足蹴りがこわくて、たっぷり浣腸してあげることが出来ないのよ」
春太郎もロープに吊るされた青竹をたぐり寄せながら京子にいった。
ギュツと唇を噛みしめ、今にもベソをかきそうな表情になっている京子が、ニヤニヤしてのぞきこんでいる清次におろおろした視線を合わせた。
「清次さん、京子は以前よりも、もっと辛い生恥をかかされても、決して恨みには思わないわ。その代り、約束してっ、美津子には指一本触れないと——」
「わかったよ。お前が俺達に二度と楯をつかなきゃ、美津子は無事でいられるんだ。さ、ぐずぐずせず、仕事がやりいいように開かねえか」
「——ほんとに、ほんとに、約束して、下さるわね」
京子は大粒の涙をポタポタ流しながらそういうと、ぴったり閉ざしていた両肢の力を抜いた。
「へへへ、そら、いさぎよく、開いたり、開いたり」
五郎と三郎は、唄うようにかけ声をかけながら京子の足に手をかけて左右に引き裂いていく。
京子の足首が、白い脛が、肉づきのいい官能味豊かな太腿がキリキリとたぐられて左右に割られていくと、春太郎は青竹をたぐり寄せ五郎や三郎に手伝って京子の足首を、その両端に麻縄で縛りつけてしまうのだ。
「油断のならない京子の足をこんな具合に縛ってしまえば、もう安心というものね」
春太郎と夏次郎は、ロープを引っぱって京子の足をつないだ青竹を吊り上げ始めた。
「あっ、ああ——」
京子の大きく割った優美な両肢は、上方に向かってキリキリと吊り上げられていく。
「どっこいしょ」
五郎と三郎は、京子の量感のある双臀に手をかけて、その下に枕を敷いた。
「さて、これでよし。だが、随分と骨を折らしやがったな」豊かな双臀を俎の上に乗せてしまった京子を見て哄笑するのだ。
「見ろ、全く可愛いじゃねえか。これが、男三人を蹴り上げた京子姐さんのものとは、ちょっと信じられねえな」
今はもう羞払も屈辱もかなぐり捨てたように奥に秘めた菊の個所を数人の男達の喰い入るような視線の前に晒け出している京子であった。
整った美しい顔を真っ赤に上気させ、京子は薄く眼を閉ざしたまま男達の観賞に任せ、卑猥な揶揄を浴びせられている。
清次は浣腸器を手にして、京子の上気した頬をくすぐった。
「おい、京子。さっきは俺を蹴飛ばし、その上、何だかんだと、美生意気な説教までしゃがったな。俺に意見したことをもう一度、いってみろい」
と、清次は邪険に京子の形のいい鼻を指ではじくと、
「どうだい、京子姐さん。俺達の眼の前に何もかも、こう丸出しにされちまった気分は。何とかいいなよ」
と、五郎は、京子の優美な双臀に手をかけて揺さぶるのだ。
「兄貴、京子の浣腸はこの俺にさしてくれ。二年前といい今度といい、俺はこの女に二度も顔に傷をつけられちまったんだ。ぐうの青も出ねえ程、油を絞ってやりてえんだよ」
三郎は清次から浣腸器を取り上げて、すぐに開始しようとした。
「まだ早いわよ」
と、春太郎が笑いながら三郎の手を押さえた。
「こんなに、体が固くなってるのに、そりゃ無理よ。京子姐さんに受け入れ簡勢が出来るまで、くつろいだ気分にしてあげなきゃ」
春太郎はそういうと、ぼんやりしていないで、京子姐さんのおっぱいを優しくモミモミしてあげてよ、清次さん、といい、また笑うのだ。
「よし、わかった」
清次は五郎と手分けして京子の肌を優しく愛撫し始めた。
京子の熱い耳たぶから首すじにかけて清次は羽毛のよう飢に柔らかい接吻を注ぎ始め、五郎と三郎は麻縄をきびしく喰いこませている京子の乳房を両手で包むように愛撫し、乳頭に柔らかく歯型まで入れるのである。
「京子を、許して。もう二度と、空手なんか使わない優しい女になりますわ」
京子は、春太郎に催促されて、清次達に詫びの言葉を、甘い悩ましさで囁きつづける。
「もうそろそろ浣腸にかかってもいいのじゃないかしら」
春太郎は煙草をくゆらせながら、眼を細めていった。
「それじゃ、京子姐さん。始めさせて、頂きますぜ」
上に吊り上げられた優美な両肢を、海草のようにくねくね揺り動かして、男達の微妙な愛撫に反応を見せている京子。それを楽しそうに見つめながら、三郎は、浣腸器を持って、身をずらし始めた。
京子は、嘴管が触れるとビクっと双臀を痙攣させて、すねるように嫌、嫌よ、と下半身を揺さぶった。
「——その前に、はっきりと京子を許すと言って頂戴」
「へへへ、そりゃお前の心がけ一つだ。この位じゃ、まだ許すとまではいかねえぜ」
三郎がそういって再び嘴管を近づけると、京子は春太郎に指示された精一杯の媚態を演じようと懸命になり出すのだ。これ等の男達を満足させれば美津子は救われるのだ、とただそれだけに望みをかける京子であった。
三郎の作業がなかなか円滑にいかぬのを見て五郎が、俺に貸してみろ、と武器を取り上げる。
「待、待って——」
京子は、情感に潤んだ眼をそっと開き、
「そんな乱暴なの嫌。たっぷりコールドを塗ってほしいわ」
夏次郎が差し出す瓶から、清次が指先で、たっぷり掬い上げた。
清次の行為を、京子は、妖しいばかりに潤んだ美しい黒眼を夢見るように開いて、甘受していたが、
「清次さん、京子がいいというまでマッサージして頂戴」
京子の欲求に答えて、男達はゆるやかな刺戟をそれに加えはじめた。男三人を蹴倒した鉄火娘のそれが、蕾から開花するように自然に綿のような柔らかさを持ち始めたのを知って男達は有頂天になり始めた。
「もう、もう充分よ。いいわ。なさって頂戴な」
情欲的に、とろりと濡れた美しい瞳を、しばたかせながら、京子は息をはずませていったのである。
第八十二章 ガラスの拷問
懊悩の限界
「あわてる事はねえよ。ゆっくり仕事にかかろうじゃねえか」
清次は、春太郎達に酒の燗をさせ、ベッドに仰臥し、両肢を高々と吊り上げられている京子の横に添寝する。
「へへへ、おい、京子。今度という今度は、本当に改心したんだろうな」
と、静かに瞑目している京子の白い頬を指で、くすぐった。
京子は、そっと眼を開くと、清次の方へ気弱な視線を向けた。
「まだ信じて頂けないの」
と、すねるように口元に媚の色さえ浮かべていうのだ。
「だけど、お前みたいな別嬪に、どうして男三人を蹴倒すような力があるのか、俺は不思議で仕方がねえよ」
「もうそんな話はやめて。二度と空手なんか使わないと、今、京子は誓ったじゃありませんか」
京子は黒眼勝ちの美しい瞳を気弱にしばたたかせていうのだ。
もう先程、見せたような反撥と敵意の色など、そこには微塵も見当たらない。
「お前がそう素直な態度に出るっていうのなら、本当に美津子の方にゃ指一本、触れやしねえよ」
「本当ね、清次さん」
京子は、黒い瞳にキラッと涙を光らせて、すがりつくように清次の顔をじっと見つめるのだ。
「それさえ、約束して下さるのなら、京子はどんな羞ずかしい目に合わされたって、がまんするわ。どうか気のすむまで京子を嬲って恨みを返して頂戴」
ハラハラと頬に涙の滴をしたたらせて京子はいうのであった。
「よし、気に入ったぜ」
清次は、春太郎が盆に載せて持って釆た銚子の酒をコップに注ぎ、それをひと息に飲むと五郎達にいった。
「さ、そろそろお仕置の続きを始めようじゃねえか」
よし来た、と五郎と三郎は、今はもう逃げも隠れもならず、観念しきったような京子の菊の個所に、再び攻撃を開始しようとするのである。
「兄貴、すまねえが、ちょっと、その酒を少しくれよ」
五郎は、ほらよと差し出す酒の銚子を受けとり、
「この酒で、こいつを少し、酔わせてみようと思うんだ」
と、その銚子を振ってみながら、三郎と顔を見合わせで笑い合うのだ。
コールドなどを使って充分にマッサージをし、凝り固まりは完全に溶けて、綿のように柔らかくなったのに、更に酒の滴をたらして刺戟を加えようというのだ。
二滴、三滴と、酒がゆっくりこぼされると京子はむずかるように、豊かな双臀をなよなよとくねらせる。
「ねえ、もう、もう十分よ。おねがい。早く浣腸を——」
京子は美しい眉根を寄せて、むずかるように坤くのだ。
「駄目駄目、まだ駄目だわよ、もっと柔らかくしなくちゃあ——」
春太郎と夏次郎も面白がって、ぬるま酒を更に二滴三滴と流し、指先で柔らかい刺戟を加えるのだ。
「ほんとは、とてもいい気分なんでしょ。ねえ、京子」
春太郎は淫靡な刺戟を執拗に加えながら、眉を寄せて、シクシクすすり泣く京子の顔を見て笑った。
「どうなんだよ、京子」
その攻撃を春太郎に任せて、五郎と三郎は上気した頬をブルブルと慄わせている京子の左右へにじり寄った。
「手前に蹴倒された俺達がこうまで優しくしてやってるんだ。女であることの嬉しさがよくわかったろう」
そんなことをいいながら五郎と三郎は、再び、麻縄をきびしく巻きつかせている形のいい柔らかい京子の乳房を左右より優しさをこめて愛撫し始める。
春太郎の攻撃と呼応するようにして男二人に乳房を揺さぶられた京子は、ブルブルと全身を慄わせて、ひときわ激しい甘い呻きを、もらし始めた。
「よし、もういいだろう。始めな」
清次は、五郎に眼くばせした。
五郎は、ニヤリとして嬉しそうに浣腸器を取り上げる。
春太郎の巧みな技巧で、彼等の目標は溶けるような柔らかさに変貌している。
五郎は、春太郎と入れ代って、
「京子、さ、始めてやるぜ」
と嘴管を、そっと差し出した。
今まで、真っ赤に上気した顔を横に伏せて細い声ですすり上げていた京子だったが、冷たいガラスが触れた途端、ムチムチした豊かな双臀をピクと痙攣させ、美しい眉根を八の字にしかめるのである。
「へへへ、どうだい京子、いよいよだぜ、口惜しいか」
五郎は一気に攻略せず、嘴管で軽く叩いたり、くすぐったりする。
京子は、吊られた両肢を、さも切なげに悶えさせ、ひきつったような涕泣を洩らすのだった。
「ねえっ、お願いっ。早く、早くすまして頂戴」
京子は、上ずった声で、五郎と三郎に哀願するのだ。
「よくも男三人を、こけにしゃがったな。うんと思い知るがいいや」
一気に、五郎が押し立てる。不思議なくらい熱いねばっこい吸引力というものを、五郎は、浣腸器を通じて知り、舌を巻く想いになった。
男達の乱暴な行為に京子は思わず絹を裂くような悲鳴を上げた。
「そら、もう一度だ」
矛先を引き揚げて、また押して出るなど、男達は残忍な悪戯をくり返し、京子をいたぶり抜く。
京子が悶え、苦しみ、泣きじゃくると、五郎も三郎も、ようやく溜飲を下げたように頬を見合わせて笑った。
「どう。京子姐さん、少しは反省する気になった?」
今度は春太郎と夏次郎が、憮悩の極にある京子の乳房を優しく撫でさすりながら、囁くようにいうのだ。
「——もう、もう十分、京子は、反省していますわ。ああ——もう、許して」
嘴管でくすぐられる京子は、髪を左右に揺さぶり、唇をわなわな慄わせて、哀泣する。
「これだけ、じらしゃ、充分だ。五郎、注ぎこんでやんな」
清次は、京子の片頬に煙のように垂れかかっている柔らかい黒髪をかきわけて、ねっとりと脂汗を珍ませている京子の顔を楽しそうに眺めるのである。
「ううっ」
京子は、恨みをこめて力まかせに攻撃してくる五郎の手のガラス嘴管の非情さに、大きく首をのけぞらせた。くっきりと浮かび出た艶々しいうなじのあたりにも、ねっとりと脂汗が滲んで、さも口惜しげに唇を噛みしめる京子の表情は凄惨なくらいに美しい。
「女だてらに男を振り廻しやがって。どうだい、少しは、こたえたかい」
五郎は、ゆっくりとポンプを押しながら勝ち誇ったように笑い出した。
「ああ——」
京子は、涙に濡れた美しい瞳をひっそりと開き、さも切なげにうなじをくねらせるのだ。
「少し、俺に代らせろ」
と、五郎が半分ばかり注ぎこんだところで三郎が乗り出して来る。
「さっき、蹴飛ばされた仕返しだ。いくぜ」
三郎も、ガラスのポンプを、ゆっくり押し始める。
奥深く、注ぎこまれていく生温かい石鹸水の感触を、京子は知覚が麻痺していくような気分の中でぼんやりと感じとっている。
なよやかな肩を慄わせながら、シクシクとすすり上げる京子の繊細な横顔は涙に濡れて滴るような美しさに見えた。
もう京子は、抵抗のそぶりなど微塵も見せず、無意識、無感動のまま、男達の手で次々と溶液を送りこまれていく。
「どう、お腹に入って行くのが、よくわかって」
春太郎は、横にねじっている京子の頬に手をかけ正面に据えさせた。
京子は赤らんだ顔を羞払に歪めて眼を固く閉じ合わせている。
五十CCを一滴残らず送りこんだ男達は、脱脂綿を使って、攻撃のあとを柔らかく揉みはぐすのだ。
京子は、濡れた瞳をとろりと潤ませて、熱っぼく喘ぎつづけている。
「へへへ、とうとう注ぎこまれちまったな、京子、ざまあみろ」
五郎と三郎は空になった浣腸器で、京子の臍のあたりを叩き、笑い合った。
「まてまて。俺はまだ、恨みを返しちゃいないぜ」
今度は清次が浣腸器を取り上げ、春太郎に熟した酒を注ぎこむように命じた。
「いい気持に酔わしてやろうというんだ」
憫をした銚子一本の酒を春太郎がガラス器にゆっくり注ぎこむと、清次は楽しそうに口を歪めてそれを受け取り、上気している京子の熱っぼい頬をつついた。
「うんと京子をいじめて——」
清次に顎をとられた京子は、狼狽すれば一層自分がみじめになると悟ったのか、潤んだ黒眼勝ちの瞳を、そっと清次に向け、溶けるような媚を含んだ声でいった。
「でも、これで京子の事は許して下さいますね、清次さん」
清次はそれに答えず、体を移行させて嘴管を構える。
「ねえ、待って」
京子は鼻にかかった甘い声ですねるようにいうと、なよなよと枕の上の双臀を揺さぶり甘い拒否を示すのだ。
「ねえ、はっきりおっしゃって。京子を許してやると、はっきりおっしゃって頂戴」
上に吊り上げられた肉づきのいい太腿まで、くなくなと艶めかしく揺さぶりながら、すねて見せる京子の仕草に、清次はモソモソ悦び出して、
「へっへへへ、大分、女っぽくなってきたようだな、京子。よし、それに免じて、空手を使って俺達に楯をついたことは、さっぱりと忘れてやろうじゃねえか」
「ほんとね、清次さん」
京子は、潤みを帯びた美しい瞳で甘えるように清次の方を見つめ、やがて、静かに眼を閉じ合わせていった。
静止した京子の双臀に、第二の攻撃が始まったが、京子はむしろ自分から、それを待ち安けていたように、弧を描くように双臀をくねらせ、清次の仕事に大担にも協調を示したのである。
再び、冷たいガラス管を受けとめた京子は、掘られた形で激しくポンプを押し始める清次を甘くたしなめるのだ。
「うん、嫌、清次さん。もっと優しく注いでほしいわ」
そうした京子の媚態に、清次も五郎も有頂天になっていく。
「こりゃ悪かったな。おめえがすっかり女っぼくなったんで、俺はつい夢中になってしまったよ」
清次は苦笑して、たっぷりと時間をかけて注ぎこむのだ。
熱っぼい頬を伏せてすすり泣いたり、艶々したうなじを大きく見せて荒い息を吐いたりして、京子はついにその浣腸器に一杯だった潜も体内に注ぎこまれてしまった。
「これで百CCだ」
空になったガラス管を持ち上げて男達は大はしゃぎする。
「やっと、これで胸のつかえが下りたような気分だ」
五郎と三郎は、ベッドに仰臥する京子のまわりをグルグル廻るようにして、小躍りせんばかりの喜びようである。
全身に脂汗をキラキラ浮かべて、固く眼を閉ざし、京子は、半開きになった口から熱っぼい息を吐きつづけている。
「どうだい京子。たっぷり二回、腹の中へ注ぎこまれた気分は——」
清次は、落ちていた脱脂綿を拾って柔らかく揉みはぐすようにしながら京子にいった。
そんな清次の面白そうなからかいを受けて京子は一層、熱っぼく喘ぎ出す。
春太郎と夏次郎は悪戯っぼい微笑を口元に浮かべて京子に近づくと、その便意を高めさせる心算からか、胸のふくらみから鳩尾、柔らかい腹部のあたりまで、ゆっくりと、マッサージするのである。
京子は、つぼを心得たようなシスターボーイの手管に次第に巻きこまれていき、忽ち生理的な苦痛が全身を覆い始めた。
滑らかな腹部を何度も掌で撫でさすり、優美な腰部に指圧を加え、露骨な洗礼を何度も受けて、もう羞恥など忘れたように、はっきりと開花した菊のあたりまで、淫靡な指圧を彼等は加えようとするのだった。
京子が耐え切れず、歯をカチカチ噛み鳴らしてさも苦しげなう呻きをもらし始めると、春太郎は夏次郎に声をかけた。
「お夏、おまるの支度を頼むわよ。もうそろそろだと思うから」
あいよ、と夏次郎は五郎が少し前に持ち込んで来ていた、子供用の、花模様のついたブルーの便器を再び持ち寄って来た。
「男三人を蹴り飛ばすような鉄火姐さんなのよ。そんな小さなもので間に合うかしら」
春太郎は、京子を柔らかく揉みほぐしながら笑っていった。
「お京姐さんに聞いてみな」
と、男達は笑った。
夏次郎もクスクス笑いながら、その幼児用の便器を京子の眼の前に近づけるのだ。
「ねえ、京子姐さん、子供用のおまるしかないんだけど、これに入りきるかしら」
春太郎の指圧に誘導されて生理の苦痛がますます高まって来た京子は、ふと凄艶な表情にさえなってきている。夏次郎に耳たぶをつねられて、ふと熱っぼい瞳を開いた京子は、その便器を見て、さも羞ずかしげに視線をそらした。
何ともいえぬその羞ずかしげな京子の赤らんだ顔を、男達は酒を飲みながら心も浮き立つ思いで眺めているのだ。
「こんな小さなおまるなんかじゃ、物足らなそうね」
と夏次郎は、真っ赤な顔をそらしている京子を楽しそうに見つめていたが、
「でも、これしかないんだから我慢して頂くわ。派手に垂れ流しちゃ駄目よ」
夏次郎は京子の枕に乗った双臀の下へビニールの布を敷き、チリ紙や濡れタオルなど女のような神経で細かく気を使い、京子の双臀の周囲へ配置していくのだ。
京子の悶えが次第に露なものになり、いよいよ限界に近づいたことを覚った春太郎は、ようやく指圧の指を止めた。
「どう、京子。もう我慢が出来ないようね」
春太郎は美しい眉根を寄せて激しく息づく京子の熱い頬を指でくすぐるのだ。
「そろそろ始める?ええ、京子姐さん」
春太郎に耳元でささやかれた京子は、そっと濡れた瞳を開き、何ともいえぬ哀しげな表情で小さくうなずくと、さつと赤らんだ顔を横へねじってシクシクとすすり泣くのだった。
「それじゃ、清次さん達に手伝ってもらいましょうよ。さ、京子姐さんの口から三人にお願いしてごらん」こお
その言葉を聞いた京子は、上気した頬を固く凍りつかせて、いやいやと首を左右に振るのだ。
その卑劣さに我慢出来ず、先程、こらしめた三人の男達——その連中の手で、排泄を強制されるなど、もう限界に達し、眼もくらむような状態の京子であったが、毛穴から血が出るばかりの屈辱が突風のようにこみ上って来るのだ。
「どうしたのさ。今更、羞ずかしがることはないじゃないか。女っぼく、うんと甘えかかって排泄の始末まで清次さん達にさせてごらん。そうすりゃ、清次さん達の恨みも完全に消えるってものだよ」
春太郎は京子の泣き濡れた瞳を、のぞきこむようにしていった。
「ああ——」
と、京子は再びこみ上って来た生理の苦しさに大きく首をのけぞらせ、一吊り上げられている優美な両肢をブルブル痙攣させた。
「そら、ぐずぐずすると、洩らしちまうじゃないか。早く清次さん達に助けを求めなきゃ駄目じゃないの」
春太郎と夏次郎は面白がって、そんな京子を左右から揺さぶるのだ。
ついに京子は最後の屈伏を清次達に向かって申し出たのである。
もう限界を通り過ぎ、意志の力ではどうしようもなくなったのだ。
「清次さん、お、お願い——」
京子は、上ずった声で清次を呼んだ。
「どうしたい、お京姐さん」
清次は五郎と京子のまわりを取り囲んだ。
京子は火のように熱くなった頬をマットへすりつけるようにしながら、
「もう、もう我慢が出来ないの。ですから、ねえっ」
京子は、もう備えも構えもかなぐり捨て、火のような一心さで、清次に哀願するのだ。
「だから何だって聞いてるんだよ」
清次は五郎と顔を見合わせてニヤニヤしながら京子の慎悩ぶりを凝視するのだ。
「意地悪な事いわないで、ねえ、もうこれ以上、我慢出来ないのです」
京子は、戦慄したように、吊られた両肢を震わせ、泣きわめくようにしていった。
「早く、ああ早く、おまるを当てて頂戴っ」
途端に清次も五郎も大声で哄笑する。
「空手で蹴り倒した男三人に、垂れ流しの始末をしてもらいてえだとよ」
五郎と三郎は笑いつづける。
しかし、京子は、そんな男達の図に乗ったからかいも、もう耳に入らぬのか、全身を火のように燃え立たせて激しい涕泣を口から洩らしている。
「ベッドを汚されちゃ、まずいぜ。手を貸してやろうじゃねえか」
第八十三章 京子の崩壊
完全な敗北
京子は唇をわなわな慄わせて、さも羞ずかしげに限界に到達したことを訴えると、形のいい白い頬を熱っぼく上気させて、なよなよと首を左右に揺さぶり始めた。
「ねえっ、お、おまるを——」
むずがるように眉根を寄せて、ああ、と大きくのけぞら。せた京子の白いうなじは、先程大暴れした女とは思えぬ艶っぼさが滲み、清次は五郎達と顔を見合わせて口元を歪める。
「どうだい、京子姐さん。苦しいかい」
五郎と三郎は、額にべっとり脂汗を静ませて、あえぎつづける京子の頬を指ではじき、次に淫靡な笑いを口元に浮かべながら、滑らかな白い京子の腹部をゆっくりと揉み始めるのだった。
「そ、そんな。やめて、ねえ、お願い」
京子が狼狽して、高々と吊り上げられた両肢を揺さぶり始めると、男達は声をあげて笑った。
「体中のものを、すっかり、吐き出させてやるんだ。いいか、出来るだけ我慢するんだぜ」
清次は、先程の恨みは、これで充分に返したという満足げな表情で、充血した頬をマットにすりつけながら悶え泣く京子の首の下に手を差し入れぐいと顔を正面に向かせる。
「これで心から改心しただろうな、京子。もう一度、はっきり詫びを入れな」
京子は涙に濡れた睫を気弱にしばたきながら、何かを甘く訴えるような美しい瞳で清次を見上げるのだ。
「もう二度と暴れたりはしません。京子をどうかどうか、許して」
呻くようにそういった京子は、匂うような羞恥の色を顔面一杯に作りながら、
「ねえ、お願い。もう、ほんとに、我慢出来ないの——」
と、鼻を鳴らし、再び、なよなよと枕の上の双臀をくねらせるのだった。
「もう少し辛抱するんだ。手前の垂れ流すものの始末までして下さるお兄さん方に感謝のキッスをして頂こうか」
清次は五郎と三郎に笑いながら眼くばせするのだ。
「違うよ。しゃぶって頂くんだ」
へえ、と頓狂な顔をした克郎は、次にニヤニヤロ元を歪めて、
「大丈夫ですかね、兄貴。噛み切られたら大変だが」
「もうそんな考えはすっかり捨てたはずだ。女らしい女になると本人は何度も誓ってるじゃねえか」
春太郎と夏次郎は五郎がバンドをゆるめ始めるのを見て、キャッキャッと笑い出した。
「さ、京子姐さん。五郎さんと三郎さんにもう一度心からお詫びして、優しくおしゃぶりしてあげるのよ」
春太郎は楽しそうにそういって、京子の形のいい鼻をつつくのだ。
五郎が舌で唇をなめながら近づいて来ると京子は朱に染まった頬を硬直させ、そっと反対に顔をねじった。
「ちょいと、女らしい女になったという訳拠を見せなきゃ駄目じゃないの。それに五郎さん達は、あんたの汚いものまで、始末して下さるのよ。さあ、感謝の気持をはっきり示して頂戴」
嵩にかかっている春太郎は、京子の柔軟な肩のあたりを揺さぶるのだった。
「何もそう照れることはないじゃない。美津子を許して下さったお兄さん方に、それ位のサービスしてあげるのは当然じゃないの、京子姐さん」
そんなシスターボーイ達のねばりつくような言葉に京子は屈伏し、赤く強ばった顔を正面に戻すと、固く眼を閉ざしながら、
「五郎さん、先程の事、京子は、心から謝りますわ」
そして、そっと眼を開いた京子は、面白がってその端正な頬へ押しつけてくる五郎を濡れた美しい累眼で、そっと見上げる。
「そら、遠慮するなよ」
五郎は、ニヤニヤしながら、京子の紅唇を狙った。
困惑と羞恥の色を顔面一杯に浮かべながら京子は固く強ばった頬をひくひくと二、三度ひきつらせたが、次にそっと紅唇を突き出すようにしたのだ。
「駄目よ、もっと情熱をこめなくちゃ」
春太郎と夏次郎は、さも楽しそうに京子の左右に身をかがめる。
清次も三郎と顔を見合わせて哄笑し、そっと舌をのぞかせて柔らかく愛撫し始めた京子を凝視するのだ。
もっと激しく、もっと強く、と春太郎に叱咤された形で、京子は、次第に男の妖気にむせたように、閉じ合わせた切れ長の眼尻より涙の滴をしたたらせながら、ふと、熱をこめていくのだ。
熱い鼻息を浴びながら甘い柔らかい舌で撫でさすり、やがて、紅唇を開き始めると、男達はどっと嚇し立てる。
「どうだ、五郎。これで腹の虫がいくらかおさまったろう」
魂も溶けるような気分に浸っている五郎の肩を叩いた清次は、
「よし、三郎と交代しな」
「もう少し、いいじゃねえか、兄貴」
「またあとの楽しみってこともあるさ」
清次は、ポンと五郎を押しやって、三郎を招き寄せた。
京子は上気した顔を三郎の方に起こし、とろりと潤んだ美しい眼を向けるのだ。情感の迫った媚を含んだ声音で、
「ねえ、三郎さんも京子の事は許して下さいますわね」
そういった京子は、ためらわず押しつけて来た三郎に唇をまといつかせたのである。
柔らかく舌で愛撫しながら、軽く歯を当てると京子の媚を含んだ接吻に三郎も全身を痺れさせていく。
「京子は、ほんとに心を入れかえるわ。女らしくしますわ」
そっと唇を離して、甘い鼻息と共にそう囁きかけ、また、くすぐるように舌で愛撫しながら、ぴったりと唇を押しつける京子を眺めていると、清次は、これですっかり京子の魂を打ち砕いてやったという快感が胸にこみ上ってくる。
いじらしい位に柔順な一人の女に変貌した京子を感じた清次は、よし、とうなずいて三郎を押しのけた。
「兄貴、蛇の生殺しはひでえよ」
「何もそうあわてる事はねえ。それより、かわいそうに京子姐さんのお腹がゴロゴロ鳴ってるじゃねえか。一度すっきりさしてやんな」
清次がそういうと、また浣腸器を取り上げ、洗面器の中の溶液をたっぷりとそれへ注ぎこんだ。
「さて、最後のとどめを打ってやんな」
清次は五郎へ注射器を渡し、その場に腰をすえて、ゆっくりと煙草を口にする。
「もう、もう充分よ。ねえ、もうそれは堪忍して1」
五郎と三郎が再びもぞもぞと近ょってくると、京子はすねるように鼻を鳴らし、なよなよ双臀をもじつかせながら消極的な甘い拒否を示すのだ。
「今のサービスに対する、お返しさ。遠慮するねえ」
京子は、前掛たように悶えも見せず、申刀達のするがままに任せてしまう。上へ斬られている滑らかでムチムチし丸太腿を五郎と三郎が片手で抱きこむようにしながら、そっと嘴管を近づけると、京子は、甘ったるい声で囁くようにいうのだ。
「ねえ、それがすんだら、すぐにおまるを使わせて。もうじらしたりしちゃ嫌よ」
「よし、わかった。心配するねえ」
嘴管の攻撃に、京子は白い歯をかちかち噛み合わせながら、むっと白いうなじをのけぞらせた。
「男三人を蹴り飛ばした鉄火娘がよ、こんなに柔らけえとは信じられねえな」
五郎と三郎はゆっくりとポンプを押しながら笑った。
「もう、そんな事、いわないで。お願い」
溶液をゆっくりと注ぎこまれていく京子は甘いすすり泣きの声を洩らしながら唇を慄わせた。
「そら、たっぷり注いでやったぜ」
男二人は空になった浣腸器を投げ捨て、咲笑した。
「ねえ、早く、ねえったら」
京子は、べっとり脂汗を額に浮かべ、あと一歩のところを必死にこらえるようにして、哀しげな声を出すのだ。
「もういいでしょう。早く、おまるを、ああ、もう気が狂いそうだわ」
緊縛された上半身を揺さぶり、吊られた両肢をブルブル慄わせる京子を見た五郎と三郎は、わざとゆっくり便器を取り上げた。
「さて、男勝りの京子姐さんは、どんな色のものをお出しになるかな」
「空手蹴りを喰わした男達に手伝わせて流し出すなんて、いい気なもんだぜ」
二人が双臀の下あたりに便器をあてようとした時、清次がゆっくり近づいていく。
「じゃ、京子。男達にこんな世話までやかせるんだ。すっきりした気分になったら美津子と仲のいいショーを演じて俺達を楽しませてくれなきゃ駄目だぜ」
清次は牧滑な顔をして、せせら笑うのだ。
「な、何ですってっ」
辛うじて、ぎりぎりこらえていた京子は、清次のその言葉に慄組としていった。
「そ、それは、どういう事ですの」
限界に来た生理の苦痛をぐっとこらえながら、京子は頬を礫化させて血走った眼を清次に向けるのだ。
これが清次達の陰険な罠であった。
「腹にたまったものを吐き出させてやるというのが、手前に対する復讐になると思ってやがるのかい。そいつをあと二十分くらい、こらえてみな。そうすりゃ美津子の方は許してやる」
ギリギリのところまで京子を追いつめ、もし、排泄すれば美津子を最初の計画通り京子とコンビを組ませるというのだ。何という卑劣な男達——京子の恐怖に見開いた瞳の中に反撥と敵意の色が滲み出ている。
「何でい、その顔。女らしくなりますと育っておきながら、なんておっかねえ顔しゃがるんだ」
と五郎が口をとがらすと、三郎が、
「俺達の眼にそんな恰好を晒しながら、凄んで見せたって、さまにゃならねえよ」
どっと笑い合った男達は、ぴったりと京子の双臀の下に便器をあてたのである。
京子はその瞬間、再び、吊られた両肢を揺さぶらせ、真っ赤に上気した顔を左右に揺すって昂った声を張り上げた。
「卑怯だわっ、あ、あんまりです」
京子は熱い頬に大粒の涙を流しながら便器を押しつけられた双臀を揺さぶらせるのだ。
可愛く秘められた京子の菊の個所まで、思いなしか憤辱に震えているように男達に映じるのである。
「ブツブツいわずに始めたらどうだ。あとの始末は俺達が引き受けてやるからよ」
「美津子とのショーを見せて頂くんだ。出したものの後始末ぐらいはさせて頂きますよ、京子姐さん」
五郎と三郎は、泣きじゃくる京子を見て何ともいえぬ楽しい気分に浸っている。
「兄貴、どうやら京子姐さん、二十分の試練に耐えるつもりらしいぜ」
「よし、そりゃ面白い」
清次は棚の上の置時計を取り、わざとらしく、それを上気している京子の顔の近くへ置いた。
「それじゃ、今から二十分、我慢してみな。がんばり通したなら美津子とコンビを組ますのは勘弁してやる」
清次はせせら笑って置時計の針を廻した。
こんな愉快な拷問はねえな、と男達は揃って引き下がり、畳の上へあぐらを組んで坐ると酒を飲み始めるのだ。
全身に脂汗をねっとり浮かべて苦痛と戦う京子のまわりを春太郎と夏次郎が土人の祈祷師みたいにうろうろ歩き廻っている。
「ねえ、京子さん、そんなに苦しいのなら、ひと思いにすませてしまいなさいよ。いいじゃないの、美津子とコンビを組むことぐらい」
などと、歯をカナカチ鳴らせて耐えつづける京子を、からかうのだった。
「ねえ、京子姐さんたら」
夏次郎がしなだれるように景感のある京子の双臀へぴったりと身を寄せ、便器を押し当てると、
「やめてっ」
貴子は苦痛に喘ぎながらも怒ったような声を出した。
「二十分間と戦っているのよ。京子の気を砕くような事はしないで預戴」
京子は憎悪のこもった眼差しでキラリと夏次郎を睨むようにすると、再び、固く眼を閉ざし、固く唇を噛みしめるのだ。
清次達は離れた所から、京子と夏次郎のそんなやりとりを面白そうに眺めている。
「命がけでがんばっているんだ。下手にお節介をやくと噛みつかれるぜ」
男達は、酒を注ぎ合いながら大笑いしている。
紅潮している京子の頼が次第に蒼ざめ、凍りついたように硬くなっていく。
「妙に、顔が青ざめてきたじゃない。大丈夫かしら」
春太郎と夏次郎は顔を見合わせた。
「あと、あと、何分ですの、教えて」
京子は陶く眼を閉ざしながら唇だけを小さく慄わせた。
「あと、十分ね。どう、我慢出来る?京子姐さん」
京子は、さも苦しげに眉根を寄せながら小さくうなずいて見せ、キリキリと再び激しい労いでこみあげて来た便意を、うっと坤いて耐えているのだ。
「あと五分よ、随分がまんをし通したわ」
春太郎は置時計を見て、次に酒を飲む清次の方に眼を向けた。
この調子なら二十分の耐久時間を京子は通過してしまうかも知れない、という春太郎の顔を読んだ清次達は、淫靡な微笑を口元に浮かべて立ち上って来たのである。
何としても、その時間内に京子を崩壊させねば面白くないのだ。
「へへへ、京子姐さん、よくそこまでがんばったもんだ。おめえの妹思いには、ほとほと感心したぜ」
五郎はそういって、落ちている浣腸器を拾い上げ、三郎と一緒に再び、たっぷり溶液を注ぎ入れる。
「だがな、世の中ってものは、そう甘くはねえのだ。よく覚えておきな」
京子はそっと眼を開き、浣腸器に液を含ませている五郎と三郎を見た。その刹那、蒼ざめた京子の顔に、戦慄めいたものが、さっと掠める。
「そら、ここでもう一つ御馳走してやるぜ」
二人が京子の下半身の方へ廻っていくと、
「な、何するのっ。これ以上まだ、そんな事する気なの。や、やめて、後生です」
蒼白い頬をわなわな慄わせて昂った声を出す京子だったが、それをなだめるように春太郎と夏次郎が左右から京子の顔へにじり寄るのだ。
「もう諦めるのよ、京子姐さん。いくら意地をはったって、この人達に勝てるはずは、ないじゃないの」
「この人達は、どうしても京子姐さんと美津子をコンビにしようとしているのよ。私だって美しい姉と妹のコンビが誕生すれば、どんなに素敵だろうと前から思ってたのよ。だから、ね、もうこれ以上、駄々をこねないで新しく生まれ変って頂戴」
因果を含めるように、二人のシスターボーイは京子の頼へ鼻をすりつけるようにしていくのだ。
京子の黒眼勝ちの美しい眼の中に、もうどうにもならないといった悲しい諦めの色が滲み出す。
ハラハラと、幾筋もの涙を頼へ流した京子は、その哀しさを湛えた眼をゆっくりと閉じ合わせていくのだった。
涼子の双臀の方をゆっくり攻撃する五郎と三郎は、京子がもうすっかり諦めムードに浸り、反撥の意志は完全に喪失したことを知って悦びに胸をときめかしながら、
「おめえが美津子とコンビを組んで、お座敷ショーのスターになってくれりや、俺達はもう安心ってものだ。今までの恨みは一切、水に流してやるぜ」
といい、優しさをこめて、追い打ちをかけるのだ。
京子は、先程までとは打ってかわったように、しっとりした悶えを見せながら、
「負、負けたわ。もうどうにでもして♢♢」
と、甘美な呻きと共に女らしい涕泣を洩らし始めていたのである。
「よし、いい子だ、いい子だ」
と、五郎と三郎は嘴管をゆっくりと太腿に滑らせた。
京子は息苦しいばかりにムチムチとした官能味豊かな太腿や腰のあたりをうねらせてそれに反応を示したが、薄く眼を閉ざした京子の上気した顔には一切の希望を捨てたというような端正な美しさが滲み出ている。
五郎や三郎の手で続々と溶液が送りこまれていくと、ああ、と切なげに艶々したうなじをくっきり浮き立たせ、房々した黒髪を振りつづけるのだった。
五度日の浣腸を甘受した京子は、今はもう周囲に陣どる悪魔達に魂の皮まですっかり剥ぎ取られてしまったように柔媚さまでが加わって、白く輝く緊縛された美しい裸身をベッドの上でうねらせている。
「それじゃ京子姐さん、おまるを使うかね」
嘴管の攻撃を加えたあとに、脱脂綿を軽く押しつけていた五郎はいった。
京子は甘えるように小さくうなずいて見せた。
「それじゃ、これでお前は美津子とコンビを組むことに決定だ。いいな」
清次は京子の頓に手をかけ、勝利の快感に酔い痴れたような顔つきになっていう。
「さ、はっきり返事しな。そうすりゃおまるをしっかりと、あててやるぜ」
清次は京子の鼻をはじき、耳をひっぱり、口元を意地悪く歪めてせせら笑うのだった。
「美津子とコンビを組んでくれるわね、京子姐さん」
春太郎は縄に緊め上げられた京子の形のいい乳房に頼ずりせんばかりにしながら、清次と調子を合わせていった。
「わ、わかったわ。美津子とコンビを組みます」
京子が繊細なすすり泣きの声と共に、はっきり口に出していうと、清次も五郎も歓声を上げた。
「よし、わかった。五郎、京子姐さんにおまるを使わせてあげな」
清次にいわれた五郎と三郎は小児用のおまるを再び取り上げて京女の双臀の下へぴったりあてつけた。
「長い間、おあずけ喰わせて、すまなかったなあ。もう遠慮はいらないぜ。さ、のびのびとすましな」
むせ返るように悩ましい量感のある双臀に五郎達は軽く接吻まで注ぎながらいうのだ。
憎い悪魔達の手で、排泄まで始末されるという屈辱感は、もう京子の脳裡から消え失せて、ただ、この、すでに限界を通り過ぎた苦痛から解放されたいという、血走った思いがあるだけである。
「ねえ、もう少し、下の方へ当てて」
京子は含患みの色を顔一面に浮かべて甘く囁くような声を出すのだ。
「これでいいかい。京子姐さん」
五郎と三郎は、身を乗り出していった。
「それじゃ私達もお手伝いしましょうか」
春太郎と夏次郎はポケットからチリ紙を出して五郎達の傍へ寄って行った。
「しても、してもいいのね」
男達の含るような視線の集中を受けながら京子は、自分に決心を強いるような口調で、はっきりいった。
「さあどうぞ。空手二段の鈴火姐さんが縛り上げられた素っ裸のまま、どんな顔つきでお始めになるか、こいつばかりは少々臭くても、ゆっくり見物させて頂きましょう」
清次はギラギラした眼つきになっていい、次に春太郎に向かっていった。
「京子が終わりや、すぐにここへ美津子を連れて来な。京子の気が変らねえうち、二人を結ばせてしまうんだ」
「わかったわ。お道具の方の支度もちゃんと出来ているのよ。でも、お兄さん、何もかもうまくいったじゃない」
と春太郎は、しなを使って清次の腕を叩くのだ。
「さ、京子姐さん。お腹に溜ったものを、すっかり流し出しゃ、すぐに美津子とからんで頂きますからね。ぐずぐずせず始めて頂きやしょうか」
五郎は便器で京子の双腎をゆさゆさと揺さぶった。
「美、美津子。抑さんを許して——」
京子はかすれた声で祈るようにそういうと、充血した顔を、さっと横へ伏せた。
身も心も微塵に打ち砕くばかりに京子はぐっと下半身を伸ばすようにすると、こらえにこらえていた緊張を解いた。
京子の排泄が始まると、男達は大仰な声をあげて笑いこけた。
「まあ、すごいわねえ」
春太郎も小さな便器の底に次々と溶びせかけていく京子のそれを見て、ハンカチで口を奪いながら笑い出す。
「空手で蹴り倒した男達の手でこんなものを始末させようというんだからな。いよいよ、恥知らずな女だぜ」
清次は大きく口を開けて笑いながら、すさまじい水しぶきと共に黄金の山を築いていく京子の羞恥ののたうちを凝視しているのだ。
発作は次々と起こり、吊られた優美な両肢や腰の辺りをブルブル痙攣させながら、京子は獣のような呻きと共に五郎の持つ便器にどっと浴びせかけ、羞恥と屈辱の折り混じった狂おしいばかりの身悶えを見せた。
「全くいい気なもんだ。随分と派手にやらかすじゃねえか」
ようやく発作がおさまった京子は、火のように熱くなった顔を横へねじって激しく涕泣する。
「もういいの、京子姐さん」
春太郎と夏次郎が引き上げた五郎と交代して京子に寄り添い、優しさをこめて後始末にかかり出した。
「いいのよ。そんなに羞ずかしがらなくっても、私達がきれいにお掃除してあげるわ」
丹念に拭いながら春太郎は、もう涙も涸れ果てたように潤んだ瞳を哀しげにしばたたき始めた末子を見て、
「ね、これでさっぱりしたでしょう。もう京子姐さんは、清次さん達に頭は上がらないわね。とんでもないものまで見せてしまったのだもの」
と、クスクス笑うのだ。
すっかり後始末された京子は全身から力が抜けてしまったように、うっすらと気弱な眼を見開いている。
「じゃ、美津子を連れて来な。約束は早いとこ果たしてもらった方がいい」
清次はそういって、吊り上げている京子の両肢の縄を解いた。
どさりとベッドの上へ優美な京子の両肢は投げ出されたが、放心してしまった表情の京子は、もうどうする気もなく、投げ出された両肢をそのまま放置している。
「そら、起きるんだ」
五郎と三郎はベッドの絶を解き、京子の下半身を起こさせた。
「早速だが支度にかかってもらうぜ」
清次は道具を持ち出して京子の鼻先へ突きつけた。
京子はもうすっかり覚悟を決めたのか狼狽は示さず、艶々しい黒髪を顔半分にもつらせたまま、静かに顔を伏せている。
克郎と三郎は手ぎわよく、京子をもう一度、後手にキリキリ縛り上げていく。
「へへへ、もう楯をつく元気は完全になくなったようだな。これだけのものを俺達に始末させたんだ。いいか、よく見ておけ」
京子をかっちりと後手に縛り上げた五郎はベッドの下の便器を取り上げて蓋を開けた。
身も心もどろどろに溶かされたように深くうなだれている京子は、その便器を鼻先に近づけられると、ふと、狼狽の色を見せ、哀しげに眼をそらせる。
「見るんだ。手前はこんなものを俺達の手で始末させたんだぞ。よく覚えておきゃがれ」
五郎は京子の髪の毛をわしづかみにして、ぐいと顔をそれに向けさせた。
「おめえのような綺麗な顔をした女が、こんなものを流し出すなんて信じられねえな。なあ、大きく眼を開いて、はっきり見ろ」
男達はゲラゲラ笑いながら、哀しげな視線をそれに注ぎ始めた京子の熱い頬を指で突くのだ。
「それじゃ春太郎、京子にそいつを取りつけてくれ」
「あいよ。京子姐さん、ベッドから、降りて頂戴な」
春太郎は京子の縄尻をとってベッドから引き下ろした。
数度の浣腸を受けた京子は体の重心がとれず、すぐに腰が砕けてその場に坐りこんでしまうのだが、しっかりしてよ、と春太郎は京子のふくよかな白い肩に手を貸してその場へ立ち上らせる。
「これで美津子と、心だけではなく休まで一つになれるのょ。私が取りつけてあげるわ」
夏次郎は、ビニールの紐がついた奇妙な代物を持って、京子の願のあたりに身をかがませた。
妖美夫人
伊沢は寝床の中で、ゆっくり、煙草を吸っている。
もうすっかり夜は明けたようだ。
昨夜は三時間から四時間もかけて伊沢は静子夫人の柔軟で官能味豊かな肢体より情欲を満喫させたのだ。
伊沢は肘枕をしながら、隣でかすかな額息をたてている静子夫人の横顔を見つめた。
艶々しい長い黒髪を端正な片頬に柔らかくもつれさせている夫人の寝顔は、世にも美しいものに伊沢には思えてくる。
伊沢は夜具をそっと剥いで、もう一度、夫人の寝顔を惚れ惚れと眺めた。
雪のように白い夫人のうなじから肩を伊沢は眼を細めて。眺めている。
一糸まとわぬ素っ裸のままの静子夫人は、伊沢に耳のあたりをくすぐられて、軽く寝返りを打った。陶器のようにスベスベした背中、優美な肋線を描く腰部、そして、たくましく盛り上った美しい双臀♢♢伊沢は引き寄せられるように夫人にまといつき、柔媚なうなじから肩のあたりに口を押しつけた。
昨夜の夫人の火のようなて心さに伊沢は完全に痺れきり、その悦楽の残り火の中をいまだに、さ迷っていたのである。
このように天使のような美貌を持つ女が、あのような男の官能の芯まで痺らせる技巧を持っているとは——伊沢はちょっと、信じられなかった。
縄を解いてやった夫人の、フランス式体位というのを思い出しても伊沢は全身が揉み抜かれるような痺れを感じてしまうのだ。
夫人の舌は、この世のものではないような陶酔を伊沢に与えたのである。
お笑いにならないでね、これも鬼源さんから教わった事ですのよ、と情感に溶けそうになった美しい瞳で仇っぼく笑いかけ、甘い舌の先端で万遍なく愛撫して、ねえ、これ、イタリア式というのですってよ。お気に召して——と夫人は更に、大胆に舌を差し入れてくる。伊沢は完全に痺れて、自分の方はもう為す術もなく、ついに自失してしまったのだ。
感覚が完全に酔い痴れてしまったのだが、ふと、薄眼を開けて眺めると、夫人はまるで生血を吸った魔女のように、ふと凄惨な表情を見せ、頬頼の辺りを手の甲で拭いながら、再び火のように熱い接吻を注ぎかけるのだった。
やがて元気を回復した伊沢の挑戦に応じ、求められるままに伊沢の膝で見せた夫人の甘い身悶えや艶めかしい動き、そして、伊沢の心を溶かすようなハスキーな夫人の涕泣など——伊沢は、夫人の美しい寝顔をしげしげと見つめながら、昨夜の情事を熱っぼく思い出しているのだ。
ふっと夫人は眼を開いた。
伊沢と視線が合うと夫人はハッとしたが、すぐに思い出したように白く冴えた頬に微笑を浮かべ、伊沢の胸に甘えかかるように、額を押し当てた。
「昨夜は凄かったね。あんな濃厚なセックスは、生まれて初めてだよ。奥さんのすばらしさに、僕は完全に痺れたね」
「嫌々。朝からそんなお話はなさらないで」
静子夫人は、翳の深い潤んだ瞳ですねるように伊沢を見上げ、体を小さく縮めるのだ。
そんな夫人がいじらしく思えて、昨夜嫌がるのを無理やり菊花賓めなど加えていじめ抜いたことがふと後悔めいた気分になってくる。
夫人はそっと布団から出ると片手で乳房を覆い片手で前を隠しながら、体をくの字に的げて鏡台のある所まで行くのだ。
「でも、こんな暖かいお布団でゆっくり眠らせてもらったのは久しぶりですわ。いつも、薄暗い地下室の冷たい布団で寝ていますのよ」
静子夫人はブラシをとって豊かな黒髪をとき優雅でしなやかな手つきで朝の化粧をしていくのだ。
「いつも、そうして、素っ裸にされたままなのかい」
夜具の中から伊沢が聞くと夫人は象牙色の美しい頬に琳しげな微笑を浮かべるのだ。
「ええ、いつもこうして生まれたままの姿、縄を解いてもらえることなんて、滅多に、ありませんわ」
「そりゃちょっと、かわいそうだな」
伊沢は立ち上って夫人の背中へ寝巻を着せかけてやる。
「すみません」
静子夫人は翳った美しい瞳を伊沢に注ぎかけ、再び、鏡の方を向いて、そっと口紅をひくのだった。
こうして鏡に向かい化粧する何分かが安らぎを覚える一時である。夫人は丹念に化粧すると、情緒的な柔らかい視線を伊沢の方に向けて、
「これでお別れですね。もうすぐ千代さんが私を迎えに来るはずですわ」
という。
その言葉が終わらないうち、ドアが開いて千代が川田と吉沢を後ろに従えるようにして入って来た。
「如何が、伊沢先生、今朝の御気分は——」
千代は含み笑いをして夫人の構にあぐらを組む伊沢の顔を見た。
「静子が何か失礼な態度をとったりはしなかったですか、先生」
千代は、その場に膝を折ると煙草を取り出して口にした。
「いや、堪能させて頂きましたよ。こんな楽しい思いをしたのは生まれて初めてかも知れないな」
「そうですか、そりゃよかった」
川田と吉沢は綺麗に化粧した静子夫人の横顔を満足げに眺めて、
「それじゃ奥さん、調教室へ入る時間だよ。行こうぜ」
と、つめ寄るのだ。
「ちょっと、待って下さいまし。今、すぐ参りますから」
夫人が立ち上り、部屋についている手洗所の方へ急ごうとすると、千代がさっとその前に立ちはだかった。
「どこへ行くつもりなの、もう時間がないのよ。今朝は特別にゆっくり朝の時間をとらせてあげたはずでしょ」
「でも、お手洗に行くだけです」
「ブツブツいわず、その洛衣をお脱ぎ。何時ものように素っ裸になるのよ」
千代は、蛇のような陰険な眼つきになって夫人を睨むのだ。
静子夫人は、陰影の深い瞳を哀しげにしばたかせながら浴衣の紐を解く。
静かに浴衣を肩から脱いで全裸になった夫人は腰をかがめて丁寧にそれを畳むと、ゆっくりと立ち上り、乳房と前を両の手で隠しながら千代の方へ冷たく整った顔を向けるのだった。
「ほんとに、見れば見るはど綺魔な体をしているわね。色の白さなんか、まぶしいくらいだわ。黒人とのショーは、きっとすばらしいものになると思うわ」
静子夫人はハッとした表情になる。
黒人のジョーがここへやって来たのだろうか。覚悟していた事だが、急に胸が動悸し、静子夫人の美しい頬には、かすかに血の気が浮かび出す。
「ジョーに連絡がとれたんだ。奴は、仲間の一人と明後日、ここへ来ることになっている。しっかり頼むぜ、奥さん。なにしろこのショーは、これから、うちの看板になるものだからな」
川田と吉沢は麻縄をたぐりながら夫人の後ろに廻った。
ボンと背をつかれた夫人は、象牙色の容貌を強ばらせながら静かに両手を背後に贈すのだ。
乳色の滑らかな背の中程に交錯した華替な両手首を、川田と吉沢は素早く縄がけし、余った縄尻を前へ二巻三巻と廻して両乳房の上下をかたく緊め上げていく。
美しい顔を斜めに伏せて、柔らかい睫を慄わせて、されるままになっている静子夫人を、かっちり後手に縛り上げた川田と吉沢は縄尻を手にして、
「さ、歩きな」
と、その柔軟な肩を手で押した。
「ちょっと、待ってよ」
千代は、床の間の柱を指さした。
ここへ一旦、縛りつけて頂戴、と千代にいわれて川田と吉沢は夫人を押し立て、床の間の柱を夫人の背にあて、キリキリと縛りつけるのだ。
「あと三十分ばかり、伊沢先生と水入らずでお名残りを惜しませてあげることにするわ。今日からニグロとショーをするための激しい調教に入るのだからね。もう当分、伊沢先生と逢えないのだから、うんと先生に甘えるがいいわよ」
千代は片頬を歪めて笑うと、床の間の花瓶を取って伊沢に手渡した。
「これで奥様の欲求を受けてあげてね。いいでしょ」
千代は、川田や吉沢に眼くばせして、しばらく私達、遠慮しようじゃないの、と、表へ出て行くのだ。
伊沢はその意味がわかって花瓶を、ぴったり揃えている夫人の足首の前に置く。
ふと、それを眼にした夫人は自嘲的な微笑を口元に浮かべて、情感にねっとり潤む瞳を伊沢に注いだ。
「キッスして。お別れのキッスよ、ねえ、伊沢先生」
伊沢は夫人のどこか暗い翳りを含んだ媚態に妖しく胸をときめかしながら、吸い寄せられるように夫人に近づくのだ。
伊沢の押しつけて来た唇にぴったり紅唇をあて夫人は、しっとり濡れた舌先を伊沢の口の中に入れて甘く柔らかく愛撫し充分に吸わせてから、次に優しく吸った。
そっと伊沢から唇を離した静子夫人は伊沢の頬に熱い頬を摺りつけながら、
「させて下さる?ねえ、先生——」
と、色っぼさを溶けるように含んだ流し眼で伊沢を見るのだった。
「いいとも、任しておき給え」
伊沢はホクホクした顔つきで、花瓶を夫人の爪先のあたりに置き、
「これぐらいでいいだろう。ここにいるのは僕一人だけだ。さ、羞ずかしがらずに始めてごらん」
夫人は、なよなよと朱に染まった美しい顔を左右に振って、
「このままで、その花瓶の中へ入れろとおっしゃるの。そんなの無理ですわ」
と鼻を鳴らすのだ。
「もう奥さんは立ったままで用をすますことが出来るはずだろう。さ、男の子のように、始めてごらんよ」
「ひ、ひどいわ、静子は女ですもの」
夫人はくなくなと、さも羞ずかしげに身をくねらせるのだ。
「ぐずぐずすると、千代さん達がやってくるよ。さ、今、ここですまさなきゃ、もっと辛い思いをしなくちゃならないんだぜ」
伊沢が痺れるような思いになって、そういうと静子夫人は、
「その代り、お笑いになっちゃ、嫌よ、伊沢先生」
と、翳った美しい瞳をねっとり潤ませながら伊沢にいい、ぴったり閉じ合わせている息苦しいばかりに緊まった優美な太腿を静かに左右へ割り始めたのである。
「駄目駄日、もっと大きく開いて」
「うん。また、静子を、笑いものになさる気なのね」
静子夫人は、媚を含んだ声で伊沢にいうと更に露にむっちりした乳色の太腿を切り開いていく。
「ねえ、瓶が遠いわ。もっと、前へ、ねえ、お願い」
夫人は色っぼくすねて、横に立つ伊沢へ甘えかかるように、額を押しつけるのだった。
第八十四章 黒の恐怖
逃れられない抵抗
「終わったの」
ドアが開いて千代が川田達と再び顔をのぞかせた時には、静子夫人は最後の一滴を伊沢の持ち添える花瓶の中に落とし、室内も揺らぐような真っ赤な顔を横へねじ曲げ、美しい眉根をしかめている。
「もういいのかい、奥さん」
伊沢は、ぴったり花瓶を押し当てながら、ギラギラする眼で夫人を見上げた。
静子夫人は、さも羞ずかしげに、柱に縛りつけられた身をよじりながら、消え入るように少さくうなずくのだ。
「ねえ、お掃除して」
夫人は、羞ずかしさに、もじもじしながら、チラと濡れた情感的な眼を伊沢に注いでいうのだ。
「よしよし」
伊沢はホクホクした顔つきで立ち上がると、千代の方を向く。
「チリ紙を下さい、千代夫人」
千代は含み笑いしながら帯の間より懐紙を出して伊沢に渡した。
再び、身を沈めた伊沢が丹念に後始末にかかり出すと、静子夫人は次第に上気し始め、とろりとした仇っぼい眼つきになって、むっちりした乳色の腿を割り、うっとり甘受するのである。
「ホホホ、いい気なものね。自分の財産を全部取り上げた弁護士さんに体を任せ、その上、あんな事までさせているわ」
千代は、川田と吉沢を見て、わざと大声で笑った。
「さ、奥さん、これでいいだろう」
伊沢は立ち上ると、情感を美しい眼に湛えて、じっと夢見るように一点を見つめている夫人の白いうなじに接吻した。
伊沢の唇が、うなじからその端正な夫人の頬のあたりをくすぐり始めると、夫人は首を斜めにして伊沢の唇を求めるのだ。
悩ましい鼻息を洩らしながら伊沢の口中へ舌を差し入れて充分に愛撫した夫人は、濡れた美しい瞳を伊沢に注いで、
「こんなことまでさせてしまって。お願い、静子をお笑いにならないでね」
と、甘く囁くように、上気した頬をすり寄せていうのである。
「とんでもない。こんな感激を味わったのは生まれて初めてですよ。ほんとに、奥さんてすばらしい」
伊沢は優雅な線を描く下肢に接吻し、それからねばりのある夫人の太腿にまで唇を押し当てる。
夫人は、悩ましい声と共に、甘い身悶えを見せて、
「いけませんわ。もう静子、調教室へ入らねばならないんです」
静子夫人は、柔らかいふくらみのあたりへ手を差しのべてくる伊沢に甘い拒否を示して、官能味に満ちた腰部をなよなよと左右へ揺さぶった。
「そう、その通りよ。ねえ、伊沢先生。先生のお名残り惜しい気持はよくわかりますが、もうそろそろ、静子夫人はこちらへ渡して頂かなきゃ」
千代が近づいて来て、伊沢と、夫人の間に入った。
「それじゃ奥様。調教室へ参りましょう。支度は出来ているのよ」
千代は、夫人を床の間の柱から解こうとする。
「ね、千代さん」
夫人は、ニヤニヤしている千代に気弱な視線を向けていった。
「今朝は、どのような調教を静子は、お受けするのですの」
「何しろ明後日、ニグロ二人が来ることになっているでしょ」
千代は縄を解くのを中止して、袂から煙草を取り出して口にする。
「それで、珠江夫人と関係を持って頂くのは、一日のばすことにして、今日は二人のニグロに気に入られるための調教を、みっちり受けて頂こうと思うのよ」
千代は川田の方を見て、ね、奥様にあの写真を見せてあげてよ、という。
待ってましたとばかりに、川田はポケットから何枚かの写真を取り出して夫人の眼の前に持っていった。
ふと、それに視線を向けた夫人は、狼狽して忽ち写真から顔をそむけた。
「ホホホ、今やこの道のベテラン女優である奥様が、今更そんなに驚くことはないじゃありませんか」
と千代は哄笑する。
それは、一人の白人女が二人の黒人と様々なポーズを演じている写真であった。
「どうでい。この写真の白人女は後ろだって実にうまく使ってるじゃねえか。この二刀流さばきにくらべりゃ、奥様はまだまだ勉強不足だぜ。俺達は、お前さんと二人のニグロの写真を、外国へ売りさばく計画を立てているんだからな」
川田はそういい、俺達は奥様をこの道の国際的なスターに仕上げるつもりだ、といって吉沢と一緒に笑うのだった。
「ねえ奥様、こんな白人女に負けちゃ駄目よ。いいわね」
と千代は、煙草の煙を夫人の美しい横顔に吐きかけるのだ。
「何しろこれだけのものに対抗しようとするにゃあ、もっと徹底して磨きをかけなきゃ駄目だ。な、そう思うだろう。も一度、よく見てな」
そういいながら川田は、赤らんだ顔を伏せつづける夫人の頬に手をかけて、ぐいと上へこじあげる。
川田に押しつけられたそれに物哀しげな視線を向けた静子夫人は、思わずブルッと肩のあたりを痙攣させ、
「でも、無理よ、無理ですわ。いくらなんでもこんな事、とても」
そのまま再び顔を伏せて、シクシクすすり上げるのだ。
「弱気を吐くねえ。今日一杯にゃあ、二人の黒ん坊を相手にしても一歩もひけをとらねえような体に、磨き上げてやるぜ」
と、吉沢が歯を覗かせて、手にしていた紙包みの中から、ゴム状の責具を二個、取り出して見せた。
「これが二人のニグロのサイズに合わせた調教具だ。この二つを、見事に使いこなすことが出来るまで、今日は徹夜してでも調教を続けるからな。そのつもりでいな」
吉沢は、そういって夫人の縄尻を床の柱から外し取った。
「さ、行こうぜ。二階の調教室だ」
緊縛された夫人の乳色の肩を、川田はボンと押す。
乳色の脂肪がねっとり輝く美しい裸身を、川田と吉沢に引き立てられていく静子夫人を見ると、伊沢はあわてて立ち上り、
「僕も何か手伝わせてくれないか」
と、川田にすがるのだ。
「先生、これはお遊びじゃなく、この奥さんの身体をニグロに合わせるように、磨きをかけるんです。こっちにとっちゃあ、真剣な仕事なんだぜ」
川田は苦笑していうと、
「ま、いいじゃないの。伊沢先生は片時も静子夫人から離れたくないんだから、何かお手伝いしてもらいましょうょ」
と、千代は笑うのだった。
静子夫人はその端正な美しい顔を哀しげに曇らせながら、吉沢に縄尻を取られて、部屋を出て行く。千代、川田、伊沢の三人は、そんな静子の周囲を包むようにし、楽しげに一緒になって歩き出すのだ。
「一日も早く、そのニグロと奥様のショーが見たいわ」
と千代は、夫人の優雅な横顧をしげしげと見つめながら愉快そうにいうのだ。 この冴え渡った雪白の夫人の肉体が、ニグロの大男二人とからみ合う日も間近いと思うと、千代の心はときめくのである。
静子夫人は、もうすっかり覚悟を決めたように冷え切った表情で、一歩一歩、廊下を歩みつづける。
豊かな形のいい乳房の上下に麻縄を数本巻きつかせ、上背のある伸びやかな美しい裸身を調教室へ向けて歩ませる静子夫人は、何か遠い夢でも想い出すような潤んだ眼つきを前方に向けながら、二階へ向かっていくのだ。
夫人の一歩一歩階段を上がるごと、悩ましく双臀は揺らぎ、両の太腿あたりの繊細な柔らかいふくらみが、ブルブルとムるえている。
「それからね、奥様。香港の犬も取り寄せることにしたのよ。外国ではそんなショーは最近流行してるというじゃない。ニグロがすめばそのショーを企画するわ。これからは奥様も一層、勉強して下さらなきゃ困るわ」
千代はそういって調教室のドアを開けた。
鬼源がひょっこり首を出して、黄色い歯を見せて笑った。
「待ってたぜ。さ、こっちへ来な」
鬼源は吉沢に代って夫人の縄凱をとると、ベッドの置かれているフロアを横切って、カーテンに仕切られた一室へ連れていく。
天井から吊るされている鎖に夫人の縄尻をつないで、その場に夫人をすっくと立たせた鬼源は、その前の椅子に坐って胸をはった。
そのカーテンに仕切られた一室は、鬼源にいわすなれば、彼の研究室ということで古ぼけた机などもあり、その抽出しからノートを取り出した鬼源は、気取った表情でペラペラめくり出すのだ。
「話は聞いたろうな。明後日、ここへ黒人のジョーとその仲間のブラウンが来ることになったんだ。奴等はこの道のベテランだからな。ひけをとらねえように今日はみっちり総仕上げにかかるぜ」
千代や川田達も部屋へ入って来て、鎖に吊られた夫人の周囲を取り囲む。
「それから言うまでもねえ事だが、向こうのパン助のおしゃぶりは抜群だ。ジョーやブラウンに気に入られるよう、そいつもみっちり勉強してもらわなきゃあな」
鬼源はそういって、そら、一度、アーンと大きく口をあけてみな、と、夫人につめ寄るのだ。
夫人は、しいんと凍りついたように優雅な横顔を見せて口をつぐんでいるので、鬼源は怒って夫人の耳をひっぱる。
「聞こえねえのか。大きく口を開けろといってるんだよ」
夫人は恋しげな色を浮かべて小さく口を開くのだった。
「馬鹿野郎、相手は黒人だ。そんなおしとやかで相手がつとまると思ってやがるのか」
夫人は鬼源に叱咤されて、更に紅唇を開いた。
「もっと大きく、それぐらいじゃ、どうしようもないよ」
鬼源は責具を夫人の紅唇に押しつけた。
夫人はハラハラと涙を流しながら、更に口を開いてそれを含もうとする。
「よし、ま、いいだろ。捨太郎相手に、も一度この練習をみっちりさせてやる」
鬼源はそういって手を引くと、さ、支度にかかろうか、と川田達と一緒にカーテンの向こうへ出て行った。
千代は机の上のウイスキーをグラスに注ぎながら、ニヤニヤと夫人の美しい横顔に見入っているのだ。
「遠山家の美しい若奥様は、ついにニグロをおしゃぶりする娼婦になったか」
千代はウイスキーをなめながら、そういって笑い、
「あとで聞かせて頂くわ。日本人と違ってニグロは、どんな味がするのか。フフフ」
そんな風に揶揄する千代を、静子夫人は美しい眼差しで見つめるのだ。
「ね、千代さん。静子、一つお聞きしたい事があるの」
辞子夫人は千代の言葉のいたぶりをそらすためか、翳の深い眼を気弱に、しばたかせながら口を開いた。
「何なの、奥様」
「病院に入った主人の、いえ、静子の元の主人の遠山の事なのです。どなたか看病に行って下さってる方がいるのでしょうか」
涙ぐんだ瞳を千代に向けて、静子夫人はおどおどした声を出すのである。
「ホホホ、奥様ったら、まだ以前の御主人の事を思っていらっしゃるの」
「いえ、そんな。もう静子は遠山とは何の関係もございませんわ。でも、病気で入院していると思うと、何か不憫で」
そういった静子夫人は耐えられなくなったように頬を伏せ、ハラハラと涙を流すのだった。
「まあ、奥様ったら、素っ裸の女奴隷になっても心根だけは、とても純情ね。感心しちゃったわ」
千代が皮肉たっぷりな言い方をした時、カーテンが開いて鬼源が入って来た。
「支度は出来たの、鬼源さん」
千代が首を上げると鬼源は、
「もう少しです。同時受け人れの調教を受ける静子夫人を森田組が写真に撮っておきたいというので、今、その準備中なんですよ」
カーテンの隙間から見ると、ベッドの周囲に森田組の若い衆がライトをつけたり、カメラの位置を決めたりしている。
千代はその後、静子夫人のぴったり揃えた華著な足の爪先へ、わざと洗面器を置き、グリセリン液を溶かし、鬼源にいわれたように食用酢をそれにたっぷり注ぎこみ、また酒なども混ぜ合わせるのだった。
時々、夫人はチラリと、千代が作る溶液に恐怖の眼差しを送り、すぐに眼をそらせて、ぴったり閉じ合わせた太腿のあたりをブルブル慄わせるのである。
「こんなものを三回もお腹の中に注ぎこまれるなんて辛いわね、奥様。でも、これは奥様のアヌスを白人の女に負けないようなものにするための調教よ」
千代は仕事をすますと立ち上って、深くうなだれている夫人の、白い柔らかい肩に手をかけるのだ。
「その代り遠山の事は心配しなくともいいわ。私が時々病院へ見舞いに行ってるから」
「千代さん。ほんとに、遠山の事は、お願いします」
静子夫人は大粒の涙を流しながら、千代に頬を押しつけるようにしていうのである。
「さ、支度は出来たぜ」
川田が吉沢と一緒に入って来る。
「浣腸から排泄に至るまで、フィルムに撮るそうだ。そのつもりで頼むぜ、奥さん」
カーテンを大きく開くと、ベッドの方はもうすっかり支度が出来て、森田組のやくざ達が煙草をふかして待機している。
千代は、川田を呼んで何か耳元に囁いた。
「成程、そいつは、いい思いつきだ。俺が、その文章を考えてやろう」
川田は机に坐って、楽しそうに何かメモ用紙に書き始めた。
「ねえ、奥様」
千代は皮肉っぼく微笑して、静かに眼を閉ざしている夫人に近づいた。
「遠山家には、まだ以前の女中達が残っているのよ。一つ、奥様から、声の便りを送って頂きたいわ」
ふっと眼を開いた静子夫人は、千代の顔を不思議そうに見た。
梅子や清枝、英子などの女中は、何時かは夫人が戻って来ると信じ、千代の虐待にも耐えて遠山家にまだ居残っているという。
「では、梅子さん達はまだ遠山家に——」
静子夫人はハラハラと涙を流すのである。忠美な女中三人が、未だに自分の帰りを待っていると思うと、たまらなく胸がこみ上ってくる。
「全く馬鹿な連中よ。何とかして追い出そうとしているん
だけど、奥様から連絡があるまでこの屋敷より引き下らないとねばっているの。だから奥様からうまく説得してもらいたいのよ」
「説得するとは、どういう事ですの」
静子夫人は、涙をキラキラ浮かべた美しい具眼を千代に向ける。
「つまり、女中たち全部を、屋敷から追い出すのよ。奥様のメッセージがあれば、納得して出て行くと思うわ」
静子夫人の脳裡に、梅子達、忠美な三人の女中の面影が懐かしく浮かび上ってくる。
広大な遠山家の庭園の一隅に建てられた茶室で月に一度、静子夫人は千代も含めて四人の女中へ茶をふるまったが、その時の静かに正座した女中達の顔が、まるでついこの間の時のように生き生きと浮かんでくるのだ。
千代も夫人と同じ情景を思い出して、
「お茶室で、私も梅子達と一緒に、よく奥様から茶道の稽古をさせられたわね。その時の奥様は私達には、まぶしいくらいに気高いものに思われたわ」
縞お召を着た静子夫人が優雅で端正な横頬を見せて、もの静かに切り柄杓で薄茶を作る光景が千代にも思い出されてくるのだった。
「ホホホ、それが今じゃどう。素っ裸の女奴隷。しかも明後日は、あのおうすを、もの静かにお飲みになった花びらのような美しい唇でニグロをおしゃぶりになるなんて」
「ああ、千代さん」
静子夫人は、たまらなくなったように顔を伏せシクシクすすり上げるのだ。
「どうしてそんなに静子を悲しませるの。静子は今は心も体も性の奴隷になり切ったつもりなのです。後生です。もう昔の事はおっしゃらないで」
夫人は声をつまらせて、さっと顔を横へねじった。
はかない抵抗
悦子がカーテンを開いて、ひょっこり入って来た。
「いい所へ来たわ、悦子。早いところ、奥様にお化粧をしてやって頂戴」
千代は、森印組の仕事の様子を見るため、川田と一緒にカーテンの向こうへ出て行く。
鬼源は夫人を吊った鎖をゆるめた。
床の上へくずれるように坐りこんだ夫人を鬼源は冷やかに見下ろして、
「悦子に美しく化粧してもらったら、すぐ調教にかかるからな」
と言い捨て、外へ出て行った。
「悦子さん」
静子夫人は、気弱な瞳を悦子に向け、何かいおうとしたが、言葉にならず、そのまま深く首を落としてしまった。悦子は、そっとカーテンを開いて外の気配を窺ってから、夫人の傍へ身を寄せてくる。「ね、奥さん。私、もうこれ以上、奥さんがあの連中にいたぶられるの、見ちゃいられないわ」
「そ、そんな事いったって、悦子さん。もう静子は、この生地獄から逃れる方法は、ありませんわ」
静子夫人は何かを訴えるように濡れた美しい情緒的な眼差しを、悦子に向けていった。
「逃げましょうよ、奥さん」
「えっ」
悦子の言葉に、夫人はハッと美しい顔を硬化させる。
「ジョーにブラウンという黒人の大男がいよいよ明後日には、ここへ来るのよ。そんな連中と奥さんをからませるなんて、この屋敷の連中は、まるで悪魔よ。ね、逃げましょう。今がチャンスよ」
悦子は、カーテンの外をのぞき、すばやく夫人の縛めを解きほどこうとする。
夫人は、むしろ狼狽して、
「いけないわ、悦子さん。もし、私が捕まれば貴女にまで迷惑がかかってしまいます」
「今、そんな事いってる時じゃないわ。乗るか、そるかよ」
悦子は、声を低めて、病院にいる遠山が、今、危篤状態に陥っていることを告げた。
「えっ、それは本当ですかっ」
夫人は愕然として、悦子の顔を見上げた。
「今朝ね、川田と千代がこっそり廊下で話し合っているのを私、聞いたのよ。遠山が亡くなるのも時間の問題だと笑い合っていたわ」
遠山は、すっかり衰弱し切っているが、神経だけは正常に戻って、謔言に、静子、静子はどこにいるのだ、と、うめきつづけているという。
静子夫人は、ハラハラと涙をこぼした。
遠山がそんな状態にあるとは夢にも思わなかった。
「悦子さん。静子を、ひと眼でいい、遠山に逢わせて。ね、お願い」
夫人は、大粒の涙を白蝋のような頬に流しながら必死になって悦子に哀願するのだ。
「だから、ここを逃げ出すより方法はないのよ。いいわね。奥さん」
悦子は夫人の縄をとくと、用意して来た緋の長襦袢を、さっと夫人の乳色の肩にかぶせた。
ひょっとすると、遠山は死ぬのかも知れない。そう思うと夫人は、せめてひと眼でも彼に逢いたい衝動がこみ上り、血走った気分になったのだ。
「あの窓から逃げるのよ。さ、奥さん早く」
悦子は、急いで窓を開けようとしたが、その時さっとカーテンが開いた。
「よ、何してやがるんだ」
鬼源の、どすのきいた声を浴びせられた夫人と悦子は、背中から水を浴びせられたように、ぞっとして、立ちすくむ。
「逃げようっていう景見なのか」
鬼源がギョロリと眼を剥いた。
川田や千代もかけつけてくる。
血の気を失ってつっ立っている夫人と悦子を交互に見ながら、
「悦子、手前、静子を逃がそうとしゃがったな」
と、川田が怒気を含んだ声を出した。
「ち、ちがいますっ」
夫人は必死になって顔を振る。
「私が自分で縄をとき、悦子さんを突き飛ばして逃げようとしたのです」
悦子は、違うわ、と首を振った。
「私が奥さんをけしかけて無理に逃がそうとしたのよ。悪いのは私よ」
「何をいうのよ、悦子さん」
静子夫人は悦子の言葉を、さえぎった。
「静子が勝手に逃亡を計ったのよ。私を、庇うために嘘はいわないで頂戴」
悦子を必死になって、庇おうとする夫人は美しい瞳で、きっと睨むように悦子を見る。
「よし、わかった。じゃ、静子一人でズラかろうとしたんだな」
鬼源は、冷やかにいった。
「そうです。もとより、お仕置は覚悟の上ですわ」
静子夫人は自棄になったようにいいきり、鬼源の方に敵意のこもった瞳を向けるのだ。
「よし、このお仕置は、後でゆっくり考えてやる。今はそれより、ニグロ二人を相手にする調教が先決だ」
長襦袢を脱ぎな、と、鬼源にいわれて、夫人はゆっくりと脱ぎ、元のまま素っ裸となる。川田と森田がつめ寄って夫人の両手を、ぐいと背後にねじ曲げた。
ひしひしと麻縄をかけられる夫人を見た悦子はたまらなくなってかけ寄り、夫人の柔軟な肩に顔を押しつけて、わっと泣き出すのだ。
「こんな事になってしまって、許して、奥さん」
「何をいうの悦子さん。私が悪いのよ。もう何もおっしゃらないで」
夫人の美しい象牙色の頬にも涙が幾筋もしたたり流れる。
「さ、行きな」
と、夫人をきびしく後手に縛り上げた川田は、どんと白い背を突いた。
冷やかな美しい横顔を見せて夫人は川田に引き立てられていく。
第八十五章 恥辱の二輪
姉妹コンビ
床の間の柱に立位で縛りつけられている美津子は、銀子や朱美達が部屋の中へ入ってくると、さっと顔を横へねじった。
「美津子、逃亡を計った罰として、お姉さんと組ませる事に決定したわ」
美津子の潤んだ美しい黒眼が恐怖に大きく開く。
「姉思い妹思いの姉妹をコンビに仕上げれば、もう二度と逃げようなんて気は起こらないと思うわ。いいわね。これから姉妹仲良く息の合ったコンビを組むのよ」
「嫌っ、嫌です」
美津子は狂ったように首を振った。
「姉妹をそんな風にするなんて、あんまりだわっ。嫌よっ、そんな事、絶対に嫌です」
「ところが、お姉さんの方は、ちゃんと承知したのよ」
銀子と朱美の後ろから、これも一糸まとわぬ素肌を高手小手に縛り上げられた京子が清次や五郎に肩や背に手をかけられて引きずりこまれて来る。
京子の口は、きびしく猿轡をかまされている。
「あっ、お姉さんっ」
美津子は京子を見た途端、悲鳴に似た声をはり上げ、姉のあまりにみじめな姿に全身に悪寒のようなものが走って、思わず眼を伏せた。
京子は猿轡をかまされた顔を、ぐったりと落とし、小さく慄えている。
京子もまた、美津子の視線を浴びる事を恐れるように必死に顔を、そむけているのだ。
京子の腰には細いビニールの紐が、まるで褌でも緊めたように結びつけられていて、前に異様なものを取りつけている。
美津子はそれを二眼と見る勇気はなく、真っ赤になってうつ向いてしまったのだ。
「ね、お姉さんは清次さん達に充分、詫びを入れて、妹とコンビを組む決心をしたのよ。この道具が何よりの証拠じゃない」
と、京子の前のものを手で叩いた。
強烈な電気に触れたように身震いして一層深く首を垂れてしまう美津子を見て、清次達はゲラゲラ笑い出す。
「それじゃ、清次さん。京子の方を、次の間に連れていって。今度は美津子の方の支度にかかるから」
銀子にいわれた清次は、よし、わかった、と京子の縄尻を引いて、次の間へ引き立てて行く。
フラフラと歩く京子は涙に濡れてギラギラ光る眼を、ふと美津子の方に向けた。
(美津子、もう駄目だわ。姉さんと一緒に畜生道へ落ちて頂戴)
ひたと美津子を見つめる悲痛な眼の色が、そう語りかけている。
(わかったわ、お姉さん。美津子もお姉さんと一緒に地獄へ落ちます)
美津子む、姉の眼を悲しげに見つめながらそう心の中でつぶやいた。
壁一つへだてた次の間へ京子を引き立てて行った清次達は、天井から吊り下っているロープの下へ京子を押し立て、縄尻をつないだ。
それは春太郎の手で、すでに用意されたもので、京子が一本のロープにつながれて、そこに立つと、別のロープを持ち出し、椅子を使って天井のパイプにつなぎ止める。
がっくりと首を垂れている京子の眼の前へパラリとロープが吊り下った。
「これに美津子を、つなぐってわけか」
清次が春太郎にいった。
「そう。最初にスタンドプレイ。キッスから教えて、ぴったり連結させる」
春太郎は、この企画がよほど気に入ったとみえ、楽しそうに語るのだ。
姉妹仲良くお尻を振り合いながら頂上を極め合うまで続行させるのよ、と春太郎は痺れた思いで、しゃべりつづけるのだった。
「成程、そいつは面白いや」
五郎は笑いながら京子の猿轡を外した。
京子は猿轡をとられても固く口を喋み、眼を閉じ合わせている。
もはや狼狽する気力も失せて、冷やかな横顔を見せながら、京子は深く首を垂れているのだ。
「へへへ、京子。お前と美津子の姉妹コンビはこれから森田組の呼びものになるんだ。そのつもりでレズのこつを、しっかり妹に教えなきゃ駄目だぜ」
清次は、京子の顎に手をかけて、せせら笑った。
京子の固く閉ざした眼尻から涙が一滴二滴糸を引くように流れている。
これから演じなければならぬ魂の凍るばかりの恐ろしい行為♢♢何時か鬼源達に強制されて静子夫人と女同士の行為を演じた事を京子は、荒々しい悲しみの中で、ぼんやり思い出している。今、自分の肉を割って喰いこむばかりにきびしく取りつけられた道具も、あの時のそれとそっくりだ。
鬼源に叱咤され、鞭打たれ、連結された肉体をのたうたせて、夫人とからみ合ったあの時の混乱した情景が、まるで昨日のように京子には思い出されるのだ。
全身に脂汗を浮かべ、むさぼるように夫人の舌を吸い、共に自失した、あの妖気めいた地獄図♢♢しかし、あれ以来、静子夫人は京子にとって忘れられぬ人となった。しかし、あの時の我れと我が身を裂くような底知れぬ恐ろしさと悲しさを、美の妹の美津子と共に味わわねばならぬとは♢♢。
京子は遂に耐え切れなくなったように、さっと顔をねじると、眉根をしかめ、ひきつったような声で、
「実の、実の姉妹で、こんな恐ろしい事を。ああ嫌、嫌ですっ」
わっと京子は、号泣し始めた。
「今更、何をいっていやがる」
と、五郎は鼻で笑った。
「お前は俺達に妹とコンビを組みますと、はっきり誓ったんだぜ。今になって約束をしぶるなんて京子姐さんらしくないじゃないか」
五郎は三郎と顔を見合わせて北叟笑む。
「そうよ。男を足で蹴り飛ばす鉄火娘にしちゃあ、少し情けないじゃないの。しっかりなさいよ、京子姐さん」
と春太郎は、泣きじゃくる京子の白い肩を後ろから抱きしめるようにしてクスクス笑った。
「いくら嫌だといったって今日は女同士、フランス式が出来るまで仕込み上げるつもりなんだからね。今更、何といったって、こっちは受けつけやしないわよ」
春太郎も夏次郎も以前、京子に足蹴にされた恨みがある。それを清次達と一緒に晴らす事が出来る悦びを噛みしめて、残忍な言い方を京子にするのだった。
♢♢一方、隣の部屋では、銀子と朱美が柱に縛りつけられている美津子に、色々と因果を含めていた。
「もうこうなれば、美津子も腹を決めなきゃ駄目よ。お姉さんの方は、すっかり決心したんだからね。あんた達のように仲のいい姉妹なら、きっと、いいコンビが誕生すると思うわ」
銀子は、美津子のカールされた黒髪に紫のヘアーバンドを優しさをこめて緊めてやりながら、いうのだった。
数本の麻縄に緊め上げられた柔らかい胸の隆起の蕾のように赤い乳頭に朱美は、そっと接吻して、
「それが運命というものよ。京子と美津子のコンビが誕生すれば、私達、今までみたいな意地悪はしないわ。うんと大事にするわよ。ね、銀子姐さん」
「そうよ。何時までこんな風に素っ裸にしときゃしないわよ。着るものも着せてあげる」
銀子は、洋服ダンスを開けて、セーラ服を探し出して来た。
「そら、美津子、懐かしいでしょう。あんたがこの屋敷へ最初に来た時、着ていたものよ」
銀子は、濃紺のセーラ服や襞のついたスカートを美津子の眼の前で、ひらひらさせる。
美津子はそれを見ると世にも哀しげな表情になって、顔をそむけた。
そんな物を以前の自分は着ていた女高生であったなど、何か信じられない思いがする。
「だけど、美津子は、ここへ来た時にくらべると、すっかり女っぽくなったわね」
柔らかそうな腹部や、なめし皮のようにしなやかな両腿にも白い脂肪が霞み出し、女っぽさが滲み出ている美津子を、銀子と朱美は頼もしげに見つめるのだった。
それに、ぴったり閉じ合わせている両腿の辺りの淡く柔らかい翳りも、妙に艶々して悩ましさを増して来たように思われる。
「いいわね。美津子もお姉さんと同じように、ここへ清次さん達が来たら、はっきり答えて頂戴。お姉さんとコンビを組んで森田組のために働きますとね」
銀子や朱美に幾度となくつめ寄られ、ねばりつかれて、心身ともにくたくたになった美津子は、ハラハラ涙をこぼしながら、はっきりと、うなずいて見せた。
「お姉さんが覚悟なさったのなら、美津子も従いますわ。清次さん達の気のすむように、なさって頂戴」
はっきりと口に出して美津子がいうと、銀子は手を叩いて喜んだ。
「よくいってくれたわ。これで私も、ほっとしたわよ」
美津子は、もうどうともなれと観念し、すすり上げながら、その中に自虐の快感めいたものを味わっている。
「それじゃね、美津子。今、ここへ清次さん達を連れて来るけど、もうメソメソしちゃ駄目よ。森田組の商品として、また、鉄火娘、京子の妹として貫禄を見せてほしいのよ」
それはどういう事ですの、と、美津子は濡れた美しい黒眼をしばたかせて気弱に銀子の方を見た。
銀子は、ニヤリと笑いながら陰険な要求を始める。
女高生などとは信じられぬ淫らな女である事を清次達に印象づけろというのだ。
「ね、いつか、美津子、吉沢さん相手にすごい色っぽさを発揮したじゃないの。私達もあの時、美津子の演技のうまさにびっくりしたわ。あの調子で清次さん達を有頂天にさせてほしいのよ」
銀子がカールされた美津子の黒髪をかき分けて、耳に何か、囁きかけると、美津子は、ぞっとしたように身を慄わせ、悲しげに眉をしかめて、うなだれる。
「京子だって、逃亡を計った罰として、自分から清次さん達に詫びを入れ、苦しい浣腸を耐えたのよ。美津子だって同罪なんだから、それ位の詫びは清次さん達に入れてもらいたいものだわ」
と、銀子はいい、美津子の可愛い臍を指で面白そうに、はじくのだった。
美津子の覚悟
用意が出来たからすぐに美津子を連れて行こう、という清次達を銀子はおさえて、
「ま、そうあせらなくても、いいじゃない。一寸、ここで一服なさいよ、清次さん」
床の間の柱に立位で縛りつけられている美津子の前には酒や肴が用意してある。
「こりゃ有難いな」
と、顔をくずす清次に銀子は近づいて、
「それに美津子が清次さん達に、さっき姉と一緒に逃げ出そうとした事のお詫びがいいたいというのよ」
「はう。そりゃ感心だ」
と清次は、えびす顔で五郎達を見廻し、美津子の前に、あぐらを組んだ。
「京子は前の道具をブラブラさせながら妹の来るのをお待ちかねだぜ。さ、早く兄貴に詫びを入れな。すぐに京子とからませてやる」
五郎はビールを引き寄せ、清次のコップに注ぎながらいった。
「京子の妹だけあって、なかなか美人じゃねえか」
可憐で清純な美少女を前にして、清次達は唇で舌をしめし始める。
「こういう純情可憐な乙女を見ると、何だか一寸、手が出せねえ感じだな」
と清次がいったので、銀子は、買いかぶっちゃ駄目よ、清次さん、と、清次の横にしなだれかかるように身を寄せる。
「全く純情そうな顔をしているけど、あれでなかなか、したたか者よ。今だってさ」
銀子は、哀しげに眼を伏せている美津子を面白そうに見ながら、
「からませる前に姉の体と同じように剃り上げてやろうと思って剃刀を取り出すとね、それをするなら清次さん達、男の手でしてもらいたいといい出すのよ」
へへえ、と清次は呆気にとられた顔になった。
「俺達の手で剃ってもらいてえというのか。そいつは面白い」
五郎は気もそぞろになって、三郎と一緒にフラフラ立ち上がる。
「剃刀を出しな。俺達が仕上げてやる」
朱美が西洋剃刀と水の入った茶碗を持って来て、ぴったり閉ざしている美津子の足首の前へ置いた。
「ちょっと、美津子、黙っていちゃだめじゃない。何とか、おっしゃいよ」
銀子は清次にビールを注ぎながら、うなだれている美津子にいった。
「駄目じゃないか、泣いたりしちゃ」
美津子が小さく肩を慄わせて、シクシクすすり上げ出したので、傍にいた朱美が、いらいらしながら美津子の肩を揺さぶった。
自分のあまりのみじめさに、思わず胸がこみ上がった美津子であったが、気を取り直したように、さっと顔を上げた。
雪白の頬に涙の筋を浮かべて、ギラギラ濡れ光る黒眼を前に向けた美津子は、比類のないほど美しく冴えて、男達の眼に映じるのである。
「もう美津子は二度と逃げようとは致しません。おっしゃる通り、姉とコンビを結んで、これから森田組のため、一生懸命、働くつもりですわ」
美津子ははっきりした声音でそういった。
「気に入ったぜ。その心がけを忘れるんじゃねえぞ」
と清次は片頬を歪めて大声でいう。
「姉も清次さんにお詫びしたのですから、美津子もお詫び致しますわ。お仕置をお受けします」
そういった美津子は、泣き出しそうになるのを必死にこらえながら、
「姉と同じような体になりたいの。残らず剃って頂戴」
清次が剃刀を取り上げる。
「へへへ、そいつは俺が、仕上げてやるぜ。一本残らず、きれいに剃ってやるからな」
清次がそっと身を沈めると、美津子は甘くすねたようになよなよと、まだどこか幼さの残っている双臀を揺さぶった。
清次は朱美から手渡された茶碗の水を指で掬い、周辺から、なすり始めた。
「優しく、優しく剃ってね。清次さん」
美津子は涙をしたたらせながら、口では甘く清次に、囁きかけるのだ。
「よしよし。仕しておきな」
冷たい剃刀の刃が肌に触れると、覚悟していた美津子だったが、嫌悪の戦慄にブルブルと慄え出す。
「動いちゃ駄目だ。傷でもついたら大変じゃないか」
清次は美津子の尻を、ぴしゃりと叩いて叱った。
美津子は必死になって慄えを止め、清次に命じられて、こころもち肢を開き、腰を突き出すようにした。
「そうだ。そのまま、動くんじゃないぞ」
清次の持つ剃刀の刃が淫靡に滑り始める。美津子は最初、血が逆流するような恐怖の想いで肩先まで慄えたが、次第に諦めの心境に陥り、刃の滑りを甘受するようになった。
(姉さんも、このような目に合ったのだ)
と、その時の姉の口惜しさを想い、美津子は小さく嗚咽しながら清次の手で剃りとらせていく。
「どうだい、お嬢ちゃん。どんな気持かいってみな」
ビールを飲む五郎達は哄笑し、美麗な太腿を伝わって、わずかずつ落下するものを手でつまみとるのだ。
被虐の快味
ベッドの上へ、仰臥させられている静子夫人。ねっとりと脂肪の乗った両肢は極端なまでに割り裂かれ、天井のパイプより垂れ下がる二本の皮紐に高々と吊り上げられている。
豊かな双臀は枕の上に乗せられて、二つの羞恥は堂々とばかり卑劣な男女の前に晒け出されていた。
夫人は、物静かに限を閉ざしている。
気品のある艶やかな頬を、やや斜めに伏せ、緊縛された乳色に霞む優美な裸身は微動もしないのだ。
夫人がものの見事に、巨大な二つの責具を処理してしまうまでの過程をフィルムに収める、という森田の着想で、森田組撮影班という事になっているやくざ数人が、ライトの位置など計っているのだ。
もう一切の望みを捨て、性の奴隷になり切ったというような、ふと荘厳なばかりの美しさが夫人の冴え切った横顔に滲み出ている。
「今日は最後の仕上げだ。いいか、この二つをがっぷりとやれるようになるまで磨き上げるからな。何しろ、今度の相手は、その道を極め尽したという黒人だ。お前にも相当がんばってもらわなきゃならねえぞ」
鬼源は、二つの責具を手の上へ乗せて弄んでいたが、ふと、部屋の隅にぼんやりつっ立っている悦子を見て、
「何をぼんやりしてるんだ。こっちへ来て手伝わねえか」
鬼源は洗面器の溶液を指さし、これを浣腸器に注ぎこめ、と悦子にいった。
「今日はニグロの相手をする事になった静子のために、皆んな張りきって仕事をしているんだ。早くこっちへ来て手伝え」
静子夫人は、ちらと二重瞼の美しい瞳を開き、悦子の方を見た。
悦子の硬化した気持を柔らげるように夫人は微妙な口元に作って、こちらへ来るように眼で合図する。
「それじゃ奥様、支度も出来たようだし、そろそろ調教にかかりますわ」
千代が煙草を灰皿に押しこみ、夫人の美しく緊まった高貴な感じの鼻すじを指で突いた。
「アヌスにはワセリンをお塗りしましょうか、それともコールドがいい」
千代は夫人の双臀の方へ回り、あらわに顔を見せている可憐な感じの菊花を面白そうに見つめた。
「ねえ、千代さん」
静子夫人は千代の質問には答えず、私、最後に一つだけ、お聞きしたい事があるのですと、しっとり潤む美しい瞳を千代に向けたのである。
「病院にいる遠山は病状が悪化しているのじゃありません? ね、千代さん、本当の事を聞かせて下さい」
「聞いてどうするっていうの。見舞いにでも行けるつもりでいるの、奥様」
千代は金歯を見せてゲラゲラ笑うのだ。
「そ、そんな。ただ、何となく予感がするのです。もし、そうなら♢♢」
「もし、そうなら、どうだっていうのよ」
静子夫人は哀しげに眼を伏せた。
もし、そうだったとしても、今の自分にはどうにもならない。自分はもう性の奴隷以外の何ものでもないのだ。
「くだらない事は考えず、奥様はニグロとショーに出演するため、こことこことを鍛えておけば、いいのよ」
千代は、ぐっと削いだように上方へ両肢をはね上げている夫人の豊かな双臀を、平手で叩き、指で押すのだ。
「それよりね、とても、いい話があるのよ」
千代は夫人の臍を指で、はじいて、
「医者の山内さんが今朝、ここへお越しになったのよ」
静子夫人の顔は急に哀しげに歪み始めた。
「手術するならニグロとコンビを組む前の方がいいと山内先生はおっしゃったわ。で、人工授精は明日の朝、十時に決定したの」
静子夫人はハッとして千代の顔を見た。
「フフフ、奥様のお腹に誰のものかわからない赤ちゃんが出来る。考えただけでも私、楽しくなってくるわ。そうなりゃもう二度と遠山の事なんか思い出さなくなるでしょうね」
千代は声を立てて笑った。
覚悟していた事が、遂に恐ろしい日が、やってきたのだ。
それも明日の朝、十時。
静子夫人は死刑執行の宣言をはっきり聞いたような思いになった。
濡れたような柔らかい睫をそっと開き、ばんやり一点に視線を向けている静子夫人の冴えた美しい横顔を千代は見つめながら、
「奥様そっくりの美しい女の子をこの世に誕生させる。これはすばらしい着想だと思うのよ。ですから、奥様に植えつける種は、すごくハンサムなアメリカの青年から、もらい受ける事にしたの」
どうせ生むんなら、黒人との混血より白人との混血の方がいいでしょう、と千代は笑うのだ。
「出産費用とか何とか、これから随分とお金がかかるのだから、今のうちに、たっぷり稼いでおいて頂かないと困るわ。ニグロとコンビを組んだら、一生懸命、働くのよ。わかったわね、奥様」
千代は、コールドの瓶を持ち出して来て、たっぷり指先に掬いとった。
千代がベッドに腰をかけ、柔らかくすりこみ始めると、夫人は美しい富士額を切なげに歪め、ほんのり桜色に染まった頬を横へそらせて溜息のような吐息を吐く。
千代は、夫人の菊座が真綿のような柔らかさを帯びて忽ち開花していくのを面白がっている。それは鬼源達の調教の結果だが、軽い刺戟に対してもすぐに敏感に反応を示すようになっている筋肉に千代は舌を巻くのだ。
「まあ、まるで、別々に生きているみたいね奥様。とても愉快だわ」
千代は悪戯っぼい顔つきになって、高々と枕に乗せられた最感のある夫人の双臀に頼ずりし、更にその微妙な変化ぶりを凝視しながら、いたぶり出すのだ。
これが長い間、自分が女中として仕えた美貌の夫人。
♢♢そう思うと、千代は復讐の快感めいたものが、うずくように胸もとに、こみ上ってくる。
遮二無二いたぶり始める千代の執拗さに耐えかねて、静子夫人は、カチカチ歯を噛み鳴らし、
「ああ、千代さん、もう堪忍して」
と、うめくようにいった。
「考えると、おかしなものね。以前は私、奥様の影さえ踏めぬ、遠山家の下女だったわ。それがどう。今じゃ奥様に、こんな事までしてやっている」
千代がそういうと、今度は川田がそれ.に調子を合わせて乗り出してくる。
「俺だってそうさ。昔は、口一つ、奥様にきいてもらえなかったな」
川田は口惜しそうにいいながら、昔の主人の肌を柔らかく愛撫し始める。
「ああ、川田さん」
静子夫人は、情感の迫った、とろりとした瞳を夢見るように開き、甘えるように、なよなよと肩を揺さぶった。
逃れようのない体を、元の使用人二人の手でいたぶられる苦悩♢♢口ではいえぬ恐ろしいほどの羞恥と屈辱感に、緊縛された美しい裸身をくねらせる夫人であったが、その被虐感と並行して一種異様な快美感が夫人の全身をしめ上げてくるのだ。
千代と川田の二人に残酷に取り扱われ、冷酷にいたぶられる♢♢その被虐感の中からこみ上がるこの快味は一体、どういう意味か。夫人は、ハラハラと大粒の涙を流しなが身も心も、どろどろに溶かされていくのだ。
「この調子だと浣腸なしでも、うまくいくかも知れねえな」
夫人が快楽の源泉の堰を切ったように、おびただしい反応を示し出すと、川田は鬼源より二つの責具を受け取った。
「浣腸されるのは嫌なんだろ、じゃ、奥さん一つ、がんばってみる事だな」
川内は千代と持場を交代して、夫人の量感のある双臀と向かい合う。
夫人は最初、肉が裂けるような痛みに鈍い悲鳴を上げた。
しかし、鬼源の手でほぐすように乳房を愛撫され、乳頭を指でつまみ上げられ、また川田に何度も何度もコールドを塗られて繰り返されると、全身の官能という官能が酔い痺れたようになって、攻めてくる矛先を、わずかずつだが受け止め始めたのである。
「そら、奥さん、もう少しだぜ」
川田も千代も鬼源も一途になって夫人を攻撃するのだ。 夫人は、激しい涕泣と共に男達の仕事に協調を示すべく双臀を、のたうたせている。
そして、自分のたまらない惨めさに耐えようとするかのような顔を横へねじ曲げて、血の出る程、かたく唇を噛みしめるのだった。
姉妹無残
「美、美津子」
清次に縄尻をとられて美津子が引き立てられて来ると、京子は世にも哀しげな表情を見せ、さっと視線をそらせた。
ヘアーバンドをしめた黒髪を、さっと振り払うようにして首をあげた美津子は、その少女っぼい情緒的な黒眼をうるませて、じっと姉の横顔を見つめるのだ。
「お姉さん。美津子は決心したわ。お姉さんと一緒に地獄へ落ちます」
「ああ、美、美津子っ」
京子は美津子の悲痛な響きを持った、その言葉を聞くと、柔軟な肩先を、ぶるぶる慄わせて、すすり上げる。
「さ、行きな」
清次と五郎は、美津子の厳しく後手に縛り上げられた裸身を、後ろから押して行く。
京子の弾力のあるムチムチした肉体に対して、どこかうすら冷たく冴え、華奢で繊細な美津子の裸身がどのように躍動するか、それが清次達の楽しみなのだ。
一本のロープに緊縛された肉体を支えられて立つ京子の前へ、美津子は男達の手で立たされる。美津子の縄尻は天井から吊られている別のロープにつながれた。
ぴったり閉じ合わせている美津子の白い太鵬の附根♢♢その影の部分が、自然の翳りをすっかり失っている事に京子は気づいていたが、それに衝撃を感じる心も、もう喪失している。
これから姉妹で演じなければならぬ魂も凍る屈辱の行為、それを思うだけで京子は気が遠くなりそうだ。
「ホホホ、遂に結ばれる時が来たわね」
銀子は、必死に顔をそむけ合っているような京子と美津子を楽しそうに見つめるのだ。
京子に深く取りつけられている奇妙な物を指で、はじいた銀子は、次に京子の熱っぼい頬を指で押し、
「上手に美津子をリードするのよ。お姉さんに優しくリードされれば、美津子だって、きっと幸せに思う筈よ」
京子と美津子は緊縛された美しい裸身を慄わせながら、遂に耐えられず、互いに声を立てて泣きじゃくる。
「今更、メソメソすんねえ」
五郎が煙草を灰皿に押しこんで立ち上がり嗚咽する京子の黒髪をつかんで、ゴシゴシしごいた。
「さ、始めて頂こうじゃないか」
清次が冷やかにいって、その場にあぐらを組んだ。
「ゆ、ゆるしてっ。どんな目に合わされたってかまいません。でも、こ、こんなことだけは♢♢」
京子は突然、狂ったように髪を振り、全身を揺さぶって清次に哀願し始めたのである。
「馬鹿野郎。いよいよという今になって、約束を破る気かっ」
五郎が、京子の量感のある見事な双臀を足で蹴り上げた。
三郎が青竹を持ち出して来て、美津子の尻を激しくぶつ。
あっと、つんざくような悲鳴が美津子の可愛い唇から洩れた。
「くそ、なめやがって」
三郎は次に京子の双臀を、皮も破けよとばかり力一杯、ぶちつづけた。絹を裂くような声をあげて苦痛に悶え狂う京子と美津子を眺めていた銀子は、やっと男達の中へ割って入った。
「もうその位にしておきなよ。三人とも商売ものなんだからね」
そして銀子は、号泣する姉と妹の肩に手をかけるようにしていった。
「もうこれ以上、痛い目に合うのは、嫌だろう。なら、こっちに手数をかけさせるんじゃないよ」
「美津子。姉さんを、許してっ。もう、もうどうにもならないわっ」
上ずった声でそういった京子は、激しく泣きながら美津子の肩に額を押し当てる。
「姉さん。美津子は、美津子は、もう覚悟は出来ているのよ」
と美津子も、京子の胸に額を当てて、すすり上げながらいうのだ。
「早く始めねえかっ」
五郎が、いらいらしながら青竹で激しく叩いた。
京子と美津子は、そっと顔を上げ、涙に滞れた美しい瞳を静かに、かわし合った。哀しさにフルフル腱を慄わせた美津子は、その滞れた抒情的な具眼を静かに閉じ合わせ、胸にこみあがって来た口惜しさを激情にかえてぶつけるように、ぴたと京子の頬に頼を押し当てるのだった。
「姉さんっつ」
「美、美津子っ」
互いに、むせび泣きながら狂おしく頬ずりする京子と美津子。涙は、とめどなく流れて白い端正な頼を滞らしつづける。
「何をモタモタしてんのよ。早く熱いキッスをしないか」
銀子と朱美は含み笑いしながらいった。
「そう照れずにキッスを早くしてよ。うんと熱烈にね。もうこうなれば二人とも、自分が姉と妹だなんて事は忘れる
のよ。女同士の愛し方って知ってるでしょう、京子」
すると、春太郎と夏次郎も陶酔した表情で乗り出してくる。
「ねえ、早くお口を吸い合ってよ、それから気分が乗ってくるまで、おっぱいと、おっぱいを触れ合わせるのよ」
二人のシスターボーイに肩をつかまれ、揺さぶれた美しい姉妹は、それに反撥するかのように、さっと顔を上げた。
物哀しげに、しばらく見つめ合った京子と美津子は無言のうちに覚悟をたしかめ合ってやがて、ゆっくり眼を閉じ合うと、そっと紅唇と紅唇を触れ合わせていく。
羽根のように柔らかく、撫でるように、さするように唇をすり合わせる二人は、時々、いいようのない屈辱感にブルブルと肩先を慄わせた。
「そんなお座なりな接吻は面白くないわ。ねえ、もっと熱をこめて愛し合ってよ。舌をお互いに入れて激しく吸い合うのよ」
銀子は段々と眼に異様な光を帯び始めて、きびしくいった。
「美津子、堪忍して」
京子は激しくすすり上げながら、首を斜めにして、ぴったりと美津子の唇へ力強く唇を押し当てたのだ。
美津子の薄い花びらのような紅唇を割って京子の濡れた甘い舌が入っていく。美津子は泣きながら、それを吸った。
「おっぱいの、こすりっこをするのよ。さ、京子」
銀子や朱美が胸をときめかして、姉妹の演出にかかるのだ。
麻縄に緊め上げられた京子と美津子の、白く乗らかい乳房が触れ合った。薄桃色の乳頭と乳頭が、甘い感触で、くなくなと摺り合っている。
毛穴から血がふき出そうな屈辱感は何時しか次第に薄れていき、京子と美津子は、女と女の性の妖気にむせ始めて、自意識も薄らぎ始めた。舌を差し入れたり、舌を吸ったり、京子も美津子も上気した鼻息を洩らしながら段々と全身を痺れさせていくのを見てとった銀子と朱美は北叟笑み、京子に、またもポーズを、つけ始める。
京子は柔軟な肉体をうねらせて、今はもう魂をもぎとられた、あやつり人形のように、銀子に指示されるまま、ムチムチした一方の太腿を持ち上げて美津子の両肢の間に割り入れていく。
押し上げるように擦るように、腿を使って美津子を責め上げる京子は、火照った頬を美辞子の頬に激しくすりつけながら、
「許して、美津子。許してっ」
と、うめくようにいうのだ。
「ああ、お姉さんっ」
美津子は姉の責めに煽られて燃え上がっていく自分の恐ろしさにカチカチと歯を鳴らす。
押しつけて来る姉の乳房に乳房を合わせ、柔らかい姉の腿をぴったり両腿に挟んだ美津子は、銀子と朱美に叱咤されながら、何か説明のつかぬ妖気に煽られて、ふと一途になり出した。
ゆるやかに摺り合わせるように可愛い双臀をくねら、、前後に体を揺さぶり始めた美津子を、清次や五郎は固唾を呑むようにして見つめている。
「ああ、美津子」
京子は、苦悩と羞恥の色を額面一杯に浮かべて燃え上がっていく美津子を見ると、許して、許して、と呻きながら、美津子の熱い耳たぶや首すじのあたりに、むさぼるように接吻を注いだ。
「どうやら気分が乗ってきたらしいわねえ。ね、春太郎さん。二人を、しっかり結ばせてやってよ」
銀子が、合図でもするように春太郎の肩を叩いていった。
片膝を立てるようにして美津子の肌をゆるやかに愛撫し、柔らかく耳たぶを噛んでいた京子は、春太郎と夏次郎が近づくと、上気した頬に更に紅を散らして、さっと腿を引き、顔を横に伏せた。
「いよいよ、待望の姉妹コンビが誕生するわけね」
朱美が笑いこける。
「さ、美津子。お姉様の愛を、しっかり受け入れるのよ」
春太郎と夏次郎は腰をかがめて京子と美津子の腰を働く。
ああ、いよいよ畜生道に陥るのだという恐怖の戦慄が、京子と美津子の背すじに一瞬走った。
「嫌っ、ああ、嫌っ」
悪魔の手先のような二人のシスターボーイにさからって、京子と美津子は汗ばんだ全身を揺さぶり、双臀をくねらせた。
「ここまで来て、羞ずかしがる事はないじゃない。モタモタせずに、さ、早く」
春太郎は語気を強くして、京子の後ろへ引こうとする双臀を平手打ちした。
「あっ」
その途端、美津子は火傷したように下半身を痙攣させた。
「駄目よ。美津子も、もっと積極的にならなきゃ。相手を文夫さんだと思って、しっかりやるのよ」
夏次郎も、美津子の白桃のような双臀を平手打ちした。
彼等の思うようになった途端、姉妹で味あわされるその陰密な不可解な快感に京子と美津子は狂気めいた涕泣を洩らした。
美しい姉妹は固く閉じ合わせ、火照った頬と頬とを、ぴったり密着させて、全身をガタガタ慄わせている。
縄に緊め上げられた乳房や、滑らかな腹部まで喰いこませるように、ぴったりと押しつけている二を見た銀子や朱美は、手を叩いて笑い出した。
「もっと深くつながらなきゃ駄目よ」
春太郎と夏次郎は、その状態がまだ充分でないと見てとって技巧を発揮し、京子と美津子を固く結ばせようとするのだ。
何分かの後、美しい姉妹は完全に一つのものになった。
その周囲に坐ってビールを飲む清次や五郎達は、これでやっと復讐を仕とげたといったような、満足げな微笑を口元に浮かべて眺めている。
上気した熱っぼい頬に煙のように黒髪をまとわせて美津子の肩に額を押し当てている京子の背を銀子は指で突いた。
「じっとしていちゃ駄目よ。美津子をうまくリードしなきゃ駄目じゃないの」
朱美や清次達からも催促され、叱咤されて京子は、ゆるやかに肢体をくねらせる。
京子の双臀のうねりにつられて、美津子の双臀も、うねり始めた。
「もっと熱をこめて、しっかりケツを振るんだ」
五郎と三郎がビールをラッパ飲みしながらゲラゲラ笑っている。
「そうよ。しっかり口を吸い合って、一緒に天国へのぼるのよ」
銀子も手を叩いて哄笑する。
今は、もう姉妹である事、人間である事をすっかり投げ捨てて、狂ったように頬をすり合わせていた京子と美津子だったが、ふと頬を離し、哀しさを、ねっとり潤ませた美しい黒眼を向け合った。
「美津子。姉さんと一緒に、地獄へ落ちるのよ。いいわね」
と、荒々しい悲しさをこめて京子はいい、同時に、もうこれが最後だとばかり激しい勢いで美津子の唇を吸った。
強く押し合い揺れ動く姉妹の乳房。次第に激しさを加え、交互に躍動する二つの腰部。もうそこには、羞恥も苦痛もない。
姉妹は貪るように舌を吸い合い、妖しい夢の中を、さ迷っているような、うっとりした横顔さえ、見せているのだ。
「ぴったり呼吸を合わせて頂上へ登るのよ」
銀子は、やがて火花を散らし合い、汗まみれになって狂おしく躍動し始めた姉妹に声をかけた。
激しく舌を吸い合っていた京子と美津子はどろどろに溶け合った熱い裸体を更に密着させ、ふと命がけになったように、すさまじくうねり舞いを演じたが、数分もたった頃、急に激しい痙攣を起こし、美津子は京子の汗ばんだ白い肩に深く顔を埋めたのだ。
京子の乳色の太腿にぴったりと合わさった美津子の美麗な太腿が、ヒクヒクと波打ち始める。
この世のものとは思われぬような恐ろしい感覚♢♢それに全身をゆだねて自失した美津子に気づいた銀子は、清次の方を向いてニヤリと笑って見せるのだ。
繊細なすすり泣きと共に京子の肩に埋めた頬を、さも哀しげに揺さぶっている美津子であった。
京子はそんな美津子の赤らんだ頬に頼ずりし、哀泣をくり返しながら、
「美津子。許して、許して頂戴」と、幾度も口走るのだ。
第八十六章 鬼女二人
獣の部屋
地下の石畳の上に、小さなあかり取りの窓から朝の光が、ぼんやりと、そそいでいる。
ふっと眼を開いた静子夫人は、鉄格子の間から外を見た。
今日もまた自分は生きている♢♢とそんな気持であった。
不気味な狭い牢舎の中、その中に一糸まとわぬ素っ裸の女。自分は、とうとう一匹の性獣になってしまった、と夫人は両手を交錯させるようにして乳房を抱きしめながら、ぼんやりと一点を見つめている。
昨夜は身も心もバラバラに打砕かれるような責めを受け、体の節々がズキズキ痛む。夫人は狭い牢舎の中を這うようにして身を動かせ、ふと下腹部に眼を向けた。
白い脂肪を透かした腹部から太腿あたりに以前には見られなかった女っぼさが滲み出ているようだ。あのように言語に絶する責めを連日受けながら、信じられない事だが肉体だけは責めを耐え抜く事によって水々しいばかりに成熟の度合を高めている。
夫人は、翳の深い美しい瞳に哀しげな光を浮かべながら、妖しい白さを持つ両腿の間にふと眼を向けた。
艶々した純黒の繊毛は、昨夜のあんな狼藉など忘れたように雪白の両腿の中で静止している。
夫人は男達の連日の淫らで執拗ないたぶりを受けるそれが、たまらなく哀れなものに思えて眼をそらしてしまった。
ふと夫人は、ある事を思い出して急に身を慄わせた。
今日は、いよいよ医師の手で♢♢千代のいった言葉を思い出すと、夫人はガクガクと膝のあたりを慄えさせる。
いよいよ決定的な刑の執行を受ける日が来たのだ。夫人の端正な白い頬に、大粒の涙が一筋二筋と流れ落ちた。
如何に悪どい責めや淫らないたぶりを受けても、あと一歩のところで人間としての自意識を持ちこたえ、悪魔達の前に無条件降伏する事は出来ない魂というものを夫人は持っていたが、遂にその魂も今日は微塵に打ち砕かれる事になるだろう。
そして、ニグロが間もなくやって来るという。
夫人は、遂に終着駅に来たような感じになった。もうこれで私は終わりだわ、と夫人は、しいんと凍りついた眼差しで冷たい鉄格子を見つめている。遠山家にいた当時の事が、幻影となって鉄格子の間に浮かび上っては消えていく。
広大な遠山家の庭園の色々な樹木♢♢樹々の録は日ましに色濃く、空には白い雲。あのバラ園のバラも見事に咲いて、小鳥が賑やかに季節の囀りを交わしていた、あの美しい絵のような日々♢♢そうした想い出が、熱病に冒された時のように、夫人の脳裡に浮かび上るのだ。
地下の階段を降りて来る足音に、夫人はハッと現実に戻って身を縮め、ぴったりと立膝して乳房を両手で抱きしめる。
千代が鬼源と一緒に、浮き浮きした表情でやって来た。
「如何が、奥様。昨夜は、ぐっすり寝られまして」
千代が懐から煙草を出して口に咥え、鉄格子の中の静子夫人を見下ろした。
「わかってるわね。今日は、いよいよ、人工授精をほどこすわ。もうすっかり支度も出来ているのよ」
千代は夫人の美しい象牙色の頬を小気味よさそうに眺めながらいった。
「お医者様に御挨拶しなきゃあね。座敷でお待ちよ。さ、行きましょう」
千代は帯の間から鍵を出して鉄格子の扉を開けた。
静子夫人は白蝋のように冷たい表情で牢舎から出て来る。
千代と鬼源のニヤニヤした視線から眼をそらせるようにして、夫人は前を押さえたままその場にうずくまるのだ。
「これからきれいにお化粧してお医者様と面接するんだ。それからね、どうしても赤ちゃんが欲しくなったのです、と手前の口で、はっきり、先生に頼むんだぜ」
鬼源は、小さくうずくまっている夫人の、ねっとりした光沢を持つ肩先を指で押しながらいった。
♢♢その頃、大塚順子の居間では、床柱に縛りつけた折原珠江に対する、いたぶりが始まっている。
川田、吉沢、それに和子や葉子まで加わって、柱を背に一糸まとわぬ裸身を縛りつけられている珠江を嘲笑し、哄笑しながら朝酒をくみ合っているのだ。
「昨夜はよ、京子と美津子が俺達の思い通り姉妹コンビを組んだんだ。これで清次さん達の復讐は終わったんだが♢♢」
お前と美沙江に対する湖月流の復讐は、まだ終わっちゃいねえからな、と、川田は口元を歪めるのだ。
珠江は綺麗な睫を固く閉じ合わせ、線の整った美しい横顔を横に伏せている。
麻縄に固く緊め上げられた柔らかい乳房は口惜しさのためか、かすかに慄えているようだ。
「静子夫人は今日、人工授精を受ける事になった。千代夫人の胸のつかえも,これでさっぱりするだろう」
吉沢がスルメを齧りながら、楽しそうにいった。
「そこで折原夫人と美沙江嬢も、今日は肉奴隷としての烙印をはっきり押してあげるわ。もう覚悟は出来ているでしょうね」
大塚順子は、血走った陰険な眼つきになって、川田に注がれた盃をぐっと空け、フラフラと立ち上った。
珠江は肌理の細かい象牙色の体を硬化させ、その美しい瞳に憎悪の色をキラリと浮かべて順子を見た。
「何さ、それが奴隷の顔かい」
順子は珠江の強ばった顔が癪にさわり、いきなり、ぴしゃりと珠江の頬をぶった。
「はっきりおっしゃって。お嬢様と私にこれから何をなさろうというの」
珠江は順子に平手打ちされてもひるまず、歯を喰いしばった表情で順子に視線を向けるのだ。
「お嬢さんの方はチンピラ三人のおもちゃにさせるのよ。そうしておけば、すっかり諦めがついて、私達の奴隷になり切ると思うわ」
珠江の表情はさっと変り、順子の眼を見ながら、わなわなと唇を慄わせた。
「な、何ですってっ」
蒼ざめた表情で、緊縛された美しい裸身を激しく揺すりながら、ひきつった声を出した珠江は、
「お願いですっ、そ、そんな恐ろしい事は、やめてっ。私はどうなってもかまわないわ。ね、私をお娘様の身代りにしてっ」
と悲痛な声を、はり上げるのだ。
「身代りにねえ」
順子は意地の悪い微笑を口元に浮かべて川田を見た。
「どうする、川田さん」
「面白いじゃありませんか。この奥さんにチンピラ部屋へ入って頂きましょうよ」
川田は、珠江の顎に手をかけて、ぐいと顔をこじ上げた。
「三人の若い男の機嫌を充分にとるってえなら、美沙江の身代りにしてやってもいいぜ。その代りに、途中で少しでも奴等の機嫌を損ねてみろ。美沙江もすぐにチンピラの餌食だ」
それから川田は、俺のこの手を傷つけた事の詫びもまだ入れてもらっちゃいねえぜ、と、わざと珠江に凄んで見せた。
「お詫びしますわ。どうとも気のすむようになさって下さい」
「よし。それじゃ、自分でチンピラ達に頼んで、その艶々した毛を一本残らず剃りとらせるんだ」
珠江は急に水でも浴びたように、顔をそむけた。
「湖月流生花の発展を妨害した罰に、チンピラ達にケツの毛まで抜かせてやる。いいな」
川田は、濃い睫をフルフルと慄わせて顔を伏せる珠江を小気味よさそうに見て、
「少しは静子夫人の色っぽさを見習う事だ。いいか、チンピラ部屋へ入ったら、俺が教えてやる方法でチンピラ達にお色気を振りまくんだ」
川田は、その方法というのを珠江に伝授しようとする。
「ああ、そ、そんな」
珠江は、哀しげな声を出して激しく首を振った。
「嫌かい。嫌なら美沙江を−」
川田が、狼狽して身悶える珠江の白磁の肩に手をかけて楽しそうにいうのだ。
「わ、わかりましたわ」
珠江は、そううめくようにいうと首を垂れ激しく嗚咽する。
「じゃ、俺のいった通りにするんだな」
珠江は、すすり上げながら、小さくうなずいて見せた。
「よし、じゃ気の変らねえうちに、チンピラ達の所へ連れて行こうぜ」
川田は吉沢をうながして珠江の縄尻を柱から解いた。
長い廊下を珠江は川田に縄尻をとられ、体を前かがみにして歩き始めた。
吉沢や順子が、屠所に引き立てられる美しい人妻の左右に寄り添い、護衛するようにしてついて行く。
森田組のチンピラやくざがつめている階下の六畳に珠江は連行されたのだ。
二十歳前後の不良数人がパンツ一枚になって花札賭博をやっていたが、川田が押し立てて来た一糸まとわぬ艶麗な美女を見た途端、ポカンと口をあけ、その場に棒立ちになってしまう。
「何をぼんやりしてやがるんだ。この美しい奥様が、手前達のおもちゃになって下さるっていうんだ」
吉沢がいうと、へえ、と男達は間の抜けた声を出し、だしぬけに現われた、水もしたたるような美女に度胆を抜かれて、息をつめているのだ。
「女の丸裸を朝からまともに見せられて、こいつら、声も出ねえぜ」
吉沢が川田を見て笑った。
「お前達、裸の女を連れてこられたのが迷惑なら、このまま引き揚げてもいいぜ」
吉沢が男達にいうと、
「と、とんでもない。大歓迎ですよ、兄貴」
彼等は血走った眼つきになり、川田の手から珠江の縄尻をとった。
「どうしたんですか、兄貴」
鬼源の連絡を受け、これらのチンピラの中でも兄貴格になっている竹田と堀川がかけつけて来た。
吉沢が竹田の耳に口を寄せて何か囁くと、竹田は黄色い歯を見せて笑った。
「わかりました。任しておくんなさい」
チンピラ三人に縄尻をとられて、むっとする男くさい狭い部屋へ引きこまれた珠江は、恐怖のために全身から血の気が引き、その美しい頬は蒼ざめ硬化している。
男達の手が我れ先にと乳房や腰のあたりをまさぐろうとし、珠江は狂気したよう身を揺さぶって、
「な、何をするのっ。やめてっ」
と、ヒステリックな声をはり上げるのだ。
「そうガツガツするんじゃねえ」
と、竹田はチンピラ達を足で押しのけるようにして、珠江の縄尻をとった。
「この美しい奥様はな、俺達のおもちゃになる覚悟をして、ここへいらっしゃったんだ。今日から三日間も、ここに住みつくんだ。何も、そうあわてる事はねえよ」
竹田の言葉に、チンピラ達は歓声をあげたが、珠江の顔は再び、さっと蒼ざめる。
三日間もこの地獄部屋に♢♢珠江は危うく気が遠くなりかけた。
「まず、そこに吊るせ」
フラフラと腰がくだけかかる珠江の雪白の肩を竹田と堀川は支えるようにして、チンピラ達に天井の梁へロープを結ばせた。
それに、珠江の縄尻をつないでロープを引き、珠江の体を伸び切ったようにして、そこに立たせる。
「ひゃあ、たまらねえ」
珠江の、すっくと立った全裸像を、まともに見たチンピラ達は気分を高ぶらせて、四方から再び、まといつく。
絹を裂くような珠江の悲鳴。
一人が背後より、珠江の縄に緊めあげられた乳房をわしづかみにし、一人が太腿を抱き取ろうとした。
「全くこいつらは、まるで狼だな」
川田と吉沢は苦笑して、蠅でも追っぱらうようにチンピラ達を押しのけると、
「よ、珠江夫人。お前さんも何時までそう硬くなっちゃ駄目じゃないか。美沙江の身代りになったならなったらしく、肚を決めてもらわなきゃ困るぜ」
順子も若い男達をかき分けるようにして部屋の中へ入って来る。部屋の中のむっとする臭気に顔をしかめながら珠江の傍へ寄ると、
「どうやらこれで私も復讐を仕とげた気分になったわ。千原流生花後援会長の折原夫人がこれから町の与太者達の嬲りものになる。フフフ、もうこれで、奥様は完全に女奴隷としての烙印を押される事になるのよ」
さも嬉しそうにいった順子は、ハンドバッグの中から櫛を取り出して、美麗な白磁の肩先まで垂れかかっている珠江の乱れ髪をゆっくりと、すき上げた。
「ここにいる若い連中は、この所、女に飢えていやがるんだ。少し乱暴に扱うかも知れねえが、がまんするんだぜ」
美沙江の身代りと思えば辛抱出来る筈だ、と川田は笑った。
順子は口紅を取り出して珠江の顎を抑える。
美しい眉根を寄せて珠江は観念の眼を閉じ合わせた。
「若い連中が大いにハッスルするように、綺麗にしておかなくちゃ」
順子は珠江の涙に濡れた頬をハンカチで拭き、形のいい唇に口紅を引き始めた。
固く眼を閉ざしてそれを甘受していた珠江は、次に順子が香水を出して乳色のうなじあたりから縄に緊めあげられた乳房の周辺にふりかけ始めると、優雅な身悶えを見せて、そっと瞳を開いた。
「大塚さん」
と、小さい嗚咽の中から強い調子で、
「私、覚悟を決めましたわ。あなたのお望み通り、この場で生恥を晒します。その代りお嬢様だけは私と同じような、こんなむごい目に合わさないで。それだけは約束して。お願いです、大塚さん」
「わかったわ」
順子は大して意に介さないように身を沈め珠江のぴったり閉じ合わせている妖しいばかりに色白の柔軟な太腿に香水をつけている。
「とくにこの辺は念入りにしておかなきゃ」
順子は嗜虐的な快味を噛みしめながら、白い指先に香水を落とし、ふっくらと柔らかく盛り上った柔肌を撫で始める。
「ねえ、ねえ、大塚さん」
順子の淫靡で微妙な行為に珠江は身震いし、そのおぞましさを振り切るように、哀しげな声を上げた。
「約束してっ。お願い、お嬢様だけは救ってっ」
「それは、あなた次第よ」
順子は冷やかにいった。
「ここにいる若い連中を、充分に満足させりやいいのよ。明日、この連中の報告を聞いてから、美沙江嬢に対する処置は考えるわ」
順子はそういって、珠江の世にも哀しげな表情を楽しそうに見つめるのだ。
「ね、兄貴、いい加減に遊ばせて下さいよ。何時まで、おあずけを喰わすんです」
珠江の華奢だがムンムンとした色っぼさを匂わせるしなやかな裸身を眺めているチンピラ達は官能の芯を高ぶらせてわめき出した。
竹田はチンピラ達に命じて、外から戸板を運ばせてくる。
「戸板の上に両肢を大きく割って縛りつけてやる。臓物を、むき出しにさせて、やいとをすえてやるんだ」
竹田と堀川は、そういって笑い合った。
「黙ってちゃ駄目じゃないか。喜んでお仕置を受けます、と、この連中に、はっきり答えるんだよ」
打ちのめされたように頭を垂れ、すすり上げている珠江に川田はつめ寄った。
「お仕置を受けますわ。喜んで♢♢」
珠江は半ばうつつになって、ささやくようにいうのだ。
川田は満足げに頷いて順子の傍へ行く。
「とうとう思う壷になりましたぜ。これであの女も静子夫人同様、完全な性の奴隷になりますよ」
「そうね。いい気味だわ」
部屋の隅に倒した戸板の両端に、チンピラ達が木の杭を金槌で打ち始めている。
コンコンと杭を打ちつづけるチンピラ達の仕事を珠江は何か幻でも見つめるように気弱なまばたきをして、時折、眺めるのだった。
戸板の上に仰臥させられ、両肢を裂けるばかりに開かされて縛りつけられ、どのようにして、やいとをすえられるのか、順子は想像するだけで痛快になってくる。
吉沢は何時の間にか珠江の背後からまといつき、縄をからませた柔らかい絹餅のような乳房をまさぐっている。だが珠江は、もう抵抗など思いも及ばぬといった風情で、寄せてくる吉沢に頬ずりを返しているのだ。
そして、吉沢が何か耳元に囁くのを珠江はうっとりと眼を閉ざしながら、従順にうなずいている。
「いいな。俺のいった通りにするんだぞ」
「わかったわ。もう、私、どうなってもいいんです」
珠江は川田と並んでニヤニヤとこちらを見ている順子の方へねっとりと潤んだ瞳を向けた。
「大塚さん、御安心なさって、今日から私、森田組の奴隷として、ここで永久に暮しますわ。そして♢♢」
珠江は、ふっと眼をそらし、さも哀しげな横顔を見せながら、
「大塚さんの湖月流生花が発展する事を、心より祈りますわ」
と、小さくいったのである。
「よくいって下さったわ。折原夫人」
順子は片頬を歪めて、ゆっくり微笑した。
「奥様がそう素直な態度に出て下さるのなら千原家のお嬢様の事は私が責任を持って、これ以上の危害は加えないわよ。安心なさいな」
「それだけは、お願いです、大塚さん」
戸板に杭を打ち終えた竹田と堀川が立ち上り珠江の傍に近寄ってくる。
「さて、支度は出来たぜ。戸板の上に乗って頂きましょうか」
二人は、珠江の縄尻をロープから解こうとする。
吉沢が、一寸、待ちな、と二人を止めて、
「この奥さんが何だかお前達に頼みてえ事があるそうだ」
「へえ、何だね。早くいいな」
竹田は鼻の頭をこすりながら、珠江の形のいい優雅な頬を軽く接吻した。
何かいいかけては、すぐに口ごもり、赤らんだ顔をそむける珠江に堀川がいらいらしていった。
「はっきりしねえか。皆んな、お前さんにやいとをすえたくて、うずうずしているんだ」
珠江は、すくっと思い切ったように顔を上げ、ゆっくりと睫を閉じ合わせながら、
「新しく生まれ変ったつもりで珠江は女奴隷になりますわ。そこの大塚先生に珠江の決心を示したいの。お願い、珠江を子供のような体にして頂戴」
成程ねえ、と竹田と堀川は川田の方に眼を向けて笑って見せた。
「剃って欲しいっていうんだな」
珠江は火照った顔を竹田の視線からそらせるようにしてさも私ずかしそうにうなずいた。
「その方が、やいとがすえやすいぜ」
とチンピラ達が、はしゃぎ出す。
「よし。その代り、きれいさっぱりの体になったら、おとなしくあの戸板の上に乗ってお仕置を受けるのだぜ。いいな」
竹田は、その事は予定していたので、早速用意していた紙包みを取り出し、その中からピカピカ磨かれた西洋剃刀を取り出した。
堀川はコップに石鹸水を溶かし始め、散髪屋の小僧みたいな手馴れた調子でクルクルと刷毛でかき廻している。
順子は、チンピラ達の手で珠江がそんな姿にこれからされるのだと思うと、おかしくてならない。
「あまりここに長くいちゃあ、若い人達の邪魔だと思うけど、せっかくだから折原夫人の毛剃り式だけは見物させて頂くわ」
そういった順子はまたハンドバッグを開けチリ紙を取り出して竹田に渡す。
「剃りとったものは一本残らずこれに包んで頂戴。折原夫人が女奴隷として再出発した記念として私が頂いておくわ」
竹田と堀川は準備が出来ると、一本のロープに縄尻をつながれて立つ珠江の背後へ廻るのだ。
ゆるやかな美しいカーブを描く珠江の双臀を竹田は妙に優しさをこめて撫でさする。
「きれいなケツしてやがるな。そら、無駄毛を剃ってやるから少しは肢を開いてみな」
珠江の繊細な美しい顔にさっと紅が拡がり、
「そ、そんな」
と、狼狽した声でなよなよ首を振る珠江に、
「女奴隷としての身だしなみよ。何時、殿方に浣腸されるかわからないでしょ。その時、無駄毛が眼についちゃ失礼じゃない」
順子は、おろおろする珠江の顔を、おかしそうに見ていった。
「手古ずらすんじゃねえ。竹田のいうように肢を開くんだ」
吉沢が大声を出し、珠江は、もうなす術もないといったように観念して、閉じ合わせていた腿を、わずかに割り始めた。
「こいつは特別の技術がいるんだ。まあ、見てな。上手に仕上げてやるから」
竹田は、たっぷり刷毛にシャボンをつけて塗り始める。
珠江の双臀は瘧でも起こしたように痙攣し始めたが、それを竹田と堀川が面白がって、
「くすぐったいだろうけど一寸、辛抱しな。段々と、いい気分にしてやるからな」
と、眼つきだけは、ふと殺気めいたものを帯び始めるのだった。
裸の麗夫人
静子夫人はきびしく緊縛された上背のある美しい裸身をすっくと立たせて長い廊下をよぎり、山内という酔いどれ医者の待つ部屋へ向かっていく。
元、女中である千代に縄尻をとられ、ズベ公の銀子と朱美に左右を挟まれた形でゆっくりと足を運ぶ夫人の端正な横顔はすっかり観念しきったように美しく澄んでいた。
庭に面した廊下を歩む夫人の頬に青空から吹いてくる風が冷たく触れた。
すると夫人は冷たく冴えた優雅な顔をそっと上げ、哀愁の色を帯びた翳りのある瞳で空を見上げる。
庭の緑をゆるがせて清々とした風が吹いてくるのだ。
一糸まとわぬ素っ裸をかっちりと後手に麻縄で縛り上げられた夫人は歩むのを止めて青い空に目を向けながら、ここに監禁されて以来、こんな澄み切った気持になった事があるだろうかとふと考える。また、こんな美しい空を一度だって見た事があるだろうかと思うのだ。
連日連夜の汚辱の調教で身心ともに疲労しきっている夫人だけに、この日の青空から吹いて来る薫風はひとしお魂に染み入る哀愁として胸にこたえるのだった。
「何をぼんやりしているのよ。山内先生がお待ちかねなのよ。さ、早く歩かないか」
千代はしっとりと翳りを含んだ夫人の端正な横顔を睨むようにし、次に夫人の官能味をむっと盛り上げた量感のある双臀をぴしゃりと平手で叩くのだ。
夫人はふと自分に戻ったように優雅な容貌を正面に向け、悩ましいばかりに形のいい双臀をうねらせるようにしながらゆっくりと再び歩き始めた。
廊下を二つばかり曲がった所にある日本間へ夫人は千代に縄尻をとられて押し立てられていく。
明るい庭に面した縁側に田代が薄汚れた中年男とウイスキーを飲み合っていた。
「よう、今日の御気分は如何かね、奥さん」
田代は夫人を見ると酒に火照った顔をくずしていった。
「支度はすっかり出来ているんだよ、ほら」
田代はどっこいしょと立ち上って次の間へ通じる襖をあけた。
襖をあけた向こうは六畳の間になっていて古ぼけた木製のベッドがぼつんと真ん中に置いてあった。
天井には横木が打ちこまれ、それから二本のロープが吊り下がっている。
「産婦人科の診察室を応急処置で作ってみたんだ。ま、こんな所で辛抱してもらわなきゃ仕様がないな」
田代はそういって笑った。
千代に縄尻をとられてそこに立つ夫人は彫像のような冷たい横顔を見せながら薄く目を閉じ合わせている。
「さ、こっちへおいで、奥さん」
と、千代は夫人の滑らかな乳色の背中を押して床の間の方へ連れて行き、床の柱に背を押しつけさせて銀子と一緒に別の麻縄をつかって夫人をキリキリ柱につなぎ始めた。
「どうです。山内先生。いい身体をしているでしょう」
田代は酔いどれ医者の山内の顔を見てこヤニヤとし、こちらへ来ないかと楽しそうに目くばせした。
山内はウイスキー瓶を手にし、フラフラと立ち上がる。
床の間の柱を背にし、立位でがっちりと縛りつけられた夫人の正面に田代と一緒にどっかりと腰を降ろした山内は、酒に濁った目をギラギラさせながら静子夫人の上背のある息のつまりそうな官能味を湛えた全裸像を凝視するのだ。
山内は四十前後の色の赤黒い肩幅の広い男であった。
酒に濁った白眼勝ちの眼はどこか狡猾そうな、それでいてどこか寂寞とした翳りを宿している。
「ね、奥様、ここにいらっしゃる山内先生はね、奥様の元、御主人であった遠山隆義とは浅からぬ因縁がある方なの」
と千代は袂から煙草をとり出しながら夫人の冷たい横顔を見つめている。
自分にこれから恐ろしい手術をほどこそうとする陰気な男♢♢夫人は相手の顔をまともに見る勇気はなく先程から固く目を閉ざしていたのだが、この部屋に入った時、ふと彼の皺だらけの額に目を向けた夫人は以前どこかでこの男と逢ったような感じを覚えたのだ。
「丁度、奥様が遠山氏と御結婚なさった直後でしたかね」
この酔いどれ医師はしゃっくりを一つしてだみ声でいった。
「僕は奥様のお屋敷へお伺いした事がありますよ。覚えちゃいらっしゃいませんか。僕は九州にある広大な山林を遠山氏に売りつけようとしたのです。勿論、これはペテンですよ。さすがに遠山氏、にせの権利書を持ってやってきた私の話にひっかかってこなかった」
山内はこヤニヤした口調でそういうとコップにウイスキーを注ぎ始めた。
夫人はそっと目を開き、山内のアルコール焼けした皺の多い顔を翳りの深いもの哀しげな視線でおずおずと眺めた。
九州にいる遠山の弟の紹介だという触れこみで彼が一度屋敷へ来た事を夫人は朧げながら思い出したのだ。
「あの時、奥様はほんの一瞬でしたが、お茶を持って応接間に入って来られた。僕は世の中にこんな美人がいるものかとあの時はショックを受けましたよ」
山内はウイスキーの入ったグラスを口元に運びながら充血した目でむっと匂うように成熟し切った夫人の乳白色の全裸像を眺めるのだった。
あの時、春の草花をあでやかに散らした桃山風の小紋を着、実に幸せそうな笑窪を見せて豪奢な応接間へ姿を見せた絵のように美しい静子夫人が、今は一糸まとわぬ素っ裸にされて♢♢山内はごくりと生唾を呑みこみ、夢見心地になっている。
「信じられませんね。僕は夢を見ているのじゃないかな」
山内は陶然として夫人の後手に縛り上げられた素っ裸を貪るような視線で眺めつづけているのだ。
乳色の脂肪をねっとりと帯びて光沢を浮かばせている夫人の優美で艶麗な裸身は山内の胸を切ない位にうずかせている。
形よく豊かに盛り上がった美しい乳房はその上下を麻縄で堅く緊め上げられ、乳房の頂点に息づく薄桃色の可憐な乳頭は強調されたように上に突き出し、滑らかな柔らかい腹部からその下の官能味をぐっと増した腰部の曲線は悩ましく、そして、ぴったりと閉じ合わせた太腿の肉づきのよさは何ともいえぬ女っぼい妖しいばかりの仇っぼさをねっとりと湛えているのだ。
見事に均整のとれた静子夫人の美しい裸身に山内は圧倒された気分になり、しきりに唇を舌でしめしてはウイスキーを飲み始める。
それに静子夫人の官能味豊かな両腿の間のふっくらと柔らかそうに盛り上った艶々しい漆黒の繊毛は山内の魂を溶けさせるばかりに悩ましく、つつましやかにも貪欲そうにも感じられ、その神秘的な深い翳りに山内は視線をじっと向けるのだった。
静子夫人はこの日の身だしなみとして千代や銀子の手で綺魔に化粧され、艶々しい黒髪もきちんとセットされて憂愁の色を帯びた横顔を見せ、羞じらうように目を伏せているのだった。
優雅な匂いに満ちた夫人の全裸像に心奪われ、その場にあぐらを組んで痴呆のような表情になっている山内を千代はおかしそうに見ながらいった。
「遠山家の若奥様も今じゃ森田組の指導をみっちり受けて花電車の女王となって再出発なされるわけよ」
如何に上手にバナナを切り、生卵を割る事が出来るか、それから尻の穴にはピンポン玉の一つや二つは見事に沈ませる事が出来るという千代の説明を山内は田代からも聞かされていたが、やはり、どうにも信じられないといった表情を見せる。
「一度、山内先生にも奥様の珍芸をお見せしちゃどうかね」
と、田代は千代にいったが、
「いえ、それよりも早く手術をすましてしまいたいわ。奥様の珍芸なんかその後でゆっくり見る事が出来るじゃありませんか」
と、千代は静子夫人に人工授精させる事を急いでいる。
「遠山夫人が相手のわからぬ種を宿すということになれば私はいよいよ安心出来るってものだわ」
千代は静子夫人の臈たけた美しい横顔にふと敵意のこもった目を向けるのだった。
遠山との離婚を承認させられ、一切の私有財産も元、女中であった千代に奪われ、一片の布も与えられぬ素っ裸にされて日夜、性の奴隷として調教を受けている静子夫人♢♢卑猥な写真や映画にも出演させられ、捨太郎という薄馬鹿の男を亭主として当てがわれ、ほとんど人間性を剥ぎとられて陽の当たる場所へは到底出ることの出来ぬ女に作り変えられてしまった静子夫人に千代は完全なとどめを刺すつもりでいるのだ。
「奥様にそっくりの美しい女の子が産まれりゃいいんだけどね」
千代はそういって笑い出した。
血統のいい雌犬に種をつけ、生まれる仔犬に期待を持つような千代の口調であった。
田代が山内を見ていった。
「千代さんはどうしてもこの美しい奥様に赤ちゃんを産ませたいというのですよ。血統のいい雌犬を所有すれば誰だってそう思うのでしょうかね」
と田代は山内を見て薄笑いを口元に浮かべながらいった。
そして、山内の酒に濁った目が夫人の下腹部に向けられているのに気づくと、
「ここへ来てかち奥様はみっちりとそこを鍛えられながら男との接触も演じさせられて来たのですがね。どういうわけか妊娠だけはしないんですよ。この奥様のお道具の構造はショーの女優として素敵なものだと調教師はいうのですがね。もともと、彼女は子供を産めない身体に出来ているんでしょうか」
と、田代は続けて山内に話しかけるのである。
「そんな事はないでしょう」
山内は口元を歪めて笑い、柱を背にがっちりと縛りつけられている上背のある優美な夫人の裸身の前へのっそりと立つのだった。
「いいですか、奥様。僕はこの人達の特別依頬を受けて奥様に対し授精手術を行いますが異存はないでしょうな」
山内がそう声をかけると静子夫人は暗いもの哀しげな色を湛えた面長の顔を一層曇らせて横に目を伏せてしまうのだった。
「ちょいと、返事をしなきゃ駄目じゃないの奥様」
千代が横から邪慳な言い方をして夫人の耳たぶを軽くひっぱる。
山内の前へ出れば自分の意志で人工授精を心から望んでいるように答えよと夫人は千代に強制されていたのだ。
「人工授精を受けたいのでしょ。ね、そうだわね、奥様」
と、千代は再び夫人にまといつくようにしてその柔軟な乳色の肩を揺さぶるのだった。
「お、お願いしますわ。私、そ、それを望んでおります」
静子夫人は胸をついて屈辱の涙がこぼれそうになるのを必死にこらえながら唇を慄わせて山内にいうのだった。
「そんなにまでして赤ちゃんが欲しいのですか」
「♢♢はい」
静子夫人は涙を潤ませた長い睫を気弱にしばたかせながら哀しげに小さくうなずいて見せるのだった。
「♢♢千代さんや田代社長の御好意で静子も赤ちゃんを産める女の資格を与えられました。どうか、よろしくお願い致します」
静子夫人のその言葉も千代や田代に強制されたものである事は山内も充分承知している。
かなりの報酬を千代から受けとる約束でこの仕事を承知したもぐりの医師の山内は、象牙色の端的な頬をほんのり赤らめてすすり上げながら人工授精の受諾の意志をはっきりと示した夫人を哀れにもいじらしく思うのだった。
「応募して来たアルバイト学生の中よりハンサムな奴ばかりを選んで採取して来たのですよ」
山内が縁側に置いてある黒鞄を指さしながらいうと静子夫人はさも哀しげな色を優雅な頬に滲ませて、
「♢♢せめて、せめて父親のわかっている赤ちゃんを静子は産みたかったわ」
と、すすり上げながらひっそりと口から洩らすのだった。
千代は煙草の煙をゆっくりと吐き上げながら小さく嗚咽する静子夫人を小気味よさそうに見ていった。
「父親のわからない赤ん坊を産んだ方がむしろ気が楽じゃないの。性の奴隷のくせに父親のわかってる赤ん坊がほしいだなんて生意気なこといわないで頂戴」
と、語気を急に強めていうのだった。
そして、山内の方へ視線を向けた千代は、
「でもね、山内先生。まさかこの奥様、妊娠不可能な身体じゃないでしょうね。私、それが一番気がかりなの。何しろ、私、これには大変なお金をかけているんですからね」
といったが、それに対し田代は腹を揺すって笑い出すと、
「大変なお金といっても、それはもともとこの静子夫人の財産というわけじゃないか」
田代は山内にこういった結末になった過程を簡単に説明し始めた。
「遠山夫人の私有財産を分捕り、こうして夫人を性の奴隷にまで追いこみながらまだ千代さんとしては安心出来ないというのですよ」
静子夫人を妊娠させ、ここで赤ん坊まで産ませてしまえばもう安心というもの、遠山家は完全に自分が牛耳ることが出来ると千代は思っている。
♢♢田代が説明すると山内は成程とうなずいた。
「つまり、この屋敷は悪党ばかりの巣窟なんですな」
「そう、そこへもう一人、山内という新入りの悪党が加わったわけですよ」
田代と山内は声を揃えて笑い出した。
千代も金歯を見せて笑いながら、
「ねえ、そんなことより山内先生」
と、山内にしなだれかかるようにし、
「その奥様が妊娠可能かどうか、一寸、身体を調べてみて頂戴」
「随分と千代さんはこだわるんだな。大丈夫、後でベッドの上に乗せてからゆっくりと調べてみますよ」
山内が笑っていうと千代は、
「いいじゃありませんか。今、一寸、調べて早く私を安心させて頂戴」
といい、山内の持つコップにウイスキーを注いで妙に色っぼい目つきで山内の目を見つめるのだった。
千代は静子夫人がやがて妊娠し、この屋敷の中で自分の分身を誕生させるのだと思うと遂に夫人を抜き差しならぬ極致へ追いこんだという勝利感で全身が息づまってくるのだ。
よし、と山内も千代に煽られた形でのっそりと立ち上る。
「それじゃ奥様、千代さんの御要望ですので、一寸失礼しますよ」
と、山内は柱を背に縛りつけられている夫人の前に近づいて行き、どっこいしょ、と腰を低めるのだった。
静子夫人は美しい頬を硬く凍りつかせて薄く目を閉ざし、山内の行為に何の動揺も反撥も示さなかった。
自分はもう人間の意志を完全に喪失した者であるという事を山内に示すための努力をしているようにも見える。
「失礼しますよ、奥様」
といい、山内は両手を夫人の羞恥の源へ持って行き、その漆黒の柔らかい繊毛をゆるやかにかき分け始めた。
静子夫人は歯を喰いしばり、酔いどれ医師の指先でその部分に触れられるおぞましい感触を必死に耐えているようだった。
「これだけじゃはっきりわかりませんが、まず大丈夫でしょう。赤ちゃんを産める身体をなさっていますよ」
山内は事務的な口調でそういって夫人の柔らかくて悩ましい繊毛の感触を楽しんでいるようだ。
銀子と朱美はそれを見てクスクス笑い始める。
「もう少し、足を開いて下さい、奥様」
山内が声をかけると夫人は美しい眉根を辛そうに寄せながらもスラリと伸びた優美な両肢をわずかに開いて見せるのだ。
その妖しいばかりに色白で肉づきのいい両脇の間へ山内は大胆に手を差し入れていき、
「ほう、これはなかなか見事なものをお持ちのようですな」
と、片頬に微笑を浮かべるのである。
銀子と朱美がそれを見てまたクスクス笑う。
必死になって冷静を装っている夫人の繊細な頬が汚辱の思いで歪み始めた。
「それを聞いてやっと安心したわ」
千代もゆっくりとウイスキーをロへ運びながらさも嬉しげに夫人の物哀しげな横顔に目を向けるのだった。
その時、襖が開いて川田が入って来る。
「珠江夫人が今、チンピラ達に可愛がられていますぜ」
と、チンピラ部屋に連れこまれた珠江夫人の様子を田代に報告し、ふと次の間の柱に縛りつけられている静子夫人を交互に見て、
「いよいよ種を植えられるってわけか」
と、楽しそうにいった。
「そう、静子奥様もやっとお母様におなり遊ばすのよ」
千代も楽しげにうなずいたが、川田からあの医学博士夫人の珠江がチンピラ達の手で嬲りものになっていると聞かされると何ともいえぬ嬉しそうな表情になる。
「何もかもこれでうまくいったという事ね」
などと千代はいい、珠江夫人もあの驕慢さを徹底的に破壊されたと思うと熱っぼい快感が千代の胸にこみ上ってくるのだった。
ようやく復讐をなし遂げたという快美感で千代は酔い痴れている。
京子と美津子の美人姉妹はこれからコンビを組まされてお座敷ショーの練習に励むこととなり、また小夜子と文夫も姉弟でいわゆるポルノショーのコンビを組まされる事になった。
珠江夫人はこれから鬼源の指導で静子夫人の域に到達するまで珍芸の勉強に入る事となり、捕われの美女の中でたった一人の処女である美沙江は近く水揚げさせて桂子とコンビを組ませる予定だと川田はメモを見ながら田代に告げるのだった。
「おわかりになった、奥様。それぞれの美女がすべてコンビを組まされてこれから森田組のために一生懸命働くことになったのよ。どう、私達の思いつきはすばらしいとは思わない?」
千代は床の間の柱に立位でがっちり縛りつけられている静子夫人の柔媚な裸身をしげしげと見つめていった。
静子夫人は綺麗な睫を哀しげにしばたかせながら涙をねつとり湛えた黒眼勝ちの瞳をじっと前方に向けている。
自分の運命をすっかり諦め切ったような空虚な限をしばたかせる夫人の端正な横顔は荘厳なばかりの美しさに照り映えていた。
「そうそう。大事な事をいい忘れていましたよ」
川田は千代に注がれたウイスキーを一息に飲み乾してから、
「ニグロのジョーとブラウンが今夜、ここへやって来る事になりました」
と、川田はニヤリと片頬を歪めて田代に報告するのだ。
「そうか」
と、田代もえびす顔になる。
「それじゃ、花束を持って迎えるか」
と、田代は千代と顔を見合わせて笑い出すのだ。
「じゃ、今夜からでも早速、静子と白黒コンビを組ませましょうよ」
と、千代がはずんだ声で田代にいうと、
「そうだな、種つけが終わって早速ショーの稽古をさせるのは気の毒だが」
と、田代は柱につながれている優美な夫人の裸身を薄笑いを浮かべて見つめながらいった。
「とにかく三か月も立てばこの奥様のお腹はせり出してくるんですよ、社長。だから、今のうちに黒人とコンビを組ませてみっちり稼がせておかなきゃ」
と千代はいうのだ。
「よし、わかった」
田代はニコニコしてうなずいた。
「それに今日は丁度、山内先生の誕生日らしい。奥様の種つけが終われば黒人達も仲間に入れて盛大なパーティを開こう」
「まあ、今日は山内先生のお誕生日だったのですか。それぞれ何か先生にプレゼントしなくちゃ。ね、社長」
千代は酒気を帯びて潤み出した目を山内に向けたが、ふと何かを思いついたように床の間の柱に縛りつけられている静子夫人の方へ視線を走らせた。
「ね、奥様、あなたも何か山内先生にプレゼントをしなさいな。これから奥様に大事な手術をして下さる山内先生のお誕生日なのよ。あなたが何もプレゼントしないなんて失礼じゃない」
千代の酒に濁った目は次第に冷酷な色を帯び始めてくる。
静子夫人の美しく冴えた象牙色の横顔を見つめているうち、この汚辱の中にあってもまだ高貴で優雅で抒情的な翳りを失わぬ彼女に対してムラムラと千代は相変らずの敵愾心がわいてくるのだ。
千代の静子夫人に対する挑みかかるような目に気づいた川田はまた病気が始まったのかと苦笑して、
「ま、いいじゃないか。奥様はこれからニグロとコンビを組んだりして俺達のために大いに稼いで下さるわけだ。山内先生に対する奥様のプレゼントは俺達が代って出し合ってやろうじゃないか」
「そうはいかないわよ」
千代はとうとう酒癖の悪さを発揮して吐き出すようにいうと柱を背にしている夫人の前に立って顎を突き出すようにした。
静子夫人を見つめる千代の目には底光りのするような冷酷なものが滲んでいる。
艶麗な肉体
一片の布さえ許されぬ素っ裸の静子夫人に向かって酩酊した千代は嵩にかかって難題を吹きかけるのだ。
ネクタイ一本でも山内先生にプレゼントする気がないのかと千代は夫人に陰険な表情になってつめ寄るのである。
狂気じみて来た千代を田代は止めようともせず、その場に腰を据え、ニヤニヤとして見つめているのだ。
「人工授精の費用だってほんとは奥様の方が持つのが当然じゃない」
と、千代のいう事は分裂してきた。
「今の奥様じゃそれも無理ねえ。だけど、山内先生に贈りものする位のお金は何とかなるでしょう」
さ、お出し、私が買って来てあげる、と千代は柱に縛りつけられている夫人に手まで出すのだ。
「ああ、千代さん」
静子夫人は美しい富士額を歪めて悲痛な表情になった。
「こ、こんな私にお金を出せとおっしゃっても」
「ああ、そうだったわね。今の奥様はビタ一文お持ちにならぬ素っ裸だったっけ」
千代は冷酷な目を夫人の緊縛された優美な裸身に向けながら口元では笑っている。
「何億の資産を持つ大家の令夫人が今じゃプレゼントのネクタイ一本買えぬ素っ裸♢♢全くおかしいわね」
千代はそういってクスクス笑いながら更に夫人につめ寄り、
「ねえ、何とか考えなさいよ。千円ぐらいのお金が工面出来ないの」
人工授精の費用までこちらにもたせ、更に山内先生の誕生プレゼントまでこちらに持たせる気なの、なんていう厚かましさだろう、とも毒づき、千代はますます狂気じみて来て今にもベソをかきそうになっている夫人の顔を憎々しげに睨みつけるのだった。
「ああ、静子は、どうすればいいの。ね、千代さん」
静子夫人は遂に横に顔をねじり、美しい眉根をギューとしかめて嗚咽し始めた。
「♢♢こ、これから静子は一生懸命働きますわ。黒人とコンビを組む覚悟も致しました。映画にも出演しますし、写真のモデルにもなります。そんな私をもうこれ以上、いじめないで下さい」
あんまりですわ、と静子夫人は艶やかな乳色の肩を慄わせて激しく泣きじゃくるのだった。
「私はそんな事を聞いているんじゃないわ。山内先生のプレゼントを買うお金をお出しといってるんじゃないの」
「そ、そのお金をどうか私に貸して下さい、千代さん。一生懸命働きますから」
静子夫人は泣き濡れた瞳をそっと千代に向け、声を慄わせるのだった。
夫人の哀しさに歪む美貌が千代の残忍性を更に煽り立てるのである。
「じゃ、奥様は秘密ショーの出演料を前借りしたいというわけなの。そんな風に聞こえるじゃないか」
「いえ、決して、そんな」
「いっときますけどね。奥様の出演料なんか誰が払うものか。奥様は一生ただ働き、いくら働いたって布きれ一枚買ってもらえない性の奴隷だっていうことをよく胆に銘じておくことだね」
千代は冷酷な目で静子夫人の悲痛な横顔を見ながらそんな風に毒づくのだ。
黙って傍に坐りこんでいる山内は千代の異常な残忍性に舌を巻き、この女は気がおかしいのではないかと思うのである。
「そ、それじゃ千代さん。静子は一体どうやって山内先生の贈りものを買えばいいのですか、教えて」
静子夫人は乳色の肩を慄わせ、泣きじゃくりながら悲痛な声音でいうのだった。
「素っ裸の素寒貧か、仕様がないなこれは」
田代は煙草に火をつけながら千代に笑いかける。
田代も千代の狂気めいた残忍性に舌を巻いているのだ。
これから人工授精をほどこされ、いよいよ奈落の底へ突き落とされていく静子夫人を何もそこまで徹底していたぶる事はないと思うのだが、たしかに千代の神経は異常をきたし静子夫人を肉体的にも心理的にも徹底して痛めつけ、屈辱にのたうたせようとしている。
千代は川田の持つコップを取り上げ、中のウイスキーを一息に飲み乾すと、田代に近づいて彼の耳に口を寄せた。
「だが千代さん。何もそこまでしなくても」
「いいじゃないの、社長」
千代は冷酷な微笑を口元に浮かべて、柱に縛りつけられた美麗な裸身をよじらせ、すすり泣く静子夫人の前に再び歩み寄るのだ。
「仕方がないわね。身体に残っているものを剥いで売っ払うにも生まれたまんまの素っ裸なんだから」
千代は片頬を毒っぼく歪めながら、
「となると、これでも剃りとって誰かに買ってもらうより仕方がないじゃない」
と、静子夫人の妖しいばかりに官能的な両腿の間を指さして笑いこけるのだった。
静子夫人は千代の指さす自分の肉体の部分に気づくとハッとしたように赤らんだ顔を横へねじり、美しい眉を哀しげに寄せた。
「ね、奥様からは何も取り上げるものはないんだから、仕方がないわ。せめてそれでも剃り上げなきゃ」
千代は静子夫人の羞恥の源を柔らかく覆っている艶めかしい漆黒の繊毛を剃りとり、それを田代に買わせるという着想で嗜虐の悦びに胸を高鳴らせているのだ。
静子夫人は切れ長の美しい目を固く閉じ、唇を強く噛みしめて一言も発さず、微動もせずおくれ毛をもつらせた優雅な横顔を見せている。
肉体的にも心理的にもこうまで自分をいたぶり抜く千代は悪魔の化身としか思われないが、夫人の心にも千代の肉迫を被虐の快感として受け入れる悪魔的な血の高ぶりがじわじわとこみ上ってくるのだ。
一体、どこまで自分を嬲りものにすれば気がすむのか、といった反撥が千代の攻撃を徹底して受けて立ってやるといった被虐性の報復につながってくる。
やがて自分は人工授精という恐ろしい手段で葬られるのだ。もうどうとも好きなようにすればいいと静子夫人は捨鉢な気分になっている。
「田代社長が奥様に同情してそんなものを買って下さるそうよ。さ、社長にお礼を申し上げなさいよ」
千代は夫人の麻縄に緊め上げられた形のいい乳房を指ではじいた。
すると夫人は、千代から与えられた強い屈辱感と一緒に説明のつかない一種異様な快美感がぐっと胸にこみ上ってくるのを感じ出した。
この千代という名の悪魔にもっと冷酷に残酷に扱われたいといった変質的な願望が夫人に生じてくる。
田代に礼をいえ、と千代に浴びせられた夫人は薄く上気した美しい顔を上げ、情感的な輝きを湛え始めた瞳をそっと田代の方に向けるのだった。
「♢♢こんなものを買って下さるなんて♢♢本当に静子、心から社長にお礼を申し上げますわ」
いささか皮肉っぼい口調だが、夫人は哀しさも忘れて涙を振り切ったような冷静さで田代に向かっていったのである。
「いくらで買えばいいのかね」
田代はニヤニヤして顎をさすりながらいうのだ。
「千円でいいわよ、社長」
千代は嘲笑しながら夫人を見ていった。
田代が財布から取り出した千円を千代は、それじゃ、これはこっちで預っておくわ、といい、帯の間へしまいこんでから、
「それじゃ社長。これから奥様を綺麗に剃り上げて一本残らず社長にお渡ししますわ。それまで社長は山内先生を連れてこの屋敷で働いている奴隷の様子を見回って下さい」
と、千代はいうのである。
静子夫人の元の使用人であった川田と自分の二人だけでこの剃毛作業を行いたい、と千代はいうのだ。
「つまり、これが元、遠山家の使用人であった私達の奥様に対する最後の御奉公♢♢まあそういったわけね」
千代がそういうと田代は、よかろう、とうなずき、山内や銀子達を連れて部屋の外へ出て行った。
「さて、奥様、久しぶりで三人、顔が揃いましたわね」
千代は静子夫人の俊英な裸身を川田と左右から挟むようにし、その柔軟な夫人の肩に顎を乗せかけるようにしていった。
「山内さんにこれから種を植えつけられ、やがて妊娠される奥様に対し、私達二人、心からお祝いを申しあげますわ」
千代はしいんと凍りついたような夫人の象牙色の頬を頼もしげに見つめながらそういった。
「まず、乾杯しましょうよ、兄さん」
川田はうなずいて田代が置いていったウイスキー瓶をとり、二つのコップに注ぐと一つを千代に手渡した。
「元、遠山家の運転手と女中、二人揃って心から奥様におめでとうを申し上げるよ」
川田と千代は俯向き加減に目を伏せている夫人の顔の前でカチンとコップを合わせ、さも嬉しそうな表情でウイスキーのグラスを口に当てるのだ。
「遠山家の運転手をしていた当時が、ついこの間のように思い出されてくるよ」
川田は静子夫人のわずかにおくれ毛をほつらせた端正な象牙色の頬に見入りながらそういうのだ。
吹雪地紋に牡丹の花をつけ下げにした豪奢な訪問着姿の静子夫人をホテルの披露パーティへ送り迎えした日のことなど川田はぼんやりと思い出している。
豪華な庭園の見渡せる大広間で財界の有名人達に取り囲まれ、シャンパングラスを手にした夫人のあでやかな微笑がふっと川田の脳裡をかすめるのだ。
「あの頃は本当に楽しかっただろうな。奥さん」
川田は千代と一緒に静子夫人に向かって何か月前かの遠山家の日常生活の事などあれやこれやまるで昨日の出来事のように語り出すのだ。
緊縛された美しい裸身をがっちりと柱につながれた静子夫人の冷たく冴えた表情はふと柔らかくなり、その当時の様々な事を懐かしむようなほのぼのとしたものが滲み出ている。
「♢♢ね、もうそんな昔のお話はおよしになって、静子はまた涙が出てしまいます」
夫人は美しい象牙色の頬を急に横にそむけて哀しげな言葉を吐いた。
「そうね。あまり昔の話はしない方がよさそうだわ。夫人が泣き虫になっちまうと困るから」
千代は、おくれ毛を二、三本うなじにもつらせている男心をそそるような夫人の情感的な横顔に見入りながらそういい。
「それじゃ、そこをお剃りするわ。いいわね」
と、夫人の下腹部を指さしてから川田に目くばせして支度にかかり始める。
西洋剃刀とか石鹸などを川田がバスルームの方から運んで来ると千代は夫人のぴったりと閉じ合わせている華奢な足の爪先へ丁寧に白いハンカチをひろげた。
「ねえ、千代さん」
すっかり観念したように固く目を閉じ合わせていた静子夫人は足元で剃毛のための支度にとりかかっている千代に向かって何かを思い出したようにそっと薄く目を開いた。
「何なの、奥様」
千代は石鹸をゆっくりとぬるま湯で溶かしながら薄笑いを浮かべて夫人を見上げた。
「私一つだけお聞きしたい事があるのです」
夫人は探い翳りを含んだ抒情味のある眼差しで石鹸を溶く千代を見下ろしながら、
「♢♢主人が、いいえ、遠山が入院したと聞きましたが、どういう容態なんでしょうか」
「ああ、大した事はないさ。遠山にはちゃんと私がついているから何もあなたが心配する事はないじゃないか」
千代はせせら笑うようにいって、
「奥様はもう遠山家とは何の関係もなくなったのよ。遠山の事を思うより、早く誰のものかわからぬ赤ちゃんをお腹に作ることね。それだけを考えていればいいのよ」
と冷酷な口調になってそういい、川田と顔を見合わせてクスクス笑うのだった。
「♢♢ええ、私はもうそんなことをいう資格のないことはわかっています。でも」
と、静子夫人は涙ぐんで、
「遠山はもう年ですし、元々、身体のいい方じゃないのです。千代さん、お願い、遠山の健康には本当に気をつけて下さいね」
わかったよ、と千代はうるさそうに返事をして、
「じゃ、剃るわ。少し、足を開いて頂戴」
と、夫人の成熟し切った両腿の間の柔らかく悩ましい盛り上りを見せている漆黒の艶々しい繊毛に日を向けるのだった。
夫人は静かに目を閉ざしていき。千代にいわれるまま固く閉じ合わしていた両魅をわずかに開き始める。
柱にがっちり縛りつけられ、観念の眼を閉じ合わせた静子夫人の前に千代はゆっくりと腰を据えつけて掌の上にぬるま湯を溶かした石敵を落とした。
「まあ、柔らかいわ。剃り甲斐がありそうね」
千代はクスクス笑いながらふっくらと盛り上る絹糸のような柔らかい繊毛の感触を楽しみながらしどろに溶けた石鹸をすりつけていくのだった。
静子夫人の三日月型の美しい眉根が辛そうに歪み、開き加減にしている妖しい色白の太腿がブルブルと痙攣している。
「如何、いい気分でしょう、奥様」
千代は両手を使い、その部分を優しく愛撫するような手管で石鹸をたっより塗りこんでから、合図するように剃刀を持つ川田の方へ目を向けた。
川田は深味のある美しい夫人の頬に軽く接吻してから、手にしていたピカピカ光る西洋剃刀を夫人の眼前に近づけた。
「それじゃ、いいね、剃らせてもらうよ」
「いいわ。お剃りになって」
夫人は薄く見開いた瞳にねっとりとした情感の色を湛えて切なげな鼻息と一緒に甘くうなずいてみせた。
「その下のハンカチへ上手に剃り落として頂戴ね。田代社長に一本残らず渡さなきゃならないんだから」
千代は夫人の爪先にひろげられた白いハンカチを指さしして川田にいった。
「わかったよ」
川田は石瞼を塗られて殊更豊かに盛り上って見える漆黒の繊毛へそっと剃刀を当てがうのだ。
「♢♢優しく、うんと優しく剃刀を使って、ね、川田さん」
静子夫人はすでに被虐の高ぶりで切なげな喘ぎを見せながら媚を含んだ声音で甘くささやく。そして、悩ましく、双臀をうねらせながら腰をわずかに押し出すように川田の仕事を甘受しようとした。
川田の持つ剃刀の微妙な動きで二、三本の縮れ毛がねっとりと乳色に輝く太腿を伝わってハラリハラリとこぼれた時、
「おい。一寸、待てよ」
と、後方で急に田代の声がした。
いきなり水をかけられたような気分になって川田は剃刀の操作を止め、あわてて振り返った。
田代に森田、それにズベ公の銀子達が後手に縛り上げた美沙江を取り囲むようにしてニヤニヤしながらこっちを見ている。
美沙江は一糸も許されぬ素っ裸をきびしく麻縄で縛り上げられているのだ。気品と優雅さを兼ねた硬質陶器のような紙な美しい顔を朱に染めて美沙江は深くうなだれている。細い線で取り囲まれたような雪白の艶麗な裸身だけに、未だ成熟しきっていない可憐な乳房に巻きついている麻縄が何とも痛々しい。
そっと目を開いた静子夫人は葉桜団の銀子達に取り囲まれている裸体の美女が千原流生花の家元後継者である千原美沙江であるのに気づくと、自分の置かれている立場も忘れてハッとし、思わず、
「お嬢様っ」
と、高ぶった声をはり上げるのだった。
白磁の肩先まで垂れかかる長い黒髪を美沙江は揺さぶるょうにして顔を上げると、涙を一杯に浮かべた二重の美しい黒眼を夫人の方に注いだ。
「ああ、静子おば様っ」
と、叫び、後は言葉にならず、ねじるように顔を伏せた美沙江は華奢な白磁の肩先を慄わせて号泣するのだった。
「奥様を剃り上げるのは何時だって出来る。この家元のお嬢さんとそちらの若奥様を一つ檻にぶちこんでくれ。一寸、面白い事があるんだ」
と、田代はすすり泣く静子夫人と啼泣を洩らす美沙江とを楽しそうに交互に眺めるのだった。
第八十七章 悪魔の計略
深窓の令嬢
美沙江は細身の雪のような色白の優雅な裸身を小刻みに震わせながら静子夫人の乳色の艶々した肩先に額を埋めてすすり泣くのだった。
「そうなのよ、お嬢様。ここは悪魔の巣窟なのです。もうここへ陥ったが最後♢♢」
いくらあがいても助かる見込みはなく、希望を捨てるより方法がない、という事を静子夫人は心を鬼にして美沙江に告げるより方法はなかった。
今までいくら脱走を試みても失敗に終わり、希望の芽はことごとくむしり取られて、身も心も悪魔達の淫虐な拷問に微塵に破壊されてしまった夫人のそれは諦めである。
美沙江に希望を投げ出させた方が美沙江に対する救いになるのだと心に涙の雨を降らしつつ、夫人は美沙江の覚悟を求めるのだった。
それにしても千原流華道の家元を継ぐ深窓に生まれ育った美沙江が何の罪もなくこのような地獄に落ちこむなど、その不憫さに夫人の切れ長の美しい瞳からは熱い涙があふれ出て滑らかな象牙色の頬を濡らしつづける。
それに美沙江は世の中の汚れをまるで知らない十九の乙女ではないか。静子夫人は自分の胸に額を埋めさせてすすり上げる美沙江の白磁の肩先にまで垂れた艶々しい黒髪を撫でるようにしながら喉をつまらせている。
恐らく悪魔達はおそかれ早かれ、この令嬢を自分に加えつづけて来たような淫虐な方法で責めさいなむに違いない。病的なまでに華奢で繊細な身体の美沙江にあのようなむごい拷問が加えられればひょっとして美沙江は発狂してしまうのではないかと夫人は耐えられない気持になるのだった。
いや、いっそ美沙江が発狂してくれた方がそれだけ苦痛が救われるのではないか、とさえ夫人は思ったりする。
急に地下の階段を何人かが降りて来る足音がして夫人はハッと顔を上げ、美沙江をかばうように自分の背で隠し、おろおろした表情を牢舎の鉄格子の方に向けるのだった。
階段を降りて来たのは派手な小紋の着物を着た千代で、その後に川田とチンピラの竹田、堀川が後手に縛り上げた折原珠江の縄尻をとって入って来たのだ。
「ああ、珠江おば様っ」
と、美沙江はチンピラ二人に背を押され、腰を蹴られるようにされながらよろめく珠江を見て悲痛な声をはり上げる。
もとより珠江夫人も一糸まとわぬ素っ裸にされて形のいい柔らかい乳房の上にきびしく麻縄を巻きつかせ、がっちりと後手に縛り上げられているのだ。
「お嬢様っ」
珠江夫人はしなやかな白磁の裸身をよじらせるようにし、紅潮した端正な頬をそむけて口惜し泣きをする。
「社長の計画が急に変更したので珠江夫人のお仕置は後に廻したわ。丁度いい機会だから久しぶりに三人揃ったところで、つもる話に花を咲かせなさいよ」
と、千代は笑いながらチンピラ二人に珠江の縄を解くようにいった。
「もう少しでそこの毛を剃り上げてやる所だったのに残念だったな」
竹田と堀川は肌理の細かい珠江夫人の華奢でしなやかな裸身にまとわりつき、麻縄を解きながら、透き通るような色白の太腿の間に悩ましい翳りを作っている漆黒の繊毛に目を注いでいる。
牢舎の扉を開いて押しこまれると珠江は全身から力の抜けたようにその優雅な裸身をよろけさせ、静子夫人と美沙江の間にフラフラとひざまずいてしまうのだった。
「奥様、だ、大丈夫ですか」
「おば様、しっかりして」
と、静子夫人と美沙江は張りつめた気持が急にくずれたように、がっくり象牙色の肩を落としてしまった珠江夫人に寄り添うようにしておろおろしているのだ。
千代と川田は狭い牢舎の中に閉じこめられた三人の優雅な美女を鉄格子の聞から面白そうに眺めている。その三人の美女は一片の布も身につけぬ素っ裸、それが狭い牢舎の中でうごめき合っている光景が痛快でならないのだ。
「フフフ、まるで豚小屋ね」
と、千代は川田の顔を見て笑いこけた。
「実はね。奥様方にお嬢様」
千代は着物の袂から煙草をとり出しながらいった。
千代が口に咥えた煙草に千代の兄である川田がまるで秘書のようにライターの火を近づける。
「ちょいと、人がものをいってる時にはこっちを向きなさいよ」
急に激しい口調で千代がいうと静子は柔らかく翳った睫を哀しげにそよがせながら牢舎の外の千代を見上げるのだ。
「田代社長と大塚女史の希望を伝えるために私はやって来たのよ」
千代は口からぷーと煙草の煙を吐き出して、
「そちらで震えている千原家のお嬢さんだけど、やっぱり静子奥様のように商品として磨きにかけたいとおっしゃるのよ」
と、冷やかな口調でいい出すのだった。
静子夫人と珠江夫人は慄然とした表情になり、ガクガクと膝のあたりを震わせる美沙江に思わず左右から手をかけ、千代の陰険な目から二人で覆い隠すようにする。
「だけど、まだそちらのお嬢さんは男を知らないでしょ。処女を調教するって事はやりにくいって鬼源さんがいい出したのよ」
生娘にバナナ切りや卵割りっていう珍芸を仕込むのは無理だからな、と川田が横から口を出し、ゲラゲラと笑い出した。
「ですから、お嬢さんにいいお婿さんをお世話したいのだけれど、これ、どうかしら」
千代は帯の聞から一枚の写真をとり出して鉄格子の聞から中へほうり投げた。
「そら、以前、ここへ遊びに来られた岩崎親分の弟さんよ。年は三十三だけれど東京で岩崎一家の支部を作る程の腕のあるやくざ、それに色の道にかけては抜群、きっとお嬢さんに女の悦びを教えてくれると思うわ」
千代が牢舎の中に投げこんだ写真は全身に刺青した男が褌一枚であぐらを組んでいるものだった。登り竜の不気味な刺青とその精悍な表情を見た静子夫人は身震いして背後でブルブル震えている美沙江を抱きしめるようにする。
「名は時造さんといって前科六犯というしたたか者だけど女性にはとても優しい人なのよ。女性を悦ばせるためにあそこには特別な玉を五つも縫いこむ程の努力をする人だし」
千代はそういって声を立てて笑い、続けて、
「それにうちの社長と同じように変質趣味があって浣腸なんかにも興味があるというのよ。どう、お嬢さんにぴったりのお婿さんだと思わない」
静子夫人と珠江夫人の美しい象牙色の頬は同時にさっと怖い程にひきつった。
そんな恐ろしいやくざに美沙江を玩具にさせるなど二人の夫人は想像するだけでもぞっとする。
「や。やめて下さいっ」
珠江夫人は思わず甲高い声で叫び、大粒の涙を滑らかにしたたらせながら鉄格子に手をかけると悲痛な表情で千代を見上げるのだった。
「千原家のお嬢さんまでどうしてそんなむごい仕打ちを受けなければならないのです。一体、お嬢さんに何の罪があるというの」
と、高ぶった声を上げると静子夫人も鉄格子を白魚のような繊細な白い指先で握りしめながら、
「千原家のお嬢さんは未だ世の中の事もわからない温室育ちのお嬢さんです。それを私のようなみじめな女に転落させるなんて♢♢」
あ、あんまりですわ、と静子夫人は珠江夫人と一緒に奥歯を噛み鳴らして嗚咽し、美しい富士額を鉄格子に押しつけて乳色の肩を震わせるのだった。
哀愁の美女
千代と川田はそんな令夫人の哀泣をさも心地よさそうに見つめている。
「どうもこの結婚には後見人としては反対のようね」
千代はそういったが、急に毒っぼい調子で、
「奥様方が不承知でもこっちは思い通りの事はするからね。いくら泣きついたってこっちには通用しないよ」
といい、図に乗って甘ったれないで頂戴、と、冷酷な表情になるのだった。
静子夫人も珠江夫人も千代という女は完全なサディストで半ば狂っているという事を知っている。
だから、千代が彼女特有の冷酷な表情を見せ、残忍な言葉をはじき出すと、もうそれ以上、何もいえなくなって二人の令夫人は肩を寄せ合い、白い華奢な両手で顔を覆うよりはか方法はないのだ。
「ただ一つ、奥様方二人の心掛け次第では私から田代社長に頼んでこの結婚を破談にする事が出来るわ」
と、今度は頓をつき出すようにして千代はいい出すのだ。
千代のその言葉にすがりつくように珠江夫人は泣き濡れた顔を上げる。
「お願いです。お嬢さんをそんなむごい目ち合わさないで下さい」
「いいわ。その代り、お二人の奥様は社長好みのレズ関係になって頂くわ。そのために特訓をするけれどいいわね」
千代は遠山家の女中時代に医学博士夫人である折原珠江と静子夫人とが同じ、千原流生花の後援者という立場で親しい間柄になっているのを知っていた。
やれ茶の湯、やれ生花とこの令夫人二人が何かにつけそのような会を相談し合い、豪華な場所を借りて催していた事を千代は白い眼で見て来たのである。
鼻もちならぬ上流階級の有閑婦人達が、華やかに、また、きらびやかにそのような催しをしてそれを社交場と心得ている♢♢千代にはそれが何となく腹立たしくてならなかったのだ。
「奥様方のようなざあます族を互いに尻の穴まで舐め合えるような強烈なレズ関係に仕上げたいと田代社長がいいだしたのだよ」
と、川田が潤んだ美しい瞳を哀しげにしばたかせる全裸の令夫人二人にせせら笑っていった。
「お二人とも成熟し切った人妻同士でしょ。それなら今までの若い娘を相手にしたものなんかよりもっと濃厚な凄いレズが出来上る苦だわ」
如何、静子夫人、と千代は赤らんだ頬をこちらに見せている夫人に向かって冷やかな微笑を口元に浮かべながらいった。
「それともう一つ、これは折原夫人にいいたい事だけど♢♢」
千代は陰険な目つきで、鉄格子の間から唇を固く噛みしめている珠江夫人をじっと見ていった。
「あんた、ちっとも素直じゃないそうね」
珠江夫人は千代のその蛇のような邪悪な目に射すくめられたように身をすくませる。
「大塚女史もいってたわ。未だ博士夫人の気位が抜けきらないって。だから調教しようとする連中に時々反撥するのだわ」
すると珠江夫人はたまらなくなったように気品のある美しい頬を上げ、柳眉をキリキリと上げて、
「あ、あれが人間のする事なんですか。私達を犬猫以下の人間に扱って、あなた達、一体何の得があるのです」
と、はじき出すようにいい、今にも泣き出しそうになるのを歯を喰いしばってこらえている。
すると、千代は一層、険悪な表情になって、
「何ですって、もう一度、いってごらん」
と、鉄格子に手をかけながらいった。
「幾度でもいうわ。あなた達の方がけだもの以下の人間という事よ」
珠江は興奮状態に陥って千代に思わず竃づいたのである。
「いけないわ。奥様」
と、静子夫人はおろおろして珠江の艶々しい自磁の肩に手をかけながらいった。
狂気を持つ千代を怒らせればどんなに恐ろしいものか、それは静子夫人が一番よく知っている。
千代の怒りが自分に注がれるならまだしも美沙江に向けられる事を夫人は恐れるのだった。
「珠江さまは今、気が立っているのです。どうか気を悪くなさらないで。千代さん」
静子夫人は翳りのある濡れた美しい瞳を気弱にしばたかせてけわしい顔つきの千代に詫び入るのだ。
「珠江さまねえ」
千代は静子夫人がこのような状態におかれていても年長の珠江夫人に対し、礼を尽した言葉使いをするのがおかしくてならなかった。
珠江夫人も遠山財閥の令夫人である静子に対しては静子さまと敬語を使い、上流階級夫人特有の虚礼的なものの言い方を千代はあざ笑いたくなる。
ふと、千代の脳裡に遠山家の女中をしていた当時のある日の光景が浮かび上ってきた。
それは広大な遠山家の芝生の庭に赤い手艶せ敷き、朱傘の下で静子夫人が美沙江と珠江夫人を招いて野点を催した時の情景であった。
落ちついた仙琴紫に五粟の松を型染めした着物を着て、粛麓の前に坐る静子夫人は何ともいえぬ気高い美しさだったが、その近くに並んで物静かに坐っているさびた朱地の着物を着た美沙江も、青磁色の駒無地を着た珠江夫人も絵に描いたような美しさであった。空に白い雪が浮かび、バラ園のバラも咲き乱れて庭園の樹々には小鳥達が嘲り合っていたあの頃、それが三人にとっては一番幸せな頃じゃなかったが、と千代は思うのだった。
その天性の美貌を持った上流階級の静子、珠江、美沙江の三人が、今はこの地下倉の檻の中に揃って素っ裸にされて投げこまれ、身を寄せ合って震え合っている♢♢何と痛快な事だろうと千代は北叟笑むのである。
「私にそんな口をきいてただですむと思っているの、折原夫人」
と、千代は口元に冷酷な微笑を作っていった。
「それじゃ、やっぱりこのお嬢様と時造さんとは夫婦の契りを結んで頂くわ」
ハッとしたように静子夫人と珠江夫人は同時にひきつった衷情になり、おどおどした眼差しになる。
「お願いです、千代さん。そ、そんなむごい事はやめて。珠江さまも本気で今の言葉を吐いたのじゃありませんわ。♢♢ね、珠江さまそうですわね」
静子夫人は白膿のように美しい熱い涙を幾筋もしたたらせながら珠汗夫人に向かって悲痛な声音でいった。
ここは一旦、千代に詫びなければ本当に千代という女は何を始めるかわからないという事を静子夫人は哀しげな瞳で珠江に知らせているのだ。
珠江夫人は屈辱に耐えられず遂に両手で顔を覆いながら号泣する。
そして、激しく白磁の肩先を震わせながら、
「千代さんに私、謝りますわ。ひ、ひどい事をいってごめんなさい」
と、消え入るように身を縮ませて千代に頭を下げ、同時に魂を緊め上げるような口惜しさがこみ上げて来て再び激しく肩先を震わせて泣きじゃくるのだった。
千代はそんな珠江夫人を満足げに眺めている。
「それじゃ、二人とももう一度、最初から心を入れかえるつもりで私達の調教に協力してくれるわね」
メソメソせず返事なさいよっ、と千代は互いに裸の肩先に額を押しつけ合うようにして嗚咽し合う二人の夫人にいらいらした声を投げかけた。
「わ、わかりましたわ。素直に調教をお受けします」
静子夫人は白い華奢な指先であムれ出る涙を押さえながらいった。
「そちらの奥様もいいわね。珠江夫人も今度からレズの特訓に入るけど異存はないわね」
千代は奥歯を噛み鳴らして嗚咽しつづける珠江夫人に向かって冷やかにいった。
「お、おっしゃる通りに致しますわ」
珠江夫人は泣きじゃくりながらはっきりと千代にうなずいて見せた。
「円代社長もそれを聞けばきっと悦ぶわ。最近のお客は一寸やそっとの刺戟じゃ満足しないからね。うんと濃厚なのをお願いするわよ」
それじゃ、後で鬼源さんを連れて調教の打ち合わせにやって来るからね、と千代は鼻毛を抜きながらつっ立っている川田をうながして引き揚げてゆく。
千代達が地下の階段をのぼって行くと、先程から身を二つ折りに縮めて顔を伏せていた美沙江が断続的にすすり泣きの声を洩らしている静子夫人と珠江夫人に向かって、
「おば様、もう私、覚悟しましたわ」
と、喉をつまらせていった。
え、と夫人二人は驚いて美沙江の顔を見る。
「おば様二人に辛い思いをさせてまで私、助かろうとは思いません。神様のおぼし冒しだと思って奈落の底に私も沈むつもりです」
「何をいうの、お嬢様」
と、珠江夫人は美沙江の華奢な雪白の肩を自分の方へ抱き寄せるようにしていった。
「お嬢様をそんなむごい目に合わせてたまるものですか。あなたは千原華道の後継者なのですよ。私が自分の身にかえても絶対にお嬢様の身体は♢♢」
守ってみせます、と気丈な珠江夫人は崩れかかる美沙江の心を励ますつもりでそういうのだったが、静子夫人はそうした努力も結局は水の泡になる事を承知している。これまで自分がこの恐ろしい屋敷に捕われている若い女性を救うためにどれだけ身を犠牲にし、悪魔達の言いなりになってきた事か♢♢しかしそれは悪魔達のいわば計略であったのだ。とはいえ、美沙江から希望の芽をすっかりむしりとり、奈落の覚悟のみせ要求するという事は何と残酷だろう。たとえ、それが時間稼ぎに過ぎないものであっても、美沙江を救うための努力はしなくてはならないと思うのだった。
「お嬢様、短気を起こしてはいけませんわ。珠江さまのおっしゃる通り、何時かはここより救い出されるという希望を最後まで持って下さい」
静子夫人は美沙江にもうこの地獄より救われる望みはないという意味の事をいった自分に恥じ入るのだった。
「静子さま、私からもお願い致します。お嬢様を救うために何とか力をお貸し下さい」
珠江夫人は涙を一杯滲ませた瞳を静子夫人に注ぎかけながら声を震わせてそういうのだ。
珠江夫人にとって美沙江は神格化された存在であった。主家の姫君を擁護しようとするお局の忠誠心に似たものがある。
地下の階段に足音が再び響き出したのはそれからはんの数分後であった。
二人の令夫人は左右から美沙江をかばい合うようにして硬化した表情を鉄格子の外へ向けるのだ。
千代が今度は田代と鬼源を連れてやって来たのだ。
「千代さんから今、話を聞いたよ、それじゃ、折原夫人もやる気になってくれたのですね」
田代は楽しそうに珠江夫人のやや蒼ずんだ硬質の表情と静子夫人の哀愁の珍んだ海たけた容貌を交互に見つめる。
「実は関西の岩崎親分の到着予定が少し早くなったんだ。以前のサドマゾショーが余程お気に入られたようで今度も大いにそれを期待なさっているんだよ」
だから、今度はこっちも以前よりもっと刺戟の強いものを企画したいと思っている、と田代は張り切った調子でいうのだ。
「上流夫人の濃厚なレスビアン、これは楽しい企画と思うんだ」
ホクホクした表情で檻の中の二人の優雅な令夫人に話しかけるのだった。
「日もないのだから、これからは特別訓練を鬼源が実施してくれるそうだよ」
珠江夫人と静子夫人はベラベラと精力的に話しかけてくる田代の口元を茫然とした表情で見つめていた。
「今日からお二人の奥様は調教室の檻に入って頂くわ」
と、千代がいった。
特訓するため、便宜上、調教室の特製の檻の中へ二人を監禁し、日夜、ぶっ通しで調教を受けさせるのだと千代は嗜虐のうずきを噛みしめるようにしていうのだ。
「レズの指導の合い間に静子夫人は黒人とのショーの稽古、珠江夫人は卵割りにバナナ切りなんかの稽古をして頂かなきゃならないでしょ。この地下室までいちいちお二人を迎えに来るのはこっちも大変なのよ」
千代はそういって後ろから麻縄の束を担いで来た川田の方を向き、
「それじゃ、早速、この奥様二人を調教室の方へ運んで頂戴」
と、声をかけるのだった。
「千代さん、お願い、私達をお嬢様と一緒にここへ置いて下さい。もう決してさからうような真似は致しませんから」
と、静子夫人は柔らかい長い睫を哀しさに震わせてすすり上げながら千代に哀願するのだった。
美沙江一人をここに残せば卑劣な連中は彼女に対し、何をするかわからない。それが不安で静子夫人は必死なものを潤んだ瞳に滲ませて千代を見上げるのだったが、珠江夫人もまた千代に対し、恨みも憎しみも忘れたようにせっぱつまった口調で哀願し出すのだ。
「お願いです。私達、死んだつもりになってどのような責めでもお受けしますから、どうか、お嬢様さまの傍へこのまま二人を置いて下さいまし」
涙で喉をつまらせながら、小核みに震える美沙江の柔肌を優しく抱くようにし、二人の令夫人は交互に千代へ哀願するのだったが、川田は鍵をポケットから取り出して牢舎の扉を開き、
「何時までブツブツいってるんだ。早く出て来な」
と、白々しい表情で声をかけるのだった。
「奥様方、あまり聞き分けのない事をくり返すと、千代さんがまたヒステリーを起こしますよ」
と、田代はいい、チラと千代の顔を見て同時に声を上げて笑い出す。
「お嬢様っ」
と、二人の令夫人は左右から美沙江の雪白の美殿な肩先を共に抱きしめるようにして、哀泣するのだ。
このような薄暗い牢舎の中でこれから丸裸のままで一人過ごさねばならぬ美沙江が不慣でならず、美沙江がこれから味わう恐怖感と絶望感を思うと二人の胸は張り裂けそうになる。
「我慢するのですよ、お嬢様。決して希望を失ってはいけませんわ。何時かは必ず救われるとそれを信じて下さいましね」
珠江夫人は、淋しそうな横顔を見せ、美沙江にとりすがるようにして必死な口調でさとしているのだ。
華奢な象牙色の肩先に垂れかかる美沙江の美しい黒髪に静子夫人も額を押しつけるようにして嗚咽している。
「わ、わかりましたわ。私、決して希望を捨てたりは致しません」
美沙江が声を震わせてそういうと、
「よくいって下さったわ、お嬢様。気を落としてはいけませんよ」
と、珠江夫人は思わず美沙江を強く抱きしめ、声を上げて泣くのだった。
三人のすすり泣きは地下倉に低くこだましていた。
調教再開
調教室の天井を横に走っている鉄棒には、滑車がとりつけてあって、壁のハンドルを動かせば、滑車はガラガラと回転し始め、鎖が床にまで、垂れ下がってくる仕掛けになっている。今、その壁のハンドルをチンピラの竹村と堀川が操作している。
部屋の中央の二つ並んだ滑車が同時に回転し始めて細い鎖が二本、鈍い音をきしませながらからみ合って垂れ下がって来た。
それと同時に調教室のドアが開そ千代が田代と何か楽しげに語らいながら入って来る。すぐその後から、一片の布も許されぬ全裸の貴婦人二人が揃ってがっちりと後手に麻縄で縛り上げられ、その縄尻を川田と鬼源にとられ、引き立てられて来たのだ。
静子夫人も珠江夫人も涙の枯れ果てたような空虚な眼差しをまるで空気か水でも見つめるようにぼんやりと前方に拘け、二人の象牙色の優雅な横顔は淋しい落ち着きを得たように美しく澄んでいた。
「さ、あそこに垂れている鎖の所まで行くのよ」
今後の調教について鬼源さんの説明があるから、と千代は部屋の中央に垂れ下がっている二本の鎖を指さして夫人二人に声をかけた。
「二人ともそんな情けない顔はしないでよ。調教室に入ればお互い張り切った気分にならなきゃ駄目よ」
木製の寝台や調教柱、それに大小様々の鎖が垂れ下がる不気味な調教室をおびえた表情で見回す珠江夫人を千代は見てクスクス笑い出す。
さ、ここへ立ちな、と鬼源は二本の鎖の垂れ下がる真下の床へチョークで円を描き、その中に二人の夫人を突き入れると彼女達の縄尻を川田と二人で二本の鎖に結びつけるのだ。
二人の貴婦人の絖のような光沢を帯びた優美な裸身がそれぞれ鎖につながれて寄り添うようにしてそこに立つと田代と千代に手招きされ、先程から調教柱を磨いていたズベ公の銀子や朱美などが面白そうに近づいて来るのだ。
「春太郎達も呼んで来てよ。一応、皆んなにこれからの調教方針を聞かせておきたいのだから」
千代がそういうと、あいよ、と朱美は調教室の外にかけ出して行った。
「まあ、遠山家の奥様と折原家の奥様が二人お揃いで、これはまあ。おめずらしい事ねえ」
といいながらヒラヒラとする青いパンタロン姿のシスターボーイ二人が入って来る。
珠江夫人はしゃなりしゃなり身をくねらせたシスターボーイの春太郎と夏次郎が近づいて来ると忽ちたまらない嫌悪の色をその端正な硬質の横顔にはつきりと現わし、美しい眉根をしかめてさっと顔を横へねじるのだった。
珠江夫人が生理的にこの種の男達を嫌悪するという事は千代もよく知っている。
「あら、折原の奥様ったら、私達が近づくと随分と嫌な顔をなさるわ」
春太郎は虫ずの走るような表情で唇を噛みしめる珠江夫人を見て夏次郎と一緒に処置なしといったおどけたポーズをとり合うのだ。
「モジモジせず、二人ともこっちを向きな」
と、鬼源は一升瓶の酒を茶碗に注いで一口喉へ流しこむと、どすをきかせた声を夫人達に浴びせかけた。
静子夫人と珠江夫人は肩先を触れ合わせながら鬼源のあぐらを組む正面にその緊縛された美しい全裸像を小刻みに震わせながら向けるのだ。
「まあ、お二人とも相変らず綺麗な身体ねえ」
春太郎と夏次郎は千代の左右に寄り添うようにし、揃って目を伏せている二人の夫人のねっとり輝くような艶っぼい裸身に目を注ぐのだった。
静子夫人は妖しい官能味を湛えた成熟した肉づき、藹たけた美しい容貌といい、麻縄に緊め上げられた乳房といい、腰部から太腿にかけての優美な曲線も息のつまりそうな悩ましい女っぼさを湛えている。その仇っぼい官能美を匂わせる太腿の間にむっと悩ましく盛り上っている濃密な繊毛のふくらみは触れれば溶けるような柔らかさでムンムンする情感を湛えているだ。
珠江夫人の方は静子夫人の肉体のように妖艶な官能味こそなかったが、しなやかさと繊細さを折り混ぜた清美な肋線で囲まれ、麻縄で心っちり緊め上げられた乳房の形も乙女のそれのような瑞々しさと可憐さを持ち、雪白の肌理のこまやかさは男心を胱惚とさせるものだった。雅美さえ湛えるしなやかな太腿♢♢そしてその附根に息づく繊毛さえ気品を帯びているような繊細さで淡く柔らかく、ひっそり盛り上っているのだった。
「この美しい奥様お二人がレズ関係を結んで下さる事になったのよ。次回のサドマゾショーの呼びものにしたいと社長はおっしゃっているの」
千代が夫人達の美しい容貌と肉体に見惚れている連中に向かっていうと、
「まあ、素敵」
と、銀子達もシスターボーイの春太郎達も手を叩いて悦び合うのだ。
妖しい官能美を持つ静子夫人と清麗さとしなやかさを持つ珠江夫人の二人のからみ、これは互いに成熟した人妻だけに凄艶なショーになるかも知れぬと田代が誇らしげに銀子達に説明し始める。
鬼源が今度は緊縛された裸身を立たせている夫人二人の前に酒くさい息を吐きながら近づいた。
「田代社長が大いに期待なさっているんだ。互にケツの穴まで舐め合えるようないい仲になってくれなきゃ困るぜ。今度は今までみたいな生っちょろいレズじゃ客が承知しないからな」
鬼源は懐から紙切れを出し、これからのお前さん方の調教予定を聞かせてやる、としゃっくりをしながらそのメモを一目にするのだ。
「お二人にぴったりサイズのお道具を今、俺の専属の技工師に作らせているんだ」
専属の技工師とはよかったね、と田代は大きく口を開けて笑い出す。
「ま、大体、形だけは出来ているんだがね」
鬼源は床の上の風呂敷包みを開けて奇妙な筒状のものを取り出した。長さは約三十センチでその中央に鍔のようなものがはめられている。
それが何に用いられるものか、静子夫人にも珠江夫人にもわかり、同時に象牙色の頬をぼうと染めてうろたえ気味にそれから視線せそらせるのだった。
「まあ、立派なものねえ」
と、春太郎が笑い出し、それを鬼源の手から取って、
「長さといい太さといい立派過ぎるわ。特大じゃないかしら」
「お二人とも貫禄のある御婦人方だ。これ位のものをお使いにならなきゃあな」
鬼源は春太郎の手からそれを取り返し、今度は田代の目に自慢げにそれを示すのだ。
「こいつはね、社長。相対張形といいましてレズのプロ級が使う道具なんですよ」
「はう、もうそうして出来ているなら早速、この御婦人方に実験して頂いちゃどうかね」
田代が鬼源の差し出す二人用の性具を感心したように見つめていうと、鬼源は黄色い歯を見せてニヤリと笑った。
「いや、もう一口待って下さい。こいつにもう少し反りを入れ、先端を少しけずって、ずいきの繊維をぴっしり巻きつけるんです。こいつは特殊加工で出来ていますから奥様方がたっぷり水分を出して下さると柔らかくなる」
明日の夕方までには芸術品的な性具が完成しますよ、と鬼源は胸を張るようにして田代にいってから、輝く頭を垂れてぴっちりと合わせている両肢をガタガタ震わせている二人の夫人に目を向けるのだった。
明日の六時から今、つっ立っているその場所でまず道具を使って立位の愛し方から稽古する、と鬼源は事務的な口調でいい出すのだ。
「お互にケツをしっかり振り合い、呼吸を合わせてやって見なきゃ駄目だぜ」
静子夫人は美しい眉根をさも哀しげにしかめ、珠江夫人は血の気の引いた端正な頬をヒクヒクと恐怖にひきつらせている。
「それからマットにおねんねして縄つきのままで六十九型を演じて頂くからな。いいか、そいつも頂上に登り合うまで舐めっこするんだ。うちのショーはごまかしの演技は通用しないからな」
鬼源がそういうと千代が続けて、
「奥様達はお互いに親友同士だし、脂の乗り切った身体をなさっているのだからぴったり呼吸が合う筈だと思うわ。本当にお尻の穴までペロペロ舐め合うような凄いのを演じて預戴。期待しているわ」
明日になればこの貴婦人二人が互いに犬のような真似をし合うのだと思うと千代は急に何ともいえぬおかしさがこみ上げて来てたまらなくなったように笑いこけた。
「ああ、静子さま」
珠江夫人は鬼源や千代達のそんな恐ろしい言葉を聞くと急にめまいが起こり、フラフラとよろけながら静子の肩に横顔を押しつけていったのである。
「だ、大丈夫ですか、珠江さま、しっかりなすって」
と、静子夫人は珠汗が本当に気を失ったのではないかとおろおろして緊縛された優美な裸身を振り動かせながら彼女のよろめく身体を肩で支えようとする。
「恐ろしいわ、そ、そんな恐ろしい事を私達、本当にしなければならないの」
珠江夫人は硬く整った頬を蒼ずませて静子夫人の身体に支えられながら声を震わせていうのだった。
「しっかりなすって、珠江さま。お嬢様を救うため、お互いに死んだ気で耐えねばならない事ですわ」
節子夫人は陰影の深い美しい瞳にねっとり涙を滲ませながら珠江夫人を励ますようにいうのだった。
「フフフ、お互いに身をすり合わせて、まあ、お仲のよろしい事」
と、千代は後手に縛られた美麗な裸身を触れ合わせている二人の夫人をからかうようにいった。
「これならレスビアンもうまくいきそうね」
と、朱美がいって哄笑する。
「それから今日から二人は当分、あそこの檻に入って頂くからな」
鬼源は調教室の隅に置かれている頑丈な鉄製の檻を指さした。
「あの中に入っている間はレズの演技についてよく二人で打ち合わせたり、勉強し合ったりするんだ。お互いめ身体をまあ、よく理解し合うって事だな」
鬼源はそういって再び茶碗に一升瓶の酒を注いで田代に渡す。
田代はそれを一息に飲みこんで、
「それじゃ、打ち合わせはこれ位にして明日の調教まで奥様方に橙へ入って頂こうか」
というと、鬼源はあわてて、
「冗談じゃないですよ、社長」
と、いうのだった。
「奥様方二人はレスビアンだけのスターじゃありませんからね。まだ、色々と調教しなくちゃならない事があるのですよ」
第一そこの御婦人は、まだ卵一つ割る事も出来ないのですよ、と鬼源は静子夫人の肩に額を押しつけている珠江夫人を指さしていうのだった。
「それに社長、これを見て下さい」
鬼源は床の上の風呂敷包みの中から今度は油紙に包んだ筒具を取り出した。
「これは黒人のジョーのあいつに合わせて技工師に作らせたものなのです。どうです、凄いでしょう」
はう、と田代はその巨大なジョーのサイズに驚くと、
「ジョーは女のケツが好きだって事、御存知ですか」
ジョーの好みはいわゆるアナルセックスというものでかなり静子夫人はその部分を鍛練されたとはいえ、こんなでっかいものをぶちこまれりや大出血を起こしてのびてしまうかも知れぬと鬼源がいったので千代と川田はゲラゲラ笑い出した。
「だから、ジョーのそいつを呑みこめるだけのものに鍛えてやらなきゃ、かわいそうじゃありませんか」
「成程な」
「岩崎親分のお越しになるのも早くなったんでしょう。ショーの開催まで日はいくらもありやしませんよ」
今夜は恐らく徹夜の調教になるでしょうよ、と鬼源はいうのだった。
縄尻を鎖につながれてそこに立つ静子夫人と珠江夫人は気が遠くなる思いで鬼源のそんな話を耳にしている。
「わかったな、奥様方」
と、鬼源は緊縛された裸体を寄せ合ってガクガクと膝頭のあたりを震わせている令夫人二人に声をかけるのだった。
「折原の奥様はあそこの調教柱」
銀子が調教室の片隅に不気味に立っている黒光りした四角い柱を指さすのだった。
「鬼源さんの助手として私達三人が色々と御指導させて頂くわ」
と、銀子、朱美、マリの三人がブルブルと白磁の肩先まで震わせ始めた珠江夫人を愉快そうに見ていった。
「遠山の奥様は、あそこの調教台よ」
と、今度は、春太郎と夏次郎がしゃなりしゃなり進み出て反対側の一隅を指さした。
そこには木製の不気味な寝台があり、その上からは天井の滑車を伝わってどす黒いロープが幾本か垂れ下がっている。
「お尻の方はゲイボーイの私達が専門でしょう。鬼源さんの助手を勤める事になっているの、よろしくね」
と、夏次郎は悲痛な翳りを帯び始めた夫人の満たけた容貌を見てウィンクするのだ。
「つまり、お二人の御婦人は東西に分かれて前と後の鍛練にかかるというわけですな」
田代は腹をかかえて笑い出す。
「そういう事ですよ」
と、鬼源は懐から茹で卵を一つとり出して単に乗せ、綺麗に揃った睫を哀しげにしばたかせている静子夫人の前へ押し出すのだ。
「今まではピンポン玉三つぐらいがやっとだろ。せめてこの卵を二つはど呑みこめなきゃあ、ジョーには太刀打ち出来ないぜ」
といって片頬を歪めるのだ。
「ょ、そちらの奥さん」
と、次に鬼源は恐怖に長い瞳をフルフル慄わせている珠江夫人に近づき、
「お前さんは前で生卵を割る練習だ。割れるまで夜が明けたって続けさせるからな。そのつもりでやんな」
と、持ち前の冷酷さを目に滲ませて睨みつけるのだった。
「それじゃ、お二人を調教の持ち場へ連れて行きな」
と、鬼源が銀子達の方を向いていうと、
「一寸、待って」
と、千代が含み笑いしながらいった。
「せっかくこうして二人仲良く寄り添っていらっしゃるじゃないの。明日から調教開始する人妻レズの予告編みたいなものを見せてほしいわね」
千代は必死に顔を伏せ合い、辛そうに眉根を寄せている二人の令夫人に向かって、
「ね、奥様、仲のいいキッスをして見せて下さらない」
と、楽しそうにいうのだった。
貴夫人の口吻
千代のその言葉に今まで緊縛された裸身をかばい合うように寄せている静子夫人と珠江夫人ははじかれたように真っ赤に火照った頬をそむけ合った。
「あら、あれ程、仲のよかった奥様方じゃないの。何も照れ合う事はないでしょ」
千代は令夫人二人が共に初々しい羞恥の紅をその柔媚な頬に散らし合ったのを見て北里笑むのだ。
「何をモジモジしてやがるんだ。照れ合うような柄じゃねえだろう」
鬼源は荒々しい声でそういい、
「そんな事じゃ明日の調教が思いやられるぜ。いい加減にしろ」
と、わめくように叫ぶのだった。
同時に銀子と朱美が背と背を向かい合わせるようにして小さく嗚咽し合っている夫人たちにまといつき、
「ねえ、人妻同士の濃厚なキッスを見せてよ」
と、甘えかかるように静子夫人の乳色の肩を揺さぶったり、珠江夫人の白磁の肩を動かしたりする。
静子夫人と珠江夫人はズベ公達に緊縛された裸身を激しく揺さぶられながら何時の間にか艶やかな背すじの中程で縛り合わされている華奢な手首でお互いをまさぐり合い、背中合わせで固く手を握り合っていた。
「珠江さま、もう私達、この人達の言いなりにならねばなりませんわ。私ずかしさを忘れて下さいまし」
静子夫人は珠江夫人とぴったり背を押しつけ合いながら、縛り合わされた手で強く彼女の手を握りしめ、切れ長の美しい眼尻から熱い涙をしたたらせている。
「わ、わかったわ、静子さま。取り乱してしまって御免なさい」
珠江夫人ももとより狼共の嬲りものになる覚悟は出来ているのだ。静子夫人の麻縄を巻きつかせた手首を強く握り返すよえにして自分の覚悟を伝えた珠江夫人は呼吸を合わせるようにして静子夫人と向かい合う。
すると、ようやく夫人の身体から手を引いたズベ公達は、
「さ、早く口を吸い合ってよ」
と、手を叩いてはやし立てるのだった。
「まだ、照れ合ってるわ。ねえ、早く」
「静子奥様の方はたっぷりこの経験があるじゃないの。何をぐずぐずしているのさ」
はのかな香気が立ちのぼるような線の美しい頬と頬、それを互いにぴったり触れ合わさせている二人を見ながらズベ公達は盛んに揶揄しまくるのだ。
銀子達のいうように静子夫人は強制されて女同士の肉の行為をこれまで幾度か経験させられている。
遠山の先妻の娘である桂子、そして自分を救出に来て捕えられた京子、また、自分にとっては茶道の愛弟子に当たる小夜子——そして今度は華道の朋輩であり、畏敬する先輩でもある珠江夫人とあの時の底知れぬ恐ろしさをくり返さねばならないのだ。
珠江夫人と共に肉と心を傷つけ合わねばならぬ恐ろしさに静子夫人はおののきつつ、しかし、もうどうにもならぬという悲しさをこめて、熱っぼく上気した頬を珠江の頬に優しくすり合わせていく。
「珠江さま、許して、許してね」
むせび泣くようにそういった静子夫人はそっと珠江夫人の紅潮した頬から頬を離し、のっぴきのならぬ哀しみを深く沈めた潤んだ瞳で珠江のすっかり観念して冴え渡った白蝋に似た容貌を見つめるのだった。
珠江夫人が綺麗に揃った睫を静かに閉じ合わせていくと静子夫人もそっ七日を閉じ、かすかに首を斜めにして彼女の羽毛のように柔らかい紅唇へ自分の唇を軽く当てがっていったのである。
「待ってました」
と、銀子達は手を叩いて哄笑する。
「フフフ、またこれでレズのカップルが一つ誕生したわけね」
千代は互いに屈辱の熱い涙をしたたらせながらくなくなと乗らかく唇をすり合わせている令夫人たちに満足そうに見惚れるのだった。
「ちょいと、そんな唇をすり合わしているような生っちょろいのは駄目よ。明日は奥様達お互いに穴の奥までしゃぶり合わなきゃならないのよ。もっと濃厚な接吻を演じなきゃ駄目じゃない」
と銀子がいえば、続いて朱美とマリがぴったり身をくつつけ、
「舌をチューチュー吸い合いなよ。吸ったり吸わせたり、もっと情熱をこめてやらなきゃ駄目よ」
もどかしげに後手に縛り上げられた裸身をくねらせながら唇をすり合わせていた静子夫人はふと唇を離し、カチカチと歯を噛み鳴らして小刻みに慄える珠江夫人に更にぴったりと密着すると、
「珠江さま、もう私達も悪魔にならねば駄目ですわ」
と、言い含めてもう一度、強く唇を押しつけていくと珠江夫人の花びらに似た唇の奥へ濡れ絹のようにしっとりとした甘美な舌先を含ませようとするのだった。
これから珠江夫人は調教柱に縛りつけられ、卵を割り砕くという身を切られるよりも辛い調教を受ける事になるのだ。それがこれだけの事でこんなに慄えおののいていては、と静子夫人は極度に高ぶっている珠江夫人の神経が恐ろしいものに思われてくる。地獄の苦しみを少しでも彼女の神経からぼかせるため、この異様な興奮を自分の努力で溶け崩させてやらねばならぬと静子夫人は思うのだった。
それにはまず自分が悪魔になり切らねばならぬ。
「珠江さまも静子の舌を吸って、ねえ」
静子夫人はカチカチと震わせる珠江夫人の真珠のように白い歯の間に舌先を柔らかく押し入れていき、珠江夫人の湿り気を帯びた柔らかい舌先を粘っこくからませ、また甘く吸い上げ、そっと唇を離すと赤らんだ彼女の耳元に日を寄せてハスキーな声で囁くのだった。
「ね、お願い、珠江さまも私のように悪魔になって」
静子夫人は再び珠江の唇へ唇を重ね合わせていき、麻縄に固く緊め上げられた豊かな乳房を相手の柔らかい乳房にそっと押し当てるとゆるやかにすり合わせ始めたのだ。
うっと、珠江夫人は一瞬、激しく全身を震わせた。
強く押しつけ、くねくねとこすりつけて来る静子夫人の柔軟な美しい乳房——相手の乳頭を自分の乳頭でコリコリとくすぐり、またぴったりと胸の隆起を押しつけて腰部のうねりと一緒にさすりつけてくるその妖しい技巧に珠江夫人の五体は痺れ、不可思議な恍惚感がこみ上って来たのだ。
これから珠江夫人が遭遇する地獄の責苦、それに順応させるため、静子夫人は彼女に対し、哀しい、必死な努力をくり返しているのだった。
そうとも知らず銀子や朱美達は静子夫人の思い切った行動を見てキャッキャッと手を叩いて喜び合った。
「さすがはベテランね。どう、あの身の動かし方、全くうまいもんだわ」
静子夫人にすっかり煽られた形で今では珠江夫人もうっとり目を閉じ合わせ、貪るように相手の舌先を吸い始めているのだ。それだけでなく、能動的な動きを見せる静子夫人に合わせて消極的ながら自分もまた呼応し、身をすり合わせ始めたのだ。
「もっと色々な手を使って折原の奥様を楽しませてあげて頂戴。ベテランなら出来るでしょう」
千代は田代と顔を見合わせて笑い出しながらいった。珠江夫人の唇からようやく唇を離した静子夫人は、熱っぼく
あえ喘ぎながら、
「珠江さま、少し、肢をお開きになって」
「ど、どうなさる気なの」
「うん、いいからお開きになって」
静子夫人は片二方の膝を折り、むっちりと肉のついた官能的な乳色の太腿を珠江夫人の艶々しい美麗な両肢の間にくりこませていったのである。
「ああ、そ、そんな」
静子夫人の妖しい官能味を持つ太腿の表皮は珠江夫人の股間を揺さぶるように押し上げるのだ。
「あっ、嫌っ、静子さま、そんな事、なさらないでっ」
「静子のように、淫らな、淫らな女になって下さい。そうでなければ、これからの調教はとても辛いわ。ね、わかって、珠江さまっ」
静子夫人は必死なものを目に浮かべ、凄艶な表情になっている。
「わかって、ねえ、わかって頂戴」
狼狽と羞恥の色を顔面一杯に漲らせて身悶えする珠江夫人を更にねっとり脂肪を浮かべた太腿で静子夫人は揺さぶりつづけるのだ。
かあ、と全身を火柱のように燃え立たせてしまった珠江夫人は耐え切れなくなったように今度は自分の方から麻縄に緊め上げられた柔らかい乳房を静子夫人へ押しつけていく。
「ひ、ひどいわ。私をこんな思いにさせて。私、静子さまを恨みますわっ」
静子夫人の妖気に煽られたように珠江夫人もまた一途に燃えさかり、二人の令夫人は激しい噂泣を洩らし合いながら再び狂ったように黒髪を振り乱してぴったり唇と唇を重ね合わせるのだった。
それを取り囲む悪魔達は何かにとり憑かれたような狂気を発揮し合う令夫人を固唾を呑むようにして見守っている。
第八十八章 狼狽する令夫人
地獄の調教
緊縛された柔軟で優美な裸身をぴったりと押しつけ合い、今はもう理性もなく、自意識も喪失させて貪るように舌を吸い合っている静子夫人と珠江夫人である。
二人の耳には千代の嘲笑も田代の哄笑も聞こえない。いっそこのまま身も心もどろどろに溶かされて雲か水に同化してしまいたい、といった血走った思いになりながら、麻縄に緊め上げられた美しい乳房と乳房を押しつけ合い、優雅にくびれた腰と腰とを悩ましく揺さぶり合いつつ、互いに火のように燃え立っていくのだった。
「二人の身体を結ぶ道具が間に合わなくて残念だったわね」
千代は甘美なすすり泣きをくり返しつつ身をすり合わせている二人の夫人を面白そうに眺めながらいった。
「予行演習はそれくらいにしておこうか」
鬼源がそういい、両夫人はようやく動きを止めたが、そのまま熱っぼい頬と頬とをぴったりと押しつけ合い、自分達の恐ろしい運命を嘆き合うようにシクシクとすすり泣いている。
「それじゃ、折原夫人は調教柱、遠山夫人は調教台の方へ行って頂こう」
鬼源が日くばせすると銀子と朱美は珠江夫人の縄尻を鎖から解き、春太郎と夏次郎は静子夫人の縄尻を鎖より外すのだ。
「珠江様、我慢なさって。どんな苦しい責めに合っても耐えて下さい。いいですわね」
静子夫人は銀子に連れ去られようとする珠江夫人に緊縛された優美な裸身を強く触れさせていきながら涙に喉をつまらせていうのだった。
かつて自分が受けたあの淫虐な調教を珠江夫人がこれから受けなければならないのだ。医学博士夫人という上流階級の珠江夫人がその淫靡残忍な拷問に耐え切れるか、それを思うと静子夫人は自分がこれから受けなければならぬ恐ろしい調教の事は忘れてすすり泣くのだ。
「さ、静子奥様はこちらへどうぞ」
春太郎と夏次郎は静子夫人の乳白色の艶々しい肩先に左右から手をかけて南側にある調教台の方へ引き立てて行く。
「静子様っ」
珠江夫人は銀子と朱美に縄尻をとられ、北側の調教柱の方へ引き立てられながら静子夫人に向かって悲痛な声をあげるのだった。
「さ、ぐずぐずせず、こっちへ来るのよ」
銀子と朱美は縄尻を邪険にひっぱる。珠江夫人はつんのめるようによろけてその緊縛されたしなやかな白磁の裸身を調教柱の前へ引き立てられて行った。
黒光りした角柱の前に立った珠江夫人はぞっとしたように身をすくませ、その不気味な調教柱から視線をそらせた。
千代が薄笑いを口元に浮かべて小刻みに慄える珠江夫人の傍へ近づいて来る。
「そんなに固くなっちゃ駄目よ、奥様」
と、千代は珠江夫人のおくれ毛が数本まといつく線の綺麗な頬を見つめながら、
「これから奥様にはその調教柱で、一卵割りとかバナナ切りとかいろいろな事を勉強して頂くわけよ」
と、楽しそうにいうのだ。
「静子奥様もその柱に縛られて調教を受けたわ。あの奥様はお道具の出来具合いがとてもいいのですぐに会得なすったけど」
千代は銀子と顔を見合わせてクスクス笑い出す。
「珠江奥様は如何かしら」
と、千代は銀子に縄尻をとられてそこに立つ珠江夫人の優雅にくびれた腰部の方へ目を落とした。
しなやかで仇っぼい曲線を描く妖しいばかりに色白の太腿、その附根にひっそりと息づく気品さえ帯びた柔らかそうな繊毛——それがやがて鬼源やその助手になった銀子達の調教で卵を含み、バナナを呑みこまされるのだと思うと千代は痛快でならないのだ。
「ぜ、奥様を柱に縛って頂戴。大塚女史も間もなく見物に来ると思うわ」
千代が声をかけると、銀子と朱美は半ば気を失いかけている珠江夫人を叱咤するようにして調教柱に押しつけ、柱の下に束ねてあった麻縄を取り上げてキリキリと固くつなぎ止めていくのだ。
珠江夫人は血の出る程、固く唇を噛みしめ、象牙色のうすら冷たい頬を一層強ばらせながら目を閉じ合わせている。
柱を背にし、がっちりと立位で縛りつけられた珠江夫人を千代はゆっくりと口に煙草を咥えながら愉快そうに眺めているのだ。
珠江夫人の白く冴え渡った陶器のような肌と繊細な身体の線に千代が見惚れている時、鬼源が大塚順子を連れて近づいて来た。
「あら、大塚先生がいらっしたわよ、奥様」
千代が声をかけると調教柱につながれている珠江夫人はハッとしたように目を開けた
大塚順子は千原流華道を嬲漉させるため、その後継者の珠江夫人と家元を継ぐ千原美沙江を誘拐した主謀者であって珠江夫人にしてみれば憎みてもあまりある仇敵であった。
「ホホホ、いよいよ調教をお受けになるのね、折原夫人」
順子は柱に立位で縛りつけられている素っ裸の珠江の前へ立ち、口元を手で押さえるようにして笑い出す。
珠江夫人の涙を滲ませた切れ長の瞳にキラリと憎悪の色が光った。しかし、すぐに順子に向ける噴怒の表情をくずし、美しい眉根をぎゆうとしかめて目を伏せる。
「千原流華道後援会長の折原夫人が心機一転して花電車の娼婦になる——フフフ、正にこれはビッグニュースだわ」
派手なアフタヌーンを着て頭にはターバンを巻き、まるでアメリカ映画の喜劇役者みたいにペラペラとよく舌の贈る順子は、
「如何、折原夫人。静子夫人と同じく性の奴隷に転落した御感想が聞きたいものだわ」
といい、つかつか柱の前に歩み寄って夫人の形のいい顎に指をかけ、顔を自分の方に向けさせるのだった。
「ね、何とかおっしゃいよ」
すると、珠江夫人は冷たく強ばった頬に無理に侮蔑的な微笑を浮かべ、
「私がこんなふうになって、大塚さんはさぞ御満足でしょうね」
と、精一杯の皮肉をいうのだった。
「ええ、とても満足よ。千原美沙江も私の罠にかかってくれたし、これで念願がやっと果たせた気分よ。あとは折原夫人と美沙江が奴隷として成長してくれるか、それが楽しみだわね」
順子がそういって珠江夫人の冷たい頬を指で押した時、銀子と朱美は数個の鶏卵が入った笊を持って来る。
「どうするの、そんな卵」
順子がわざととぼけて聞くと、鬼源が笊の中の一つを指でつまみ上げて説明した。
「まず、最初はこいつを割る練習から始めるんですよ。あそこでね」
鬼源は柱に縛りつけられている珠江夫人の下腹部を指さし、黄色い歯を見せて笑った。
ぴったりと重ね合わせている珠江夫人の乳色に輝く太腿、その附根のふっくらした柔らかい繊毛に鬼源の指先が向けられているのに気づいた順子は甲高い声を出して笑いこける。
「まあ、見識高い博士夫人がそんな事を勉強されるってわけなの」
「ここじゃ、気位も教養も通用しませんよ。女の武器だけに磨きをかける事、女奴隷はそれだけ考えりゃいいのです」
鬼源は珠江夫人のひきつった美しい容貌を順子と一緒に眺めて笑い出すのだ。
「こいつが割れるようになるまで徹夜になっても稽古は続けさせるからな。そのつもりでがんばるんだぜ、いいな」
と、鬼源は今にもベソをかきそうな珠江夫人の表情を見て、
「何て情けない顔をしていやがるんだ。これからは一生懸命、お稽古にはげみます、と大塚先生に御挨拶するんだ」
といって夫人の麻縄に緊め上げられている美しい乳房を指ではじくのだった。
「いわねえかっ」
と、鬼漏は蒼ざめた表情を横に伏せて口を喋んでしまった珠江夫人に鈍い声でどなりつけた。
「全くこの奥様は強情ねえ。静子夫人のようにもう少し柔順になれないものかしら」
千代は灰皿に煙草を押しこんで珠江夫人の前に立つと、
「あなたが柔順な態度を示さないとどうなるかわかっているでしょ。この調教柱に美沙江が縛りつけられるのよ。あんな箱入娘のお嬢さんに卵割りの稽古なんかさせたくはないでしょう」
などというのだ。
忽ち、珠江夫人は狼狽を示し、涙を潤ませた美しい瞳をおどおどとして千代に向けるのだった。
「お嬢様には指一本触れないで下さいっ。お願いです」
悲痛な声でそういった珠江夫人は順子の方へ泣き濡れた顔を向ける。
「こ、これからは一生懸命、お稽古に励みますわ」
涙で喉をつまらせ、火のような屈辱に耐えてそういった珠江夫人は赤く充血させた頬を横へねじった。
「卵が割れなきゃ、美沙江がお前さんの代役をつとめなきゃならないんだ。いいな」
鬼源が更におどすと珠江夫人は白磁の肩先を震わせながら、消え入るようにうなずいて見せるのだ。
「静子にくらべりゃ楽なもんだぜ。瀞子の方は卵をケツにぶちこまれるんだからな。こいつは一寸大変だ」
鬼源は千代と顔を見合わせ、大きく口をあけて笑い合った。
汚辱の肉体
調教室の南側の壁にそった所には不気味な木の寝台があり、その上には天井の滑車からどす黒いロープや鎖などが蛇のような気味悪さで幾本も垂れ下がっている。
春太郎と夏次郎に縄尻をとられて寝台の前まで引き充てられた静子夫人は虚脱したような表情でその調教台と不気味に垂れ下がるロープを冷やかに見つめるのだった。
「一寸ここで待っていてね。少し、機械の調子を調べるから」
と、二人のシスターボーイは夫人をその場に坐らせ、縄尻を寝台の脚に結びつける。
夫人はぴっちりと肉づきのいい両腿を揃えさせて床の上に正座し、哀しげな翳りのある瞳で恐ろしいものでも見つめるようにそっと北側の調教柱の方を見つめる。
珠江夫人が柱を背にかっちりと縛りつけられ、その周辺を千代や順子、それに鬼源、銀子などが取り囲んで何か楽しげに相談し合っている。
鬼源は指につまんだ卵を珠江夫人の鼻先へ持っていったり、それで滑らかな腹部をさすったりしながら、これから彼女が受けなければならぬ調教について教示しているのだ。
珠江夫人は顔面蒼白になって鬼源の恐ろしい説明を慄えながら聞いているようだ。
ああ、どうして珠江様までがあの恐ろしい調教を受けなければならぬのか静子夫人の暗いもの哀しげな色を湛えた頬に涙が一筋二筋、したたり流れた。
「フフフ、奥様。御自分の事より珠江夫人の事の方が気になるようね」
夏次郎は夫人の哀しげな視線が珠江夫人の方に向いているのに気づいて薄笑いを浮かべて近づいて来る。
「人の事を何も気にする事はないわ」
仕切ってあるカーテンを夏次郎はさっとしめて夫人の視界を遮断し、
「気が散るとこちらの調教がやりにくくなるからね」
と、いうのだ。
「どう、ベッドの調子は」
夏次郎が聞くと、鎖を引き天井の滑車のすべりを調べていた春太郎は、
「もう少し待ってね」
と、口笛を吹きながら、鎖をガラガラと上昇させたり、下降させたりのテストをくり返しているのだった。
「今日は奥様の肝門をかなり開かなきゃならないからね。手術の支度も大変だわ」
夏次郎は、少し、打合わせしておきましょうね、と膝を折って坐る夫人の前に腰を降ろし、手にしていたボストンバッグを開き始めた。
夏次郎はわざと夫人の目に見せつけるように、行儀よく膝を揃えている夫人の前に新聞紙を敷くとその上へボストンバッグの中の様々な小道具を並べ始めるのだった。
ふと、翳りの深い濡れた瞳をそこに向けた静子夫人は身慄いしながらあわて気味に視線をそらせた。
太いガラスの浣腸器に洗浄器、肛門鏡、膣圧測定器、バイブレーター、綿棒など、まるで産婦人科医が用いるような不思議な器具を夏次郎は楽しげに山つ一つ新聞紙の上に並べている。
そこへカーテンが開いて千代が酔いどれ医師の山内と一緒に入って来た。
千代は、私は調教調査委員長みたいな。ものね、と笑いながら山内の肩にしなだれるようにし、後手に縛り上げられた乳色の裸身をそこに正座させている静子夫人のしっとりと情感を帯びた美しい横顔に見入るのだった。
「山内先生が奥様の調教を手伝って下さるそうよ。お医者様だし、そんなものを使うのは専門中の専門だし——」
千代は新聞紙の上に並られた奇妙な器具を指さして笑った。
「いや、僕は奥様の健康管理の事を考えているのですよ。調教の途中で気分が悪くなられたら僕に相談して下さい」
それまでもっぱら見学の方に廻りますよ、と山内はウイスキーをポケットからとり出すのだった。
千代は綺麗に揃った睫をフルフル哀しげに慄わせている夫人の傍へ立ち、冷やかに見下しながら、
「山内先生はね、これから奥様の主治医になって下さるそぅよ。毎日、尿の検査や検便をして下さるんですって」
といい、そうですわね、先生、と山内へ媚を含んだ目を向けるのだった。
「ところで先生、この奥様の人工授精は本当に何時なさって下さるの」
「この調教が終わり次第、すぐにかかってくれ、と田代社長からいわれています」
山内はウイスキーの瓶を口に当てて一口飲んでから千代にいった。
「必ず女の子を奥様に産ませてね。この奥様そっくりの美人を産ませてほしいわ」
「さあ、そりゃわかりませんな。どうして女の子がいいのですか」
「決まってるじゃない。静子夫人の後継者が出来れば田代社長だってきっと喜ぶわ。年頃になれぜまた磨きをかけて女奴隷に仕上げ、たっぷり稼がせる事が出来るじゃありませんか」
「また実に気の長い話ですな」
山内は笑ったが、この千代という女はたしかに頭が狂っていると小首をかしげるのだった。血統のいい犬に種つけし、その生まれる仔犬でまた儲けを考える、千代の考えはそれに等しかった。
静子夫人はさっとやわ媚な顔を歪めて横にそむけ、艶っぼい肩先を慄わせて嗚咽し始めた。
「ああ、なんて、なんて恐ろしい事をおっしゃるの、千代さん」
美しい面長の頬に幾筋も涙をしたたらせて声を慄わせる夫人を見た春太郎と夏次郎はいたわるように夫人の両肩に左右から手をかけて千代にいった。
「駄目よ、千代さんったら、すぐに奥様をそんなふうに泣かせてしまうのだから。こっちも調教がやりにくくなるじゃないの」
「そうか、ごめんごめん」
と、千代は舌を出して、
「じゃ、私は折原夫人の調教を見物にいくか」
と、いい、山内をそこに親して一人カーテンの外へ出て行った。
「さ、千代さんのいった事はもう忘れて頂戴。何時までもメソメソすると私達の調教がやりにくくなるわ」
春太郎はハンカチを出して涙に濡れた夫人の頬を拭い始める。
「奥様のお尻に卵を呑ませる事が出来れば私達、社長から賞金を出してもらえるのよ。だから奥様も協力して下さいね」
春太郎は憂愁を帯びて沈みこむ夫人の優雅な横顔に口を近づけていった。
「さ、これから仕事、仕事」
と、夏次郎ははしゃぎ出し、
「まず最初に二百CCの浣腸を二、三回行うわ。その度に奥様は遠慮なさらずにたっぷりと排泄して腸の中のものを全部吐き出して頂きたいの。それから洗浄して少しずつ肛門を開かせていきますからね」
と、いい、深くうなだれてしまった夫人の肩に手をやって、
「ね、聞いてなきゃ駄目じゃない」
と、今度は怒ったような声を出した。
静子夫人の気品のある酢えた美しい頬を春太郎はしげしげと見つめながら、
「奥様のような美人にこんな調教をするのは正直、気がとがめるけど、黒人のジョーと対決するにはどうしても受け入れ態勢を作っておかなきゃ大変なのよ。あいつは前も後も使わせなきゃ機嫌が悪いんだから」
「わ、わかってますわ」
静子夫人は冷やかに冴えた白い横頬を見せながらもう覚悟は出来ているというふうに小さくうなずいて見せるのだ。
「ねえ、山内先生」
と、夏次郎は医者の山内に相談を持ちかけるように新聞紙の上に並んだ器具の中から先端が渦巻状になっている金属製の小さな円筒を出し、
「これを使ってみたいと思うのよ。アナルドリルといってホモが自分のものを銀える時に使うものだけど」
夏次郎がその円筒の片側についたボタンを押すと電動音が生じ、先端の渦巻が急速に回転し始めるのだった。
これで肛門の口をわずかずつ聞かせ、綿棒で腸内の汚れを取り去りながら、特殊なガラス棒を直腸にまで差しこみ、それを徐々に大きくしていけば卵の二個くらいは呑めるよぅにならないかしら、と夏次郎は自分の調教計画を山内に語るのだった。
静子夫人を人間としてではなく、一個の物体としてしか考えていない夏次郎の語り口が面白く、山内は、
「よかろう何か俺に手伝う事があればいってくれ」
と、いい、後手に縛り上げられた裸身をそこに縮めている静子夫人の前にどっかりあぐらを組んで坐りこむのだった。
「彼等が奥様に施そうとしている手術はかなり強引ですが、我慢出来ますかな」
静子夫人は象牙色に煙った優雅な横顔に暗い翳りを珍ませてじっと床の上を哀しげに見つめていたが、
「我慢出来ないといっても、静子が許して頂けるはずはないじゃありませんか」
仕方がございませんわ、というように山内から視線をそらし、美しい眉根をしかめながら小さな声で答えるのだった。
「ま、そういうことですな。ところで医者の立場で一つお聞きするのですが——」
と、山内はおくれ毛を数本からませた夫人の美しい端正な頬をじっと見つめながら、わざと事務的な口調になって、
「肛門を整形する前に念のために聞いておきたいのですよ。奥様は今まで痔を患われた事がありますか」
「ご、ございませんわ」
静子夫人は深味のある優雅な顔を曇らせて慄え声で答えた。
「そりゃ結横だ。痔を患っておられると出血が多くて困りますからな。しかし、そうでなくてもあんなドリルなんか使うんですから、かなりの出血は致し方ありませんよ。辛抱して下さい」
静子夫人は山内が特有の粘っこいものの言い方をしながら、じわじわ身を近づけて来るのでたまらない嫌悪を覚え、思わず身をずらすのだ。
夫人の神経はこうした心理的な拷問でくたくたになっている。そんな医者の説明なんかどうでもいい。責めるなら徹底して自分を責めれはいいではないか、と夫人は口惜しくなるのだ。
「そうだ、どうせ浣腸するなら検便用にこのガラス瓶の中へ奥様の便を入れてくれ」
山内は木製の寝台の下にある茶筒ぐらいの大きいガラス瓶を指さして春太郎にいい、羞じらいの色をはっきりと優雅な頬に滲ませている静子夫人のすべすべした乳白色の肩に、そっと手をかけるのだ。
「い、いけませんわ」
静子夫人はかなり酔ってきた山内に抱きしめられると後手に縛り上げられた裸身を悶えさせた。
「奥様は女奴隷なんだろ。何をしようとこちらの自由、な、そうじゃないのかい」
「こ、これから私は調教を受けなければならない身です」
静子夫人は赤味を帯びた柔媚な頬を哀しげにそよがせながら山内の手の中でイヤイヤと消極的な悶えを見せている。
自分に人工授精という悲惨なまでの汚辱を加え、人間性を完全なまでに破壊しようとしている酔いどれ医師に対し、夫人は耐えられない生理的な嫌悪感が走ったのだ。
「ハハハ、調教を受ける身とはよかったな。なかなかお固い事をおっしゃる」
山内は背後から夫人の南を抱きしめ、麻縄に緊め上げられた夫人の豊かな乳房をつかみとろうとしている。
「以前、遠山家におじゃまして初めて奥様に会った時、世の中にこんな美人がいようとは--」
急に春太郎達が夫人を下手糞に口説き始めた山内を見てゲラゲラ笑い出したので山内は夫人から手を離した。
「山内先生、今は奥様といちゃいちゃする時じゃないわ。調教を急がないと田代社長に私達叱られるのよ」
と、春太郎が笑っていうと、今度は夏次郎が、
「そんなに奥様に好意を寄せているなら、先生が奥様に浣腸してウンチの後始末までしてあげなさいよ。そうすりゃ、奥様の気持もきっと先生になぴくわよ」
と、おかしそうにいうのだった。
「よし、わかった」
と、山内は苦笑いしていった。
「それじゃ、奥様、彼等のいう通り、僕が浣腸のお手伝いをさせてもらうよ。いいですね、奥様」
「嫌っ、ああ、山内さん」
静子夫人はかって遠山家に出入りした事のあるこの男にも汚辱の思いを味わわされるのかと思うと緊縛された優美な裸身をよじるようにして泣きじゃくるのだった。そして、もう心身ともに狩れ切った自分にそれを苦痛に思う人間的な感情が積っている事を夫人は不思議にも思うのだ。
「さ、奥様、支度が出来たわ」
木製の寝台の中程に夫人の双臀を乗せ上げる木枕を配置した春太郎は夫人の両肢を吊り上げる鎖をガラガラと天井から下降させて声をかける。
「それじゃ、ベッドの上に乗って頂くわ。さ、おまちになって」
夏次郎は演台の脚についた夫人の縄尻を解いで春太郎と一緒に夫人の肩と背に手をかけ、引き起こした。
静子夫人は涙を振り払ったような観念の表情を見せている。これから一仰向けに寝かされ、両肢を宙に開き、双臀を突き出して淫虐な責めを受けなければならぬ調教台を前にして夫人は格別狼狽の色は示さない。
涙に潤んだ美しい瞳を気弱にしばたかせ、無表情さを装って緊縛された優雅な裸身をよじって自分から台の上へ仰臥していこうとするのだ。
そんな夫人に手をかして春太郎と夏次郎はゆっくりと仰向けに夫人の裸身を倒していくのだった。
「さ、奥様、この木枕をお尻の下に敷いて頂戴」
春太郎と夏次郎は左右から夫人の腰のあたりに手をかけて下半身を浮き上らせ、素早く夫人の豊満な双腎の下へ木枕を押しこむのだった。
「はい、足を下げて」
天井から吊り下っているこのの鎖に、夫人の細工物のように形のいい白い足首をそれぞれ縛りつける。
夫人は気品のある端正な頬をほんのりと赤らめただけで固く目を閉じ合わせ、二人のシスターボーイのするがままになっているのだ。
春太郎が壁にそって垂れているロープを引っぱると優美な形の夫人の両肢はキリキリと宙へ吊り上げられていき、更に別のロープを夏次郎が引くと天井のパイプ管に取りつけられた滑車が回転し始めて、ほとんど直角に吊り上げられた夫人の両肢はぐっと反り返るように左右へ割り裂かれていくのだった。
「今日は特別よ。もっと開かせてよ、お夏」
と春太郎がロープを引く夏次郎に声をかける。
「ああっ」
夏次郎が再び力を入れてロープを引き、夫人の成熟し切った悩ましい太腿が更にキリキリと引き裂かれていくと思わず夫人の口から悲鳴が上った。
「我慢してね、奥様。それくらい大胆なポーズをとって頂かないと今日の調教はやりにくいのよ」
春太郎はクスクス笑いながらいった。
「まあ、凄いわ。完全露出よ」
夏次郎は木枕の上にでんと乗せ上げられた夫人の腎郡の裏側に目を向けてそわそわしている山内を呼び寄せる。
大胆に割れた双臀の肉の隙間は浅ましいくらいに露出し、可憐な菊の蕾が微妙なその襞まで露にして息づいているのが山内の目にはっきりと映じたのである。
「ね、山内先生。奥様のそれってとても可変いでしょ」
夏次郎が血走らせた日で貪るように凝視している山内に声をかける。
うむ、と山内は異様な高ぶりに身を慄わせながらうめくのだ。
天性の美貌と優美な肉体を持つ静子夫人がもはや逃げも隠れもならず最奥の秘密の部分までこうも露に生々しく晒している♢♢そう思うと高ぶった神経は更に高ぶりを増し、山内は生唾を音をたてて呑みこむのである。
調教性
調教柱に立位で縛りつけられている珠江夫人は調教師、鬼源の説明を蒼ざめた表情で聞いている。もう生きた心地はなかった。
「いいか、最初は腹の中へ入れた卵をゆっくりと吐き出して見せる。襞で巻きこんで襞で押し出すんだ。こんな事は一寸練習すりゃ女だったら誰だって出来るぜ。そいつを卒業すりゃ卵割りだ。割った卵の穀を吐き出すようになるまではかなり筋肉を銀えなきゃならねえからな。まあ、銀子と朱美にみっちり仕込んでもらいな」
鬼源はそういって一升瓶の酒をコップに注ぎ始める。
「ね、鬼源さん」
先程から調教柱に縛られた珠江夫人のまわりをさも嬉しそうな表情でグルグル廻っていた順子は、
「そういう芸当を覚えるには女の年齢ってものは関係ないの。この博士夫人はもう三十歳におなりだけど、筋肉のしまり具合いってのはどうなのかしら」
といってクスクス笑い出すのだった。
「まだ子供を生んじゃいねえ身体ですからね。やる気になりゃやれるんじゃありませんか」
鬼源はそういって笑い、
「使いものにならなきゃ、千原流のお嬢さんをピンチヒッターにたてるだけですよ」
と、珠江夫人のひきつった表情を愉快そうに眺めながらいうのだった。
「そうなっちゃ嫌でしょ、折原の奥様。じゃ、鬼源さん達の指導を受けてがんばらなきゃあね」
順子は再び身体を揺すって哄笑するのだ。
「じゃ、始めな。俺はしばらくここで高みの見物だ」
と、鬼源が坐りこんで酒を飲み出したので銀子と朱美が珠江夫人の左右へ寄り添って行き、
「それじゃ、お稽古にかかりましょうね、奥様」
と、楽しげにいい、笊の中に入っている茹で卵を一つ選んで手にするのだった。
がっちりと後手に縛り上げられている珠江夫人は自磁の肩先も、ぴったりと揃えているしなやかな乳色の太腿も同時にブルブル慄わせる。血の気の引いた顔をカチンと強ばらせて恐怖にカチカチ歯の音までさせているのだ。
「フフフ、そんなに固くなっちゃ駄目よ。最初は茹で卵を入れたり出したりの簡単なものじゃない。静子夫人なんかすぐに要領を呑みこんでしまったわ」
銀子は珠江夫人の膝元に腰をかがめ、ねっとりと脂肪を乗せた乳色の悩ましい太腿とその附根の絹のように柔らかくて美しい繊毛に目をこらしながら、茹で卵の穀をゆっくりむき始めるのだった。
珠江夫人の慄えは一層、激しくなる。恐怖に魂も凍りつくような屈辱感で柱に縛りつけられた雪白の華奢な裸身を悶えさせ、火照った細面の美しい顔を必死にねじ曲げているのだ。
穀をむいた茹で卵はまるで珠江夫人の肌のように艶々しかったが、銀子はそれを右手で持ち、左手を珠江夫人のしなやかな乳色の太腿にからませる。
「あっ」
と、つんざくように叫んだ珠江夫人は形のいい柳腰を左右に激しく揺さぶり出した。
銀子のつまんだ茹で卵が柔らかく盛り上った漆黒の繊毛にそっと触れて来た時、珠江夫人は火のように鋭い嫌悪の戦慄が全身を貫き、それをはねのけようとして双腎を振動させたのである。
「や、やめて下さいっ、ああ、そんな事、私、とても出来ないわっ」
高ぶった声をはり上げて遂に珠江夫人は号泣し始めたのだ。
「今になって何をうろたえているのよ」
銀子は不快そうに顔をしかめて珠江夫人を見上げ、再び、卵をそのふっくらした絹のような繊毛に押し当てていく。
泣きじゃくりながら歯をくいしばってその屈辱の娩を何とか自分に含ませようと一瞬、悲痛な努力もする珠江夫人だったが、やはり、あまりのみじめさに励えられず、
「ああ、も、もう堪忍して下さいっ、出来ないっ、出来ませんっ」
と、悲鳴とも絶叫ともつかぬ声をはり上げて狂ったように腰を揺さぶるのだった。
「出来ねえですむと思っていやがるのか」
あぐらを組んでコップ酒を飲んでいた鬼源がカッとなって立ち上り、真っ赤に染まっている珠江夫人の頬をいきなりぴしゃりっと平手打ちした。
「医学博士の教養が邪魔してこんな下らない芸当は出来ないというのかい。ええ、奥さん」
鬼源は更に珠江夫人の頬に強い平手打ちを加えた。
「私は出来ないから美沙江に代ってもらってくれというのだな」
「そ、そんな」
珠江夫人は激しく嗚咽しながら首を左右に振る。
「ご、ごめんなさい、私が悪かったわ。お、お嬢様だけには手を出さないで。後、後生です」
「よし、じゃ、努力するというのだな」
「は、はい」
珠江夫人は血を吐くような声でいい、再び白磁の肩先を慄わせて嗚咽するのだった。
「ね、鬼源さん」
と、銀子が横から口を出した。
「この奥様、おびえ切って谷間がすっかり乾いてしまっているわ。一度愛撫して気分をほぐしてあげなきゃ無理よ」
「それもそうだな。乾いちまってるなら玉入れは無理だ」
鬼源は笑い出し、「油壷を持ってこい」と朱美にいった。ガクガクぎと恐怖の慄えを示す珠江夫人の爪先近くに茶色の壷が置かれ、こけし人形の形をした大小様々な責具が並べられる。
すると珠江夫人の優雅な顔はますます蒼ざめて慄えも一層、激しくなるのだったが、それを大塚順子は何ともいえぬ小気味よさで眺めているのだった。
「鬼源さんがひっぱたいたりするから奥様の身体がよけいに強ばるのよ。女はもっと優しく取り扱ってあげなきゃ。ねえ、奥様」
銀子は壷の中の飴のように粘っこい油を指先にたっぷり掬いとりながら、
「さ、奥様、まず油を塗ってみましょうよ。そうすりゃスムーズに卵が呑みこめると思うわ」
といい、気を楽になさってね、と柱に立位に縛りつけられている珠江夫人の下腹部に身をすり寄せていった。
ううっ、と珠江は歯を喰いしばり、骨が砕けるような屈辱の感覚を何とか耐え抜こうと必死な思いになっている。
銀予の指先は網のような柔らかい繊毛のふくらみをまるでその形を整えるかのように優しくなでさすった。
「ね、誰か奥様のおっぱいを優しく揉んであゼてよ」
銀子はゆっくりと油を珠江夫人の羞恥の柔肌にすりこみながら声をかける。
「私に任せて」
先程から嗜虐のうずきにわくわくしていた順子が珠江夫人の横に忍び寄った。
順子の掌が麻縄をきびしく巻きつかせている珠江夫人の形のいい乳房にかかる。
「ああ、お、大塚さん」
珠江夫人は真っ赤に火照った顔を左右に揺さぶりながら大きくうめいた。
「まあ、柔らかいおっぱいね。まるで溶けるようじゃない」
順子は白桃のように瑞々しい珠江夫人の乳房をゆっくりと掌で揉みほぐし、指先で可憐な乳頭をつまんでコリコリとねじった。
千原流華道の崩潰を画策し、家元を触ぐ千原美沙江を誘拐した憎き大塚順子♢♢その女の手で嬲りものにされるという憤辱が珠江夫人の胸元に火のように狂おしくこみ上ってくるのだったが、遂に肉芯を探り当てたように指先を責めこませてくる銀子と調子を合わせ、順子はゆさゆさと珠江夫人の乳房を激しく揉み、乳故に唇を当てて強く吸い上げ始めたのだ。
心では嫌悪しても生身の肉体はメラメラと火のように燃えたち始めてくる。
珠江夫人はその甘い痺れるような感覚から何とか逃れようと一瞬、激しく身を揉んだが、もう救われる道はないのだと覚るとその妖しい被虐性の快美感の中へどっぷりと浸り出したのだ。
「やれやれ、随分と柔らかくなってきたわ」
銀子は二本の指先を裏返しにして激しく操作しながら北里笑み、
「ね、圧力計を持って来て」
と、朱美に声をかけた。
珠江夫人の体内が充分に熱くなり、彼女が悦楽の痺れに酔い始めたのを感知した銀子はその部分の収縮力を今のうちに測定器にかけようとするのだ。
ゴムで出来た天狗の鼻のような円筒に長いゴム管、ゴムポンプ、それに圧力メーターまでがついている不気味な腔圧測定器を朱美が持ち出して来ると珠江夫人は全身溶けくずれるような痺れの中で新たな恐怖を覚え、柱に縛りつけられた裸身を懸命に悶えさせた。
「噂には聞いていたけれど、それが女の圧力計というものね」
順子が興味探そうにそれを手にして、
「私に奥様を計らせて」
と、いうのだ。
「な、何をなさるのっ」
順子が腰をかがませて強引にそれを装填させようとすると珠江夫人はたまらない嫌悪感が生じて高ぶった声をはり上げる。
「これはお前達、女奴隷にとっちゃ一番大事な事じゃねえか。道具のよしあしが問題だ」
鬼源はうまそうにコップ酒を飲みながら笑いつづけている。
「奥様の緊まり具合いを調べるのよ。卵が割れるか割れないか、これでテストすればすぐにわかるわ」
銀子と朱美はそういって必死に揺さぶる華著でしなやかな珠江夫人の腰部を押さえ、艶々と輝く乳色の太脇あたりに手をからませた。
「さ、これを潔く呑みこむのよ、奥様」
身動きを二人のズベ公に封じられた珠江夫人に順子は円筒のゴムを強く押し立てていくのだった。
珠江夫人はもう逃れる術はないと遂に決心し、この血が逆流するような屈辱の荒波へ自分を没入させていった。
柔らかな漆黒の悩ましい繊毛は忽ちその奥の美麗な女体を露に晒け出し、女体は見る見るうちにゴムの矛先でふくらみ始める。
「そうそう、その調子でもっと深く呑みこむのよ。うん、何もそうお泣き遊ばす事はないじゃない」
銀子は珠江夫人の優雅にくびれた形のいい腰部を支えながら笑った。
順子にそのおぞましい器具を無理矢理に呑みこまされていく珠江夫人は真っ赤に上気した顔をねじって激しく滞泣を洩らしている。
「駄目駄日、思い切ってもっと深く呑みこむのよ」
順子は異様な高ぶりを示しながら器具を操作する。今は羞じらいもためらいも忘れて美麗な女体を押し開き、甘美な肌でそれを押し包む珠江夫人を見て、銀子と朱美は愉快そうに顔を見合わせるのだった。
「フフフ、さあ、どうする、折原夫人」
順子は珠江夫人の体内に深く器具せ装填すると正に狂喜して二人のズベ公と一緒にはしゃぎ廻るのだった。
「さ、奥様、そう泣いてばかりいずにぐっと緊めてごらん」
「賢まり具合いが悪いとお客様に嫌われるわよ。さ、思い切って緊めないか」
女達は珠江夫人の艶々と光った太腿と腰部を指ではじいたり、つねったりしながらその場に身をかがませるのだ。
美貌と艶麗さを兼ね備えた折原夫人が膣圧測定器にかけられ、その筋肉の収縮をテストされる♢♢こんな痛快な話があるものかと順子は一気に溜飲を下げた気分になっている。
「どうなすったの、博士夫人。少しもメーターが動かないじゃないの」
順子は夫人に装填したものから長いゴム管でつながっている小さな円形のメーターをのぞきこみながらいった。
「フフフ、千原流華道にとって仇敵の私に緊まり具合いだけは教えたくないというのね」 順子はそういって笑いこけるのだった。
「あなたがその気ならいいわ。ねえ、誰か、ここへ千原美沙江を連れて来て」
順子がそういうと珠江夫人は反射的に、
「嫌っ」と鋭い声を上げ、シクシクすすり上げながらぐっと腰部を前に押し出すようにし、女っぼい腰部と暖かそうな艶っぼい太腿を悩ましく交互にねじるのだ。
「こ、こうすればいいの」
珠江夫人は激しくすすり上げながら切れ切れの声を上げ、もう自分を忘れてそのおぞましいゴムを喰い緊めようと必死になり始めたのだ。
順子の手に持う円型のメーターの針がピクピクと動き始める。それに気づいた順子は
「ああ、動いた、動いた」
と叫び、キャッキャッと笑い始めた。
「こんなのじゃ駄目よ。もっとメーターを上げなきゃ、静子夫人みたいにバナナ切りなんか出来やしないわよ」
銀子もメーターのガラスをのぞきこみながらゲラゲラ笑い出す。
「ポンプで中身を少しふくらませてみな」
鬼源がニヤニヤして声をかけたので銀子は測定器に別の細い管でつながっているゴムポンプを押し始めた。
「あっ、嫌っ、嫌ですっ」
柱に縛りつけられている珠江夫人は急に激しい狼狽を示し出した。自分の腹部に喰い入っているゴム状の測定器がまるで生物のようにむくむくと膨脹し始めたのである。
「奥様のお体は一寸おしとやか過ぎるのよ。少し、日を開かせた方がいいわ」
銀子は冷酷な微笑を口元に浮かべながらポンプを押しつづける。
美麗な柔肌は珠江夫人の悲鳴など無視したように再びふくれ、生々しく膨張を示し始めたのだ。
「もういいだろ、その辺で息をつめ、緊めてみろ」
鬼源は熱っぼい喘ぎをくり返し、額にもうなじにもねっとりと脂汗を珍ませている珠江夫人に語気を強めていうのだ。
「緊めろといってるのがわからねえのかっ」
「緊、緊めておりますわ」
鬼源の怒号で世にも哀しげな顔を見せた珠江夫人が思わずそう口走ったので順子と銀子は手を叩いて笑いこけるのだった。
「がんばらなきゃ駄目よ。こんな収縮力じゃお嬢さんの出番をお願いしなければならないわ」
メーターに目を向けた順子がせせら笑ってそう浴びせると珠江夫人は必死になってその淫虐なテストに挑みかかった。もう何が何だかわからない上ずった気分で珠江夫人は荒い息を吐きながらしなやかな両腿をすり合わせ腰部をうねらせるのである。それを喰い緊める事にまるで命をかけたように狂態を示し始めた珠江夫人を見て、とうとうこの女も思う壷に嵌ったという悦びを噛みしめながら、調教師の鬼源はコップ酒を口に運ぶのだ。
第八十九章 麗花屈服
毒牙
地下室の薄暗い牢舎の中には美沙江が一人ぼづんと小さく坐りこんでいる。
一糸まとわぬ素っ裸のままで狭い牢舎の中に縮みこむ美沙江は涙も涸れ果てた空虚な表情を目の前の冷たい非情な鉄格子にじっと注いでいるのだ。
牢舎の外の石の壁に裸電球の淡い光波が射して美沙江の雪白のきらめくように美しい華奢な裸身を浮き上らせている。
美沙江は茎のように細く、陶器のように白い両腕で、まだ成熟し切らぬ瑞々しい乳房を抱きしめながら柔らかく翳った睫を哀しげにしばたかせた。
「ああ、おばさま」
雪白のしなやかな肩から白磁の背中にまで垂れた長い黒髪を慄わせて美沙江は小さく呼んだ。
その美しい二人のおばさまが連れ去られてからもう一時間以上になるだろう。
静子夫人と珠江夫人があの恐ろしい人間達の手で今頃、どのようなひどい目に合わされているか、それを想像すると美沙江の小さな胸ははり裂けそうになるのだ。
地下に通じる階段を誰かが降りて来る気配がする。恐怖と孤独に凍りついた美沙江の象牙色の頬にふと生色が蘇った。
静子夫人と珠江夫人が連れ戻されて来た、と、美沙江は思ったのである。
「お、おばさまなのっ」
美沙江は思わず鉄格子に取りすがり、抒情的な美しい瞳を外に向ける。
「おばさまでなくてお気の毒ねえ」
地下の階段を降り、石の廊下をこちらに向かって歩いて来たのは千代であり、その後に田代と森田が続いている。
美沙江の表情は一変し、あわてて鉄格子から離れてその場に小さく身を縮めるのだった。
「どうかね、お嬢さん。一人ぼっちじゃ淋しいだろ」
こちらに硬質陶器のような滑らかな背すじを見せて慄える美沙江を田代は葉巻をくゆらせてニヤニヤ眺めている。
田代と特別な関係にある岩崎親分の弟が突然、ここへやって来たのだ。
丁度、いい具合いに静子夫人と珠江夫人は鬼源の調教を受けている所だし、この間に美沙江を檻から引き出して岩崎の弟の時造と夫婦の契りを結ばせようと千代が田代に提案したのだ。
「お嬢さん、私達、折入ってお嬢さんに相談に来たのよ」
千代はいわゆる猫撫で声でそういうと、鉄格子の前に腰をかがませる。
「今、奥様方お二人はどんなひどい日に合わされているか、お嬢さん、想像出来るかしら」
千代がネチネチした言い方をすると、美沙江は耐えられなくなったようにさっと千代の方へ顔を向け、
「お願いです。おばさま達を許してあげて。あのお二人は私にとっては恩人なのです。おばさま達にむごい仕打ちをなさらないでっ、お願いです」
美沙江は象牙色の冴えた頬にどっと熱い涙をしたたらせながら必死になって千代に哀願するのだった。
千代はそんな美沙江に対し、わざと気の毒そうに大きくうなずいて見せて、
「私も本当にお気の毒に思うのよ。お嬢さんなんてとても想像出来ないようなむごい責めをおばさま達は受けているのよ。あれじゃ、恐らく二人とも気が狂ってしまうんじゃないかしら」
そういいながら千代は、前門で卵の出し入れを強制されている珠江夫人や裏門でそれを強制されている静子夫人をもし本当にこの娘が目撃すればどのように驚くか、それを思うとおかしくてならない。
「お願い、おばさま達を助けて下さい」
「でも、助けるには一つ条件があるのよ。それをお嬢さんが聞いて下さるなら、私が責任を持っておばさま達のむごい責めを中断させるわ」
千代の言葉の中に何か不気味な含みのあるのを美沙江は感じたが、それを警戒するゆとりはもう美沙江にはなかった。静子夫人と珠江夫人がむごい責めを受け、気が狂いそうになっていると思うだけで美沙江も気が狂いそうになっている。
「私が、ど、どうすればいいのですか」
美沙江は涙に潤んだ美しい黒眼を哀しげにしばたかせて千代を見た。
「さっき急に時造さんがうちへいらっしゃったのよ。お嬢様ももう子供じゃないのだから私が何をいいたいか、おわかりでしょう」
千代の目の底に不気味な光が滲んでいる。
美沙江は千代の蛇のような冷酷な視線に気づくと、はっとして頬を伏せた。
「今夜、一晩、時造さんのお部屋で過ごしてほしいのよ」
「そ、そんな」
「とにかく時造さんは千原流華道の御令嬢とどうしても一夜を過ごさせてくれってまるで駄々っ子みたいなの。ね、いいでしょ、お嬢さん」
美沙江の美しい象牙色の頬からはすっかり血の気がひいている。雪白のほっそりした肩先も必死に縮めている美麗なか細い勝腰のあたりも恐怖のためにガクガク慄えるのだった。
美沙江の目には鉄格子の間からこちらをのぞきこむ千代と田代の顔が赤鬼と青鬼に映じ出した。
悲痛な受諾
「ね、どうなの、私の顔を立てて時造さんと今夜過ごしてくれる?ねえ、どうなのよ、はっきり返事して頂戴よ、お嬢さん」
千代は次第にけわしい顔つきになり出して鉄格子の聞から美沙江の透き通ったように白い華奢な裸身に冷酷な視線を注ぐようになった。
「そう何時までも泣いていたってきりがないじゃないか」
田代も舌打ちして、
「お嬢さんがこんな調子じゃ仕方がない。千代さん、こうなりゃ静子夫人と珠江夫人を思い切り痛めつけよう。なあに死んだってかまうものか」
わざと美沙江の耳に聞こえるように大きな声でいった田代は、
「さ、引き上げよう」
と、千代の肩を軽く叩くのだった。
「自分だけ助かりゃ、あの二人の奥様はどうなってもかまやしないというのだからね。あんたも中々、ちゃっかりしているよ」
千代も華奢な細い背すじを慄わせてすすり泣く美沙江に皮肉っぼい口調でいい、田代達とそこから引き上げようとしたのだが、
「待、待って下さい」
と、美沙江は急に泣き濡れた抒情的な瞳を上げて千代の方を見たのだ。
「私がその人の所へ行けばおば様達は 」
助けて頂けるのですか、と涙で声をつまらせて美沙江がいうと、
「ああ、勿論だよ」
千代は再び鉄格子に手をかけて来て、華奢で繊細な裸身を小さく縮みこませている美沙江に声をかけるのだった。
美沙江を必死にかばいながら珠江夫人と静子夫人が現在、淫虐な調教を受けている。今度は美沙江に二人の夫人をかばわせて人身御供にするわけだ、と千代は心の中で北叟笑んでいるのだった。
「それじゃ、お嬢さん、時造さんの部屋へ行ってくれるんだね」
千代が念を押すように声をかけると美沙江は深く首を落としてすすり上げながら、
「私が男の人の部屋へ行った事をおば様達には♢♢」
いわないでほしいと消え入るような声でいうのだった。
「奥様達には男と寝たって事を内緒にしてほしいというのね」
千代は、わかったよ、と口元に意地の悪い微笑を浮かべながらいうのだった。
自分を必死になってかばってくれる静子夫人や珠江夫人が、その事美を知ればどのように歎き悲しむか、美沙江は自分の操が蹂躙されるよりむしろその方が苦しかった。
「それじゃ、お嬢さん、出ておいで」
森田は牢舎の鉄の扉に鍵を差しこんだ。
「急げばそれだけ早く奥様達二人は解放されるんだよ」
扉が開くと、千代はのぞきこむようにして縮かんでいる美沙江に声をかけるのだ。
美沙江は悲痛な表情を千代に見せながら狭い牢舎の中から腰をかがめて出て来る。
いかにも深窓の令嬢のようなか細い優雅な線に取り囲まれた華奢な美沙江の裸身を田代と千代は頼もしそうに見つめている。
美沙江は溶けるように柔らかそうな二つの乳房の上に陶器のように白くてしなやかな両腕を交差させて覆い隠し、床の上に高雅な白さを持つ両腿をぴったり揃えさせて正座している。
覚悟した上とはいえこれから恐ろしいやくざの待つ部屋へ引き立てられるのだと思うと膝から腰にかけての慄えはとまらないのだ。
森田が鴨居にぶら下げている麻縄をとって床の上に縮かんでいる美沙江に近づくと、
「逃げたりはしません。縛るのはやめて下さい」
と、美沙江は柔らかな睫で覆われた抒情的な瞳に涙を滲ませて森田の顔を見上げるのだった。
「これが女奴隷に対する定法なのよ、お嬢さん」
と、千代は冷やかな口調でいった。
「どこへ連れて行く時でもかっちりと縄がけする。そういう決まりが出来ているんだからな」
森田はほのかな香気が漂うような美沙江の美しい象牙色の頬を指で押し、
「さ、おとなしく両手を後ろに廻しな、お嬢さん」
といい、麻縄を肩に担ぐようにして美沙江の背中の方へ廻る。
「お願いです。せめて向こうへ行くまでの間だけでも、何か身体につけさせて下さい」
一糸まとわぬ裸身の上に直接麻縄をかけようとする森田に美沙江は軽くさからって白磁の肩先をくなくな揺さぶると、
「それも決まりなんだよ。女奴隷は布切れ一枚身につける事は出来ない。静子夫人にそんな事は教わらなかったの」
と、千代はいい、クスクス笑い出すめだ。
「前を隠せるのも生理日の時だけ、あとはいつも丸出しのままだ」
田代も千代に調子を合わせてそういい、森田と一緒に大口をあけて笑い出す。
「わかったね、お嬢さん、さ、素直に両手を後ろへ廻して」
森田に再び白磁の肩を指でつかれ、催促された美沙江は柔らかな睫を閉じ合わせていきながら乳房を抱きしめていた両手を解き、静かに背中へ廻していくのだった。
茎のように細くてしなやかな美沙江の両手首を陶器のように艶やかな背中の中程あたりにかっちりと交差させ、森田は素早く麻縄を巻きつかせていく。(おば様、美沙江もおば様と同じように地獄の苦しみを味わいます。もうどうしようもなくなったのです。許して下さい)
美沙江は固く目を閉ざし、森田の手でひしひしと縄がけされていきながら悲痛な思いで胸に叫ぶのだった。
「さ、立つんだ」
森田は美沙江の縄尻をとってたぐり上げる。
フラフラと足元をよろめかしながら美沙江がその場に引き起こされた時、森田組のチンピラである竹田と堀川が地下室の中へ入って来た。
「時造さんが一体、話はどうなったんだと聞いているんですが」
「お嬢さんは承知して下さったよ。そら、これから時造さんの寝室へ出かけるところさ」
千代は縄尻をとられてそこに立つ美沙江を楽しそうに指さして竹田にいった。
へえ♢♢と竹田と堀川は一糸まとわぬ素っ裸で後手に縛り上げられてすっくと立っている美沙江に目を向けると思わず生唾を飲みこむのだ。
胸から鳩尾、そして腰部から肢に至るまで冴えた高雅な白さで照り輝く美沙江の素肌の美しさ♢♢その華奢で引き緊まった肩先には美沙江の長い美しい黒髪が房々と垂れかかり何とも優雅な色香が匂い立っているのだ。
適度にふっくらと盛り上った可憐な乳房はその上下をきびしく麻縄で緊め上げられ、いじらしい薄紅色の乳頭をやや上方に向けている。
「そんな所を同時までもじろじろ見つめていないで時造さんの所へ早く知らせに行け」
と、美沙江の縄尻を持つ森田は二人のチンピラにどなりつけた。
竹田と堀川のギラギラした視線は艶やかで薄い美沙江の腰部から優雅で悩ましい曲線を描いて伸びる二つの乳色の太腿に注がれ、そして、その中間の触れれば溶けるような柔らかさを感じさせる淡い美しい繊毛に釘づけになっていたのだ。
森田にどなられてハッと我に返った二人のチンピラはあわてて一足先に地下室から飛び出していく。
その恰好がおかしかったので森田はゲラゲラ笑い出した。
「あいつら今が一番やりてえ年頃なんですよ、社長」
田代に向かってそういった森田は深く首をうなだれてシクシクとすすり上げる美沙江の肩を指で突き、
「さ、花婿さんがしびれを切らして待っているぜ。行こうか、お嬢さん」
と、いった。
美沙江は嗚咽にむせびながらゆっくりと歩き始める。
「初夜をむかえる花嫁さんがそんなに泣いてばかりいちゃまずいよ」
田代は森田に縄尻をとられて歩む美沙江を千代と挟むようにして歩きながらいった。
「さ、涙を拭いて」
と、田代はハンカチを出して美沙江の白い頬に伝わる熱い涙を拭きとっている。
「でもねえ、社長」
千代は美沙江の華奢な肩に手をかけながら地下の階段をのぼり、
「千原流華道家元のお嬢さんと前科何犯かの暴力団幹部、実に愉快な組み合わせだとは思わない?」
と、田代に笑いかけるのだった。
「それに世間知らずの箱入り娘と女泣かせのベテランの対決、これだって面白い取り合わせだぜ」
と、美沙江の縄尻をとる森田も口を出す。
地下の階段をすすり泣きながらゆっくり歩む美沙江の白桃に似た可憐な双臀とその媚めかしい亀裂を森田は目を細めて眺めながら、
「いいかい、お嬢さん、相手はなかなかのテクニシャンだからな。ケツの振り方や腰の振り方なんかをしっかり教わっておくんだぜ」
と、また、楽しそうにからかい始めるのだった。
卵産む麗人
調教柱にかっちりと麻縄で縛りつけられている珠江夫人の艶っぼいしなやかな裸身は全身に脂汗を滲ませている。
奥歯をカチカチと噛み合わせ、銀子と朱美のいたぶりを何とか耐え切ろうと美しい眉根をギュツとしかめる珠江夫人の悲壮な努力を大塚順子は酒を飲む鬼源の横に坐りこんでさも楽しそうに眺めているのだ。
銀子と朱美は何としても珠江の身内深くに卵を呑みこませようとして懸命になっている。
絹のような柔らかさを持つ悩ましい繊毛の間へそのむき卵の白身は半ば姿を没しているのだが、それ以上の侵入を拒むかのように筋肉は次第に硬化を示し出すのだ。
「どうしたの、奥さん、駄目じゃない。そんなに身体を固くしちゃ」
立位で縛りつけられている珠江夫人の腰のあたりに銀子と朱美は身をかがめ、一個の卵を完全に没入させようとして指先に力を入れ始める。
「ああっ」
珠江夫人は下劣な二人のズベ公に与えられるこの言語に絶する淫虐行為に果たして自分の身体がどこまで持ちこたえられるか、そんな事を狂おしくこみ上ってくる汚辱感の中でぼんやり考えている。
「フフフ、がんばらなきゃ駄目よ、奥様」
順子は全身に脂汗を滲ませて必死な努力をくり返している珠江夫人に目を注ぎながら手を叩いて笑い出すのだった。
千原流華道の最も有力な後援者であり、大学教授夫人である折原珠江が下等な不良少女の手で淫虐な肉体の責めを受けている♢♢そう思うとそれこそ笑いの止まらない気分になる順子である。
肉体の圧力計でその収縮などを測定され、茹で卵を奥深くまで呑みこまされようとしている哀れな上流階級夫人♢♢順子は今まで折原珠江に抱いていた恨みや憎しみが一瞬ですっかり晴らせたような嬉しい気分になっている。
「鬼源さん、私も一杯、頂くわ」
と、湯呑み茶碗を手にした順子は鬼源の酌で一升瓶の酒をうまそうに喉へ流しこむのだった。
「大塚先生にとっちゃ、一番憎い女じゃありませんか、その女は」
鬼源は黄色い歯を見せて調教柱の珠江夫人を指さしながらいった。
「ええ、そうよ。千原流華道の後援会会長なんかつとめて私の主宰する湖月流華道の発展を妨害した、とてもとても憎い女♢♢」
順子はそういってぐっと一息に茶碗酒を飲みこみ、
「ね、鬼源さん、その女、卵を呑みこませるくらいじゃ私の腹の虫がおさまらないわ。もっと私ずかしい思いをたっぷりと味わわせてやってよ」
と、酔いが回って充血した瞳を粘っこく光らせて鬼源の皺だらけの顔を見つめるのだった。
「わかってますよ。これはまだまだ序の口、その内、大塚先生もたまげる程、この女に徹底的な磨きをかけますから。ま、こっちに任せておいておくんなさい」
鬼源はそういって自分も茶碗酒を口に含んだが、その時、珠江夫人を淫虐に責めていた銀子が、
「ねえ、鬼源さん、見てよ」
と、調教柱に縛りつけられている珠江夫人を指さして鬼源と順子に示すのだった。
真っ赤に上気した美しい顔をねじるように横へ伏せ、心臓を緊めつけられるような汚辱の慄えを全身で示している珠江夫人♢♢その下腹部に目をやった順子は、白い茹で卵の姿がほんのわずかにその白身をのぞかせているだけで、すっかり柔らかい繊毛の奥に没入しているのに気づいた。
「まあ」
と、順子は大仰に驚いて見せ、次に声をあげて笑い始めた。
しかし、鬼源はニコリともせず、
「たった一つの卵を呑みこむのに随分と手間をかけさすじゃないか」
と、不快そうな口調でいい、
「白いものがまだ、ちょつぴりのぞいているぜ。完全に腹の中へ呑みこまさなきゃ駄目だ」
と、今度は銀子に声をかけるのだった。
銀子と朱美は再び珠江夫人の下半身にまといついていき、まるで壁の穴に土を塗りこむような調子で軽く掌で押したり、指先で突いたりしながら遂に漆黒の翳りの奥に完全に含ませてしまったのである。
「如何、奥様、卵を一個お腹に含めた御気分は」
順子はあまりめおかしさに耐えられないといった調子で笑いこけながら鬼源の膝の上に手をのせたりしている。
「お、大塚さん、こんな私を見て、さぞ愉快でしょうね」
真っ赤に火照った顔を横にねじって気も狂うばかりの慣辱を耐えていた珠江夫人は、手を叩いて笑いこける順子の方に精一杯の反感を示すのだった。
涙に濡れた綺麗な瞳の中にキラリと憎悪の色を光らせそ、はじき出すようにそういった珠江夫人はすぐその吊り上げた瞳を閉じ合わせ、再び顔を伏せて嗚咽をくり返すのである。
「よ、女奴隷のくせに何て口をきくんだ」
鬼源は順子に反撥的態度を見せた珠江夫人をどなりつけたが、ま、いいじゃないの、と順子は笑いながら立ち上った。
そして、ねっとり脂汗を全身に滲ませていみ珠江夫人の下腹部に面白そうに目をそそぎながら、
「卵を呑むのは満更嫌じゃなさそうね。時々御家庭でも御主人に内緒でそんな事をなさっていたんじゃないの」
といい、銀子達と顔を見合わせて哄笑するのだった。
珠江夫人は何ともいえぬ口惜しげな顔をしてさっと赤らんだ顔をねじった。
「何をぼんやりしてい、るんだ。今度は呑みこんだものをゆっくり吐き出してみせろ」
鬼源も立ち上って調教柱に縛りつけられている珠江夫人に酒くさい息をはきかけながら汗を滲ませた乳色の肩に手をかけるのだ。
「よ、どうしたんだ。こんな初歩の段階で何時までも手古ずっていちゃ仕様がねえな」
鬼源は舌打ちして柱の下にころがっている笊を拾い上げ、腰をかがめて珠江夫人のぴったり閉じ合わせている妖しい色白さを持った太腿の附根に押し当てた。
「この笊の中へ上手に産み落とすんだ。さ、やってみろ」
珠江夫人が胸の張り裂けるばかりの屈辱感でブルブル腰のあたりを慄わせると鬼源は、
「こんなやさしい事を何時までももたつかせると俺は本当に怒り出すぜ」
と、彼特有の冷酷で陰険な目を作って汚辱にすすり泣く珠江夫人をきっと睨みつけるのである。
「静子なんかはな。二つも三つも含んで色っぼく腰をくねらせながら一つ一つ笊の中へ一産み落として見せるぜ。そんな芸当を俺は丸一日で静子に教えこんだんだ。やる気になりゃ出来るもんだよ」
鬼源がそういうと煙草をふかして一服していた銀子が、
「とにかくここにいる女奴隷の階級はそこの具合いのよしあしで決まるものだからね」
と、珠江夫人の卵をようやく呑みこまされた下腹部を指さして笑うのだった。
「これから生卵割りとかバナナ切りとか、色々な調教がひかえているのにそれくらいでもたついてくれちゃ困るわね」
と、朱美がいい、続けて、
「御自分のお道具にそれ程、自信がないのならはっきりおっしゃいよ。私は駄目だから美沙江を一度使ってみてくれ、とね」
といって哄笑すると、珠江夫人は火照った美しい顔を起こして、
「わ、わかったわ。だから、お嬢さんの事はもう口にしないでっ」
と、ズベ公達に挑戦するかのような強い口調でいい、汗ばんだ美しい裸身の背を自分で強く調教柱に押しつけ、さすりつけながら吐き出すための懸命な努力を開始したのである。
無理やりに体内深く含みこまれたものを肉層だけを収縮させて押し出すという事はかなりの努力を要する事を珠江夫人は懊悩と屈辱の中で初めて思い知る。
「フフフ、私がお受けするわ」
と、順子は鬼源から笊を受けとって必死な努力をくり返す珠江夫人の前に身をかがませた。
順子の持つ竹の笊が珠江夫人の悩ましい漆黒の繊毛にそっと触れる。
珠江夫人にとっては蛇にも似た女、嫌悪しか感じられぬ大塚順子がクスクス含み笑いしながら艶っぼい表面をわずかにのぞかせ始めた夫人の柔らかな繊毛に目を注いでいるのだが、もう口惜しさを感じるゆとりもなかった。
「やがてこんな芸当をぎっしり埋め尽すお客様の前で演じる事になるんだからな。悩ましく腰をくねらしたり、甘い声を出したりして色っぼく演じなきゃ駄目だぜ」
鬼済は調教柱を背にして立つ珠江夫人の腰のうねりを腕組みして眺めながら事務的な口調でいうのだった。
まるで白い小さな風船が徐々にふくらむかのようにそのむき身の白さと対照的な漆黒の繊毛から卵が現われ出て来ると笊を持ち添える順子はたまらなくなったようにぶっと吹き出すのだった。
そんな順子の哄笑などもう無視したように珠江夫人は固く目を閉ざし、唇をきつく噛みしめて腰を突き出すようにしながらゆっくりと卵を押し出している。絹のように柔らかい繊毛が逆立ち、その奥の薄紅色の女体が開花して、それを徐々に吐き出してくるのがはっきりと目に映じると、
「はう、中々やるじゃないか」
と、鬼源は満足した表情を見せるのだった。
ようやく順子の持つ笊の中へ卵を生み落とした珠江夫人は、熱っぼい息を吐いて、上気した美しい顔を横に伏せる。
珠江夫人の優雅な頬はねっとりと汗に濡れそれに乱れ髪がべったりとくっついて、それは順子の目にも何とも妖艶なものに映じるのだった。
「その要領でいいんだよ。わかったね」
襞で巻きこんで襞で押し出す、女である限りそれくらいの事は誰だって出来る筈だ、と鬼源はいい、
「さ、呑みこんでは吐き出す、それを何回もくり返すんだ。そいつが卒業出来れば、生卵割りにとりかかる。今夜は徹夜しても稽古は続けるからな。そのつもりでいるんだ」
と、自分がいかに恐ろしい調教師であるかを誇示するように再びシクシクと嗚咽し始めた珠江夫人の前で胸を張るのだった。
哀愁の美花
一方、調教室の南側にある木製の寝台の周辺には、シスターボーイの春太郎と夏次郎、それに酔いどれ医師の山内がつめ寄っている。
調教台と鬼源が名づけている木製のベッドの上には緊縛されたままの静子夫人が仰向けに寝かされ、優美な両肢は鎖につながれて、ほとんど垂直なくらいに宙に向かって吊り上げられていた。
腰の下に木枕を入れられているために官能的で量感のある夫人の双臀は高々と浮き上っているのだ。女の源泉だけではなく、大きな桃を二つに立ち割ったように双臀の仇っぼい亀裂も生々しく開花して奥に秘めた可憐な菊の蕾もその全貌をあます事なく晒け出して料理されるのを待っているのだ。
静子夫人は珠江夫人のような狼狽やあがきは一切示さず、自分の運命を知悉したような綺麗な長い睫に静けさを持続していた。
その時、この調教台の外部から仕切っているカーテンを開いて黒の背広にぴっちりネクタイを締めた中年男が入って来たが、それはかっての遠山家の顧問弁護士であった伊沢である。
「千代さんに聞くと奥様はここにおいでだと聞いたものですから♢♢」
伊沢は木枕の上に双臀を乗せ上げ、堂々とばかりに可憐で魅惑的な菊の蕾を晒け出している夫人に気づき、ギョツとしたように立ちすくんだ。
「こ、これはどうも」
と、気障な縁なし眼鋭に一寸手をかけた伊沢はうろたえて手にしていた黒鞄を床に落とした。
「一寸、事務的な事で奥様にお会いしようと思ったのですが」
すると、夫人の双臀の奥へワセリンを塗ろうとしていた春太郎が吹き出して顔を上げた。
「嘘ばっかり。何とか口実をつくって伊沢先生はこの奥様に接近したがっているんじゃないの」
まあ、いいわ、今日は一寸、骨の折れる調教なんだからそこの山内先生と一緒に手伝って頂戴よ、と夏次郎がつっ立っている伊沢の肩を叩くのだった。
伊沢は照れた微笑を口元に浮かべながらウイスキーを飲んで寝台の端に腰をかけている山内に名刺など渡すのだ。
「この奥様の私有財産を千代さん名義のものにするために奔走している者ですよ」
と、自分が千代とグルになっている悪党である事を山内に告げ、山内もまた、
「静子夫人に人工授精で赤ちゃんを作りに来た男ですよ」
と、自分も悪党の同志である事を伊沢に告げてニヤリと笑うのだった。
「ところで、奥様」
と、伊沢は木製の寝台の上に仰向けに縛りつけられ、高々と優美な両肢を吊り上げられている静子夫人の上半身の方へ廻り、黒鞄の中から何枚かの書類を取り出して高貴な感じのする夫人の鼻先に近づけるのだった。
「奥様の個人資産をすべて千代さん名義のものにする手続きは一切終了致しました。驚きましたね。土地不動産だけで三億円からの財産です。これだけのものが千代さんの手に転がりこんだのですからね」
こんな時に一体、この男は何をいいだすのかと静子夫人は美しい眉根を寄せて反対側に顔を伏せるのだった。
「遠山隆義との離婚手続きをやっとすませたのですが、困った事に病院に入院した遠山氏が最近になって、ひと目静子に会いたいとうわ言のようにいい出しましてね」
遠山には静子が若い男と駆け落ちしたと千代が報告し、色仕掛けで必死に喰い下って遠山を裏切った静子に対する離婚を承諾させたのだが、死期が近づいた故か、遠山は病床の中で、ひと目静子に会いたい、もし、それが無理なら電話でもいいから静子の声が聞きたいとうわ言でくり返すようになったと伊沢は説明するのだった。
「伊沢さん、ほ、本当の事を聞かせて。遠山の病気はそんなに悪いのですの」
静子夫人は遠山は死期が近いという伊沢のひと言におびえたように目を開いた。
何ともいえぬ哀しげな潤みを黒眼勝ちの美しい瞳にねっとり浮かべて夫人はじっと伊沢を見つめ、
「本当の事をおっしゃって、伊沢さん」
と、今にも泣き出しそうな表情でくり返すのだ。
「ここ二、三日が峠という所でしょうな」
「ああ♢♢」
と、静子夫人は柔媚な頬をひきつらせ、遂にシクシクとすすり上げ始める。
死期が追っているというのに病院の遠山を看病する事すら出来ぬ捕われの自分が哀しいのか、夫人は奥歯を噛みながら熱い涙をしたたらせるのだった。
「でも、遠山氏が亡くなれば千代さんは彼の莫大な資産を受け縦ぐ事が出来るのですからね。彼女にしては遠出氏の死が早からん事を願っているようなものですよ」
「ああ、何て恐ろしい事をおっしゃるの、伊沢さん」
静子夫人は泣き濡れた切れ長の瞳を口惜しげに伊沢に向けて声を慄わせるのだった。
「困っちゃうな、伊沢先生」
と、春太郎が口をとがらして伊沢の顔を見た。
「これから奥様の肛門を開かさなきゃならないっていうのに、こんなに奥様の神経を高ぶらせちゃ困るわよ」
「いや、すまん、すまん、別に君達の調教の邪魔をしに来たんじゃないよ」
伊沢は春太郎に苦笑いして見せた。
「奥様ももういいかげん遠山氏の事を忘れてはどうなの。肉体的にも以前の奥様と今の奥様とではすっかり変ってしまったんだし、赤ちゃんもここで産ませてもらえる事になったんでしょ。遠山氏の事なんかきっぱり忘れなきゃ駄目ょ」
春太郎にそう浴びせられると静子夫人はすすり上げながら、
「そ、そうでしたわね」
と、哀しい納得を示してうなずいて見せるのだった。
春太郎のいうように自分はもう汚れ切って到底、日の当たる場所には出られなくなった女なのだ。遠山の病気の事を心配しても何になろう。永久に性の奴隷としての烙印を押されてしまった自分には何の関係もない事ではないか。
ふと、カーテンの外をのぞいた夏次郎がクスクス笑いながら、
「折原夫人が卵の調教を受けているわ。まあ見事に呑みこんだわよ」
どれどれ、と春太郎もカーテンの外をのぞきこんで夏次郎と一緒に笑い出す。
ああ、珠江さまも遂に♢♢静子夫人は自分と同じような運命をたどる事になった珠江を思うと凍りつくような哀しさがこみ上げてくるのだったが、もうこれで彼女も救われぬ地獄の底に落ちこんだかちには性の奴隷として生きるより方法はないのだと夫人は淋しく自分にいい聞かせている。
「じゃ、こっちも始めるわね、いいでしょ、奥様」
といいながら春太郎と夏次郎が下腹部の方に廻って来ると静子夫人は瞑目するように綺麗な睫を閉じ合わせ、
「いいですわ。さっきは泣いたりしてごめんなさい」
と、主人に柔順な性の奴隷に還元するのだった。
「最初に塗るのはワセリンでいいわね。コールドもあるけれど」
「すみません。コールドにして下さいます?」
夫人は少しでも早く悦虐の境地に浸って自分の胸の中に去来する煩悩を断ち切りたいという衝動にかられている。
「よし、それは僕が受け持とうか」
伊沢がそわそわして春太郎がとろうとしたコ−ルドの瓶を自分が先にひったくる。
「いいだろ、奥様。僕にも協力させてくれ給え」
伊沢は慄える指先でたっぷりクリームを掬いとり、生々しいばかりに晒け出されている菊の可愛い蕾に強くすりつけていく。
「奥様の財産を没収した悪い弁護士の手でこんな事されるのは辛いですか、ええ、奥様」
伊沢は夫人の陰密な菊の肉層に指先を触れさせると忽ち快惚どした気分で全身が痺れ出す。
「いいえ」
夫人は涙に濡れた柔らかい睫をしばたかせ、柔媚な象牙色の頬を哀しくそよがせながら、
「もう今の静子は人を恨むような感情など持っておりませんわ。それより、伊沢さん、お願い、静子にすっかり何もかも忘れさせて、女奴隷以外の何ものでもないという事を静子に思い知らせて頂戴」
と、すすり上げるような声音でいうのだった。
伊沢はニヤリとして春太郎の方に目を向け、上着を脱ぎ、ネクタイを外すと、腰を据え直して夫人の可憐な菊花に挑みかかったのである。そこから直腸にまで卵を呑みこまされるという恐ろしい調教の幕が切って落とされたのだ。
「ねえ、春太郎さん、静子、おねだりしていい?」
伊沢にその部分へたっぷりコールドを塗りつけられる夫人は伊沢の指先の動きにあわせるようにして木枕に乗せた官能美を持つ双臀を悩ましくうねらせ、
「静子のおっぱいを揉んで。ねえ、春太郎さん」
と、すでに情感の迫った潤んだ瞳をぼんやりと春太郎の方に注ぐのだった。
「今日は静子、うんと燃えたいの。ね、いいでしょ」.
「まあ、奥様が御自分でそんな事いい出すなんて珍しい事ね」
春太郎は、夏次郎と顔を見合わせてさも嬉しそうな表情になるのだった。
「いいわ、奥様がその気ならうんと燃やしてあげるけど、私達は奥様の調教を受け持っているのだから、そっちも協力して下さらないと困るわ」
黒人のジョーを背後で受け入れるための調教という事をお忘れなく、と春太郎は念を押すのだが、
「わかっておりますわ」
と、夫人は濡れ濡れした美しい黒眼をぼんやり空間に向けながら小さくうなずいて見せるのだった。
甘美な調教
春太郎と夏次郎が寝台の上の静子夫人の左右に添寝するような形をとり、麻縄を強くからませている夫人の優美な柔らかい乳房に掌をかけ、ゆっくりと揉み上げている。
静子夫人の肉体を燃え上がらせる事は手術の前の麻酔をかけるようなものだと二人のシスターボーイは懸命になり、夫人の身も心も早く恍惚の状態に持っていこうとしているのだ。五体の肉を完全に燃え上がらせてから優しく肛門を開かせてやらねばならぬ。少しでもそれの苦痛を忘れさせるためには夫人の肉という肉をすべて甘く痺れさせねばならぬと春太郎は思うのだった。
麻縄に緊め上げられた夫人の乳房を優しさをこめて柔らかく揉み、その上の薄紅色の可憐な乳頭を巧妙に指先で愛撫したり、柔らかく口で吸ったり、それから二人のシスターボーイはこれまでの経験からよく知悉している夫人の敏感な部分、耳たぶから艶やかなうなじ、また、喉首に至るまでを羽根のような柔らかさで唇でくすぐり、甘美な口吻を注ぎかけるのだった。
すっかり情感の溶け出した夫人はくなくなと麻縄を巻きつかせた上半身をくねらせ、宙に高々と吊り上げられている優美な両肢をもどかしげに揺さぶり出している。
下半身を愛撫する伊沢と山内も欲情の高ぶりで全身を酔い痴れさせているのだ。
伊沢の執拗な愛撫で夫人の輝く秘めた菊の蕾はまるで春のふくらみを示すようにしっとりとした柔らか味を増して開花し、山内の愛撫を受ける上部の花層もまた美麗な薄紅色の花肉を露にしてすでにおびただしい花汁をしたたらせている。
「ご、ごめんなさい。今日の静子って凄いでしょう」
静子夫人は男二人の指先におぴただしい生理のもろさを吐きかけている自分がわかるのか、甘い喘ぎの声と一緒にすすり泣いて詫びるのだった。
伊沢は額に滲む汗を手の甲で拭いながら更に愛撫の手を休めなかった。
ふと、伊沢の脳裡に遠山家の広大な美しい庭園でバラの花の手入れをしていた時の静子夫人の幻想的なばかりに美しい姿が浮かんでくる。白地にバラの葉を型染めした華美な小紋を着た夫人は、仕事で遠山に会いに来たた伊沢をふと見て、
♢♢ごらんになって伊沢さん。バラが今年もこんなに美しく咲きましてよ
と、優雅な美しい頬に匂うような柔らかい微笑を作ったのだ。伊沢はバラの美しさより豪奢な着物の白い半襟からくっきり浮き立たせた夫人の艶っぼく冴えたうなじや頬の美しさに見惚れ、その気高いばかりの美貌に圧倒された事を今思い出している。
長い間、自分の心を切なく悩ませた高嶺の花、いわば自分にとっては永遠の恋人であった静子夫人がこちらの策動で一切の財産を奪いとられ、衣類もなく、生まれたままの素っ裸で浅ましくも自分の前に肉の襞まで晒け出しているのだ。
今、静子夫人に最後に残されたものはその官能味のある美しい肉体であり、鬼源達が名器だというたった一つの女の武器なのか、と伊沢は思うのだった。その女の武器一つを頼りに夫人はこれからも生き続けなければならない。更にその一つの名器を持つこの絶世の美女を二つの名器を持つ美女に調教しようというのが鬼源の計画ではないのか。
「ちょっと伊沢先生、途中でぼんやりしちゃ駄目じゃない」
と、夫人の乳房を愛撫していた春太郎がふと手を止めて伊沢の方に目を向けた。
「持ち場を交代しましょうよ」
春太郎と夏次郎は夫人の下半身の方へ移行し始め、伊沢と山内は追っ払われた形となる。
「やっぱりこのテクニックは私達の方がましのようね。お二人はそこで奥様のおっぱいを優しくモミモミしてあげて」
春太郎は笑いを浮かべて伊沢達にいい、ぴったり夫人の双臀の左右に夏次郎と身を寄せるのだった。
「フフフ、本当に今日の奥様って凄いわ。随分と燃えちゃったのね」
二人は忽ち夫人のその二つの羞恥の源へ左右から顔を押しつけるようにしてまといつき、指先を使って愛撫したと見るや急に唇を押しつけたのである。
ああっ、と夫人は頭の芯にまで貫くような鋭い快感を訴えて木枕の上の双臀をのたうたせ、鎖で宙に吊られている優美な両肢を揺さぶり始めるのだった。
「ゲイボーイといっても彼等はおかまじゃない両刀使いなんですよ」
静子夫人のねっとり汗ばんだ柔らかい乳房を伊沢はゆっくりと揉みながら唖然とした表情の山内に苦笑していった。
「これくらいの美人だったら、これくらいの事をしてあげるべきよ」
ふと、顔を起こした春太郎は伊沢の方を見てニヤリと笑い。再び、顔を斜めにして奥深く秘められた夫人の菊花を愛撫し始めるのである。
ああっと、夫人は再び悲鳴を上げ、
「春太郎さん、そ、そんな♢♢」
と、哀しげな声を発し緊縛された汗みどろの美しい裸身をのたうたせるのだったが、そのたまらない羞恥と被虐の快美感を必死になっ訴えるように頬をすり寄せて来た伊沢の唇へ夫人は強く唇を重ね合わせたのだ。伊沢はぴったりと夫人の柔らかい舌先に舌先を押しつけ、無我夢中で吸い始める。火のように熱くて甘美な夫人の鼻息を感じつつ、伊沢はすっかり五体を痺れさせてしまった。
「それじゃ、奥様。まず、最初の浣腸をするわ。いいわね」
春太郎はようやく顔を上げて夫人に声をかける。
静子夫人は伊沢と貪るように舌を吸い合いながら、うっとりと目は閉ざしたままで小さくうなずくのだった。
二百CCのグリセリン液をガラスの浣腸器に夏次郎が手馴れた手つきで注ぎこみ、左右から夫人の菊の花層を春太郎と一緒にまさぐり合うようにしながらゆっくりと沈みこませていく。
うっ、と夫人は冷たい嘴管がそこに触れ、あっという開こ体内深く沈みこんでいくのを感知すると伊沢の舌を吸っていた口を離し、
「うんと、うんと優しくしてね、春太郎さん」
と、わなわな唇を慄わせながらうめくのだった。
「いいわ。とても素敵な浣腸をしてあげるわよ。ま、こっちへ任しておいて」
春太郎は夏次郎に、あれを使って、と寝台の下に並べられてある調教の小道具を目で示した。先端が渦巻き状になっている筒具を手にした夏次郎は春太郎に攻撃されているその上方のすでにしとどに溶けくずれた柔肌に含ませようとする。
「嫌っ、そんなの嫌っ」
夫人は自分の最も敏感な肌にそれが当てられるとすねてもがくように木枕に乗った量感のある双臀をうねらせ、矛先をそらせるのだったが、それは拒否ではなく甘い甘い羞じらいである事を夏次郎も心得ている。
「さ、これも浣腸器と同じように深くお腹の中へ入れるのよ」
「ああ、私ずかしいわ」
それが真綿のような柔らかい肉層へ深く沈み始めると、夫人は戦慄を伴った妖しい快美感にのたうち、ひきつったような啼泣を洩らし始めるのだった。
ゆっくりと弧を描くような二つの責具の操作が開始されると、
「ああ気が、狂いそう」
と、静子夫人は髪を振り乱して首を振り、たちまち、悦びの頂上に登りつめそうになったが、
「お夏、気をつけてね、奥様に気をやらせちゃ駄目よ」
と、春太郎は夏次郎の責具の使いように注意するのだった。
夫人が頂上を極めかかる直前、責具はさっと引き上げられ、かわりに春太郎は深く沈みこませた浣腸器のポンプをゆっくりと押し始める。この狂うばかりのじれったさはこの世のものだろうか、と夫人は声を上げて泣きじゃくるのだった。
次から次にと体内に送りこまれていく溶液の何という甘美な切ない感触♢♢夫人は美しい富士額にねっとりと脂汗を滲ませ、カチカチ歯を噛み鳴らしながら悶え泣くのだった。
二百CCを一滴あまさず夫人に注入した春太郎は小さな果肉のようにふくらんだそれを脱脂綿で柔らかく揉みほぐして、
「じゃ、もう二百CC注入するわ。がまんしてね」
「そ、そんなに」
「そうよ。さっきいったように今日はお腹の中をすっかり綺麗にしなきゃならないのよ。たっぷりウンチをしてもらわなきゃあ」
春太郎は笑いながらそういうと、空になった浣腸器に再びグリセリン液を注ぎこみ、すると、その間を利用するように夏次郎がまた夫人の双臀にぴったり寄り添って、
「さ、しばしの間、お楽しみになって」
と笑いかけながら筒状の責具を幾重もの花びらまで見せている夫人へゆっくりと含ませていくのだった。
春太郎と夏次郎のまるでリレー作戦のような巧妙極まる女責めのテクニックを伊沢と山内は呆れた表情でぼんやり見つめていた。
「何をぼんやりしているのよ、伊沢先生。奥様のおっぱい、おっぱい」
と、声をかけられてふと我に返り、あわてて夫人の形のいい柔らかい乳房や薄紅色の乳頭にチュツチュツと矢つぎ早の接吻を注ぎかけた。
静子夫人を終始、燃え立たせ、肉を溶かす状態においたままで浣腸をほどこし、排泄させ、菊の花を開かせる手術を行おうと二人のシスターボーイは考えているようだ。
「ほんとに奥様のここって素敵ねえ。鬼源さんにいわせりゃこれが本物の男泣かせの名器だそうよ」
私がもし、女に生まれ変れるものならば奥様みたいな名器を持ちたいものだ、と夏次郎はゆっくりと責具を操作しながらいうのだった。
静子夫人は右に左にしとどに乱れた黒髪を打ち振りながら甘い嗚咽の声を洩らし、その卑猥な責具に対して知らず知らずのうちに、鬼源などが賞讃する肉の機能を発揮し始めているのだった。
ゆっくりと責具を操作しながら夏次郎は目を瞠っている。その熱く熟した肉はまるで生物のような収縮を示して矛先を貪欲に更に奥深くへ誘いこもうとしているのだ。夏次郎が矛先を引き上げようとすると甘美に熟した女体はまるで藻がからみつくようにそれを巻きこんで離さない。
「さ、奥様、二回目の浣腸よ。お春と交代しなきゃ」
「ひどいわ。あと少しで♢♢」
頂上に登れるところだったのにと夫人は鼻を鳴らしてすねて見せながら、強い吸引力を解いて自分の柔らかい女体の収縮でそれを押し出すようにする。
「ほんとにお見事という他はないわ」
夏次郎と代って夫人に二度日の浣腸を開始した春太郎も夫人のその部分の甘美な収縮に驚き、
「こんな素質があるなら、きっとお尻の方だって素質がある筈よ。私達がうんと磨きをかけてあげますからね」
と、感極まったような声を出すのだった。
二百CCの溶液を再び体内に注入された静子夫人は乱れ髪をほつれさせた柔媚な横顔を見せ、形のいい唇を小さく開いて断続的に喘ぎつづけている。脂汗を美しい顔面にねっとり滲ませて切なげに目を閉じ合わせている夫人のその横顔は何とも妖艶なものに伊沢と山内の目に映じるのだった。
「さて、あとは排泄ね」
ほっとしたように上体を起こし、空になった浣腸器を寝台の端へ置いた春太郎は煙草を口にして小休止をとるのだった。
静子夫人の絹のように滑らかな腹部が波を打っている。グーと腸の痙攣する音が聞こえて春太郎が目を向けると夫人はいかにも恥ずかしげに横へ上気した顔をそむけさせるのだった。
「伊沢先生、奥様の排泄の始末をお願い出来るかしら」
と、春太郎が皮肉っぼい口調で伊沢にいった。
「伊沢先生は奥様から全財産を没収してしまったのでしょう。先生だって千代さんからの謝礼がたっぷり入ったんだから、せめて奥様のウンチのお世話ぐらいしてあげれば」
といって春太郎は夏次郎と顔を見合わせて笑い出した。
「いいだろ」
と、伊沢は苦笑いして見せると、
「よし、俺も手伝おう。丁度、奥様の検便もしたいと思っていた所なんだ」
と、山内がもう寝台の下に置かれてあったブリキの便器を取り上げるのだった。
「それじゃ、こいつは奥様に惚れこんでいるお二人に任しておこうじゃない、お夏」
と、春太郎は焼草をくゆらしながら近くの椅子に腰をかける。
「如何、奥様。もうかなり苦しそうじゃない。そら、またお腹が鳴り出した」
春太郎は夫人の艶っぼい腹部がまた鳴動し始めたのでゲラゲラ笑い出した。
「こらえ切れなくなれば遠慮せず伊沢先生に頼む事ね。それから♢♢」
春太郎はついと立ち上って生理の苦痛に美しい眉根を寄せている夫人の耳元に口を寄せ、クスクス笑いながら、
「千代さんに奥様の財産をすべて譲り渡してしまった憎い男でしょ。だから、思い切り臭いのをたれ流して復讐してやればいいわ」
などとからかうのだった。
夫人はその揶揄を辛く思うより、ぐっと急激にこみ上って来た便意にキリキリ歯を噛み鳴らし始めている。
「もう駄目ですわ、伊、伊沢さん」
と、うめくようにいった夫人は木枕の上の双臀をモジモジ揺さぶって、
「お、おまるを、ねえ、おまるを早く」
夫人の悲痛な声を聞くと山内はブリキの便器の底へ新聞紙を敷き、伊沢は汚物がはじけ飛ぶのを警戒し夫人の双臀を乗せた木枕の周囲にも新聞紙をあわてて敷き始めるのだった。
静子夫人は更に高ぶって来た生理の苦痛のためにすっかり取り乱し、恥も外聞もないといった態で狂おしげに黒髪を振り乱しながら甲高い声をはり上げるのだった。
「ああ、早くして、伊沢さん。私、本当にもう洩らしてしまいますわっ」
木枕の上に乗った量感のある夫人の双臀はもう痙攣を示している。伊沢か山内が便器を当てがうまでは何とか耐え切ろうと夫人は宙に吊り上げられた優美な肢体をくねらせるのだった。鎖につながれた細工物のように華奢な足首が悶え、足の指が閉じたり開いたりをくり返している。
せっぱつまった夫人の狂態をニヤニヤと見つめながら山内は、
「僕にさっき冷たい仕打ちをした罰だよ。もう少し苦しんじゃどうかね、奥様」
「嫌っ、さっきの事は謝まりますわ。ですからねえ、早くっ」
夫人はそう叫ぶと、さっと汗ばんだ顔をねじってさも口惜しげに声を慄わせて泣きじゃくるのだった。
「ごめん、ごめん。何もそう泣かなくたっていいじゃないか」
と、山内は夫人のブルブル痙攣を示す官能味のある双臀へようやくブリキの便器を押し当てていった。
「お、お願い、もっと下の方に当てて。そこじゃ、洩れてしまいますわ」
「よしよし、こうかい」
山内と伊沢は二人で便器を持ち支えてぴったりと夫人の身体へ寄り添っていったのである。
第九十章 初夜の心得
羞しき寝化粧
床の間つきの六畳の日本間で時造は黒塗りの卓の前にあぐらを組んで坐り、ウイスキーを飲んでいた。
暑さを感じるのか時造はワイシャツを脱ぎ上半身、裸になっている。腕の附根のあたりから背中一面にかけて小桜姫の刺青がしてあり、赤黒い皮膚は毒々しい光沢を浮かばせていた。
田代とは親交のある関西に住む岩崎の弟で、時造はいかにも暴力団の幹部らしく色の浅黒い、すべて造作の大きい恐ろしい顔つきをしていた。
「時造さん、いるかい」
襖の何こうから田代の声がすると時造は飲みかけのウイスキーグラスをボンと卓の上に置き、
「へえ、ここで御馳走になってますよ」
と、坐り直しながらいった。
襖が開いて田代が持ち前の人のいい笑顔を見せて入って来る。続いて森田に縄尻をとられた美沙江が千代に軽く肩先を支えられるようにして入って来ると、時造は、へえ、と目をパチパチさせ、金縛りにあったように身を硬くしてしまうのだった。
「このお嬢さんが千原美沙江さんよ。どう、美人なので驚いたでしょ、時造さん」
千代は時造のきょとんとした表情を面白そうに見て、
「さ、お嬢さん。こちらにいらっしゃるのがあなたのお婿さんになって下さる時造さんよ。御挨拶しなきゃ駄目じゃない」
と、真っ赤に火照った顔を深く垂れさせ、繊細な雪白の裸身をブルブルと慄わせている美沙江に声をかけるのだった。
時造は想像していたものをはるかに越える美沙江の美しさに心を慄わせているのだ。
優雅さと繊細さの入り混った美沙江の美貌に加えて抒情味を感じさせるようなほっそりした美廣な裸身♢♢まさか、美沙江を一糸まとわぬ素っ裸のまま引き立てて来るとは思わなかっただけに時造は一瞬、声も出なかった。
「さ、お嬢さん、花婿の傍へお坐りよ」
千代は美沙江の陶器のように艶やかな背を押して時造の隣へ強引に坐らせるのだった。
ふっくらと可憐なふくらみを持つ乳房の上下には垢じみた麻縄が二巻き三巻きし、その白磁の光沢を持つ細い裸身を附せ加減に縮めて慄えている美沙江♢♢時造は思わず力一杯抱きしめたい欲求にかられ出す。
「フフフ、どうしたのよ、時造さん。花嫁に優しい言葉の一つでもかけておやりよ」
千代は柄にもなく照れている時造を見て笑い出すのだった。
その時、入ってもいいですか、と声がして襖がそっと開いた。
「あら、順子さん。さ、どうぞ、どうぞ」
千代は襖の聞から部尾の中をのぞきこんでいるのが大塚順子であるのに気づくと、止ち上り、手をとるようにして座敷の中へ引き入れた。
「千原美沙江が今夜、女になると聞いたのでお祝いをいいに来たのよ」
順子は千代にそういい、時造の隣に縮みこんで身も世もあらず羞恥に慄えている美沙江を小気味よさそうに眺めるのだった。
「あなたにとっては今夜は最良の夜ね」
と、千代は順子の肩を軽く手で叩くようにしながらいった。
「千原流華道の後継者、千原美沙江はこうして時造さんの花嫁に決定したし、千原流後援会長の折原珠江は性の奴隷の道を歩む事になったわけでしょう。あなたにとって怖いものは何もなくなったわけじゃない」
「そういう事ね」
湖月流華道の会長である順子は何ともいえぬ嬉しそうな表情になっている。
「折原珠江の調教される場面に私、立ち合っていたんだけど、傑作だったわ」
順子はあの高慢ちきな女が下腹部から卵を飲みこまされ、それを吐き出している光景を思い出し、吹き出すのである。
「ねえ、千原家のお嬢さん」
順子は小さく身を縮かめてすすり泣いている緊縛された美沙江に目を向けた。
「これで、千原流華道も遂に崩壊ね。私、ようやく胸が晴れたわ」
そして、やたらにウイスキーを喉に流している時造に向かって、
「このお嬢さんは箱入り娘で箸より重いものは持った事がないという人なんですからね。あまり、手荒な真似をせず、優しく愛してあげて下さいね」
と、順子は口元に微笑を浮かべながらいうのだった。
千代が隣の部屋に通じる襖を開けると、そこは寝室になっていて艶めかしい友禅の夜具が敷かれ、キチンと二つ枕が並べられてある。
「へえ、もう支度の方は整っているのね」
千代は寝室を眺めて、フフフ、と笑った。
枕元には二枚折りの屏風、それに水差し、煙草入れなどが型通りに配置されてある。
「さすがに森田親分は手廻しがいいわ」
枕元の色っぼい雪洞風のスタンドの下に京紙などが置かれているのを見て千代は感心したような声を出した。
「俺達は一寸、時造さんに話があるからな。千代さんと大塚女史はそっちの部屋でこの娘に初夜の心得でも話してやってくれないか」
と、田代がいうので、千代と順子は、ガクガク腰のあたりを慄わせている美沙江の肩に手をかけた。
「さ、お嬢さんはこっちへいらっしゃい」
千代と順子に縄尻をとられ、肩を支えられるようにして艶めかしい雪洞風のスタンドが置かれた寝室へ連れこまれた美沙江は、二つ枕の並んだ夜具を見て、ハッとしたように赤らんだ顔を横へねじった。
「さ、ここへ坐って」
と、千代と順子は美沙江を寝室の片隅にある姫鏡台の前へ坐らせた。
「花婿さんに好かれるように寝化粧をしておきましょうね、お嬢さん」
後手にがっちり縛り上げられた美沙江を鏡台の前に坐らせて二人の悪女は寝化粧をほどこそうとするのである。まるで子供がままごとを楽しみ合うように、千代と順子は執念の目を閉じ合わせている美沙江の華奢ではっそりした首すじから麻縄に緊め上げられている白桃に似た美しい乳房に至るまで、香水をふりかけ、美沙江の優雅な頬をパフで軽く叩き始める。
千代が美沙江の頬を押さえ、順子が花びらのように可愛い唇に口紅を引き始めると、固く閉じ合わせている美沙江の眼尻から屈辱の口惜し涙があふれ渋るのだった。
「あら、せっかくお化粧してあげているんだから、泣いちゃ駄目よ」
美沙江の艶やかな象牙色の頬を伝わってしたたり落ちる涙をハンカチで拭きとりながら千代はいった。
あの全身に刺青をした恐ろしい男に今夜、純潔を奪われるのだと思うと、死んだつもりでこの屈辱に耐えようと決心した美沙江だったが、恐怖の慄えで固く閉じ合わせた膝のあたりがガクガク慄えるのだ。
美しい眉をしかめ、さも苦しげに顔を歪めて歯を噛みしめる美沙江に対し、
「そんなに固くなっちゃ駄目じゃない。もっと唇を前へ突き出しなさいよ」
と、順子は千代に顎をとられている美沙江の耳を指でつまみ上げ、唾をつけた口紅を美沙汗の唇に塗り始める。
「まあ、とても綺麗になったわ。これなら花婿さんもお喜びよ」
千代と順子はすっかり化粧し終えた美沙江を頼もしげに見ていった。
「何もそんなにおどおどする事はないわよ、お嬢さん。時造さんにすべて任せればいいのだから。きっと優しく愛して、女にして下さるわ」
順子は、柔らかな睫を涙に濡らして深く顔を伏せている美沙江にいった。
「いいわね、お嬢さん。時造さんはあなたの旦那になる人よ。どのように料理されても決して取り乱したり、反撥したりしちゃいけないわ。何でも従順にならなきゃ駄目よ」
まるでやり手婆のように千代はすすり上げる美沙江の火照った美しい頬にチラと冷酷な目を向けながらいうのだった。
「さ、もう少し、初夜を迎える準備をしておこう」
千代は寝室にも小さな床の間があり、それに桜の木で出来た床柱があるのに気づくと、美沙江の縄尻をとって引き起こし、その床柱を背にさせて立たせるのだ。
美沙江を縛った縄尻を使って美沙江を柱にがっちりつなぎ止めると、全裸の正面を露にされて羞恥で悶え泣く美沙江の前に千代はすっくと立った。
「お床入りの前にちゃんと花嫁は花婿に御挨拶しなきゃ駄目よ。私がその要領を教えて上げるわ」
ほのかな香気が匂うような象牙色のほっそりした美沙江の裸身を眺める順子は、この深窓の令嬢がこれからあの全身刺青の暴力団員に散々いたぶられ、田楽刺しにされるのかと思うとふと痛ましい感じにもなる。
今まで自分の主宰する湖月流華道の敵であるとはいえ、やくざに頼んで凌辱させるとは我ながらひどい事を考えついたものだと順子は苦笑するのだった。
しかも、千代は美沙江を時造への人身御供にした後は鬼源に下げ渡し、今、珠江夫人が受けているあの酸鼻な調教を受けさせようとしているのだ。
涙に濡れた抒情的な柔らかい睫をフルフル慄わせ、スラリと伸びた硬質陶器のような冷やかな裸身を一層硬化させている美沙江は千代と順子が薄笑いを浮かべて近づいて来ると雪白のしなやかな腿と腿とを頑ななばかりに密着させるのだった。
「でも、お嬢さんのそれ、大丈夫かしら」
と、順子は美沙江の固く閉じ合わせた腿の附根を指さして千代に笑いかけた。
「時造さんはベアリング入りの凄いのを持っているというじゃない」
それにくらべて、美沙江のそれはいかにも少女っぼい淡い繊毛で柔らかく覆われていて合歓の葉のような抒情味さえ感じさせる。
「そんな事、心配しなくたっていいわよ。このお嬢さんも十九歳でもう子供じゃないんだからね。努力して何とか受け入れる筈よ」
千代はそういって声を上げて笑うのだった。
再び、化粧台の上から香水の瓶を取った千代は、よっこらしょ、と床柱に縛りつけられている美沙江の膝元へ腰をかがめ、美沙江のすんなりと伸びている繊細な下肢からムチムチと固く緊まっている雪白の太腿に至るまでに香水をふりかけるのだった。
美沙江は嫌悪感の混じったたまらない羞恥でカチカチ歯を噛み鳴らしている。
「ここにもお香水を軽くふりかけておくのが寝室のマナーというものよ」
千代が淡い柔らかな繊毛のふくらみに指先をふと触れさせていくと、今まで屈辱にキリキリ歯を噛みしめて耐えつづけていた美沙江は我慢の堰を切ったようにブルっと緊縛された美麗な裸身を慄わせ、
「な、何をなさるのっ」
と、高ぶった声をはり上げた。
「寝室のマナーを教えてあげているのに何さ、その態度」
千代は美沙江がその綺麗な睫で覆われた美しい瞳に憎悪の色をキラリと滲ませて自分を見たので、フン、と顎をつき出した。
「美沙江は死んだつもりになってここへ来たのです。その美沙江をあなた達はまだ辱しめようとなさるの」
美沙江は千代や湖月流華道の大塚順子達の手で嬲りものにされる口惜しさにもう我慢ができず、細い綺麗な眉を吊り上げて二人の悪女を睨みつけるのだったが、
「お嬢さん、私達にそんな口をきいちゃ、ただじゃすまないわよ」
と、千代と順子は負けるものかとばかり、睨み返すのだった。
「どうしたんだ」
と、隣の部屋で時造と酒を飲みながら談笑し合っていた田代と森田が襖を開けてのっそり入って来る。
「社長。このお嬢さんをもう優しく扱う必要はないわ。初夜の心得について教えてやろうとすると素直に聞こうとしないのよ」
千代は冷酷な目を床柱に縛りつけられている美沙江に向けてそういうのだ。
「ま、いいじゃないか。今、時造さんにも話したんだが、明日からはこのお嬢さんも調教柱に縛られる事に決定したんだ。今夜は一切、時造さんに任して、我々はそろそろ、ここから退散しようじゃないか」
田代が不満そうな千代にそういった時、全身、刺青の時造が煙草を横に咥えて森田の後ろから入って来たのである。
静子排泄
「もういいのかい、奥さん」
山内と伊沢は共に額に汗を滲ませ、木枕の上に乗せ上げられた夫人の双臀にぴったりと寄り添っている。
二人が夫人の量感のある優美な双臀に押し当てているブリキの便器♢♢その底に敷かれた新聞紙の上には黄金色の小さな山が築かれて、はのかに湯気を先てているのだ。
緊縛された優美な裸身をベッドに仰向けに縛りつけられている静子夫人は上気した端正な頬をねじるように伏せて固く目を閉ざし、美しい眉根をさも苦しげに歪めていた。
すぐ近くの椅子にシスターボーイの春太郎と夏次郎は腰をかけ、静子夫人の浣腸排泄という酸鼻な光景を顔色も変えずに見物しているのだった。
「遠慮しちゃ駄目よ、奥様、身体の中のものを全部出してしまわないと後の調教がやりにくいからね」
春太郎は椅子から立ち上がり、美しい富士額にねっとり脂汗を滲ませている静子夫人の赤らんだ耳元にささやくのだった。
山内と伊沢が支える便器の中に、もう耐えられず毛穴から血の吹き出そうな汚辱の思いと一緒に排泄行為を展開させてしまった夫人だったが、
「それじゃ、ほんとにもういいのね」
と、春太郎が念を押し、伊沢と山内が便器を引き揚げようとすると、
「待、待って」
と、夫人はむずかるような鼻を鳴らすのだちた。
「まだおまるをのけちゃ嫌。しますから」
夫人は鼻すじの通った美しい顔をそっと春太郎の方に向け、翳の深いにじんだような瞳に恥ずかしさと哀しさをねっとり浮かべるのだった。
「ねえ、し、してもいい? 伊沢先生」
次に夫人は下半身の方に取りついている伊沢に甘えかかるように声をかける。
自分の財産をすべて奪いとり、かつては遠山家の女中であった千代と共謀してこんな奈落の底にまで自分を葬った憎い伊沢♢♢その伊沢の持ち添える便器に体内の汚物を吐き出さねばならぬ屈辱など、もう静子夫人は思うゆとりはなかった。
憎いとか口惜しいとかいう感情を喪失し、自分を地獄に追いやった伊沢、いや、伊沢だけではなく川田にも千代にも夫人は従属し、受容し、その中にふと被虐性の快味すら時としては感じとる事の出来る女になってしまったのだ。
「いいですとも、奥様。何でも僕達に任せりやいい。こうなりゃ赤ちゃんになったつもりでね」
伊沢は縁なし眼鏡の中の小さな目をしばたたかせながら上ずった声音でいった。
かってはその気高い美しさに心うずかせ、畏敬の念を抱いて見てきた遠山家の令夫人が自分に魂までもぎ取られたように糞尿の始末までさせているではないか。伊沢は身内が慄える程の興奮を覚え出すのだ。嗜虐的な高ぶりもこみ上って来て、夫人が切なげに目を閉じ合わせ、可憐な菊花を収縮させながら二度日の発作を起こし始めると、
「さすがに育ちのいい奥様だけあって、だし方も随分とおしとやかじゃありませんか、こりゃ驚いた」
と、伊沢はからかうのだ。
「うん、嫌っ、そんなこと、おっしゃっちゃ。やめて」
夫人は赤らんだ顔をねじって甘くすねるような口調でいった。
しかし、伊沢のいうようにそれは細い黄色い蛇がとぐろを巻くようにわずかずつ排泄されて便器の中へこぼれ落ちていく。こんな最中にあっても育ちの優雅さを失うまいと夫人が努力しているようで伊沢と山内は目を瞠るのだった。
「ねえ、そんなに近づいていて、臭くはないのですか?」
静子夫人は自分の醜悪な排泄行為を凝視している伊沢と山内に気づいて、もの哀しげな色を湛えた美しい瞳をしばたかせながら声を慄わせた。
「不思議なものだね。奥様のような美人になるとこの匂いがちっとも気にならなくなるのですよ」
と、山内が笑いながらいった。
静子夫人は情感をねっとり浮かべた瞳を薄く開いたり閉じたりし、唇を半開きにしたり、また唇を噛みしめたりをくり返しながら低くうめいている。
身を引き裂かれるようなこの汚辱と苦悶が被虐の法悦境のように夫人には感じられてきたのかも知れない。
「まあ、随分と出るじゃない」
そんな春太郎の哄笑も気にならなくなり、夫人は最後の発作を絞り尽くすように放出したが、その瞬間、夫人は、あ、と小さく叫んで身を縮め真っ赤に火照った美しい顔を哀しげに歪めた。
まるで強制された屈辱行為の後産みたいに放尿行為を夫人は始めてしまったのである。
「おや、まあ」
と、伊沢達は狼狽し始める。
一旦、放尿し始めたものは自分の意志では止める事は出来ず、夫人は真っ赤に染まった顔を左右に揺さぶりながら、
「ああ、ご、ごめんなさい」
と、ベッドを濡らし始めた自分の行儀悪さを半泣きになって伊沢達に詫びつづけるのだった。
「いいんだよ。僕達がちゃんと後始末をしてあげるから」
伊沢と山杓は苦笑しながら夫人が濡らしてしまった双臀の下の木枕を布で拭き、次にチリ紙を取り出して夫人の排泄の後始末まで丹念に始めるのだった。
「す、すみません」
夫人は伊沢達のそんな行為に対しても声を慄わせて詫びている。
「さて、今度は私達と交代しましょうよ」
春太郎と夏次郎が伊沢達に代って夫人の双腎に早速挑みかかる。
「じゃ、奥様、早速、私達の調教にかかるわ。いいわね」
あれだけたれ流せばもう充分でしょ、などといい、春太郎は木枕に乗せ上げられた夫人の仇っぼい肉づきの双臀を軽く手でさすり上げるのだった。
浣腸、そして、排泄という行為を演じさせられ、まだその高ぶりの余韻が残っている夫人に対し、春太郎はまずアルコールに浸した脱脂綿で夫人の柔らかくふくらんだ菊の蕾を柔らかくマッサージする。
「できるだけ優しくしてあげますからね、奥様。固くなっちゃ駄目よ」
春太郎がそういうと夫人はうっとりした表情で目を閉じ合わせながら軽くうなずいて見せるのだった。
♢♢それから、どれだけ時間が流れたのか、その間、二人のシスターボーイの手でどのように扱われているか、静子夫人はわからなかった。
次から次に脱脂綿をつめられているようであり、それもまた一つ一つピンセットでつまみ出し、直腸が洗浄されているような気がする。
夫人の下半身は次から次と調教されてジーンと痺れ出して綿棒を飲みこまされても別に痛みも感じなかった。
夫人はつとめて平静を装い、この汚辱の調教に耐え切ろうとしている。
綿棒は腸力の汚れを拭いとってすぐに引き揚げられ、また、新しい綿棒が飲みこまされていく。
「どう、奥様痛む?」
時々、春太郎は手を止めて、それでも気がかりそうに薄く目を閉ざしている夫人の端正な頬を指で押すのだ。
「ううん、大丈夫」
夫人はふと目を開き、濡れた美しい瞳にふと媚を含めて春太郎の目を見つめるのだった。
「そんなに素直になってくれるととても調教がやりいいわ」
春太郎は次第に妖艶さが増して来た夫人の容貌を心をうずかせて眺め、微笑した。
ガラス棒が差し入れられる。
それが抜きとられると再び、クリームが塗られて強く揉みほぐすような春太郎の指先だった。
夫人は、熱っぼい喘ぎを見せ始める。
その部分に麻薬のような名状の出来ぬ快楽源がある事を夫人は今、思い知った気分になった。
何か背徳的な陰湿な快感♢♢それに酔い痴れた夫人はもう見栄も体裁もないといった調子で快楽源の甘い果汁を滝のように溢れさせてしまっている。
自分の体の底に穴が開けられつつある、そんな思いが被虐性のうずくような快感ともなり、夫人は小手調べだといってピンポン玉が押しつけられると量感のある見事な双臀をうねらせて自分の方からそれを吸い上げようとするのだった。
夫人がその部分にも粘着性のある吸引力を持っているという事はこれまでの鬼源達の実験でもわかっていたが、こんなに積極的に夫人が調教に協力するのは初めてだったので春太郎は何ともいえぬ楽しい気分になるのだ。
二つから三つ、春太郎は夫人に強引にピンポン玉を含ませていく。
菊の固い蕾は何時の間にか溶けるような柔らかさを持ち、ぽっかりと開花して露にしているのだった。
「ねえ、春太郎さん」
ねっとりと美しい額に脂汗を滲ませながら夫人はうめくように、
「幾つお入れになったの」
と、ハスキーな声を出して聞く、
三つですよ、と春太郎がいうと、
「もう出してもいいでしょう」
と、夫人は黒髪のおくれ毛をねばりつかせた頬を横へねじりながら菊花の筋肉を収縮させて、一つずつゆっくりと吐き出していくのだった。
「いかが、山内先生」
夏次郎は夫人の仇っぼい双臀の間から転がり出たピンポン玉を一つずつ拾い上げ、唖然とした表情の山内を面白そうに見ていった。
「この奥様は後ろを使ってこんな芸当も出来るのよ。どう驚いたでしょう」
すでに静子夫人がそんな芸当を身につけているのを知って山内も伊沢も信じられない表情で、その場につっ立っているのだった。
煉獄に泣く
珠江夫人と静子夫人がようやくおぞましい調教から解放されて、調教室の片隅の檻の中へ投げこまれたのはそれから二時間ばかりもたってからである。
二人は心身ともに疲れ切り、抱き合うようにして檻の中に身を縮めている。
適度に脂肪が乗った乳色の美肌をぴったりと寄せ合い、二人の夫人は骨まで砕け散るような調教の辛さを訴え合うように深く首を落としてすすり泣いているのだ。
「二人とも今日はなかなかがんばったじゃない」
鬼源の報告を受けた千代が順子と一緒に檻の前に立ってせせら笑っている。
「最初は心配したんですが、珠江の方の道具立てもそう悪くはありませんよ。卵の出し入れだけに今日はしておきましたが、明日は卵割りを完全に教えこむ予定です」
鬼源は薄笑いを浮かべて顎をさすっている田代に報告するのだ。
銀子に朱美、そして、春太郎も二人の夫人が閉じこめられた檻を取り囲んで楽しそうにのぞきこんでいる。
「この奥様方の明日の調教予定はどうなっているの」
と、千代が聞くと鬼源は手帖を出した。
「午前中はレスビアンの実演、午後は今日の続きで調教柱に調教ベッド、そして夜は♢♢」
鬼源はニヤリとして、仲のいい姉妹のように身を寄せ合い、互いの肩に額を埋め合って嗚咽している二人の令夫人に目を向けるのだった。
「お互いにニグロとからみ合って頂くぜ。静子はジョー、珠江はブラウンだ」
それを聞くと静子夫人はハッとして顔を上げた。
「待、待って下さい」
滑らかな白い頬にしたたる涙を華奢な指先で拭いながら、夫人は、
「珠江さまを黒人の玩具にさせるなんて、そんな取り決めはなかった筈です」
と、鬼源の方に哀しげな視線を向けるのだった。
檻の中で静子夫人が珠江と身を寄せ合って嗚咽していたのは自分に向けられるし責めの辛さではなく、珠江が受けた屈辱を哀しく思ったからである。自分はもう数々の貫め折檻や淫虐な調教で根本から性の奴隷に変身してしまったが、珠江はまだこうした淫虐な調教に完全に屈伏する事の出来ない心を持っている筈だ。
それを思うと、静子夫人はあまりにも珠江がかわいそうで涙がとめどなく溢れるのだが、今、鬼源はその地獄屋敷に捕われの身となって間もない珠江に醜悪な芸を強制するだけでは飽き足らず、ニグロを使っていたぶらせようとしている。
「静子は黒人とコンビを組む覚悟をしています。そのために春太郎さん達の調教を受けたのじゃありませんか」
静子夫人は涙を滲ませ、柔らかい睫を哀しげにしばたかせながら、恨めしげに鬼源を見上げるのだった。
「何をいってやがる」
と、鬼源はせせら笑った。
「おめえはショーのスターとしてジョーやブラウンとからみ合うための調教を受けているんだぜ。俺がいってるのはこの屋敷へ到着した二人のニグロの接待なんだ。色の真っ白な美人奥様二人で黒人二人に夜の接待サービスをしてやってほしいというんだよ」
つまり、お互いにニグロの一人と一晩一緒に寝てやればいいってわけだ、と鬼源はいうのだった。
「相手はプロの黒人でしょ。それを接待する役はやはりムチムチと脂の乗った人妻二人がぴったりじゃない。それとも美沙江とか美津子とか、若い娘の方がいいかしら。ね、どう思う、奥様」
千代は冷酷な微笑を口元に浮かべながら悲痛な表情になっている檻の中の二人の夫人を見つめるのだった。
「ああ、静子さま」
と、珠江は静子夫人の乳色の柔軟な肩に頬を押し当て奥歯を噛み鳴らしながら啼泣するのだ。
「もう私、どうなってもいいんです。あのようないたぶりを受けた私なんですもの。黒人の嬲りものになったって♢♢」
かまいませんわ、とそれはもう嗚咽で言葉にならず、珠江夫人は自分の覚悟を静子夫人に示すのである。
「珠江さま」
と、静子夫人も涙で声をつまらせながら珠江夫人の優雅な白い肩をひしと抱きしめる。
悲歎にくれる檻の中の二人を千代と順子は小気味よさそうに眺めるのだった。
「それじゃ、これで話は決定ね」
千代はチラと鬼源の顔を見て目で笑った。
「でも、お二人とも、そうして肩を抱き合って、嘆いているのを見ているとまるで本当のレズみたいね」
千代がクスクス笑っていうと、鬼源がふと、何かに気づいたように調教室の片隅へ歩き、棚の上の油紙にくるんだもめを持って戻って来た。
「そら、楽しい玩具が出来たぜ」
つい、さっき技工師が届けてくれたんだといいながら鬼源が油紙をはずすと真ん中に刀の鍔をはめこんだような太くて長い筒具が出て来たのである。
「まあ、凄いわあ」
と、シスターボーイの春太郎が鬼源の手からそれをとってからかうように銀子の鼻先へ突きつける。
「うまく出来てるわね。本物そっくりじゃない」
と、銀子と朱美はキャッキャッと笑って面白がるのだ。
「こういう相対張形ってのは珍品で、作るのに随分と高くついたぜ」
鬼源はそれを手にして鉄格子の間からのぞかせ、一糸まとわぬ優美な裸身を寄せ合っている静子夫人と珠江夫人に見せつけるのだ。
ふと、それに目を向けた二人の夫人はあわてて視線をそらせ、今までぴったり身を触れさせていたのを羞じらうように互いに背を向け合い、縮みこむのだ。
「何も急に照れ合う事はねえじゃねえか」
鬼源はゲラゲラ笑い出す。
「明日はこいつを使って互いにたっぷり楽しませてやるからな。今夜は腰の振り方などを二人でよく相談し合う事だ」
さあ、引き揚げようかと鬼源は奇妙な筒具を油紙に包みこみながら銀子達を見ていった。
今まで檻の周囲を取り囲んでいた恐ろしい連中が引き揚げにかかったので静子夫人も珠江夫人も小康を得たようにほっとした気持になったが、珠江夫人はふと、おびえた顔つきになって、
「静子さま。大丈夫でしょうか。お嬢様は」
と、静子夫人の華奢な白い手を握りしめて声を慄わせるのだった。
「千、千代さん、待って下さい」
静子夫人は調教室から出て行こうとする千代にあわてて声をかける。
「お嬢様の事は私達、安心していていいのでしょうね、千代さん」
切実なものを涙に潤んだ美しい黒眼に湛えて静子夫人はこちらへ振り返った千代の目をおろおろと見つめるのだった。
「ああ、千原家のお嬢さんね」
千代はとぼけた表情で、
「おとなしく地下の牢舎の中に入っておられるわ。もう今頃はお休みになっているんじゃないかしら。きっと、奥様達と生花をしていた頃の夢でも見ているわよ」
といい、今頃、美沙江はあの時造の巨大なものでどのように責められ、どのようにのたうっているか、それを想像して千代は胸がうずくような痛快さを感じるのだった。
「だから、お嬢さんの事は心配しないで早くお休み。明日の朝の調教は早いからね。充分に睡眠をとっておかないと辛いわよ」
千代はそういって鉄格子からこちらを哀しげに見つめている二人の表情をクスクス笑って見返すのである。
千代達がドアを開けて調教室から出て行くと静子夫人と珠江夫人は全身から力が抜けたように狭い檻の中で深く肩を落とすのだった。
♢♢その頃、時造の部屋では♢♢床柱に立位で縛りつけられている美沙江の前に時造は大きくあぐらを組んで坐り、チビリチビリとウイスキーを飲んでいる。
酒気が回って腕の附根から背中一面にかけての小桜姫の刺青が、それこそ桜色に火照り始め、日を充血させて情感の高まりに身を焼かれるような思いになっている時造だったが、底まで冴えるような白磁の美しい美沙江の裸身が美術品のように思われてきてすぐには手が出せないのだ。
抒情味と優婉さを兼ねた硬質陶器のような冷たい美沙江の裸身は時造の目にしみわたり頭の芯まで痺れて来る。
俺とした事が何をもたもたしてやがるんだ、と時造は金縛りに遇ってしまったような自分をじれったく思うのだった。
俺に料理されるのを覚悟してここへ連れて来られた小娘じゃねえか、と時造はグラスに注いだウイスキーを目を閉じて一息に飲み干しながら胸の中でいった。そして、また、酒に濁った粘っこい視線でなめ回すように美沙江の緊縛された美麗な裸身を眺めるのだった。
美沙江は軽く瞑目するように柔らかい睫を閉じ合わせ、柱を背に縛りつけられた裸身を静止させている。
麻縄に固く上下を緊め上げられた白桃に似た柔らかく美しい乳房、その頂点にひっそり息づく薄桃色の固い蕾が何とも可憐で時造の胸をうずかせ、ぴったりと固く閉ざしているしなやかな雪白の太腿も切ないくらい悩ましく時造の胸を緊めつけるのだ。更にその腿と腿との間にさも恥ずかしげな風情を見せて柔らかく盛り上る淡い繊細な茂みは時造を完全な恍惚状態に陥れる。
「おめえ、生花の家元の娘だってな。名前は何というんだ」
俺は岩崎時造というんだ、と時造は自己紹介してからウイスキーグラスを畳に置いていった。
「千原、千原美沙江と申します」
美沙江は固く目を閉ざしながら唇を慄わせ、か細い声でいった。
「年はいくつなんだよ」
「十、十九歳です」
美沙江の白磁の肩先に垂れかかる長い髪が小刻みに慄えているようだ。
美沙江がこちらの質問に対して口をきいた事で時造はようやく心安さを感じ、ゆっくりと腰を上げるのだった。時造のその寒々しい刺青をした体がこちらに向かって近づくのに気づいた美沙江は一層身体を硬くし、頑なに閉じ合わせている腿から脛のあたりがブルブル慄え出すのだった。
「おめえの身体を好きなように料理させてもらうが、いいんだろうね。俺はその事でここの社長にはちゃんと許可をとってあるんだが」
時造は床柱に縛りつけられている美沙江の横に立ち、肩先に垂れかかる黒髪を手にしながらいった。
「私、か、覚悟は出来てますわ」
と、美沙江が強ばった表情になっていったので、
「覚悟が出来ているとは参ったね」
と、時造は苦笑した。
「そんなに固くなっちゃ、こちとらの仕事がやり憎いよ。もっとお互いにリラックスしようじゃないか」
時造は美沙江の象牙色の冷やかな頬にそっと唇を触れさせていった。
酒臭い時造の顔が頬に押しつけられてくると美沙江は悪寒めいたものが背すじに走り、たまらない嫌悪感でカチカチ歯を噛み鳴らした。
「おめえ、男は知らないって事だが、本当か」
時造はガタガタ慄えている美沙江にふと手古ずって柔らかい美沙江の耳たぶに唇をすりつけながらいった。
「どうなんだよ、え、おい」
「知、知りません」
「じゃ、純粋の処女っていうわけだな」
美沙江の煙ったような柔らかい睫は涙でしっとり濡れていた。
「やっぱりそうか」
時造は美沙江のはっそりした形のいい鼻すじゃはのかな香気を匂わせるような優雅な頬を見つめながら、
「俺は随分と女遊びをして来たが、おめえみてえな育ちのいいお嬢さんを女にするのは初めてだよ」
と、いい、何だか気がひける思いだな、といいながらズボンのバンドをゆるめ始めるのだった。
ズボンを脱ぎ、白い晒しを解き出した時造に美沙江は忽ち激しい狼狽を示し出し、真っ赤に頬を染め始める。
「よ、お嬢さん、見な。俺はこんなに凄えんだぜ」
全身、刺青した時造は柱を背にしている美沙江の雪白の裸身の前に仁王立ちとなった。
「おい、見ろよ」
叱咤するような調子で時造はいい、その声の激しさにおびえてチラと時造の指さす個所に目をむけた美沙江はぞっとしたように後手に縛り上げられた全身を痙攣させ、再び、うろたえ気味に目を伏せるのだった。
美沙江の頬も耳たぶも火がついたように真っ赤に燃え立っている。
「お嬢さんのそれと俺のこれ、うまくやっていけるかね」
時造は美沙江のその淡い柔らかな繊毛のあたりに目をそそいだ。
第九十一章 羞ずかしい稽古
ずいき縄
「おい、いい加減に起きないか」
狭い檻の中でたった一枚の薄い毛布にくるまるようにして眠っていた静子夫人と珠江夫人はいきなり声をかけられて、ハッと目覚めた。
桂の中をのぞきこんで片頬を歪めているのは川田であった。
もう夜が明けたのか、と静子夫人は翳りの探い美しい目を調教室の窓へそっと向ける。
小鳥のさえずりが聞こえ、朝の光は窓一杯に差しこんでいた。
今日もまた一日、地獄の調教にのたうたねばならぬのかと静子夫人と珠江夫人は冷たく冴えた頬を川田に見せながらじっと窓の方へ哀しげな視線を向けていた。
「これから当番制になって、朝は俺と吉沢がお前達の面倒を見る事になったんだ」
川田はそういってポケットから鍵を出して檻の鉄の扉を開けた。
「さ、風呂へ入りな。お互いによく下の方を洗っておくんだぜ」
川田は、夫人二人を檻の中から追い出すと調教室の隣になっているバスルームへ入れ、と命令した。
静子夫人と珠江夫人は互いに身を前かがみにし、両乳房と前を片手で押さえながら寄り添って歩き、バスルームへ向かうのだった。
「入洛時間は十分だ。その間に顔を洗い、歯を磨き、急いで化粧をしておくんだぞ」
背後から川田にそう浴びせかけられて夫人二人は小さなバスルームにおどおどしながら入って行く。
三日に一度は奴隷達に入浴させる、という決まりを千代は作っていたのだ。
浴室には手拭も石鹸も歯ブラシも揃っていて、この時だけがふと人間的な心地を味わえる一瞬である。
しかし、川田と森田組の幹部やくざである吉沢が時々、ガラリと浴室の扉を開けてニヤニヤしながら入洛中の二人を監視するのだ。
「どうだい、俺達も一緒に入ってやろうか」
などといい、暖かそうな乳色の光沢を帯びる彼女達の肌を舌なめずりして見つめるのだった。
浴室に備えつけてある化粧品を使って簡単に化粧をすませると、夫人二人はバスタオルで身をくるみながら脱衣場の床にそっと腰をおろした。
これからどのような調教を受けるのか、もう二人にはわかっている。
昨夜、鬼源がチラと見せたあのおぞましい道具を使って、肉体をつながらせ、汚辱と羞恥に再び、のたうたねばならぬのだ。二人の夫人は互いの視線が合うのを恐れるかのように互いに小さく身を縮め合っている。そしてその事にはわざと触れないで、昨夜、見た夢の話などするのだった。
静子夫人は遠山家の庭の芝生で野草の間をヒラヒラと飛びかう白い蝶の夢を見たのだ。
今にこの蝶々が赤や黄色の花の上に止まるだろうと思っているのになかなか止まろうとしない。すると、突然、大地震が起こって遠山家の大きな邸宅がぐらぐらと揺れ出し忽ち破壊されてふと気がつけば、屋敷はまるで廃墟のような惨状を晒け出しているのだった。そのくずれ落ちた煉瓦や石の上に先程の白い蝶がヒラヒラと舞いおりて来て、折りから射しこんで来た夕陽にうつし出され、美に美しく輝いている♢♢そんな他愛のない夢だったが、静子夫人の脳裡にその美しい蝶々の形がはつきりと残っている。
「おい、風呂から上ったのなら、調教室の方へ早く来ねえか」
再び、顔をのぞかせた川田と吉沢がぼんやり床の上に腰を下ろしている二人の夫人に声をかけた。
「珠江さま。これから、私達死ぬより辛い辱しめを受けるかも知れませんわ。どうか、どうか、がまんなさって下さいましね」
静子夫人はしっとり翳りを含んだ美しい目を珠江夫人に注いでいうと、
「わかっておりますわ。私が取り乱しましても、どうか、静子さま笑わないで下さいましね」
と、珠江夫人も哀しげに目をしばたかせて答えるのだった。
「何をもたもたしてるんだ。上流夫人はこれだから困るんだよ」
吉沢は川田の顔を見て苦笑し、脱衣場の中へ入って来ると二人の夫人をせき立てる。
調教室へ入りかけると川田は夫人達の身についているバスタオルをひったくるように取り上げて、
「さ、あそこの柱の傍へ行くんだ」
と、調教柱を指さすのだった。
静子夫人と珠江夫人は一糸まとわぬ素っ裸のまま、前かがみに身を伏せて柱の傍にたどりつく。
珠江夫人は昨夜、卵を下半身で飲みこむという淫虐な調教を受けた柱を目にすると、身慄いして視線をそらせるのだった。
「さ、二人ともそこへ坐って両手を後ろへ組しな」
川田と吉沢は麻縄の束を持ち出して来て夫人達の足元へ無雑作に投げ出した。
川田に命じられるまま、静かに床の上へ膝を折った静子夫人は胸の上に交差させていた両腕を静かに解いて柔順に背後へ廻していくのだった。
「珠江さま。もうなるようにしかならないわ。そう思うより仕方がありませんわ」
静子夫人は行儀よく床に正座し、背中に廻した両手首を重ね合わせながら、チラと蒼ざめた表情になっていを珠江夫人を見て象牙色に冴えた頬に自嘲的な微笑を浮かばせるのだった。
調教を前にして恐怖に硬直する珠江夫人の気持を静子夫人は解きほぐそうとしているのだ。
いかに拒んだとて許してもらえる筈のない調教なれば取り乱さず、むしろ、従容の態度を示した方が救われる事になる、と静子夫人は珠江夫人に一種の奴隷としての見本を示しているといえる。
珠江夫人も彼女にならってその場に膝を折り、乳房を抱いていた白い両腕を背中へ廻して目を閉じるのだった。
そうした二人の従順さを見て川田と吉沢は北叟笑んだ。
「そう素直になってくれると俺達も仕事がやり易いよ」
川田と吉沢はそれぞれ麻縄の束を持って彼女達の背後へ廻り、背すじの中程に重ね合わせている華奢な二人の手首にキリキリ麻縄を巻きつかせていくのだ。
形のいい二人の夫人の乳房の上下にも二巻き三巻きと麻縄がかけられていき、しかし、二人は揃って固く目を閉ざし、肌身に喰いこむ縄の感触をじっと噛みしめるような風情で何の砥抗も示さなかった。
二人の令夫人をかっちりと後手に縛り上げた川田と吉沢は、すっかり観念したような二人の端正な横顔が高雅な美しさに冴えて見えるのをほくほくした表情で喜び、
「じゃ、次に股縄をかけるからな」
と、ポケットから植物の繊維でよじってあるらしい白っぼい縄をつかみ出したのである。
「こいつをレズショーの稽古に入る前に二人にかけてくれと鬼源に頼まれたんだ。ずいきで作った股かけ縄だよ」
こいつで股をきつく緊められれば急所のあたりがむずむずし始めて数分後にはじっとり濡れてくる筈だ、と川田は愉快そうにいうのだった。
「お互いにこいつで気分が出てきた所で女同士のからみ合いを演じて頂こうというわけだよ」
川田は、ずいき縄というそのささくれ立った繊維の紐を静子夫人と珠江夫人の気品のある鼻先に近づけ、からかうようにプラブラさせて見せるのだ。
珠江夫人の顔は恐怖と羞恥に歪み、行儀よく二つに折り曲げている膝のあたりも慄え出しているのだが、静子夫人は情感的な翳のある頬を冷たく硬化させたまま、何の狼狽も示さず、空気でも見つめるように澄んだ美しい瞳を前に向けているだけだった。
「よし、それじゃ、こちらの奥様から股縄をかけさせて頂こうか」
川田は静子夫人の平然とした表情が小憎たらしくなったのか、夫人の前に身をかがめると、そのずいき縄を器用な手つきでしごき出し、大きな結び目をこれ見よがしに一つ作り上げる。
「もっと効果的にしてやろうか、え、奥さん」
川田は吉沢の差し出すクリーム瓶を受け取ると、今、作った結び目の上にその得体の知れぬクリームを指先でたっぷり塗りつけるのだった。
「川田さん」
静子夫人はそんな行為を楽しそうに続けている川田を侮蔑するように冷たく整った頬に皮肉っぼい冷笑を軽くそよがせて、
「そこまで私達に奉仕して下さらなくても、二人であなた方のお望みの行為は演じますわ。ねえ、珠江さま」
と、いった。
「まあ、そういうなよ。せっかくこうしてずいき縄を用意してやったんだから」
川田は静子夫人のそうした皮肉っぼいものの言い方やふと開き直ったような態度が気に入っている。
以前は暴力行使者のおどしで蒼ざめたり、慄え上ったりまた、必死になって哀願をくり返していた夫人だったが、今は風雪に耐えて来た果実が次第に成熟の度を加えて来たように性の奴隷になり一種の貰禄がつき始めているのだ。
時として静子夫人が妖婦的な婀娜っぼさを発揮させると川田はこの令夫人もここまで成長したかといった満足感を持つのである。
「さ、腰を上げて、少し足を開きな」
川田は吉沢と一緒に静子夫人の乳色の肩に手をかけ、上体を起こさせる。
「うん、嫌、嫌よ」
夫人はわざと川田をじらせるように膝で中腰になったが、官能味のある腿と腿とをおり合わせるようにして股縄をかけようとする川田に甘くさからうのだった。
「こいつ」
川田は夫人の婀娜っぼい肉づきの見事な双臀をぴしゃりと平手打ちして腰のあたりに二巻きばかり繊維の縄を結びつけると、余った縄尻を吉沢と一緒にあせり気味で前の方から股間にくぐらせていく。
「さ、どうだ」
夫人の股間をくぐった縄は背後から川田にたぐられて量感のある双臀の婀娜っぼい割れ目へ痛々しいばかりに喰いこんでいく。
「駄、駄目ですわ。せっかく作った結び目が♢♢」
と、静子夫人は嗜虐的に扱う川田に対し、被虐的に対抗するように縄の結び目が急所の的を外している事を川田に教えるのだ。
「おっと、ごめん、ごめん」
川田と吉沢はあわてて股縄のかけ直しにかかると、夫人は白い臈たけた頬に垂れかかって来たおくれ毛を首を振ってはね上げ、挑みかかる気でさらに膝を割り開く。
露に白い内股を開き、川田と吉沢のするがままに股縄をかけさせている静子夫人の歯を喰いしめた凄絶な表情を珠江夫人は唖然とした顔つきで見つめているのだった。
口愛訓練
調教柱に縄尻をつながれて静子夫人と珠江夫人は互いに肩を寄せ合うようにし、その場に正座している。
二人ともかっちりと後手に縛り上げられている裸身を時々、腰を宙に浮かせるようにしてもじつかせているのだが、それは腿と腿との柔らかい媚肉の間に強く喰いこんでいる淫らな縦縄が原因だった。
それはずいき縄といって、ずいきの繊維をよじり合わせて作ったささくれ立った縄で二人は羞ずかしい股間縛りにされていたのである。
「少ししたら痒くなるが、辛抱しな。後でこいつを使って互いに慰め合えるわけだからな。痒さがつのればつのる程、熱烈に愛し合えるというわけさ」
川田はもじもじ腰のあたりをもじつかせている二人の令夫人の眼前に相対張形を見せつけてニヤリと笑っている。
珠江夫人は川田の示したそれからあわて気味に目をそらせ羞恥の紅を顔面に散らせながら静子夫人の乳色の艶っぼい肩先に顔を押しつけていくのだった。
まるで仲のいい姉妹のように緊縛された一糸まとわぬ素っ裸を寄せ合い、身を縮め合っている両夫人を川田と吉沢は頼もしげに見つめている。
「お早よう」
と、千代の声がし、川田と吉沢はドアの方を振り返った。
紬の普段着を着た千代と派手な横縞模様のワンピースを着た順子が連れ立って来たのだ。
静子夫人の最も恐れている千代と珠江夫人を最も憎んでいる順子♢♢この二人が肩を並べてやって来たのだから、二人の美しい令夫人は股間縛りにされた柔媚な裸身を一層、縮みこませ、恐怖のおびえを分かち合うようにぴったり肩と肩を寄せ合うのだった。
「まあ、そんな所にまで縄をかけられちゃったの、奥様」
順子は美しい両夫人の成熟した両腿の間にねじり合わされた二本の細い縄が喰いこんでいるのを見て目を瞠る。
縦に縄を喰いこませている官能味のある両夫人の双臀と腰のあたりは時々小刻みに慄えるのだが、それは媚薬クリームを塗られたずいき縄の効力によるものだと川田に聞かされると、順子も千代も、
「なるほどねえ」
と、おかしそうな表情でうなずくのだった。
「そんなものをそこへ緊められちゃたまらない気持でしょうね。一度、私達だってそんないい気分に浸ってみたいものだわ」
千代はそういって順子と顔を見合わせ、キャッキャッと笑い合う。
静子夫人と珠江夫人はそんな千代達のからかいを無視して綺麗な睫を固く閉じ合わせながら滑らかな冷たい頬を見せているのだった。
千代は静子夫人の臈たけた美しい象牙色の横顔と珠江夫人の繊細な細面の横顔を交互に見つめながら、持ち前の冷酷で残忍な微笑を片頬に浮かべるのだ。
「この奥様方、朝のジュースはもうお飲みになったの」
ふと、千代は川田の顔に目を向けていった。
「いや、これからなんだが」
「そう。私達、それを一寸、見物に来たんだけどね。順子さんに一度、見学させてあげようと思ったのよ」
それを耳にした静子夫人は何ともいえぬ哀しげな表情になって千代を見上げるのだった。
何時だったか、美容のためにという鬼源の提案で静子夫人は川田や吉沢達に汚辱の溶液を毎朝、飲まされた時期があった。腐ったチーズとも蒸れたバターともつかぬその異臭に嘔吐にも似た嫌悪感で静子夫人は気が変になりかけた事があったが、馴れ♢♢というものだろうか、何時しかそれに順応する女奴隷に静子夫人はなり果ててしまったのだ。
その朝のジュースを千代は復活させたいといい出したのである。勿論、千代と順子の狙いは珠江夫人も静子夫人ど同様、順応する事の出来る心と身体に仕上げようとしているわけだ。
自分はとにかく、珠江夫人にまであんな汚辱の思いを味わわせるなど、千代の冷酷さに静子夫人は慄然としたものを再び感じるのだ。いくら、哀願したとて、一旦、自分の思いついた事を変更させるような千代ではない事も静子夫人はわかっている。
「どうしたの、静子奥様。何か私にいいたい事でもあるの」
と、千代は夫人の哀しげな翳りを含む切れ長の瞳を見据えて面白そうにいうのだった。
無駄とは知りつつ、静子夫人はほのかな香気が匂うような柔媚な顔を千代に向けて、
「あのような事を珠江さまに強いるのは、あまりに残酷ですわ。私達、身も心もこうして奴隷になって、千代さんのいなりになっているのです。これで充分じゃありませんか」
その皮肉っぼいものの言い方が千代の頭にきたらしく、
「これで充分とは何よ」
と、忽ち、けわしい表情になるのだった。
「ちょっと、よくそんな口がきけるわね」
と、語調をかえて千代は腰をかがめると光沢を帯びた静子夫人の肩をどんと手で押すのだった。
すると、珠江夫人が後手に縛られたしなやかな白磁の裸身をのめらせて静子夫人を背に庇うようにし、涙の滲んだ柔らかい睫をしばたかせながら千代を見上げる。、
「私の事をもう庇ったりなさらないで、静子さま」
と、珠江夫人は背後の静子夫人に哀しげな声をかけてから千代に向かって、
「私、もう覚悟しておりますわ。どのような拷問でもなさって下さい」
と、いい切ったのである。
珠江夫人の背面で静子夫人は小さくすすり上げていた。
遂に珠江夫人も自分と同様、これらの悪魔達の前に屈伏し、性の奴隷として完全に今までの自分を切替えねばならぬ到達点に来たのだ、と心臓が緊めつけられるような思いになったのである。
「拷問だなんて、そんな大げさなものじゃないわよ」
千代はクスクス笑いながらいった。
「美容のため、これから朝食の前に男性のホルモン・ジュースを飲んで頂く。ただ、それだけの事じゃないの」
珠江夫人はようやくその意味がわかってひきつったような表情になる。
「珠江奥様は当分、鬼源さんが飲ませて下さるそうよ。静子奥様と違ってあなたはまだ、そのコツはよくわからないでしょう。だから最初は指導してもらった方がいいんじゃない」
千代がそういうと、珠江夫人はすっかり蒼ざめた表情になり、ぴったり揃え合わせている膝頭をブルブル慄わせているのだ。
「もうそろそろ鬼源さんもここへ来る筈だけれど」
千代は腕時計に目をやってから、思い出したように着物の袂から油紙に包んだものを取り出して川田に渡した。
「今晩、この奥様方がお相手する黒人のサイズだそうよ。お二人のそのおしとやかなお口に合うかしらね」
今夜のために一応それでおしゃぶりの稽古をさせてみてくれ、と千代はいうのだ。
川田が油紙を開くと、特殊なゴムで加工されたらしい反りのある筒具が二本現われる。二つとも男性のそれを型どったものでいかにも黒人のそれらしく巨大なものであった。
「成程ねえ、こりゃ凄えや」
川田と吉沢はそれを手にしてゲラゲラ笑い出した。
「鬼源さんのホルモンを頂く前に一度、それでおしゃぶりの練習でもなすった方がいいじゃない」
千代は恥ずかしい股間縛りにされている珠江夫人の優雅な肩先を指で突き、次に深く首を垂れさせている静子夫人の艶やかな背中に手をかけると、
「その要領はベテランの静子奥様が教えて上げればいいわ」
と、楽しそうにいうのだった。
「よし、じゃ、稽古してみようか」
筒具の柄にブラウンと黒人の名が書かれている方を吉沢に渡して、川田はもう一つの筒具の先端を布でよく拭きながら静子夫人の横に腰をかがめるのだ。
ガクガクと小刻みに慄えている珠江夫人の左右には吉沢と順子が腰をかがめ、その華奢な肩先に両方からねちっこく手をからませている。
「さ、奥様。おしゃぶりのお稽古よ」
と、順子は、おびえて氷のように冷たい表情になっている珠江夫人の横顔を何ともいえぬ小気味よさで見つめるのだった。
股間縛りにずいき縄で急所を緊めつけられ、そして、黒人のそれを唇で愛撫するための練習を強要される哀れな貴婦人♢♢千原流華道の後援会長であった折原珠江をここまで転落させてやったという胸のすくような思いで大塚順子は身内が慄える程の高ぶりを感じ出しているのだった。
珠江夫人の肩先に片手をからませた吉沢が男性のそれを型ビった筒具を、「そら、しゃぶってみな」と、唇に近づけると、夫人は忽ち顔面を紅潮させ、さっと反対側に顔をそむけるのだった。
「駄目じゃないの、奥様。黒人はとてもそれを悦ぶといいますわよ。本番は今夜なんですからしっかりお稽古しておかなきゃ」
順子は初々しい程の羞じらいを見せて筒具より顔をそむけようとする珠江夫人の頬を手にする。
一方、静子夫人の左右に腰をかがめている川田と千代は珠江のような狼狽は示さず、冷たく冴えた端正な顔を俯向き加減に伏せている夫人を頼もしげに見つめている。
「ね、あなたがお手本を示してあげなさいよ」
と、千代がチラと羞じらいに悶えている珠江夫人の方を見てからいうと、川田が、筒具で静子夫人の高貴な感じの鼻すじを軽く押すのだ。
「お前さんが先輩としてコーチしてやるんだ。どんなふうにして舐めさすりすりゃ、男が悦ぶか、それが一番わかっているのはお前さんだからな」
川田がせせら笑ってそういうと、静子夫人は抗し難い悪魔の命令を受けた心地で哀しげにうなずいて見せるのだった。
「珠江さま。私達は性の奴隷なのです。娼婦になったつもりで羞じらいを捨てなければなりませんわ」
と、声を慄わせていうと、
「ね、私のする事、よく御覧になって」
静子夫人は川田に鼻先まで押しつけられている筒具に花びらのような唇をそっと触れさせていくのだった。
「そら、静子夫人が実演して見せてくれているぜ。よく参考にするのだ」
と、吉沢は珠江夫人の赤く染まった頬を両手で押さえて無理やり静子夫人の方に向けさせるのだった。
珠江夫人が半分ベソをかいたような表情をこちらに向けさせられると静子夫人は、
「いい、珠江さま。こんなふうに最初は何度も舌を使って♢♢」
と、くなくなさすりつけていた唇をそっとそれから外して今度はわずかに舌をのぞかせると、その先端をゆっくりと舐めさすり出したのだ。
珠江夫人にこのような舌先の愛撫を教えなければならぬ苦悩と恥ずかしさに夫人の柔媚な頬も真っ赤に上気している。しかし、これから鬼源を相手にその汚辱の液を飲み乾すため、汗みどろの努力を強制される珠江夫人の事を思うと相手の自失を早めるためこの技巧を珠江にすぐ覚えさせねばと思うのだった。
男に緊張状態が訪れなければ、この悲惨な行為を珠江夫人は長時間続けなければならないのだ。それがいかに辛い、恐ろしい作業であるかという事を静子夫人は知っている。
唇と舌先だけを使って男をリードし、極限にまで持っていって一気に放出させなければならぬ朝の日課♢♢果たして珠江夫人がその酸鼻な作業に耐え得るだろうか、いや、耐えさせねばならぬのだ、と静子夫人は次第に激しく舌先を動かせながら、悲壮な気分になっているのだった。
「ね、珠江さま、よく見て。こんなふうに♢♢」
静子夫人は時々、チラと珠江夫人の方に哀しげな眼差しを向けて注意をうながすようにし、再び、象牙色の頬を赤く染めながら、更に積極的に舌先を責具の先端から柄にかけて這わせていたが、溜息のような吐息と一緒に薄く唇を開いてそれを柔らかく押し包み出したのだ。
「さ、大体の要領はわかったろう。珠江奥様も始めてみな」
全身が痺れ切ったように筒具に熱っぼい口吻を注いでいる静子夫人をぼんやり見つめていた珠江夫人は吉沢に催促されて、ふっと我に返った。
「何をぼんやりしているんだ。さ、静子が教えてくれた要領でしっかりやりな」
珠江夫人は吉沢が押し当ててくる筒具にわなわな慄える唇をおずおずと触れさせていった。
静子夫人はまるで無我の境地に落ちこんだようにうっとりと目を閉ざし、川田の押し出す筒具での調教に火照った頬を振り動かしている。
朝の飲み物
鬼源が調教室に入ってきた時には、二人の令夫人は放心忘我の状態で筒具を深く口に含み、舌先をからませてしゃぶり合っていた。
「ね、鬼源さん。割にうまくなったでしょ。見て」
順子はクスクス笑いながら筒具を舐めさすっている珠江夫人の裸の肩をさすりながらいった。
鬼源は黄色い歯を見せてニヤリと笑い、順子と吉沢に肩を支えられている珠江夫人の前に腰をかがめる。
静子夫人も珠江夫人もそんな行為を演じているうちに、だんだんと身体の熱が高ぶって来たのか縦縄をかけられた腰部を共にモジモジと揺さぶり合っているのだった。
「そんな生っちょろいしゃぶり方じゃ、黒んぼは承知しないぜ」
鬼源は吉沢の手から筒具をとると、
「そら、静子の方を見ろよ」
と珠江夫人の上気した頬に指を当てて隣を向けさせた。
静子夫人は没我の状態になって固く目を閉ざしながら太い筒具を口一杯に頬張り、艶々しい黒髪を揺さぶりながら火照った顔を激しく前後に振り廻している。その度に、ウム、ウム、と哀しげなうめきを上げ、静子夫人はこの調教のペースに乗せられた形で何のためらいも示さず、積極的に振舞っているのだった。
「あの調子でやらなきゃ駄目だ」
鬼源はいきなり珠江夫人の艶やかな首すじに片手をからませ、責具を紅唇へ強引に押しつけていく。
珠江夫人の柔らかい唇は大きく開いた。
「大きく舌を出して舐めるんだ」
珠江夫人は美しい眉根をギューとしかめながら鬼源に命じられるまま、その先端に舌を押し当てる。
「もっと激しくやれ。犬みたいにペロペロやるんだ」
鬼源は叱咤するようにいい、珠江夫人の唇に含ませている筒具をゆさゆさと動かせるのだった。
やがて珠江夫人は鬼源に一種の催眠術をかけられたように何時の間にか没我の状態に陥って、鬼源の指示通り、吸い上げたり、舌をからませて舐めさすったりをくり返すようになった。
「さ、相手を追いこむんだ、ピッチを上げろ」
と、鬼源にせき立てられると、静子夫人と同様、頬をふくらませてそれを深く含み、激しく頭を前後に揺さぶり始める。
「ほら、中々、うまくなったぜ」
ようやく、その唇と舌との練習から解放された珠江夫人と静子夫人は筒具を同時に吐き出すと、フウと大きく息をついた。
チラと静子夫人と視線を合わせた珠江夫人は揺らぐような羞じらいの色を見せて、あわて気味に赤らんだ顔を伏せるのだ。
そんな珠江夫人を見て順子は薄笑いを浮かべながら、
「なかなか素質がおありじゃないの、奥様。御主人にもそんなサービスをなさっていたわけね」
と、からかい、消え入るようにうなだれていを珠江夫人の白磁の肩を揺さぶるのである。
「よし、じゃ、コツがわかった所で早速、本物をしゃぶらせてやるぜ」
鬼源は腰を上げて、川田の顔を見た。
「静子の方はあんたが御馳走してやるんだろ」
「ああ、他の男より俺のが一番おいしいと静子がいうのでね」
鬼源と川田は声を揃えて笑い合っている。
じゃ、支度にかかるかと、鬼源と川田は連れだって調教室の隅へ行き、鼻唄をうたいながらズボンのバンドをゆるめ始めるのだ。
千代と順子、それに吉沢の三人も腰を上げて鬼源のそばへ行き、何か楽しげにヒソヒソ語り合ったり、急にふき出したりしている。
静子夫人は部屋の一隅にかたまって談笑している悪魔と鬼女のグループを物哀しげな眼差しで見つめていた。
珠江夫人はもう顔も上げ得ず、深くうなだれたまま、小さくすすり上げている。今の汚辱の調教で再び、珠江の心は無残に引き裂かれたのに違いないと、静子夫人は打ちひしがれている珠江を見ると自分の事は忘れておろおろし、胸がつまってくるのだ。
しかし、悪魔達は追い打ちをかけるようにこれから汚辱の極限を珠江夫人に味わわせようとしている。それに耐え得る力を珠江夫人に与えなければと静子夫人はシクシクすすり上げている珠江夫人を見てあせりのようなものを感じるのだった。
「珠江さま。これしきの事でメソメソなすっちゃ駄目ですわ。これから私達はあの悪魔達の汚物を♢♢」
舌で受けなければならない、とはあまりにも残酷で静子夫人はさすがにそこまで口に出せなかった。
「わ、わかっていますわ、静子さま」
珠江夫人は深く頭を垂れさせたまま、声を慄わせていった。
「どこまで自分がみじめになっていくか、私、それを見極めたいような気持になってきたのです。もう、私、どうなったってかまやしない」
珠江夫人はひきつった声で自棄気味にそういうと、やっと顔を上げ、涙のしっとり潤んだ翳りの深い眼を静子夫人に向けて無理に微笑を口元に作ろうとするのだった。
そんな珠江夫人の表情を見て、静子夫人はふと救われたような気分になる。
急に調教室の片隅で千代達の笑い声がまき起こった。
シャツ一枚で下半身だけ裸になっている不様な鬼源と川田を見て千代と順子が笑いこけているのだ。
「そうゲラゲラ笑うなよ。照れちゃうじゃないか」
川田は苦笑して壁に添った二つの椅子の一つに腰をかける。
もう一つの椅子には鬼源が坐り、川田と一緒に腿を割って、自分達の股間のそれを笑いながら見くらべているのだった。
「ジョーとかブラウンにくらべりや、見劣りするが、なかなかどうして、大したものだろう」
鬼源は吉沢の方に腰を押し出し、誇示していった。
千代と順子は口に手を当ててキャッキャッと笑いこけている。
「それじゃ、そこの美しい奥様方、こっちへ来て頂こうか」
鬼源は調教柱に縄尻をつながれている二人の令夫人に向かって声をかけて来たのである。
「珠江さま、こんな事をお教えするなんて恥ずかしいけれど♢♢」
静子夫人は、自分達の縄尻を柱から外すためこちらへ吉沢がやって来たのに気づくと、あわて気味になって珠江夫人に声をかけた。
「汚物を舌に感じさせず一気に飲みこんでしまうのです。その方がかえって楽ですわ」
舌に残さず、すぐに胃に流しこんだ方がたまらない男の臭気から逃れる事が出来る、と静子夫人は珠江のその時の狼狽を少しでも柔らげるため、思い切って処理の方法を教えるのだった。
珠江夫人も緊張した表情でうなずいている。
吉沢が来て、二人をつないだ縄尻を柱から外すと、千代と順子もやって来て、二人の縄尻をとって引き起こした。
「さ、お二人とも朝の御馳走をたっぷり頂かせてあげるわ」
静子夫人の縄尻をとって、すっくとそこに立った上背のある優美な夫人の背中から腰にかけての曲線をしげしげ見つめた千代は、むっと盛り上った豊かな夫人の双臀に喰いこんでいる縦縄を見て、フフフ、と笑った。
「濡らしちゃってるじゃない、奥様」
千代にそう声をかけられた静子夫人は頬を赤らめて目を伏せた。
「あら、こっちも」
珠江夫人の縄尻をとる順子も夫人の半球型の形のいい双臀に喰いこむずいき縄がしっとり潤んでいるのを見てわざと頓狂な声を上げるのだった。
耳たぶからうなじまで真っ赤に染めて珠江夫人はモジモジ身を慄わせている。
ふと、身を動かせばそれにつれて秘裂にまで喰いこんで来るずいき縄は樹液を秘裂に沁み込ませ、切なさを伴った甘い快感を二人の令夫人に与えつづけていたのだ。
それに加えて筒具を口に咥えさせられる汚辱の調教♢♢その屈辱感が倒錯した異様な被虐性の快感を呼び起こし、不覚にも股縄の刺戟を一層、鋭敏に感じてしまった両夫人であった。
「まあ、お行儀の悪い奥様だこと」
千代と順子はすでに縦縄を生暖かく、しとどに湿らせてしまっている二人の令夫人に気づいて嘲笑するのだった。
「よし、それじゃ、その縦縄を取りかえて、かわりに鈴縄をかけてやれ」
椅子に坐っていた鬼源がついと立ち上ると、棚の上に乗せてあった鞄を取った。
鞄の中から鬼源は細い銀色の鎖を二本とり出したが、その鎖の中程にはピンポン玉ぐらいの特殊な合金で出来ているらしい銀色の玉がとりつけてある。
静子夫人は線の綺麗な滑らかな頬を哀しげに伏せてそれから目をそらした。
今度はそれを股間に通す気なのか、一体、どこまでこの男は淫虐な方法を思いつくのだろうか、と静子夫人は鬼源という調教師の底知れぬ恐ろしさを今更ながら感じるのである。
珠江夫人は新たな恐怖を前にしてブルッと腰のあたりを慄わせながら、静子夫人の裸身に身をすり寄せてくる。
「静子さま、今度は私達、あれを♢♢」
股間に通されるのですか、と珠江夫人はおびえた表情になって声を慄わせるのだ。
「そうよ、珠江さま。こうなれば、お互に捨針になりましょう。もう泣いてもわめいても、許してもらえる筈はないのですから」
静子夫人は新たな汚辱感にうちひしがれ、自分の胸に顔を埋めて嗚咽する珠江夫人を励ますようにそういうと、自分もまた珠江夫人の黒髪に頬をすり寄せていくのだった。
第九十二章 淫風地獄
純潔散る
時造は俺の今までの人生でこれ程の感激を味わった事があったか、と頭の芯まで酔わされた気分でぼんやり畳の上に丸裸を坐りこませている。
すぐ前の夜具の上では同じく一糸まとわぬ素っ裸の美沙江が後手に縛られたまま額を押しつけて泣きじゃくっているのだ。
背中にまで垂れるような長い髪の毛はシーツに広がり、華奢でしなやかで透き通るような色白の裸身を俯せにしながら断続的にすすり上げている美沙江を先程から時造は飽きもせず、ぼんやり眺めている。
艶やかな白磁の背中の中程で、かっちりと縛り合わされている美沙江のガラス細工のような華奢な手首が、美沙江の嗚咽と一緒にフルフル揺れているようで何とも痛ましい感じがするのだが、それを時造は美しい花を前にしたように恍惚とした表情で眺めているだけだった。
深窓の令嬢を女にした、という感激が白いシーツに散乱する赤い血を見てようやく実感として追ってくると時造は不可思議な悦びと同時にうしろめたさのようなものを感じるのだった。
とにかく、女にしてやってくれ、と田代に頼まれ、美沙江と初めてこの部屋で引き合わされた時は、あまりにも清楚と優雅さとを兼ねた美女だったので時造は一瞬、金縛りに合って身動きも出来ない状態になった。
素っ裸の美沙江を縄つきのまま、この部屋に置いて田代や森田は引き揚げ、時造は美沙江と二人きりの水入らずになったのだが、実際何から手をつけていいか、わからないという気分だったのである。
あれから、一体どのようにしてこの美貌の令嬢を追いつめ、女に仕上げたか♢♢時造はすぐには思い出せぬ程、高ぶった神経になっていた。
卓の上のビールをとってコップに注ぎ、それを一息に飲み干した時造は昨夜からの事をたぐるように思い出してみる。
美沙江はここへ連れこまれる前からすっかり諦めていたらしく、柱から縄尻を解かれ、緊縛された裸身をそのまま時造に横抱きにされ、夜具の上に運びこまれても死んだように目を閉ざしたまま、大して狼狽は示さなかった。
仰向けに夜具の上へ寝かされた美沙江はまるで俎に乗った鯉のようにすっかり観念して抒情的な長い睫をひっそり閉じ合わせ、身動き一つ示さなかったのである。
時造はぴったりと美麗な両腿を固く閉ざしたまま、蒼ずむ程に白く貯えた美しい裸身をそこに仰臥させている美沙江をしばらく息をつめたまま凝視していた。
麻縄を二巻き三巻き、その上下にきびしくかけられている白桃に似た美しい乳房や象牙色に艶々輝く鳩尾から腹部に目を這わせた時造は、そのどこか幼なさを感じさせる淡くて柔らかい繊毛のふくらみを見て全身がすっかり痺れ切る。
深窓の令嬢、高嶺の花、そして、処女♢♢そんな言葉が時造の熱を帯びた頭の中にグルグルかけ廻るのだ。
今までほとんど商売女しか相手にしてこなかった時造にとってこの獲物はあまりにも貴重過ぎる。この気高い美術品に似た純潔の乙女をむさぼり尽していいのだろうか、と怖気が出てくる。
時造は商売女を悦ばせるため、自分のそれに手術してベアリング玉を縫いこんでいるのだが、馬鹿な真似をしたものだ、と硬質陶器のような冷たい優雅さを持つ純潔の乙女を前にして思うのだった。何もそんなにこの令嬢に気を使う必要はない。俺は遊び人だ。相手が御令嬢だろうが処女だろうが、俺は性欲の満足を得ればそれでいいのではないか、と時造は腹に力を入れ始めた。
処女を賞味する。これは満更、悪い気分のものではない。時造は自分を大いに満足させるべく、残忍な心を自分にけしかけて寝巻の紐をつぎ合わせるとそれを夜具の下へ差し入れた。これから美沙江の下肢を割り裂かして縛りつけ、処女の宝庫をじつくり観賞してやろうと時造は考えたのである。
わざと突っけんどんな言い方で、象牙色の頬を薄紅く染めたまま目を閉じている美沙江に、
「よ、股をおっ開きな、お嬢さん」
といい、時造は鞭のように固く緊まった美沙江の雪白の太腿に手をかけたのだ。
下肢を割り裂かれようとするとさすがに観念し切っていた美沙江もさも辛そうに美しい眉根をしかめ、ぴったり重ね合わせていた美麗な両肢に力を入れるのだった。
「どうしたんだよ。一切、覚悟してここへ来たと自分の口でいったじゃないか。お嬢さんの処女をくわしく観賞させて頂きたいんだ」
「ああ、堪忍して下さい」
裸身を慄わせて美沙江が遂に悲鳴とも哀願ともつれぬ声をあげると、時造もようやく自分にも調子が出て来た感じで、
「今になってガタガタぬかしやがると只じゃおかねえぞ」
と、がなり立てるのだった。
そして、こんなふうに居丈高になる方が自分にぴったりで何かしこりがとれたような気分になる時造であった。
「股を開けろといってるのがわからねえか」
時造はブルブル慄わせている美沙江の雪白の太腿をピシャリと平手打ちする。
それで全身から力が抜けてしまった美沙江の陶器のように冷たい脛のあたりに時造は手をかけ、一気に左右に割り裂かせてしまったのだ。
「あっ」と美沙江は真っ赤に頬を染め、長い黒髪を風にたなびかせるように左右へ振り回した。
夜具の下へ通した額巻の紐に美沙江の繊細な細工物のような足首をそれぞれつなぎ止め人の字形に晒してしまった時造は、
「それじゃお嬢さん、これからゆっくり時間をかけて料理させてもらうからな」
といい、華奢で優雅な裸身をひきつらせながらシクシクと嗚咽の声を洩らす美沙江の横へゆっくり添い寝していくのだった。
時造の全身に刺青した丸裸が横にすべりこんで来ると美沙江はうろたえ気味にさっと顔を反対側にねじ曲げた。
美沙江の象牙色の頼はバラ色に染まり、耳たぶまでが真っ赤に上気している。
「何もそう俺から顔をそむける事はないじゃないか。こっちを向きなよ」
時造は美沙江の白い顎に手をかけて無理やり自分の方へ向けさせる。
美沙江は美し心細い眉根を苦しげにしかめ、恐怖の慄えで歯をカチカチ噛み鳴らしていた。
「こわいのかい、そんなに」
時造は美沙江の赤く火照った頬に軽く接吻し、麻縄に緊め上げられているまだ完全に熟し切っていない可憐な乳房にそっ」掌をのせていった。
「うっ」
と美沙江は引き緊まった優雅な顔を一層、苦しげに歪めて開股に縛りつけられた下肢をくねくねとよじらせる。
「女と生まれたからにゃ、何時かはこうして散らなきゃならないんだよ」
などと時造はいい、美沙江の恐怖心と羞恥心を早くとり除いてやるため、秘術を尽して乙女の肉体を溶け崩そうと努力するのだった。
熱気を帯びた美沙江の耳たぶを羽毛のように軽く唇でくすぐったり、艶やかな喉首から首すじのあたりに熱っぼい接吻を注ぎつづけたり、それから麻縄に緊め上げられている溶けるような柔らかい乳房を優しさをこめてゆっくり掌で揉み上げながら、その頂上の可憐な乳頭に舌先を押しつけたりしている。
まだ性に対しては無知な、というより気質的に嫌悪を示す筈の令嬢に対し、時造は彼の身につけた技巧を充分に発揮し始めたのである。
「ああ、お、おばさま♢♢美沙江を許して」
美沙江はやがて声を慄わせてすすり泣き出し、熱病に冒されたうわ言のようにうめくのだった。こんな男に純潔を与えねばならなくなった自分をどうか叱らないで、という悲痛な気持でふと脳裡に浮かび上った静子夫人と珠江夫人に許しを求める美沙江だったが、そのおばさま達も今頃はきっと今の自分より辛い苦しい思いを味わっているのだと思うと美沙江はとめどなく涙があふれ出て来るのだった。
時造はまだ美沙江の肉体が酔い痴れる所にまでは来ていないと悟ると、ふと、あせり出し、遮二無二、美沙江の乳房に接吻の雨を降らして掌を移行さし、優雅な光沢を持つ鳩尾から腹部のあたりを撫でさすり出した。そして、そっと上体を起こすと可愛い腰の窪みに接吻し、更に左右に割り裂かれた美麗な両肢を愛撫し始める。
時造は美沙江の伸びたり縮めたりさせている品位を帯びた繊細な足の指から接吻し始めたのだ。
「ああ♢♢」
美沙江は最初はただ、時造のするがままに身を任せて必死になって無感動を装っていたのだが、ようやく甘い切ない感覚を時造の手管でひき出され、熱っぼい喘ぎを洩らすようになってきた。
どこが、女の弱点かという事は少し愛撫すれば時造には自然にわかってくる。
美沙江の乳頭がかなり敏感だと知って時造は唇を押し当て、柔らかく歯型を入れながら充分に愛撫し、そして切なげなよじりを見せ始めた線のなよやかな下肢に矛先を変え始めると美沙江は遂に時造の術策にかかって喜悦のすすり泣きをはっきり洩らすようになったのだ。
足首を舌で愛撫し、更にそれからぐっと削いだような優美な線を持つ脛から膝頭のあたり、そして、固く引き緊まった雪白の太腿にまで唇と舌で執拗な愛撫を注ぐと、美沙江は絶え入りそうな鼻息を洩らして、後手に縛り上げられた上半身と開股に縛りつけられた下半身とを狂おしく悶えさせるのだった。
時造は美沙江の太腿に押しつける唇を徐々に上方へ這わせていく。
時造の唇が腿の附根のあたりまで近づくと、美沙江の甘い嗚咽の声は一段と激しさを加え始めた。ふと、時造は顔を起こした。
そこは開股のあられもない姿態に縛りつけられているため、夢のように淡い美しい繊毛はその底の禁断の美麗な女体まで露に晒け出している。
全身が息づまって来た時造はもう押さえがきかなくなり、いきなり唇を押しつけたのだ。
「あっ」と美沙江は火のような戦慄と一緒に緊縛された裸身をのけ反らせた。
名状の出来ぬ汚辱感と男の唇が耐えられない不潔感♢♢と同時に甘くて鋭い快感が美沙江にジーンと響き渡ったのだ。
「や、やめてっ」
と、美沙江は思わず高ぶった声をはり上げたが、時造は意に介せず巧妙に舌先を使い始める。
美沙江の太腿はガクガクと慄え出す。何時しか汚辱感は薄れて腰骨までが痺れ切るような強烈な快美感がこみ上って来るのを美沙江はのたうちながらはっきりと知覚するのだった。
時造も無我夢中になって舌先で愛撫しつづけている。美沙江は悲鳴に似た声をはり上げ、肩先にまで垂れかかる黒髪を大きくはね上げながら真っ赤に上気した顔を右に左に揺さぶるのだった。
時造はようやく頬を上げて令嬢の見栄も気位もかなぐり捨てたように狂態を示し始めた美沙江を頼もしげに見つめた。
「気分が大分、乗って来たようだね、お嬢さん」
時造は美沙江のうねり舞う太腿に顎を乗せるようにし、それは今、神秘のベールを剥がされたように、しとどに濡れた淡紅色の美麗な女体を見せている。時造は今度は指先で優しく愛撫するのだった。
「やっぱり処女ってのは綺麗なもんだな」
時造は薄紅の綺麗な花びらを一枚一枚はずすように柔らかく愛撫していく。いじらしい花の蕾はさも恥ずかしげに慄え、花の襞は時造の巧妙な愛撫で幾重もの層を徐々に収縮させた。
同時に美沙江はすねてもがくような荒々しい身悶えを示し出す。
時造は上流の令嬢をここまで仕上げたという喜びで上ずった気持になっていた。美沙江が時造の巧妙な指先の愛撫で処女のまま絶頂を極めたのはそれからすぐだったが、それは美沙江にとっては生まれて初めて味わう強烈な痺れだった。
一本一本がそれぞれ生物のようにうごめく時造の指先で掻き立てられ、目まいが起こりそうな戦慄がぐっと下半身から生じて来た美沙江は腿を激しく痙攣させながらひきつった声をはり上げたのだ。
美沙江が女の悦びを遂に受けとった事を時造は指先で察知し、相好をくずした。
そのまま時造は粘りつくように激しく息づく美沙江の横に再び添い寝していく。
片手を美沙江の首の下へいれ、ぐっと美沙江の上気した顔を自分の方へ向けさせると、強い調子で唇を求めていく。
美沙江には拒否する力はなく、忽ち時造に唇を重ね合わされてしまうのだった。
接吻の経験とてない美沙江はただカチカナ歯を噛み鳴らして慄えるだけだったが、時造は美沙江をリードするように舌先を美沙江の固く閉ざした唇の中へ強引に押し入れていくのだ。
その間、時造の指先は再び活動を開始し、美沙江の内部を溶け崩していく。
「俺のものは一寸、お嬢さんにはでか過ぎるからな。こうして充分、ほぐしておかなきゃならないんだよ」
美沙江を心身ともに溶け崩させた時造はようやく上体を起こして夜具の左右に割り裂かれている彼女の両肢を解きほどいた。
美沙江は紐を解かれた優美な両肢を静かに閉じ合わせていきながら、赤らんだ美しい顔を横に伏せてシクシクとすすり上げている。
「さあ、お嬢さん、もう身体も充分ほぐれたろう」
時造は美沙江の後手に縛られた上体を抱き起こした。
「それじゃ、本格的な事を始めよう。これでお嬢さんは女になれるんだよ」
時造は華奢な美沙江の肩を抱きすくめると夜具の上にあぐらを組む自分の膝へ乗せ上げようとする。
美沙江の泣き濡れた瞳に時造の股間の醜悪で巨大なものがはっきり見えた。
美沙江はハッと硬化した表情になって顔を引き、畳の上に縮みこむ。
「何をしているんだ。さ、こないか」
羞恥と恐怖でモジモジ身を揉みながら後退しようとする美沙江の両肩を押さえこみ、時造は無理やり自分の膝の上へ乗せ上げたのだ。
「こんな方法でなきゃ最初は無理だと思うんだ。俺が上に乗っかったりすりゃ、お嬢さんのそんな優しい身体はケツまで貫かれてぶっつぶれてしまうだろうからな」
時造はそういってゲラゲラ笑い出す。
後手に麻縄で縛り上げられたままの美沙江は時造に肩を抱きすくめられた。
二重瞼の美しい美沙江の黒眼には涙が一杯滲んでいる。
これで自分の純潔は遂に奪われるのだという哀しさと恐ろしさに時造の膝の上で美沙江のくびれた腰はブルブル慄えるのだ。
「さ、そう恥ずかしがらずにぴったり俺とくつつきなよ」
時造は片手を廻して、背中の中程できびしく縛り合わされている美沙江の華奢な両手首をつかみ、片手で形のいい半球型の双臀を支えて自分の方へ強く引きこもうとする。
美沙江は焼け火箸でも押しつけられるような悲鳴を上げるのだった。
必死になって逃れようとし、双臀を狂ったように揺さぶる美沙江♢♢時造は思わず笑い出した。
「そうじらすと、よけいこっちはカッカッときてしまうじゃないか。女になるためには少々、痛いのは我慢するんだ」
時造は美沙江のしなやかな裸身を強く支えて一気に自分の方へ引きこんだ。
「嫌っ」
美沙江ははずみを喰らって時造の傷のある片頬へ真っ赤に上気した頬を押し当ててしまったが、それでも必死に時造の矛先をそらすのだ。
「いい加減にしないか」
時造はますます頭に血がのぼって、何としても美沙江を征服しようとする。
「ああ、お、お母さま♢♢」
と、狼狽のあまり美沙江が口走ると、時造はうんざりした顔つきになる。
「お母さまには参ったね。お嬢さんのお母さまは京都のお屋敷で今頃のんきに生花でもなさっているよ」
時造は今度こそは、再び緊縛された美沙江の優雅な裸身を強く引き寄せた。
「うっ」
と、美沙江は傷ついた獣のようなうめきを口から洩らした。
心臓が炸裂するような鋭い痛みが一気に腰を貫く。
この苦痛に耐えるのが自分の運命だと思い美沙江は時造のごつい肩に汗ばんだ顔を埋めてキリキリ奥歯を噛みしめた。
頭がガンガン鳴って美沙江は気が狂いそうになっている。
「そんなにさわぐない。お嬢さん。まだ始まったばかりじゃないか」
本格的に始めりゃ一体どんな事になるんだと時造は笑った。
この痛覚が快感というものだろうか、と美沙江は神経と肉体が動乱するこの苦しさの中で夢うつつに思うのだった。
先程、時造に舌先と指先の技巧で思い知らされたあの胸が切なく緊めつけられて筋肉が妖しく緊まるような、あんな甘さではない。腰から背骨にかけての肉がまるでズタズタに引き裂かれるような戦慄を伴った感覚を今、美沙江は味わわされているのだ。
ふと、気がつくと美沙江の雪白の腿の附根あたりから赤い血がしたたり落ちている。
ハッと美沙江は、それからあわてて目をそらし、
「とうとう私♢♢ああ、もう美沙江は駄目なのね」
と、意味にならない言葉を吐きながら時造の傷のある頬へ自棄になったように頬を押しつけていった。女という事が男に激しく抱擁されている美沙江の酔い痴れた脳裡にはっきりと描かれた
♢♢時造は今、卓の前にあぐらを組み、ゆっくりとビールを喉へ流しこみながら夜具の上に俯伏してすすり泣く美沙江をぼんやり見つめている。
「何もそう何時までも泣く事はねえじゃねえか。これでお嬢さんは立派な女になる事が出来たんだぜ」
時造は卓の上の煙草をとって口にした。
もう朝で、窓から差しこんで来る明るい光線が断続的にすすり泣く緊縛された美沙江の裸身を照らしていた。
時造はゆっくりと煙草の煙を吐き上げながら、望みを果たした後の一種の虚しさを味わっている。
「十九歳か。花を散らして早すぎる年齢じゃないぜ、お嬢さん」
操を奪われて歎き悲しむ美沙江の嗚咽を時造は心地よい気分で聞きながら、煙草を灰皿に押しこみ、ゆっくりと腰を上げた。
「随分とシーツが汚れたな。田代社長なんかが来れば目を廻すぜ」
時造は点々と血を滲ませている夜具のシーツを引き剥いでクルクル丸めると部屋の隅へ投げつけた。
そして、すすり上げる美沙江の白磁の肩に手をかけてそっと上体を起こさせると、上気した片頬に垂れかかる長い黒髪を指先ですき上げてやりながら、
「辛かったかい? ええ、お嬢さん」
と、わざと優しい声音を使って聞くのだ。
美沙江は引き緊まった優雅な顔を哀しげに歪めて小さくうなずいて見せている。
「そら、お嬢さんが女になった証拠だ」
と、時造はそばに落ちている赤いものが染みた薄紙を手にして今度はからかうように美沙江の気品のある鼻先に近づけるのだった。
美沙江は一瞬、赤く顔を染めて深く首を垂れさせる。
素っ裸のまま麻縄で自由を奪われて凌辱され、そんなものまで男の手で始末されたという哀しさと情けなさを美沙江は肩を慄わせて泣く以外示す事は出来ないのである。
「もうこれで、お嬢さんは俺の女だ。それはわかってるだろうな」
時造はハンカチを出して美沙江の滑らかな白い頬に伝わる涙を拭きながらいった。
「はっきり返事しな。お嬢さんは俺のものになったんだぜ。これからは俺の言う事にはさからっちゃいけねえ」
美沙江は二重の涙に濡れた美しい黒眼を時造にそっと向け、さも哀しげにうなずくのだ。
時造はそんな美沙江がたまらない位にいじらしくなって衝動的にひしと抱きしめ、貪るように唇を求めたが、美沙江はさからわず開く目を閉ざしながら強く押し出る時造の唇を唇で受け止めている。
それだけではなく、時造が舌を差し入れて来ると美沙江は昨夜、時造に教えられた要領でおずおずと舌をからませたり、軽く吸い上げたりするのだった。
「ね、もうこの縄を解いて頂けません?」
美沙江は時造と熱っぼい頼ずりをかわしながら甘えかかるような声音でいった。
「うん。その前に♢♢」
時造は部屋の隅に配置してあった鏡台を美沙江の傍へ運んで来る。
「もう一回、今度はお互いの姿をこの鏡に写して眺め合いながら始めてみようや」
「そ、そんな」
美沙江は激しく狼狽して顔を伏せ、むずかるように頭を振っている。
「もうすぐ田代社長がお嬢さんを受け取りにここへやって来るんだ。そうすると、約束だから俺は当分、お嬢さんと会えなくなる。このままじゃ心残りじゃないか」
だから、もう一度、愛し合おう、と時造は美沙江の裸身を自分に引きこもうとする。
「ああ、もう堪忍して下さい」
さっきのような苦しい作業をもう一度、続けなければならないと思うと本当に自分の心臓は破裂してしまうかも知れない。美沙江は必死に哀願するのだったが、
「俺のいう事にはさからわないとたった今、約束したばかりじゃないか」
と、時造は急に居丈高になるのである。
美沙江はすっかり自分の意志を投げ捨てた思いで時造にたぐられるまま彼の膝に跨がろうとしたが、
「今度は反対向きだ。俺の方にケツを向けな、お嬢さん」
といい、強い力で美沙江を膝の上に一回転させた。
「あっ」
美沙江は自分の正面に先程、時造が運んで来た鏡台があるのに気づき、再び、激しい狼狽を示し出す。
時造の膝の上の自分の浅ましい姿がそっくりそのまま鏡に写し出されているではないか。
真っ赤に頬を染めて鏡にうつる自分のみじめな姿から逃がれようともがいたが、時造は馬鹿力を発揮して美沙江の身体を自分の腿の上に押さえつけ、からみつかせたのだ。
美沙江の下肢は背後から時造に大胆に左右へ割り裂かれる。と同時に美沙江の必死に悶えさせる双臀の下方を通って時造が微妙な羞恥の源を襲ってきたのだ。
美沙江はそれがはっきりと眼前の鏡に写し出されているのに気づいた時、強烈な屈辱感でクラクラと眩暈を起こしたのである。
娼婦夫人
静子夫人は柔らかい睫をひっそりと閉じ合わせながら上背のある優美な裸身をそこに立たせ、川田と吉沢の手で股間に銀色の細い鎖を通されている。
形のいい情感的な乳房の上下には非情な麻縄が二重三重にきびしく巻きつき、かっちりと後手に縛り上げられている夫人は毛をほつらせた柔媚な頬を薄紅く染めているだけで股間に鎖が通され、妖しい官能味を持つ太腿と太腿の間の悩ましい濃密な繊毛に鎖が喰いこみ始めても大して狼狽は示さなかった。
川田と吉沢は口笛を吹き合いながら、繊毛のふくらみに鎖につながった鈴を強引に含ませ、両腿の間に通った鈴の鎖を背後より引きしぼって量感のある仇っぼい双臀へ強く喰いこませていく。
静子夫人が川田と吉沢に鈴縄をかけられている隣では珠江夫人が鬼源と順子の手で股間に鎖を通されていた。
珠江夫人も静子夫人と同様、ためらいも羞ずかしさも示さず、美しい眉根をぎゅうと辛そうにしかめているだけで鈴を呑まされ、暗い翳りを含んだ双臀を鎖で緊め上げられているのだった。
「よし、それでいいな」
鬼源は股間縛りにされたこ人の美しい夫人の肉体を見くらべるようにしながら点検し、
「さ、こっちへ来るんだ」
と、珠江夫人のしなやかな白磁の肩先に手をかけて隅の椅子のある方へ押し立てて行くのだった。
静子夫人も縄尻をとる川田に背を押され、細い鎖を喰いこませた官能的な双臀をわずかにうねらせるようにし、その乳色に輝く優美な裸身を珠江夫人の後について歩かせて行くのだった。
「さ、二人ともここに坐るんだ」
と、鬼源は二つ並んだ椅子の前に静子夫人と珠江夫人を坐らせる。
ぴったりと両腿を密閉させて椅子の前に正座した二人の夫人は股間を緊める鎖とその部分に喰いこむ鈴の刺戟に忽ち美しい眉をしかめて双臀をもじつかせ、緊縛された裸身をうねらせて中腰になるのだった。
そんな静子夫人の前の椅子には川田が坐り、珠江夫人の前の椅子には鬼源がどっしりと腰を落とす。
川田も鬼源も下半身は裸であった。
珠江夫人は鬼源の股間の醜悪なものを眼にした途端、線の綺麗な頬を忽ち真っ赤に染めて、あわて気味に視線をそらせるのだった。
「そら、始めないか」
鬼源は椅子の上で両股を開き吉沢に手渡された週刊誌を開げて読み始めるのである。
川田も静子夫人に向かって両腰を割り、新聞を広げ出している。
「何をぼんやりしているんだよ。早く始めないか」
川田は翳の深い美しい瞳を床に向けて身を縮める静子夫人に荒々しい声をかけ乳色の艶っぼい肩先をいきなり足で蹴り上げたのだ。
思わず腰をくずした夫人は、しっとりした頬にもつれる髪をそよがせて立膝に身を持ち直し、静かに眼を閉じ合わせながら川田の股間にゆっくりと身を乗り入れて行くのだった。
川田はすでに火のように熱くなっていた。それに気品のある夫人の象牙色の顔は近づいたが、その時、ちらと夫人は哀しげに潤んだ瞳をしばたかせて珠江夫人の方に顔を向けるのだった。
鬼源の醜悪なものを前にしてガクガクと膝のあたりを慄わせている珠江の恐怖心を何とか取り除き、この酸鼻な行為を死んだ気持になって演じさせねばならぬと思ったのか、静子夫人は臈たけた艶っぼい頬に無理に柔らかい自嘲的な微笑を作り、
「珠江さま。私が先にお手本を示しますわ。御覧になって」
というと、再び、川田の方に向き直り、うっとりと柔らかい睫を閉じ合わすようにするとすぐに紅唇を開いていったのだ。
静子夫人が川田のを唇で愛撫し始めたのに気づくと珠江夫人の引き締まった端正な頬は硬化する。
静子夫人はうっとりとした表情になって幾度も念入りな愛撫をくり返しているのだった。
「そら、お前さんも静子夫人を見習わねえか」
何時まで待たせる気なんだよ、と鬼源は週刊誌を投げ出して、珠江夫人の麻縄を巻きつかせた柔らかい乳房を、足の裏で押し上げるのだ。
珠江夫人は腰のあたりをガクガク慄わせながら後手に縛り上げられた雪白のしなやかな裸身を鬼源の股間ににじり寄せていく。
珠江夫人の細い線の端正な頬は心臓の緊めつけられる屈辱と汚辱感で真っ赤に火照り出した。
鬼源に催促され、珠江夫人は死んだ思いになってそれに唇を触れさせようとするのだがグロテスクとしか形容のしようがない醜悪な肉塊が眼に入ると、珠江夫人の全身には嫌悪の戦慄が走るのだった。
ふと、珠江夫人はおびえ切った表情で川田を愛撫している静子夫人の方へおどおどした眼を向ける。
静子夫人は男の性の妖気に煽られ、むせ返ったように恍惚とした表情になり、柔媚な頬をふくらませて愛撫するようにしゃぶりつづけている。
そんな静子夫人に千代と銀子が左右からぴったり寄り添って盛んにからかいつづけている。
「まあ、とてもおいしそうね」
銀子はおくれ毛をもつらせた頬をふくらせて軽く右に左に揺すりつつ酸鼻な接吻を続ける静子夫人を嘲笑し、背後から今度は麻縄に緊め上げられた乳房を揉みほぐしたりするのだ。
すると今度は千代が夫人の量感のある双臀を撫でさすり、その削いだような亀裂に喰いこんでいる銀の鎖に指をかけたりしながらクスクス笑っていたぶりを開始している。
しかし、夫人は銀子や千代達のそんないたぶりを無視したように薄紅に染まった柔媚な顔を斜めにしたり正面にしたりしてくなくなと頬を揺さぶり、甘美な愛撫をくり返しているのだった。
川田は段々と激しさを加えて来た静子夫人の口吻に心を蕩けさせ、両手で夫人の柔軟な肩を抱くようにする。
放心忘我の状態になり、上気した頬に垂れかかる乱れ髪を時々、はね上げるようにしながら激しく唇と舌先の奉仕をしていた静子夫人はふと、情感に蕩けた仇っぼい瞳で川田を見上げ、
「今日は凄くお強いのね、舌が疲れてしまいましたわ」
と、甘くすねたような口調でいうのだった。
「それに今日は何時もよりたくましいわ。何だか息がつまりそう」
しっとり滴るような情欲的な潤みを持つ瞳で夫人は川田を艶っぼく見上げ、今度は緊縛された裸身をぴったりと川田にすり寄せて行く、麻縄を上下にきびしく巻きつかせた豊満な乳房を川田のからだにすりつけ始めるのだった。
薄紅色の可憐な乳頭でコリコリくすぐられる川田は切なく甘い快感がぐっとこみ上げて来て、思わずうめいてしまうのだったが、すると静子夫人は腰を据え直したように大きく舌先をのぞかせるのだった。
千代と鍛子は静子夫人の巧妙な舌さばきを見て悦ぶというより、驚異を感じ出している。
夫人の技巧のうまさに驚いたのではなく、夫人がよくぞここまで娼婦的に成長したものだと讃嘆に近い感情を持ったのだ。
川田もまた、かっては自分の女主人であった静子夫人にこのような愛撫を受ける嗜虐の悦び、それと同時に夫人の卓絶した技巧に全身が酔い痴れ、ふと自失しそうになるのを歯を喰いしばって耐えている。
俺がこの夫人の雇われ運転手だったのは本当にこの世の出来事なのか♢♢川田が身体の芯にまでうずく快美感に酔い痴れながら思った時、静子夫人は上気した頬に垂れかかる乱れ髪を再びさっと振り払って、
「お願い、静子に飲ませてっ」
と、昂った声で叫び、武者振りつくように紅唇を開いた。
妖気めいて乱れ髪を揺さぶりながら川田を自失に追いこもうとする静子夫人♢♢背中の中程でかっちり縛り合わされている夫人の華奢な手首は汗を滲ませ、その仇っぼい双臀に喰いこんでいる銀の鎖は振動する。
川田は遂に耐え切れず、自失してしまったが、すると、夫人は美しい眉根を切なげに寄せながら、川田の発作をゴクン、ゴクンと喉を鳴らして受け入れていくのだった。
千代も順子も吉沢も驚嘆した表情で静子夫人の壮絶な愛撫行為を凝視している。
キラリと情感に潤む瞳を光らせた夫人の横顔は男の生血を吸った妖婦のような凄艶さが滲み出ていた。
情念を充分満足させて川田が身を引こうとすると、
「まだ、駄目ですわ、川田さん。ちゃんと後始末をしておかなきゃ」
と静子夫人は膝を動かしてつめ寄り、すっかり萎れ切って力を失ったそれを舌先でペロペロ舐めさするようにして優しく後始末するのだった。
静子夫人のそうした至れり尽せりの愛撫にむしろ川田の方がたじたじとなっている。
「ホホホ」
と、千代はようやく自分を取り戻し、口に手を当てて笑い出した。
「遂に完全な娼婦におなり遊ばしたわね」
しかし、静子夫人は千代のそんな哄笑は無視して川田を舌で拭い取ると、情感に濡れた美しい黒眼で川田を見上げ、
「御満足なさって、川田さん」
と、甘い声音で囁くようにいうのだった。
汚辱の双花
「わかったな、今、静子が演じた要領でやりゃいいんだよ。さ、始めてみな」
鬼源は自分の足元に緊縛された裸身を二つに折り縮めて、すすり上げている珠江夫人に声をかけた。
今、川田に対して静子夫人が演じた汚辱の行為♢♢珠江夫人はその悲惨な情景を最後まで見届ける勇気はなかった。到底、自分には実行出来そうもない。鬼源が怒号しても珠江夫人は身をすくませるだけで首を垂れさせてしまうのだったが、
「いい加減にしろ、手前は俺に恥をかかせる気か」
などと鬼源はどなり、自分の股間のそれをいらいらしながら片手でわしづかみにするのだった。
「少し、痛い目に合わせた方がいいかな」
と、吉沢が青竹の鞭をどこからか持ち出して来る。
「私にかしてよ」
と大塚順子が吉沢の手から青竹を取り上げて、身を縮ませ、すすり上げている珠江夫人の背後へ廻った。
「医学博士夫人の教養が邪魔をしてそんな事は出来ないというの、ええ、奥さん」
順子は口元に冷酷な薄笑いを浮かべて珠江夫人の双臀の合間に喰いこんでいる鎖を青竹でカチカチと軽く叩いた。
「股の間にこんなものをはめこまれて、博士夫人の気位も何もあったもんじゃない筈だけどね」
と、順子は哄笑し次にとげとげしい声で、
「あんたはそこにいる静子奥様と同様、女奴隷なんだよ。さ、鬼源さんに御馳走してもらわないか」
といい、いきなり、ぴしゃりと青竹を珠江夫人の背すじに打ち下ろすのだ。
「あっ」
と、悲鳴を上げる珠江夫人の今度は鎖を喰いこませた双臀を順子の振る青竹の鞭は容赦なく打ち下ろす。
「ヒィッ」
と、再び悲鳴を上げて珠江夫人は緊縛された裸身を床の上に転倒させた。
「待、待って下さいっ」
静子夫人は珠江夫人と同じくきびしく後手に縛り上げられた裸身を泳がせるようにして順子の振り下ろそうとする青竹から珠江夫人を庇おうとするのだった。
「珠江さま。さっき私がいいましたように、この人達は自分の思った事は必ず実行するのです。いくら頼んでも許して下さるような人達じゃありませんわ」
静子夫人は滑らかな頬に大粒の涙をしたたらせながら、
「珠江さまも私も今は性の奴隷に転落した身の上なのですわ。死んだつもりになってどのような辱しめも耐えていこうと先程、お約束したではありませんか」
涙で喉をつまらせながら声を慄わせてそういった静子夫人は次には心を鬼にする思いで、
「さ、これ以上、ここにいる人達を怒らせてはなりませんわ。思い切って今、私が演じたような事をなさって頂戴」
と、強い口調になっていうのだった。
珠江がいくら拒否しても無駄だという事は静子夫人が一番よく知っている。拒否を示せば鬼源達は一層、狂暴性を発揮してあらゆる責めの手を考え出す事を夫人はよく知っていた。
「わ、わかりましたわ、静子さま」
珠江夫人は静子夫人のその言葉は自分を庇うためであるのに気づくと、
「一旦、覚悟を決めておきながら、駄々をこねてしまって、ごめんなさい、静子さま」
と、嗚咽にむせびながらいい、涙に潤んだ黒眼勝ちの瞳をおどおどしながら椅子に坐っている鬼源の方に向けるのだ。
「ハハハ、静子奥様の説得でとうとうやる気になったというんだな。よし、来な」
鬼港はゲラゲラ笑って椅子に乗せていた両腿を割って見せるのだった。
椅子の脚の傍には薄汚ない鬼源の褌が脱ぎ捨ててあり、それを踏みしめるようにしている鬼源の毛むくじゃらの黒ずんだ脛、また、垢じみた腿のあたりには色あせた刺青が見え、その腿と腿の間の一物も薄汚なく垢じみて何とも醜悪無残の姿を露呈させているのだ。
珠江夫人はさも苦しげに細い眉をしかめ、固く眼を閉ざし、鬼源の下腹部へ膝を使ってすり寄っていったが、それだけで異様な臭気が珠江夫人の鼻にツーンと突き刺さってくるのだった。
「何をそこでもたもたしているのよ。早く始めないか」
順子と吉沢がまるで首斬りの介添人みたいに左右から後手に縛られた珠江夫人の肩を強くつかみ、ぐいっと鬼源に向けて首を押し出させる。
「うっ」と、珠江夫人は骨まで砕かれるような汚辱の戦慄で全身を痙攣させ、唇を固くつぐむのだった。
「何よ。それ。奥様には舌がないの」
「唇を結んでいたんじゃあ何にもならないじゃない」
順子と朱美は声を立てて笑いながら珠江夫人の艶やかな白磁の肩先を揺さぶるのだった。
鬼源も笑い出し、投げ出した週刊誌をもう一度取り上げて開きながら、
「ま、気長に待ってやるさ。俺が発射するまで丸一日かかっても続けさせるからな。そのつもりでいな」
といい、椅子の上にどっしり腰を落着けさせるのである。
「珠江さま。我慢なさって。死んだ気になって耐えて下さい。ね、珠江さま」
静子夫人はそのすぐ傍で後手に縛られた裸身を慄わせながら悲痛な声を出している。
その時、調教室の中へ田代が葉巻をくゆらせながら入って来た。
ああ、やってるね、と鬼源の股間へ無理やり顔を押しゃられている珠江夫人の方を愉快そうに見てから、千代に近づき、彼女の耳に口を寄せて何か小声でささやいた。
「フフフ、美沙江も遂に花を散らせたってわけね」
「シー、声が高いよ」
田代は静子夫人の方にチラと眼を向け、
「しばらくその奥様方には内緒にしておいた方がいいだろう。それから、山内先生の所に今、新しい子種が届いたんだ」
「子種?」
的代は薄笑いを浮かべて、
「男性のエキスだよ。これは時間が立つと精虫が死滅するので早速、静子奥様に授精させてしまわなきゃならないんだ」
というのだった。
田代が人工授精の事をいってるのだとわかると千代は顔面に喜色を浮かべる。
「もう二階の部屋に支度は出来ている。静子をすぐに連れて行きたいのだが」
千代は浮き立つ思いでうなずき、川田の傍へかけ寄ると耳に口を当てて説明した。
「静子奥様、あなた一寸、御用が出来たのよ」
千代は胸を高鳴らせて静子夫人の乳色の肩に背後から両手をかけるのだった。
「この分じゃ珠江夫人の方には大分手間どりそうだわ。その間に一寸、奥様にして頂きたい事があるのよ」
千代は静子夫人を縛った縄尻をとって、
「さ、立って頂戴」
と、夫人をその場に引き起こす。
川田と千代が左右から肩に手をかけ、押し立てて行こうとすると夫人は二人の冷酷な微笑を見て何か得体の知れぬ不気味なものを感じとるのだった。
「僕の後について来たまえ」
と、田代が先に立って調教室から出て行くと静子夫人は左右から挟みつけて来る千代と川田の顔をおどおどしながら交互に見て、
「ね、私をどこへお連れになるの」
と、声を慄わせていった。
「手術室よ」
と、千代は何喰わぬ表情をわざと作っていった。
「ついさっき男性のエキスが到着したのですって。時間が立つと精虫が死ぬので、すぐに手術を始めたいと山内先生がおっしゃるのよ」
途端に静子夫人の深味のある柔媚な頬はさっと硬化した。
肉を裂く部屋
調教室を出て階段を登らされる静子夫人の官能味を持つ優美な裸身は小刻みに慄えている。
何時かはその恐怖の日が来る事を覚悟していたが、遂に処刑の執行を言い渡されたような愕然とした気持に夫人は陥っていった。
むっと盛り上った双臀の亀裂に銀の鎖が喰い入っているのに気づいた千代は、
「こんなものを喰い込まれていちゃ人工授精が出来ないわ」
といい、川田に解きほどかせる。
「まあ、もう鈴をこんなに濡らしちまって」
と、千代は川田が夫人の股間より外し取った鎖の鈴を見て、わざと不快そうにいうのだった。
「さっき知らず知らず濡らしちゃったんだろ。そうじゃないかね、奥さん」
と、川田はゲラゲラと笑い出している。
夫人は川田のそんなからかいよりもこれからいよいよ我が身に誰のものとも知れぬ種を宿される恐怖感で階段を登る素足がガクガクと慄えるのだった。
千代はそんな夫人を元気づけるように仇っぼく盛り上った夫人の双臀をピシャリと平手打ちする。
「そんな哀しげな顔をせずもっと胸を張って歩きなさいよ。赤ちゃんを産む事が出来るなんて女にとってとても幸せな事じゃない」
「だって、だって」
静子夫人は耐えられなくなったように階段の途中で止ち止まると、横の壁に美しい額を押しつけて泣きじゃくるのだった。
「父親のわからない赤ちゃんを産まなきゃならないなんて、嫌っ、そんなの嫌っ」
夫人は乳白色の艶っぼい肩先を激しく慄わせて哀泣し、急に泣き濡れた顔を上げると川田に向かって、
「川田さん、静子は性の奴隷としてどんな辛い調教でもお受けしますわ。ですから、こんなむごい方法で静子に赤ちゃんを産ませるような事はならさないで。ね、川田さん、その事を千代さんにお願いして頂戴。後生です」
と、昂った声で哀願するのだった。
「今更、どうにもならないさ。高い費用をかけて人工授精の用意万端整えたのだからな」
川田がせせら笑っていうと千代がそれに続けて、
「さっき、奥様は珠江夫人にいい事をいったじゃない。ここの人達は思いこんだ事はどうしてもやり遂げる人だってね。珠江さんに説法しながら、御自分がそれを忘れるなんておかしいわよ」
静子夫人は千代のその言葉に肺腑をえぐられたような思いになる。
「さ、涙を拭いて。お母様になれる門出なのにそんなに泣くなんておかしいわよ」
千代は袂からハンカチを出して夫人の柔らかい睫に滲む涙を拭いとるのだった。
山内の部屋を田代がノックすると内鍵を外す音がしてドアが開き、朝から飲んでいるらしい山内が火照った顔をのぞかせた。
「静子夫人をお連れしたよ」
田代は山内にそう告げて振り返り、夫人の縄尻をとっている川田を手招きする。
「さ、どうぞ、どうぞ」
山内は夫人を引き立てて来た千代と川田を部屋に入れ、再び、内鍵をかけるのだった。
「婦人科の手術台を取り寄せる閑がなかったので臨時の手術台を作りました」
山内は部屋の中突に置かれた木製の寝台を指さしていった。
「昨夜の浣腸された時の要領で奥様にこの台の上へ乗って頂ければいいのです」
天井には鉄の滑車が二つ取りつけてあってそれから細い鎖が二本、木製の寝台の上に垂れ下がっている所など調教室の浣腸台を参考にして山内が作ったものらしい。
静子夫人はフラフラと床の上に膝をつき、全身から力が抜け切ったようにがっくりと首を垂れさせるのだった。
「おや、奥様、泣いてらっしゃるのですか」
山内は白いコートに腕を通しながら夫人の滑らかな象牙色の頬に伝わる涙を見、口元に微笑を作るのだった。
「嬉し泣きなんですよ。いよいよこれでお母様になれるという感激に胸がうずくのでしょう」
千代はそういって川田と顔を見合わせて笑い出す。
「奥様は二十七歳でしたね。それならもう赤ちゃんを一人ぐらい作ったっていい筈ですよ」
白いコートを着た山内はぴっちり膝を揃えさせてそこに縮かむように正座している静子夫人の前に近づき、ウイスキーグラスを口に当てながらいった。
「先生、手術前にそんなにお酒を召し上っていいのですか」
と、千代が呆れたような顔つきになっていうと、
「大丈夫。僕はこれまで何人もの人工授精を引き受けて来て一度も失敗した事なんかありませんよ。酔いどれ医師でも腕だけはたしかですからな」
山内はそういって笑うと、哀しげに眼を閉じ合わせ、うなじのあたりにまでおくれ毛をもつらせている夫人の情感的な深味のある横顔にしばらく見惚れているのだった。
「綺麗だ、全くの美人だ」
と、山内はグラスのウイスキーを一息に飲み乾して、香気が匂いたつような臈たけた静子夫人の横顔に見入りながらいった。
この田代の屋敷に捕われの身となってからは一片の布も許されぬ素っ裸で日夜淫虐な責めを受けつづける夫人だったが、その美貌は遠山家の令夫人だった頃と少しも変らない。いや、むしろ、磨きにかけられたように一層艶っぼく輝き出した感さえすると山内は思うのだ。
「奥様のような美女に種つけ役を仰せつかった僕は幸せです」
さ、手術台の上に乗って頂きましょうか、と山内はウイスキーグラスを卓の上に置き夫人の乳色に輝く両肩を後ろから抱きしめるようにした。
「待、待って、待って下さい、山内先生」
夫人は柔媚な顔立ちを哀しげに曇らせてひきつった声をはり上げた。
「もし、もし、私が身籠って何時か赤ちゃんを産むような事になれば、その赤ちゃんの運命はどうなるのです」
すると、千代が山内に代っておろおろする夫人の表情を面白そうに見ていった。
「その事は何時か奥様に私が説明したじゃありませんか。まさか檻の中で奥様が赤ん坊を育てるわけにはいかないでしょ。私達が引きとって育ててあげるけど、ただし、教育費は奥様の方に持って頂くわ。お客の前で珍芸を見せたり、黒ん坊と実演を演じたり、お母様となってからは特に一生懸命、子供のために稼いで頂かなくちゃあね」
千代はそういって何ともいえぬ口惜しさと屈辱感を噛みしめているような夫人の横顔を楽しそうに見つめるのだった。
「遠山家に俺が運転手、千代が女中として働いていた頃は本当に二人とも奥様には親切にして頂いたからな。その御恩返しというやつで奥様が産み落とした赤ん坊は俺達兄妹が出来るだけ面倒見させて頂くさ」
川田も夫人の蒼白に強ばった表情をニヤニヤ見つめてそんな事をいうのだった。
「僕も優しくして頂いた遠山家の奥様のために今回はかなり苦労しましたよ」
と、山内も夫人の柔軟な肩先を撫でさすりながら、
「長らくフランスに留学された奥様だからハンサムなフランス人がお気に入ると思いましてね。こちらへ留学しているフランス青年の一人を選んで採取して来たんです」
といい、棚の上に乗る金属性の缶を指さすのだった。
「フフフ、それじゃ生まれる子供はハーフというわけね」
千代はもうすでに静子夫人が懐妊したような錯覚に陥って、さも楽しげにはしゃぎ出している。
「さ、立って頂戴、奥様、手術は少しでも早く始めた方がいいわ」
千代と川田は夫人の肩を左右から支えて引き起こすと、部屋の中央のベッドへ夫人を押し立てて行った。
「フフフ、奥様に誰の子かわからぬ赤ちゃんをここで産ませてしまえばいよいよ私は安心出来るってものよ。遠山家の全財産はこれで完全に私のもの。奥様は父なし子を生んでいよいよ日陰者となり、一生、素っ裸のまま、ここで暮せばいいのよ」
千代の甲高い笑い声は段々と狂気めいたものになる。
静子夫人は川田や山内、田代達の手で横抱きにされて木製のベッドの上へ仰向けに寝かされていく。
後手に縛り上げられたままの優美な裸身を冷たい木の寝台に仰臥させた夫人は涙にしっとり潤む美しい瞳をぼんやり天井の方へ向けていた。
これから悪魔達の手で自分の肉体には種が植えつけられ、やがて妊娠し、父親のない赤ちゃんを産み落とさなければならない自分♢♢夫人はそんな自分を悲惨に思うより、自分の分身が自分の体内から生まれるという女の肉体の不思議さと愛など微塵もなく、汚辱感と屈辱感の炎の中でも懐妊出来る女というものの哀れさをそこはかと感じ出しているのだった。
川田と山内が夫人の陶器のように白い脛のあたりに手をかけ、繊細な足首に鎖を巻きつけさせると、滑車につながったもう一つの鎖を引く。台の上でぴったりと揃えさせていた夫人の下肢は足首に巻きついた鎖にたぐられてキリキリと上昇し始めた。
いよいよ人工授精を施される♢♢恐怖の感情が電流のように夫人の身内を一気に貫くのだった。
悦虐の烙印
冷たい木製の寝台♢♢それを手術台として静子夫人は麻縄で後手に縛り上げられた優美な裸身を仰臥させ、スラリと伸びた両肢は宙に向かって開股に吊り上げられている。夫人の華奢な足首に巻きついた鎖が天井の滑車にたぐられて上昇し、浣腸責めにかけられる時のあの浅ましいばかりの羞恥の肢体を夫人はとらされてしまっているのだった。
静子夫人はその臈たけた美しい頬に乱れ髪をもつらせながら切れ長の美しい瞳を静かに閉じ合わせ、自分の運命をすっかり諦めたように身動き一つ示さなかった。
山内はテーブルの上のウイスキー瓶をとって口に当て、ギラギラ光る異様な視線で手術台の上の肢体を眺めている。
ねっとり脂肪が乗り、まばゆいばかりに乳色に輝く肌の色、胸の見事な隆起、腰部の美しいカーブ♢♢全体に美術品のように引き締まった静子夫人の官能的な肢体を山内は恍惚とした表情になって何時までも見入っているのだった。
それに、開股の形にして宙に浮かせた夫人の成熟味ある太腿と附根のあたりは悩ましい濃密な繊毛が浮き上って神秘の丘がくっきりと露出し、美しい淡紅色の内側まで晒け出されているのだが、さも恥ずかしげに覗かせて.いる珊瑚色の可憐な蕾といい、新鮮なピンク色の部分といい、まるで十七、八の処女のような美しさに息づいているではないか。その部分を調教によって酷使されているとはいえ、その実感はまるで損なわれていない。そんな感じを山内は受け取ったのであった。
「それじゃ、奥様、気を楽にして下さい。ほんの数秒で手術は終わりますからね」
山内はしゃっくりを一つしてから棚の上の金属製の缶を取り上げた。
「やれやれ、これでようやく私の念願が果たせたというわけだ」
千代は山内が更に棚から大きなピンセットのようなものを取り出し、ベッドに縛りつけられている夫人に近づくのを見ると、顔面一杯に音色を浮かべる。
「さ、そう固くならずに」
山内は夫人の表情が次第に強ばり出し、宙に吊られた伸びのある両肢が恐怖のために小刻みに震え出したのに気づき、口元に薄笑いを浮かべるのだった。
「嫌ですっ」
山内の指先が自分の最も敏感な女体に触れて来たのに気づいた静子夫人は思わず昂った声をはり上げ、激しく泣きじゃくりながら台の上で悩ましい双腎を左右に揺さぶって山内の指先を振り払おうとする。
観念はしていたもののやはり人工授精を施されるという恐怖感が山内が手を触れさせて来た瞬間、ジーンと背すじを貫いて夫人はガクガクと腰のあたりを震わせるのだった。
「おとなしくしないかっ」
と、千代はけわしい表情になって身悶えする静子夫人を叱咤するのだ。
「あんたに赤ちゃんを産ませてあげるというのが、それ程、気に入らないの」
「だって、だって」
夫人はすすり上げながら、
「静子だって女ですわ。父親のわからない赤ちゃんを作るって事が、耐えられないのです」
と、唇を震わせていうのだ。
「何を生意気な事をいってるの。笑わせないでよ」
千代は甲高い声で笑い出した。
「女奴隷のあんたにそんな事いう権利があると思うの」
千代のその非情な一言に夫人は鋭く胸を突かれたように泣き濡れた美しい顔を更に歪めて横へ目を伏せるのだった。
「あなたをどう扱おうと私の自由なんだからね。女奴隷のあなたには何の拒否権もない。それだけは、はっきり覚えておいた方がいいわ」
千代のその言葉に静子夫人は抗し難い悪魔の宣言を再び聞かされた思いになり、全身からスーツと力が抜けていくような気になる。
「近頃は何でも素直になって、本当に申し分のない女奴隷になってくれたと田代社長も悦んでいるのに♢♢」
どうして今日はそんなに聞きわけのない態度を示すめよ、と千代は美しい富士額をさも哀しげに歪めている静子夫人の臈たけた頬を指先で押すのだった。
ここが地獄というものならば、自分はその地獄の終点にまで遂に歩いて来たのだ、という感慨が夫人の胸に迫ってくる。
人工授精♢♢自分はこれから悪魔の種を植えつけられるのではないか、という恐怖心を夫人は抱いていたのだが、たとえ、そうであっても女奴隷の自分に何の反撥が出来よう。自分がこの場に至って、急に哀願し、見苦しいあがきを見せるというのは、まだ人間でいたい、女でありたい、という現世に対する未練が尾を引いているのではないか、と夫人は思うのだった。言いかえれば、この地獄を極楽浄土と考える女奴隷としての悟りが自分には未だ出来ていないのだ。
千代が望むように自分がここで妊娠し、出産するという事にもしなるならば、希望の一かけらもない女奴隷の自分の心に何かを切り替えた生活と希望の斜面が現われる事になるかも知れない。静子夫人はそう感じると、涙を振り切ったように頬にまつわりつく乱れ髪を揺さぶり、涙を一杯に滲ませた美しい瞳をそっと千代の方に向けるのだった。
「ごめんなさい。千代さん。今になって駄々をこねたりして」
柔らかい睫を哀しげにしばたかせながらそういって千代に詫びを入れた夫人は、「私、きっと可愛らしい赤ちゃんを産みますわ」
と、自分にいい聞かせるようにそっと美しい潤んだ瞳を空間に向けながらいうのだった。
そういった瞬間、夫人は自分がただ屈辱と汚辱の間をさ迷うだけの女奴隷ではなく、これからは日夜、自分を責めさいなむ悪魔達に対抗する事の出来る強さを持たねばならないという強い感情が湧き始めるのである。それまで思ってみなかった全く新しい、強い決意にも似た新しい感情であちた。
「そう。ほんとうによく決心してくれたわ、奥様」
千代は何ともいえぬ嬉しい表情になって、
「妊娠するという事は女にとって一人前になる事なのよ。それは女奴隷としても、もう一人前という事。奥様みたいに色々のお座敷芸を身につけたスターには、もう御褒美として子供の一人位作らせたっていいじゃないかと田代社長もいっていたわ」
千代はそういって笑うと、大きなピンセットを手にしている山内に、
「ね、先生。数秒間で種つけが終わるなんて味けがないわ。奥様の身体をゆっくりと可愛がってあげながら、一緒に種つけする。せめて、これ位のぜいたく気分を奥様にも味わわせてあげましょうよ」
と、いうのだった。
「実は僕もそう思っていた所なんですよ」
と山内も舌をなめながら、うなずくのだ。
「一つ、お祭り気分でな」
と、川田もいった。
「どう、奥様もその方がいいでしょう」
千代は軽く目を閉じ合わせている夫人のしっとり翳りのある情感的な顔に顔を押しつけるようにしていう。
「ええ、静子もその方がいいわ。うんと楽しませて頂戴」
夫人はそっと柔らかい睫を開き、しっとり潤んだ仇っぽい眼差しでにじり寄って来る千代と川田を交互に見つめるのだった。
千代も川田も、かっては静子夫人の使用人である。夫人は女奴隷となった自分が、現在どのように娼婦として成長したかをこの二人に誇示してやりたい気分になっている。それが自分をここまでみじめに転落させた二人の使用人に対する復警でもあると夫人は思うのだった。
「静子奥様に人工授精を受けさせるという事は千代さんの念願でしたからね。その念願がいよいよ叶えられるお祝いにどうです、極上のブランデーを抜きますか」
酔いどれ医師の山内は戸棚を開いて真新しいブランデーの瓶を千代に示した。
「それは有難いわ。静子夫人にも御馳走し、ここで乾杯しましょう」
千代は、ねえ、社長、と先程から椅子に坐り葉巻をくゆらせている田代に声をかけるのだ。
よかろう、と田代は楽しげな表情になって椅子から腰をあげた。
ブランデーの栓が抜かれ、銀盆の上に並べられたブランデーグラスに千代の手で注がれていく。
田代、千代、川田、山内の四人は木製の寝台の上に仰向けに縛りつけられている静子夫人の周囲を取り囲み、乾杯するのだ。
「さ、奥様も召し上がれ」
千代は自分が飲み干したグラスの中になみなみとブランデーを注ぎこむと川田に夫人の頭を前に起こさせ、唇にグラスを押しつける。
夫人は薄く目を閉じ合わせながら千代に注ぎこまれるブランデーをわずかずつ喉に流しこむのだった。
「今日は少々、酔っ払ったってかまわないわよ。全部、飲み干して頂戴」
グラスから唇を離して苦しげに息づく夫人の後頭部を川田は再び支えて千代の持つグラスの方へ無理やり唇を向けさせ、更に残りのブランデーを強引に夫人の喉へ流しこもうとするのだった。
静子夫人は一呼吸入れてから、無抵抗にそれを受け入れている。
喉の灼けつくような思いを必死にこらえてグラス一杯のブランデーをすっかり飲み干してしまった夫人は、すぐにもう臈たけた象牙色の頬を酔いで火照らせている。
「ほう、いい色になったな」
田代は夫人が陶然と酔いを発して潤んだ情感的な瞳をうっとり見開くのを眺め、片手にぶら下げていたカメラを川田に手渡すのだ。
「女の構造の拡大写真を欲しがっている客がいるんだ。ついでに撮っておいてくれないか」
道具立ての一番見事なのは何といっても静子夫人という事になるからな、と田代は宙に向かって両腿を割っている静子夫人の生々しく露出した女の源泉を指さしていうのだった。
わかりました。と川田はカメラを手にしてベッドに縛りつけられている夫人の下腹部へ接近していく。
「受胎する前の道具を記録しておくのも必要だからな。写真を撮らせてもらうよ、奥さん」
川田がカメラのレンズを向けてそういうと夫人は薄紅く染まった頬を横に伏せながら、
「いいわ。奥の方まではっきり撮って頂戴」
と、甘えかかるようなハスキーな声でいうのだった。
第九十三章 貪欲な淫獣
性奴授精
静子夫人は自分のその部分が川田の持つカメラに次から次に写しとられている事を意識すると被虐性の情欲が体内に渦巻き出してくる。
心理的にも、もっともっといたぶられ、恥ずかしめられたいという悦虐の願望が煮えたぎるように自分を襲い始めるのだが、その被虐願望の意志をはっきり表示するまで静子夫人は何時の間にかマゾ女性として調教されてしまっているのだった。
「ねえ、川田さん、静子のお尻の下に枕をお当てになれば」
と、かすかな声で誘いかけるようにいい、
「そうすれば、お尻の穴まではっきりカメラに写るじゃありませんか。ね、お願い、どうせ撮るならうんと恥ずかしい写真をお撮りになって」
と、暴力行使者の川田の方がむしろたじろぐぐらい、全身に酔いの回った夫人は大胆な言葉を囁きかけてくるのだった。
自分がそうして積極的に振舞って相手をたじろがせる
♢♢それで憎い相手に対して一矢を報いている気持に夫人はなっているのだ。
「フフフ、随分と協力的になって下さるのね」
千代はそんな夫人の態度を心底から悦んでいるらしく山内と二人で押入れから枕を持ち出して来ると、夫人の量感のある見事な双臀を持ち上げ、その下へ配置する。
夫人の大胆な肢体は更に露骨すぎる位、大胆なものとなる。幾重にも畳まれた美麗な花層をはっきり見せて大きく開花した部分♢♢それと小刻みの襞に縁どられた愛くるしい菊の蕾が生々しく露出する。
「ねえ、川田さん、はっきり御覧になれて」
静子夫人は鼻にかかった甘ったるい声でそう囁き、まるで挑発するかのように枕の上に乗った悩ましい双臀をくねくねと揺り動かせるのだった。
「早くお撮りになって」
すっかり酩酊してしまった静子夫人はゆさゆさと黒髪を揺さぶりながらとろんと溶けた情欲的な黒い瞳を見開いたり、閉じ合わせたりしている。
川田は酒に酔って匂うような妖艶さが滲み出た静子夫人に煽られたようにカメラのシャッターを切りつづけるのだった。
「よく協力してくれたね、奥さん」
田代は川田の局部撮影が終了するとえびす顔になって夫人の吊り上げられているムチムチした太腿に軽く接吻し、
「さて、御褒美にたっぷり楽しませながら種つけをしてあげよう」
と、いうのだった。
色責めの七つ道具が入っているという小型の鞄を川田が持ち出してくる。
「お道具はどんなのがいいかね。奥さんのお好みに合わせてあげるよ」
鞄の中から様々な形の性の玩具を取り出した川田はそれを一つ一つ夫人の目の前に近づけていき、片頬を歪めるのだった。
「お任せしますわ。静子を今日はうんと楽しませて頂戴。だって、今日は赤ちゃんがお腹に宿る日なんですもの」
何時にも増して今日の夫人にはしたたるような色香が滲み、妖美さとさえいえる凄艶な美しさが感じられる。
川田が夫人の薄くて柔らかい耳たぶを唇でくすぐり艶やかな喉首に舌を這わせると夫人は忽ち激しい息遣いとなり、麻縄に締め上げられた美しい乳房を揉み上げ、その薄紅色の乳頭に唇を押しつけた山内に対して、
「お願い、山内先生、もっと強く吸って」
と、声を露わせてねだるのだった。
何時もと違って静子夫人は早く性の恍惚境に自分を沈みこませたいという欲求にかられ、あせりさえ感じているようだった。、
「ね、川田さんも山内先生も裸になってほしいわ。私一人だけ素っ裸でいるなんて気分がそがれるじゃありませんか」
媚を含んだ夫人の柔らかい微笑を見て、川田と山内は魔力にかけられたようにそわそわと上体を起こすと、シャツを取り、ズボンを脱ぎ始めるのだった。
「社長もどうです。こうなりゃ三人で裸祭りをやらかそうじゃありませんか」
パンツ一枚の裸になった川田は葉巻をくゆらせながらニヤニヤした目をこちらに向けている田代に声をかける。
「そうだな」
田代はドアの内鍵をたしかめてから葉巻を灰皿に落とし、ベッドの方に近づいてくる。
「今日はおめでたい日だからな。俺も馬鹿になって仲間に加わるか」
田代はふと千代の方に照れ笑いを見せながらネクタイを外し始めるのだった。
「今日は無礼講といきましょうよ。私はここで楽しく見物させて頂くわ」
千代は椅子に腰を降ろして、再び、グラスにブランデーを注いでいる。
啓子夫人が両肢を吊られ、腰を浮かせているベッドの上には丸裸になった男たち三人が、からみついている。
夫人はその優美で成熟しきった全身を三人の男に隅から隅まで愛撫され、上体と下半身を同時にうねらせながら薄紙を震わせるような声ですすり上げているのだった。
川田が麻縄にきびしく締め上げられた夫人の片方の乳房を片手でゆっくりと愛撫しながら夫人の上気した頬に頬をすり寄せていくと夫人は甘美なうめきを洩らしながら川田の方に顔を向け、うっとりと目を閉ざしつつ自分の方から能動的に唇を求めていく。
ぴったりと川田に唇を押しつけ、貪るように川田の唇を吸ってから、夫人は次に横から息をはずませて身をすりつけて来る田代の唇に静かに唇を触れさせて今度は田代の唇に吸わせるのだった。宙に吊られた優美な両肢を海草のようにうねうねと悶えさせ、三人の男達の粘っこい愛撫を受けて軟体動物のように甘い身悶えを示す静子夫人は男達の手管が上半身から次第に下半身の方に移行し始めるとその甘い嗚咽の声は更に高まっていく。
「ああ、た、たまらないわっ」
川田が鳥の羽毛を使って悩ましい漆黒の繊毛の上をひっそりとさすり始めると夫人は枕の上に乗せた双臀をブルブル痙攣させながらひきつった声をはり上げるのだった。
「ああっ」
夫人は脂汗を滲ませたうなじを浮き立たせすさまじいばかりの啼泣を口から洩らし始める。
川田が無我夢中になって生温かくじっとりした柔らかい柔肌の感触を舌先でえぐっているのだ。
今にも絶え入りそうな鼻息を洩らして夫人は緊縛された優美な裸身をのたうたせるのだった。
唇を離した川田が山内と一緒になって今度は指先を使い、優しく愛撫し始めると、夫人は打ち上げられた魚のもがきのように後手に縛り上げた上半身を右に左に激しくよじって、
「見て、ああ、もっと全部見て頂戴っ」
と、半ば気が狂ったような高ぶった声をはり上げるのである。
静子夫人の今日の狂態は何時もとはたしかに違って常軌を逸したものだった。酔った故もあろうが、これから種を植えつけられ、妊娠しなければならぬという恐怖を忘れるため、自棄になって自分を淫婦めかし、性のエクスタシーに追いこもうとしているのか、と川田は感じる。
「な、奥さん、男達はみんないきり立っているんだよ。こうなりゃ、また、ここを使って一人一人解決してもらわなきゃな」
夫人の乳房に唇を押しつけていた田代は上体を起こすと熱っぼく喘ぎつづけている夫人の紅唇を指で押すのだった。
「まず、最初に山杓先生から始めてもらおうか」
と、田代はベッドの上にあぐらを組みながらいった。
田代の贅肉のたっぷりついた太鼓腹が情欲の高ぶりに波打っているようだ。
「本当ならばこの人工授精にかかる費用は奥さんが持たなければならないのよ。せめてそれぐらいのサービスを先生にしながら感謝の気持を表わしなさいよ」
椅子に坐ってブランデーを飲みつづける千代はわざとそんな冷酷な言葉を吐いてギラギラする視線をベッドの上に向けるのだ。
「わ、わかってますっ」
静子夫人はいよいよ激しくなって来た嗚咽の声と一緒にそういい、
「静子がその気になるまで、ね。川田さん、もっともっと静子を泣かせて頂戴」
と、おびただしい樹液を吹き上げながら告げるのである。
自分が如何に性に対して貪欲になっているか、それを川田にわざと夫人は訴えかけているようだ。
そして、
「ね、おねだりしていい」
と、喘ぎながら夫人は甘い声音を出し、
「バイブを使って」
などと自分の方から欲求したりする。
川田が小型のバイブを手にしてスイッチをひねり、女体に触れさせようとすると、嫌っと枕に乗った見事な双臀を揺り動かせ、
「そ、そこじゃないわ」
と、すねたような声を出し、
「その下のあそこよ。私、そこが近頃、とても感じるようになってしまったの」
と、声を震わせていうのだった。
川田と山内は夫人にリードされた形でバイブを菊花の部分に軽く触れさせたが、もうそれだけで夫人は悲鳴とも啼泣ともつかぬ声をはり上げて緊縛された全身を揺さぶり、その悶えようの激しさはやはり狂気じみて川田と山内は驚きの目を瞠る。
渦巻き状になって責め具が女体をいたぶり始めると夫人は魂消るような異様な叫びを上げ、宙に吊られた両肢をガクガクと揺さぶりながら、
「ああ、静子は、ど、どうすればいいのっ」
と、進退極まったような言葉を吐くのだった。
額からタラタラと汗を流しながら川田は一途になって責め具を操作させる。官能を掻き立てられて全身火柱のように燃えさかった夫人は狂乱状態となって責め具を更に自分の身内に引き入れようとするかのように枕に乗せ上げられた仇っぼい双臀を前後に激しく揺さぶり出すのだった。
そして、錯乱状態に陥ってしまったのか夫人は、
「静子はきっと可愛い赤ちゃんを産みますわ」
と、うわ言のように口走ったり、
「お願い、川田さん。静子が赤ちゃんを産んだら可愛がって下さいましね」
と、大粒の涙を流しながら必死な思いをこめて口走ったりするのだった。
そして、静子夫人は突きさすような鋭い快感がこみ上って来た事を全身をブルブル震わせて激しい調子で訴えた。
まもなく夫人が絶頂を極めるという事を察知すると山内は長いピンセットと金属の缶を取り上げて人工授精の支度にかかった。
やがて、頂上に追い上げられて絹を裂くような声と共に夫人が瘧にでもかかったような痙攣を示し出すと、山内は計画していた事を実行する。
相次ぐ悦楽の発作に酔い痴れてしまった夫人は、
「はい、奥様授精は終わりましたよ」
と、山内に耳元で囁かれてもすぐには何の事だか思い出せないでいた。
「種つけが無事終わったと山内先生はおっしゃっているのよ」
千代が乗り出して来て、悦楽の余韻の中で未だ熱っぼい喘ぎをくり返している夫人にはっきりといい聞かせると、夫人は溶けて粘っこい潤みを湛えた情感的な瞳をうっとりと見開き、かすかにうなずいて見せるのだった。
「さ、山内先生にお礼をいわなきゃ」
千代はこみ上げて来る悦びを包み切れず、満面に笑みを湛えて静子夫人の片頬にもつれる柔らかい黒髪を手ですき上げた。
「♢♢山内先生、静子は心から感謝しますわ。さ、こっちへいらして」
お礼の意味でおしゃぶりを、と夫人がかすれた声でそういうと、山内はそわそわとし、肉体をどろどろに溶かせた甘い余韻にうっとり混っている、世にも美しいものに見える夫人の顔へ身体を寄せつけていくのだった。
山内が赤く染まった夫人の頬へすりつけて行くと、ふと、反対側に顔をねじった夫人は美しい眉根をしかめて急にシクシクすすり泣くのだ。
「どうしたの奥様。何がそんなに哀しいの」
千代は煙草に火をつけて口に咥えながら楽しそうに声をかけると、
「ごめんなさい。嬉し泣きなのです」
といい、すぐに気持を取り直したように山内の方へ妖艶な視線を向けると、
「おしゃぶりしますわ。ね、もっとこちらへ身体をお寄せになって」
と、柔らかい、しかし、どこか哀しげな微笑を口元に浮かべて囁くのだった。
口吻人形
その酸鼻な汚辱の口吻は調教室の中の珠江夫人も強制されている。
椅子に跨がるように坐った鬼源の股間に顔を埋めこませている、後手に縛り上げられた珠江夫人♢♢立膝になって、悲痛なうめきをくり返しながら唇の奉仕をしている夫人の両肩を銀子と朱美は介添人のように左右から軽く手で押さえつけているのだ。
鬼源は必死な努力をくり返している汗みどろの珠江夫人を冷やかに見下しながら、
「そんな生っちょろい事ばかりくり返していたって男は中々参らねえぞ」
もっと、しっかりやらねえか、と、鬼源は怒号するのだ。
すぐ横手では大塚順子が何ともいえぬ小気味よさで、汚辱の口吻を続けている珠江夫人を眺めている。
衝えてふくらんだ端正な頬に大粒の涙を幾筋もしたたらせながら必死にその醜悪無残な行為を演じている珠江夫人♢♢千原華道の最も有力な後援者であった医学博士夫人の折原珠江が遂に女奴隷となってここまでみじめに転落したのかと思うと順子は身内が震える程の高ぶりを感じ出している。
鬼源のその醜悪なものを含んで彼を自失に追いこむために必死な努力をくり返している珠江♢♢こんな痛快な復讐があるだろうかと順子は珠江夫人の傍へ膝を落とし、夫人のむっちりした双臀の間に喰いこんでいる銀の鎖をたぐるようにしたり、麻縄に緊め上げられている形のいい乳房を後ろから掌で包んで揉み上げてみたり、子供のようにはしゃぎながら悪戯して悦んでいるのだった。
そんないたぶりにも耐えながら珠江夫人は反吐の出るような屈辱行為を続行していたが、急にさっと口を離し、頭を激しく左右に振りながら悲痛な声で、
「もう、もう堪忍して下さいっ。出来ません、もうこれ以上、出来ないわっ」
と、わめくようにいうと、黒髪を揺さぶってわっと号泣するのだった。
「何をいってやがる」
と、鬼源は銀子と朱美に肩を支えられながら激しくすすり上げる珠江夫人の紅潮した頬をぴしゃりと一発、平手打ちするのだった。
「出来ないですむと思ってやがるのか。さっき、静子がおめえの前で見本を示してくれたろう。努力次第であんなに簡単に男をゴールインさせる事が出来るんだ」
鬼源は珠江夫人の乱れた黒髪を次に、わしづかみすると二、三度、前後にしごき上げて、
「こっちも気長に待ってやる。俺を頂上にまで追い上げない限り、舌がただれたって許しちゃやらねえからな」
と、激しい口調で叱咤するのだった。
すると、順子が声を震わせて泣きじゃくる珠江夫人の高雅な白さを持つ滑らかな背すじをわざと優しく撫でさすりながら、
「女奴隷になったからには努力しなきゃ駄目よ、奥様。静子夫人だって努力したからこそあそこまで到達したんじゃない」
などといい、ふと、鬼源の顔を面白そうに見上げて、
「それにしても少し休ませてあげましょうよ。あれからもう三十分にもなるでしょう。嘗め疲れが出るのは当然じゃありませんか。ねえ」
どいってクスクス笑い出すのだった。
「よし、十分間の休憩だ」
と、鬼源も笑いながら立ち上る。
「いいか、俺の調教は徹底主義だからな。どんなに音をあげたって続けさせるぜ」
と、鬼源は捨科白しながら露出した前を覆おうともせず堂々と晒け出しながら一升瓶のある方へ歩いて行くのだった。
銀子と朱美も立ち上がると、珠江夫人はそのまま床に緊縛された裸身を二つ折りにくずしてよよと泣きじゃくるのだ。
これからまだ続くこの淫虐な調教に自分の神経が果たして持ちこたえることが出来るだろうか。
異様な悪臭を放つ鬼源の不潔で醜悪なものを愛撫し、反吐をはく思いでくり返さねばならぬみじめさ♢♢ああ、ここは正に淫虐地獄なのだ、と珠江夫人は滑らかな背中の中程に縛り合わされている華奢な手首を強く握りしめながら肩を震わせて嗚咽にむせぶのだった。
鬼源はそんな珠江夫人をニヤリと黄色い歯を見せて眺めながら、調教室の片隅にあぐらを組んで坐り、傍の一升瓶を引き寄せる。すると、そこへ近づいた順子が、
「私がお酌するわ」
と、愛想よくいい、鬼源の持つ茶碗の中へ一升瓶の酒を注ぎこむのだ。
「どうです、大塚さん。あそこまで珠江夫人を痛めつけりゃ、少しは胸のうちが晴れたでしょ」
「勿論よ。私、鬼源さんには大いに感謝しなければならないわね」
順子が嬉しそうにそういって鬼源の飲み干した茶碗の中へ更に酒を注いだ時、調教室のドアが開いていい気持に酔っ払っている千代が鼻唄をうたいながら入って来たのだ。
「あら、折原夫人、あなた、まだ椅子の前に坐りこんでいるの」
千代は鬼源の坐っていた椅子の前で後手で縛り上げられた裸身を縮める珠江夫人を見、頓狂な声を出す。
「フフフ、ジュースを絞り出せなかったのね。しっかりしなさいよ」
と、千代は珠江夫人のしなやかな肩を軽く手で叩いた。
珠江夫人は薄紅く染まった頬を横へねじるようにし、世にも哀しげな表情になってすすり泣くのである。
「どうしたの、随分と機嫌がいいじゃないの千代さん」
鬼源と並んで床の上に腰を降ろしている順子が声をかけると千代は何か思い出し笑いをしながら近づいて来る。
「静子に種つけをしたのよ。うまくいったようだわ」
千代がそういうと、順子はへえ、といった表情になり、
「じゃ、静子夫人に人工授精を施したってわけね。確実に妊娠はするのかしら」
「確実とはいえないけれど、十中八九は成功すると山内先生はいってたわ」
千代は静子夫人が妊娠する事を想像すると楽しくて仕様がないのだ。
とろんと夢見るような瞳を宙に向けて、
「静子に赤ちゃんを産ませて、それを私達が育てる。ハーフで美人の女の子なら、ね、すばらしいじゃない。私はその子を自分の娘として将来、テレビタレントか映画女優にでも育てあげるつもりよ。色々な夢が持てて、私とっても楽しいわ」
などというのだ。
「ね、あなたもあそこにいる珠江夫人に赤ちゃんを作らせてみない」
と、次に千代が珠江夫人に聞こえぬような小声でいい出したので順子は、ええ? と聞き直した。
「静子が私のペットなら珠江はあなたのペットでしょう」
二人の令夫人にそれぞれ子供を作らせて、それを自分達が育てあげる。これは素敵な思いつきではないか、と千代は得意そうにいうのだった。
「成程ねえ」
順子が感心したようにうなずき、
「私も子供は嫌いな方じゃないわ」
と、いうのだった。
ペットに産ませた子供を私達が育てるといっても、その養育費は檻の中で一生、素っ裸で暮さなくてはならない美しいお母様二人が客をとったり、怪しげな映画に出演したりして結構、稼ぎ出して下さる筈よ、と千代は調子づいて順子にしゃべりまくるのだった。
「そいつは面白いじゃないですか」
と、鬼源も茶碗を床の上に置きながら愉快そうにうなずいた。
「子供という人質をとっておけば、女奴隷はますます忠実に主人に対して奉仕すると思いますよ」
さて、調教の時間だ、と鬼源は立ち上がって、がっくり首を垂れさせながらすすり泣いている珠江夫人の方へ歩み出すのだった。
「今度はうまくやるんだぜ、いいな、おい、わかったか」
椅子に坐った鬼源は、打ちひしがれている珠江夫人の乳色のしなやかな肩先を軽く足の裏で押すのだ。
「さ、奥さん、今度はもっと上手に舌を使うのよ」
再び、銀子と朱美が左右から夫人の肩に手をかけ、ぐいと鬼源に泣き濡れた顔を押しつけていく。
それを少し、離れた所から面白そうに眺めている千代と順子は、鬼源の残していった一升瓶の酒を茶碗に注ぎ合っていた。
「今の話、気に入ったわ」
と、順子は再び鬼源を愛撫し始めた珠江の涙をしたたらせた美しい横顔に見惚れながら千代にいうのだった。
「私も珠江に子供を作らせてやるわ」
そんな二人の言葉は珠江夫人の耳にはとどかない。
珠江夫人は無我の境地に浸るかのように固く目を閉ざしながら膝頭で上体を充て、遮二無二舌先で鬼源を愛撫している。
「そうよ、その調子で責めてごらん」
介添人の銀子は次第に積極性を帯びて来た珠江夫人の熱っぼい口吻を見て励ますように声をかけるのだ。
珠江夫人の捨鉢になったような必死の努力でようやく鬼源にも緊張度が近づいたようだった。
鬼源に指示されて唇で覆い込んだ珠江夫人はこのような淫虐行為を強制する鬼源に対して恨みを晴らすかのように挑戦的になった。
激しく舌を使って熱気々帯びた生肉を舐めさすり、次に雁首をしっかりと口中に咥えこんで、狂おしく前後に顔面を揺さぶりながら吸い上げる。
「ようやくコツがわかったようだな。そら、ゆるめずにしっかりやりな。もう間もなくだぜ」
間もなく、鬼源は、遂に頂点に達し、ブルッと椅子に据えた腰のあたりを痙攣させて自失したのである。
珠江夫人はその瞬間、相手をようやく自失させたという歓喜で涙が出る程の高ぶりを感じたが、すぐに反吐を催すような痛烈な嫌悪と汚辱感がこみ上がり、反射的に顔を引こうとする。
「駄目よっ」
と、夫人の白磁の肩を支える銀子が鈍い声で叱咤した。
「吐き出したりすると承知しないから。全部有難く頂戴するのよ」
珠江夫人は失神状態に陥るのを必死にこらえながら反吐に似た汚辱の流れを全身を痙攣させながら耐えている。ぎゅつと細い美しい眉根をしかめながら歯を喰いしばった表情になっている珠江夫人♢♢それは何とも凄艶な光景であった。
「よくやったわ。これで奥様も一人前の奴隷になったというわけね」
珠江夫人の肩を支える銀子はそういって哄笑する。
ようやく、唇を離す事を許された珠江夫人は前のめりになっていた上体を元へ戻したが強い臭気と濃い酸性の何ともいえぬ不気味な味わいに喉元が刺戟され、ぐっと吐き気が生じるのと同時にクラクラと目まいが生じ、その場にがっくり額を押しつけてしまうのだった。
「どうしたの、しっかりおしよ」
と、銀子と朱美は床の上にのめってしまった珠江夫人の光沢を帯びた肩を揺さぶりながらゲラゲラ笑い合っている。
「その意気だ。今の要領を忘れるんじゃねえぞ」
鬼源は床の上に緊縛された裸身を偶伏せに倒して汚辱の涙にむせぶ珠江夫人の雪白の肩先を足で押した。
「一寸、俺に別の仕事が出来たんだ。しばらく、地下に戻って休んでいな」
千代から何か耳打ちを受けた鬼源は床に俯伏している珠江夫人を冷やかに見下して声をかけた。
絶望
今日から当分、調教屋の檻の中で暮すんだと昨日告げた鬼源が自分を地下の牢舎へもう戻してくれるのはどういうわけか。
しかし、美沙江が恐ろしさと心細さにおろおろしながら一人監禁されている牢舎へたとえ一時的にでも戻れるという事は珠江夫人にとっては救いになった。
地下の階段を珠江夫人は順子に縄尻をとられ、銀子と朱美に左右を挟まれるようにし、前かがみになって歩いて行く。
鬼源を唇と舌で愛撫するという悲惨な行為を演じ、その汚辱のしたたりさえ、喉へ流した珠江夫人は心身ともに微塵に破壊され、未だ悪夢の中をさまよっているような空虚な気分に陥っていた。
珠江夫人の縄尻を得意げに握っている順子は夫人の肌理の細かい背すじとしとやかな柳腰とふっくら盛り上がる悩ましい双臀とをしげしげと見つめながら、
「鬼源さんをあんなに上手にやるとは思わなかったわ。なかなか、隅へ置けないわね、奥様」
と、皮肉っぼくいい、
「ジュースはおいしかった?」
と、珠江夫人の細面の冴えた美しい横顔を見つめながら、クスクス笑い出すのだった。
「♢♢大塚さん」
珠江夫人はふと足を止め、順子の方に涙を滲ませた哀切的な瞳を向けて、
「お願い、うがいをさせて下さい」
と、声を震わせていった。
汚辱の酸っぱいしたたりが喉の奥をヒリヒリさせている。その耐えられない不快な気分を珠江夫人は順子に訴えたのだが、
「駄目よ。美容のための貴重なお薬じゃない。少々、苦いのは我慢しなくちゃ」
と、銀子がいい、朱美と一緒に愉快そうに笑い出す。
「さ、歩いて頂戴」
順子に再び、肩を突かれ、珠江夫人は心身ともに疲れ切った裸身を地下牢に向かって歩まされて行くのだった。
その時、後ろの階段を何人かが降りて来る気配がする。
「あら」
と、珠江夫人の縄尻を持つ順子は階段を降りて来たのが静子夫人の縄尻をとる千代だったので何だかおかしさがこみ上げ、
「もう、そちらも終わったの?」
妙な言い方をするのだった。
一糸まとわぬ素っ裸を麻縄で後手に縛り上げられている静子夫人と珠江夫人の哀しげな視線がふと触れ合い、しかしすぐに二人の夫人はその視線をそらせ合って冷静な表情をつくろい合う。
千代に縄尻をとられる静子夫人を取り巻くようにしているのは川田と山内、それに田代であった。
「丁度いいわ。さ、二人仲良く並んで牢屋へ行くのよ」
千代は静子夫人の柔軟な乳色の肩を押して珠江夫人と並ばせ、順子と顔を見合わせてクスクス笑いながら牢舎に向かって引き立てて行く。
今まで悪魔達に翻弄され、惨澹たる思いを共に味わった静子夫人と珠江夫人は、それをあたかも慰め合い、いたわり合うよう光沢のある白い肩先を触れさせて冷たい地下の通路をゆっくりと歩み始めるのだった。
静子夫人の妖艶なばかりの官能美を持つ成熟した裸身と、雅美としなやかさを兼ねた色香あふれる珠江夫人の裸身♢♢。
その二人が共に仇っぽさを持つ悩ましい双臀をかすかにうねらせつつ牢舎に引かれている姿を千代と順子は胸を痺らせて見惚れているのだ。
「ね、珠江さん」
と、順子は珠江夫人の肌理の細かい背すじを軽く指で押していった。
「静子奥様はとうとう人工授精の手術をお受けになったのよ」
順子のその言葉に珠江夫人はハッとした思いになり、足を止めると、あわて気味に静子夫人の臈たけた美しい横顔に目を向けるのだった。
静子夫人はしいんと凍りついた表情で空気でも見つめるように空虚な瞳をじっと前方に向けている。
もう自分の人生は終わったとでもいうような虚脱した表情で、冷やかさまで感じさせる静子夫人を見つめた珠江は、たまらない気持になり、
「静子さま」
と、声をかけた。
それでふっと我に返った静子夫人は足を止め、柔らかい睫をそよがせながら、うすら冷たく冴えた容貌をほんのりと赤く染め、珠江夫人に濡れ濡れとした瞳を向けたのである。
わざと珠江夫人に微笑して見せようとする静子夫人だったが、逆に涙が一滴、あふれ出て、
「静子はとうとう、追いつめられる所まで追いつめられてしまいましたわ」
とかすれた声で珠江夫人にいうのだった。
すると、順子がおびえた表情になる珠江夫人を面白そうに見て、
「どう、珠江奥様。あなたもここで赤ちゃんを産もうという気はない? 」
と、からかうようにいい出したのである。
「御希望なら静子奥様のように人工授精を受けさせてあげますわよ」
順子がいうと千代が後を続けて、
「これからお二人の奥様方は私達の奴隷として一生、ここで素っ裸のまま暮さなきゃならないのよ。子供の一人位、生んでおいた方が少しは奴隷生活にも励みがつこうというものじゃないの」
などといい、
「まあ、檻の中に入ってから静子夫人とも相談してよく考えておく事ね」
と嘲笑するのだった。
その檻の前にまで引き立てられて来た二人の令夫人は当然、そこに監禁されていなければならぬ美沙江の姿が見えぬので蒼ざめた表情になる。
「お、お嬢様はどこにいるのですっ」
珠江夫人は縄尻を取る順子の方に振り返ってひきつった表情を見せた。
「さあねえ」
順子も千代もそれには答えず、檻の扉を開き始める。
「さ、中へ入りな」
令夫人の縄を解いた川田は田代と一緒に檻の中へ二人を順に押しこみ、バタンと扉を閉めた。
「お、お嬢様をどこへ連れ出したの。ね、川田さん、何とかいって頂戴」
静子夫人は鉄格子に取りすがり、扉に鍵をかけている川田へ必死な声を出すのだ。
「そんなに美沙江の事が気になるかね」
川田はせせら笑ってチラと田代の顔を見るのだ。
「お嬢様には指一本触れないと田代様も私に約束して下さいましたわね。お、お願いです。お嬢様は一体、どこにいらっしゃるのです。はっきりおっしゃって下さい」
自分達のみじめさは忘れて静子夫人も珠江夫人も必死なものを目に浮かべ、鉄格子の間から田代や川田を見上げているのだった。
「正直にいってやりましょうか、社長」
川田は田代のニヤニヤした日を見ていった。
「ええ、その方がいいわ」
と、順子がうなずき、
「私から説明してあげるわ」
と、鉄格子に手をかけ、翳の深い瞳に涙を滲ませてこちらを見上げている二人の令夫人を愉快そうに見下した。
「お嬢様は昨夜、女になったわよ。相手は暴力団の幹部さん」
順子がそう告げた途端、鉄格子に取りすがっている二人の令夫人はいきなり冷水を浴びせかけられたよう表情が一変した。
「な、何ですって」
顔全体から血の気が失せた珠江夫人はひきつった声を上げ、美しい眉をキリリと上げて順子を睨みつける。
「そんな恐ろしい顔してこっちを睨まないで頂戴よ」
順子が笑いこけている。
「美沙江だって遅かれ、早かれ、何時かはこうなる運命だって事は奥様方もわかっていたんじゃないの」
順子は千代の差し出すシガレットケースから一本、煙草を抜きとり、口に咥え始めている。
「女奴隷に何時までも処女でいられるとこちらの仕事が色々とやりにくいのよ。処女を調教するなんて鬼源さんだって面喰らってしまうじゃない」
順子は千代と顔を見合わせて口を開けて笑い出すのだ。
静子夫人の冴えた象牙色の頬もすっかり蒼ざめている。
「大体、お嬢さんの方から男と寝てもいいと申し出て来たのよ。おば様二人が一生懸命、自分を奴隷化するためがんばっているのに自分一人が安閑としているのは気がひけるっていい出したの。ね、そうだったわね、順子さん」
千代は順子の咥えた煙草にライターの火をつけながらいうのだった。
「よくも、よくも、そんな嘘が♢♢」
珠江夫人は雪白の華奢な肩先をブルブル震わせて憎悪のこもった冷たい目をじっと千代に注ぎかけている。
「千原美沙江が暴力団の手で花を散らしたという事で私も千代さんじゃないけど、ようやく念願が果たせたような気分になったわ」
順子は煙草の煙を吐き上げながらうそぶいている。
「あとは鬼源さんの手に任して調教にかけるだけだわ」
「お、お嬢様を調教に♢♢」
静子夫人と珠江夫人はあまりの恐しさに気が遠くなりかけている。
「そうよ。処女を散らしたばかりで本当にお気の毒だけれど、今頃はもう鬼源さんに、連れられて例の調教室へお越しになっている筈だわ」
「ああ、何て、何て恐しい事を♢♢」
静子夫人と珠江夫人の顔は怖い程、蒼ざめ、ひきつっている。
二人の令夫人のそんな狼狽ぶりを見ると千代も順子も愉快でならないのか、更に二人の聞こえよがしに銀子に語りかけるのだった。
「鬼源さんは最初、お嬢様にどんな調教を始める気なのかしら」
「やはり、最初は膣圧計にかけて吸引力のテストから始めるといってましたわ」
銀子はチラと鉄格子の中の令夫人の表情を悪戯っぼくうかがうようにしてから千代に答えるのだった。
「生卵の用意をしてくれともいってたから、最初から珠江夫人と同じように鬼源さんは卵割りを稽古させる気なんでしょうね」
朱美も続けて千代に告げるのである。
「千原流家元のお嬢様が最初から卵割りの稽古なの。今まで箸より重たいものを持った事のないお嬢様が、本当に大丈夫かしら」
順子はそういうとたまらないおかしさが胸にこみ上げて来て大声で笑い出すのだった。
令嬢調教
調教室のドアが開く。一糸まとわぬ素っ裸の美沙江が厳重に麻縄で縛り上げられ、川田に縄尻をとられて引き立てられて来るとそれを待ち受けていた千代と順子は、まるで歓迎するかのように田代と一緒に拍手するのだ。
「ようこそ、お嬢様」
と、大塚順子が満面に笑みを浮かべていった。
かっては千原家の女中で今ではズベ公グループの葉桜団に入っている直江と友子も、美沙江を見ると歓声を上げて近づいて来る。
「お嬢様、時造さんの一夜妻にならはったんですか。処女を散らした御感想、聞かせてもらえませんか」
すっかりズベ公ぶりが板についた友子はからかうようにそういって、美沙江のしなやかな白磁の肩を手をかけるのだった。
美沙江は美しい抒情的な瞳にねっとり涙を滲ませて虚脱した表情になっていた。
冷たく貯えた象牙色の頼から白磁の肩先にまで垂れかかる長いしなやかな黒髪、それと対照的な雪を溶かしたような繊細な肌また身体の線の優雅な美しさ♢♢さすがに千原流華道の家元を継ぐ娘らしく気品があり、高貴な香りが匂い立つような感すらするのだ。
腰部も充分に引き緊まって形よく、太腿も程よく肉が乗って乳色に輝き、その腿と腿の間の淡くて薄い繊毛はどこかまだ少女っぽさを感じさせる。
「さ、お嬢様、こちらへどうぞ」
順子はお姫様を案内するような丁寧な口調で川田に引き立てられている美沙江の前に立ち、不気味に黒光りする調教柱の方へ案内する。
「さ、この柱を背にしてしゃんと立ちな」
川田は吉沢と一緒に美沙江を調教柱に立位につなぐと、チラと順子の方を見た。
「花を散らした早々にこんな調教を受けさせるのは一寸酷だな」
「仕方がないじゃないの、これが掟というものよ」
と、千代が順子に代っていった。
調教柱にがっちり縛りつけられた美沙江は柔らかい長い睫を静かに閉じ合わせ、冴えた美しい象牙色の頬を横に伏せて軽く唇を噛みしめている。
柱を背にしてその優雅な裸身をそこに晒された美沙江を田代も川田も吉沢も恍惚とした表情で見惚れるのだった。
暴力団の幹部に凌辱ぜれ、身心ともに打ちのめされた美沙江に更に加えられる淫虐な調教♢♢鬼源に注文された膣圧計など持ち銀子と朱美が調教柱に近づくとふと綺麗な睫を見開いた美沙江は思わずブルッと嫌悪の戦慄を全身に走らせた。
「ね、銀子姐さん、このお嬢さんを計るのやったら、うちにさせてんか」
友子はその奇妙な器具を銀子の手からとって、美沙江に迫っていく。
「な、何をするの、友子さんっ」
先程から悪夢の中をさ迷っているように空虚な表情をしたまま一言も発しなかった美沙江だったが、友子がいきなり天狗の鼻に似た筒具を下半身に装填しようとして来たので思わず悲鳴を上げるのだった。
そのおぞましい筒具には筋肉の収縮を計算するメーターが一本のコードでつながり、しかし、美沙江はその意味はまるでわからず、友子がいきなりその筒具を押しつけて来たので激しい狼狽を示したのだった。
「駄目よ、いきなりそんな事しちゃ。初心なお嬢さんだけに面喰らってしまうじゃないの」
銀子が笑いながら友子を制した。
「どうしてこんな事をしなきゃならないのか、お嬢さんに納得のいくよう説明してあげなきゃ」
銀子は華奢でしなやかな象牙色の裸身を硬直させてしまった美沙江を冷酷な微笑を浮かべて見つめる。
「私から説明してあげるわ」
大塚順子が何ともいえぬ嬉しそうな表情をして美沙江の硬化して蒼ざめた顔を見るのだった。
「お嬢様はもう千原流華道の家元とは何の関係もなく、静子夫人や珠江夫人と同様、ここで性の奴隷として一生送る事になったのよ。それはもう覚悟なさった事でしょ」
順子は美沙江の涙をねっとり滲ませた美しい黒眼を見つめながらいうのだ。
「性の奴隷はね。時々、ここで行われる秘密ショーに出演して何かの珍芸を演じなければならない。ただ、殿方に抱かれて可愛がられるというような単純さだけじゃ駄目ですわ」
順子はそういって、美沙江の小刻みに慄わせている太腿の附根あたりを指さした。
「これからお嬢様の価値はその女の武器一つできまるのですわ。これからは後の事は何も心配なさらず、そこを充分に鍛練して伸縮自在にし、秘密ショーの若手組で大いに活躍して頂かなきゃ」
順子はそういって千代と顔を見合わせ、声を揃えて笑い出す。
美沙江は魂も凍るばかりの恐怖を感じ、全身を痙攣させ、額から汗を流すのだった。
「これで千原流華道も完全に崩壊ね。家元を触ぐ娘がこっちに捕まりゃ、やくざの手で女にされ、これから花電車のスターに磨き上げられるなんて、笑いが止まらないじゃないの、順子さん」
千代が順子の肩を叩くようにしていい、次にきっとした眼つきで美沙江を睨みつけると、
「とにかくあんたは大塚さんの湖月流華道に対しては長い間、不愉快な存在だったのよ。これからは今までの罪の償いとして大塚さんの女奴隷になり忠実に奉仕する事ね。命が助かっただけ幸せに思わなきゃ駄目よ」
などというのだった。
「ああ、丁度いい所へ鬼源さんが来たわ」
向う鉢巻をした鬼源が相変らずの一杯機嫌で調教室に現われると、千代はすぐに手招きして呼び寄せる。
「お嬢様」
と、順子は柔らかい睫をフルフル慄わして小さく嗚咽し始めた美沙江を楽しそうに眺めながら、
「この方がこれからお嬢様を指導して下さるお師匠さんよ。さ、ちゃんと御挨拶なさいな」
と、美沙江の前に仁王立ちになった鬼源を指さしていうのだ。
鬼源は順子にお師匠さんといわれた事に気をよくし、黄色の歯をニヤリと見せて、未だどこか少女っぼい細い線で囲まれた美沙江の華奢な肉体をしげしげと見つめるのだった。
「ね、鬼源さん、このお嬢様はこれまで箸より重いものは持った事のないという深窓の御令嬢なのよ。ですから、初手からあまり強引な調教は堪忍してあげてね」
順子が鬼源の横顔に眼を向けてそういうと、うむ、とうなずいた鬼源は、腰をかがめて美沙江の周囲を翳らせる程度の淡い幼い茂みを凝視するのだった。
鬼源の酒に濁った視線が自分の最も辛い羞恥の部分に向けられているのに気づくと美沙江は一層身体を硬化させ、雪白の美麗な両脇をぴたりと密着させて象牙色の優雅な頬を真っ赤に火照らせる。
「未だ完全に熟れ切っちゃいないようだな。しかし、客はこんな方を悦ぶかも知れねえ」
鬼源はひきつった表情の美沙江を見上げて、
「今年、いくつになるんだ、お嬢さん」
と、尋ねるのだ。
「ちゃんと答えるのよ、お嬢さん。これからは何でも素直にしなくちゃ」
銀子が朱美の麻縄に緊め上げられた、ふっくらとした美しい乳房を指先ではじいていった。
「素直な態度を示さないと鬼源さんは機嫌をこわすわよ。鬼源さんが怒り出すとどんなひどい調教をおっ始めるかわからないわ」
と、朱美もおろおろした美沙江の表情を愉快そうに見ていうのだった。
「さ、自己紹介するのよ、お嬢様。そして、よろしくご指導願います、と鬼源さんに御挨拶なさい」
順子が横から美沙江の白磁の肩を優しく抱きしめるようにしていった。
美沙江は涙で熱っぼく潤んだ瞳をおどおどしながら鬼源に向ける。
「♢♢千、千原美沙江と申します。今は十九歳♢♢よ、よろしく御指導下さい」
心臓が止まるような恐怖と凍りつくような屈辱とを同時に感じとりながら美沙江は鬼源に向かって唇を慄わせる。
「十九か。よし、来年の成人式までにはお座敷スターとして完全なものに仕上げてやるぜ」
と、鬼源は笑い、ガクガクと慄わせている美沙江の太腿の附根あたりを指さして、
「まず手始めにそこでバナナ切りから始めてみよう」
と、いうのだった。
「それにはまず徹底して緊め方の練習だ。圧力計を使って先にテストしてみよう」
鬼源が友子の持つ膣圧計を取り上げると、美沙江はようやくその筒具の意味がわかって身震いするような戦慄が身内を走った。
「嫌っ、嫌ですっ」
鬼源がそれを静かに押し当てた途端、美沙江は火をつけられたように昂った声をはり上げた。
「そんなにわめくことはないやないの、お嬢さん」
美沙江の女中であった友子と直江は左右から美沙江の華奢な白い肩を押さえつける。
「ああ、お、お母様っ」
と、逆上した美沙江が思わずそう口走ったので友子と直汀はキャッキャッと笑い合った。
「お母様とはよかったね」
友子が笑いこけながらいうと銀子が、
「そう笑ってばかりいずにお嬢様のその可愛いおっぱいを揉んでおやりよ。少し身体をほぐしてやらなきゃ駄目じゃないの」
と、声をかける。
よしきた、と友子と直汁は左右から美沙江の麻縄に緊め上げられた未だ完全に成熟し切っていない可憐な乳房をゆっくりと揉み始めるのだった。
「な、何をするのっ、友子さん」
美沙江は華奢な肩先にまで垂れかかる黒髪を大きく揺さぶって、
「あ、あなた達は千原家の女中でありながら一体何の恨みがあって♢♢」
と、昂った声をはり上げ、わっと号泣するのだった。
「おい、そういう言い方をすると俺が承知しないぜ」
と、鬼源がふと顔を上げてきつい表情になった。
「もうお前さんは千原家とは何の関係もなくなったんだ。静子と同様、女奴隷になったんだぜ。ここにいる友子と直江は今じゃお前さんの御主人だ。二度とそんな生意気な口をきくと許さねえぜ」
鬼源のドスのきいたその言葉に美沙江はおびえ切った表情になった。
「さ、友子と直江にうんとおっぱいを揉んでもらって早く気分を出しな」
鬼源はそういいながら美沙江の煙のように薄くて淡い繊毛にふれるのだった。
「ううっ」
美沙江は美しい眉根をしかめ、唇を噛みしめる。
「静子おば様も珠江おば様もこういう修業を積んでいるのよ。お嬢様も二人のおば様に負けないようしっかりがんばらなきゃ」
などと順子はいいながら、口元を押さえて笑っている。
順子のそのからかいが美沙江の胸を緊めつけた。
静子夫人や珠江夫人はもっと淫虐ないたぶりをこの連中に受けている。そう思うと美沙江は自分も二人の夫人の苦悩を味わうべきではないか、と自分もそれに殉じる哀しい諦めが生じて来たのである。
もう自分は時造という暴力団員に凌辱された身体、今更、淫虐ないたぶりを拒否したとて仕方がない♢♢そう諦めた美沙江は反撥の身悶えを止め、この苦悩に耐えるべく唇を喰いしばるのだ。
女蜜のしたたり
極めて事務的な手管で鬼源は美沙江の肉体を溶かしにかかっている。美沙江が観念し、その気になった事を知覚した鬼源は雰囲気も口説きもなく、指先を使って自分のペースに巻きこもうとするのだったが、数分も立たぬ内に美沙江の肉体は順応を示し、熱っぼい喘ぎをくり返しながら後手に縛り上げられた裸身を悩ましく悶えさせ、それとわかる昂奮状態を示し始めたのだ。
調教柱に縛りつけられた美沙江の乳房を左右からゆさゆさと揉み上げ、その可憐な乳頭に熱っぼい口吻を注ぎかけていた友子と直江ははっきりと情感の昂りを示し始めた美沙江に気づいて自分達もまた一緒に昂奮し始める。
「よし、この仕事は元、千原家の女中であったお前達に任せてやるぜ」
鬼源がそういって笑い、身を引くと友子は浮き立つよつな気分で鬼源に代って美沙江の前に身を沈ませるのだった。
「うちら二人、前々からお嬢様が好きやったのよ。何とかいって、お嬢様」
友子は上ずった声を上げながら、美沙江のその部分を指先で愛撫しようとしたが、すでに熱っぼく潤ませてあふれさせている樹液の豊かさに友子は眼を瞠るのだった。
「嬉しいわ、お嬢様、もうこんなに燃えてくれはったのね」
友子は恍惚とした表情になって、ねっとり汗ばんだ美沙江の雪白の太腿に残度も接吻を注ぎかけ更に愛撫することに精をだすのだった。
美沙江の切なげな喘ぎが一層、昂っていく。
美沙江の麻縄を痛々しい位に巻きつかせた乳房を直江がせかせかと揉み上げ、羞恥の源を友子が一途になって愛撫しているのだ。
かつての二人のお付きの女中に淫らな嬲りものにされている美沙江の苦悩を想像すると大塚順子は痛快でならない。
「ね、鬼源さん。この友子さんと直江さんをお嬢様の調教師の助手にしてくれないかしら」
かつての女中が付き添った方が気心が知れ合っているだけにお嬢様も安心じゃないかしら、と皮肉っぽい微笑を口元に浮かべて順子がいうと、
「よし、じゃ、そういう事にしましょう。お付きの女中の手でお嬢様がバナナ切りの稽古をする。成程、こりゃ面白いかも知れねえ」
と、鬼源は腹を揺すって笑い出した。
その言葉が耳に入った友子はふと鬼源の方に振り返り、満面に喜色を浮かべるのだった。
「ほんと、鬼源さん。そうなら私達二人、一生懸命、鬼源さんの仕事に協力しまっせ」
友子はそういうと、ああ、よかったわ、と再び、美沙江の愛撫を続行する。
「ああ、と、友子さん、お願い、もうやめてっ」
美沙江はわなわな唇せ慄わせて両肩に垂れかかる黒髪を左右に揺さぶった。下腹部の筋肉が慄えた。
背すじに冷たい汗が走って、切なさを伴ったキューンとする不思議な快感が深い所から急激にこみ上って来たのだ。
「誰がやめるもんかい。あんた、まだ自分の立場が判らへんの」
友子は笑いながら圧力計のメーターがついている筒具を素早く取り上げたのである。
「ああ、何をなさるのっ、嫌、嫌です。やめて下さい」
それをいきなり装填しようとする友子にさからって美沙江は二、三度腰部を揺さぶったがそれ以上、力は入らず、それを深く呑みこまされていった。
その途端、美沙江の眼はくらみ、燃え上がった下腹部は更にカッと熱くなった。
ううっ、と、押し殺したようなうめきを上げる。
そしてぴったり閉じた両眼を激しく痙攣させる美沙江
♢♢逆に汗ばんだ美しい顔は仰向けにのけぞらせ、陶器のような艶々しいうなじをくっきり浮き出している美沙江 ♢♢絶頂を極めた美沙江の恍惚の状態は深窓の令嬢とは思われぬ息苦しいばかりの女っぼさが匂い立つのだった。 「よし、もっと緊めてみろ」
鬼源は圧力計のメーターに眼を向けながら美しい額をしかめてのけぞっている美沙江に声をかけた。今、悦楽の頂点に立った美沙江が粘りのある最終の収縮を示している。それがヒクヒクと圧力計に伝わり、鬼源は北叟笑んでメーターに眼を向けているのだ。
やがて、美沙江は絶息するような溜息を吐き、がっくりと前に首を垂れさせた。精も根も尽き果てたように調教柱に縛りつけられた美沙江の裸身は身動き一つ示さない。必死に失神を耐えているような美沙江から静かに筒具を抜きとった鬼源は順子の方をニヤリと笑って見つめた。
「なかなかどうして、吸引力は大したものですよ」
鬼源がそういうと、順子は、まあ、と眼を輝かせ、次に、
「よかったね、お嬢様。これであなたも静子夫人達の仲間入りが出来るというものよ」
と千代はいい、シクシクと肩にかかった黒髪を慄わせて嗚咽する美沙江に頼もしげに見惚れるのだった。
第九十四章 悪魔の蹂躙
黒白の乱舞
地下の鉄檻の牢舎の中では静子夫人と珠江夫人が共に凍りついたような表情でぼんやり一点に眼を落としながら正座している。
美沙江が遂に獣の爪で引き裂かれたというショックで二人はもう声も出ず、共に蒼白い表情で虚脱状態になっているのだ。
静子夫人は、雪白の柔軟な両腕で乳房を覆い、柔らかく翳った睫を哀しげにしばたかせている。
何か珠江夫人に声をかけようとしたが、彼女は思いつめた表情で身動き一つ示さない。静子夫人は臈たけた美しい頬に垂れかかる黒髪のおくれ毛を、そっと指先でかき分けながら珠江夫人の方へ裸身を近づけていった。
珠江夫人の冷たい象牙色の頬に一筋の熱い涙がしたたり落ちる。
「珠江さま」
静子夫人は珠江の乳色の肩先にそっと手をかけた。
「もう私達には残された希望というものは何一つないのですわ。ただ、どんな事があっても生きのびてお嬢様が救出される日を待つより他に方法はないのです」
すると、珠江夫人は両手で顔を覆い、肩を小刻みに慄わせて号泣し始める。
「ああ、かわいそうなお嬢様。今、お嬢様がどのように辛い目にお合いになっているかと想像すると私、胸が裂けそうなのです」
「それは私だって」
静子夫人もさっと顔をねじって奥歯を噛み鳴らしながら嗚咽するのだった。
十九歳になったばかりの千原家の令嬢が暴力団員に凌辱され、しかも、鬼源達の手であの酸鼻な調教を受けている、そう思うと静子夫人は気が狂いそうになるのだ。こんな悲惨な話があるのだろうか。
「大塚順子という女は正に悪魔ですわ。ね、静子さま、そうお思いにならない」
珠江夫人はあふれる涙を指先で拭いながら静子夫人に声を慄わせていうのだった。
その時その悪魔の大塚順子が千代と川田とそれに吉沢達と一緒に地下室へ賑やかにやって来たのである。
「如何、御気分は」
順子は檻の中に身を寄せ合っている素っ裸の令夫人二人を楽しそうに眺めていった。
「さて、お待ちかねの二人を奥様方に御紹介するわ。黒人のジョーとブラウンよ」
順子のその言葉に静子夫人と珠江夫人はぞっとして身を慄わせた。
「二階の離れ座敷でこれからニグロの歓迎会を開くの。何しろ、これから彼等は奥様方と組んで海外向けのポルノ映画と雑誌に出演するのですからね。いよいよ奥様達も本格的なプロと共演する事が出来るというわけよ」
千代は鉄格子に手をかけ、薄傾い牢舎の中で絖のような光沢を見せている二人の夫人の美肌を眺めている。
遂に黒人とからみ合うまで転落した♢♢静子夫人はそう思うと、それを歎き悲しむというのではなく、よくもここまで自分の肉と心が持ちこたえ、よくもここまで千代が自分を責めつづけたものだと女の執念の恐ろしさを感じるのだった。
「さ、出て来な」
川田は鉄格子の扉を開いた。
適度の脂肪が乗り、ねっとりと乳色に輝く静子夫人の柔軟な裸身と底まで冴え渡るような珠江夫人の白磁のしなやかな裸身が互いに抱き合うようにして檻から出て来る。
「ハイ、両手を後ろへ廻して」
川田や吉沢がすぐに二人の令夫人をそこへ立ち上らせて乳房と前を覆っている二人の白い腕を強引に背中へねじ曲げるのだった。
「今夜はお二人ともニグロと契りを結んで頂くわ。映画や雑誌の仕事は明日からでも早速始めるつもりなんだから」
豊かな胸のふくらみの上下をきびしく麻縄で緊め上げられている幹子夫人はふと乗らかい睫を哀しげにしばたかせて千代を見つめるのだった。
「千代さん。折原の奥様はどうか許して下さい。黒人と契りを結ぶなんてそんな約束は奥様とは最初からなかった筈ですわ」
静子夫人が翳の深い眼にしっとりと涙を滲ませているのを見た千代は、
「じゃ、静子夫人が今夜、一人で二人のニグロを相手にするというの」
と、冷やかな口調でいうのだった。
「相手は精力絶倫のニグロなのよ。しかも今夜は久しぶりに日本のいい女が抱けると思って二人とも今から神経を昂らせているんだからね」
その絶倫のニグロ二人を一人で相手どるというのなら、今夜、珠江の方はニグロとのお床入りを勘弁してやってもいい、と千代はいうのだった。
「死んだ気になって静子は奉仕致しますわ。ですから、珠江さまはどうか許して下さいまし」
静子夫人は声を慄わせて千代に哀願する。
「いけませんわ、静子さま」
同じく麻縄でがっちり縛りつけられた珠江夫人は悲痛な表情になって静子夫人を見つめるのだった。
「あなた一人だけにそんな辛い思いをさせられませんわ。私も参ります。お願い、静子さま。もう珠江を庇ったりなさらないで」
後手に縛り上げられた裸身を珠江夫人は静子夫人に押しつけるようにし、シクシクと泣きじゃくるのだ。
「そうだな」
そこへひょっこり姿を見せた鬼源が楊子で歯をせせりながらいった。
「珠江の方はもっと身体に磨きをかけてからニグロの相手をさせた方がいいだろう。まだケツの方を使って相手を悦ばすコツも知らねえし、おしゃぶりにしたって、まだ子供なみだ」
そこへいくと静子夫人の方はもうプロのニグロを相手にしたって一歩もひけをとらねえからな、と鬼源はいうのだ。
「よし、それじゃ、御苦労だが今夜のニグロの相手はお前さん一人に任せるぜ」
鬼源は静子夫人の柔軟な乳色の肩に手を置いていった。
静子夫人は長い睫をしばたかせて哀しげな翳のある瞳を鬼源に注ぎ、はっきりとうなずいて見せる。
黒髪の乱れを二本三本もつらせている静子夫人の臈たけた美しい頬に涙を潤ませた眼をじっと注いでいた珠江夫人は、熱いものが急に胸にこみ上げて来て、
「静子さまっ」
と、昂った声をはり上げると、静子夫人の肩先に額を押し当て激しく号泣するのだった。
「とにかく彼等のお酒の席には二人とも出て頂くわ」
千代は静子夫人の肩に額を当てて泣きじゃくる珠江夫人を小気味よさそうに見て、チラと順子の方を振り向くと、
「ね、そこでお酒の余興にお二人のレズショーを簡単にやって頂きましょうよ。時造さんもいらっしゃる事だし、何か余興がないとつまらないわ」
といいうのだ。
「そうだ。まだ、二人はこいつを使っちゃいなかったな」
川田はポケットの中から鬼源が技工師にわざわざ注文して作らせたという相対張形を取り出して見せる。
男性のそれを型取った二つの筒具を樹脂で出来た鍔で結合させてある性具なのだが、川田はそれを静子夫人の気品のある鼻先へ押しつけて哄笑するのだった。
「そいつは二人のサイズに合わせて作ったのだからな。ちょうどいい機会だから実験してもらおうじゃないか」
鬼源はそういって静子夫人の顎に手をかけると、
「大事な客の宴会だ。こちらがくどくど説明するまでもなく宴席の要領はもうわかっているだろうな」
といった。
鬼源はこれまでの経験からお座敷ショーのスターとしての静子夫人をかなり信用するようになっている。
一つ一つ細かい指示を与えなくとも夫人は酒席の客に対し、色香をふりまき、媚態を演じるようになっているのだ。
「お前さんから珠江奥様に要領をよく教えて酒席の客の御機嫌をとるんだ」
うまくやらねえと珠江もニグロの玩具にさせるぞ、と鬼源に念を押された静子夫人は端正な頬に垂れかかる乱れ髪を軽く横へはね上げるようにして、
「わかりましたわ」
と、落ち着いた口調で鬼源に答えるのだ。
「それじゃ、銀子さん」
千代は化粧箱をかかえている銀子に向かって、
「この奥様方に化粧して、バタフライをつけさせて頂戴。そんなスタイルで登場した方がニグロはきっと悦ぶわ」
と、笑いながらいうのだった。
「じゃ、私達は先にお座敷へ行って時造さん達のお相手をしていますからね。奥様方はお化粧してから鬼源さんとよく打ち合わせ、座敷の方へ来て下さいね」
千代はそういって順子と二人、先に地下室から出て行くのだった。
媚肉の枷
調教室の中はがらんとし、たった一人、美沙江が調教柱に縛りつけられたまま、ぽつねんとしている。
ポルノ俳優と自称する黒人のジョーとブラウンを歓迎するため、赤鬼青鬼達は二階座敷へ出かけていき、美沙江はかっての女中、友子と直江に後を任された形で相変らず調教柱を背に、立位で縛りつけられているのだった。
美沙江は薄く眼を閉ざし、魂をすりとられたような放心の表情でうなだれている。つい先程、男や女の嘲笑と哄笑の中でおぞましい圧力計を肉体に装填され、浅ましくも狂態を演じてしまった自分を意識すると美沙江はいっそこのまま自分の肉体が石像に変化してくれないものかと思ったりする。屈辱の涙はとめどなく流れて美沙江の象牙色の中頬を濡らしつづけるのだった。
その時、調教室のドアが開き、美沙江のお付きの女中であった友子と直江が何か談笑しながら入って来た。
「ごめんなさいね。長い間、一人にさせちまって」
直汀は調教柱の美沙江に近づくと、
「淋しかったでしょ、お嬢さん」
といい、手にしていたビニールの風呂敷包みを開くのだった。中からは青味がかったバナナの房が出て来る。
「近くの市場に出かけてバナナを買って来たんよ。調教用にはまだ熟していない青いバナナがむくそうやから」
友子はそういってその一本をもぎとると皮をむき、一齧りする。
「お嬢様もどう、召上らない」
友子は寄りかけのバナナの美を美沙江の口元に近づける。
美沙江はさっと赤らんだ顔を横へねじって固く唇を噛みしめるのだった。
「あら、お嬢様、バナナはお嫌いですの」
友子はゲラゲラ笑って、
「嫌いでも、下の口では食べてもらわないと困るわね。大体、鬼源さんに要領は教わって来たけど、果たしてうまくお嬢様は切って下さるやろか」
といい、青いバナナをしげしげと見つめるのだった。
「友子さん」
美沙江は涙を一杯潤ませた瞳に憎悪の色をはっきり浮かべて友子を見る。
「あ、あなたに恨みを受ける覚えはありませんわ。お母様だって、あなた達二人を特に可愛がっていらっした。そ、それなのに、どうして美沙江はこんな恐ろしい仕打ちをあなた達に受けなきゃならないの」
そういった美沙江はもう押さえがきかず、白磁の華奢な肩先を慄わせて号泣するのだ。
「ふん、恩着せがましい言い方はやめてんか」
友子は麻縄でがっちり上下を緊め上げられている美沙江の可憐な乳房を指ではじいた。
「うちらを、まだ自分の女中やと思うていたら承知せんよ」
友子は底光りするような冷酷な眼を美沙江に注ぎかけていった。
「元々、うちら二人は不良の出や。それをあんたの所のお袋さんが世間知らずのお人良しゃから信用して女中に使ったまでの話やないの」
友子と直洗は調教柱に縛りつけられている美沙江の肩に左右から手をかけて荒っぼく揺さぶりながら毒づくのだ。
「うちら葉桜団の幹部になったんや。これからうちら二人の面倒は銀子姐さんが見てくれはる。お嬢さんとうちらははっきりこれで敵味方、いや、主人と奴隷の間柄になったんやさかいな、それだけははっきりいうときまっせ」
と、友子は小鼻を動かせていうのである。
「銀子姐さんと鬼源さんにうちら、お嬢さんの身体の事は任されたんや。元女中の手でバナナ切りの練習した方がお嬢さんかて気が楽というもんやろ」
友子と直江は続けてそういうと揃ってキャッキャッと笑い出す。
美沙江がその肌理の細かい華奢な象牙色の裸身を小刻みに慄わせ、激しく嗚咽し始めると、友子は嬉しそうな表情になって今度は優しく美沙江の肩にまで垂れかかる黒髪に手を触れさせるのだった。
「少し、いい過ぎねかしらん。ごめんね、お嬢様」
友子は深く首を垂れさせる美沙江の熱い頬を両手ではさんで静かに顔を引き起こさせると、
「とにかく、私達二人はお嬢様が憎いのではなく、可愛いのよ。はっきりいうと愛しているのやわ」
女同士の愛というものかてあるのやで、と友子と直江は左右から美沙江の火照った美しい頬に軽い口吻を送りつつ眼は次第に異様な光を帯び始めるのだった。
かっての女中の前に一糸まとわぬ素っ裸を晒しているだけでも凍りつくような屈辱なのにその卑劣な女中に女の愛を告白され、接吻の雨を注がれる美沙江はもう生きた心地もなく唇を噛みしめてその虫ずの走るような汚辱の感触を必死に耐えているのだった。
「銀子姐さんに私達、許可してもらったんよ。お嬢様を私達二人の可愛い恋人にしたってかまへんとね。その代りお嬢様の調教の手伝いは責任持ってやらなあかんのよ」
友子は美沙江から身体を離すと、青いバナナを一本手にしてぴったりと揃わせている美沙江の象牙色の美麗な太腿の上を軽く叩くのだった。
美沙江はその瞬間、たまらない嫌悪の戦慄が身内を走り、ブルッと腰部を痙攣させる。
「出、出来ないわっ、私、そんな事、絶対に出来ません。ああ、友子さん、そんな恐ろしい事は堪忍して下さい」
「そうはいかんのよ」
友子は美沙江の激しい狼狽ぶりを面白そうに見ていった。
「銀子姐さんと約束したんや。うちらの手で芸当の一つや二つはお嬢様に仕込み上げてみせるってね」
すると、直江もせせら笑って、
「静子おば様も珠江おば様もこういう芸はもうとっくに覚えてはるのよ。お嬢様やってそろそろ覚えて下さらへんと」
といい、持って来た化粧箱の中から妖しげなクリーム瓶を取り出すのだ。
「これを最初たっぷり塗るんですって。私達、鬼源さんからちゃんと教わってきたんよ」
直江がクリーム瓶の蓋を開けると、友子がガクガク慄えている美沙江の下腹部に腰をかがめる。
「嫌っ、ああ、もうそんな事やめてっ」
友子が美沙江の淡い柔らかな繊毛を指先で優しく撫でようとすると美沙江はひきつった声をはり上げ、華奢な腰部を右に左によじらせるのだ。
「まあ、すっかり潤みがなくなってるやないの。これじゃ、仕事がやり憎いわ」
「も、もうこれ以上、美沙江に恥をかかせないでっ、友子さん、お願いっ」
美沙江は直江の手が再び、麻縄に緊め上げられている乳房にかかり、それを粘っこく掌で揉み上げられると長い黒髪を揺さぶって泣きじゃくる。
「気分を出すんや。ええな、お嬢さん」
友子も腰を上げて美沙江の雪白のうなじから耳たぶ、それに真っ赤に火照り始めた頬を唇でくすぐったり、舌先を通わせたりするのだった。
先程、美沙江におぞましい圧力計をかけ、美沙江がその華奢で清らかに澄んだ令嬢とは信じられぬ位の敏感な反応を持つ事を友子も直江も知っている。
如何にも初々しい容姿を持つ美沙江があんなにもおびただしい悦びの樹液をあふれさせるなど、それには友子も直江も驚いたのだが、同時にこの令嬢に対し気安さのようなものを感じたのだった。
案の定、美沙江は二人の元、女中の粘っこい愛撫を受けているうちに次第に熱っぼい喘ぎを洩らすようになる。
「お嬢様、ねえ、キッスして」
美沙江の麻縄に緊められた乳房を揉み、そのいじらしい薄紅色の乳頭に熱っぼい口吻を注ぎかけていた直江は唇を移行させて美沙江の喘ぎつづける唇に重ね合わそうとする。
美沙江はもうそれを強く拒否する力はなかった。元、女中の直江と唇を合わせねばならぬという嫌悪の情も薄れ、自暴自棄になったように直江に強く頬を押しつけられるとそのまま身を任せるのだった。
「ねえ、舌を吸わして」
美沙江はただ唇を重ね合わせるだけで舌をのぞかせようとはせず、それをもどかしく思った直江は更に積極性を帯びて美沙江を強く抱擁する。
全身からすっかり力が抜けてしまった美沙江は小さくすすり上げながら唇をわずかに開き、直江の舌先の侵入を許した。
「好きよ、私、以前からとてもお嬢様が好きだったのよ」
直江は激しい息遣いと一緒にそういうと美沙江の唇から口中深くにまで舌を差し入れ、熱っぼく愛撫し、美沙江の甘美な舌先を強く自分の方に吸いこむのだった。
美沙江はもうすっかり全身を痺れさせて直江のするがままになっている。というより、直江の口吻の巧みな技巧に美沙江の全身は更に甘く痺れ切り、反撥の力などすっかり失ってしまっていたのである。
「あんたばっかりせずにうちにもお嬢さんとキッスさせてんか」
友子は直江の肩を叩いてようやく美沙江から離れさせると今度は自分が美沙江の白磁の華奢な肩先を両手で抱きしめる。
「こうして思いこがれていたお嬢様とキッスが出来るなんて、何や、天にも昇るような心地がするわ」
友子はそういって唇を美沙江の唇に強く触れさせていく。
美沙江は友子に対しても何ら拒否は示さず、うっとり眼を閉じ合わせたまま甘美な接吻の答礼を示すのだった。
美沙江の長い黒髪や艶っぼいうなじあたりから高貴な香りがほんのり匂い立つようで貪るように美沙江の舌を吸いつづける友子は恍惚とした気分になっていく。
美沙江がかっての二人の女中と屈辱の口吻までかわしたという事、それは更にこれから二人の女中に加えられる屈辱行為を承諾したという意志表示♢♢そのように友子と直江は解釈するのだった。
「フフフ、大分、潤んで来たわ」
再び、美沙江の前に腰をかがませて美沙江のその淡い夢のように柔らかな繊毛がしっとり潤み始めているのに気づいた友子は、
「それじゃ、直江。お嬢様にクリームを塗ってよ」
と楽しそうにいい、
「さて、どのバナナにしようかな」
と調教柱の前においてあるバナナの一本一本を手にしてその固さを計り始めている。
「さ、お嬢様、クリームを塗るから少し肢を開いて下さらない」
直江は指先にたっぷり黄味がかったクリームを掬い取り、美沙江の前に腰をかがめている。
美沙江は真っ赤に上気した顔を横へねじりながらすっかり覚悟をきめたようにぴったり閉じ合わせていた雪白の両腿をわずかに開き始めるのだった。
「まあ、素直にやってくれる気になったのね。嬉しいわ、お嬢様」
直江は美沙江が嗚咽にむせびながらも柔順に両肢を割って受容の肢体を取った事を悦ぶのだ。
「最初は少し痒くなるそうだけど我慢するのよ。何しろ、筋肉を刺戟して収縮をよくするクリームなんやから」
あっと美沙江が声を上げた時はもうおそくジーンと背骨まで痺れるような異様な快感と嫌悪感が並列的にではなく全く一つのものとなって美沙江の全身を貫いた。
思わず開き加減にした両腿を美沙江はぎゅっと固く閉じ合わせたが、
「いい子ねえ。さ、そんなに身体を固くしちゃ駄目。うんとリラックスして頂戴」
と直江は甘ったるい声を出して指先を操作させるのだった。
「そう、そう、そんな風に身体を柔らかくして頂戴。私達は元女中なんだから気兼ねなんかいらない。そんな気持になって遠慮しちゃ駄目よ、お嬢様」
直江は指先を器用に使い、美沙江が身をよじらせて優雅なすすり泣きと一緒に情感があふれて来たのに気づくと、チラと友子の方に眼くばせをするのだ。
「ほんなら、始めましょうか、お嬢さん」
友子は直江と交代して美沙江の前に身をかがめるとフルフルと痙攣する美沙江の雪白の美麗な太腿とその附根に淡く翳っている繊細な繊毛に眼を注ぎながら、ゆっくりとバナナの皮をむき始めるのだった。
「千原流家元の御令嬢がこんないやらしい芸当を教えられるなんて、ほんま、かわいそうな話やけど、これも運命やと思うて諦めるより仕様がないやないの、な、お嬢さん」
友子は美沙江の屈辱と羞恥で真っ赤に染まっている顔を見上げていった。
(お母様、美沙江はとうとう地獄へ落ちてしまいました。千原家の家名に泥を塗ったこの美沙江をどうかお許し下さい)
美沙江は恐怖と懊悩の中で祈るように小さく口に出していスノのだ。
「フフフ、さ、お嬢様」
バナナの白い美を手にした友子は静かに美沙江へ触れさせていく。美沙江のしなやかな腰部と両腿が同時にひきつった。
「一度、深くお腹へ入れるのや」
「それから筋肉を使って切って見る。さ、お嬢様、勇気を出してやってごらん」
友子と直江は美沙江のしなやかな顔にぴったりとまといついて懸命に声をかけるのだった。
美沙江の優雅なすすり泣きは何時しか激しい啼泣に変っていた。その時は美沙江は甘美な吸引力を示し始めていたのだが、そんな汚辱の淵にまでこの深窓の令嬢を追いこんだ嬉しさで友子も直江も酔い痴れた気分になっていたのである。
黒い淫獣
円卓の上にはビールが数本並び、二人の黒人は血のしたたるような肉をガツガツ食らっては互いのコップにビールを注ぎ合っているのだった。
「よく食らいやがるな」
鬼源は苦笑して床の間を背にしている田代の方に眼を向けるのだった。
「いいじゃないか、これから御婦人方と白黒コンビを組んで実演に映画に出演し、大いにこっちを稼がして下さるんだ。充分にスタミナをつけてもらわなくちゃあな」
田代は千代の酌を受けて日本酒を飲みながら愉快そうにいった。
この二人の黒人は鬼源が連絡をとって連れて来たものであり、鬼源はマネージャーの役も兼ねているようである。
「この二人、あの方はプロというだけあり、凄いんでしょうな」
と時造が鬼源に尋ねると、
「まあ、四時間以上、時間をかけねえとセックスをした気にならねえというのですがね。その間にまた四発から五発、ぶちかましてもケロリとしてやがる。まあ、セックスのためにこの世に生まれて来た奴ですよ」
と、鬼源がいったので円卓を囲む一座はゲラゲラ笑い出した。
「それが今夜、静子と決戦するというわけね。愉快だわ」
もう酒気を帯びて真っ赤な顔になっている千代は隣に坐る順子の肩を叩いて笑いこけている。
「まともにこんなのとおっ始めると前の方はすり切れてしまいますよ。だから、時々、尻の穴を使って調節しねえと身体がガタガタになってしまいますからね。俺が静子の尻に磨きをかけた意味がわかるでしょう」
鬼源にそういわれた千代は満足そうにうなずいて、
「ええ、よくわかったわ。鬼源さんがあれだけ磨き抜いたんだから、静子夫人もこの黒人相手に決してひけをとらないと思うわよ」
といい、卓の前に足を投げ出しながらビールを飲むジョーのユーモラスな顔を楽しげに見つめるのだった。
ジョーは喧嘩したのが原因で鼻の形が曲がっている。皮膚が黒光りし、頭髪はモジャモジャでテカテカした額の下には白眼勝ちの眼が光っているのだ。
ブラウンは皮膚が黒光りしているのはジョーと同じだが、ジョーと違って表情は精悍であり、体つきも筋肉が引き緊まってがっちりとしている。
しかし、いずれにせよ、ポルノ雑誌のモデルや白黒実演を渡世にしている人種、しかも気味の悪い黒人♢♢これと、上流社交界の花形であり、絶世の美女と批評された遠山コンツェルンの令夫人、遠山静子が今夜夫婦の契りを結び、いよいよ本格的な国際ポルノスターの道を歩むのだと思うと美沙江は魂が痺れる程の嗜虐的なうずきを感ずるのだった。
その時、襖の外から銀子の声がする。
「千代さん、一寸、来てくれませんか」
千代と順子は同時に腰を上げや。
襖を開くと、銀子はニヤリと笑い、廊下の後ろを指さした。
そこには川田に縄尻をとられる静子夫人と朱美に縄尻をとられる珠江夫人がうなだれるようにして立っていたのである。
「まあ、綺麗ねえ」
千代と順子は一緒に溜息をつくようにいい、すっかり美しく化粧された二人の令夫人を見くらべるようにした。
静子夫人も珠江夫人も髪の形を綺麗に整えて化粧された容貌は一層、気高く、優雅に照り映えていた。二人は揃ってハート型のバタフライをその女っぼく成熟した腰部にぴっちりと緊めているのである。
「まあ、よく似合うわ」
千代は二人の令夫人の腰でキラキラ輝く煽情的なバタフライを指さし、順子と一緒に声を立てて笑うのだった。
静子夫人の腰に喰いこむバタフライは金色に輝き、珠江夫人の腰を緊めるバタフライは銀色にキラキラ輝いている。
「舞台効果満点よ。三人ともとても官能的に見えるわ。さ、お客様の所へ行って御挨拶して下さいね」
千代が静子夫人の縄尻をとると順子が珠江夫人の縄尻をとった。
「さ、歩いて頂戴」
静子夫人の伸びのある優美な裸身は千代に滑らかな乳色の肩を押されてニグロ達の待ち受ける部屋へ歩まされていくのだった。
続いて順子に縄尻をとられた珠江夫人が柳腰に緊められたバタフライをキラキラ輝かせながら一足おくれて部屋に入って行く。
「ほう、これは悩ましい」
田代はバタフライをつけられた美女二人が登場すると持っていた盃を卓へ置いて感心した表情になり、かなり、酩酊している鬼源は急にパチパチと拍手して、
「待ってました」
と、景気をつけるように大きな声を上げた。
すると、卓の上に大きな足を投げ出していたニグロ二人はモソモソと巨体を動かし、口のあたりに指を当てると、甲高い調子の口笛を吹き始めるのだ。
獣欲の踊り
床の間には静子夫人と珠江夫人を酒席の晒しものにするため、あらかじめ白木の柱が二本立てられてある。
鬼源はピカピカ光るバタフライを腰にした二人の令夫人に酒の卓を二、三周廻らせてから、
「床の間へ行きな」
と、二本の柱を指さすのだった。
静子夫人も珠江夫人もその冷たい象牙色の頬を共に凍りつかせ、艶やかな乳色の優美な裸身を寄せ合うようにしながら床の間に向かってゆっくりと歩き始める。
黒人のジョーとブラウンはしきりに口笛を吹き、露骨な程、興奮を示しているのだ。
バタフライの細い紐をぴっちりと亀裂に喰いこませている二人の夫人の官能的な双臀が悩ましく揺れ動き、それは酒席へ何か淫臭をふり撒くような強烈な刺戟となる。黒人二人は完全に神経を昂らせて、二人の間にしか通じない英語で早口に何かしゃべり合うのだった。
静子夫人と珠江夫人はそれぞれ柱を背にして立ち、客席の方にバタフライ一枚の悩ましい全裸像をはっきりと晒した。
鬼源と川田が近寄って三人の夫人を別の麻縄を使い、かっちりと柱につなぎ止める。
数本の麻縄を乳房の上下にきびしく巻きつかせている三人の夫人のねっとり脂肪を浮かべた乳色の美肌と股間にぴっちり喰いこんでいるハート型の金色と銀色に輝くバタフライ、それが何ともいえぬ官能的な息苦しさを感じさせるのだ。
その柱を背に立位で縛りつけられた令夫人二人を酒の肴にして黒人二人を取り並く酒席は一段と活気を呈して来た。
「まず、時造さんから御紹介するわ」
千代は時造の肩に手をかけながら柱に縛りつけられている静子夫人と珠江夫人を楽しそうに見つめる。
「岩崎親分の弟さんで、現在は岩崎一家の大幹部なのよ。この時造さんにお願いして千原美沙江嬢を女にしてもらったの」
千代がそういうと、固く眼を閉じ合わせて男達の酒に濁った視線に耐えていた静子夫人と珠江夫人は同時に眼を見開いた。
美沙江を凌辱した憎みてもあまりある男♢♢静子夫人と珠江夫人の涙をねっとりと潤ませた瞳にキラリと憎悪の感情が走った。
それを見てとった千代は口元に冷笑を浮かべて、
「何か不服そうね。文句があるならいってごらんよ」
と、はっきりと憎しみの色を顔面に浮かばせている珠江夫人を見ていった。
「お嬢さんを優しく水揚げして下すった時造さんに珠江夫人から感謝の言葉をかけてほしい位だわ」
と、今度は大塚順子が口を開き、千代と顔を見合わせて笑い合った。
「俺に大分、恨みを抱いているようだな」
といいながら時造はのっそりと立ち上がって、珠江夫人の口惜しげな表情をせせら笑いながら見つめる。
「俺に何かいいたいならいってみなよ」
時造は酒に火照った頬をつるりと撫ぜて珠江夫人の気品のある鼻先を指でつまみ上げようとした。
珠江夫人はさっと顔をねじって、胸に熱っぼくこみ上げて来た憤怒を叩きつけるように、
「けだものっ」
と、昂った声で叫んだのである。
「何だと、もう一度、いってみろ」
時造は忽ちけわしい表情になる。
「あなたのようなけがらわしい男にお嬢様が自由にされたと思うと♢♢」
珠江夫人の昂った声が未だ終わらぬ内に順子は眼をつり上げて夫人の横面を激しく平手打ちするのだ。
「時造さんに対して何という口をきくのよっ」
更に珠江夫人に対してつかみかかろうとする順子の肩を時造はなだめるようにして押さえる。
「ま、いいさ。俺はこういう風に気性の強い女が好きなんだ。どうかね」
と、時造は大塚順子の顔を見て、珠江夫人の方に頓をしゃくりながら、
「今夜、俺の寝室へこの女をよこしてくれないか」
と、白い歯を見せていうのだ。
「そりや面白いわ」.
と、千代が順子に代っていった。
「千原流華道の家元を継ぐ娘とその後援会長を時造さんが一手に引き受ける。これは愉快じゃないの。美沙江と珠江夫人はつまり、何とか姉妹という関係になるわけよ」
これで千原流華道はいよいよ木っ葉微塵に粉砕された事になる、と順子は胸のすくような気分で千代と眼を見合わせ、うなずいて見せるのだった。
珠江夫人の端正な容貌は屈辱にひきつっている。
「珠江さま」
と、隣の柱に縛りつけられている静子夫人は柔らかい睫をひっそり閉じ合わせたまま優雅な白い頬を哀しげにそよがせていった。
「さからえばさからうだけこの人達は難題を吹きかけてくるのです。耐えなければいけませんわ。私達はもう女奴隷なのです」
ともすれば神経を昂らせ、この卑劣な男達に反撥を示そうとする珠江夫人を静子夫人は押さえようとしている。
静子夫人はもう如何にあがき、反抗したとてどうにもならぬ奴緑の辞めを心にも体にも持っていたが、珠江夫人は完全に彼等に降伏する事の出来ないいわば若さというものを未だ心のどこかに持っていた。それを捨てなければますます自分が苦境に追いこまれていくという事を静子夫人は知っている。
「よし、それじゃ、珠江の方は時造さんに今夜は可愛がられるんだ。いいな」
と、鬼源はコップ酒を口に運びながらいい、
「それから、静子はジョーとブラウンに可愛がってもらうんだ。わかったな」
と、今度は静子夫人のしっとりと翳りを含む情感的な横顔を見ながらいうのだった。
「おい、返事をしないか」
「わかりましたわ」
静子夫人はチラと鬼源の方に濡れた美しい黒眼を向けて、哀しげにうなずいて見せている。
その時、もうかなり酩酊した二人の黒人がフラフラと立ち上がって奇妙な唄をうたいながら踊り出したので一座はどっと笑い出した。
「奴等の得意の踊りですよ。いい気持に酔ってくると何時も裸踊りを始めやがるんです」
鬼源はゲラゲラ笑いながら田代にいった。
ジョーもブラウンも踊りながらシャツを脱ぎ、ズボンを脱ぎ出した。
派手な縞柄のパンツ一枚で腰をくねらせながら手を取り合って踊っていた三人の黒人はそのまま互いにパンツまで脱ぎ出したのである。
「まあ」
千代と順子は全裸になった黒人を見て驚きの声を上げた。
黒褐色の脂をひいたようにテカテカ光る肌にまるで獣の毛のように密生している胸毛、それだけでも異様な感じなのにその股間に直立している巨大な黒い棒を眼にした千代と順子は呆然とした表情になったのだ。それはまるで人間離れしているともいえる。
銀子と朱美は、まあ、気味が悪い、といい、眼をそらし合って、クスクス肩を慄わせて笑っている。
「奥様、御覧なさいな。今夜のお相手はあれなのよ」
千代は黒人の踊りから逃げるように床の間に縛りつけられている静子夫人の横へ寄り添い、笑いこけながら夫人の顎をぐいと持ち上げるのだ。
ふと、それに眼を向けた静子夫人は強烈な衝撃を受けたようにハッと眼をそらせた。
「どう、あれを見ると捨太郎なんかの比じゃないわね。全くすごいじゃない」
千代は静子夫人が狼狽を示した事に気をよくしたのか、小刻みに慄える夫人の艶っぼい乳色の肩に手をかけて楽しそうに揺さぶるのだった。
「見なきゃ駄目よ。彼等はわざわざ奥様の眼に入れるために披露してくれているのよ」
千代は象牙色の頬を赤く染めてから必死に眼をそらせようとする夫人の顎を再びとって叱咤するようにいうのだ。
静子夫人は半分ベソをかいたような表情で奇妙なダンスを始めている黒人の方へ眼を向けた。
二人とも六尺以上はある大男で黒光りした肌を電気の光波にキラキラ輝かせながら、淫猥なポーズを織り込む奇妙なダンスをくり返している。相手と握手したり、次に互いの股間のものを握り合ったりして酒席をキャッキャッとわかせながら床の間の柱に縛りつけられている静子夫人に近寄っていくのだ。
静子夫人は二人の黒人の醜悪な顔がぬ−と前に近づいて来ると思わず嫌悪の身慄いをしてさっと横へ顔をねじるのだった。
黒人特有の強烈な体臭と野蛮で野獣的な強靭な肉体♢♢それが柱に立位で縛りつけられた静子夫人の優美な肉体に踊りながらまつわりついて来るのである。
夫人は息がつまりそうになり黒人の毛むくじゃらの手が肩にかかった瞬間、悲鳴を上げた。
それを見物する千代と順子は互いの肩に手をやるようにして笑いこけている。
ジョーがおどけた仕草で腰をくねらせ、夫人の成熟し切った乳白色の太腿に自分の黒い肉魂をすりつけ出したからだ。
汚辱と嫌悪の感覚が々の部分から背骨にまでジーンと響き渡り、夫人の恐怖の慄えはますます高まっていく。
「ああっ」
突然、ブラウンは正面から夫人の柔軟な肩を強く抱きしめ、ぴったりとその大きな黒光りした裸身を密着させてきたのだ。
黒人のぬらぬらと汗に濡れた強鞍な身体に抱きすくめられた夫人は黒人のヤニ臭い独特な体臭とその力強さに一瞬、気が遠くなりかける。ブラウンはしかも、夫人の腰にぴっちり緊められているバタフライの上に自分の黒い肉塊を露骨に押しつけてくるのだ。
静子夫人は美しい眉根をしかめ、激しく首を振り、緊縛された優美な裸身を狂おしく悶えさせたが、夫人の上背のある見事な肉体もブラウンの巨体の前ではまるで子供に等しかった。
「スバラシイ、奥サンノ体、スバラシイ」
二人の黒人は柱につながれた静子夫人の肉体を揺さぶり、揉み上げながらたどたどしい日本語でしゃべり出す。 遂に、黒人にまで凌辱される事になったのか、と思うと夫人はもう自分は地獄の終着駅にまでたどりついたような悲痛な気持、というより、到達点に達したような諦めの感慨を持ち始めたのである。
ブラウンに抱擁され、ジョーに首すじから頬のあたりにチュッチュッと接吻の雨を注ぎかけられながら夫人はこの黒人達の野獣性に対抗しようとする野獣めいた不逞な官能のうずきがこみ上げて来たのだ。
ブラウンは静子夫人をがっしりした腕で抱きしめながら酒くさい息を吐きかけて夫人の唇に唇を押しつけようとする。そのたくましい腕力に抱きすくめられると夫人は骨も肉もバラバラに引き裂かれるような痺れを感じてしまうのだ。
夫人はもう抗う術はなく黒人の分厚い唇で唇をふさがれ、息のつまる思いになって緊縛された裸身を悶えさせるのだった。
しかし、ブラウンの唾液に濡れた大きな舌先が、唇を割って口中へ侵入して来た時、何か官能のくさびを打ちこまれたような衝撃を受け、夫人の五体は宙に浮き上がるような痺れを感じ、その時はもう我を忘れてブラウンの舌先を夫人は強く吸い上げていたのである。
千代も順子も田代も川田も、静子夫人が黒人とぴったり唇を重ね合わせ、熱烈な接吻を演じ出したのに気づくと揃って拍手し、声を合わせて哄笑するのだった。.
植物油にも似た強い匂いを持つ黒人の口臭も今は気にならず静子夫人は野獣的な欲情をそそられてブラウンの舌先を夢中で愛撫するのだったが、ジョーはそんな夫人の乳房から鳩尾、そして腹部あたりにかけてまるで何か儀式の形式をふむかのように掌で微妙にまさぐり、熱っぼい口吻を注ぎかけるのだ。
そして、更に唇を移行させて夫人のぴったり揃えさせている妖しい白さをもつ太腿に舌先を押しつける。
黒人の舌先を身体に受けるという嫌悪感はとっくに夫人の感覚から消え失せ、身体の芯にまでうずくような異様な昂りを夫人は感じ出したのである。
ジョーは夫人の悩ましい曲線を描く腰部にぴっちり喰いこんでいる艶めかしいバタフライの上を軽く掌でふれる。
「奥サンモ見セテ下サイ。イイデショウ」
ジョーは白い歯をニヤリと見せてその金色にキラキラ輝くハート型のバタフライを軽く掌で叩くのだった。
「嫌っ」
静子夫人は黒人の手がバタフライの紐にかかるとふと我に返ったように成熟した太腿を重ね合わせ、上気した美しい顔を左右に振るのだ。そのわずかに身を隠す薄い楯が剥ぎ取られると彼等の人間離れした巨大なものがすぐに自分を田楽刺しにしてくるのではないか、そう思うと恐怖の慄えが生じ、腰部がガクガク痙攣するのだ。
隣の柱に縛りつけられている珠江夫人は静子夫人にまといつく全裸の黒人二人にまともに視線を向ける勇気はなく、これも恐怖のため、顔面を蒼白にしてガクガクと慄え続けている。
「コチラノ奥サンモステキナ美人デスネ。アナタモ見タイ」
ジョーとブラウンが恐怖に慄える珠江夫人の方に視線を投げかけ、ニヤニヤして近寄って行こうとすると、静子夫人はハッとして顔を上げ、
「待って」
と、昂った声を出すのだった。
せめて、この獣に等しい黒人からは珠江夫人を救わねばならぬと静子夫人は血走った気持になったのである。こんな恐しい野獣に挑まれるような事になれば珠江夫人は本当に発狂してしまうかも知れない。そう感じた静子夫人は無理に媚を含んだ微笑を口元に浮かべて、
「あなた達のお相手はこの私よ」
といい、薄笑いを浮かべる二人の黒人にねっとりした情感的な視線を差し向けて、
「私もお見せするわ。腰のものを脱がせて頂戴」
と、甘いハスキーな声で誘いこむようにいうのだった。
黒人二人は奇妙な歓声を上げて再び静子夫人の柔軟な腰部にまといつき、煽情的なバタフライの紐を解こうとする。
ブラウンが紐を解く間、ジョーはまた、そのピカピカ輝くバタフライの上を指先でいたぶり出し、すると、眉根をしかめて悩ましく腰を揺さぶりながら静子夫人は怒ったような声音で、
「駄目。悪戯するなら全部剥いでからにして頂戴。それまで待てないの」
と、いうのだった。
見物する田代達は静子夫人がこの黒人二人に対して色仕掛けの攻勢をとり出したのに気づき、満足げな微笑を口に浮かべるのだった。
ブラウンは解けない紐にじれていきなり両手をひっかけて紐を引きちぎり、皮でもむくようにバタフライを引き下げる。
官能味を持った肉づきのいい夫人の太腿を伝わってそれがひき剥がれていくと、黒人二人はまた黄色い声をはり上げながら足首から抜き取ったそれを遠くの方へ投げ飛ばすのだった。
ステキ、ステキ、を連発しながらジョーとブラウンは一糸まとわぬ素っ裸になった静子夫人の前に腰をかがめるのだ。
黒人二人の異様に光る眼は夫人の露に晒け出された漆黒の悩ましい繊毛のふくらみに向けられている。
黒人の貪るような視線が自分のそれに向けられているのに気づいた夫人は熟れ切った乳色の太腿をうねらせるようにしながら、
「如何、お気に召しまして」
と、わざと甘い声音で囁くようにいうのだった。
それはこの二人の黒い野獣に対する静子夫人の挑戦だと受け取った千代は遂に夫人をここまで追いつめた悦びに全身をうずかせる。
「ね、ジョーもブラウンももうカッカと燃え上ってますわ。珠江夫人とのレズショーはまたこの次という事にしてすぐにお床入りさせてやりましょうヨ」
と千代は田代の顔を見ていった。
千代は少しでも早く静子夫人を黒人の手で汚させたいと願っている。静子夫人の育ちの気高さ、教養の豊かさ、そして天性の美貌が今度は黒人達の手で落花無残に荒らされるのだと思うと千代はいよいよ最後の仕上げにかかる日が来たような嗜虐の昂りを感じるのだった。
「よし、静子は早速、黒んぼと寝室へ行くんだ。それから珠江の方は、時造さんに任せよう」
田代が声をはずませてそういうと、早速、鬼源はその手配にかかり始める。
柱から静子夫人の縄尻を解いた鬼源はそれをジョーの手に握らせて、
「お前達の寝室はこの廊下の突き当たりだ。時々、俺達はのぞきに行くからな」
と、黄色い歯を見せてぼんとブラウンの肩を叩くのだった。
「OK」
と、ブラウンは鬼源と握手し、すぐに静子夫人の乳色に輝く柔軟な肩を手をかける。
「サ、行キマショウ。ウント可愛ガッテアゲマスヨ」
黒人二人の毛むくじゃらな手で左右から抱きすくめられた夫人は、そのむっとする彼等の強烈な体臭に美しい顔を歪めるのだった。
「ね、黒人とお床入りの前に一寸、ここで記念写真を撮りましょうよ」
千代は何時の間にかカメラを持ち出して来て三人の黒人に挟まれている静子夫人の前に立つのだ。
二人の黒人も、その黒褐色のぬらぬらした肌とは対照的にきらめくような乳白色の肌を持つ静子夫人も生まれたままの素っ裸。その三人をカメラに収めようとして身をかがめた千代は夫人の左右に気取ったポーズでつっ立つ黒人のそれが熱気を帯びて直立しているのに気づき、思わず吹き出すのだった。
「ちょっと、俯向いていちゃ駄目じゃないの。さ、カメラの方を向いて頂戴」
千代は深く前に顔を垂れさせている静子夫人に声をかけた。
静子夫人が紅潮した柔媚な顔を上げると、
「そんな情けない顔をせず、ニッコリ笑って見せてよ、奥様」
と、千代は含み笑いをしながらいうのである。
黒人三人に左右から肩に手をかけられ、ひきつった笑顔を浮かべる静子夫人を見て田代は川田達と一緒にゲラゲラ笑い出す。
火のように熱気を持って直立する二本の巨大な肉塊♢♢それを左右に並べて息づく夫人の艶のある悩ましい繊毛のふくらみ♢♢それを男達の眼は一斉に凝視しているのだった。
やがて静子夫人の妖しいばかりの色白の肌が黒褐色の毒々しい肌に翻弄され、その夢幻的な感じさえする漆黒のふくらみが巨大な黒い矛先で蹂躙される♢♢男達はそれを想像するとふと酸鼻な感じを抱き始める。
「これだけの美人をニグロの玩具にさせるなんて一寸腹立たしい気分だな」
吉沢が苦笑して川田にいったが、それを耳にした千代は、
「何をいってるのよ」
と、怒った顔つきになるのだ。
「これからこの二人とコンビを組んで奥様は雑誌や映画に出演し、森田組の資金集めに協力して下さろうというのじゃないの。それに早くこの黒人に奥様と肉の契りを結んで貰って、仲のよいコンビになって下さらないと困るのよ」
静子夫人に対し同情的な言葉を吐けば千代はすぐにつっかかるのだった。
二人の黒人に寄り添われた夫人の写真を何枚かレンズに収めた千代は鬼源の方に眼くばせした。
「よし、じゃ、お前達、この美人を連れて行きな」
鬼源に再び声をかけられたジョーとブラウンは黒光りした顔面に喜色を浮かべて静子夫人の縄尻をたぐり、軽く背を押すのだった。
「待って下さい」
静子夫人は外へ引き立てようとするジョーに声をかけてから、床の間の柱にまだ縛りつけられたままの珠江夫人の方へ哀しげな視線を向けるのだった。
「静子さまっ」
珠江夫人は恐ろしい二人の黒人に引き立てられようとする静子夫人に対し、何と声をかけていいかわからず、ただ、白磁の肩先を慄わせて嗚咽するだけである。
「珠江さま。私の事はもう心配なさらないで。それより、お願い、決して短気を起こしたりはなさらないで下さいましね。何事にも耐えて下さいまし。お嬢様のためにも生き抜くという事をお忘れにならないで」
と、静子夫人は柔らかな睫を哀しげに慄わせながら涙の潤んだ翳の深い瞳をじっと珠江夫人に向けるのだった。
「わ、わかりましたわ。静子さまも耐えて、耐えて下さいまし」
後はもう言葉にならず珠江夫人は冴えた象牙色の頬を赤らめて深くうなだれたまま泣きじゃくるのである。
「寝室へ参りますわ」
静子夫人はその臈たけた美しい頬を凍りつかせて縄尻をとるジョーに声をかけ、ゆっくりと襖の方に歩き始める。
黒人二人は白い歯を見せ合って悦びをはっきり顔に表わしながら、夫人の乳色に輝く優美な裸身にぴったり寄り添い、共に歩き始めるのだった。
黒人二人に引きたてられて行く静子夫人を煙草をふかせながら小気味よさそうに見つめていた千代は、川田の方にチラと眼を向けた。
「ねえ、この三人をそこまで見送って行きましょうよ」
と、番所に引かれる羊にも似た静子夫人にまだ一言二言、嘲りの言葉を吐きかけたいのか、千代ははしゃいだ気分になって川田の手をとるのだった。
第九十五章 磨かれる二人
双花のしたたり
「時造さんと今、打ち合わせしたのだけれどね」
静子夫人が二人の黒人に引き立てられ、それに千代と川田が付き添って行ったあと、順子は床の柱に縛りつけられている珠江夫人の前に時造と二人で立つのだ。
「時造さんはあなたと契りを結ぶ前に美沙江とあなたに面白い事をして下さるそうよ」
順子は珠江夫人の香気が匂い立つような優雅な顔を痛快そうに見ていた。
「お嬢様と私に何をなさろうというの」
珠江夫人が柳眉をつり上げて順子を見つめると、
「そら、奥様はすぐそんな風にして反抗的態度を示すでしょう。それが私、気に喰わないのよ」
順子はそういってチラと時造を見るのだ。
「静子奥様のようにもう少し素直になりゃどうなの。ああして黒人二人のお相手をつとめるため彼女は素直に寝室へ向かったんじゃないの」
珠江夫人は固く唇を噛みしめ、順子から視線をそらせた。
「つまりだな。時造さんは調教の手助けをして下さるというのだよ。これからお前さんは美沙汰と仲よく一緒に調教を受けられるというわけさ」
鬼源はコップ酒を一飲みしてそういい、「な、時造さん」といって笑うのだった。
「俺は美沙江の最初の男だからな。どうしてもあいつのこれからの面倒を見たくなったんだよ。同時にお前さんみたいに気性の激しい人妻も俺好みだ。だから、二人同時に面倒を見てやろうといっているんだよ」
両手に花というわけだ。田代は太鼓腹を揺すって笑っている。
「静子は黒人二人に可愛がられ、おめえと美沙江は時造さん一人に可愛がられるというわけさ。鴬の谷渡りって知らねえだろうが、これも男にとっちゃ高級な遊びって事になる」
鬼源の言葉に珠江夫人の全身に恐怖の慄えが生じた。
美沙江と一緒にこの野卑な男の嬲りものになる♢♢そう思うとあまりの屈辱感に珠江夫人は半ば気が遠くなりかける。
「意味がわかった?ね、珠江奥様」
順子は狼狽の色をはっきり顔に現わせた夫人を面白そうに見ていたのだった。
「あのニグロの大男二人を向こうに廻して大奮戦しなきゃならない静子夫人にくらべりゃその方がずっと楽じゃない」
スルメを齧っている銀子がひきつった表情の珠江夫人に声をかけ、続いて朱美が、「そうすりゃ敬愛する美沙江嬢とはっきり何とか姉妹になれるというわけよ」
といってキャッキャッと笑い出すのだった。
「嫌ですっ、そんな事は絶対に嫌っ」
珠江夫人は耐えられなくなったように柱に立位で縛りつけられているしなやかな雪白の裸身を悶えさせるのだった。
夫人の形のいい腰部にぴっちりと緊められているハート型のバタフライがその身悶えと一緒にチリチリと鈴の音をさせて揺らぎ、銀色にキラキラ輝いた。
「それが嫌でなくなるように調教するのが俺の仕事さ」
「これからお前さんと美沙江を二人揃えて時造さんが浣腸して下さるからな。時造さんは二人のたれ流すものまで始末して下さるそうだ。そこまで面倒見てもらえば美沙江の気持もお前の気持もすっかりほぐれて時造さんに仲よくふたりで抱かれるという気分になる筈だよ」
と、続けてしゃべるのだったが、珠江夫人の顔面はすっかり蒼ざめ、硬化している。
「悪魔よ。あ、あなた達は本当に悪魔の化身だわ」
珠江夫人は陶器のように白い脛のあたりをブルブル慄わせながら声を上ずらせていうのだった。
「そういう憎まれ口をきくと自分が損になるだけって事がまだおわかりにならないようね」
順子は時造の耳に口をそっと当てて何か小声で囁いた。
「いいだろう」
時造は柱に縛りつけられている珠江夫人にニヤニヤした眼を向けながらうなずいて見せる。
順子は次に鬼源の方を向いて、
「春太郎と夏次郎を時造さんの助手につけようと思うの。いいでしょ」
と、含み笑いをしながらいうのだった。
両刀使いのおかまといわれる春太郎と夏次郎♢♢この種の人間に珠江夫人が生理的にぞっとする程の嫌悪感を持つ事を順子は知っていた。
「浣腸してあそこの筋肉を磨き上げるのはあの二人が最も適任者だと俺は思うね」
と、田代も横から口を出すのだ。
「よし、朱美。お春とお夏を呼んで浣腸の支度をさせろ。二人分だぜ」
鬼源は朱美に命令してから、柱を背にして血の気のひいた表情になっている珠江夫人に冷酷な視線を投げかける。
「そろそろお前さんもバックで相手を悦ばせるコツを覚えなきゃならねえからな。今日からそのコツを教えてやる。美沙江もお前さんにつき合うわけだ」
すると、順子が何ともいえぬ楽しげな表情を作って、
「何もそんなに慄えなくたっていいじゃないの。千原流のお家元と並んで仲よくお尻の穴をふくらませるわけよ。私もお手伝いさせて頂きますわ」
といい、鬼源の肩に手をかけて笑いこけるのだった。
「お、大塚さんっ」
珠江夫人は順子に何か呪いの言葉を吐きかけようとしたが、涙につまって言葉にならない。
「千原流のお嬢様と後援会長の奥様が仲よく並んで浣腸され、肛門に磨きをかけられる。ハハハ、盆と正月が一緒に来たような気分じゃありませんか、大塚女史」
田代は葉巻をくゆらせながら順子の顔を見ていうと、
「そうなのよ、社長。これで千原流に対する恨みがようやく晴らされた気分だわ。胸がスカッとした感じ」
と、順子は田代に握手などを求め、喜々とした表情になっていうのだった。
その時、朱美が戻って来て、春太郎と夏次郎が階下の一室で支度にかかり始めた事を順子に報告する。
「調教室の美沙江も部屋へ運びこむように友子に告げておきましたわ」
「そう、御苦労さま」
順子は微笑を作ってうなずき、再び、珠江夫人の方に眼を向けた。
「それじゃ、参りましょうか、奥様」
時造が珠江夫人の縄尻を柱から外した。
「さ、行くんだ」
時造は、固く眼を閉ざしてい珠江夫人の綺麗な睫より大粒の涙がしたたり落ち、その白蝋のような美しい頬を濡らさせているのを見て胸をときめかしている。
この自絹のような美麗な肌を持つ令夫人を美沙江と並ばせて浣腸を施す♢♢その奇抜な思いつきに身内が慄える程の昂りを時造は感じているのだった。
珠江夫人は時造に背を押されて、たった今、静子夫人が黒人達に連れ出された出口より廊下へ歩み出る。
順子、それに鬼源も突き立てられる珠江夫人に寄り添うようにしながら階段を降り始めた。
「ここよ」
先頭に立った朱美が指さす部屋を順子が開けると、そこは二間続きになっている日本間で奥の六畳に春太郎と夏次郎がせっせと二つの夜具を敷き始めていた。
ふと、部屋に入って来た一行に気づいた春太郎と夏次郎は媚態めいたしなを作って近づいて来る。
二人は派手なネッカチーフを首に巻き、水色のピカピカ光るシャツ、花模様のついたパンタロン、頭髪はスペインの闘牛師のようにセットし、全く男か女かわからないような服装をしているのだ。
彼等が接近した途端、珠江夫人は忽ち背すじに悪寒が走るような嫌悪感を覚えてハッと視線をそらせるのだ。
「フフフ、私達、この奥様には随分と嫌われているようね」
と、春太郎が身慄いする珠江夫人をおかしそうに見ていうと、夏次郎も続けて、
「ね、奥様、そんなに私達が気持悪いの。嫌な感じねえ」
と、いい、麻縄に緊め上げられた夫人の柔らかい乳房を軽く指で突く。
それだけでも夫人は、鳥肌立つ思いでブルッと身慄いし、さも苦しげに美しい眉根をしかめるのだった。
珠江夫人がこの種の人間に虫ずの走る程、嫌悪を感じるという事が、順子にとっては夫人に対する淫虐な責めの材料となる。
「そんなにこの人達を毛嫌いしちゃ駄目よ。これから奥様はお嬢様と一緒にこの二人の手で調教される事になったのですからね」
順子がそういうと、鬼源が、
「そうだ。男を尻で遊ばす事が出来るまでたっぷり時間をかけて肛門を開かせて下さる専門家なんだぜ」
といって哄笑するのだった。
「それだけじゃなく、まだ、下手糞なお前さんにおしゃぶりの仕方なんかも念入りに教えて下さるのさ」
鬼源のそうした恐ろしい言葉を聞かされているうち、珠江夫人は急にめまいを覚えてフラフラとよろめき、畳の上に膝をついてしまうのだ。
「あら、どうなすったの、しっかり遊ばせ」
春太郎、夏次郎は畳の上に俯伏せに身を伏せようとする珠江夫人の白磁の肩を左右から楽しそうに支えて揺さぶるのだった。
「話を聞いただけで腰を抜かすなんてみっともないじゃない」
順子は珠江夫人の縄尻を床柱につなぎながらせせら笑うようにいった。
「静子奥様のように黒人のあのすごいものをしゃぶらされる事を思えばゲイボーイのものぐらい何て事はないでしょう」
珠江夫人は身内に走る嫌悪と屈辱の戦慄をぐっとこらえながらその場にぴっちりと正座して血の出る程、固く唇を噛みしめている。
「あら、お嬢様がお越しになったわ」
順子のその声に珠江夫人ははじかれるように顔を起こした。
「まあ、お嬢様もバタフライをはかせてもらったの。可愛いわね」
友子に縄尻をとられて廊下を引き立てられて来る美沙江がその優雅な線を描く腰部に珠江夫人と同じくハート型に縁どられた煽情的なピンク色のバタフライをつけているのを見て順子は声を上げて笑い出した。
全身、雪を溶かせたような色白の美沙江の素肌、その胸の廻りには細縄が二重三重に痛々しく巻きつけられて可憐な二つの乳房をくびれるばかりに緊めつけている。
「お、お嬢様っ」
珠江夫人の悲鳴に似た声を耳にすると、精魂尽き果てたように虚脱した表情で引き立てられて来た美沙江はハッと立ち上った。
「あっ、お、おば様っ」
友子が握っていた縄尻を外すと、美沙江は白磁の肩先にまで垂れかかる美しい黒髪を揺さぶりながら、柱に縄尻をつながれてうなだれている珠江夫人の傍にかけ寄るのだった。
「ああ、お嬢様っ」
珠江夫人は、自分の肩に額を押し当てて号泣している美沙江と一緒に歯を噛み鳴らして嗚咽する。
地獄の責苦にのたうちつづけた美沙江に対してどのように慰め、どのようにいたわればいいのか、珠江夫人はその言葉がわからなかった。
ただ、互いに後手に縛り上げられた優雅な裸身をぴったりと寄せ合い共に肩先を慄わせて嗚咽にむせぶ、それより方法はないのだ。
「苦しかったでしょう、お嬢様。よく我慢なさって下さいましたね」
翳の深い美しい眼を真っ赤に泣き腫らせて夫人がいうと美沙江は夫人の白磁の肩先に熱い涙をしたたらせながら、
「口ではいえない辱しめを美沙江は受けたのよ。おば様、ああ、幾度死のうと思ったか知れない」
と、声をひきつらせていうのだ。
「お嬢様、勇気を出すのです。どんなに辱しめを受けても生き抜く勇気を持って下さいまし。何時かは必ず♢♢」
救われる時が来る、という珠江夫人の言葉も涙でとぎれてしまうのである。
共に屈辱的なバタフライを前に当て、それを細いビニールの紐で腰部につながれている珠江夫人と美沙江はぴったり身を寄せ合うようにして泣きじゃくる♢♢それを順子はつっ立ったまま恍惚とした気分で眺めているのだった。
「お嬢様はね、ついさっきまで前でバナナを喰いちぎる稽古をなすっていたのよ」
と、かっての美沙江のお付きの女中であった直江が珠江夫人に舌でも出すような調子で語りかけると、夫人は涙を一杯に滲ませた切れ長の瞳に憤怒の色をキラリと光らせて直江を睨みつけるのだった。
「よ、よくもそのような真似をお嬢様に−一」
口惜しげに奥歯を噛み鳴らす珠江夫人の凄艶な表情を順子はクスクス笑って見下しながら、
「自分のお付きの女中に裏切られるようじゃ千原美沙江ももうおしまいね。そんなこわい顔をなさらず、これから二人でどのような調教を受けるか、それをお嬢様にお教えした方がいいのじゃないかしら」
といい、さて、支度を手伝おうか、と友子や直江達もうながして奥の六畳へ入り、鬼源の指示で天井にロープを吊り始めるのだった。
「おば様、これから私達、一体、何をされるというの。ね、おば様」
美沙江はおろおろして珠江夫人にぴったりと身をすり寄せていく。
「とても、口ではいえない事ですわ、お嬢様」
珠江夫人は頬を赤らめ、苦悩の色をはっきりと表情に見せて眼を伏せるのだ。
「辱しめを受けるのは珠江も一緒なのです。お願い、お嬢様、死んだつもりになって耐えて下さいまし」
声を慄わせてそういった夫人は急に激しい勢いで美沙江に頬ずりし、
「ああ、かわいそうなお嬢様。こんな清純なお嬢様がどうしてこんなむごい仕打ちを受けねばならないのでしょう」
とうめくようにいい、どっと涙を溢れさせるのだった。
そこへ奥の間から春太郎と夏次郎がこっちへ向かってやってくる。
「今、鬼源さんがお二人の両肢を吊り上げるロープをつないでいるから、もう少し、お待ちになって」
といい、ぴったり身を寄せ合っている珠江夫人と美沙江の前に腰をかがめるのだ。 珠江夫人はこの変質男達が近づくとぞっとしたように美沙江を背に庇うようにしながら憎悪のこもった限を向けるのだった。
「いやーね、この奥様は余程、私達が嫌いなのだわ」
夏次郎は珠江夫人の蒼ざめ硬化する表情をフンとした眼で睨み返す。
「そんなに意地の悪い態度を私達に示すと御自分が損よ。これから私達はたっぷり時間をかけて奥様の肛門を開かせ、流通をよくするための仕事をしなきゃならないのよ。そう硬い簡度を示さず、仲良くなりましょうよ」
春太郎はそういって珠江夫人の雪白のしなやかな肩に手をかけようとするのだ。
「さ、さわらないでっ」
珠江夫人は反射的に身をよじり、後手に縛り上げられた裸身を美沙江と一緒に後ずさりさせるのだ。
「そんな邪慳な態度をとるならこっちも奥様にうんと意地悪してやるからな」
春太郎は小刻みに緊縛された裸身を慄わせている夫人と美沙江を睨みつけるようにしていった。
普通はその歯の浮くような女性言葉とくねくねした物腰に隠れて表面には出てこないが腹を立てて居丈高になると春太郎の眼は異様に輝き出し、不気味な冷酷さがジーンと顔に滲み出て来るのである。
「どうしたの、春太郎さん」
奥の間の支度が出来たのか、順子は鬼源と連れ立ってこっちへ近づいて来る。
「ええ、この奥様に手を焼いているのよ。全く私達を馬鹿にしているの。頭にきちゃうわ」
春太郎は順子の顔を見ると持前のくねくねした女っぽい物腰になるのだった。
「いいじゃない。どうせ、これからあんた達の手で浣腸されて吠え面かくんだから。その時にうんと意地悪してやればいいわ」
「そうね。連続して三回位浣腸し、身体の中のものをすっかり吐き出させてからドリルを使って肛門を開かせてやるわ」
と、春太郎がいったので順子と鬼源は笑い出すのだった。
「始める前にこの奥様とお嬢さまにこれからの調教についてよく説明して差し上げろよ、春太郎」
鬼源は咥え煙草をしたまま春太郎にいった。
珠江夫人と美沙江はもう生きた心地もなく緊縛された美しい裸身をぴったり寄り添わせながらガクガクと全身を慄わせている。二人の顔もすっかり血の気が失せて蒼白になっていた。
そうね、と春太郎は立ち上って静子夫人を調教した時の小道具がぎっしり入っているボストンバッグを持ち出して来る。
「静子夫人に使った小道具よ。彼女はこれで調教されて口が開き、卵なんか軽く呑みこめるようになったわ。そのおかげで黒人のものだって受け入れる事が出来る立派なものになったのよ」
などといいながら、春太郎はおびえ切っている夫人と美沙江の前に新聞紙を拡げ、その上にボストンバッグの中から取り出した奇妙な小道具を並べ始めるのだ。
ガラス製の太い浣腸器、パイブレーター、肛門拡大鏡と拡張器、綿棒、それに大小様々なガラス棒♢♢そんなものが一杯に並べられていくのにふと眼を向けた珠江夫人と美沙江は忽ち戦慄し、恐怖の慄えに全身を揺さぶられてあわて気味にそれから眼をそらせるのだった。
「最初は何回も浣腸して奥様とお嬢様にたっぷり排泄して頂くのよ。一度お腹の中のものをすっかり吐き出して腸の中を綺麗に洗い流して頂くわ。それからバイブレーターを使って筋肉を揉みほぐしながら少しずつ肛門の口を開かせていくのよ」
春太郎は得々として、雪白の艶々しい裸身を触れ合わせたまま慄えつづける二人の美女にしゃべりつづけるのである。
「それから綿棒を使って腸内の汚れを取り除き次にガラス棒を使って直腸にまでさし入れる。それを細い棒から使い始めて次第に太い棒に切り替えていくの。段々にそれに馴れればソーセージなど使ってみるわ。とにかく根気のいる仕事で男性を受け入れるまでになるには十日位はかかるでしょうけれどね。でも、そこが使えるようにならなくちゃ娼婦として一人前じゃないんですからね。奥様もお嬢様もがんばって下さらなきゃ」
春太郎のそうした説明を珠江夫人と美沙江は気が狂いそうな思いになって縮みこみながら聞いているのだった。
「おまるは生憎一つしかないけれど、これでいいかしら」
と、夏次郎は表からブリキの便器を一つ手にして戻って来る。
「いいわよ。一つを仲よく二人で使って頂くわ。浣腸が終われば奥様とお嬢様のお尻にこれを代る代る当てて上げるから、遠慮なさらずたっぷりたれ流して頂戴ね。私達も臭いのは我慢するわ、仕事なんだから」
春太郎はそういって夏次郎と一緒に笑い出す。
「それじゃ、奥様にお嬢様、浣腸を始める支度も出来たようですから、そろそろ奥の間へ参りましょうか」
順子は珠江夫人の縄尻を柱から解き始める。
「さ、お嬢様も立って頂戴」
珠江夫人は順子と鬼源に、美沙江は友子と直江にそれぞれ強引に肩をつかまれてその場へ引き起こされる。
「お、大塚さんっ。待って下さいっ」
奥の間へ引き立てられようとする珠江夫人は必死なものを眼に浮かべて縄尻をとる順子に昂った声をかけるのだった。
「お嬢様だけは許して下さい。ね、お願いです、大塚さん。私はその代りどのような責めでも悦んで受けますわ。まだ、十九になったばかりのお嬢様をそんなむごい目には合わさないで、後生です。大塚さん」
「うるさいわね。そら、奥の間をごらん。ちゃんと二人分の支度が整っているじゃないの」
奥の間の六畳には二つ夜具が敷かれ、その上の天井には横木が通されて二人の両肢を吊り上げるためのロープが四本、不気味に垂れ下がっているのだった。
「それではこれだけお願いしても♢♢」
「くどいわね」
順子は珠江夫人の悲痛な表情を嘲笑うように見て、
「さっさと行くのよ」
と、吐き出すようにいった。
「おば様、もう美沙江を庇わないで。美沙江はもう覚悟は出来ているのです」
美沙江は順子に肩を押されてよろめく珠江夫人に緊縛された裸身をすり寄せて行き、小さく嗚咽しながらいうのだ。
「おば様と一緒なら美沙江は恐ろしくないわ。ね、私、おば様と一緒に地獄へ落ちる決心をしたのです。ですから、もう大塚さんに慈悲を乞うような真似はなさらないで」
「ああ、お嬢様」
珠江夫人は美沙江の悲痛な覚悟を知ると、あまりのいじらしさに胸をまたつまらせてすすり上げながら、美沙江の繊細な線を持つ象牙色の頬へ強く頬をすりつけるのだった。
そのまま珠江夫人と美沙江は縄尻をとられて二つの夜具が敷かれている奥の間へ足を運ばせていく。
「ちょっと待ってね。汚れるとまずいからお布団にビニールを敷くわ」
春太郎と夏次郎は布団のシーツの上にビニールの布をひろげ、その上に一つ一つ枕を配置するのだった。
「奥様はこちら、お嬢様はこちら、お互いにお尻を枕の上に垂っけて仰向けに寝て頂くわ。それから両肢を思い切り開いてこのロープに足首をつなぐ。そうすりゃ、お二人のお尻の穴がぽっかりと浮き上るでしょう」
夏次郎は二つの夜具の前につっ立つ珠江夫人と美沙江の恐怖にひきつった顔を面白そうに眺めていた。
「それじゃ友子さんに直江さん。奥様とお嬢様のバタフライを脱がして頂戴」
順子に声をかけられた友子と直汀はうなずいて珠江夫人と美沙江の前と後に廻り、二人の双臀の間に深く喰いこんでいるバタフライのビニ−ル紐を解きにかかるのだ。
珠江夫人も美沙江も紐を解かれたバタフライがスルスルと太腿を伝わって剥ぎとられていくと頬を火照らせ、互いに顔をねじり合うようにして羞じらいを示している。
珠江夫人の足首からバタフライを抜き取った友子はふっくらと形よく盛り上った柔らかい漆黒の繊毛に悪戯っぽい視線を向け、
「ええ艶を出してるやんか。男がカッカッとくる筈や」
といい、掌でその上をソロリと撫でるのだった。
「よしてっ、友子さん」
元の美沙江のお付き女中になぶられる口惜しさで思わず頭に血がのぼり、珠江夫人は昂った声を出す。
「あなたのような恩知らずに辱しめを受けなきゃならない私の口惜しさがわかる? 両手をこうして縛られていなければあなたの横面をひっぱたいてやりたい位だわ」
「何やて、もう一ぺんいうてみい」
友子は眼をつり上げて珠江夫人の髪をわしづかみにしようとしたが、
「およしなさいよ」
と順子が笑いながら友子を制した。
「何もここでつかみかかる事はないじゃないの。これからこの奥様は仰向けに縛られ、枕を腰に当てて、かわいそうにお尻の穴まであなたの眼に晒さなければならないのよ。この奥様に腹が立つなら奥様の肛門を開かせるという春太郎の仕事に協力する事ね」
順子がそういうと、友子は我が意を得たようにうなずいて見せ、
「そうや、大塚先生のいう通りや」
と大きな声を出した。
珠江夫人は世にも哀しげな顔になり、横に眼を伏せて唇を噛みしめている。
「ね、こちらのお嬢様の方を見てよ。そっちの奥様にくらべて乙女の初々しさが感じられるじゃない」
美沙江のバタフライを足元から抜き取った直江はその周辺をわずかに翳らせる淡くて繊細な茂みを指さして笑っている。美沙江はそんな直江のからかいを無視したように涙でねっとり潤んだ抒情的な瞳で遠い方をぼんやり見つめているのだった。
盗られた恥態
「さ、お布団の上にお二人ともおとなしくおねんねして頂戴」
大塚順子が声をかけると友子と直江が美沙江の陶器のような光沢を帯びる肩と細くて華奢な腰に手をかけて横抱きにし、シスターボーイの春太郎と夏次郎が珠江夫人のねっとり冴えた優雅な背としなやかな腰部に手を廻してこれも横に担ぎ上げようとする。
春太郎のような俗におかまなどという変質者を極度に嫌悪する珠江夫人は彼等の手が肌にかかった途端、火のように昂った声をはり上げた。
「やめてっ、さわらないでっ」
「何をいってるのさ」
春太郎も夏次郎も冷酷で残忍な表情になっている。
「私達をおかまだと思って馬鹿にしているの。心配しなくたって私達はこれで両刀使いなのよ。とりわけ、あんたのような高慢ちきな女を見るとファイトが生じるのさ」
こうも珠江夫人に露骨に嫌悪の情を示されると、春太郎も夏次郎も気位を傷つけられた思いになり、腹立たしげに後手に縛り上げられている素っ裸の珠江夫人へまといつき、強引に横抱きにかかえこむのだった。
「ああ、おばさまっ」
友子と直江に抱き上げられ、夜具の上に仰向けに倒されていく美沙江はひきつった声をはり上げる。
「お、お嬢さまっ」
と、二人のシスターボーイに抱き上げられた珠江夫人も激しい狼狽を示しながら必死な眼を美沙江の方に向けるのだ。
夜具の上に仰向けに倒され、抱き取られようとする両股を狂ったようにばたつかせている美沙江と珠江夫人を大塚順子は鬼源と並んでさも小気味よさそうに眺めている。
友子と直江はようやく美沙江の美麗な下肢を取り押さえ、天井から垂れ下がる二本のロープにその華奢な足首を縛りつけようとしているのだ。
「ああ、友子さん、堪忍してっ」
美沙江は象牙色の頬を真っ赤に火照らせてかっての二人の女中にたぐり上げられていくしなやかな両肢を悶えさせている。
「こうなりゃ諦めるより仕方がないでしょ、お嬢さん」
直江は友子と一緒に美沙江の雪白の繊細な片肢を折り曲げるようにたぐり上げて足首を天井から垂れ下がるロープに素早く縛りつけるのだった。
「ああっ」
美沙江は悲鳴を上げた。
腰部が浮き上った恰好になり、艶やかで滑らかな両腿を宙に向かって大きく割り裂かれた形になる。
自分のこんなあられもない羞ずかしい姿態が、寄りたかっている卑劣な男や女の眼にどのように淫らで醜悪なものに映じているのかと想像すると美沙江は気が狂いそうになるのだった。
一方、珠江夫人の方も抵抗も空しく乳色に輝く優美な下肢は春太郎と夏次郎の手で強引に折り曲げられ、細工物のように華奢な足首は二本のロープに縛りつけられてしまったのだ。
珠江夫人の雪白の光沢を持つ脛、そして、成熟し切った仇っぽい太腿が美沙江と同じように浅ましいばかりに左右に割り裂かれ、前に向かって高々と吊り上げられてしまうと、順子は口元に手を当てて笑いこけるのである。
「まあ、何て無様な恰好をなさっているの。よくも平気でそんな恰好が出来るものね」
友子も直江も順子と一緒に哄笑したが、その浅ましい二人の肢体を更に淫らなものにするため、夜具の外へはじけ飛んでいる二人の枕を取り上げると、
「さ、二人ともこれをお尻にしっかり当てるのよ」
といい、春太郎達もそれに手をかして珠江夫人と美沙江の宙に浮き上った両腿を引っぱり、宙に浮かせた双臀の下へ素早く枕を差しこむのだ。
高い枕の上に揃って双臀を乗せた珠江夫人と美沙江の姿態は言語に絶するといいたい位に淫猥なものになる。
順子も友子も直江も手を叩いて笑いこけるのだった。
「ねえ、みんな、傑作だと思わない。千原流家元のお嬢様とその後援会長の奥様が仲ょく揃ってお尻の穴まで丸出しになったわ」
順子がそういって甲高い声で笑い出すと、それにつられて友子も直江も哄笑する。
名状の出来ぬ痛烈な屈辱感と羞恥にさいなまれている珠江夫人と美沙江は、宙に吊られた両腿を共にブルブル慄わせて真っ赤に上気した美しい顔を横にねじり合いながら激しい嗚咽にむせぶのだった。
珠江夫人も美沙江も緊縛された裸身を夜具の上に仰臥させ、共に開股吊りという淫虐な体位をとらされたため、二人の悩ましい羞恥の繊毛まで浮き上がり、肉体を露に晒け出されている。
それだけでなく令夫人と令嬢は双臀の奥深くに秘められた可憐な菊花の蕾まで共に生々しく露呈させてしまっているのだ。
「いいお家柄の若奥様と御令嬢が、まあ、はしたない。そんな羞ずかしい部分を二つも丸出しにして、私達に見くらべてほしいとおっしゃるの」
順子は更に懊悩の極にある二人をからかいつづけ、
「ね、誰か、この奥様とお嬢様の大胆なポーズを写真に撮ってくれない?」
と、友子達の方を向いて楽しそうに声をかけるのだった。
友子が写真機をどこからか持ち出して来ると、珠江夫人も美沙江もブルっと枕の上に乗せた双臀を痙攣させて激しい狼狽を示すのだった。
「お、大塚さんっ、あなたは人間の血が通っているのっ」
と珠江夫人は逆上して昂った声をはり上げるのだったが、
「お尻の穴まで丸出しにしながら何を生意気な事をいってるのさ」
と、銀子と朱美が枕の上で口惜しさにうねり舞う夫人の双臀を平手打ちして笑うのだ。
「お、おば様っ、ああ、美沙江はいっそ、死んでしまいたいわ」
友子がカメラで露に晒け出されている美沙江の羞恥の源を狙い、ストロボがピカリと稲妻を発すると、美沙江はあまりの汚辱感に悲鳴に似た声をはり上げ、さっと赤らんだ頬を横にねじって号泣し始める。
浅ましい姿を友子の持つカメラで撮影される美沙江の苦悩を思うと珠江夫人は胸の破り裂けそうな思いになり、しかし、屈辱に打ちのめされる美沙江の気持を励まさねばと悲痛な気持になって、
「お嬢様、元気を出して下さい、これ位の事でくじけちゃいけませんわ。死にたいなんて気の弱い事をおっしゃると、私、怒りましてよ」
と、声を慄わせて叱咤するようにいうのだった。
パチリ、パチリ、と美沙江の開股に縛りつけられた淫猥な下腹部に矢つぎ早に友子はシャッターを切っていたが、
「お嬢様の顔もしっかりカメラに収めておかなきゃ駄目よ」
と、順子は含み笑いしながら注文を出す。
すると、銀子と朱美が火のついたように真っ赤な美沙江の顔を後頭部に手をかけてぐっと前に持ち上げ、無理やりカメラの方に向けさせるのだった。
「そんな情けない顔せず、もっとほがらかな顔をなさいよ」
銀子はさも辛そうに眉をしかめ、固く眼を閉ざしている美沙江を揺さぶっていった。
友子は、美沙江の長い黒髪を頬にもつれさせている美しい容貌と、開股になり生々しく女の源泉を露出させている部分を同時にカメラの被写体としてシャッターを切る。
「フフフ、もうこれで千原流華道は絶対に立ち直る事は出来ないわ。家元のお嬢さんのこんな淫らな写真がこっちにある限り、私は千原流の生殺をこの手で握った事になるのだからね」
順子は満面に喜色を浮かべてそういってから、
「さ、今度は千原流後援会長の方をしっかりカメラに収めて頂戴」
と、友子に声をかけるのである。
「さ、奥様もその美しいお顔をしっかりカメラの方に向けて」
銀子と朱美は介添人になって珠江夫人の頭を押さえて持ち上げる。
「いいわ。好きなだけ、いくらでも写真を撮って」
紅潮していた珠江夫人の容貌は次第に血の気が引いて透き通るような蒼白さを帯び始めた。
チラと順子の方に憎悪の色を滲ませた凄艶な眼差しを向け、ここまで無残に美沙江と自分を打ち砕いた順子に対し、開き直ったようなふてぶてしさを見せ始めたのである。
「ええ、好きなだけ写真を撮らせて頂くわ。千原流を支持する会員に家元のお嬢様と後援会長のこの浅ましい写真を送ってやるつもりよ。何ならこの写真、御主人にもお送りしましょうか」
愛する奥様の丸出し写真を見たならば御主人は眼を白黒させるんじゃないかしら、と順子は珠江夫人の硬化した表情を見ながら声をたてて笑うのだった。
友子は珠江夫人の生々しいばかりに露呈している羞恥の二つの源泉にカメラの焦点を合わせてシャッターをきり始めた。
銀子と朱美に左右から頭を押さえられ、カメラの方に強引に顔を向けさせられている珠江夫人の柔らかい睫で翳った黒眼からは屈辱の口惜し涙がとめどなく流れ出ている。
「これ位でいいだろう」
と、友子はフィルムを使い切ると珠江夫人の下腹部からようやく腰を上げた。
「傑作な作品が出来そうね。なるたけ早く現像して」
順子は友子から受け取ったカメラを鬼源に渡していった。
「それじゃ奥様」
と、順子は一切の希望を喪失させたような珠江夫人の凍りついた美しい横顔を見つめながら身を寄せていき、
「これからここにいる春太郎と夏次郎さんの手で奥様は浣腸されるのよ。もう覚悟は出来ているわね。静子夫人と同様、お尻に磨きをかけてそこでも殿方を悦ばす事の出来る身体に作り上げてあげるわ」
順子の眼には次第に残忍な色が滲み出し、枕の上にでんと乗せられている珠江夫人の割られた双臀に視線を走らせるのだった。
露にむき出された内股深くに息づく可憐な菊花の蕾、それを口元に冷酷な微笑を浮かべて凝視する順子は、
「まあ、可愛いわね」
と指先をそっとそれに触れさせた。
「やめてっ」
その途端、珠江夫人は焼け火箸を押しつけられたような、けたたましい悲鳴を上げ、枕に乗せ上げられた双臀を狂おしく揺さぶって順子の指先を必死に払いのけるのだった。
「どうしたのよ、奥様。そんなに神経を昂らせちゃ駄目じゃない」
春太郎と夏次郎が宙に吊り上げられた優美な両肢を激しく悶えさせて狼狽を示す夫人に左右から粘っこくからみついていく。
嫌悪以外の何者でもない変質人間の二人が肌に手をかけてくると珠江夫人は更に戦慄し後手に縛り上げられている上半身まで狂おしく揺さぶって、
「さ、さわらないでっ、私にさわらないでっ」
と、大声をはり上げるのだった。
「お尻まで丸出しにしながら随分と気の強い事をいうのね」
春太郎と夏次郎は顔を見合わせて笑い合う。
「私はね、大塚女史のいいつけで奥様の調教を受け持つ事になったわけなの。これから奥様に浣腸してあげてソーセージが呑みこめるまで肛門を開かせる仕事にかかるのよ。そんなつれない言い方はせず私達と仲よくしましょうよ」
春太郎はそういって珠江夫人のおくれ毛をもつらせた端正な頬に口吻を注ごうとしたのだが、夫人はそれも必死になって首を振り、手きびしくはねつけるのだった。
「そんなに私達の手で調教されるのが嫌なの。奥様」
珠江がシスターボーイなどという変質性を持つ男を極度に嫌悪するという事は春太郎も気づいたが、これほどまで極端だと知るとむしろ闘志をかきたてられた気分になってくるのだ。
「ね、大塚先生」
と、春太郎は順子の顔に眼を向けて、
「こんなに私達を奥様が嫌っていると仕事がやり憎いわ。だから、浣腸を始める前に優しくモミモミしてあげて、一度、たのしんでからやらせてみたいの。そうすれば奥様も少しは私達と仲良くなって下さると思うわ。少し時間がかかるけど、いいでしょう」
と、媚態めいた微笑を口元に浮かべていうのだ。
「いいわよ。すべて珠江奥様の事はあなた達二人に任せるわ」
順子は煙草を口に咥えながら楽しそうにうなずいて見せるのだ。
「このお嬢様の方もそうしてあげたっていいでしょう」
と、直江も順子に声をかけてくる。
「もとの女中の手で浣腸されるという事になると、いくらおしとやかなお嬢様やってきっとうろたえ出して私達を手古ずらせると思うんです。そやから、一度、絶頂に登らせてあげよう思うんですけど。そうすればきっと私達にも気を許しておとなしく浣腸させて下さると思うんですけど」
「ああ、いいとも、お嬢様の方はあなた達二人に任せるわ」
順子は直江に対してもニコニコした顔でうなずいて見せる。
「よし、俺が一つ賞金を出してやろう」
と、傍であぐらを組み、一升瓶の酒を茶碗に注ぎこんでいた鬼源が黄色い歯をニヤリと見せていった。
「その奥様とお嬢様を上手に燃え上らせて、二人の呼吸を合わさせ、同時に頂上へ登らせるんだ。そうすりゃ、俺が賞金を出す」
「ほんとなの、鬼源さん」
春太郎が笑いながら、それなら私達も腕によりをかけなきゃ、と、美沙江の方を受け持つ直江と友子の方に眼を向けていうのだった。
崩壊への序曲
「それじゃ、私は時造さん達とここでお酒でも飲みながらゆっくりと見物させて頂くわ」
順子はそういって、悲痛な表情になり固く眼を閉じ合っている珠江夫人と美沙江の顔をのぞきこむようにしてから、
「それじゃお二人ともたっぷり楽しませてもらうのよ。お互い呼吸を揃えてやれば、すぐに浣腸して仲よくお尻を開かせてあげますからね」
と、楽しげに声をかける。
「大塚さんっ、ね、待って頂戴」
珠江夫人は横に伏せていた泣き濡れた顔を急にさっと正面に戻して、もうこれが最後だといわんばかりの悲壮味を持った声音で哀願するのだった。
「お嬢様だけはどうか許してっ。そんなむごい責めを受ければ、いまだ年端もいかないお嬢様は気が狂ってしまいます。お嬢様の受ける責めもこの私が代って受けますわ。ですから後生です、大塚さんっ」
「くどいわね、奥様も。いい加減になさいよ」
と、順子は冷やかな吐き出すような口調になっていった。
「千原流の家元とその後援会長を二人揃わせて生恥を晒させる、それが私の目的だったのよ。今更、悪あがきはおよしなさい」
順子は冷酷な微笑を頬に浮かべてそういうと、さ、始めて頂戴、と春太郎の方に眼くばせを送ってから、時造や鬼源と一緒に近くに坐りこんでビールを互いのコップに注ぎ合うのだった。
「さ、奥様、こうなれば何もかも忘れてうんと燃え上り、楽しむだけ楽しまなきゃ損じゃありませんか」
と、春太郎は夏次郎と一緒に夫人の枕の上に乗せ上げた悩ましい双臀の左右につめ寄っていくのだ。
友子と直江も美沙江の宙に吊り上げられた美麗な下肢を掌でさすりながらすり寄っていき、
「お嬢様も遠慮なさらず今日はうんといい声で泣いて下さいね。隣の珠江おば様と競争する気持になるのよ。わかった?」
と、痺れるような思いになっていうのだ。
三十歳になる脂の乗り切った珠江夫人と十九歳になる抒情味を持つ清麗な美沙江が共にどのように燃え上がり、頂上を極め合うか、それは千原流華道に恨みを抱く順子だけでなく時造にとっても興味のある事であった。
珠江夫人と美沙江を淫靡にいたぶるための小道具を銀子と朱美が用意して持ち運んで来る。
バイブレーター、鳥の羽毛、ゴムけし、ずいき人形、それに媚薬クリームなどが両足を折り曲げて宙吊りにされている夫人と令嬢の間に並べられていくのだ。
「私達も手伝うわよ」
と、銀子が面白そうに声をかけると、
「じゃ、奥様のおっぱいを優しくモミモミしてあげて。肝心の個所は私達二人が一手に引き受けるわ」
と、楽しそうにいうのだ。
「じゃ、私はお嬢様のおっぱいを優しくお揉みするわ」
朱美は小刻みに慄えている美沙江の方にぴったりと寄り添っていき、麻縄に緊め上げられている白桃のような美しい形の乳房にそっと手を触れさせていく。
「ああ、おばさまっ」
と、美沙江は朱美の掌で乳房を揉まれ、可憐な薄紅色の乳頭を指でつままれると、長い黒髪をゆさゆさ揺さぶりながら悲痛な声をはり上げるのだ。
「お、お嬢様っ、死んだ気になって耐えて下さい。もうそれより逃れる道はないのですから。私も歯を喰いしばって耐え抜きますわっ」
珠江夫人も麻縄に緊め上げられた柔らかい乳房を銀子の掌でゆさゆさ揉みしごかれながら、美沙江に向かって悲痛な声をかけるのだった。
銀子に乳房をいたぶられる苦悩より隣で責めを受ける美沙江のうめきを耳にする方が夫人には一層、辛かった。
春太郎と夏次郎は、さて、料理にかかりましょうか、と宙に浮き上っている珠江夫人の艶っぽい乳色の太腿に左右から手をかけ、枕に乗せ上げられている夫人の双臀を優しく撫でさすりながら露に晒け出されている羞恥の源泉に改めて好奇な眼を向けるのだ。
「見事な体つきをなさっているのね、奥様」
春太郎のそんな卑猥な言葉に珠江夫人は身慄いし、真っ赤に染まった美しい頬をさっとねじるのだった。
「私、何時も不思議に思うんだけれど、こことここの間隔なんてほんとに紙一重なのね」
夏次郎は指で計るようにして小さく笑うのだった。
「何をつまらない事いってるの。それより早くこの奥様を夢心地にしてあげなきゃ」
春太郎は珠江夫人の乳色に輝くむっちり肉の乗った太腿からスベスベした内腿にかけて激しい口吻を注ぎまくるのだった。
夏次郎もそれに習って夫人のもう一方の太腿に熱っぽい接吻を注ぎ、すると、夫人の乳房を揉み上げていた銀子は薄紅色の乳頭に舌を押し当てる。
珠江夫人は生理的な嫌悪を感じる二人のシスターボーイとズベ公一人に全身を揉みほぐされ毛穴から血の吹き上げるような痛烈な屈辱感に必死に眉をしかめて耐えているのだ。
順子はそんな珠江夫人の苦悩を時造と一緒にビールを飲みながら胸をうずかせて見物している。
珠江夫人の最も嫌悪する二人のシスターボーイとズベ公をわざと選んで彼女の肉体を蹂躙させる♢♢その異様なばかりの順子の残忍性には時造も舌を巻くのだった。
「嫌っ、ああ、嫌っ、おばさまっ、ああ、助けてっ」
友子と直江にいたぶられている美沙江はすっかり取り乱して隣で春太郎に蹂躙されている珠江夫人に救いを求めるのだった。順子は思わず吹き出した。
「おば様に救いを求めてもそりゃ無理というものね」
美沙江の可憐な乳房を愛撫している朱美もふと顔を上げて笑い出す。
友子が美沙江の体に顔を押しつけるようにし、舌先でくすぐり始めたので美沙江は真っ赤に上気した顔を狂気して揺さぶり、ひきつった声で泣き出したのである。
「ああ、お嬢様っ」
と、珠江夫人も、声を慄わせて泣き始める。
唾棄したいような男二人の愛撫を受ける口惜しさに加えて耳に突きささる美沙江の悲鳴に珠江夫人はのっぴきならぬ苦悩に追いこまれて奥歯をカチカチ噛み鳴らすのだった。
珠江夫人の懊悩はそれだけではなかった。二人の異常性癖を持つ男の唇で肉体のあらゆる部分を熱っぽく接吻され、掌や指先で微妙な刺戟を加えられると心とは逆に夫人の五体は甘く溶けそうになってきたのである。
女の昂った神経や狂おしい屈辱感などを薄紙でそっと払いとるような、いたわりをこめた愛撫とでもいうのか、春太郎と夏次郎の愛撫は手馴れてソツのなさが感じられる。
夫人の肉体の具合いを優しく整えてから彼等の指先は柔らかく優しさをこめて左右の太腿を揉み始め、そして、じわじわと夫人の最も恐れている場所に向かって移行してくるのだった。
もう、その頃には珠江夫人は体中が汗ばみ、興奮状態をあきらかに示し出す。
「け、けだものっ」
珠江夫人は口惜しくも自分の身内が昂って来たのを察知すると、それを必死に振り払おうとして激しい身悶えを示しながら春太郎達に毒づくのだった。
「まだ、私達と仲よくなれないの。随分と強情な奥様ねえ」
春太郎と夏次郎はクスクス笑いながら、そっと鳥の羽毛を手にすると、絹のような柔らかさでふっくらと盛り上る悩ましい夫人の柔肌をゆっくりと下から上にさすり上げるのだった。
「ああっ」
夫人は火のように真っ赤に染まった頬をマットにすりつけ、歯を噛み鳴らして嗚咽する。
珠江夫人の反撥する神経を優しくなだめるように春太郎はまるで美術品にでも触れるかのように微妙な柔らかさでゆっくりと羽毛をさすりつけている。
「如何、とても切ない気分でしょう。ね、奥様」
春太郎は羽毛で粘っこく幾度もさすり上げるのだったが、すると、夏次郎は小型のバイブを手にとってスイッチをひねり、夫人のブルブル慄わせている太腿あたりにそっと触れさせるのだった。
「ああっ、もう沢山よっ、いい加減によして頂戴っ」
珠江夫人は美しい額にねっとり脂汗を滲ませながら、ひきつった声で叫ぶのだった。 しかし、もう夫人の五体は芯にまでうずくような甘い切なさで溶け始めた事を二人のシスターボーイは感知している。
口では激しく反撥しても夫人の肉体は二人の熟練した技巧に次第次第に順応させられていくのだ。
苦しげに眼を閉ざし、火照った顔を横にむけて唇を半開きにしながら熱っぼく喘ぎ出した珠江夫人に気づくと、春太郎と夏次郎はもうこちらのものとばかり腰を据えて更に巧妙な手管を発揮していくのだった。
春太郎の持つ羽毛で執拗に下から上へとさすり上げられると女体は更にくっきりと開花を見せ始めたのである。
夏次郎の持つバイブが微妙な震動音をたてながらその生々しく開花した美麗な柔肌を刺戟し始める。わぎと鋭敏な個所はさけてバイブは執拗にくすぐりつづけろのだったが、すると、暖かい陽光にふっくらと開花する薔薇のように甘美な女体は自然に柔らかく開き始めるのだった。
「あら、奥様、私達をあんなに嫌っていたくせに、もうこんなに受け入れ体勢を示して下さるの」
二人のシスターボーイに対する虫ずの走るような嫌悪感をすっかり喪失させてしまったのか、羽毛とバイブで全身の肉をすっかり燃え上らせてしまった珠江夫人は甘美な啼泣を口から洩らしつつ、おびただしい樹液をあふれさせて来たのだ。
「フフフ、可愛いわ。憎くて憎くてたまらない私達にこんなにはっきり見せてもいいの、奥様」
春太郎はクスクス笑いながらからかい、軽く指で突くと、珠江夫人はひと際、激しくすすり上げながら宙吊りにされた優美な下肢をガクガク慄わせるのだった。
銀子はじっとり汗ばんで来た夫人の形のいい乳房を掌で包むようにしながらゆっくりと揉みほぐし、熱っぽく喘ぐ夫人の耳たぶや艶っぽいうなじを唇でくすぐっている。そのように銀子に乳房を愛撫されて生じる情感が春太郎達に愛撫されてこみ上がる情感と並列ではなく今は完全に合致し、夫人の悶えやあがきは苦痛ではなく次第に喜悦のものに変っていく。
「ああっ」
珠江夫人は春太郎の唇がいきなり敏感な柔肌に触れた時、一瞬、火でも押しつけられたような昂った声をはり上げ、枕に乗せた双臀を激しくうねらせた。
「な、何をなさるのっ」
蠍のように嫌悪が生じる春太郎の舌先で愛撫される♢♢その瞬間、朦朧となっていく神経が眼覚め、自意識が生じて、痛烈な汚辱感に打ちのめされた夫人だったがそれもほんの一瞬だった。
糠のように粘っこい春太郎の舌先で愛撫されている珠江夫人はこの世のものとは思われぬ甘くて切ない快美感を骨身に沁み渡らせて、我を忘れて、喜悦のうめきを洩ららすのであった。
珠江夫人はそこが燃える炎に化したのではないかと思う位に痺れ切り、そして、傷ついた獣のように咆哮するのだった。
ようやく春太郎が唇を離すと、夫人は大きく息をつき、真っ赤に上気した顔をさも哀しげに歪めてチラと隣に仰臥している美沙江の方に泣き濡れた美しい黒眼を向けるのだった。
春太郎の淫らないたぶりを受けて、はしたなくも喜悦の声を上げてしまった自分を羞じらい、気弱な視線を美沙江の方へ向けた珠江夫人であったが、美沙江もまた、一途になって舌先の愛撫を加える友子と直江の技巧にあやつられ、熱っぽい喜悦の喘ぎをくり返すようになっていた。
「お嬢様の方もすっかり気分をお出しになっているようですね」
夏次郎は友子の巧妙な指さばきで喘いでいる美沙江を面白そうに見つめている。
美沙江も珠江夫人に負けず劣らずのおびただしい樹液をあふれさせているのを眼にした順子は胸のすくような爽快な気分になって時造の持つコップにビールを注ぐのだった。
激しい嗚咽を口から洩らすようになった美沙江もこの悦楽のすすり泣きが珠江夫人の耳に伝わるのを羞じらって、ふと涙に潤んだ気弱な黒眼を夫人の方向にむける。夫人と美沙江の哀しげな視線がそこで合致し、すると、二人は互いにハッとしたように羞恥に火照った美しい顔を右と左にそらせ合うのだった。
順子はそれを見て甲高い声で笑い出す。
「何も照れ合う事はないじゃない。遠慮せずいい声を聞かせ合ったらどうなの」
順子は淫らな責めを受けて口惜しくも燃え上った自分を羞じらい合い、視線をうろたえ気味にそらせ合う珠江夫人と美沙江がふといじらしいように思えてくるのだ。
春太郎は再び珠江夫人に対し、指先を使って粘っこい愛撫を開始する。夫人はひたすら耐えた。
何とか声は出すまい、美沙江に聞かれたくはない、と奥歯を噛みしめるものの春太郎と夏次郎、それに乳房を揉みほぐす銀子との呼吸の合った巧妙な手管にまたもや煽られて、夫人はすすり泣きに似た恍惚のうめきを上げ始める。
すると美沙江も珠江夫人の喜悦の甘い喘ぎに誘いこまれたように今にも絶え入りそうな激しい喘ぎを見せ始めるのだった。
「そうそう。そんな風に仲よくいい声を出し合うのよ」
順子の全身は嗜虐のうずきで痺れ切っている。もうじっとしていられなくなったように身を乗り出して来ると、激しく喘ぎ合う珠江夫人と美沙江の上気した顔を見くらべたりして子供のようにはしゃぎ廻るのだった。
「それじゃ、お道具を使って仕上げにかかりましょうよ」
と、珠江夫人を泣かせている春太郎は美沙江を泣かせている友子の方に声をかける。
珠江夫人も美沙江も魂までもぎとられてしまったように骨抜きにされ、今はただ灼熱の感覚で全身をすっかり酔い痴らせている。そしてもう恥も照れもなく、互いに呼吸を合わせるように激しく喘ぎ合い、甘い啼泣を聞かせ合っているのだ。
すでに二人とも絶頂寸前にまで追いつめられ、最後の狂態を精一杯に耐え合っているのが春太郎にはわかるのである。
出来るだけ持続させてこうした被虐の悦びの極限を教えてやりたい気持に春太郎はなっている。
「こんな状態になっているのだから、これでお道具を使えば二人ともすぐに悦んでしまうわ。それじゃつまらない。出来るだけ楽しませてから、ぴったりタイミングを合わせてやろうと思うの。いいでしょ、大塚先生」
春太郎は順子の方を振り返り顔をくずしていった。
「いいわ。あんた達の腕の見せ場よ。しっかりやって頂戴」
順子は嗜虐の悦びに声まで上ずらせていうのだ。
夏次郎が美沙江側のコーチとしてつき、友子や直江に協力してこれから美沙江を珠江夫人と一緒に極限状態に追いこもうとする。
珠江夫人も美沙江も五体を火柱のように燃え立たせ、神経はすっかり酔い痴れて、後はこちらの操作一つでどうにでもなる、と春太郎や夏次郎は余裕を持ってこれからの仕上げにかかろうとしているのだ。
「それじゃ、奥様。今度はこれを使ってお嬢様と一緒に最高の感激に浸らせてあげるわ」
春太郎は先端が渦巻き状になっている筒具を手にし、枕に乗った夫人の悩ましい双臀を軽く叩くと、夏次郎も同じく美沙江の宙吊りされた優美な太腿のあたりを先端が螺旋状になっている筒具で叩いて、
「お嬢様もこれを使うわ。珠江奥様に負けないよういい声で泣くのよ。いいわね」
と、薄笑いを片頬に浮かべながらいうのだった。
第九十六章 情欲の果て
黒い官能
花模様の青い絨毯が敷かれた豪奢な寝室、テーブルを囲んで肘掛椅子が四、五脚置かれその向こうに豪華なダブルベッドが配置されている。
それが、黒人二人に当てがわれた寝室であった。
今、黒人のジョーとブラウンは肘掛椅子に跨がるような恰好で坐りこみ、川田や千代とウイスキーを飲みながら語り合っている。
時々、ジョーは大きな口を開け、獣がほえるような声で笑い出すのだ。
いい気分に酔って来た川田が妙な英語を使い出したりすると、ブラウンは笑いながら手を振り、
「アナタノ英語ダメダメ。日本語デ話シテクダサイ」
ジョーもブラウンも丸裸のまま椅子に坐っている。
二人とも黒褐色の艶々した肌、揃って獣のような胸毛を生やしている。
ジョーもブラウンもウイスキーを口にする度、チラと後ろの豪華なベッドの方に眼を向ける。
そのベッドの脚に縄尻をつながれている静子夫人は青い緋毯の上に両腿をぴっちり合わせて正座し、軽く瞑目しながら、黒人に凌辱される時の来るのを待っているのだ。
「スバラシイ。スバラシイ美人デス」
と、静子夫人の方に眼を向けるたび、ジョーは感嘆したように幾度も声を出すのだ。「それにあそこの具合いだってすばらしいものですよ」
「何しろ、名器の持主だと調教師が太鼓判を押しましたからね」
川田のいう言葉の意味はわからなかったようだが、黒人二人は自分達にだけ通じる言葉で何かヒソヒソと語り合い、急に卓をたたいて大声で笑い出したりする。
「全くこいつら野蛮人だね。人と話す時ぐらい股倉のものを隠してもよさそうなものだが」
川田は不快な表情になって千代の耳に口を当てて小さく語りかけるのだ。
「それに私、この連中の匂いがたまらないわ」
と、千代も眉をしかめて川田の耳に囁いた。
黒人特有なものだろうか。野獣的な強烈な体臭とヤニ臭さに千代も先程から辟易していたのだ。
しかし、このどうしようもない醜悪な野蛮人とこれから静子夫人が汗みどろになってからみ合う事になるのだと思うと、千代の残忍な血は渦を巻き、胸が高鳴ってくる。
ベッドの脚に縄尻をつながれて正座している素っ裸の静子夫人はすっかり観念し切ったように眼を閉ざし、身動き一つ示さなかった。
しっとり翳った象牙色の藹たけた左頬におくれ毛を二、三本もつらせ、柔らかな睫を薄く閉ざしながら心持ち頭を垂れさせている静子夫人を千代は何ともいえぬ楽しい気分で眺めている。
今の静子夫人には地獄の終着点まで引きずられて来たという恐怖感はなかった。狼狽もなければ哀しさもない。恐れおののく心などは霞のように消え果て、無我の心境になって自分の行きつく果てを見極めたいという気持になっている。
今頃、珠江夫人や美沙江はどのようなむごい目に合わされているか♢♢それを思い悩む気持も静子夫人からは消えかかっている。いくら悩み、嘆いたところでもう自分には手の施しようがないのだ。自分は完全に悪魔に屈伏し、被虐の悦びを骨身に沁みこまされてしまった女ではないか。
人工授精でフランス人の種を植えつけられ、この道のプロだという醜悪な黒人とこれから男女の契りを結び、コンビを組まされて、いよいよ、本格的なプロの道を歩まされる♢♢そう思うと遂に一匹の性獣として完全なまで飼育された自分に夫人は何か不思議な悦びのようなものを感じるのだった。
「フフフ、奥様、何をぼんやり考え事をなさっているの」
千代は川田と一緒に近づいて、緊縛された裸身を正座させている夫人の左右に腰をかがめるのだ。
「そろそろ、プレイ開始だよ。いいわね」
千代は櫛をとり出して夫人のおくれ毛をかき上げ、次に香水を取り出して夫人の乳色に輝く柔軟な肩先から、艶っぽいうなじ、柔らかい耳たぶなどになすりつけていく。
「遠山家の女中をしていた千代と運転手をしていた川田、ここに謹んでニグロと結ばれる事になった奥様にお祝いを申し上げますわ」
と、千代は夫人の美肌に香水をふりかけながら楽しそうにいい、
「さ、お立ちになって」
と、今度は夫人の縄尻を引いてその場に立ち上らせる。
上背のある優美な裸身をすっくと立たせた夫人に千代はぴったり寄り添って麻縄をきびしく巻きつかせている豊満で美しい胸のふくらみにも香水をかけ、それから滑らかな腹部そして、成熟し切った女っぽい太腿、またその附根に婀娜っぽく盛り上り、快惚と夢に誘われるばかりに悩ましい漆黒の繊毛にも香水をふりまくのだった。
「ニグロは強烈な体臭を持ってやがるからな。こっちも大いに悩ましい包いを発散して対抗しなくちゃ」
川田はそういって笑うと千代から香水瓶を受け取り、夫人の背後へ廻って匂うような官能美を湛えている双臀にもふりかける。
「今日から三日間、奥様はニグロと一緒にこのお部屋に寝泊りして頂くわ」
千代がそういうと、夫人はようやく薄く閉じ合わせていた柔らかい睫を開き、哀しげに頬をそよがせて千代の顔を見つめるのだ。
「こういう段どりになったのよ。まず最初、奥様はジョーとからみ合っていただくわ。ジョーと契りを結んでから次にブラウン、それからジョーとブラウンを同時に相手にする。ニグロは一回の所要時間が四時間という化物なみでしょう。それにアナルセックスの時間なんかを計算すると、食事と睡眠の時間を差し引いても三日間は充分にかかるという計算が出たのよ」
静子夫人の柔媚な顔はさすがに蒼ざめる。
三日間、黒人達はたて続けに自分に挑みかかる気でいる♢♢食事と睡眠の時間以外はセックスのみ♢♢そう思うと夫人はぞっとし、千代から視線をそらせて美しい眉根をしかめるのだった。
「あら、どうなすったの。何か御気分でも悪くなったのですか、奥様」
千代はおびえ出した夫人に気づいてからかうような口調でいった。
「とにかくニグロ達は奥様の美しさに胸をすっかりときめかしているのよ。黒人にこんなに思いこまれるなんて幸せじゃありませんか。彼等の情欲を三日間、充分に満足させてやって頂きたいわ」
千代は、静子夫人のその夢幻的なまでに色の白い肌が黒人の漆のように黒光りした肌とどのようにからみ合い、どのようにのたうち廻るか、それを今から想像して胸をわくわくさせているのである。
「それに私達、ジョーとブラウンの許可を得たのよ。奥様と彼等のからみ合いを見物してもいいってね。ですから、時々、この部屋へおじゃまして、ニグロに愛される奥様の姿をゆっくり見物させて頂くわ」
すると、椅子に坐り、足を卓の上に投げ出してこヤニヤしながらこちらを眺めていたジョーが、
「写真ヲトツテモイイヨ」
といい、ウイスキーを一息に飲み乾したブラウンは、
「ソノカワリモデル代ハイタダク」
と、片言の日本語で声をかけ、奇妙な声で笑い出すのだった。
「ああ、モデル代ならいくらでも出すぜ。絶世の美女と醜悪なニグロの白黒からみ、これならその道の商売人に上々の値で売れるさ」
川田も笑いながら黒人二人に声をかける。
「それじゃ、そろそろ、ジョーとお床入りして頂こうか」
川田は冷たい乳色の光沢を放つ静子夫人の背に手をかけたが、夫人の優雅な頬に涙が一筋したたり落ちるのに気づく、と、
「どうしたんだ。黒人のあのでっけえものを見ておじけづいたのかい」
と、千代と眼を見合わせながら薄笑いするのだった。
静子夫人は哀しげに左右へ顔を振る。
「そうじゃありませんわ。よくもここまで静子の心と身体が持ちこたえる事が出来たと、そんな自分が自分でいじらしくさえなってきたのです」
女の羞恥の源も夫の眼にさえ触れさせた事のない内股深くの菊花も、日夜、鬼源達の徹底した調教を受けて今までの自分には想像も出来なかった機能を発揮出来るようになっている。そんな調教に耐えつづけた自分の肉体が夫人はふと哀れにもいじらしく思えてくるのだった。
「ジョーはのっけからこれが好きらしいんだ」
と、川田は掌と掌を逆に重ね合わせて笑い出す。
「縛られたままじゃ、そいつはやり憎いだろう。一度、縄を解いてやろうか」
と、川田が夫人の滑らかな背で縛り合わされている手首に手をかけると、夫人は再び、ゆっくりと左右に首を振る。
「このままにして下さい。縄は解かないで頂きたいの」
夫人は両手の自由を拘束されたまま黒人に抱かれる方がまだ心の救いになると思うのだ。
反吐の出そうな醜悪な黒人と呼応して抱き合う事は到底出来そうもない。どのような淫らないたぶりを受けても両手を縛られたまま不可抗力の形をとった方がまだしも心は救われると夫人は思うのである。
「よし、じゃ、そのままにしておいてやる。だが、縄つきのままでは無理だというなよ」
「大丈夫ですわ」
静子夫人は優雅に冴えた頬に、ほんのり赤味を作って川田から羞ずかしげに視線をそらしながらいった。
「それじゃ、ジョー、こっちへ来な」
川田が声をかけると椅子に坐って卑猥に両股を開き、その馬並みのものをふざけて揺すっていたジョーは、OK、といい、はずみをつけて腰を起こすのだった。
「お前の花嫁さんだ。優しく抱っこしてベッドへ運んでやりな」
川田はそういって夫人を縛った縄尻をジョーの手に握らせるのだ。
「それから、ジョーはアナルセックスってやつが大層お好きだそうだよ。尻の穴まで互いにしゃぶり合って、今まで身につけた技を充分に発揮してやるんだぜ、いいな」
川田は夫人の艶っぽい肩先を軽く叩き、千代の方を向いてニヤリと笑った。
ジョーの黒光りしたがっしりした体が背後から近づき、夫人の乳色の光沢に輝く柔軟な両肩をがっしり両手で支えこむ。
獣のような胸毛を持つジョーのたくましい体が背後から密着すると夫人は背すじに悪寒が走り、さも苦しげに眉を寄せ、紅潮した顔を横へねじるのだ。
ブラウンの方も椅子から立ち上って白い歯を見せながらこちらへ近づいてくる。もとより仲間が女と遊ぶのを見ているわけではなく、二人の情事を一層、楽しいものにするため、色々、手を貸そうという魂胆なのだ。
正面からジョーに負けずおとらずの黒褐色の肌をしたブラウンの強靱そうな肉体が近づいて来ると静子夫人は恐怖の慄えで陶器のように白い脛をガクガク痙攣させる。つい先程、酒席に引き出された時は半ば自棄になってこの黒人と接吻をかわし、自分がここまで転落したということを開き直ってわざと千代に示した夫人だったが、遂にこの黒人達とここで肉のつながりを持たねばならぬ、と意識すると、押さえようとしても慄えはなかなかとまらないのだ。
「奥サン、ベッドヘ行キマショウ」
ジョーは夫人の後手に縛り上げられた裸身を横抱きにしようとする。
「OK、僕モ手伝ウ」
ブラウンはむっちり肉の実った乳白色の夫人の太腿と雪白の脛のあたりに手をかけてジョーと一緒に夫人を軽々と横に抱き上げるのだった。それを眼にした千代は笑いこける。
底の底まで高貴な肌の自さを持つ優雅な美女が底の底まで黒褐色のテカテカした肌を持つ醜悪なニグロに抱き上げられている。それが何とも皮肉な滑稽さに感じられて千代は川田に身をすり寄せるようにして笑い出すのだが、全身を二人のニグロにすっかりあずけた形で抱きかかえられた夫人は、
「千代さん。あなたの念願がかなって静子はとうとう黒人と契りを結ぶ事になったわね。さぞ、御満足でしょうね」
と、優雅な頬をシーンと凍りつかせながらふと、皮肉っぽい口調になっていうのだ。
「ええ、満足も満足、大満足よ」
千代は黒人二人にその官能的で見事に均整のとれた裸身を担ぎ上げられた夫人を面白そうに見上げていった。
「遠山財閥の令夫人、天性の美貌と豊かな教養をお持ちになっていらっしゃる静子奥様をとうとう性のスターとして国際的なものにする日が来たのですからね」
フランスにも長く留学した教養ある美しい貴婦人がこれからはき溜め人種に等しいポルノ役者の醜悪なニグロと尻の穴までしゃぶり合って大熱戦を展開するのだと思うと千代は笑いがとまらないといった思いになっている。
ジョーとブラウンはまた例の妙な唄をうたいながら夢幻的な肌の白さを持つ静子夫人を二人で肩に担ぎ、部屋の中を腰を揺さぶりつつ一廻りし、静かにベッドの上に夫人を仰向けに倒していくのだった。
「あいつら、よっぽどお祭り騒ぎが好きなんだな」
「どう見たって頭が少しいかれているわよ」
川田と千代は肘掛椅子に腰をかけながら面白そうにベッドの方に眼を向ける。
ベッドの上に緊縛された裸身を仰臥させた夫人は気を失ったように身動きも示さず、固く眼を閉ざし、むっちり官能美を湛えた両腿をぴったり密着させているのだ。
そんな静子夫人に対してジョーとブラウンは貴重な美術品にでも触れるよう、夫人の肉体のあちこちを掌でさすり始めたのである。
それでも夫人の身体の調子を整えているようなのだが、雰囲気も甘い言葉もなく、二人の黒人はまるで事務的な手さばきで刺戟を加えたあと、体中に矢つぎ早に接吻の雨を降らし始めた。
静子夫人はじっとり汗を滲ました額をしかめ、歯を喰いしばって黒人に体中を刺戟される戦慄めいた嫌悪感に耐えていたが、どういうわけか三分もたたぬうちに早くも自分の肉体が熱っぽくうずき始めて来たのである。黒人の感情のないせかせかした愛撫は粘っこさはなかったが、ツボを心得た指圧師のようなもので夫人は何か性感帯を彼等に探られているような気分になり、自分でも不思議な程、早くも情感が迫り出したのだ。
悪魔の肉体
二人の黒人の愛撫を受ける静子夫人は数分後にはすっかり彼等のペースに巻きこまれた形になる。
黒人に肉体をいたぶられるというぞっとする程の嫌悪感は次第に薄れ出し何時の間にか夫人は汗ばむ程の情感が迫り出した。
この道のプロというだけあって一人の女を二人がかりで愛撫するにも段どりを彼等は心得えている。最初はゆるやかにあちこち刺戟して夫人の体調を整え、緊縛された裸身を仰向けにさせている夫人の左右にぴったり添寝してくると濃厚な口吻をあらゆる個所に注ぎかけるのだった。
耳たぶから首すじ、喉首、肩、乳房、鳩尾、腹部までをブラウンが舌先を使って愛撫するとジョーは逆に夫人の足裏から脛、太腿、内腿、それから腿の附根に至るまでを同じく唇と舌を使って万遍なく愛撫するのである。
静子夫人の肉体はすっかり黒人のペースに順応されてしまい、身体の奥からカッカと情念がこみ上げるようになる。その最も敏感な部分にはまだ黒人は一指も触れぬのに夫人はジリジリ身を焼かれるように昂奮状態を示し始めてすでに豊かな樹液をあふれさせるのだった。
夫人は緊縛された上半身を切なげに悶えさせ、激しい息遣いとなり、ジョーが徐々に舌先を内腿から熱っぽく熟した女体に移行させ始めると、その部分の甘美な愛撫をねだるかのように我を忘れて両腿を割り始めるのだった。
すると、ジョーは夫人の昂りをなだめるかのように掌で他の場所を柔らかくさすり始めるのだ。そのじらし方が小憎いばかりの巧妙さで夫人は自分の肉体がぬるま湯に溶かされていくような痺れを感じ出す。
「ああっ」
ジョーの舌先がやがて触れて来た時、夫人は自分でも驚く程の昂った声をはり上げた。
そこを舌先で愛撫される事は幾度も夫人は経験しているが黒人のその技巧は卓絶といっていい程のものだった。
思わず夫人は五体を慄わせて絶叫し、官能の痺れを訴えるのだったが、するとブラウンは慄える夫人の唇にぴったりと唇を押し当ててまるで夫人の叫びを封じるかのような濃厚な接吻を注ぐのだった。
ブラウンに強く舌を吸き上げられた夫人は我を忘れて自分もブラウンの舌先を吸い返し、完全に火柱のように肉体を燃え立たせてしまうのである。ブラウンの生肉のような唇の分厚さ、ヤニ臭い舌先、もうそんなものに夫人は嫌悪など感じなかった。
ジョーはそっと夫人のそれから口を離すとブラウンに向かって早口の英語でしゃべった(よし、このあと、俺一人に任してくれ)と、いう意味である事は夫人にもわかったが、ブラウンが夫人と重ね合わせていた唇を引き抜いた途端、ジョーはくるりと体を逆さにして夫人に覆いかぶさって来たのである。
夫人の最も嫌悪する卑猥な体位だが、すっかり黒人のペースに巻きこまれてしまっている夫人はもうどうにも出来なくなってしまっている。ジョーの動作に極めて自然に順応させられ、彼の太い黒褐色の両腕で夫人の官能味のある両腿はがっしりと押さえつけられてしまったのだ。
(俺と同じような事をしろ)
と、夫人が英語のわかる事を知ったジョーは夫人の汗ばんだ顔面に腰部を覆いかぶせていきながら再び早口でいうのだ。と同時に夫人の割り開いた両腿に両腕を強く巻きつかせているジョーは、女の急所を知り尽したその巧妙な愛撫に、再び夫人の官能の芯を溶けさせていくのだった。
ジョーの火のような巨根が夫人の唇を求めて蠢いている。一瞬、夫人はその巨大さに狼狽し、それから逃れようと真っ赤に上気した頬を横へねじったが、
「ノーノー」
と、傍で足を投げ出した恰好で見物していたブラウンが夫人の頬に手をかけて、ジョーの方へ顔を向けた。
少し離れた所でウイスキーを飲みながら見物していた川田と千代は手を叩き合って哄笑する。
もう逃れる術もなく、うっとり眼を閉じ合わせながら、その黒い肉体を愛撫させられていく夫人を見て、千代は身体中の血が渦巻くような嗜虐の悦びを感じるのだった。
夫人はそんな千代達の嘲笑などもう耳に入らない。
嫌悪とおぞましさを感じてためらいを見せた夫人だったが、息の根も止まるばかりの快美感に全身の感覚はすっかり痺れ切って自分もまた積極的な愛撫を加え始めたのである。
千代と川田は異様な白と黒の愛欲図を展開し始めたベッドに近づき、端正な象牙色の頬を真っ赤に染めてふくらませている夫人を盛んにからかい出すのだ。
「フフフ、とてもよくお似合いよ、奥様。これからは何時もそうして仲睦まじく愛し合って下さいね」
「どうだい、俺達なんかとは違って黒ん妨のはしゃぶり甲斐があるだろう。だが、窒息しねえように気をつける事だな」
千代と川田は笑いこけながら無我夢中の状態になっている夫人を揶揄するのである。
川田と千代のそんな揶揄はもう辛くも何ともなかったが、夫人は次第に激しさを加えて来たジョーの舌の愛撫に何時の間にか自分が情念の絶頂寸前にまで追いつめられているのに気づいた。こんなままで頂上を極める恐ろしさにカッと血がのぼり、夫人はジョーの行為を何とか中断させようとして無意識のうちに歯を当てるのだ。
ジョーは平気で声一つ上げない。
夫人は遂にジョーの愛撫に官能の堰が切れ、下腹部の筋肉をキューと縮ませた。耐え切れず、含んだまま獣のようなうめきを洩らすと、ジョーも絶頂を極めた夫人に対する答礼であるかのように自分もまた極限の発作を示すのである。
頭を木槌で叩かれたような痛烈な汚辱感が夫人の身裡を稲妻のように貫いた。しかし、身体中の肉が溶けくずれ、情念に破れたみじめさをジョーの舌先に伝える羞ずかしさはジョーもまた、このままで自失してくれた事で少しは救われた思いになる。反吐にも似たむっと鼻につく異様な臭気と腐ったチーズのような不快な酸っぱさ♢♢黒人に木っ葉微塵に汚されたという気が狂いそうな汚辱感はかえって一層、被虐の情念を掻き立てられる事になり、夫人は性の餓鬼に変じてジョーと一緒に貪るように吸い合うのだった。今までの経験など、この黒人を相手にしては子供に等しいものではないかとさえ夫人は感じるのだった。
朦朧となっている夫人の視線に千代と川田が狂喜している姿がぼんやりと映じる。
ようやくジョーは体位を解き、仰向けに下肢をひろげてがっくりとなっている夫人に寄り添ってくると、白い歯を見せて満足した微笑を見せながら、夫人の唇からしたたる粘っこい涎を指先で拭い取るのだった。
官能の余情と汚辱感に打ちひしがれている夫人にジョーは今度は正式に肌を触れ合わそうとしている。
夫人は狼狽して、もう少し休ませてほしいと英語でジョーに告げた。
「ノー」
と、ジョーはニヤニヤしながら首を振り、これからが本当に君を愛すという事になる、というのである。
あっという間にジョーは夫人と結ばれてしまったが、たった今、放出を演じた事は事実であるのに彼の肉体は全く変化していないので夫人は慄然とするのである。まるで疲れを知らぬ悪魔のような肉体を持つ黒人♢♢そう思うと夫人はこのまま自分の心臓は破裂してしまうのではないかと恐怖の念が生じてくるのだ。
美花倫落
宙に吊り上った雪白の優美な下肢が断末魔の痙攣を示している。
高貴な気品に包まれた乳白色の珠江の肌も、底まで冴え渡るような美沙江の自磁の肌も共にねっとり脂汗を滲ませて絶頂寸前に追いつめられた狂態を示し合っているのだ。
「お、おば様っ」
と、夏次郎の筒具で遮二無二責め上げられている美沙江がひきつった声をはり上げると、
「お、お嬢様っ」
と、春太郎に追い上げられる珠江も上ずった声音で美沙江を呼ぶのだ。
官能の炎にすっかり身を灼きつくされた珠江と美沙江はすっかり理性を失って意味のわからぬ言葉を吐き合いながら、恐ろしいゴールに向かって突進していく。
「ううっ」
と、美沙江が極限を極めたうめきを洩らすと、珠江もまた春太郎の激しく操作する筒具に絶頂を極め、美沙江のうめきに合わせるようにむせるような声を上げ、共にブルブルと双臀を慄わせ合うのだった。
「フフフ、共に手をとり合って天国へ昇ったのね。まあ、お仲のよろしい事」
順子は精根の限りを尽して事切れた珠江と美沙江を見て、何ともいえぬ嬉しそうな表情になるのだった。
深く体内をえぐっている筒具に女の悦びを伝え、乱れ髪を汗ばんだ頬にもつらせながら開く眼を閉ざし、がっくりと絶え入っている珠江と美沙江♢♢順子は会心の笑みを片頬に浮かべて二人の美女を見くらべているのだ。
「如何、奥様。これで少しは私にも気が許せるでしょう」
春太郎はゆっくりと責具を引き揚げながら女体を羞じらいもなく露にしている珠江夫人をからかうのだった。
「まあ、随分と悦んじゃったのね、お二人とも」
珠江と美沙江の樹液の豊かさに順子はわざと驚いた声を出し、笑いこける。
「でも、嬉しいわ。これで私、どうやらこの奥様と仲良くなれそうだもの」
春太郎は深い陶酔の余韻の中でぐったりと美しい顔を伏せている珠江を惚れ惚れした表情で見つめ、順子から受け取ったチリ紙で念入りに珠江の後始末にかかるのだった。
珠江も美沙江も身心ともに打ちひしがれて春太郎と夏次郎のそんな行為にためらいを示す気分もない。
「じゃ、十分位、休憩させてから浣腸してやるのよ」
順子が声をかけると春太郎と夏次郎は、わかりました、とうなずき、早速、友子や直江達と一緒に浣腸器やグリセリン液を卓の上から運び出すのだった。
長い悪夢からふっと眼を覚ました美沙江は涙を一杯に滲ませた柔らかい睫をそっと隣の珠江夫人の方に注ぐ。
珠江夫人もまた、涙ぐんだ視線を美沙江の方に向けて、
「お嬢さま、女の辛さがこれ程、骨身にこたえたのは初めてですわ」
と声を慄わせていい、耐えられなくなったようにさっと美沙江から視線をそらせて号泣するのだった。
「私も、ああ、もう私、おば様の顔がまともに見られないわ」
美沙江もひきつった声でそういうと、赤らんだ顔をねじって泣きじゃくる。
そんな二人を順子は少し離れた所の椅子に坐って楽しそうに見つめているのだ。
「ねえ、鬼源さん」
順子は畳に坐りこんで冷酒を飲む鬼源を呼ぶと、耳元に口せ当てて小声で何かささやいた。
「成程、実は俺もそうしてみようと考えていた所なんですよ」
鬼源は大きくうなずいて両肢を宙吊りにされている珠江と美沙江に近づくと、
「今日からお前さん達二人は別々にせず、何時も一緒に調教してやる。その方が有難てえだろう」
と、せせら笑いながらいい、
「それから二人でコンビを組むんだ。千原流華道の家元とその後援会長が実演コンビを組む。な、こいつは面白い組み合わせじゃないか」
鬼源は順子の方に眼を向けて、
「明日から早速、相対張形を使ってこの二人を結ばせますよ。そいつは俺に任して下さい。ぴったり呼吸の合ったコンビに仕上げますから」
鬼源の声は魔王の叫びのように珠江夫人の耳に突きささってくる。
「フフフ、お嬢様。明日からこの美しいおば様とレズの関係を結ぶ事が出来るのよ。ね、素敵でしょう」
順子も美沙江の傍に寄り添って来てからかうようにいうのだ。
美沙江は美しい眉をしかめてすすり上げているだけである。
「お嬢様が嬉し泣きをなすっているわ」
順子は友子や直江の方を見て悪戯っぽく笑いながら、続いて珠江の苦悩の表情をのぞきこみ、
「奥様も嬉しいでしょう。あなたにとっては美沙江と特殊関係を結ぶ事が出来るのだからね。これからは二人は何時も一つの檻の中へ入れてあげるから、お尻の振り方なぞよくよく相談し合うといいわ」
「あ、あなたという人は♢♢」
すっかり打ちひしがれたようになっていた珠江夫人だったが、順子の言葉に口惜しさが火の玉のようになって喉元にこみ上げ、恨みをこめた凄艶な眼差しを順子に向けるのだった。
嗜虐の宴
その翌日の夕方、千代の提案で田代邸の一階大広間では仲間うちだけのパーティが開かれた。
千代はかって静子夫人の晴れ着であった優雅な揚羽蝶の付下げを着てアフタヌーン姿の順子と卓に坐り、銀子や朱美達、葉桜団団員のモンキーダンスを見てゲラゲラ笑っている。
川田と吉沢も珍しくパリツとした背広姿で田代や森田と一緒に席につき、ウイスキーを飲みながら大声で談笑し合っていた。
その日は丁度、千代の誕生日でもあったしまた、千代の念願が叶えられた日でもあった。
天性の美貌を持つ元、遠山財閥の令夫人、静子が遂に黒人二人との肉の契りを結び、二週間後に開かれる秘密ショーに黒人二人と白黒コンビを結んで出演する事が決定したからである。
遂にあの貴婦人を性の奴隷として飼育する事に成功し、最下層の女に仕上げる事が出来たと思うと千代の胸は妖しく高鳴るのである。
「私もねばったものだけれど、静子もよくここまでがんばったと思うわ」
と、千代はそういって笑い、
「あなたも今夜は楽しいのじゃない。珠江と美沙江をとうとうあそこまで追いこんだのだから」
と、順子に語りかける。
「そう、もう何も思い残す事はないって気分だわ。こんな風に出来たのもすべてあなたのおかげよ。充分に感謝しているわ」
と、順子がいった時、派手に踊りまくっていた春太郎と夏次郎達が席の方に引き揚げて来たので、順子は手招きして二人を呼び寄せた。
「昨日は御苦労さま。銀子さん達もこっちへいらっしゃいよ」
順子は銀子と朱美も呼び寄せてグラスにシャンパンを注ぐのだ。
「昨日、あれからどんな風に二人を調教したのか、お酒の余興に聞かせてよ」
順子が口元に微笑を浮かべて銀子にいうと、
「全くあれから大変だったわよ。珠江夫人と美沙江のお尻におまるを当てて排泄させる時なんか面喰らったわ。二人ともびっくりする程沢山たれ流すんだもの」
順子達は、こんな席でこんな話、気がひけるわね、と笑い出す。
「まあ、そうなの」
順子は珠江夫人と美沙江がトイレへ行かせてくれ、と哀願しても聞き入れられず、遂に泣く泣く便器の中へ排泄したと聞くと千代の肩へ手をかけて笑いこけるのだ。
「時造さんが美沙江の方の始末をしたんだけれど美沙江にお小水を顔にひっかけられ、眼を白黒させていたわ」
朱美がそういったので順子と千代は時造の坐っている卓の方を向いて笑い出した。
一回日の浣腸を施して排泄させ、それからしばらく休憩させて二回日の浣腸をしたのだが、その時はもう一回日程の激しい狼狽は示さず、二人はぴったり当てられた便器の中に絞り尽すような排泄をやってのけたと春太郎は告げるのだった。
「匂いがたまらなかったでしょう」
「そうね。いくら美人でもやっぱりあれだけは臭いものだわ」
銀子はそういって朱美と一緒に笑い出すのだった。
「でも、連続二本の浣腸をされると二人ともさすがに参ってしまったわね。反撥する気力なんててんでなくなったわ」
ぐったりなってしまった珠江夫人と美沙江の肛門をどのようにして開かせていったかを春太郎達が説明するとさすがの順子も、へえ、と眼を瞠り、そのむごたらしさにふと顔をしかめるのである。
バイブレーターを使ってそこの筋肉を更にゆるめ、綿棒を使って腸内の汚れを拭き取り、それからガラス棒を直腸にまで差し入れたという。
「そんな事をされりゃ、いくら何でも痛がるでしょう」
「ええ、美沙江なんか、ヒイヒイ声を上げて泣き出したわ。だから、麻酔の注射を打ってやったの」
麻酔の注射まで打って調教された美沙江を思うと何もそこまで徹底しなくても、と順子は思うのだったが、中途半端な同情をしたとて今更何になると順子は思うのだった。
「それで昨日は二人ともソーセージ位は呑みこめるようになったわ。ま、あの二人は私達に任しておいてよ。静子夫人みたいに卵まで呑みこめるよう磨き上げるから」
銀子はシャンパンにすっかり酔って気持よさそうに順子にいった。
「ところで、静子夫人の方はどういう具合いなの」
順子が千代に語りかけると、
「凄いわよ。あの黒ん坊はまるで化物ね。静子が余程気に入ったらしく夜通しぶっ続けで静子を離さないんだもの。見ている方が疲れちゃって途中で引き揚げたんだけれど、まだ、続けているんじゃないかしら」
「まだ、続けているんですって?」
順子は呆れたような顔になって千代を見た。
「何しろ、食事の時間と寝る時間以外はまる二日間、続けるというのですもの。あれじゃ彼女も参ってしまうわね」
それを如何にも悦んでいる風に千代はいうのである。
そこへ田代が近づいて来て、
「どうだね。これから一寸、鬼源に調教されている珠江夫人と美沙江をのぞきに行こうか」
と、順子と千代を誘うのだった。
田代に連れられて一階の広間を出た一行は鬼源が珠江と美沙江を調教するために特別に作ったという二階の小部屋へ入って行った。
何の変哲もない板張りの部屋で隅に二本の角柱がとりつけてあり、その部屋の中央には天井のパイプ管に縄尻をつながれている珠江夫人と美沙江がぴったりと向かい合い、胸と胸とを密着させていたのである。
ぞろぞろと千代や順子達が田代の後について入って来ると、頬と頬をすり合わせていた珠江夫人と美沙江ははじかれたように身を離し、真っ赤に火照った顔をねじり合うようにしながら羞じらいのすすり泣きを洩らすのだ。
そんな二人の傍に向こう鉢巻をした鬼源が青竹を持ってつっ立っている。
「おい、見物人が来たからって何も照れ合う事はねえじゃねえか」
鬼源は手にしていた青竹で珠江夫人の悩ましい肉づきの双臀をピシャリとひっぱたいた。
鬼源は田代の方に黄色い歯を見せて笑いながら、
「昨夜の浣腸がきいた故か、今日は二人とも素直な態度になりましてね。レズのコンビを組む事もやっと承知してくれて、つい今しがたまで演じ合ってくれたのですが♢♢」
というと、急にキッとした表情で、世にも哀しげな表情になり息のつまりそうな羞恥を全身で耐え合っている珠江夫人と美沙江に向かって、
「モタモタせず始めねえかっ」
と、叱咤するのだ。
「唇を吸い合い、乳房をすり合わせ、こすり合うんだ。気分が出て来た所で道具はとりつけてやる」互いの白い肩に額を埋め合い、シクシクと嗚咽の声を洩らし合っている二人の美女の周辺を千代達は取り囲んだ。
「早く始めろといっているのがわからないのか」
鬼源はカッとして今度は美沙江の白桃のように優美な双臀に青竹をぶち当てる。
あっ、と美沙江は悲鳴を上げ、麻縄で縛り上げられている裸身を痙攣させた。
「お、お嬢様。私達は今、地獄の道を歩いているのです。もう、何もかも忘れて、奴隷になり切りましょう」
珠江夫人はハラハラと涙を端正な頬にこぼしつつ、美沙江の観念を求めるように熱っぽい頬ずりをするのだ。
「わ、わかったわ。おば様。美沙江はもうどうなったっていいの」
美沙江は涙に潤んでキラキラ光る黒眼をそっと開き、珠汗夫人の悲痛な顔を見つめていたが、その眼を静かに閉じ合わせていくとそっと唇を珠江夫人の唇へ近づけていくのだった。
珠江夫人は荒々しい哀しさを美沙江にぶち当てるかのように、
「お嬢様っ」
と一声激しく叫ぶとぴったりと美沙江の唇に唇を触れ合わせていく。
千代と順子は笑いこけ、はやし立てた。
「千原流のお家元と千原流の後援会長がレズの関係を結ぶなんて、これはビッグニュースだわ」
順子は手を叩いて笑いこけている。
「もっとしっかり舌を吸い合ってごらんよ」
「おっぱいを強くすり合わせるのよ」
「お互いに腿を使って相手を悦ばせなきゃ」
銀子や朱美達はキャッキャッ笑いながら一斉にはやし立てる。
珠江夫人と美沙江は激しく嗚咽しながら、それが哄笑する順子に対しての報復であるかのように自棄になって舌先と舌先をからませ、強く吸い合うのだった。
美沙江の心を無残に打砕く自分を呪い、また自分も美沙江に無残に破壊されようとして珠江夫人は羞恥も屈辱もかなぐり捨て甘美な美沙江の唇を強く吸い、麻縄に緊め上げられた乳房を美沙江の乳房に強く押し当てるのだった。
乳頭と乳頭がコリコリ触れ合うと美沙江は思わず珠江夫人から唇を離し、真っ赤に上気した頬を夫人の頬に押し当てながら、
「ああ、お、おば様」
と、陶酔に喘ぎ出す。
「お嬢様、許して、許してっ」
珠江夫人はおどろに乱れた黒髪をゆさゆさと揺さぶりながら声をあげて泣き出すのだ。
「おしゃべりなんかよして、さ、もっと舌を吸い合うのよ」
銀子と朱美は泣きじゃくりながら頬ずりする珠江夫人と美沙江の頭を押さえて無理やりにまた唇と唇をぴったり重ね合わせるのだった。
「ね、鬼源さん、そろそろお道具を取りつけてあげましょうよ。奥様もお嬢様も充分その気になって来たようだから」
銀子がそういうと鬼源は隅に折り重ねてあったマットレスを中央に引きずり出してくる。
「そうね。立ったままじゃうまくいかないわ。おねんねした方がいいわね」
銀子達は鬼源を手伝って天井のパイプ管につないである珠江夫人と美沙江の縄尻を解くのだ。
「美沙江のほうはまずマットに縛りつけてくれ」
鬼源の指で示すマットの両端には皮ベルトがつないである。美沙江の下肢をそれにつないでくれ、と鬼源はいうのだ。
女達にマットの上に仰向けに寝かされていった美沙江はもうすっかり観念したように両肢を堂々とばかりに左右に開かされ、華奢な足首を皮ベルトにつながれてしまったのだ。
「これでおば様と結ばれる事が出来るわ。どう、嬉しいでしょう、お嬢さん」
美沙江の細い華奢な線で取り囲まれた象牙色の裸身は人の字形にマットに縛りつけられ、溶けるように淡くて美しい繊毛は浮き立ち、女体を盛り上げている。
美沙江が縛りつけられたマットの傍に後手に麻縄で縛り上げられている珠江夫人が優美な乳白色の裸身を縮みこませてすすり上げているのだ。
「それじゃ、これを奥様の方に取りつければいいわけね」
鬼源が腰にはさみこんでいる真ん中にゴムの鍔をはめこんだ相対筒具を朱美は抜き取っていった。
「私達が取りつけてあげるわ。さ、奥様、一寸、腰を浮かしてごらん」
春太郎と夏次郎が珠江夫人のしなやかな乳色の肩先に手をかけて引き起こそうとする。
「その前にまず、こいつをさせなきゃ」
鬼源は夫人を逆位の形で美沙江の上へ覆いかぶそうとする。
「ああ、成程」
銀子と朱美は面白がって夫人の後手に縛られた裸身を鬼源と一緒に横抱きにし、逆の体位で美沙江の上に乗せ上げようとするのだ。
珠江夫人は鬼源が何を強制しようとしているかがわかり、忽ち、激しい狼狽を示した。
「嫌っ、ああ、そ、そんな事、やめてっ」
鬼源がそれを舌先で愛撫するように指示すると乗せ上げられた夫人は、火のついたように真っ赤な顔を左右に揺さぶって許しを乞うのだ。
「いわれた通りにしねえかっ」
鬼源は青竹を珠江夫人の双臀に打ち降ろす。
「奥様、何もためらう事はないじゃありませんか。美沙江嬢と女同士のつながりを持つ事を決心されたのでしょう。さ、優しく舌を使ってあげるのよ」
順子は鼻先に迫る美沙江の羞恥の源泉から必死に眼をそらせ、首すじを浮き立たせている珠江夫人を見ると、嗜虐の情念を燃え立たせる。
「お嬢様の方も下からおば様にお返しするのよ」
春太郎と夏次郎はガクガク慄えさせている珠江夫人の腰に手をかけ、それが美沙江に触れるようにかぶせていった。
「あっ」
と、珠江夫人は昂った悲鳴を上げた。カッと頭に血がのぼり、背すじに冷たい汗が走った。
思わず腰を浮かせようと必死に身を揉む夫人の双臀に鬼源の振り降ろす青竹がピシリッと炸裂する。
珠江夫人と美沙江が遂に反撥の気力を失って鬼源の強要する酸鼻な愛撫を始めるようになったのはそれから数分後であった。
「お嬢様、こ、こんな事をする珠江を、恨まないで、お願い、恨まないで下さい」
珠江夫人は激しく泣きじゃくりながら自虐的になって鬼源のいうとおりにすると、美沙江はぞくっと開股に縛りつけられた下肢を痙攣させつつ、
「おば様、美沙江を許してっ」
と鬼源に強要されるその行為をおずおずしながら開始するのだった。
周囲を取り囲む女達にけしかけられて酸鼻な口吻を注ぐ珠江夫人と美沙江は、次第に麻薬でも嗅がされたような妖しい痺れが生じ出し、やがては、もどかしげな身悶えが悦楽の激しい身悶えに変り出す。
むしろ、美沙江の肉体を情欲の渦に巻きこめば、屈辱も羞恥も一切溶け流れてしまうのではないかと珠江夫人は遂には一匹の淫獣に化したかのようになって美沙江に悦楽の生々しいうめきを上げさせるのだった。
すると、美沙江も珠江夫人に同調しようとして激しさを加えてくる。
「許して、お嬢様、許してっ」
美沙江の魂も消え入るような喜悦の啼泣が珠江夫人の太腿の附根あたりから響いてくる。
「ああ、お嬢様っ、お嬢様も珠江のしているような事をして。ねえっ」
珠江夫人は髪を振り乱し、異様な声を発して、完全な狂態を示し出したのだ。
美沙江の甘くて濃厚な体臭が一層、夫人の情感を狂乱させ、羞じらいも屈辱も忘れて一心不乱の愛撫を美沙江のそれに注ぎかけるのである。
「随分と調子づいて来やがったな。よし、つながせろ」
鬼源は何かにとり憑かれたようになって全身をのたうたせながら貪り吸う珠江夫人の肩に手をかけて引き起こした。
鬼源や銀子達の手で筒具を肉体にとりつけられた珠江夫人は再び横抱きにされて今度は正常の形で美沙江の上へ引きたてられてゆく。
千代も順子も手伝って、やっと目的をはたすと、銀子や朱美達はわっと歓声を上げた。
滑らかな背中の中程で縛り合わされている珠江夫人の華奢な両手首と盛り上った双電に手をかけて銀子と朱美はゆるやかに揺さぶり始めるのだ。
珠江夫人と美沙江は激しい嗚咽を洩らし合い熱っぽい頬と頬とを強く触れ合わせる。
「お嬢さま、もう、お嬢さまはこれで、私のものよ。ね、そ、そうだわね」
珠江夫人は美沙江の肉体と心を傷つける事になった自分を呪い、また、これをこの火のように燃えさかる情欲の渦の中に一気に押し流し、何もかも忘却するため、妖しいまでに白い光沢のある肌をうねり舞わせるのだった。
「お、おばさま。美沙江はおばさまにどこまでもついて行きますわ」
美沙江、は柔らかい睫をフルフル慄わせ、求めて来た夫人の唇にぴったり唇を重ね合わせ、もう自分を忘れて夫人と一緒に、麻縄に緊め上げられた乳房をすり合わせるのだった。
「その調子で一緒に天国へ登りつめるんだ。ぴったり呼吸を合わしてみな」
鬼源は艶っぽい背すじから媚めかしい双臀までねっとり脂汗を滲ませている珠江夫人を眼で示し、順子の方を向いて薄笑いを見せる。
珠江夫人も美沙江ももう自分を制御する事は出来ず、この一刹那に命を注ぎこむかのように激しさを加えた。
美沙江は歯をくいしばった表情で必死に失神を耐えていたが、戦慄めいた官能の痺れにもう耐え切れず、
「おばさまっ」
と絶叫すると情念の頂上を極めた痙攣を珠江夫人の肉体に伝えるのだった。
「お嬢さまっ」
珠江夫人も絶息するような声をはり上げ、汗みどろになった頬を美沙江の頬にすりつけて同調する。
精根の限りを尽し、肉も心も完全に一つのものにした感激を噛みしめるかのように悦楽の余韻を響かせ合いながらうっとりと再び唇を重ね合う珠江夫人と美沙江♢♢それを順子や千代は快惚とした表情で見つめているのである。
被虐の終章
関西の岩崎親分達はあと三日で田代邸へやって来る。
珠江夫人と美沙江のレズコンビも成立し、共に調教を受ける事になった二人は今では卵をそれに含めて割る技術も体得し、バナナも切断出来るまでになった。
静子夫人はジョーとブラウンと白黒コンビを成立させ、彼等とのアナルセックスも可能になる。
一回の所要時間は四時間という悪魔の肉体を持つ二人の黒人とからみ合い、丸三日間を同じ部屋で過ごした静子夫人は情事の極限を思い知らされて、娼婦として更に飛躍を示すようになったのだ。
千代と順子はその日も調教される捕われの美女を見廻って歩いている。
珠江夫人と美沙江のために特別に作られた調教室♢♢その二つ並んだ柱には珠江夫人と美沙江が一糸まとわぬ素っ裸を立位にされてつながれていた。
珠江夫人も美沙江も軽く瞑目するように綺麗な睫を閉じ合わせ、ぴったりと両腿も閉じ合わせていたが、その爪先の前には各々盆に乗せられたバナナの房が置かれている。
順子はそれを見て、フフ、と笑い、
「これからバナナ切りのお稽古ですの奥様」
と、声をかけると、珠江夫人は薄く眼を閉ざしたままうなずいて見せるのだ。
「いいわね、お嬢様。こうしておば様と並んで仲良くお稽古出来るなんて。とても楽しいでしょう」
千代はそういって順子の顎に手をかける。
美沙江の細い華奢な象牙色の裸身も近頃では思いなしか女っぽさが滲み出て来て、しなやかな太腿もムンムンする色香が感じられるようになってきた。
「ショーはあと三日後、開催されるのですからね。二人ともしっかりお稽古に励むのよ」
千代が珠江夫人と美沙江の冴えた象牙色の顔を見くらべるようにしていった時、二人の調教を受け持つ事になっている春太郎と夏次郎が鬼源と一緒に戻ってくる。
「おや、視察団お二人がお越しだ」
鬼源は爪楊子で歯をせせりながら笑った。
「食事休憩だったのよ。遅くなってごめんなさいね」
春太郎は千代の方を見て笑いかけながら、すぐに柱につながれている珠江夫人と美沙江の方に近づくのだ。
「それじゃ、午後の調教を始めますわ」
春太郎は珠江夫人の膝元に夏次郎は美沙江の膝元にそれぞれ腰をかがませてバナナの皮むきを始めている。
夫人も美沙江も何の狼狽も示さず、彼等がぴったりと身を寄せつけて来ると、固く閉じ合わせていた両腿をわずかに開いて受け入れ態勢を示すのだ。
そこまで成長した珠江夫人と美沙江を見て千代と順子は満足げな微笑を口元に浮かべる。
「これで私達も安心したわ。じゃ、静子の方を見に行きましょうか」
千代はそういって順子をうながし、部屋から出て行こうとする。
「あら、バナナ切りをする奥様とお嬢様を御覧にならないの」
春太郎は指先にクリームを掬いとって珠江夫人のふっくらした女体を撫でさすりながら千代に声をかけた。
「視察団は色々と忙しいのよ。後でまたゆっくり見物させて頂くわ」
千代はそういって部屋を出ると、静子夫人が一人閉じこめられている地下の牢舎へ向かった。牢舎の中に一人ぽつねんと坐りこみ、静子夫人は凍りついた表情でぼんやり一点に視線を向けている。
千代と順子が、如何、本日の気分は、と笑いながら鉄格子の間からのぞきこむと素っ裸の夫人は白い柔軟な両腕を胸の前で交錯させ、柔らかく翳った睫を哀しげにしばたかせながら千代に視線を句けるのだった。
「黒人とぴったり呼吸も合うようになったようね。ショーまであと三日なんだから、一層御自分のそれに磨きをかけてがんばって頂戴ね」
千代がそういって笑うと、夫人は黒髪のおくれ毛が一筋二筋はつれかかる端正な頬を急に歪めてシクシク泣き出したのである。
「あら、どうしたの、奥様。急に泣き出したりして」
千代はとぼけた口調でいうのだが、夫人はどうしたのか、鉄の檻に美しい額を押し当てて奥歯をきしませながら肩を慄わせるのだった。
「千、千代さん。私、私♢♢」
「どうしたの、はっきりおっしゃいよ、奥様」
「私、赤ちゃんが出来たの」
静子夫人が嗚咽にむせびながらそういった途端、千代は、
「まあ」
と、眼を輝かせ、
「ほんとなの、ね、ほんとに赤ちゃんが出来たの」
千代は全身を揉み抜かれたような痺れを感じて声を慄わせた。
静子夫人が泣きじゃくりながらうなずいて見せると、千代は踊り出さんばかりに狂喜する。
「そうなの、赤ちゃんが出来たの。すばらしい事じゃない」
千代が甲高い声で笑い出した時、川田と医師の山内が地下道を歩いてこっちへやって来た。
「ね、奥様に赤ちゃんが出来たってのは本当なの、山内先生」
千代が山内の手をとらんばかりにしていうと、山内は微笑しながらうなずいて、
「間違いありません。一週間ばかり前から月のものが止まったので今朝珍察したのですが♢♢」
奥様は間違いなく懐妊されています、というので千代は顔面一杯に喜色を浮かべ、
「よくやって下さったわ、山内先生。これで私の念願は全部叶えられたという事よ。充分にお礼をさして頂きますわ」
といい、牢舎の中ですすり上げている静子夫人に対しては、
「何も奥様、泣く事はないじゃありませんか。これで奥様も一人前の女になったという事よ。可愛い赤ちゃんを生んで頂戴ね」
と、はずんだ声を出した。
「そろそろニグロとショーの練習をする時間なんだ」
川田は鉄格子にかかっている南京錠に鍵を差しこんだ。
「さ、出て来な」
川田に声をかけられて夫人は指先で涙をそっと拭いながら檻の中より腰をかがめて出て来る。
乳色に輝く上背のある裸身を夫人がそこに立たせると川田は肩に担いでいた麻縄をとって背後に近づいた。
すると夫人はもう催促されるまでもなく、乳房を覆っていた両手を解いて背中へ廻すのだ。
川田は夫人の背の中程で重ね合わせた白い手首にキリキリと麻縄を巻きつかせていき、
「生まれて来る子供のためにも今のうちにみっちり稼いでおかなきゃあな」
というと、千代も続けて、
「そうよ、お産の費用から赤ちゃんの養育費、すべてはここで稼ぎ出さなきゃならないのよ。そうでしょ、奥様」
と、哄笑し、川田の手で後手に縛り上げられていく静子夫人の絹のように柔らかい繊毛を掌で撫でさするのだった。
「わかった、奥様」
「ええ、わかってます、千代さん」
象牙色の冷たく冴えた夫人の頬に一滴の涙が流れ落ちる。
「さ、ニグロの部屋へ行くんだ。歩きな」
川田はがっちりと後手に縛り上げた夫人の背を手で押した。
川田に縄尻をとられ、千代と順子に左右を挟まれた形で静子夫人は地下道から階段を上り、ジョーとブラウンの待ち受ける部屋に向かって歩まされていく。
庭に面した廊下を歩む夫人の柔媚な頬に木の葉をそよがせて吹いて来る風が柔らかく触れた。
夫人は優雅な美しい顔をそっと上げ、哀愁の色を帯びた翳りのある瞳で青い空に流れて行く白雲を見上げるのである。
ふと、足を止めて青空を見上げる夫人の表情は汚辱も屈辱も羞恥も洗い流したような清らかさに輝いている。
「来年の今頃には、もう静子に赤ちゃんが出来ているのですわね、千代さん」
静子夫人は今、不思議な位に澄み切った気分になっている。
「そうよ、きっと来年の今頃は赤ちゃんにお乳を飲ませる奥様を私達は見られるでしょうね」
千代は川田と顔を見合わせて笑い、
「さ、ジョーとブラウンがお待ちかねよ。感傷に浸るのはそれ位にして早くお歩きよ」
といい、夫人の官能味を盛り上げた美しい双臀を平手で軽く叩くのだった。
(未完)
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